説明

チタン又はチタン合金インゴット製造方法

【課題】 消耗電極式真空溶解用によるチタン又はチタン合金インゴットの製造において、その消耗電極に使用されるコンパクトの間及びコンパクト内における原料偏在、及びこれによるインゴット内の成分偏差を解消する。
【解決手段】 コンパクト1個分のスポンジチタン粒と他の原料粉粒とを、ホッパー21a〜25aから計量器21b〜25bを経て混合容器10に投入する。コンパクト1個分の原料粉粒が投入された混合容器10を、混合部30において混合機により2軸回転させる。これにより、混合容器10内の原料粉粒を効率よく強制攪拌して、原料偏在の少ない混合原料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極を用いた真空溶解(VAR)によるチタン又はチタン合金インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンインゴットの製造方法の一つとして消耗電極式真空溶解法がある。この方法ではチタンインゴットが次のような手順で製造される。第1段階として、スポンジチタンの破砕粒をプレス型内でコンパクトと呼ばれる成型体に押し固める。第2段階として、所定数のコンパクトを円柱状に組み合わせ、溶接により固定して、消耗電極となす。第3段階として、作製された消耗電極をモールド内に設置し、真空中において消耗電極とモールド内の溶湯との間にアークを発生させて、消耗電極を下から順次溶融させることにより、モールド内の溶湯量を増やす。最後にモールド内の溶湯を凝固させる。
【0003】
こうして製造されるチタンインゴットにおいては、用途に応じて様々な量の酸素が添加される。ここにおける酸素添加は、通常は主原料であるスポンジチタン粒に酸化チタン粉末を添加することにより行われ、その一例が特許文献1に示されたシュート添加である。特許文献1に示された添加法では、コンパクト1個分のスポンジチタン粒が、その貯槽から計量ホッパーに投入される。同様にコンパクト1個分の酸化チタン粉末が、その貯槽から前記計量ホッパーに投入される。そして計量ホッパーを開いて内容物を傾斜シュートを介してプレス型に投入する。傾斜シュートを移動する過程で、スポンジチタン粒と酸化チタン粉末が攪拌され混合される。
【0004】
【特許文献1】特開平8−225861号公報
【0005】
また最近では、Ti−6Al−4Vなどのチタン合金インゴットについても、消耗電極を用いた真空溶解(VAR)による製造が始められている。この場合、コンパクトの製造過程で、スポンジチタン粒にアルミ粒、Al−V合金粒、電解鉄粉、酸化チタン粉などが要求組成に応じて混合される。
【0006】
ところで、酸素含有チタンインゴットは、例えば展伸材の特定分野では、高強度化などのために、酸素濃度の要求値が年々高くなっている。高酸素濃度のチタンインゴットを製造するためには、プレス型への原料供給過程で多くの量の酸化チタン粉末をスポンジチタン粒へ混合する必要がある。ところが、酸化チタン粉末はスポンジチタン粒に比べて非常に微細である。このため、傾斜シュートを利用した攪拌混合では、酸化チタン粉末の混合量が多くなるにしたがってその飛散量が増加し、その結果としてコンパクト毎の酸化チタン量のバラツキが大きくなる。コンパクト毎の酸化チタン量のバラツキが大きくなると、これを組み合わせ溶解して製造されるインゴットでは、酸素濃度分布のバラツキ、特に溶解方向である上下方向のバラツキが大きくなる。
【0007】
すなわち、傾斜シュートによる混合では、粒径の大きいスポンジチタンと酸化チタンの微細粒子が混在しているだけであり、溶解過程でスポンジチタン粒から酸化チタン粉が分離して浮上し、本質的に濃度偏差が生じやすいところに、コンパクト毎の酸化チタン量のバラツキが重なって、インゴットの濃度偏差が大きくなるのである。
【0008】
チタンインゴットにおける酸素濃度偏差は厳しく管理されており、高酸素インゴットだからといってその規制が緩和されるわけではない。つまり、1000ppm未満というような酸素濃度が比較的低いインゴットも、3000ppm以上というような酸素濃度が非常に高いインゴットも、酸素濃度偏差としては500ppm以下というように同じものを要求されるのである。これは、高酸素濃度のチタンインゴットにとっては非常に厳しい要求となる。
【0009】
