説明

チオフェンオリゴマーの製造方法

本発明は、オリゴチオフェンの製造方法に関する。本発明の方法の目的は、規定の平均分子量および狭分子量分布を有する半導体ポリマーまたは半導体オリゴマーを製造することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴチオフェンの製造方法に関する。本発明の方法の目的は、規定の平均分子量および狭分子量分布を有する半導体ポリマーまたは半導体オリゴマーを製造することである。
【背景技術】
【0002】
モレクトロニクスの分野は、有機導電性化合物および有機半導電性化合物の発見に伴って、過去15年間で急速に発展してきた。この期間に、半導電性または電気光学的性質を有する化合物が多数発見されている。一般に、モレクトロニクスが従来のケイ素ベース半導体ユニットに取って代わることはないと理解されている。その代わり、モレクトロニクス構成要素は、広い表面を被覆するための適合性、構造的柔軟性、低温および低コストでの加工性が要求される新たな応用分野を切り開くと考えられる。半導電性有機化合物は、これまで、有機電界効果トランジスタ(OFET)、有機発光ダイオード(OLED)、センサーおよび光起電性要素のような使用分野のために開発されてきた。有機半導体集積回路へのOFETの単純な構造化および集積化によって、ケイ素ユニットの価格および柔軟性不足の故に、これまでケイ素技術を用いて実現することができなかった、スマートカードまたは値札についての安価な解決法が可能になりつつある。同様に、大面積柔軟性マトリックスディスプレイのスイッチ構成要素として、OFETを使用することもできる。
【0003】
全ての化合物は、連続した共役単位を有し、それらの分子量および構造に従って共役ポリマーと共役オリゴマーに分けられる。オリゴマーは一般に、ポリマーと区別される。オリゴマーは通常、狭分子量分布および約10,000g/mol(ダルトン)までの分子量を有する。ポリマーは通常、相応に、より高い分子量およびよりブロードな分子量分布を有する。しかしながら、例えば(3,3’’’’−ジヘキシル)クオターチオフェンの場合のように、1つのモノマー単位が300〜500g/molの分子量に達する可能性も十分にあり得るので、反復単位数に基づいてオリゴマーとポリマーとを区別することがより賢明である。反復単位数に従って区別する場合、分子は、2〜約20個の反復単位の範囲では、まだオリゴマーと見なされる。しかしながら、オリゴマーとポリマーの間には流動的な変移が存在する。しばしば、オリゴマーとポリマーの区別は、これら化合物の加工における違いを表現するために使用される。オリゴマーは、しばしば蒸発可能であり、蒸着法によって基材に適用され得る。ポリマーはしばしば、その分子構造にかかわらず、蒸着不可能であり、従って一般に別の方法によって適用される化合物を意味する。
【0004】
価値の高い有機半導体回路の製造にとって重要な必要条件は、極めて高い純度の化合物である。半導体において、秩序現象は重要な役割を担う。化合物の均一な配列の妨害および粒子界面の発現は、半導体特性を著しく低下させるので、極めて高い純度ではない化合物を使用して構築された有機半導体回路は、一般に使用に適さない。残留不純物は、例えば、半導電性化合物に電荷を注入することができ(「ドーピング」)、それ故にオン/オフ比を低下し得るかまたは電荷トラップとして作用し得、従って移動度を著しく低減させ得る。更に、不純物は、半導電性化合物と酸素との反応を開始させ得る。酸化作用を有する化合物は、半導電性化合物を酸化し得、従って見込まれる貯蔵時間、加工時間および操作時間を短縮し得る。
【0005】
最も重要な半導体ポリマーおよびオリゴマーは、モノマー単位が例えば3−ヘキシルチオフェンであるポリ/オリゴチオフェンを包含する。単一または複数のチオフェン単位を結合させてポリマーまたはオリゴマーを得る場合、重合機構では2つの過程、即ち単独カップリング反応とマルチカップリング反応とを、基本的に区別する必要がある。
【0006】
単独カップリング反応の場合、一般に、同じまたは異なった構造を有する2つのチオフェン誘導体が一段階で互いにカップリングし、各々の場合に2つのモノマーからなる1つの単位で構成される分子を生成する。取り出し、精製および再官能化の後、この新たな分子は、今度はモノマーとして作用でき、従って、より鎖長の長い分子になる可能性をもたらす。この過程は一般に、厳密に1種のオリゴマー、即ち目的分子をもたらし、従って、モル質量分布を伴わない生成物をもたらし、副生物をほとんど生じない。異なったモノマーを使用することによって、それらモノマーは、かなり規定されたブロックコポリマーを生成する可能性も提供する。この場合の欠点は、精製工程を実施しても、3種以上のモノマー単位からなる分子を製造することが非常に困難であり、生成物への極めて高い品質が要求される製造方法の場合でしか、経済的投資が正当化され得ないことである。
【0007】
例として、EP 402269は、例えば塩化鉄を用いた酸化カップリングによるオリゴチオフェンの製造方法を記載している(第7頁、第20〜30行、第9頁、第45〜55行)。しかしながら、この合成法は、カチオン状態、従って導電性状態で存在し、既に中性半導電性状態ではないオリゴチオフェンをもたらす(EP 402269、第8頁、第28〜29行)。従って、これらオリゴチオフェンは、カチオン状態で効率よく電流を流すが半導体効果を有さないので、半導体電子部品における応用に使用することはできない。例えば電気化学または化学反応によって、カチオン性オリゴチオフェンを減少させることはできるが、これは複雑であるし、常に望ましい結果をもたらすわけではない。
【0008】
1つの代替法は、鉄(III)塩、例えば塩化鉄(III)を用いて有機リチウム化合物をカップリングすることである。この反応は一般に、ドープされていない、即ち中性のオリゴチオフェンを与えるが、この反応における副反応は、鉄および塩素で著しく汚染された生成物ももたらす。塩化鉄(III)に代えて、他の鉄(III)化合物、例えば鉄(III)アセチルアセトネートが、カップリング試薬として提案されている(J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 12214)。しかしながら、このカップリング試薬の比較的低い反応性の故に、この変法は、高温で反応を実施しなければならないという欠点を有する。比較的高い温度はしばしば副反応を促進するので、徹底した精製操作によってさえ、高品質のオリゴチオフェンを得ることはできない(Chem. Mater., 1995, 7, 2235)。文献に記載されている更なるオリゴチオフェン製造法は、銅塩、特に塩化銅(II)による酸化カップリングである(Kagan, Heterocycles, 1983, 20, 1937)。しかしながら、例えばセキシチオフェンの製造では、再結晶による精製後、生成物が、塩素および銅をまだ含有していることが見出された。生成物には、少なくとも塩素が、少なくとも部分的に、オリゴチオフェンと化学結合した状態で存在し、更なる複雑な精製によってさえ、それ以上除去することはできない(Katzら、Chem. Mater., 1995, 7, 2235)。この方法の改良は、DE 10248876に記載されており、触媒の添加前に溶解状態でカップリングされるオリゴリチウム中間体の存在に基づいている。
【0009】
