説明

チタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法および連続鋳造装置

【課題】鋳肌の状態が良好なスラブを鋳造することができるようにする。
【解決手段】断面長方形状の鋳型2の長辺方向の両端部にフラックス9の投入領域14をそれぞれ設ける。フラックス投入装置8から投入領域14に投入されたフラックス9は、溶湯12の湯面全域に拡散する。フラックス9による緩冷却効果が鋳型2内で均一になるように、鋳型2の長辺方向の両端部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量を、鋳型2の長辺方向の中央部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量よりも多くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金からなるスラブ(鋳片)を連続的に鋳造する、チタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法および連続鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク溶解や電子ビーム溶解によって溶融させた金属を無底矩形状の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、スラブを連続的に鋳造することが行われている。
【0003】
また、特許文献1には、チタンまたはチタン合金を不活性ガス雰囲気中でプラズマ溶解し、引続き不活性ガス雰囲気中にて連続鋳造により薄肉スラブを鋳造し、これを圧延してストリップを製造し、このストリップを圧延する、チタンまたはチタン合金圧延材の製造方法が開示されている。
【0004】
ここで、鋳造されたスラブの鋳肌に凹凸や傷があると、その後の圧延過程で表面欠陥となる。そのため、鋳肌に凹凸や傷が無いスラブを鋳造することが求められる。
【0005】
そこで、特許文献2には、プラズマアーク溶解により活性金属を連続的に溶解・凝固して鋳塊を鋳造する際に、フラックスを溶解して活性金属と同時に鋳込むことで、平滑な鋳肌を有する鋳塊を製造する方法が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、コールドクルーシブル誘導溶解法(CCIM)においてCaFを使用すると、滑らかな鋳肌の鋳塊を得ることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−118773号公報
【特許文献2】特開昭53−86603号公報
【非特許文献1】A.D.Hartman et al.(Albany Research Center):Advanced Titanium Processing(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フラックスには、潤滑効果のほかに、鋳型と溶湯との熱伝導率を下げて、鋳型と溶湯との界面を緩冷却する効果がある。しかしながら、断面長方形状の鋳型でスラブを連続鋳造する場合、単に溶湯の湯面にフラックスを一様に投入していたのでは、フラックスによる緩冷却効果が鋳型内で不均一となり、鋳型の長辺方向の両端部における溶湯の冷却速度の方が、鋳型の長辺方向の中央部における溶湯の冷却速度よりも速くなる。そうなると、凝固シェルの形状が鋳型内で不均一となり、凝固シェルの断裂や、凝固シェルの凝固収縮に起因する溶湯差込等が発生し、鋳肌の状態が悪くなる。
【0009】
本発明の目的は、鋳肌の状態が良好なスラブを鋳造することが可能なチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法および連続鋳造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法は、チタンまたはチタン合金を溶融させた溶湯を無底で断面長方形状の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなるスラブを連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、前記鋳型の長辺方向の両端部への単位時間あたりの投入量が前記長辺方向の中央部への単位時間あたりの投入量よりも多くなるように、前記鋳型内の前記溶湯にフラックスを投入することを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、断面長方形状の鋳型の長辺方向の両端部へのフラックスの単位時間あたりの投入量を、鋳型の長辺方向の中央部へのフラックスの単位時間あたりの投入量よりも多くすることで、フラックスによる緩冷却効果を鋳型内で均一にすることができる。これにより、鋳型の長辺方向の両端部における溶湯の冷却速度と、鋳型の長辺方向の中央部における溶湯の冷却速度とを均一にすることができるから、凝固シェルの形状を鋳型内で均一にすることができる。その結果、凝固シェルの断裂や、凝固シェルの凝固収縮に起因する溶湯差込等の発生を抑制することができる。よって、鋳肌の状態が良好なスラブを鋳造することができる。
【0012】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法において、前記両端部の各々における前記長辺方向の長さlは、前記鋳型の長辺方向の長さをLとしたときに、0<l/L≦0.25の関係を満足してよい。上記の構成によれば、上記関係を満足することで、鋳型の長辺方向の両端部における溶湯の冷却速度と、鋳型の長辺方向の中央部における溶湯の冷却速度とを好適に均一にすることができる。
