説明

チタンの製造方法及び製造装置

【課題】析出反応を利用して低コストで金属チタンを製造する方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明は、750℃以上、1500℃以下に加熱した析出空間に実質的に静止配置した基材表面に、気化したMgと、気化した四塩化チタンを異なる経路を通して供給して、基材の存在下で混合し、基材表面にチタンを析出させ、形成された表面を析出空間に維持してチタンを析出成長させる金属チタンの製造方法である。本発明は、気化したマグネシウムを通過させるマグネシウム導入管と、導入管に連通させた上記温度に加熱した析出空間と、析出空間に実質的に静止配置した析出基材と、析出基材に向かって気化した四塩化チタンを吹き付ける四塩化チタン導入管を有する装置にも関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化チタンをマグネシウムで還元して金属チタンを製造する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属チタン製造方法はクロール法が主流である。クロール法においては、まず原料であるチタン鉱石(主成分TiO)に塩素ガスおよびコークス(C)を添加して四塩化チタン(TiCl)を製造し、さらに蒸留分離を経て高純度四塩化チタンを製造する。次にこの純化した四塩化チタンとマグネシウム(Mg)との熱還元反応により金属チタンを製造する。
クロール法の熱還元工程は、ステンレス鋼製還元反応容器内に予め800℃以上の溶融マグネシウムを満たし、容器上部から四塩化チタン液を滴下し、容器内のマグネシウムと反応させることによりチタンを生成させるものである。生成されたチタンはマグネシウム液中に沈下してスポンジ状になる。他方、反応の副生成物である塩化マグネシウムおよび残留マグネシウムは液相としてスポンジ状のチタンとの混合物になる。上記反応の終了後、1000℃以上の高温真空分離プロセスを経て、多孔質のスポンジケーキが得られる。
【0003】
上述したクロール法は実用レベルのチタン素材を製造できるが、熱還元反応と真空分離は別工程で行なわれるために製造周期は長い。また、製造過程で複生成物とスポンジ状のチタンとの混合物が形成されるため、純度を高めるという点で不利である。これらの課題を克服するために、様々なチタン製造技術が提案されている。
その中で例えば、特許文献1(米国特許出願公開2009/0120239号明細書)には、高温の金属粒子の種結晶からなる流動床中に四塩化チタンとマグネシウムを不活性ガスからなるシースガスによって仕切られた別々の流路から導入し、種結晶表面上に金属チタンを析出させ、これら析出成長したチタン粒子を連続的に回収する製造方法が提案されている。この提案によれば、四塩化チタンとマグネシウムを別々の流路から導入し、種結晶の表面に順次接触するように流動床内のチタン粒子の移動を制御することで均一核生成による微粒子の発生が抑えられ、種結晶表面に効率良くチタンを析出させることが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2009/0120239号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、従来のクロール法のような真空分離工程を経ないという点で新たな分野を提供するものである。
しかし、本発明者らの検討によれば、この方法を実用化しようとしたとき不純物混入防止の観点から流動床を形成させる種結晶には、高純度のチタン粒子であることが必要であり、更に流動床の流動性を一定に保つために、形状、粒径が管理されたチタン粒子であることが必要と考えられる。一般的に純度が高く粒径を制御したチタン粉末の市場価格は、クロール法で製造されるスポンジチタン価格と比較して数倍以上であるため、製造コストの増加は避けられず、実用化する上での問題となる。
本発明は、上記課題に鑑み、析出反応を利用して低コストで金属チタンを製造する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、実質的に静止配置した基材表面であっても、均一核生成が進行するのを防いで、具体的に基材表面に四塩化チタンとマグネシウムを別々に供給することで基材表面上での還元析出反応を進行させることができ、純度の高い金属チタンを成長させることができることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明に係る金属チタンの製造方法は、基材を析出空間に実質的に静止配置するステップと、析出空間を750℃〜1500℃の温度範囲に加熱するステップと、析出空間に気化したマグネシウムおよび気化した四塩化チタンを異なる経路を通して供給するステップと、析出空間内での気化したマグネシウムと気化した四塩化チタンの混合により、基材の表面にチタンを析出させるステップと、チタンの形成された表面を実質的に静止させながら析出空間に維持してチタンを析出成長させるステップとを含むものである。
【0007】
チタンの析出成長に応じて基材を後退させることにより、チタンの形成された表面を実質的に静止させながら析出空間に維持することが好ましい。
析出空間を加熱するステップは、900〜1300℃の範囲に析出空間を加熱することが好ましい。また、析出空間の圧力は0.05〜0.15MPaに制御することが好ましい。
気化した四塩化チタンの供給は、析出空間に連通した導入管を通して四塩化チタンを基材に対して吹きつけることにより行うことができる。
他方、気化したマグネシウムの供給は、析出空間に連通した導入管を通して気化したマグネシウムを通過させることができる。或いは、気化したマグネシウムの供給を、前記析出空間に位置されたマグネシウムを加熱することにより行うこともできる。
【0008】
