説明

チタン化合物触媒による低ホルムアルデヒド含有量ポリエチレンテレフタレート樹脂

【課題】ホルムアルデヒド含有量が極めて低いポリエチレンテレフタレート成形物が得られるポリエチレンテレフタレート樹脂の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の課題はは、300℃で射出成形した外径28mm、内径19mm、長さ136mm、重量56gであり、中空部のある円筒状で該中空部の一方の端が閉じている試験管状成形体に成形した時の該成形体中のホルムアルデヒド含有量が2ppm以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂により課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂に関し、さらに詳しくは、ホルムアルデヒド含有量が極めて低いポリエチレンテレフタレート成形物が得られるポリエチレンテレフタレート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下PETと略する。)は、その優れた機械的性質、化学的性質から、繊維、フィルム、工業用樹脂、ボトル、カップ、又はトレイ等に成形されて広く用いられている。特にポリエチレンテレフタレートなどの飽和ポリエチレンテレフタレートからなるボトルは、透明性、機械的強度、耐熱性およびガスバリヤー性に優れており、ジュース、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填用容器(PETボトル)として広く用いられている。
【0003】
通常、ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸類と、エチレングリコールなどの脂肪族ジオール類とを原料として製造される。具体的には、まず、芳香族ジカルボン酸類と脂肪族ジオール類とのエステル化反応により低次縮合物(エステル低重合体)を形成し、次いで重縮合触媒の存在下にこの低次縮合物を脱グリコール反応(液相重縮合)させて、高分子量化している。また、場合によっては固相重縮合を行い、更に分子量を高めている。そして上記のようなPETボトルなどの飲料充填用容器は、通常まずポリエチレンテレフタレートを射出成形してプリフォームを製造し、次いでこのプリフォームをブロー成形するなどして延伸し、ボトル状に成形することにより製造されている。
【0004】
ところでこのように製造されたポリエチレンテレフタレートボトルは、通常その材質中にホルムアルデヒドを含んでいるが、このアルデヒド類は、成形前のポリエチレンテレフタレート樹脂中に含まれているとともに、成形時にも生成することが知られている。
そしてこのホルムアルデヒドは、ボトルに充填された内容物の味、香りなどの品質を低下させるため、特に飲料充填用に用いられるボトルは、ホルムアルデヒド含有量ができる限り低いことが望ましい。
【0005】
特許文献1、特許文献2には、固相重合後水処理工程または水蒸気処理工程を経ること
で、成形物中のホルムアルデヒド含有量を低減することが開示されているが、効果が不十分であるとともに、水処理工程や水蒸気処理工程を必須とするため、生産コストの上昇が避けられないという問題点があった。
【0006】
特許文献3〜特許文献6には、フェノール系化合物や酸化防止剤をポリエチレンテレフタレート樹脂に添加することで、成形物中のホルムアルデヒド含有量を低減することが開示されているが、効果が不十分であるとともに、ケミカルコストが高くなり、フェノール系化合物や酸化防止剤が低分子量体であることから、それらの化合物がブリードアウトする問題や、ボトル等とした場合に充填された内容物の味、香りなどの変質を招来する場合があるという問題があった。
【0007】
特許文献7、特許文献8には、固相重合工程や乾燥工程を水素を含有する不活性気体下で固相重合または乾燥させることで、成形物中のホルムアルデヒド含有量を低減することが開示されているが、効果が不十分であるとともに、水素を含有する不活性気体の取り扱いに危険が伴い、実用的でないという問題点があった。
【0008】
特許文献9には、重合触媒として実質的に非晶性の二酸化ゲルマニウムを用いることで
、成形物中のホルムアルデヒド含有量を低減することが開示されているが、効果が不十分であるとともに、ゲルマニウム化合物は埋蔵量が少なく高価であり、生産コストの上昇が避けられないという問題点があった。
【0009】
特許文献10には、チタン化合物とマグネシウム等の金属元素の化合物との特定量比の重縮合触媒の存在下、及び燐化合物の特定量比の共存下で重縮合させたポリエチレンテレフタレート系樹脂が成形時のアセトアルデヒドの副生を抑制し得ることが記載されている。しかしながら、成形時のホルムアデヒド副生の抑制効果は、不十分であるという問題点があった。
【0010】
