チップ
チップ(215)において、基板(216)に、導入口(217)と、主流路(221)と、分離領域(218)と、分注流路(222)を形成する。複数の分注流路(222)は主流路(221)に連通し、それぞれの分注流路(222)に検出槽(223)が連通する構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分離および分析が可能なチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、試料の前処理・反応・分離・検出などの化学操作をマイクロチップ上で行うマイクロ化学分析(μ−TAS)が急速に発展しつつある。マイクロ化学分析によれば、使用する試料が微量ですみ、環境負荷も小さく高感度な分析が可能となる。このような分析に用いるマイクロチップは、従来1枚のチップ上に分離、分析等のうちの1つの機能が設けられた単一素子であった(たとえば、特許文献1)。
【0003】
ところが、単一の機能のみを有するチップでは、チップで所定の処理を行った後、次の処理をするために試料を抽出し、他の装置に供する必要があった。たとえば、分離機能のみを有するチップを用いて試料の分離を行った場合、分離された試料を抽出し、大型の外部装置等を用いて分析等を行っていた。このため、操作が煩雑であった。また、微量の試料である場合、試料を移動する際のロスが生じたり、充分な感度で検出することが困難であった。
【0004】
このため、多機能を有する複合チップの開発が求められていた。ところが、従来、1枚のチップ上に複数の機能をもたせ、試料を連続的に処理することは困難であった。
【特許文献1】特開2000−262871号公報
【発明の開示】
【0005】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、従来複数の装置を用いて行われていた分離および分析を、一枚のチップ上で実現する技術を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、微量の試料を簡便な操作で分離し、高精度または高感度で分析する技術を提供することにある。
【0007】
本発明によれば、基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部の上流に設けられ、前記試料導入部に導入された前記液体試料に所定の前処理を施す前処理部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップが提供される。
【0008】
本明細書において、「チップ」とは、導入された試料に対し所定の操作を行う機能が付与された基板のことをいう。本発明におけるチップは、たとえば、基板表面に流路溝が設けられ、この流路溝中に液体試料が流動するように構成することができる。液体試料は、毛細管現象等を利用して流路溝中を移動するようにしてもよいし、電界や圧力などの外力を付与することにより移動するようにしてもよい。試料導入部から導入された液体試料が、前処理部、分離部、および分析部を順次移動する。
【0009】
本発明のチップでは、基板に試料導入部、分離部、および分析部が必須の部材として設けられている。分離部では、液体試料中の成分の分離が行われる。また、分析部では、分離部にて分離された成分の分析が行われる。このため、一枚のチップ上で試料の分離と分析の各操作を連続して行うことができる。従来のチップは単位操作ごとに構成されており、分離後の試料を分析機器に移す必要があったが、本発明の構成によれば、試料を移す必要がないため、簡便である。また、移動による試料のロスが生じないため、試料が微量であってもこれを確実に分離し、そして高感度で分析することができる。
【0010】
本発明に係るチップにおいて、分離部や分析部は、外力の付与によりその機能を果たす形態とすることもできるが、液体試料の流動にしたがって自動的に所定成分の分離および分離された成分の分析が順次実行されるように構成することが好ましい。こうした構成は、液体試料を移動させる駆動力として毛細管現象等を利用することにより実現できる。
【0011】
また、本発明のチップには、前記分離部の上流に、前記試料導入部に導入された前記液体試料に所定の前処理を施す前処理部がさらに設けられている。このため、分離に先立ち試料に所定の前処理を施すことができる。よって、分離部と分析部を単に接続した構成では、分離効率や分析感度に劣る試料についても、分離部において確実に分離し、分離された成分について所定の分析を行うことができる。
【0012】
本発明のチップにおいて、前記前処理部は、前処理槽と、前記前処理槽の下流に設けられ、前記前処理部から前記分離部への前記液体試料の供給を制御するスイッチと、を含み、前記スイッチは、前記前処理槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。この構成によれば、液溜めの下流にスイッチが設けられているため、所定のタイミングまでスイッチが閉じられている。スイッチが閉じられている間、液溜め中に試料を保持することができるため、液溜め中の液体の分離部への移動を防止することができる。したがって、前処理を所望の期間確実に行うことができる。また、前処理後、所定のタイミングでスイッチが開くことにより、液溜め中の液体を速やかに分離部へと移動させることができる。
【0013】
上記構成において、スイッチは、堰き止め部に連通するトリガー流路を有する。このため、トリガー流路の長さや断面形状を調節すれば、トリガー流路中を流れる液体が堰き止め部に達するタイミングを調節することができる。このため、外部の制御装置を設けることなく、トリガー流路からの液体の導入により、流路の開通を所望のタイミングで制御性良く実行することができる。よって、液体試料を所定のタイミングで分離部へと導くことができる。なお、トリガー流路を流れる液体は、液体試料の一部とすることもできるし、他の液体とすることもできる。
【0014】
本発明のチップにおいて、前記液体試料が不溶成分を含み、前記前処理槽は前記不溶成分を可溶化する可溶化物質を有してもよい。このような構成とすれば、液体試料が前処理部に移動した際に、可溶化物質が液体試料に触れて液体試料と可溶化物質が混和し、不溶成分を確実に可溶化することができる。
【0015】
本発明のチップにおいて、前記分離部および前記分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部を有してもよい。
【0016】
また、本発明によれば、基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部および分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部と、
前記混合部で均質化された前記成分を含む液体中の前記成分を分析する前記分析部と、
を有することを特徴とするチップが提供される。
【0017】
この構成においては、試料導入部から導入された液体試料が、分離部、混合部、および分析部を順次移動する。一枚のチップで分離と分析の複数の機能を実現し、分離部で分離された液体試料が自動的に分析部へ導かれるようにした構成においては、被分離試料を分析に適した形で分析部へ導くことが重要な技術的課題となる。混合部を有する上記構成は、こうした課題を解決するものであり、分離された試料中の分析対象となる成分の濃度が均質化され、安定した分析結果を得ることが可能となる。
【0018】
こうした混合部は、外力を付与することなく、液体試料の流動にしたがって自動的に混合操作を実行するように構成することが好ましい。こうした構成は、流路中にある液体試料の毛細管現象や対向流を利用することにより実現することができる。
【0019】
本発明のチップにおいて、前記混合部は、前記流路の一の領域と他の領域とが、微細流路を介して連通した構成であってもよい。このようにすれば、流路内における液体試料中の成分濃度のばらつきを簡素な構成で効果的に低減することができる。
【0020】
本発明のチップにおいて、前記混合部は、前記流路に設けられ、前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。こうすることにより、液体試料の成分濃度が一定になるまで堰き止め部の上流に液体試料を保持しておくようにトリガー流路を設計することができる。このため、液体試料中の成分濃度を確実に均質化することができる。また、所定のタイミングで堰き止め部を開放することができるため、外部制御装置を設けることなくチップ内で成分濃度の均質化を行うことができる。