別の方法は、ニッケル触媒の存在下での、グリニャール化合物(特開平2−250881)または有機亜鉛化合物(US 5 546 889)のカップリング反応に基づく。この場合、例えばハロゲン化チオフェンから出発し、この化合物の一部は、マグネシウムまたはハロゲン化アルキルマグネシウムを用いて有機金属中間体に転化され、次いで、ニッケル触媒の添加によって未転化部にカップリングされる。このカップリング法は、とりわけ、熊田法として記載されている(Kumada, Pure Appl. Chem, 1980, 52, 669-679)(Tamao, Sumitani, Mumada, J. Am. Chem. Soc., 1972, 94, 4374-4376)。三量体が生成される、2つの有機金属中間体の1つのジハロゲン化誘導体へのカップリングは、熊田法の変法であるとみなされる。
【0010】
しかしながら、全ての方法に共通していることは、対応するチオフェンベース単位から出発するオリゴマーの選択的調製には、複数の合成工程が常に必要なことである。またその際、使用されるモノマー、例えばヘキサチオフェンの合成のためのターチオフェンを複数の工程で調製しなければならないのか、またはヘキサチオフェンをチオフェンの多段階カップリングによって得るのかは重要ではない。従って、ポリチオフェンを調製するためのチオフェンの重合の場合のように、モノマーから直接オリゴマーを調製できる必要性が存在する。
【0011】
チオフェンの重合では、複数のモノマー単位を、一反応段階で互いにカップリングする。これは通常、10,000g/molより大きい平均分子量を有するポリマーを生成する。生成物における差異は、主に、分子量、分子量分布および性質、特に導電性に関する性質に基づいて生じる。多数の方法に関しては、適切な出典における記載を参照する(R.D. McCullough, Advanced Materials, 1998, 10(2), 93-116)(D. Fichon, Handbook of Oligo- and Polythiophenes, 1999, Wiley-VCH)。
【0012】
電気化学的重合および鉄塩を用いた重合は、既にドープされた、従って導電性のポリマーをもたらし、その結果、複雑な精製なしに半導体電子部品に使用することは好ましくない。以下に記載する方法は、半導体ポリマーの製造に適している。基本的に、半導体チオフェンポリマーの製造に最も重要な合成ルートは、4つの方法に分けることができる:McCullough法、Rieke法、Stille法およびSuzuki法。全ての方法において、ポリマーは高い位置規則性を伴って製造され得る。即ち、非対称的に置換されているチオフェン誘導体の場合、頭尾カップリング、例えば3−ヘキシルチオフェンの2−5’カップリングが主に進行する。しかしながら、Stille法およびSuzuki法は、特に異なった単位からのオリゴマーの段階的合成でより一般的に使用され(H.C. Starck, DE 10 353 094、2005)(BASF, WO 93/14079, 1993)、McCullough法(EP 1 028 136 B1、US 6 611 172、US 247 420、WO 2005/014691、US 2006/0155105)およびRieke法(US 5 756 653)は、単一合成工程でのポリチオフェンの工業的製造に使用される方法である。
【0013】
全ての方法に共通していることは、位置選択性連鎖成長反応である。この反応では、触媒(ニッケル(例えばNi(dppp)Cl)、パラジウム(例えばPd(PPh)を用い、モノマーとしての有機金属化合物(Sn、Mg、Zn)またはボラン化合物から出発して、ポリマーを位置選択的に生成する。実際のモノマーの合成、モノマーの可能な精製工程および純度、使用される触媒および溶媒の種類には、しばしば違いがある。加えて、位置選択性の程度が、可能な合成法の間での際立った特徴となる。
【0014】
McCullough法では、実際の重合において、位置選択的に調製されたグリニャール化合物をモノマーとして使用する(X=ハロゲン、R=置換基)。
【化1】

【0015】
重合のため、熊田法(クロスカップリングメタセシス反応)では、ニッケル触媒(好ましくはNi(dppp)Cl)を用いて、触媒サイクルにおける重合を開始する。この場合、反応条件は、最近の出版物において還流条件下での重合と明記されるまでは、最初の出版物において明記された−5℃〜25℃であった。幾つかのケースにおける異なった反応温度は別として、重合中のこの工程は、対応する全ての方法について同じである。全ての方法について、均一な溶液が得られるならば、触媒選択(例えば、代わりにNi(dppe)Cl)および溶媒選択(例えば、THF、トルエンなど)に同じ可能性があてはまる。全ての方法に同様に共通していることは、バッチ法のみが記載されていることである。
【化2】

【0016】
上記したグリニャール化合物の調製方法における、重要な違いを記載する。一般に知られている合成法によれば、初期導入されるアルキルチオフェンのジハロゲン化合物を(XおよびX’として異なったハロゲンを有する場合でさえ)所望の中間体に転化するために、ハロゲン化アルキルマグネシウム(トランスメタル化)または元素マグネシウム(グリニャール合成)を使用することができる。いずれの方法も、利点および欠点を有する。元素マグネシウムを使用して合成する場合は、触媒の添加前に未転化マグネシウムを除去することが推奨される。同時に、この反応溶液は不均一混合物(「スラリー」)であり、付加的に、適当な方法(例えばBrの添加)によりマグネシウムを活性化しなければならない。利点は、特に、アルキルマグネシウム試薬と比較されるマグネシウムの価格、および副生物中のハロゲン化アルキルの回避である。マグネシウム−グリニャール化合物を使用する場合の利点は、反応溶液の均一性、および各工程間の精製工程の排除である(ワンポット合成)。欠点は、臭化メチルの生成である。臭化メチルは、グリニャール工程で好ましく使用される臭化メチルマグネシウムから生成される。臭化メチルは、−4℃より高い温度で気体状であり、健康に害を及ぼし、オフガスからかろうじて除去され得るか或いはかなり複雑な技術を用いてしか除去され得ない、物質である。上記した方法に加えて、アルキルチオフェンのジハロゲン化合物と、マグネシウムおよび少量のハロゲン化アルキル(例えば臭化エチル)との反応によって、対応するアルキルチオフェンのグリニャール化合物を得ることもできる(Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinenii, (4), 468-70; 1981)。
【0017】
ポリマーは一般に、ソックスレー抽出によって必要な純度で得られる。
【0018】