一方、Ti−6Al−4Vなどのチタン合金インゴットについては、コンパクト成形前に、酸化チタン粉末以外にアルミ粒、Al−V合金粒、電解鉄粉などが、スポンジチタン粒に混合される。ここで、アルミ粒、Al−V合金粒、電解鉄粉は、スポンジチタン粒と同じ粒状ではあるが、粒径が大きく異なる。特にAl−V合金粒、電解鉄粉は粒径が0.5〜3mmと、スポンジチタンの粒径(1〜25mm)に比べて極端に小さい。この粒径差のために、傾斜シュートによる混合では、流動時の原料分離による原料偏在化が顕著であり、コンパクト内での原料偏在化、これによるインゴット内の成分偏差も大きな問題となる。
【0010】
また、酸素含有チタンインゴットの製造の場合にしろ、Ti−6Al−4Vなどのチタン合金インゴットの製造の場合にしろ、傾斜シュートによる原料混合を用いると、コンパクト製造設備の設備高が大きくなるという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、小型の設備でコンパクト間及びコンパクト内における原料偏在化、及びこれによるインゴット内の成分偏差を可及的に解消できるチタン又はチタン合金インゴット製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明者らは、スポンジチタン粒と酸化チタン粉末などの他の原料粉粒を予め混合機で機械的に混合する強制攪拌法に着目した。ミキサーやブレンダと呼ばれる混合機は、複数種類の粉粒をその回転により攪拌するので、大量の粉粒を一度に効率よく混合することができ、傾斜シュートでの攪拌混合で問題となる酸化チタン粉末の飛散も生じない。また、大型の混合機を使用しても設備高が大きくならないため、消耗電極1本分の原料粉粒をまとめて混合し、混合後にその混合物をコンパクト単位に小分けしてプレスするのが合理的であり、実際、混合機による強制攪拌では、この大量一括処理−小分けプレスの方法が一般的に採用されている。
【0013】
混合機による強制攪拌の場合は、傾斜シュートによる攪拌混合の場合と異なり、粒径の大きなスポンジチタン粒子の外面に酸化チタンがコーティングされたように付着する。このため、溶解工程での分離浮上による成分偏析は本質的に生じにくい。しかし、実際の操業では、相当に大きな成分濃度差が生じる。その原因は以下のとおりと考えられる。
【0014】
混合機の特性上の問題として、スポンジチタン粒と酸化チタン粉末のように粒径が大きく相違する場合には、最初の投入操作で微細粉末の分布状況が概ね固定されてしまい、混練は十分になされるものの、微細な粉粒の分布の均一化は進まないという特性がある。この特性のため、混合機で混合した混合物から複数のコンパクトを成形すると、コンパクト間で微細粉粒量に差が生じ、これらのコンパクトを組み合わせた消耗電極から溶解製造されるインゴットでは、傾斜シュートによる攪拌混合の場合ほどではないものの、成分偏差が生じる。これに加えて、大型混合機による大量一括混合−小分けプレスの場合は、小分けが繰り返されるために、最後に微粉が分離残留し、これもコンパクト間の原料偏在化の原因となる。
【0015】
このような状況下で、本発明者らは様々な混合法の比較検討を行った結果、以下の結論に到達した。
【0016】
酸化チタン粉のような微細粉末の飛散を抑制するためには、プレス型への投入に先立って、スポンジチタン粒と他の原料粉粒を混合機で強制攪拌するのが有効である。大型混合機による強制攪拌で問題になるコンパクト間の原料偏在化に対しては、その混合操作を小型混合機にてコンパクト単位で行うのが有効である。小型混合機としては、中心軸割りに回転する1軸式が一般的であるが、中心軸割りに回転しながら、中心軸に直角な水平軸回りに回転する2軸式の方が、混合効率が格段に高い。十分な混合を行おうとすると、例えば1軸式の場合15分程度要するのが、2軸式では2〜3分程度に短縮され、混合効率が飛躍的に向上する。
【0017】
混合機による強制攪拌は傾斜シュートによる攪拌混合と比べて混合に時間がかかり、混合原料のプレス時間等より長い時間を要する。具体的には、2軸式を使用しても、2〜3分程度の攪拌時間は必要である。その結果、コンパクト単位で混合機による強制攪拌を行うと、その強制攪拌による作業の律速が問題になる。そして実際の作業では、これに、混合機の混合容器への原料粉粒の投入に要する時間、保管容器への排出に要する時間が加わり、作業時間が相当に長くなるため、律速の問題は一層顕著となる。
【0018】
これに加え、コンパクト単位で機械混合を行う場合は、コンパクト1個分の原料粉粒を収容することが可能な混合容器が混合機に必要となると共に、その混合容器から排出された混合原料を保管するための保管容器が必要になる。そして、コンパクト1個分の機械混合が終わる毎に、混合原料を混合機の混合容器からドラム缶などの保管容器へ排出することになるが、この排出時に原料の分離による偏在化が起こる。特に、Ti−6Al−4Vインゴットを製造する場合に使用するAl−V合金粒、電解鉄粉などの偏在化が顕著である。