【0021】
本発明のチップにおいて、前記混合部は、前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを制御する移動制御部を有し、前記移動制御部は、前記液体試料を所定の時間保持した後、前記液体試料を前記分析部へ導くように構成されてもよい。移動制御部を設けることにより、液体試料を分析部の上流側に所定の時間保持しておくことができる。このため、成分濃度の均質化をさらに確実に行うことができる。また、成分濃度を均質化された液体試料は、所定のタイミングで分析部に移動させることができる。
【0022】
本発明のチップにおいて、前記移動制御部は前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。こうすることにより、液体試料を分析部の上流側に所定の時間確実に保持しておくことができる。このため、混合部から分析部への液体試料の移動をより一層確実に制御することができる。
【0023】
本発明のチップにおいて、前記トリガー流路は、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ流路を含んでもよい。こうすることにより、液体試料を時間遅れ流路中に迂回させ、流路中を移動させながら、分析部の上流側に保持しておくことができる。時間遅れ流路の長さや太さを調節することにより、液体試料を分析部に移動させるタイミングを調節することができる。
【0024】
本発明のチップにおいて、前記トリガー流路に、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ槽が設けられてもよい。こうすることにより、液体試料を時間遅れ槽内に滞留させておくことができる。このため、分析部の上流側に液体試料を保持しておくことができる。
【0025】
本発明のチップにおいて、前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部を有してもよい。
【0026】
また、本発明によれば、基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップが提供される。
【0027】
この構成においては、試料導入部から導入された液体試料が、分離部、反応部、および分析部を順次移動する。一枚のチップで分離と分析の複数の機能を実現し、分離部で分離された液体試料が自動的に分析部へ導かれるようにした構成においては、さらに、分離された試料の成分に特異的な反応を利用するなどして成分の検出感度を向上させることが、重要な技術的課題となる。反応部を有する上記構成は、こうした課題を解決するものであり、分離部で分離された成分を所定の反応に供した後、分析することにより、分離後の試料を直接分析することが困難である場合であっても、反応部で所定の反応に関与させ、分析部における分析に適した試料を調製することができる。また、チップ上で実現可能な分析の種類を増加させることができる。
【0028】
本発明のチップにおいて、前記反応部は、反応槽と、前記反応槽の下流に設けられたスイッチと、を含み、前記スイッチは、前記反応槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。こうすることにより、反応部にて反応を行う間に液体試料が分析部に移動しないようにすることができる。また、所定の時間が経過するとトリガー流路中の液体が堰き止め部に到達し、液体スイッチが開放されるため、反応時間の制御と反応後の試料の分析部への移動の制御に関する外部装置を設けることなく、チップ自体の機能によってこれらを制御することが可能となる。
【0029】
本発明のチップにおいて、前記反応槽中に、前記液体試料中の前記成分に作用する反応物質を有してもよい。このような構成とすれば、液溜め中に到達した液体試料に反応物質が混和するため、液体試料を確実に反応に関与させることができる。また、本発明のチップにおいて、前記反応槽中に、前記液体試料中の所定の成分に作用する反応物質を有してもよい。こうすれば、液体試料中の成分の分析前に、所定の成分を反応に関与させて、より一層分析に適した状態を得ることができる。
【0030】
本発明のチップにおいて、前記基板の表面を被覆するシールを有してもよい。こうすることにより、使用前のチップの汚染を防止することができる。この構成において、前記シールは前記基板の全面を被覆してもよい。こうすれば、使用前のチップの汚染をさらに確実に防止することができる。
【0031】
本発明のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間に不活性ガスが充填されていてもよい。また、本発明のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間が減圧されていてもよい。こうすることにより、保存に伴う基板表面の親水性の低下を好適に抑制することができる。よって、液体試料を毛細管現象により流路中で確実に移動させることができる。
【0032】
本発明のチップにおいて、前記基板の表面が親水性樹脂により構成されていてもよい。こうすることにより、試料導入部に導入された試料を毛細管現象により確実に流路に導き、流路中を移動させることができる。また、基板の表面に液体試料中の成分が非特異吸着するのを抑制することができる。このため、液体試料の分離および分析をさらに確実に行うことができる。
【0033】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記試料導入部に導入された前記液体試料を所定のタイミングで前記流路に移動させるスイッチを含んでもよい。こうすることにより、試料の分離を開始するタイミングをチップ自体の構成によって制御することができる。
【0034】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の柱状体を有してもよい。こうすることにより、液体試料中の成分をその形状や大きさなどに基づいて確実に分離することができる。
【0035】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の凹部を有してもよい。こうすることにより、液体試料中の成分の分離を好適に行うことができる。
【0036】
本発明のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の表面は、離間して配置された複数の第一の領域と、該第一の領域を除く前記分離部の表面を占める第二の領域と、を有し、前記第一の領域および前記第二の領域のうち、一方が疎水性領域であり、他方が親水性領域であってもよい。
【0037】
このような構成として、具体的には、
(i)第一の領域を疎水性領域とし、第二の領域を親水性領域とする構成
(ii)第一の領域を親水性領域とし、第二の領域を疎水性領域とする構成
のいずれかを採用することができる。なお、本発明における親水性領域とは、疎水性領域よりも親水性が高い領域のことをいう。親水性の程度はたとえば水接触角の測定により把握することができる。
【0038】
以下、本発明における試料の分離の原理について、上記(i)の場合を例に挙げて説明する。この場合、分離対象となる試料を、比較的親水性の高い溶媒中に溶解または分散させた状態として装置内に導入する。このような溶媒は、分離部において、疎水性領域(第一の領域)の表面を避け親水性領域(第二の領域)にのみ分布する。したがって、疎水性領域の間隙部が分離対象となる試料の通過する経路となり、この結果、疎水性領域間の間隔と試料のサイズとの関係によって分離部の通過に要する時間が決定されることとなる。これにより、サイズに応じて試料の分離がなされる。
【0039】
また、本発明においては、サイズに応じた分離のほか試料の極性に応じた分離もなされる。すなわち、親水性/疎水性の程度の異なる複数種類の試料を分離することができる。上記(i)の例では、疎水性の高い試料は疎水性領域に捕捉されやすく流出時間が比較的長くなる一方、親水性の高い試料は疎水性領域に捕捉されにくく、流出時間が比較的短くなる。このように本発明は、試料のサイズだけでなく極性をも含めた分離がなされ、従来では分離困難であった多成分系の分離を実現することができる。