興味深いことに、従来技術は、最初のうちは、特定のチオフェン単位からなる「通常の」ポリマーとして調製されたポリマーを記載している。従って、ポリマーは、H以外の末端基を有さないはずである。その概念は、最初のうちは、存在する触媒サイクル、およびNMR分光法による構造解明手段の不足に関連して、初期の概念に基づいていた。比較的最近になってようやく、起こり得る反応機構に関する研究(R. D. McCullough, Macromolecules, 2004, 37, 3526-3528およびMacromolecules, 2005, 38, 8649-8656)によって、ポリマー末端基の少なくとも1つがハロゲンでなければならないことが示された。第2の末端基について、ニッケル(II)の錯体およびポリマーが最初に存在し、メタノール/水での後処理によって錯化基を加水分解することが考えられる。これは、ニッケル触媒がポリマーに対して等モル比で存在しなければならないという点で確かに適当である。そうでなければ、一部のポリマー鎖は両端にハライドを有するはずである。これらの研究の過程では、末端官能化ポリマーへの比較的容易な接近が可能となるように、末端基官能化ポリマーの合成を実際の重合と組み合わせることも実施された(R.D. McCullough, Macromolecules, 2005, 38, 10346-10352)(US 2005/0080219)(US 6 602 974、2003)。
【0019】
一方、末端キャップオリゴマーの他の製造方法は、個々の付加工程から制御された鎖が生成する、段階的反応を使用している(DE 10 248 876およびDE 10 353 094)。
【0020】
Kollerは特許(US 2005/0080219)において、調製されるポリマーがH以外の末端基を少なくとも1つ有することを前提とし、McCulloughは特許において、末端基としてハロゲン原子を有するポリマーを調製し得るために、塩基(例えばLDA)および金属ジハライド(例えばZnCl)を使用しなければならない、合成変法を記載している。
【0021】
ポリチオフェンのための典型的な重合技術を、オリゴマー、即ち具体的に言うと低分子量のポリマーの調製方法に適用することは、文献に見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】EP 402269
【特許文献2】DE 10248876
【特許文献3】特開平2−250881
【特許文献4】US 5 546 889
【特許文献5】DE 10 353 094
【特許文献6】WO 93/14079
【特許文献7】EP 1 028 136 B1
【特許文献8】US 6 611 172
【特許文献9】US 247 420
【特許文献10】WO 2005/014691
【特許文献11】US 2006/0155105
【特許文献12】US 5 756 653
【特許文献13】US 2005/0080219
【特許文献14】US 6 602 974
【特許文献15】DE 10 248 876
【特許文献16】DE 10 353 094
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 12214
【非特許文献2】Chem. Mater., 1995, 7, 2235
【非特許文献3】Kagan, Heterocycles, 1983, 20, 1937
【非特許文献4】Katzら、Chem. Mater., 1995, 7, 2235
【非特許文献5】Kumada, Pure Appl. Chem, 1980, 52, 669-679
【非特許文献6】Tamao, Sumitani, Mumada, J. Am. Chem. Soc., 1972, 94, 4374-4376
【非特許文献7】R.D. McCullough, Advanced Materials, 1998, 10(2), 93-116
【非特許文献8】D. Fichon, Handbook of Oligo- and Polythiophenes, 1999, Wiley-VCH
【非特許文献9】Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinenii, (4), 468-70; 1981
【非特許文献10】R. D. McCullough, Macromolecules, 2004, 37, 3526-3528
【非特許文献11】Macromolecules, 2005, 38, 8649-8656
【非特許文献12】R.D. McCullough, Macromolecules, 2005, 38, 10346-10352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記した従来技術から出発して、本発明の目的は、規定の平均鎖長および狭分子量分布を有するオリゴチオフェンを製造できる簡単な方法を提供することである。特に、可能な中間体の転化または精製必要性に関する制限を伴わず、極めて狭い分子量分布を有する、低分子量ポリマー、即ちオリゴマー(2〜20モノマー単位の範囲の鎖長)を調製できる方法を、見出すべきである。同時に、本発明の方法は、工業規模での空時収率、取扱性、経済性および生態環境に関する利点を含むべきである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、
(1)a)1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体、および
b)2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体
を含んでなる溶液を最初に導入する工程:
(2)有機金属化合物を添加/計量供給するか、或いは金属、または元素金属を伴った少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給する工程:並びに続く
(3)少なくとも1種の触媒を添加/計量供給する工程
を含む、オリゴチオフェンの製造方法を提供する。
【0026】
本発明は同様に、
(1)a)1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体、および
b)2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体
を含んでなる溶液を最初に導入する工程:
(2)有機金属化合物を添加/計量供給するか、或いは金属を供給する工程:並びに続く
(3)少なくとも1種の触媒を添加/計量供給する工程
を含む、オリゴチオフェンの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例2からの生成物(モノマー比1:4)および同様に調製されたオリゴチオフェン(モノマー比1:1)のゲル透過クロマトグラム(GPC)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の方法では、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体の溶液を、有機金属化合物と等モル量で反応させるか、或いは金属、または元素金属を伴った少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給することによって反応させて、重合活性モノマー混合物を得、次いで、続く重合を可能にする触媒を計量供給する。
【0029】