特許文献11には、チタン化合物とカルシウム、マグネシウム等の金属元素の化合物との特定量比の重縮合触媒の存在下、及び燐化合物の特定量比の共存下で重縮合させたポリエチレンテレフタレート系樹脂が成形時のホルムアルデヒドの量を副生し得ることが記載されている。しかし、触媒と安定剤併せて4種類もの化合物を使用するのはケミカルコストや生産時の手間がかかり不便な上、カルシウム、マグネシウム化合物は成形品の白化や、異物の原因となることがあり、特に飲料用容器ボトルなど透明性が求められる用途に使用するには懸念がある。
【0011】
【特許文献1】特開平8−73611号公報
【特許文献2】特開平8−127640号公報
【特許文献3】特開平9−12698号公報
【特許文献4】特開平11−315196号公報
【特許文献5】特開2002−249569号公報
【特許文献6】特開2003−138111号公報
【特許文献7】特開平9−3179号公報
【特許文献8】特開平9−3182号公報
【特許文献9】特開平10−168168号公報
【特許文献10】特開2002−226563号公報
【特許文献11】特開2005−162849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、ホルムアルデヒド含有量が極めて低いポリエチレンテレフタレート成形物が得られるポリエチレンテレフタレート樹脂の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目的を達成するためになされたものである。即ち、本発明は、300℃で射出成形した外径28mm、内径19mm、長さ136mm、重量56gであり、中空部のある円筒状で該中空部の一方の端が閉じている試験管状成形体に成形した時の該成形体中のホルムアルデヒド含有量が2ppm以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂をその要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、成形体プリフォーム、ひいてはボトルに成形した際に、その成形体に含有するホルムアルデヒドが少ないので、飲料用途、食料品包装用途の成形品を製造した場合に、内容物の味、香りが変化させることが少ない。また製造コストも安価に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応を経て、溶融重縮合、必要に応じて更に固相重縮合させることにより得られたものであり、テレフタル酸成分が全ジカルボン酸成分の96モル%以上、更には98.5モル%以上を占め、エチレングリコール成分が全ジオール成分の96モル%以上、更には97モル%以上を占めるものであるのが好ましい。テレフタル酸成分の全ジカルボン酸成分に占める割合、及びエチレングリコール成分の全ジオール成分に占める割合が前記範囲未満では、ボトル等に成形する際の延伸による分子鎖の配向結晶化が不十分となり、ボトル等の成形体としての機械的強度、耐熱性、及びガスバリヤー性等が不足する傾向となる。尚、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の共重合成分の含有量は、全ジカルボン酸成分に対して6モル%以下であるのが好ましく、1.5〜4.5モル%であるのが特に好ましい。
【0016】
また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、整色剤、消泡剤その他の添加剤などを配合してもよく、更には得られるポリエチレンテレフタレートの色相の改善補助をするために、反応系のポリエチレンテレフタレートの製造段階において、アゾ系、トリフェニルメタン系、キノリン系、アントラキノン系、フタロシアニン系等の有機青色顔料等や無機系以外の整色剤を添加することもできる。さらにこれらのポリエチレンテレフタレートを製造する際に必要に応じて他の添加剤、例えば、着色剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などを使用してもよいが、これら添加剤によりチタン、ナトリウム及びカリウム以外の金属元素量がポリエチレンテレフタレート樹脂中3ppm以上になるとホルムアルデヒド(以下、FAと称することもある)量が顕著に増加する。従って、後述のポリエステルの原料、上記の各種添加剤及び下記のリン化合物中等にチタン、ナトリウム及びカリウム以外の金属元素量が極力少ないものを選択すること、またポリエステルの製造工程においても、これらの金属元素以外の元素が混入しないように重縮合反応装置を初めとして製造に用いる設備にも細心の注意を払う必要がある。
【0017】
なお、本発明において安定剤としてリン化合物を添加することが必要である。該リン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスホノアセテート、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノトリメチルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、モノアントリルホスフェート等が使用可能である。