【0040】
本発明の場合、障害物となる構造体により分離を行う方式とは異なり、流路表面に設けられた分離部を分離手段とする。たとえば従来用いられている膜分離の場合は膜中の細孔の大きさを精度良く制御することが必要となるが、所望のサイズ、形状の細孔を有する膜を安定的に製造することは必ずしも容易ではない。これに対し本発明は、流路の表面処理により分離部を形成することができ、第一の領域の間隔を制御することによって所望の分離性能が得られるため、分離目的に応じた適切な構成を比較的容易に実現することができる。
【0041】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料を特定の性状に従って展開する試料吸着粒子を有してもよい。展開とは、試料の性状にしたがって、試料分離領域に試料を分布させることをいう。基板に試料吸着用粒子を付着させた分離部は、流路中に微細加工を施す場合よりも簡便な方法で容易に形成することができる。そして、たとえば試料を展開するための展開液と試料との親和性に応じて試料を展開することができる。また、試料を極性に応じて展開することも可能となる。このため、試料を確実に分離することができる。また、本発明によれば、試料をある程度乾燥させた状態で分離を開始することができる。このため、試料のバンド幅を細くすることが可能となる。
【0042】
本発明のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の底面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低い構成とすることができる。こうすることにより、土手部と流路の底面との間に形成される隙間を介して二本の流路が連通された構成とすることができる。このため、隙間を通過することが可能な成分のみを確実に分離し、分析に供することができる。
【0043】
本発明のチップにおいて、前記分離部を覆う蓋を有し、前記蓋の面のうち、前記基板側の面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低い構成としてもよい。このような構成は、流路中に柱状体を設ける構成に比べ、容易に作製することができる。このため、分析感度にすぐれたチップを簡便な方法で安定的に製造することができる。
【0044】
本発明のチップにおいて、前記土手部は、前記蓋の前記基板側の面上に形成された樹脂膜であってもよい。こうすることにより、さらに容易に分離部を作製することができる。また、試料中の成分の分離を確実に行うことができる。
【0045】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路の一部をなす第一の流路と、前記流路を通過する前記液体試料から分離された特定成分を含む液体の通過する第二の流路と、前記第一の流路および前記第二の流路を連通させ、前記特定成分のみを通過させる分離流路を含んでもよい。こうすることにより、第一の流路中を流れる液体試料のうち、所定の成分を選択的に第二の流路に移動させることができる。よって、試料中の成分の分離を確実に行うことができる。
【0046】
たとえば、前記第一の流路および前記第二の流路の進行方向に沿って、これらを分割する土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記第一の流路および前記第二の流路の深さよりも低い構成とすることができる。こうすれば、第一の流路と第二の流路とが土手部で隔てられ、かつ土手部が形成されていない隙間を介して連通する構成とすることができる。このため、隙間を通過することができる成分のみを選択的に第一の流路から第二の流路へと移動させることができる。
【0047】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路の一部をなす第一の流路と、前記流路を通過する流体から分離された特定成分を含む液体の通過する第二の流路と、前記第一の流路および前記第二の流路を連通させ、前記特定成分のみを通過させる複数の分離流路を含んでもよい。複数の分離流路を設けることにより、第一の流路中を流れる液体試料のうち、所定の成分のみをさらに確実に第二の流路に移動させることができる。よって、試料中の成分の分離をさらに確実に行うことができる。
【0048】
本発明のチップにおいて、前記分析部は、前記成分が分取される複数の液溜めを有してもよい。こうすることにより、分離後の液体試料を複数の液溜めに分注することができ、これらの液溜めの光透過度を測定する等により、同一試料に含まれる複数の成分について分析することができる。
【0049】
本発明のチップにおいて、前記液溜めまたは前記液溜めに連通する前記流路の前記液溜めの近傍に空気孔を有してもよい。こうすることにより、分離後の液体試料を確実に液溜めに導くことができる。
【0050】
本発明のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていてもよい。こうすることにより、空気孔からの液体試料の漏出をさらに抑制することができる。このため、一定量の液体試料を液溜めに確実に分注することができる。
【0051】
本発明のチップにおいて、前記分析部は、前記成分を検出する検出部を有してもよい。このような構成とすれば、外部の検出装置を用いることなくチップ自体の構成を用いて分離された試料の分析を行うことが可能となる。
【0052】
本発明のチップにおいて、前記検出部を覆う被覆部材をさらに備え、該被覆部材とマイクロレンズとが一体成形されてもよい。こうすることにより、検出部における検出反応の結果を目視により容易に視認することができる。
【0053】
本発明のチップにおいて、前記分析部の下流側で前記流路に連通する廃液溜めを有し、前記廃液溜めへの前記液体の移動に伴い前記流路中の前記液体が前記流路の下流に向かって移動するように構成されてもよい。こうすることにより、液体の一部が廃液溜めに達した後も、流路中の液体を下流に向かって確実に移動させることができる。よって、試料の分離、分析を外部の駆動装置を用いることなく毛細管現象を利用してさらに確実に行うことができる。
【0054】
本発明のチップにおいて、前記廃液溜めに液体保持部が設けられてもよい。こうすることにより、流路中の液体を廃液溜めに向かってさらに確実に移動させることができる。
【0055】
本発明のチップにおいて、前記廃液溜めまたは前記廃液溜めに連通する前記流路の前記廃液溜めの近傍に空気孔を有してもよい。こうすることにより、分離後の液体試料を確実に廃液溜めに導くことができる。
【0056】
本発明のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていてもよい。こうすることにより、廃液溜めに排出された液体試料が空気孔から漏出しないようにすることができる。
【0057】
本発明のチップにおいて、前記流路は分岐部を有し、前記分岐部は複数の前記液溜めに連通してもよい。こうすることにより、各分析部に分注される液体中の成分濃度を均質化することができる。
【0058】
本発明のチップにおいて、毛細管現象により前記液体試料が前記流路中を移動するように構成されてもよい。こうすることにより、試料を試料導入部に導入した後は、外部の駆動装置を用いることなくチップ自体の構成により試料を分離し、分析することが可能となる。
【0059】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料中の所定の成分に特異的に吸着して凝集する粒子を備える構成とすることができる。こうすることにより、液体試料中の所定の成分をさらに確実に分離することができる。
【0060】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記粒子を保持する粒子保持槽と、前記粒子保持槽から前記流路への前記粒子の移動を制御するスイッチと、を含み、前記スイッチは、前記粒子保持槽中の前記粒子を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記粒子を導くトリガー流路と、を有する構成とすることができる。このようにすれば、液体試料中の所定の成分をより一層確実に分離することができる。
【0061】