意外かつ有利なことに、1つの離脱基を有するチオフェン誘導体と2つの離脱基を有するチオフェン誘導体とのモノマー混合物を使用する場合、使用されるチオフェン誘導体の量に対する触媒量を、単独のチオフェン誘導体を重合する場合と比べてより少なくすることによって、分子量を調節できることが見出された。実際、統計的観点からほぼ100%の触媒効率が見られ、[2つの離脱基を有するチオフェン誘導体]/[触媒]の比によって、分子量および鎖中の反復単位数を調節することができる。本発明において特に意外なことは、1つおよび2つの離脱基を有する3−置換チオフェン誘導体を使用する場合に得られる平均分子量が、1つの離脱基を有するチオフェン誘導体の量と実質上無関係なことである。図1から分かるように、上記した1つの離脱基を有するチオフェン誘導体の割合を増やすと、予想外にも、1種の二量体成分が増える。このように、1つの離脱基を有するチオフェン誘導体の添加によって、触媒の活性化が増強される。
【0030】
ポリチオフェンの常套の製造方法では、目的分子量に依存して異なった濃度で触媒を最初に導入することが、従来技術から知られている。例えば、使用されるモノマーに基づいて1〜0.5mol%の範囲の量で通常使用される。そうすると、一般に、2つの活性離脱基を有するチオフェンの重合では、20,000〜40,000g/molの範囲に平均分子量(M)を有するポリマーが得られる。使用量を考慮すると、これは、統計的に見て使用量の60〜80%の範囲で触媒が有効利用されたことを示している。
【0031】
一方、意外かつ有利なことに、本発明の反応は、1つしか離脱基を有さないチオフェンモノマーを添加することによって、分子量の低下に成功している。例えば、同じ量の触媒(10mol%)および同じ手順を用いた場合、モノマー混合物中20%の2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンの割合でさえ、ポリマーの平均分子量を、M=3040g/molからM=1850g/molに低下させる(実施例1および2参照)。統計的に見ると、これは、ほぼ100%の触媒部位が活性であるという仮定をもたらす。これは、使用されるモノマーの量の10〜20%の範囲で、比較的少量の1つの離脱基を有するチオフェン誘導体を使用する場合でさえあてはまる。この場合、1.1〜1.7の多分散性指数PDIを有する狭分子量分布が得られる。
【0032】
本発明の方法の好ましい態様では、反応体をそれぞれ計量供給できる。1つの可能性は、有機金属化合物を添加するか、或いは金属、または元素金属を伴った少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給することによって、1つまたは2つの離脱基が供給されたチオフェン群から初期導入において重合活性モノマー混合物を調製し、次いで、溶解触媒を計量供給し、バッチ式で重合させることからなる。
【0033】
更に考えられる変法は、低温(約15〜25℃)での触媒溶液と初期導入における重合活性モノマー混合物溶液との混合、および続く重合温度までの加熱による重合である。
【0034】
また、重合活性モノマー混合物溶液および触媒溶液の同時計量添加、その迅速かつ完全な混合、および続く加熱を考えることもできる。
【0035】
本発明の方法の好ましい態様では、重合溶液に加水分解作用を有する溶媒(好ましくはアルキルアルコール、より好ましくはエタノールまたはメタノール、最も好ましくはメタノール)を添加することによって、反応を停止する。沈澱した生成物を濾取し、沈澱剤で洗い、次いで溶媒に溶解させる。代わりに、ソックスレー抽出器での精製を実施することもできる。この場合、抽出溶媒として無極性溶媒(例えばヘキサン)を使用することが好ましい。
【0036】
本発明の好ましい態様では、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体が、一般式(1):
【化3】

で示される化合物の1つであり、2つの離脱基を有する少なくとも1種の本発明のチオフェン誘導体が、一般式(2):
【化4】

[式中、Rは、式(1)では3位、4位または5位に位置し、および/または式(2)では3位または4位に位置し、Hまたは好ましくは有機基、より好ましくは非反応性基または保護基(好適には5個以上の炭素原子を含有するもの)であり、
XおよびX’は、各々独立して、離脱基、好ましくはハロゲン、より好ましくはCl、BrまたはI、特に好ましくはBrである。]
で示される化合物の1つである。
【0037】
特に好ましくは、Rは、CN、或いは1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは1〜20個の炭素原子を含有する直鎖、分子または環状アルキル基であり、該アルキル基は未置換であるか或いはCNによって一置換または多置換されている。このとき、酸素および/または硫黄原子が互いに直接結合しないように、1つ以上の非隣接CH基は独立して、−O−、−S−、−NH−、−NR’−、−SiR’R’’−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCO−O−、−SO−、−S−CO−、−CO−S−、−CY=CYまたは−C≡C−によって置き換えられていてもよく、同様に場合により好ましくは1〜30個の炭素原子を含有するアリールまたはヘテロアリールによって置き換えられていてもよい。ここで、R’およびR’’は、各々独立して、H、或いは1〜12個の炭素原子を含有するアルキルであり、YおよびYは、各々独立してHまたはCNである。
末端CH基は、CH−Hという意味のCH基であると理解される。
【0038】
特に好ましい式(1)および/または(2)のチオフェン誘導体は、Rが有機基、好ましくはアルキル基(5個以上の炭素原子を含有するもの)であり、Rが1〜20個、好ましくは5〜12個の炭素原子を含有する非分枝アルキル鎖であり、Rがn−ヘキシルであり、RがC〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C20アルコキシ、C〜C20チオアルキル、C〜C20シリル、C〜C20エステル、C〜C20アミノ、場合により置換されていてよいアリールまたはヘテロアリール、特にC〜C20アルキル、好ましくは非分枝鎖から選択され、Rがペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシルから選択され、および/または−CY=CY−が好ましくは−CH=CH−または−CH=C(CN)−であるチオフェン誘導体である。
【0039】
アリールおよびヘテロアリールは、好ましくは、25個までの炭素原子を含有する、単環式、二環式または三環式の芳香族基または複素環式芳香族基に関し、同様に任意に1個以上のL基によって置換されていてよい縮合環系を包含する。ここで、Lは、1〜20個の炭素原子を含有する、アルキル、アルコキシ、アルキルカルボニルまたはアルコキシカルボニル基であり得る。
【0040】
特に好ましいアリールまたはヘテロアリール基は、1つ以上のCH基がNによって更に置換されているフェニル、ナフタレン、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、アルキルフルオレンおよびオキサゾールであり、それらの各々は、未置換、或いはLによって一置換または多置換されていてよく、Lは先に定義したとおりである。
【0041】
本発明の方法の好ましい態様では、1つの離脱基を有する2種以上のチオフェン誘導体の混合物を使用できる。
【0042】
本発明の方法の好ましい態様では、2つの離脱基を有する2種以上のチオフェン誘導体の混合物を使用できる。
【0043】
本発明に従って、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体は溶解して存在する。