本発明に係るチタンの製造装置は、気化したマグネシウムを通過させるマグネシウム導入管と、導入管に連通させた750℃〜1500℃の温度に加熱可能な析出空間と、析出空間に実質的に静止配置するように構成された析出基材と、析出基材に向かって気化した四塩化チタンを吹き付ける四塩化チタン導入管とを具備し、気化したマグネシウムと気化した四塩化チタンを前記基材の存在下で混合させ、析出基材上に形成された表面を析出空間に維持しながらチタンを析出成長させるようになっている。この装置により、上記の本発明のチタンの製造方法を実施することができるが、他の装置を用いても本発明のチタンの製造方法を実施できることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る金属チタンの製造方法によれば、流動床を用いなくてもチタンを析出成長できるため、低コストで金属チタンを製造する技術として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明に係る装置の別の例の主要部を示す構成図である。
【図3】本発明に係る製造方法により得られた金属チタンの一例を示すSEM写真である。
【図4】本発明に係る製造方法により得られた金属チタンの一例を示すXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したように、本発明の重要な特徴の一つは析出空間に実質的に静止配置した基材表面に、気化したマグネシウムと、気化した四塩化チタンを別々に供給して、前記基材の存在下で混合することにある。
本発明では、上記手法により、チタン粒子を種結晶として流動床においてチタン粒子の移動を制御する方法ではなく、実質的に静止配置した基材表面で純度の高いチタンを析出成長させることができることを見いだしたものである。
その原理としては、実質的に静止配置した基材表面においては、流動床のような基材の移動が無いので、反応物質(チタン)が結晶面に取り込まれる過程、反応副生成物(塩化マグネシウム)が排出される過程、反応熱を放出する過程が定常的に行われるために、結晶成長が安定的に持続され、純度の高い大きな結晶へ成長できるものと推定される。
本発明においては、上述した通り、結晶成長を安定に維持することが重要であり、結晶成長する部分となる表面を析出空間に維持しておく必要がある。
【0012】
本発明において「基材を析出空間に実質的に静止配置する」としたのは、基材の表面からチタンが成長するため、長時間の実施に対して、成長点の位置と供給されるマグネシウムと四塩化チタンの混合雰囲気の相対位置を一定に保つ必要が有るからであり、その程度の移動は許容されることを明確にするためである。その移動速度は、チタンの成長速度の2倍以下が望ましい。
また、気化したマグネシウムと、気化した四塩化チタンとは、混ざり合った瞬間に還元反応が始まり、基材がないと均一核生成により混合空間中でチタン微粒子が生成して捕獲困難となる。そのため、還元反応が始まる空間に基材が必要であり、析出空間に気化したマグネシウムと、気化した四塩化チタンを別々に供給する必要がある。具体的には気化したマグネシウムと、気化した四塩化チタンとが接触する位置から約50mm以下の位置に析出表面を設定することが望ましい。
【0013】
また、本発明においては、析出空間は、750℃以上、1500℃以下に加熱される。本発明においては、流動床を使用しないため、基材と析出空間の温度はほぼ等しくなり、温度の管理は重要である。
例えば、析出空間が1500℃を超えると、析出したチタンは部分的に溶解する虞が高く、安定した成長ができなくなる。一方、750℃以下の場合は還元反応が進みにくく、チタンの成長が促進されないため不適である。なお、工業的な製造安定性を実現するためには、析出空間の温度は、900〜1300℃であることが好ましい。
【0014】
本発明において、析出空間の圧力は特に規定しないが、大気圧よりも大きく減圧した環境では、反応空間内への空気の混入による純度低下の懸念があるため、0.05〜0.15MPa(絶対圧)とすることが好ましい。
【0015】
以下、本発明のチタンの製造装置の具体例について、図を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の実証のために用いた装置の構成図である。図1においては、マグネシウム(Mg)導入管1となるパイプ内に、四塩化チタン(TiCl)導入管2を組み込み、析出空間3に配置した析出基材4に近接した位置で、気化した四塩化チタンを吹き付ける構造を採用している。また、このパイプ内の析出空間3よりも上流側にマグネシウム坩堝5を置き、加熱ヒータ6により加熱し、マグネシウムを気化させるようにしている。他方、析出空間の回りのパイプの外側には析出空間3を所定の温度を維持する析出空間用ヒータ7を設けている。
【0016】
本装置においては、気化したマグネシウムを析出基材4へ移動させるため、アルゴン(Ar)ガスなどのキャリアガスを導入するとともに、装置の保温のため断熱材8を配置している。また、マグネシウム用の坩堝5の交換用に引き出し治具9も設置している。
このようにして気化したマグネシウムと気化した四塩化チタンを基材の存在下で混合させ、析出基材上に形成された表面を析出空間に維持してチタンを析出成長させる構成としている。
なお、図1に示す装置は、実証用の一例であり、本発明は図1の構成に限られるものではない。より制御性を重視する場合は、図2に示すように、析出空間3にそれぞれ独立したマグネシウム導入管1と四塩化チタン導入管2を配置して、析出基材表面で直接混じり合う構成とすることもできる。
【実施例1】
【0017】
図1に示す装置を用いて、析出空間の温度とマグネシウムの蒸発位置の温度をそれぞれ1150℃に加熱後、固体マグネシウムの入った坩堝5を蒸発位置に挿入し、蒸発が安定するまで保持した後、四塩化チタンを4g/minの供給速度で四塩化チタン導入管2を通して析出空間3へ直接導入した。析出空間温度とマグネシウム蒸発温度は、熱電対を直接挿入して測定した。この時、マグネシウムのキャリアガスは8L/min、四塩化チタンのキャリアガスは7L/minであり(標準状態)、四塩化チタンは液体で導入管に供給されマグネシウム導入管の加熱部分を通過する際に蒸発気化され、析出空間へは蒸気として供給される。また、これらの蒸気の発生とキャリアガスの供給により上昇する雰囲気圧力は装置外へ排気するようにし、雰囲気圧力は大気圧に保持するようにした。析出基材にはチタン箔を用い、四塩化チタン導入管出口から30mmの位置に設置して、実験をおこなった。