【0013】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置は、チタンまたはチタン合金を溶融させた溶湯を無底で断面長方形状の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなるスラブを連続的に鋳造する連続鋳造装置であって、前記鋳型内に前記溶湯を注入するハースと、前記鋳型内の前記溶湯の湯面を加熱する加熱装置と、前記鋳型内の前記溶湯にフラックスを投入するフラックス投入装置と、前記鋳型の長辺方向の両端部への単位時間あたりの投入量が前記長辺方向の中央部への単位時間あたりの投入量よりも多くなるように、前記フラックス投入装置を制御する投入量制御装置と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、断面長方形状の鋳型の長辺方向の両端部へのフラックスの単位時間あたりの投入量を、鋳型の長辺方向の中央部へのフラックスの単位時間あたりの投入量よりも多くすることで、フラックスによる緩冷却効果を鋳型内で均一にすることができる。これにより、鋳型の長辺方向の両端部における溶湯の冷却速度と、鋳型の長辺方向の中央部における溶湯の冷却速度とを均一にすることができるから、凝固シェルの形状を鋳型内で均一にすることができる。その結果、凝固シェルの断裂や、凝固シェルの凝固収縮に起因する溶湯差込等の発生を抑制することができる。よって、鋳肌の状態が良好なスラブを鋳造することができる。
【0015】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置において、前記両端部の各々における前記長辺方向の長さlは、前記鋳型の長辺方向の長さをLとしたときに、0<l/L≦0.25の関係を満足してよい。上記の構成によれば、上記関係を満足することで、鋳型の長辺方向の両端部における溶湯の冷却速度と、鋳型の長辺方向の中央部における溶湯の冷却速度とを好適に均一にすることができる。
【0016】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置において、前記フラックス投入装置は、前記溶湯の湯面において、前記ハースによる注入箇所を除く箇所に前記フラックスを投入してよい。上記の構成によれば、ハースから注入される溶湯の流れに乗って未溶解のフラックスがスラブ内部に巻き込まれると、内部欠陥となる。そこで、溶湯の湯面において、ハースによる注入箇所を除く箇所にフラックスを投入することで、未溶解のフラックスがスラブ内部に巻き込まれるのを防止する。これにより、スラブに内部欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0017】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置において、前記加熱装置は、プラズマアークを発生させるプラズマトーチであり、前記フラックス投入装置は、前記溶湯の湯面において、前記プラズマトーチによる加熱箇所を除く箇所に前記フラックスを投入してよい。上記の構成によれば、プラズマトーチが発生させるプラズマアークの気流に乗って未溶解のフラックスがスラブ内部に巻き込まれると、内部欠陥となる。そこで、溶湯の湯面において、プラズマトーチによる加熱箇所を除く箇所にフラックスを投入することで、未溶解のフラックスがスラブ内部に巻き込まれるのを防止する。これにより、スラブに内部欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0018】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置において、前記フラックス投入装置は、前記溶湯の湯面において、前記鋳型の壁面近傍を除く箇所に前記フラックスを投入してよい。上記の構成によれば、未溶解のフラックスが鋳型の壁面と凝固シェルとの間に巻き込まれると、スラブの表面に固着して表面欠陥となる。そこで、溶湯の湯面において、鋳型の壁面近傍を除く箇所にフラックスを投入することで、未溶解のフラックスが鋳型の壁面と凝固シェルとの間に巻き込まれるのを防止する。これにより、スラブに表面欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0019】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置において、前記フラックスは、CaF、CaO、CaCl、ZrO、TiO、および、Alの少なくとも1種であってよい。上記の構成によれば、鋳型と溶湯との熱伝導率を下げて、鋳型と溶湯との界面を緩冷却する効果を好適に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法および連続鋳造装置によると、フラックスによる緩冷却効果を鋳型内で均一にすることができる。これにより、鋳型の長辺方向の両端部における溶湯の冷却速度と、鋳型の長辺方向の中央部における溶湯の冷却速度とを均一にすることができるから、凝固シェルの形状を鋳型内で均一にすることができる。その結果、凝固シェルの断裂や、凝固シェルの凝固収縮に起因する溶湯差込等の発生を抑制することができるから、鋳肌の状態が良好なスラブを鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】連続鋳造装置を示す斜視図である。
【図2】連続鋳造装置を示す断面図である。
【図3】表面欠陥の発生メカニズムを表す説明図である。
【図4】表面欠陥の発生メカニズムを表す説明図である。
【図5】連続鋳造装置を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(連続鋳造装置の構成)