【0044】
本発明の方法で使用される有機金属化合物は、好ましくは、有機金属錫化合物、例えば塩化トリブチル錫、または亜鉛化合物、例えば活性化亜鉛(Zn)、またはボラン化合物、例えば、B(OMe)またはB(OH)、或いはマグネシウム化合物、より好ましくは有機金属マグネシウム化合物、更に好ましくは式:R−Mg−X[式中、Rは、アルキル、特に、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C10、C11、C12−アルキル、より好ましくは、C、C、C、C、C、C、C−アルキル、最も好ましくはC−アルキルであり、Xは、ハロゲン、より好ましくは、Cl、BrまたはI、特に好ましくはBrである。]で示されるグリニャール化合物である。
【0045】
本発明の方法の更に好ましい態様では、有機金属化合物を添加する代わりに、金属、または元素金属と共に少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給する。金属、または元素金属と共に少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給することによって、1つまたは2つの離脱基を有するチオフェン誘導体は重合性モノマー混合物に転化され得る。この場合、金属は、例えば、削状、粗粒、粒子またはフレークの状態で添加され得、次いで例えば濾過によって除去され得るか、或いは、例えば、針金、格子、金網または同等の物質を反応溶液に一時的に浸すことによって硬質状態で、または内部を通って流れることができる金属含有カートリッジ状態で、または金属が十分に細かく分布した状態(例えば削状)で存在し、溶媒で覆われるカラム内の固定床として、反応空間に供給され得る。後者2つの場合、1つまたは2つの離脱基を有するチオフェン誘導体は、カートリッジまたはカラムを通って流れるにつれて転化される。カラムおよび好ましい装置による反応の連続的な実施についての対応する詳細は、DE 10 304 006 B3またはReimschuessel, Journal of Organic Chemistry, 1960, 25, 2256-7に見られる。それらの態様またはグリニャール試薬の調製方法についての好ましい態様も、ここで記載した本発明の方法に適用される。代わりに、グリニャール試薬への連続的な転化は、静的ミキサーを備えた管状反応器において高乱流で実施することもでき、その場合、DD 260 276、DD 260 277およびDD 260 278から知られているように、液相カラムをパルスに付す。そこでの好ましいグリニャール試薬の調製方法についての態様もまた、ここで記載した本発明の方法に適用される。金属は、好ましくはマグネシウムまたは亜鉛、より好ましくはマグネシウムである。
【0046】
使用される少なくとも1種のハロゲン化アルキルは、式:R−X[式中、Rは、アルキル、特に、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C10、C11、C12−アルキル、より好ましくは、C、C、C、C、C、C、C−アルキル、最も好ましくはC−アルキルであり、Xは、ハロゲン、より好ましくは、Cl、BrまたはI、特に好ましくはBrである。]で示されるものの1つである。
【0047】
元素金属を伴ったハロゲン化アルキルは、特にマグネシウムまたは亜鉛を伴ったハロゲン化エチル、より好ましくはマグネシウムを伴った臭化エチルである。
【0048】
ハロゲン化アルキルは、好ましくは触媒量で、即ち、使用されるチオフェン誘導体の総量に関して0超〜0.5当量、好ましくは0.001〜0.1当量、より好ましくは0.01〜0.05当量で使用される。
【0049】
本発明の方法で使用される少なくとも1種の触媒は、例えばR.D. McCullough, Adv.Mater., 1998, 10(2), 93-116およびその引用文献に列挙されているような、位置選択的重合に好ましく使用される触媒であり、その例を以下に示す:パラジウム触媒またはニッケル触媒、例えば、ビス(トリフェニルホスフィノ)パラジウムジクロリド(Pd(PPh)Cl)、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc))またはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh)またはテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(Ni(PPh)、ニッケル(II)アセチルアセトネート(Ni(acac))、ジクロロ(2,2’−ビピリジン)ニッケル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(Ni(PPhBr)、並びに配位子含有ニッケルおよびパラジウム触媒、例えばトリ−t−ブチルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリジニウムクロリド、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジニウムクロリドまたは1,3−ジアダマンチルイミダゾリジニウムクロリド、より好ましくはニッケル触媒、特に好ましくはビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケルジクロリド(Ni(dppp)Cl)またはビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケルジクロリド(Ni(dppe)Cl)。配位子が上記されたものの組み合わせからなる、パラジウムおよびニッケルの触媒も同様に考えられる。また、本発明の好ましい態様では、触媒を「イン・サイチュー」で調製し、重合活性モノマー混合物と反応させることができる。
【0050】
本発明の方法の好ましい態様では、2種以上の触媒の混合物を使用してもよい。
本発明によれば、少なくとも1種の触媒は、重合中、溶解して存在する。
本発明で使用される1つまたは2つの離脱基を有するチオフェン誘導体および対応する触媒は、典型的には、商業的に入手可能であるか、または当業者によく知られている方法によって調製され得る。
【0051】
本発明の方法での使用に有用な有機溶媒は、基本的に、重合条件下で有機金属化合物(例えば、臭化アルキルマグネシウムまたはこの特許出願に記載した別の有機金属化合物)と反応しない溶媒または溶媒混合物の全てを包含する。それらは一般に、重合条件下で有機金属化合物に対して反応性であるハロゲン原子または水素原子を含有しない化合物である。
【0052】
適当な溶媒は、例えば、脂肪族炭化水素、例えばアルカン、特に、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタン、未置換または置換芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン、エーテル基含有化合物、例えば、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、アミルエーテル、ジオキサンおよびテトラヒドロフラン(THF)、および上記した群の溶媒混合物、例えばTHFとトルエンとの混合物である。本発明の方法では、エーテル基含有溶媒を使用することが好ましい。テトラヒドロフランが特に好ましい。しかしながら、溶媒として、これら溶媒の2種以上の混合物を使用することもできる。例えば、好ましく使用される溶媒であるテトラヒドロフランとアルカン(例えばヘキサン)との混合物を使用することができる(例えば、有機金属化合物のような出発物質の市販溶液として存在)。本発明において重要なことは、触媒の添加前に、使用されるチオフェン誘導体または重合活性モノマーが溶解状態で存在するように、溶媒または溶媒混合物を選択することである。後処理にとっては、ハロゲン化脂肪族炭化水素、例えば塩化メチレンおよびクロロホルムも適している。