本発明のチップにおいて、前記分析部は、前記分離部に連通する分析用流路と、前記基板の前記分析用流路の上部に設けられ前記粒子の凝集状態を検知させる窓部と、を有する構成とすることができる。こうすることにより、分離部で分離される所定の成分を簡素な構成でさらに確実に分析することができる。
【0062】
以上説明したように本発明によれば、従来複数の装置を用いて行われていた分離および分析が、一枚のチップ上で実現される。また、本発明によれば、微量の試料を簡便な操作で分離し、高精度または高感度で分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0064】
【図1】実施の形態に係るチップの基本的な機能ブロックを示す図である。
【図2】図1の機能を有するチップの構成を示す図である。
【図3】図2のA−A’断面図である。
【図4】図2のB−B’断面図である。
【図5】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図6】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図7】実施の形態に係るチップの基本的な機能ブロックを示す図である。
【図8】図7の機能を有するチップの構成を示す図である。
【図9】実施の形態に係るチップの測定部の構成を示す図である。
【図10】実施の形態に係るチップの測定部の構成を示す図である。
【図11】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図12】図11の測定装置に実施の形態に係るチップを挿入する様子を示す図である。
【図13】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図14】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図15】図14のD−D’断面図である。
【図16】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図17】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図18】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図19】実施の形態に係るチップの混合部の構成を示す図である。
【図20】実施の形態に係るチップの混合部の構成を示す図である。
【図21】図19の液体スイッチ部分を拡大した上面図である。
【図22】図19の液体スイッチにおける堰き止め部の上面図である。
【図23】実施の形態に係るトリガー流路の構成を示す図である。
【図24】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図25】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図26】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図27】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図28】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図29】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図30】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図31】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図32】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図33】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図34】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図35】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図36】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図37】図36のバンド形成用液体スイッチの拡大図である。
【図38】図36中の分離領域の構造を詳細に示したものである。
【図39】図36の分離領域の断面図である。
【図40】実施の形態に係るチップの分離部の分離方式を説明する図である。
【図41】実施の形態に係るチップの分離部に設けるナノ構造体の構成を示す図である。
【図42】図41に示したナノ構造体の形成方法について説明する図である。
【図43】図41に示したナノ構造体の形成方法について説明する図である。
【図44】図41に示したナノ構造体の形成方法について説明する図である。
【図45】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図46】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図47】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図48】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図49】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図50】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図51】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図52】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図53】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図54】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図55】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図56】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図57】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図58】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図59】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図60】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図61】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図62】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図63】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図64】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図65】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図66】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図67】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図68】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図69】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図70】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図71】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図72】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を説明する図である。