【0019】
作業律速の問題、混合原料排出時の原料分離の問題に対しては、混合容器を混合機から脱着可能とし、保管容器と兼用できる構成とするのが有効である。すなわち、1台の混合機に対して混合容器を脱着可能とした上で、その混合容器を複数用意しておき、混合作業中に予め原料粉粒を別の混合容器内へ投入したり、混合後に混合容器を混合機から取り外してそのまま保管することにより、機械混合に要する時間を1サイクルとして高効率にコンパクト作製を行うことができる。また、混合後に混合原料を保管容器へ排出することに伴う原料偏在化の問題も解決される。
【0020】
換言すれば、混合機による強制攪拌の場合、混合原料の保存、プレスへの運搬等のためにドラム缶などの保管容器は不可欠であるが、この保管容器が混合機における混合容器を兼ねれば、排出時の原料分離の問題及び混合機による作業律速の問題が解決されるということである。
【0021】
本発明のチタン又はチタン合金インゴットの製造方法は、かかる知見を基礎として完成されたものであって、コンパクト1個分のスポンジチタン粒と他の原料粉粒とを混合容器に投入する原料粉粒投入工程と、コンパクト1個分の原料粉粒が投入された混合容器を混合機により回転させて混合容器内の原料粉粒を混合原料とする混合工程と、コンパクト1個分の混合原料をプレス金型へ投入する混合原料投入工程と、プレス金型へ投入されたコンパクト1個分の混合原料をプレス成形してコンパクトとなすコンパクト成形工程と、成形されたコンパクトを複数個溶接して消耗電極となす電極作製工程と、作製された消耗電極をVAR法にて溶解する溶解工程とを含んでいる。
【0022】
本発明のチタン又はチタン合金インゴット製造方法においては、スポンジチタン粒と他の原料粉粒とがコンパクト1個分ずつ混合容器に収容されて混合機により強制攪拌されるので、混合機による消耗電極単位の強制混合で問題となるコンパクト間における原料偏在が生じない。更に、混合機による強制攪拌では微細な酸化チタン粉末はスポンジチタン粒の表面にコーティングされたかの如く付着し、シュートによる攪拌で問題となる設備高の増大や原料分離も生じにくい。これらのため、成分偏差の小さい高酸素濃度インゴットやチタン合金インゴットが、小型の設備で安定的に製造される。
【0023】
混合容器及び混合機については、混合容器を混合機から脱着可能に構成すると共に、その混合容器を複数用意しておき、混合容器内の原料粉粒を混合機にて混合原料とした後、その混合容器を混合機から分離する一方、別の混合容器を混合機に装着して次の混合作業を行う方法が合理的で好ましく、混合機に装着される混合容器に予め原料粉粒を投入しておく方法が更に好ましい。
【0024】
この方法によれば、混合機による強制攪拌により作業時間が律速されるが、原料粉粒の投入、混合原料の排出を待つことなく強制攪拌を行うことができ、強制攪拌に要する時間が短くなるので、コンパクト作製効率が上がる。また、混合原料を混合容器から保管容器へ排出する作業が不要となり、その排出に伴う原料分離の問題が解決される。この方法に伴い、複数の混合容器は、原料粉粒投入工程、混合工程、及び混合原料投入工程の3工程、或いは原料粉粒投入工程、混合工程、プレス待ち保管工程、及び混合原料投入工程の4工程に繰り返し循環使用される。
【0025】
混合機による混合方式については、混合容器に蓋体を装着し、その蓋体に容器内の原料が触れるように混合容器を回転させるのが好ましく、混合容器を中心軸回り及び中心軸に直角な軸回りに回転させる2軸回転方式が特に好ましい。
【0026】
本発明のチタン又はチタン合金インゴット製造方法は、スポンジチタン粒と微細な酸化チタン粉を混合する高酸素チタンインゴットの製造に適するのは勿論であるが、それよりも更に多くの種類の粒径が大きく異なる原料粉粒を使用するTi−6Al−4Vのようなチタン合金インゴットの製造に特に好適である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のチタン又はチタン合金インゴット製造方法は、粒径が異なる複数種の原料粉粒を混合して混合機にプレス成形する際に、コンパクト1個分ずつ、原料粉粒を混合容器に収容して強制攪拌し、その後にコンパクトにプレス成形することにより、大型混合機で多量の混合原料をつくって1コンパクトずつ小分けしてプレスする場合と比べてコンパクト間の原料偏在を小さく抑制することができる。また、シュートによる攪拌と比べた場合は、設備高を小さくできると共に、流動による原料分離が生じないので、コンパクト1個分ずつ処理する場合同士で比べても、コンパクト内の原料偏在を小さく抑制することができる。したがって、成分偏差の少ない高品質なチタンインゴット又はチタン合金インゴットを小型の設備で効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明のインゴット製造方法の実施に適した原料混合装置の構成図である。