【0018】
一方、本発明のPET樹脂は後述する条件での射出成形後の成形体のホルムアルデヒド含有量が2ppm以下であり、さらに低ければ低いほど好ましい。ここで本発明における成形体のホルムアルデヒド含有量を測定するための試験管状成形体(以下、プリフォームと称することもある)を得る射出成形の条件は以下のとおりである。
【0019】
ポリエチレンテレフタレート樹脂3kgを温度160℃、常圧、N流入下条件で5時間以上棚段式の乾燥機を用いて乾燥させ、乾燥ポリエチレンテレフタレートを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FN−2000)にてシリンダー温度300℃、スクリュー回転数160rpm、一次圧時間3.0秒、金型温度10℃、サイクル30秒で、外径28mm、内径19mm、長さ136mm、重量56gを射出成形することが好ましい。更に好ましくはこのプリフォームをブロー成形して得られるボトル状の中空成形体中のホルムアルデヒド含有量が2ppm以下であることもより好ましい。これらのプリフォーム及びボトル状成形体の成形条件は好ましい一態様を示したに過ぎず、この成形条件に限定されるものではない。
【0020】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂は、チタン化合物を重縮合触媒として重縮合させることが必要である。ここで、チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラキス(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラキスステアリルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネートダイマー、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、塩化チタン、乳酸チタン、チタニウムアセチルアセトネート、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等が挙げられる。尚、有機溶媒又は水に不溶性の固体系チタン化合物(例えば二酸化チタン等)は樹脂中で異物となるのを防ぐ為、予め微細化するなどして粒子径20μm以下に必要がある。好ましくは一次粒子径が0.1μm以下である。また、チタン化合物への安定剤としてリン化合物を含んでも良く、リン化合物と上記チタン触媒化合物を、重合工程へ添加する前に予め反応させておいても良い。また、ナトリウム、カリウム化合物は含んでもよいが樹脂中にチタン、ナトリウム、カリウム以外の元素を3ppm以上含むようになると成形品中のホルムアルデヒド量が増加する。
【0021】
次に、本発明のチタン化合物触媒を用いたポリエチレンテレフタレートの製造方法について説明する。本発明においては、ポリエチレンテレフタレートを製造するにあたり、テレフタル酸成分と、エチレングリコール、及び目的物性に応じた適当量のジエチレングリコールを重縮合させて製造することができる。テレフタル酸成分としてはテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジフェニルなどのテレフタル酸の低級ジアルキルエステル、テレフタル酸の低級ジアリールエステルを挙げることができる。
【0022】
ここで酸成分として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸若しくはデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を共重合成分として使用することができる。ジオール成分としては、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールなどの脂環式グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。更に、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を共重合成分として使用することができる。
【0023】
まず、上記の原料を用いてポリエチレンテレフタレートを製造するに際しては、テレフタル酸成分と、エチレングリコールとを直接エステル化反応させ得たオリゴマーを本発明のポリエチレンテレフタレート重縮合触媒を用いて重縮合反応させる。
例えば、直接エステル化する方法は具体的には、テレフタル酸と、エチレングリコールとを含むスラリーを調製する。このようなスラリーにはテレフタル酸1モルに対して、通常1.1〜1.6モル、好ましくは1.2〜1.4モルのエチレングリコールが含まれる。このスラリーは、エステル化反応工程に連続的に供給される。