【図73】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図74】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を説明する図である。
【図75】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を説明する図である。
【図76】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図77】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図78】実施の形態に係るチップの分離方式を説明する図である。
【図79】実施の形態に係るチップの分離方式を説明する図である。
【図80】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図81】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図82】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図83】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を示す図である。
【図84】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を示す図である。
【図85】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図86】図85の分離領域を用いた分離方法を説明する図である。
【図87】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図88】図87の分離領域の拡大上面図である。
【図89】実施の形態に係るチップの分注経路の構成を示す図である。
【図90】実施の形態に係るチップの反応部の構成を示す図である。
【図91】実施の形態に係るチップの流路の構成を示す図である。
【図92】図91の断面図である。
【図93】実施の形態に係るチップの制御部の構成を示す図である。
【図94】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を示す図である。
【図95】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を説明する図である。
【図96】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を説明する図である。
【図97】実施の形態に係るチップのバッファー導入口の構成を示す図である。
【図98】実施の形態に係るチップの試料採取部の構成を示す図である。
【図99】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図100】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図101】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図102】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図103】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図104】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図105】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図106】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図107】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図108】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0066】
はじめに、第一および第二の実施形態において、試料の分離および分析がなされるチップの基本構成を説明する。以下の実施形態で説明するチップは、基本構成として試料導入部、分離部、および分析部を含む。分析部においては、分離された試料中の成分の分析が行われる。分析部は、たとえば所定の成分の検出反応が行われる結果、目視にて検出可能となるような検出部とすることができる。また、分析部は、外部装置を用いた測定に供する試料成分が貯留される測定部とすることもできる。第一の実施形態は、分析部が検出部である構成であり、第二の実施形態は分析部が測定部である構成である。
【0067】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態に係るチップの基本的な機能を示す機能ブロック図である。図1のチップ211は、試料の分離および分析を行うことができるチップであり、試料導入部212、分離部213、および分析部である検出部214を含む。チップ211では、たとえばシリコン、ガラス、石英、各種プラスチック材料、またはゴム等の弾性材料により構成される基板の表面に形成することができる。たとえば、基板の表面に溝部を設け、これを表面部材によって封止し、これらによって囲まれた空間内に図1に示した機能を果たす部材やそれらを連通させる流路を形成することができる。また、複数の基板を貼り合わせ、チップ211としてもよい。たとえば、2枚の基板のそれぞれに溝を形成し、これら溝の位置が一致するように2枚の基板を当接させ、接合してもよい。こうすれば、管状の流路を形成することができる。
【0068】
図2は、図1の機能を有するチップ211の構成の一例を示す図である。図2のチップ215は、基板216上に、導入口217、分離領域218、廃液溜め219、バッファー導入口220、主流路221、分注流路222、検出槽223、液溜め224が設けられている。
【0069】
また、図3は、図2のA−A’断面図である。なお、図3では、主流路221等の構成部材を省略し、基板216、蓋226、およびシール227の積層構造のみを示した。チップ215において、基板216の上部に蓋226が設けられている。蓋226には、廃液溜め219、液溜め224および各検出槽223に連通する空気孔225が設けられている。また、蓋226の上面は、シール227で封止されている。
【0070】
基板216の大きさは、たとえば3〜5cm×2〜3cm程度とすることができる。また、基板216の厚さは、たとえば0.5mm〜1cm程度とすることができる。蓋226の材料は、たとえば、基板216に用いられる材料とすることができる。なお、基板216の表面および蓋226の底面すなわち基板216と接合される面は、親水性であることが好ましい。親水性の表面とすることにより、毛細管現象を用いて試料をチップ215中に導入し、移動させることができる。ポンプや電極等の外部駆動装置を設けることなく試料の導入または移動が可能となるため、簡便な装置構成とすることができる。
【0071】
主流路221および分注流路222は、たとえば幅100μm程度、深さ20μm程度とすることができる。また、導入口217は、φ3mm程度の円柱形の液溜めとし、蓋226にも同サイズの穴を貫通させることによって形成することができる。
【0072】
検出槽223は、たとえばφ100μm〜2mm程度の円柱形や、100μm〜2mm角程度の直方体の液溜めとし、蓋の対応する位置に空気孔225を形成することによって得られる。検出槽223の深さは、たとえば深さ100μm〜2mm程度とすることができる。また、検出槽223の深さを分注流路222と同程度とするか、または基板216の厚さよりわずかに浅い程度としてもよい。こうすることにより、深さ方向に光路長を増すことができるため、検出感度を向上させることができる。また、検出槽223の表面は親水性であることが好ましい。検出槽223の表面を親水性とすることにより、分離後の試料を確実に導くことができる。