【0029】
図1に示された原料混合装置は、消耗電極式真空溶解法による展伸用チタン合金インゴットの製造に使用されるものであり、より具体的にはTi−6Al−4V合金インゴット製造用コンパクトの作製に使用される原料混合装置である。
【0030】
この原料混合装置は、複数種類の原料粉粒を所定比率で混合容器10に投入する原料投入部20と、原料粉粒が投入された混合容器10を回転させて容器内の原料粉粒を混合する混合部30と、混合を終えた混合容器10内を真空引きしてArガスを封入するガス置換部40とを備えている。
【0031】
混合容器10は、真空引きに耐えられる強度のステンレス鋼からなる所謂ドラム缶であり、同じ形状のものが複数個用意されている。個々の混合容器10は、コンパクト1個分の原料粉粒を収容可能な容量を有し、その開口部が、同材質からなる蓋体11により気密に閉止される。原料粉粒は、ここではTi−6Al−4V合金インゴットを製造する関係から、スポンジチタン粒、Al粒、Al−V粒、電解鉄粉、酸化チタン粉の5種類である。
【0032】
原料投入部20は、スポンジチタン粒を収容する第1ホッパー21a、Al粒を収容する第2ホッパー22a、Al−V粒を収容する第3ホッパー23a、電解鉄粉を収容する第4ホッパー24a、酸化チタン粉を収容する第5ホッパー25aを有している。ホッパー21a〜25a内に収容された各粉粒は、各ホッパーに対応する計量器21b〜25bにより所定量ずつ計量されコンベア26を経て混合容器10に開口部から投入される。原料粉粒を所定比率で投入された混合容器10は、開口部を開放したまま次の混合部30へ搬送ライン27により搬送される。
【0033】
混合部30は、2軸回転方式の混合機からなる。この混合機は、原料粉粒が収容された混合容器10を脱着可能に支持固定する第1支持部31と、第1支持部31を、当該支持部に支持された混合容器10の中心線と同軸の縦軸回りに回転可能に支持する第2支持部32と、第2支持部32を、前記縦軸に直角な水平横軸回りに回転可能に支持する第3支持部33とを有しており、第3支持部33は図示されない固定フレームに固着されている。
【0034】
混合容器10を支持する第1支持部31は、第1支持部31に装着された混合容器10の開口部を開閉する機械駆動式の蓋体31aを装備している。蓋体31aは、混合容器10内の原料粉粒が混合中に外部へ流出しない密閉性で開口部を閉止する。第2支持部32は、第1支持部31を、当該支持部に装着された混合容器10の中心線と同軸の縦軸回りに回転駆動するモータ32aを装備している。第3支持部33は、第1支持部31に装着された混合容器10の中心線の中間点と交差する横軸により第2支持部32を支持し、モータ33aにより第2支持部32をその横軸回りに回転駆動する。
【0035】
混合部30で内部の原料粉粒の混合を終えた混合容器10は次のガス置換部40へ送られる。ガス置換部40では、混合原料を収容する混合容器10の開口部に蓋体11が装着される。この状態で混合容器10内が真空引きされ、代わりにArガスが注入される。これにより、混合容器10内の混合原料は長期間の保管に耐えることが可能となる。
【0036】
本実施形態のインゴット製造方法では、原料投入部20において、原料粉粒としてコンパクト1個分のスポンジチタン粒、Al粒、Al−V粒、電解鉄粉、酸化チタン粉が混合容器10内に投入される。原料粉粒を投入された混合容器10は混合部30に送られ、混合機の第1支持部31に装着される。そして、その混合容器10の開口部が蓋体31aで閉止され、この状態で第1支持部31及び第2支持部32が回転することにより、混合容器10が縦軸回りに回転しながら横軸回りに回転する。これにより、混合容器10内の原料粉粒が攪拌混合される。
【0037】
混合容器10の回転が終わると、蓋体31aが混合容器10から取り外され、更にその混合容器10が第1支持部31から取り外される。そして、その混合容器10がガス置換部40へ送られる。
【0038】
以上のようにしてコンパクト1個分の原料粉粒が、十分に混合され且つ保管可能な状態で混合容器10内に次々と密封される。混合原料の密封を終えた混合容器10は図示されないプレス装置へ搬送される。プレス装置では、混合容器10の蓋体11が取り外され、内部の混合原料がプレス型に投入され、コンパクトにプレス成形される。