【0053】
本発明の方法の特に好ましい態様では、グリニャール試薬を用いてモノハロゲン化およびジハロゲン化3−アルキルチオフェン溶液を位置選択的に反応させることによって、或いはMgを、またはハロゲン化アルキルの存在下でMgを一時的に供給することによって、3−アルキルチオフェンをオリゴマー化し、対応する重合活性有機マグネシウム臭化物を得、次いでニッケル触媒の存在下でそれらを重合させる。THF中2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン溶液およびTHF中2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン溶液と、等モル量の臭化エチルマグネシウムとの、或いはマグネシウムとの、或いは臭化エチルの存在下でのマグネシウムとの反応、および続くNi(dppp)Cl存在下でのそれらの重合が特に好ましい。
【0054】
0.2〜4の比でモノ−およびジブロモ−3−ヘキシルチオフェンを使用すること、および使用されるモノマーの量に基づいて0.1〜20mol%の触媒濃度のNi(dppp)Clを使用する場合が有用であることが見出された。特に適当なモノマー比(2つの離脱基を有するチオフェン誘導体に対する1つの離脱基を有するチオフェン誘導体)は、0〜1の範囲、特に0〜0.8の範囲、より好ましくは0.1〜0.4の範囲である。
【0055】
触媒の添加量は得られる平均分子量(M)に依存し、各々の場合に、使用される2つの離脱基を有するチオフェン誘導体の量に基づいて、典型的には0.1〜20mol%、好ましくは10〜20mol%、より好ましくは10〜15mol%の範囲である。本発明の方法は、2〜20モノマー単位、好ましくは2〜10モノマー単位、より好ましくは4〜8モノマー単位の範囲の鎖長、および1〜3、好ましくは2未満、より好ましくは1.1〜1.7の多分散性指数PDIを伴った狭分子量分布を有するオリゴマーを調製するのに役立つ。1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体からなる重合活性モノマー混合物を使用した結果、対応する量の少なくとも1種の触媒を添加する場合に、平均分子量を制御して調節できることは注目に値する。加えて、本発明の方法によって調製されるオリゴマーは、使用されるチオフェン誘導体に従って、後に官能化または末端キャップ反応のための置換部位となり得る1つまたは2つの離脱基が鎖末端に存在するという点で注目に値する。臭化アルキルマグネシウムを用いるか、或いはマグネシウム、または臭化エチルの存在下でマグネシウムを一時的に供給し、1つまたは2つの離脱基を有するチオフェン誘導体を反応させて、重合活性グリニャール中間体を得、次いで触媒の添加によって直接重合させることにより、中間体の複雑な精製を必要とせずに直接ルートによってオリゴマーを得ることが可能になる。精製が不要であるということは、本発明の方法の経済的魅力を著しく高め、工業的実施も容易にする。
【0056】
本発明の方法の実施に適した温度は、+20〜+200℃、好ましくは+80〜+160℃、特に+100〜+140℃の範囲である。重合は、好ましくは、標準的な圧力で還流しながら実施されるが、使用される溶媒が低い沸点を有するので、反応は高圧で、好ましくは1〜30bar、特に2〜8bar、より好ましくは4〜7barの範囲で実施することもできる。
【0057】
特に好ましい態様では、本発明の方法は連続的に実施される。この場合、反応体の計量添加および調製は、別々に実施され得る。
【0058】
連続的に実施される可能な処理工程を、以下に示す:
・1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を含んでなる溶液と、有機金属化合物とを反応させる工程:
・金属を供給することにより、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を含んでなる溶液を反応させる工程:
・金属および少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給することにより、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を含んでなる溶液を反応させる工程:
・触媒を用いて、1つおよび2つの離脱基またはもっぱら2つの離脱基を有するチオフェン誘導体から生成された重合活性モノマーを反応させることにより、重合を実施する工程:および/または
・更なる重合活性モノマーを添加することにより、重合を継続させて規定のブロックコポリマーを得る工程。
【0059】
本発明の方法の好ましい態様は、第1モジュールで、1つまたは2つの離脱基を有するチオフェン誘導体と有機金属試薬とを混合することによる、或いはDE 10 304 006 B3に記載されているようなカラム、Reimschuessel, Journal of Organic Chemistry, 1960, 25, 2256-7に記載されているような装置、即ち適当なカートリッジ、またはDD260276、DD260277およびDD260278に記載されているような静的ミキサーを備えた管状反応器で、1つまたは2つの離脱基を有するチオフェン誘導体と金属とを反応させることによる、重合活性モノマー混合物の連続製造方法である。次いで、第2モジュールで、少なくとも1種の触媒を重合活性モノマー混合物に添加し、室温または室温より低い温度(約15〜25℃)で混合すると、第3モジュールにおいて、反応温度および制御条件下で連続重合が生じる。場合により、第4モジュールで、更なる同じまたは異なったモノマーを計量供給してもよい。しかしながら、2つの適量の流れを送ることが好ましく、各々の場合、1つの流れは場合により連続的に調製される重合活性モノマー溶液であり、もう1つの流れは触媒溶液である。反応体流れは、ミキサーによって迅速に混合される。
【0060】
例えば、ミキサー装置および滞留ゾーンを用いた好ましい態様では、1〜30bar、好ましくは2〜8bar、より好ましくは4〜7barの範囲の圧力下、+20〜+200℃、好ましくは+80〜+160℃、特に+100〜+140℃の範囲の温度で連続重合を実施する。
【0061】
計量供給速度は、主として、所望の滞留時間および達成すべき転化率に依存する。
典型的な滞留時間は5〜120分の範囲である。滞留時間は、好ましくは10〜40分、より好ましくは20〜40分の範囲である。
【0062】