【0024】
エステル化反応は、反応物を自己循環させなから一段で実施する方法、又は2つ以上のエステル化反応基を直列に連結し実施する方法が好ましく、いずれもエチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら行う。反応物を自己循環させなから一段で連続的にエステル化を行う場合の反応条件は、通常、反応温度が240〜280℃、好ましくは250〜270℃であり、反応圧力は常圧〜0.3MPaの条件下で行われ、エステル化率が通常90%以上、好ましくは95%以上になるまで反応させることが望ましい。このエステル化工程により、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応物(オリゴマー)が得られ、このオリゴマーの重合度が4〜10程度である。上記のようなエステル化工程で得られたオリゴマーは、次いで重縮合(液相重縮合)工程に供給される。
【0025】
またテレフタル酸ジメチルを用いてポリエチレンテレフタレートを製造するに際しては、テレフタル酸ジメチルとそれに対して1.02〜3倍モルのエチレングリコールをスラリー状にして、更にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、スズ、チタン、ジルコニウム、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウムといった金属を含むエステル交換反応触媒を反応器内に添加する。次に、反応器内にて上記の反応温度・圧力に準じた条件で行い、流出してくるメタノールを精留塔で還流しながらまた一部は反応器から留出することを所定時間継続する事でテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応物(オリゴマー)を得ることができる。最終的に得られるポリエステル樹脂の品質を考慮すると、好ましくは上記のテレフタル酸を用いる方法である。
【0026】
次に、液相重縮合工程において、上記した重縮合触媒の存在下に、エステル化工程で得られたオリゴマーを、減圧下で、かつポリエチレンテレフタレートの融点以上の温度(通常240〜280℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応のエチレングリコール及び重縮合で発生するエチレングリコールを反応系外に留去させながら行われることが望ましい。
【0027】
重縮合反応は、1槽で行ってもよく、複数の槽に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が2段階で行われる場合には、第1槽目の重縮合反応は、反応温度が245〜290℃、好ましくは260〜280℃、圧力が100〜1kPa、好ましくは50〜2kPaの条件下で行われ、最終第2槽での重縮合反応は、反応温度が265〜300℃、好ましくは270〜290℃、反応圧力は通常1000〜10Paで、好ましくは500〜30Paの条件下で行われる。
【0028】
このようにして、ポリエチレンテレフタレートを製造することができるが、この重縮合工程で得られるポリエチレンテレフタレートは、通常、溶融状態で押し出しながら、冷却後、粒状(チップ状)とする。得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.40〜0.80dL/g、好ましくは0.50〜0.70dL/gであることが望ましい。
【0029】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレート(以下、非晶質ポリマーと称することもある)はペレット化されたのち、必要に応じて固相重合工程で更に重縮合を進めてもよく、その固相重合方法に関しては従来公知のいずれの方法を採用してもよい。固相重縮合反応に供給される粒状ポリエチレンテレフタレートは、予め、固相重縮合を行う場合の温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行った後、固相重縮合工程に供給すると、固相重合反応中に粒状のポリエチレンテレフタレート同士及び/又は反応容器内壁への融着を抑止することができるので好ましい。
【0030】
このような予備結晶化工程は、粒状ポリエチレンテレフタレートを乾燥状態で通常、120〜200℃、好ましくは130〜180℃の温度に1分間から4時間加熱することによって行うことができる。またこのような予備結晶化は、粒状のポリエチレンテレフタレートを水蒸気雰囲気、水蒸気含有不活性ガス雰囲気下、あるいは水蒸気含有空気雰囲気下で、120〜200℃の温度で1分間以上加熱することによって行うこともできる。
【0031】