【0039】
こうして製造されたコンパクトは、消耗電極に対応する棒状に組み合わされ、溶接により連結固定されて消耗電極とされる。製造された消耗電極は、真空溶解(VAR)に供され、チタン合金インゴットとされる。
【0040】
上述した本実施形態のインゴット製造方法の特徴は以下のとおりである。
【0041】
コンパクト1個分ずつ原料粉粒を計量し混合するので、コンパクト間の原料偏在が非常に少ない。原料粉粒の混合に2軸回転方式の混合機を使用するので、粒度の異なる複数種類の原料粉粒が短時間で均一に混合される。すなわち、2軸回転方式の混合機は、混合容器10を縦軸を中心に回転させながら、その縦軸に直角な水平横軸を中心に回転させるので、粒径が異なる複数種類の原料粉粒を短時間で均一に混合することができる。ちなみに縦軸のみの1軸回転で15分混合するよりも、2軸回転で2分混合する方が均一性が向上する。
【0042】
原料粉粒を収容する原料容器10が混合機に装着され混合後に混合機から分離されるので、混合機で混合した後の原料粉粒、すなわち混合原料を混合機から別の原料容器である保管容器へ排出する操作が不要になる。混合機に混合容器が一体化されている場合、混合原料を別の原料容器である保管容器へ移し替る排出操作が必要であり、この排出操作時の流動により原料分離が起こり、原料偏在化がおきるが、混合原料を収容する原料容器10を混合機から分離することができれば、この排出操作時の原料偏在化が起こらず、均一性の低下が回避されるのである。
【0043】
その結果、原料容器10内の混合原料の流動操作は、コンパクト成形の際のプレス型への排出の1回のみとなり、コンパクト内の原料偏在化が緩和される。
【0044】
また、混合容器10が混合機から脱着可能なことにより、混合機による攪拌作業中に別の混合容器10に原料粉粒を投入しておくことができる。また、混合原料を収容する混合容器10内のアルゴン置換を行うことができる。混合機による攪拌が、一連の作業を律速する場合に特に有効である。
【0045】
こうして製造されたコンパクトは、消耗電極に対応する棒状に組み合わされ、溶接により連結固定されて消耗電極とされる。製造された消耗電極は、真空溶解(VAR)に供され、チタンインゴットとされる。コンパクト1個毎に原料混合を行うので、コンパクト間の原料偏在が小さい上に、その原料混合では混合機による強制攪拌を行うので、コンパクト内の原料偏在も小さい。したがって、消耗電極の成分偏差が小さくなり、その結果としてインゴットの成分均一性が向上する。
【実施例】
【0046】
次に、混合原料における成分均一性について、本発明の実施例を示し、比較例と対比することにより、本発明の効果を明らかにする。
【0047】
Ti−6Al−4Vインゴット用コンパクト(重量100kg)を作製するに際して、コンパクト1個分の混合原料の均一性に及ぼす混合法の影響を調査した。共通条件としては、コンパクト1個分ずつ同じ配合、重量の原料粉粒を使用し混合した。コンパクト1個分の原料粉粒の内訳は表1のとおりである。Ti−6Al−4Vインゴットの目標酸素濃度は2000ppm、目標鉄濃度は2000ppmであり、これらを確保するために電解鉄粉、酸化チタン鉄粉を使用した。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例として、表1に示した原料粉粒を特許文献1に示す傾斜シュート方式により混合した。混合原料はシュート下に設置したドラム缶形式の保管容器に直接投入した。
【0050】
本発明の第1実施例として、表1に示した原料粉粒を1軸回転方式の混合機により混合した。1軸回転方式とはいえ、混合原料を保管容器に投入するために、水平軸回りに傾倒可能である。混合後の原料は、混合機に付随する混合容器から別の保管容器に投入した。本発明の第2実施例として、表1に示した原料粉粒を2軸回転方式の混合機により混合した。混合容器は混合機に固定されているので、混合原料は混合容器を傾倒させて別の保管容器に投入した。本発明の第3実施例として、表1に示した原料粉粒を2軸回転方式の混合機により混合した。混合容器は混合機に対して脱着可能であるので、混合後に混合機から分離して保管容器として利用した。
【0051】