本発明において、マイクロリアクターを用いたマイクロ反応技術(μ−反応技術)の使用が特に有利であることが見出された。使用される用語「マイクロリアクター」とは、微細構造の好ましくは連続式の反応器を意味し、マイクロリアクター、ミニリアクター、マイクロ熱交換器、ミニミキサーまたはマイクロミキサーの名称で知られている。その例は、マイクロリアクター、マイクロ熱交換器、T型ミキサーおよびY型ミキサー、様々な企業(例えば、Ehrfeld Mikrotechnik BTS GmbH、Institut fuer Mikrotechnik Mainz GmbH、Siemens AG、CPC-Cellulare Process Chemistry Systems GmbH)からのマイクロミキサー、並びに一般に当業者に知られているものであり、本発明における「マイクロリアクター」は、典型的には、1mmまでの固有/測定内部寸法を有し、静的内部ミキサーを有していてよい。本発明の方法にとって好ましいマイクロリアクターは、100μm〜1mmの内部寸法を有する。
【0063】
マイクロミキサー(μ−ミキサー)を使用すると、反応溶液は、極めて迅速に互いに混合される。その結果、起こり得るラジカル濃度勾配の故に、分子量分布の広がりを防げる。更に、マイクロリアクター(μ−リアクター)でのマイクロ反応技術(μ−反応技術)は、従来の連続装置より、通常著しく狭い滞留時間分布を可能にする。このことも同様に、分子量分布の広がりを防ぐ。
【0064】
全ての場合において、温度上昇によって重合が開始する。これに関しても、1つの可能性として特に、マイクロ熱交換器(μ−熱交換器)を使用することができる。マイクロ熱交換器は、反応溶液の迅速かつ制御された温度上昇を可能にする。これは、狭分子量分布にとって有利である。
【0065】
転化率を上昇させるためには、反応溶液を滞留ゾーンに送り、本明細書におけるこれまでの記載よりも高い温度で加圧下転化させる。
【0066】
本発明の方法は、特に、所望の平均鎖長を制御して確立すること、および狭分子量分布を有する生成物を調製することを特徴とする。加えて、重合の連続的な実施は、空時収率の有意な上昇を可能にする。
【0067】
本発明において、2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体に加えて1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を使用することにより、所望の平均鎖長または平均分子量にとって必要とされる触媒量を著しく減らすか、或いは所定量の触媒に対して平均分子量を著しく低下させることができる。
【0068】
本発明はまた、本発明の方法によって得られるオリゴチオフェンを提供する。
【0069】
後の図および実施例を参照して本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は図および実施例に制限されない。
【0070】
図1は、実施例2からの生成物(モノマー比1:4)および同様に調製されたオリゴチオフェン(モノマー比1:1)のゲル透過クロマトグラム(GPC)を示す。
図1は、ポリスチレン標準に対して、THF中で測定した、実施例2からの生成物(1つの離脱基を有するチオフェン誘導体の2つの離脱基を有するチオフェン誘導体に対するモノマー比が1:4)のゲル透過クロマトグラム(GPC)を示す。M=2450g/mol、M=1850g/mol、PDI=1.3。1つの離脱基を有するチオフェン誘導体の2つの離脱基を有するチオフェン誘導体に対するモノマー比が1:1である以外は実施例2に従って調製された生成物のGPCクロマトグラムも、同様に示す。
低い分子量の範囲で、クロマトグラムは、二量体である3−ヘキシルチオフェンに起因するピークを示す。
【0071】
全ての実施例において、保護ガス雰囲気下で合成を実施した。
【実施例1】
【0072】
2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンのバッチ重合
還流冷却器、窒素接続部および温度計を備えた50ml容の三ッ口フラスコ内のTHF20mlに、保護ガス雰囲気下、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン(4mmol)を初期導入し、還流しながら加熱した。臭化メチルマグネシウムの1Mヘキサン溶液(4ml、4mmol)を添加した後、反応溶液を還流しながら1時間加熱した。次いで、触媒として、0.4mmolのNi(dppp)Clを反応溶液に添加し、還流しながら更に2時間加熱した。反応を停止するため、40mlのメタノールを溶液に添加した。メタノール中に沈澱した生成物を濾取し、メタノールで洗い、THFに溶解させた。676mgの生成物を得た(収率約80%)。GPC分析:M=6990g/mol、M=3040g/mol、PDI=2.3(ポリスチレン標準に対して測定、溶離剤としてTHFを使用(0.6ml/分))。
【実施例2】
【0073】
2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンおよび2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンのバッチ重合
還流冷却器、窒素接続部および温度計を備えた50ml容の三ッ口フラスコ内のTHF20mlに、保護ガス雰囲気下、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン(3.2mmol)および2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン(0.8mmol)を初期導入し、還流しながら加熱した。臭化メチルマグネシウムの1Mヘキサン溶液(4ml、4mmol)を添加した後、反応溶液を還流しながら1時間加熱した。次いで、触媒として、0.4mmolのNi(dppp)Clを反応溶液に添加し、還流しながら更に2時間加熱した。反応を停止するため、40mlのメタノールを溶液に添加した。メタノール中に沈澱した生成物を濾取し、メタノールで洗い、THFに溶解させた。543mgの生成物を得た(収率約75%)。GPC分析:M=2450g/mol、M=1850g/mol、PDI=1.3。
【実施例3】
【0074】
2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンの連続重合
還流冷却器、窒素接続部および温度計を備えた50ml容の三ッ口フラスコ内のTHF20mlに、保護ガス雰囲気下、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン(4mmol)を初期導入し、還流しながら加熱した。臭化エチルマグネシウムの1Mヘキサン溶液(4ml、4mmol)を添加した後、反応溶液を還流しながら1時間加熱した。次いで、溶液を約15℃まで冷却した。続いて、触媒として、0.4mmolのNi(dppp)Clを反応溶液に添加した。その後、100℃および5barで、連続的に反応キャピラリーを通して、反応混合物をポンプ輸送した。滞留時間は40分であった。約4倍の滞留時間の後、試料を取りだした。調製された生成物をメタノール中に沈澱させ、取り出し、メタノールで洗い、THFに溶解させた。転化率は75〜80%であった。GPC分析:M=7760g/mol、M=2700g/mol、PDI=2.8。
【実施例4】
【0075】
2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンおよび2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンの連続重合