予備結晶化されたポリエチレンテレフタレートは、結晶化度が20〜50%であることが望ましい。なお、この予備結晶化処理によっては、いわゆるポリエチレンテレフタレートの固相重縮合反応は進行せず、予備結晶化されたポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、重縮合後のポリエチレンテレフタレートの固有粘度とほぼ同じであり、予備結晶化前後の固有粘度差は、通常0.06dL/g以下である。
【0032】
固相重縮合工程は、少なくとも1段からなり、温度が190〜230℃、好ましくは195〜225℃であり、圧力が200kPa〜1kPa、好ましくは常圧から10kPaの条件下で、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。使用する不活性ガスとしては窒素ガスが望ましい。
【0033】
このような固相重縮合工程を経て得られた粒状ポリエチレンテレフタレート(以下、固相ポリマーと称することもある)には、必要に応じて水処理を行ってもよく、この水処理は、粒状ポリエステルを水、水蒸気、水蒸気含有不活性ガス、水蒸気含有空気などと接触させることにより行われる。
【0034】
上記のようなポリエチレンテレフタレートの製造工程はバッチ式、半連続式、連続式のいずれでも行うことができる。特に固相重縮合を行うポリエチレンテレフタレートは、一般的にボトルなどに利用する場合が多く、そのため、固有粘度が0.70〜1.0dL/gであるとともに、ポリエチレンテレフタレート中の環状三量体が0.5wt%以下、アセトアルデヒド含有量が5ppm以下であることが好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレート中の環状三量体及びアセトアルデヒドは、通常、固相重縮合工程で低減されるため、固相重縮合前の溶融縮合の固有粘度及び固相重縮合の条件などを調整することで対応できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。なお、実施例中の各値は以下の方法により求めた。
1)固有粘度([η]):
PET0.6gをo−クロロフェノール50cc中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、ウベローデ式粘度計を用いて35℃の温度条件で測定したその溶液の溶液粘度から算出した。
2)ホルムアルデヒド含有量
プリフォームの開口部から試験片を採取して、1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロイソプパノールに溶解し、そこへ水を加えてポリマーを沈殿させた上澄みにジニトロフェニルヒドラゾンを加えて誘導体化して高速液体クロマトグラフ装置にて測定を行った。
3)金属元素含有量
ポリエチレンテレフタレート中のチタン、ゲルマニウム金属元素濃度は、粒状のサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業3270E型)にて、定量分析した。
PET中のナトリウム、カリウム金属元素濃度は、粒状のサンプルを1質量パーセントのオルソクロロフェノール溶液とし、その2倍量の0.5モルパーセント塩酸水溶液を加え振盪・抽出処理した水相液を日立ハイテクノロジーズ社のZ−2300型原子吸光光度分析計にて分析し定量した。
【0036】
[参考例1]
溶液を混合攪拌できる機能を備え付けた容器中にエチレングリコール989質量部、及び酢酸10質量部を入れて混合攪拌した中に、チタンテトラブトキシド71質量部をゆっくり徐々に添加し、透明なチタン化合物のエチレングリコール溶液を得た。以下、この溶液を「TBT/EG液」と略す。本溶液のチタン濃度を蛍光X線を用いて測定したところ、1.02%であった。
【0037】
更に加熱し混合攪拌できる機能を備え付けた容器中にエチレングリコール537質量部を入れて攪拌しながら100℃まで加熱した。その温度に達した時点で、モノブチルホスフェートを28.3質量部添加し、加熱混合攪拌して溶解し、透明な溶液を得た。以下、この溶液を「P4溶液」と略す。
【0038】
引続き、100℃に加熱コントロールした上記のP4溶液(565.3質量部)の攪拌状態の中に、先に準備したTB溶液435gをゆっくり徐々に添加し、全量を添加した後、70℃の温度で1時間攪拌保持し、チタン化合物とリン化合物の反応を完結させた(この時のチタン原子に対するリン原子のモル濃度比が2.0になっている)。反応物は、エチレングリコールに不溶となるため、白濁状態で微細な析出物として存在した。以下、この溶液を「TBT−P4触媒」と略す。
【0039】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートの製造:
予め225部のオリゴマーが滞留する反応器内に、撹拌下、窒素雰囲気で255℃、常圧下に維持された条件下に、179部の高純度テレフタル酸と95部のエチレングリコールとを混合して調製されたスラリーを一定速度供給し、反応で発生する水とエチレングリコールを系外に留去ながら、エステル化反応を4時間し反応を完結させた。この時のエステル化率は、98%以上で、生成されたオリゴマーの重合度は、約5〜7であった。