保管容器内の混合原料を容器から水平面上に直径が約1000mmの円形状に排出し、その中心を通る8本の直径線により8等分した。8箇所からサンプリングした混合原料のFe値及びO値をICP分析法により調査し、それぞれの偏差(最大値−最小値)を求めた。各例におけるFe値の偏差及びO値の偏差を、比較例を100として表2に示す。また、原料の混合に要した時間を、本発明の第1実施例の場合(1軸回転混合)を100として、表2に併記した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から分かるように、傾斜シュート方式による混合を行った比較例では、混合に要する時間は非常に短いが、混合原料おける成分偏差が顕著である。また、表2には示されていないが、混合部の設備高はシュート分だけ高くなる。これに対し、本発明の実施例1〜3では、混合原料における成分偏差が激減する。2軸回転方式による混合を行う実施例2及び3では、混合に要する時間も短い。混合容器を混合機に対して脱着式とした実施例3では、混合容器から保管容器への移し替えが不要となるので、この移し替え時の流動に伴う原料分離が回避され、混合原料における成分偏差が特に小さい。
【0054】
なお、図1に示した実施形態では、混合機に混合容器10の開口部を開閉する可動式の蓋体31aを設けたが、混合前に混合容器10に組み合わされる独立した蓋体11を装着してもよい。そうすれば混合後に蓋体11を装着する手間が省略される。Ar置換は混合後に実施したが、混合前でもよい。このAr置換は、空気中の水蒸気によって原料粉粒の酸素濃度が上昇するのを抑制することを目的とする。窒素ガスや乾燥空気も大気より水蒸気量が少ないため、Arガスの代わりにこれらを用いてもよい。要は、置換するガスは、大気より水蒸気濃度が小さいガスであればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のインゴット製造方法の実施に適した原料混合装置の構成図である。
【符号の説明】
【0056】
10 混合容器
11 蓋体
20 原料投入部
21a〜25a ホッパー
21b〜25b 計量器
30 混合部
31 第1支持部
32 第2支持部
33 第3支持部
31a 蓋体
32a,33a モータ
40 ガス置換部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンパクト1個分のスポンジチタン粒と他の原料粉粒とを混合容器に投入する原料粉粒投入工程と、
コンパクト1個分の原料粉粒が投入された混合容器を混合機により回転させて混合容器内の原料粉粒を混合原料とする混合工程と、
コンパクト1個分の混合原料をプレス金型へ投入する混合原料投入工程と、
プレス金型へ投入されたコンパクト1個分の混合原料をプレス成形してコンパクトとなすコンパクト成形工程と、
成形されたコンパクトを複数個溶接して消耗電極となす電極作製工程と、
作製された消耗電極をVAR法にて溶解する溶解工程とを含むチタン又はチタン合金インゴット製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のチタン又はチタン合金インゴット製造方法において、
混合容器を混合機から脱着可能に構成すると共に、その混合容器を複数用意しておき、混合容器内の原料粉粒を混合機にて混合原料とした後、その混合容器を混合機から分離する一方、別の混合容器を混合機に装着して次の混合作業を行うチタン又はチタン合金インゴット製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のチタン又はチタン合金インゴット製造方法において、
混合機に装着される混合容器に予め原料粉粒を投入しておくチタン又はチタン合金インゴット製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のチタン又はチタン合金インゴット製造方法において、複数の混合容器を原料粉粒投入工程、混合工程、及び混合原料投入工程の3工程に繰り返し循環使用するチタン又はチタン合金インゴット製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のチタン又はチタン合金インゴット製造方法において、
混合容器には蓋体が装着可能であり、混合工程においては混合容器に蓋体が装着され、その蓋体に容器内の原料が触れるように混合容器を回転させるチタン又はチタン合金インゴット製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のチタン又はチタン合金インゴット製造方法において、混合機は混合容器を中心軸回り及び中心軸に直角な軸回りに回転させる2軸回転型であるチタン又はチタン合金インゴット製造方法。



【図1】
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