【0018】
得られた純チタンの結晶形態を走査型電子顕微鏡(SEM)で表面から観察した写真を図3に示す。
図3に示すとおり、チタンの結晶が多数の柱状に成長していることが認められる。本実験においては成長したチタンの最大長は500μm程度であった。また、この結晶の一部をGDMS(グロー放電質量分析)装置で分析したところ、99.5%の純度であった。
このように、塩化マグネシウム沸点(1412℃)以下の析出空間であっても、実質的に静止配置した基材に金属チタンを析出させることで、塩化マグネシウムをほぼ分離することができた。
【実施例2】
【0019】
図1に示す装置を用いて、析出空間の温度を1050℃、マグネシウムの蒸発位置の温度を1150℃に加熱した以外は、実施例1の条件に従って、実験をおこなった。得られた析出物は、実施例1で得られた図3のチタン結晶の形態にほぼ同一であることが認められた。そして、XRD(X線回折)によって結晶構造を解析したところ、この析出物は実質的にチタンのみから構成される結晶であった(純度は99.0%以上である)。XRDの結果を図4に示す。このように、塩化マグネシウム沸点(1412℃)以下の析出空間であっても、実質的に静止配置した基材に金属チタンを析出させることで、塩化マグネシウムをほぼ分離することができた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の方法により、低コストで連続的にチタンを製造することが可能であり、溶解原料や粉末冶金原料として好適である。電子材料、航空機部品、電力・化学プラント用の溶製材の製造が不可欠な用途に適用できる。
【0021】
以上述べたように、本発明による金属チタン製造方法および装置の構成を一例として説明したが、この構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲から離脱することなく種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0022】
1 マグネシウム導入管
2 四塩化チタン導入管
3 析出空間
4 析出基材
5 マグネシウム坩堝
6 加熱ヒータ
7 析出空間用ヒータ
8 断熱材
9 引き出し治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンの製造方法であって、
基材を析出空間に実質的に静止配置するステップと、
前記析出空間を750℃〜1500℃の温度範囲に加熱するステップと、
前記析出空間に気化したマグネシウムおよび気化した四塩化チタンを異なる経路を通して供給するステップと、
前記析出空間内での前記気化したマグネシウムと前記気化した四塩化チタンの混合により、前記基材の表面にチタンを析出させるステップと、
チタンの形成された前記表面を実質的に静止させながら析出空間に維持してチタンを析出成長させるステップを含むことを特徴とするチタンの製造方法。
【請求項2】
チタンの析出成長に応じて基材を後退させることにより、前記表面を実質的に静止させながら前記析出空間に維持することを特徴とする、請求項1に記載されたチタンの製造方法。
【請求項3】
前記析出空間を加熱するステップが、900〜1300℃の温度範囲に析出空間を加熱することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載されたチタンの製造方法。
【請求項4】
前記析出空間内の圧力が0.05〜0.15MPaであることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたチタンの製造方法。
【請求項5】
前記気化した四塩化チタンの供給が、前記析出空間に連通した導入管を通して四塩化チタンを前記基材に対して吹きつけることを含むことを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたチタンの製造方法。
【請求項6】
前記気化したマグネシウムの供給が、前記析出空間に連通した導入管を通して気化したマグネシウムを通過させることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載されたチタンの製造方法。
【請求項7】
前記気化したマグネシウムの供給が、前記析出空間に配置されたマグネシウムを加熱することにより行われることを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載されたチタンの製造方法。
【請求項8】
チタンの製造装置であって、
気化したマグネシウムを通過させるマグネシウム導入管と、
前記導入管に連通させた、750℃〜1500℃の温度に加熱可能な析出空間と、
前記析出空間に実質的に静止配置するように構成された析出基材と、
前記析出基材に向かって気化した四塩化チタンを吹き付ける四塩化チタン導入管と
を具備し、気化したマグネシウムと気化した四塩化チタンを前記基材の存在下で混合させ、析出基材上に形成された表面を析出空間に維持しながらチタンを析出成長させるようになっていることを特徴とするチタンの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−231402(P2011−231402A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50985(P2011−50985)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(503389611)テクナ・プラズマ・システムズ・インコーポレーテッド (10)
【Fターム(参考)】