【0040】
このエステル化反応で得られたオリゴマー225部を重縮合反応槽に移し、重縮合触媒として、参考例1で得られたTBT−P4触媒をテレフタル酸成分に対してチタン原子がモル比で4×10−5になる量にて投入した。引続き系内の反応温度を255から280℃、又、反応圧力を常圧から60Paにそれぞれ段階的に上昇及び減圧し、反応で発生する水、エチレングリコールを系外に除去しながら重縮合反応を行った。
【0041】
重縮合反応の進行度合いを、系内の撹拌翼への負荷をモニターしなから確認し、所望の重合度に達した時点で、反応を終了した。その後、系内の反応物を吐出部からストランド状に連続的に押出し、冷却,カッティングして、約3mm程度の非晶質ポリマーの粒状ペレットを得た。この時の重縮合反応時間は、121分間であった。
【0042】
これを窒素流通下、160℃で5時間結晶化及び乾燥させた。続いてタンブラー式固相重合装置にて0.13kPaに減圧下、217℃で24時間固相重合反応を行った。この固相重合済みポリエチレンテレフタレートを用いプリフォーム成形体を下記の方法で成形した。
【0043】
ポリエチレンテレフタレート3kgを温度160℃、常圧、N流入下条件で5時間以上棚段式の乾燥機を用いて乾燥させ、乾燥ポリエチレンテレフタレートを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FN−2000)にてシリンダー温度300℃、スクリュー回転数160rpm、一次圧時間3.0秒、金型温度10℃、サイクル30秒で、外径28mm、内径19mm、長さ136mm、重量56gであり、中空部のある円筒状で中空部の一方の端が閉じている試験管状成形体(これをブロー成形するとボトルが得られることから成形プリフォームと称される)を射出成形した。
【0044】
一連の非晶質ポリマー、固相重合後のポリマー、成形プリフォームの品質を表1に示す。得られたポリエチレンテレフタレートの品質を表1に示した。なおチタン、ナトリウム、カリウム以外の金属元素含有量は3ppm以下であった。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、TBT−P4触媒をテレフタル酸成分に対してチタン原子がモル比で4×10−5になる量にて投入する代わりに、チタニウムテトラメトキシドをテレフタル酸成分に対してチタン原子がモル比で4×10−5になる量にて投入し、固相重合時間を223℃で24時間ではなく218℃で24時間にした以外は同様の操作を行った。一連の非晶質ポリマー、固相重合後のポリマー、成形プリフォームの品質を表1に示す。なおチタン、ナトリウム、カリウム以外の金属元素含有量は3ppm以下であった。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、TBT−P4触媒をテレフタル酸成分に対してチタン原子がモル比で4×10−5になる量にて投入する代わりに、二酸化ゲルマニウムをテレフタル酸成分に対してゲルマニウム原子がモル比で20×10−5に、リン酸トリメチルをテレフタル酸成分に対してリン原子がモル比で20×10−5になる量にて投入し、固相重合時間を223℃で24時間ではなく220℃で24時間にした以外は同様の操作を行った。一連の非晶質ポリマー、固相重合ポリマー、成形プリフォームの品質を表1に示す。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の方法により、ホルムアルデヒド含有量の低いポリエチレンテレフタレートを得ることができるので、その工業的意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃で射出成形した外径28mm、内径19mm、長さ136mm、重量56gであり、中空部のある円筒状で該中空部の一方の端が閉じている試験管状成形体に成形した時の該成形体中のホルムアルデヒド含有量が2ppm以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項2】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応を経て重縮合反応を行う際、チタン化合物を触媒、リン化合物を安定剤として用い、チタン、ナトリウム及びカリウム以外の金属元素の含有率が3ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエチレンテレフタレート樹脂。

【公開番号】特開2008−63486(P2008−63486A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244190(P2006−244190)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】