還流冷却器、窒素接続部および温度計を備えた50ml容の三ッ口フラスコ内のTHF30mlに、保護ガス雰囲気下、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン(3.6mmol)および2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン(0.4mmol)を初期導入し、還流しながら加熱した。臭化エチルマグネシウムの1Mヘキサン溶液(4ml、4mmol)を添加した後、反応溶液を還流しながら1時間加熱した。次いで、溶液を約15℃まで冷却した。続いて、触媒として、0.4mmolのNi(dppp)Clを反応溶液に添加した。その後、120℃および5barで、連続的に反応キャピラリーを通して、反応混合物をポンプ輸送した。滞留時間は40分であった。約4倍の滞留時間の後、試料を取りだした。調製された生成物をメタノール中に沈澱させ、取り出し、メタノールで洗い、THFに溶解させた。転化率は75〜80%であった。GPC分析:M=2380g/mol、M=1420g/mol、PDI=1.7。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)a)1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体、および
b)2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体
を含んでなる溶液を最初に導入する工程:
(2)有機金属化合物を添加/計量供給するか、或いは金属、または元素金属を伴った少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給する工程:並びに続く
(3)少なくとも1種の触媒を添加/計量供給する工程
を含む、オリゴチオフェンの製造方法。
【請求項2】
(1)a)1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体、および
b)2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体
を含んでなる溶液を最初に導入する工程:
(2)有機金属化合物を添加/計量供給するか、或いは金属を供給する工程:並びに続く
(3)少なくとも1種の触媒に添加/計量供給する工程
を含む、オリゴチオフェンの製造方法。
【請求項3】
・1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を含んでなる溶液と、有機金属化合物とを反応させる工程:
・金属を供給することにより、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を含んでなる溶液を反応させる工程:
・金属および少なくとも1種のハロゲン化アルキルを供給することにより、1つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体および2つの離脱基を有する少なくとも1種のチオフェン誘導体を含んでなる溶液を反応させる工程:
・触媒を用いて、1つおよび2つの離脱基またはもっぱら2つの離脱基を有するチオフェン誘導体から生成された重合活性モノマーを反応させることにより、重合を実施する工程:および/または
・更なる重合活性モノマーを添加することにより、重合を継続させて規定のブロックコポリマーを得る工程:
の少なくとも1つを連続的に実施することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
連続法に使用される装置が、マイクロミキサー、マイクロリアクターおよびマイクロ熱交換器であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
[2つの離脱基を有するチオフェン誘導体]/[触媒]の比によって、鎖中の反復単位数を調節することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
1〜3の多分散性指数PDIを有する狭分子量分布のオリゴチオフェンを得ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
オリゴチオフェンが、鎖末端で使用されるチオフェン誘導体に対応して、1つまたは2つの離脱基を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
位置選択的重合に好ましく使用される少なくとも1種の触媒、特にPd触媒およびNi触媒を使用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
1つの離脱基を有するチオフェン誘導体が、一般式(1):
【化1】

で示される化合物であり、2つの離脱基を有する本発明のチオフェン誘導体が、一般式(2):
【化2】

[式中、Rは、式(1)では3位、4位または5位に位置し、および/または式(2)では3位または4位に位置し、Hまたは好ましくは有機基、より好ましくは非反応性基または保護基(好適には5個以上の炭素原子を含有するもの)であり、
XおよびX’は、各々独立して、離脱基、好ましくはハロゲン、より好ましくはCl、BrまたはI、特に好ましくはBrである。]
で示される化合物であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
有機金属化合物が、式:
R−Mg−X
[式中、Rは、アルキル、特に、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C10、C11、C12−アルキル、より好ましくは、C、C、C、C、C、C、C−アルキル、最も好ましくはC−アルキルであり、
Xは、ハロゲン、より好ましくは、Cl、BrまたはI、特に好ましくはBrである。]
で示されるグリニャール化合物であり、供給される金属がマグネシウムまたは亜鉛であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
1〜30barおよび+20〜+200℃の温度範囲内で実施することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−513613(P2010−513613A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541825(P2009−541825)
【出願日】平成19年12月8日(2007.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010711
【国際公開番号】WO2008/080513
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(504109610)バイエル・テクノロジー・サービシーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (75)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Technology Services GmbH
【Fターム(参考)】