本実施形態によるチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置(連続鋳造装置)1は、斜視図である図1、および、断面図である図2に示すように、鋳型2と、コールドハース(ハース)3と、原料投入装置4と、プラズマトーチ5と、スターティングブロック6と、プラズマトーチ(加熱装置)7と、を有している。連続鋳造装置1のまわりは、アルゴンガスやヘリウムガス等からなる不活性ガス雰囲気にされている。
【0024】
原料投入装置4は、コールドハース3内にスポンジチタンやスクラップ等のチタンまたはチタン合金の原料を投入する。プラズマトーチ5は、コールドハース3の上方に設けられており、プラズマアークを発生させてコールドハース3内の原料を溶融させる。コールドハース3は、原料が溶融した溶湯12を注湯部3aから鋳型2内に注入する。鋳型2は、銅製であって、無底で断面長方形状に形成されており、四辺をなす壁部の内部を循環する水によって冷却されるようになっている。スターティングブロック6は、図示しない駆動部によって上下動され、鋳型2の下側開口部を塞ぐことが可能である。プラズマトーチ7は、鋳型2の上方に設けられており、鋳型2内に注入された溶湯12の湯面をプラズマアークで加熱する。
【0025】
また、連続鋳造装置1は、フラックス投入装置8(図5参照)を有している。フラックス投入装置8は、鋳型2内の溶湯12に固相のフラックス9を投入する。フラックス投入装置8は、図示しない投入量制御装置によって、フラックス9の投入量が制御されている。
【0026】
ここで、フラックス9は、CaF、CaO、CaCl、ZrO、TiO、および、Alの少なくとも1種である。
【0027】
以上の構成において、鋳型2内に注入された溶湯12は、水冷式の鋳型2との接触面から凝固していく。そして、鋳型2の下側開口部を塞いでいたスターティングブロック6を所定の速度で下方に引き下ろしていくことで、溶湯12が凝固したスラブ11が下方に引抜かれながら連続的に鋳造される。このとき、溶湯12の湯面において溶解したフラックス9は、鋳型2と溶湯12との間に侵入して、鋳型2と凝固シェル13との摩擦抵抗を低減させる潤滑効果を発揮するとともに、鋳型2と溶湯12との界面を緩冷却する効果を発揮する。
【0028】
なお、真空雰囲気での電子ビーム溶解では微少成分が蒸発するために、チタン合金の製造は困難であるが、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解では、純チタンだけでなく、チタン合金も鋳造することが可能である。また、真空雰囲気での電子ビーム溶解では、フラックス9が飛散するのでフラックス9を鋳型2内の溶湯12に投入するのが困難であるが、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解では、フラックス9を好適に鋳型2内の溶湯12に投入することができる。
【0029】
(表面欠陥の発生メカニズム)
ところで、チタンまたはチタン合金からなるスラブ11を連続鋳造した際に、スラブ11の表面(鋳肌)に凹凸や傷があると、次工程である圧延過程で表面欠陥となる。そのため、圧延する前にスラブ11表面の凹凸や傷を切削等で取り除く必要があり、歩留まりの低下や作業工程の増加など、コストアップの要因となる。そのため、表面に凹凸や傷が無いスラブ11を鋳造することが求められる。
【0030】
ここで、スラブ11の表面に生じる欠陥の中には、凝固シェル13の断裂により生じるものがあると推測される。そのメカニズムについて図3を用いて説明する。鋳型2の壁面近傍において成長した凝固シェル13が、引抜きにより下降する。このとき、成長した凝固シェル13と鋳型2との界面に作用する摩擦力で凝固シェル13が断裂し、この断裂がスラブ11の表面欠陥となる。
【0031】
また、スラブ11の表面に生じる欠陥の中には、凝固シェル13の凝固収縮に起因する溶湯差込により生じるものがあると推測される。そのメカニズムについて図4を用いて説明する。まず、図4(a)に示すように、過度に冷却された凝固シェル13が凝固収縮することで鋳型2の壁面から離れる方向に凝固シェル13が変形する。次に、図4(b)に示すように、鋳型2と凝固シェル13との間に生じた隙間に溶湯12が流れ込む。そして、図4(c)に示すように、隙間に流れ込んだ溶湯12が凝固して凝固シェル13になることで、凝固シェル13に表面欠陥が生じ、これがスラブ11の表面欠陥となる。
【0032】
(フラックス投入量制御)
本実施形態では、フラックス9による緩冷却効果を鋳型2内で均一にするために、図示しない投入量制御装置によって、フラックス投入装置8を制御している。具体的には、投入量制御装置は、断面長方形状の鋳型2の長辺方向の両端部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量が、鋳型2の長辺方向の中央部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量よりも多くなるように、フラックス投入装置8を制御している。
【0033】
ここで、鋳型2の長辺方向の両端部とは、上面図である図5に示すように、両端部の各々における長辺方向の長さ(短辺側の壁面から中央側の端までの長さ)をl、鋳型2の長辺方向の長さをLとしたときに、0<l/L≦0.25の関係を満足する領域を指す。鋳型2の長辺方向の両端部には、フラックス投入装置8がそれぞれ配置されているとともに、フラックス9の投入領域14がそれぞれ設けられている。鋳型2の長辺方向の両端部は、投入領域14にほぼ一致する。
【0034】