【0073】
空気孔225は、検出槽223の近傍で検出槽223に連通していれば検出槽223の直上に設けられていなくてもよい。空気孔225はたとえばφ50μm〜1mm程度の大きさとすることができる。こうすることにより、検出槽223に確実に液体を導くことができる。また、空気孔225周辺の表面は疎水化されていることが好ましい。空気孔225の表面を疎水化することにより、検出槽223に分注された液体が空気孔225から漏出しないようにすることができる。このため、検出槽223に一定量の液体を分取することができる。また、試料の損失を防止することができる。
【0074】
空気孔225の上部は、剥離可能な封止部により封止されていてもよい。こうすれば、チップ215を使用する際に所定のタイミングで封止部を剥離し、空気孔225を露出させることができる。
【0075】
廃液溜め219は、たとえばφ5mm程度の円柱形の液溜めとし、蓋の対応する位置に空気孔225を形成することによって得られる。廃液溜め219近傍の空気孔225の構成は、検出槽223近傍の空気孔225と同様に、その周辺の表面を疎水性とすることが好ましい。空気孔225は廃液溜め219の近傍で廃液溜め219に連通していれば廃液溜め219の直上に設けられていなくてもよい。空気孔225はたとえばφ50μm〜2mm程度の大きさとすることができる。また、検出槽223近傍の空気孔225よりも大きくしてもよい。
【0076】
空気孔225は、ゴム系の接着剤などにより着脱可能に封止されていてもよい。こうすれば、チップ215の使用時に空気孔225を露出させ、使用後は再び封止することができる。このため、使用後も安全にチップ215を廃棄することができる。
【0077】
廃液溜め219の表面は親水性であることが好ましい。廃液溜め219の表面を親水性とすることにより、主流路221中の液体を毛細管効果により廃液溜め219に向かって確実に移動させることができる。また、液体の一部が廃液溜め219に達した後も、毛細管効果により主流路221中の液体を下流に向かって移動させる駆動力を維持することができる。
【0078】
廃液溜め219には、吸水性材料が充填されていてもよい。こうすることにより、液体をさらに確実に下流に向かって移動させることができる。吸水性材料として、たとえば吸水ポリマーを用いることができる。また、廃液溜め219の表面に多数の柱状体を設ける方法などにより、廃液溜め219の表面積を増加させることもできる。この場合にも、廃液溜め219側への液体の移動を促進することができる。
【0079】
シール227は、チップ215を使用する際に剥離可能に形成されていればよい。たとえば各種プラスチック材料の薄膜の表面に酢酸ビニルなどのエマルジョン系粘着剤が塗布された構成とするとすることができる。また、エポキシ系やシリコーン系の接着剤を用いてもよい。
【0080】
試料導入部212に対応する導入口217には、所定の試料が導入され、チップ215では液溜めとなっている。
【0081】
チップ215を使用する際には、まず、シール227をはがす。シール227をはがすことにより、導入口217および空気孔225が開放され、外気に接触する。次いで、開放された導入口217に試料を添加する。添加された試料は、毛細管現象により分離領域218に導かれる。なお、空気孔225の上部が封止部により封止されている構成の場合には、シール227を剥離した後、所望のタイミングで封止部を剥離し、空気孔225の上部を開放することができる。
【0082】
分離領域218は、流路230、主流路221およびこれらを連通させる複数の微細流路229を有し、フィルタ状に構成されている。流路230に連通して不要な試料を排出する廃液溜め219が設けられている。また、主流路221に連通して、バッファー導入口220が形成されている。なお、チップ215において、分離領域218の構成は図2の構成には限定されず、たとえば、後出の実施形態で説明する構成等とすることができる。
【0083】
図85は、分離領域218の構成を説明する図である。図85においては、基板216上に流路溝161aおよび流路溝161b(いずれも幅W、深さD)が形成され、これらの間に隔壁165が介在している。ここで、161aおよび161bのいずれか一方が主流路221となり、他方が流路230となる。隔壁165には、分離流路が規則的に形成されている。ここでいう「分離流路」は、微細流路229に対応する構成である。分離流路は、流路溝161aおよび流路溝161bと直交し、幅d1の分離流路が所定の間隔d2で規則的に形成されている。図中に示された各寸法は、分離する試料等に応じて適宜な値に設定されるが、たとえば以下のような範囲から好適な数値が選択される。
【0084】
W:10μm〜1000μm
L:10μm〜1000μm
D:50nm〜1000μm
d1:10nm〜1μm
d2:10nm〜1μm
このうち、分離流路の長さに相当するLの数値は、分離特性に直接影響するため、分離目的に応じて精密に設計することが重要となる。たとえば高分子の分離においては、分離流路を通過する際に分子のコンフォーメーションが変化し、エンタルピー変化が生じる。したがって、分離流路の長さによって分子の通過に伴うエンタルピー変化の総量が相違することとなり、分離特性が変化するのである。本発明においては、流路を溝により構成しているため、エッチングや成型加工により作製することができ、形状やサイズを精密に制御することができる。この結果、所望の分離特性を有する分離装置を安定的に製造することができる。なお、流路溝161a、流路溝161bおよび分離流路は、様々は方法で形成することができるが、d1やd2の値を100nm以下に設定した場合、微細加工性の点で電子線露光技術を組み合わせたドライエッチングを用いることが望ましい。
【0085】
図85に示した構造の分離領域218を用いた分離方法について図86を参照して説明する。図86は、この分離装置を上から見たときの概略構造を示した模式図である。まず、試料の分離を行う前の準備として、各流路溝にキャリアとなる緩衝液を満たしておく。図86では、流路溝161b中に、図中下向きに混合物150を含む試料原液が流れる。すると、混合物中の小さな分子151が、図の中央に示される隔壁に設けられた分離流路を通過し、隣接する流路溝161aに進入する。流路溝161aには、分離目的成分と化学反応を起こさない溶媒が図中上向きに流れている。したがって、流路溝161aに進入した小さな分子151は、その流れにのって図中上向きの方向に運搬される。一方、流路溝161b中の大きな分子152は、分離流路を通過できないので、流路溝161b中をそのまま流れていき、流路の末端で回収される。以上のようにして、小さな分子151および大きな分子152が分離される。
【0086】
図85では、流路溝161aおよび流路溝161bの流れの方向を逆向きとした。同じ向きとすることもできるが、逆向きにした場合、分離効率が向上する。たとえば流路溝161aの流れの方向を図中下向きとした場合、流れの進行方向に向かうにしたがって小さな分子151の濃度が高くなっていく。したがって、流路溝161aと流路溝161bにおける大きな分子152の濃度差が、流れの進行方向に向かうにしたがって小さくなり、ある地点で等濃度となる。この地点から先の領域では、流路溝161bから流路溝161aへの大きな分子152の移動は起こりにくくなり、分離できなくなる。これに対して本実施形態のように逆向きの方向にした場合は、流路溝161aと流路溝161bにおける大きな分子152の濃度差は担保されるので、分離流路を一定の長さの領域にわたって形成した場合でも、高い分離能力を確保することができる。
【0087】
また、以上においては、分離流路となる複数の微細流路229が形成された隔壁を有する構成を示したが、分離領域218は、以下の構成としてもよい。
【0088】
図103は分離領域218の構成を示す図であり、分図(A)、(B)はそれぞれ断面図、斜視図である。図103(A)に示されるように、基板216には二本の流路溝161a、bが設けられ、それらを分けるようにして隔壁308が設けられている。基板166の上には蓋226が配設される。便宜上、蓋226は図103(B)には示していない。なお、隔壁308は上述の土手部に相当する。
【0089】