本実施形態では、フラックス投入装置8から投入領域14にフラックス9を投入して、湯面全域に拡散させることで、鋳型2の長辺方向の両端部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量が、鋳型2の長辺方向の中央部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量よりも多くなるようにしている。なお、鋳型2の長辺方向の中央部あるいは中央部寄りにもフラックス投入装置を1つ以上設けて、鋳型2の長辺方向の両端部への投入量が鋳型2の長辺方向の中央部への投入量よりも多くなるように、複数のフラックス投入装置を制御する構成であってもよい。
【0035】
このように、断面長方形状の鋳型2の長辺方向の両端部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量を、鋳型2の長辺方向の中央部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量よりも多くすることで、フラックス9による緩冷却効果が鋳型2内で均一になる。これにより、鋳型2の長辺方向の両端部における溶湯12の冷却速度と、鋳型2の長辺方向の中央部における溶湯12の冷却速度とが均一になり、凝固シェル13の形状が鋳型2内で均一になるから、凝固シェル13の断裂や、凝固シェル13の凝固収縮に起因する溶湯差込等の発生が抑制される。
【0036】
ここで、鋳型2の長辺方向の中央部へのフラックス9の投入量に対して、鋳型2の長辺方向の両端部へのフラックス9の投入量をどの程度多くするかは、鋳型2の形状(鋳型2の長辺と短辺との比など)によっても異なるが、たとえば、長辺と短辺との比が6程度の場合には、両端部への投入量を中央部への投入量の1.7〜5倍程度にする。そうすると、鋳型2の長辺方向の両端部における溶湯12の冷却速度が、鋳型2の長辺方向の中央部における溶湯12の冷却速度の0.5〜1.5倍程度となり、凝固シェル13の断裂や、凝固シェル13の凝固収縮に起因する溶湯差込等の発生が好適に抑制される程度に、フラックス9による緩冷却効果が鋳型2内で均一になる。
【0037】
また、フラックス投入装置8は、溶湯12の湯面において、プラズマトーチ7による加熱箇所、および、コールドハース3の注湯部3aによる溶湯12の注入箇所を除く箇所にフラックス9を投入する。即ち、溶湯12の湯面において、プラズマトーチ7による加熱箇所、および、注湯部3aによる注入箇所を除く箇所をフラックス9の投入領域14としている。注湯部3aから注入される溶湯12の流れに乗って未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれたり、プラズマトーチ7が発生させるプラズマアークの気流に乗って未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれたりすると、内部欠陥となるが、投入領域14にフラックス9を投入することで、未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれることがない。
【0038】
また、フラックス投入装置8は、溶湯12の湯面において、鋳型2の壁面近傍を除く箇所にフラックス9を投入する。即ち、溶湯12の湯面において、鋳型2の壁面近傍を除く箇所をフラックス9の投入領域14としている。未溶解のフラックス9が鋳型2の壁面と凝固シェル13との間に巻き込まれると、スラブ11の表面に固着して表面欠陥となるが、投入領域14にフラックス9を投入することで、未溶解のフラックス9が鋳型2の壁面と凝固シェル13との間に巻き込まれることがない。
【0039】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る連続鋳造装置1によると、断面長方形状の鋳型2の長辺方向の両端部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量を、鋳型2の長辺方向の中央部へのフラックス9の単位時間あたりの投入量よりも多くすることで、フラックス9による緩冷却効果を鋳型2内で均一にすることができる。これにより、鋳型2の長辺方向の両端部における溶湯12の冷却速度と、鋳型2の長辺方向の中央部における溶湯12の冷却速度とを均一にすることができるから、凝固シェル13の形状を鋳型2内で均一にすることができる。その結果、凝固シェル13の断裂や、凝固シェル13の凝固収縮に起因する溶湯差込等の発生を抑制することができる。よって、鋳肌の状態が良好なスラブ11を鋳造することができる。
【0040】
また、両端部の各々における長辺方向の長さlが、鋳型2の長辺方向の長さをLとしたときに、0<l/L≦0.25の関係を満足することで、鋳型2の長辺方向の両端部における溶湯12の冷却速度と、鋳型2の長辺方向の中央部における溶湯12の冷却速度とを好適に均一にすることができる。
【0041】
また、コールドハース3から注入される溶湯12の流れに乗って未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれると、内部欠陥となる。そこで、溶湯12の湯面において、コールドハース3による注入箇所を除く箇所にフラックス9を投入することで、未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれるのを防止する。これにより、スラブ11に内部欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0042】
また、プラズマトーチ7が発生させるプラズマアークの気流に乗って未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれると、内部欠陥となる。そこで、溶湯12の湯面において、プラズマトーチ7による加熱箇所を除く箇所にフラックス9を投入することで、未溶解のフラックス9がスラブ11内部に巻き込まれるのを防止する。これにより、スラブ11に内部欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0043】
また、未溶解のフラックス9が鋳型2の壁面と凝固シェル13との間に巻き込まれると、スラブ11の表面に固着して表面欠陥となる。そこで、溶湯12の湯面において、鋳型2の壁面近傍を除く箇所にフラックス9を投入することで、未溶解のフラックス9が鋳型2の壁面と凝固シェル13との間に巻き込まれるのを防止する。これにより、スラブ11に表面欠陥が生じるのを抑制することができる。
【0044】
また、フラックス9を、CaF、CaO、CaCl、ZrO、TiO、および、Alの少なくとも1種とすることで、鋳型2と溶湯12との熱伝導率を下げて、鋳型2と溶湯12との界面を緩冷却する効果を好適に発揮させることができる。
【0045】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0046】
例えば、プラズマトーチ7からのプラズマアークで溶湯12の湯面を加熱する構成に限定されず、電子ビームや非消耗電極式アーク、高周波誘導加熱により溶湯12の湯面を加熱する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 連続鋳造装置
2 鋳型
3 コールドハース(ハース)
3a 注湯部
4 原料投入装置
5 プラズマトーチ
6 スターティングブロック
7 プラズマトーチ(加熱装置)
8 フラックス投入装置
9 フラックス
11 スラブ
12 溶湯
13 凝固シェル
14 投入領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金を溶融させた溶湯を無底で断面長方形状の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなるスラブを連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、
前記鋳型の長辺方向の両端部への単位時間あたりの投入量が前記長辺方向の中央部への単位時間あたりの投入量よりも多くなるように、前記鋳型内の前記溶湯にフラックスを投入することを特徴とするチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法。
【請求項2】
前記両端部の各々における前記長辺方向の長さlは、前記鋳型の長辺方向の長さをLとしたときに、0<l/L≦0.25の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造方法。
【請求項3】
チタンまたはチタン合金を溶融させた溶湯を無底で断面長方形状の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなるスラブを連続的に鋳造する連続鋳造装置であって、
前記鋳型内に前記溶湯を注入するハースと、
前記鋳型内の前記溶湯の湯面を加熱する加熱装置と、
前記鋳型内の前記溶湯にフラックスを投入するフラックス投入装置と、
前記鋳型の長辺方向の両端部への単位時間あたりの投入量が前記長辺方向の中央部への単位時間あたりの投入量よりも多くなるように、前記フラックス投入装置を制御する投入量制御装置と、
を有することを特徴とするチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置。
【請求項4】
前記両端部の各々における前記長辺方向の長さlは、前記鋳型の長辺方向の長さをLとしたときに、0<l/L≦0.25の関係を満足することを特徴とする請求項3に記載のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置。
【請求項5】
前記フラックス投入装置は、前記溶湯の湯面において、前記ハースによる注入箇所を除く箇所に前記フラックスを投入することを特徴とする請求項3又は4に記載のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置。
【請求項6】
前記加熱装置は、プラズマアークを発生させるプラズマトーチであり、
前記フラックス投入装置は、前記溶湯の湯面において、前記プラズマトーチによる加熱箇所を除く箇所に前記フラックスを投入することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置。
【請求項7】
前記フラックス投入装置は、前記溶湯の湯面において、前記鋳型の壁面近傍を除く箇所に前記フラックスを投入することを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置。
【請求項8】
前記フラックスは、CaF、CaO、CaCl、ZrO、TiO、および、Alの少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載のチタンまたはチタン合金からなるスラブの連続鋳造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−49084(P2013−49084A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189365(P2011−189365)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】