図103(A)から分かるように、隔壁308と蓋226との間には空間が確保されているため、この空間を介して流路溝161aおよび流路溝161bは互いに連通している。この空間は、上記の分離領域218の隔壁165に設けられた分離流路に相当する。したがって、例えば流路溝161aに分離対象物質を含む試料を流し、流路溝161bに緩衝液を流すことにより分離操作を実行することができる。
【0090】
なお、この場合、蓋226にはポリジメチルシロキサンやポリカーボネートなどの疎水性材料からなるものを選択することが好ましい。このようにすることにより、各々の流路溝に試料あるいは緩衝液を他の流路溝に浸入させることなく導入することができ、かつ両方の流路溝に試料等が満たされた段階で、上記空間を介して両流路溝内の試料および緩衝液の混和を生じさせることができる。このような効果は、蓋226を取り付けない状態で操作実施することによっても得ることができる。このとき、空気自体が疎水性物質として蓋226と同様に機能しているものと考えられる。
【0091】
また、ポリエチレンテレフタレートなどの親水性の樹脂材料からなる蓋226を取り付けた状態で、例えば流路溝161aに試料を流すと、当該試料は他方の流路溝161bへ浸入する。この浸入の際に、蓋226と隔壁308との間に形成された空間よりも小さなサイズの成分のみが濾しとられるため、試料中の成分の分離が実現する。
【0092】
この構成によれば、隔壁308を設けることにより、流路溝161aおよび流路溝161bを、微細流路229を有する隔壁165に比較して広い面積で接続するため、分離効率を向上させることができる。また、細長い物質であっても詰まりにくく、流路間を容易に移動できるため、こうした物質を含む試料の分離に好適に用いることができる。
【0093】
このような流路溝161a、流路溝161bおよび隔壁165は、例えば(100)Si基板をウェットエッチング処理することにより得られる。(100)Si基板を用いた場合、<001>方向に直交あるいは平行な方向では、図示されるように台形型にエッチングが進行する。そのため、エッチング時間を調節することにより隔壁165の高さを調節することが可能である。
【0094】
また、図102に示されるように、隔壁308を蓋226上に設けることもできる。このような隔壁308を備えた蓋226は、ポリスチレンなど樹脂を射出成形することにより容易に得ることが可能である。また、基板216には1本の流路をエッチング等により設けるだけでよい。したがって、この分離領域218は上記のような簡便なプロセスにより得られるため、大量生産に適している。
【0095】
本実施形態の分離装置では、たとえば試料原液の毛細管現象による導入と、拡散により分離できる。また、分子の浸透圧差を利用して分離することができる。
【0096】
図2にもどり、導入口217に導入された試料は、毛細管現象により流路230に導かれる。試料が流路230を満たしたら、バッファー導入口220に所定のバッファーを導入する。バッファーは、試料中の成分の分離用展開液として用いられる。バッファー導入口220に導入されたバッファーは、毛細管現象により主流路221に導かれ、流路230中の試料の移動方向と逆向きに移動する。
【0097】
ここで、流路230と主流路221とを連通させている微細流路229は、流路230よりも幅または深さが小さいため、流路230中の試料成分のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが微細流路229を通過し、主流路221に移動することができる。また、微細流路229中を通過できない成分は、廃液溜め219に排出される。こうして、試料中の成分を、その移動相中での大きさまたは形状に従って分離することができる。なお、微細流路229は、流路230と主流路221とを隔てる隔壁中に小孔が形成された構成とすることができる。
【0098】
このような分離領域218を用いて、たとえば試料の粗分離、精製等を行うことができる。粗分離の場合として、試料中の固形成分や細胞等を分離除去することができる。また、液体試料の場合、たとえば低分子量成分と高分子量成分との分離等が可能である。
【0099】
主流路221中の試料成分は、主流路221に連通する分注流路222から、検出槽223に導かれ、分注される。ここで、検出槽223は、図1における検出部214に対応する。分注流路222および検出槽223は基板216上に所定の数だけ設けることができる。図2のチップ215では、主流路221から複数の分注流路222が順次分岐しており、分注流路222は主流路221よりも細い流路であるため、毛細管現象によって上流側の分注流路222に連通する検出槽223に順に試料成分が導入される。また、すべての検出槽223に試料成分が導かれた後の不要な試料は、液溜め224に排出される。
【0100】
このような構成とすれば、チップ215への試料の導入および移動を毛細管現象を利用して自動的に生じさせることができるため、外部の駆動装置を用いることなくチップ自体の構成により試料を分離し、分析することが可能となる。なお、必要に応じて、ポンプや電極等を有する外部装置にチップ215を接続してもよい。
【0101】
また、本実施形態および以降の実施形態において、バッファー導入口220その他の液溜めを有する部分には、チップの使用前からあらかじめ試薬を導入しておいてもよいし、チップを使用する際に必要に応じて所望のタイミングで注入することもできる。
【0102】
図4(A)および図4(B)は、図2のB−B’断面図であり、検出槽223を主たる構成要素とする検出部214の構成例を示す図である。図4(A)および図4(B)において、検出槽223は、底面に検出試薬231を有している。検出試薬231は、試料中に含まれる特定成分と相互作用することによりたとえば発色、発光、変色、脱色または消光する物質ないし試薬とすることができる。分離領域218で分離された試料が検出槽223に達すると、検出試薬231が移動相中に溶解または分散し、検出槽223中で所定の検出反応が行われる。なお、複数の検出槽223を有するチップ215については、このうち一つの検出槽223には検出試薬231を導入せず、参照用の液溜めとして用いることもできる。
【0103】
図4(A)の構成では、検出反応による発色等を、蓋226越しに目視で観察する構成となっている。また、図4(B)では、蓋226にマイクロレンズ228が形成されているため、検出槽223内の様子を拡大して観察できる。したがって、検出槽223中における発色、発光、変色、脱色または消光をより詳細に視認することが可能である。さらに、検出槽223が極めて小さい場合でも当該発色、発光、変色、脱色または消光を視認することができる。したがって、分析に供する試料を少量化することができる。
【0104】
また、図5および図6は、検出部214のまた別の構成を示す図である。図5は図2のB−B’断面図であり、図6は図2のC−C’断面図である。図5および図6に示したように、マイクロレンズ228は、複数の検出槽223間にわたって形成してもよい。この場合、マイクロレンズ228はたとえばかまぼこ型とすることができる。こうすれば、蓋226の構成をより簡素化することができる。
【0105】
図2のチップ215の作製は、たとえば次のようにして行う。基板216に溝を形成し、主流路221、流路230および分注流路222とする。また、主流路221に連通する導入口217、検出部113、および検出部115を形成する。これらの形成は、基板216としてプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板216の材料の種類に適した方法で行うことができる。主流路221の幅は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、細胞の液状分画成分(細胞質)のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)の抽出を行う場合、5μm〜1000μm、とする。また、蓋226に、試料導入部217、および空気孔225を形成する。
【0106】
得られた基板216および蓋226を接合する、さらに、蓋226の上面をシール227で封止する。こうして、チップ215が得られる。
【0107】
なお、基板216および蓋226がプラスチック材料である場合、たとえばこれらを熱融着により接合することができる。この場合、基板216および蓋226を構成する樹脂のガラス転移温度付近まで加温した状態で、当接させ、圧着した後、室温まで降温させ、その後圧力を解除すればよい。
また、溶媒を用いた融着を行ってもよい。この場合、基板216および蓋226を溶解させる溶剤をこれらの表面に極めて薄くスプレーした後、これらを当接させて、接合させることができる。
【0108】
また、基板216と蓋226とを当接させた状態でこれらに超音波振動を与え,そのエネルギーで基板216および蓋226の表面を融解し、接着してもよい。
【0109】
また、基板216および蓋226の種類に応じて選択される接着剤を用いて接着してもよい。接着剤を用いる場合、主流路221等の微小空間が接着剤により埋設されないようにする必要がある。そこでたとえば接着剤を蓋226にのみ極めて薄く塗布または展開することができる。また、マスクを用いて基板216の微小構造以外の部分にのみ接着剤を塗布または展開し、蓋226を接着してもよい。
【0110】
また、基板216および蓋226がたとえばガラス、石英、または表面を酸化したシリコン基板である場合には、たとえば、溶媒によりこれらを融着することができる。具体的には、フッ化水素水溶液を基板216または蓋226の表面に極めて薄くスプレーした後、これらを押し当てた状態で加温し、接着することができる。また、SOG(シリコンオキサイドゲル)などの接着剤を用いてもよい。SOGを用いる場合、基板216または蓋226の表面にSOGを塗布、展開した後これらを当接させ、オーブン中で200℃程度に加熱してもよい。加熱によりSOGをガラス化し、確実に接着することができる。
【0111】
また、基板216および蓋226がゴムである場合には、架橋剤を接着剤として用いることができる。基板216または蓋226の表面に接着剤を塗布し、これらを押し付けた状態で架橋反応を生じさせることにより、これらが接合される。
【0112】
なお、主流路221または流路230の壁面にDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングすることが好ましい。こうすれば、チップ215が良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、たとえば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質等が挙げられる。また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂、あるいは牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。また、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー等の親水性高分子等のコーティング等により、基板216表面を親水性樹脂で構成することもできる。また、親水性のシランカップリング剤により基板216の表面をコーティングしてもよい。
【0113】
基板216の表面の親水化をMPCポリマーを用いて行う場合、具体的には、リピジュア(登録商標、日本油脂社製)などを用いることができる。リピジュア(登録商標)を用いる場合、たとえばこれを0.5wt%となるようにTBE(トリスボレイト+EDTA)バッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を主流路221または流路230内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0114】
また、流路壁をはじめとする基板216の表面を親水化することにより、毛細管現象を利用して導入口217に試料を確実に導入することができる。また、導入口217に導入された試料をより一層確実に流路230に導入し、毛細管現象により流路230および主流路221中を移動させることができる。基板216の表面を親水化する方法として、流路230の表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成することが有効である。親水性膜の形成により、特に外力を付与しなくとも緩衝液が円滑に導入される。
【0115】
また、基板216の少なくとも表面を、PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)等の親水性高分子材料で構成することにより、毛細管効果が促進される。さらに、基板216表面への試料成分の非特異的な吸着を抑制することができる。このため、試料が微量であっても確実に分離および検出または測定を行うことができる。また、基板216の表面を酸化チタンで構成し、この表面に紫外線照射を行うことにより、基板216表面を親水化することができる。また、基板216の表面を酸素プラズマによりアッシングしてもよい。
【0116】
また、蓋226の表面をシール227でシールする際に、基板216と蓋226の接合体の表面をシール227で封止する際には、開口部に窒素等の不活性ガスを充填した後封止してもよい。こうすれば、チップ215を使用する直前まで基板216の表面が空気中に曝されないようにすることができる。このため、チップ215が空気中に曝されることによる表面の親水性の低下を抑制することができる。よって、毛細管現象による試料の導入および移動を確実に行わせることができる。なお、不活性ガスを充填せずに、接合体の表面を減圧下でシール227により封止してもよい。また、シール227により封止されたチップ215を、外装体中に収納し、保存することもできる。このとき、外装体中に不活性ガスを充填するか、減圧下で外装体中にチップ215を収納することが好ましい。
【0117】
また、図3では、シール227が設けられているチップ215を例示したが、本実施形態および以降の実施形態におけるチップは、シール227を有さない構成であってもよい。シール227を設けない構成とすることにより、チップの構成を簡素化することができる。また、シール227を設けることにより、導入口217や空気孔225等の開口部分が外気に接触しないようにすることができる。このため、搬送時等の取り扱いをさらに簡便化することができる。また、チップ中に塵芥が入らないようにすることができる。また、検出槽223中に検出試薬231が保持されている場合、検出試薬231の変質を抑制することができる。
【0118】
以上のように、本実施形態に係るチップ211を用いることにより、試料中の所定の成分を分離し、さらに検出を行うことができる。
【0119】
たとえば、検出槽223において呈色反応が行われる場合、これを比色して試料中の特定の成分の有無を判断したり、濃度を測定したりすることができる。この場合、基板216が透明な材料により形成されていることが好ましい。こうすることにより、より正確な検出を行うことができる。透明な材料として、具体的には、石英、環状ポリオレフィン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いることができる。
【0120】
チップ211を用いた検出として、たとえば血糖値の測定が挙げられる。この場合、血液を試料として導入口217に導入すると、分離領域218にて血球が分離される。検出槽223には、バッファー導入口220に導入されたバッファーによって希釈された血漿成分が分注される。検出試薬231として、NAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸2ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウムを用いれば、検出槽223における発色の程度によって、血糖値を容易に判断することができる。
【0121】
なお、図2のチップ215において、廃液溜め219がトリガー流路256を介してバッファー導入口220に連通する構成としてもよい。図101は、このような構成を模式的に示す図である。図101において、廃液溜め219とバッファー導入口220とを接続するトリガー流路256には、フィルタ307が設けられている。フィルタ307を設けることにより、流路230中の成分のうち、分離領域218を通過できない成分がトリガー流路256の下流側に侵入しないようにすることができる。
【0122】
また、主流路221とトリガー流路256との交差点に液体スイッチ257が形成されている。液体スイッチ257を設けることにより、導入口217に導入された液体試料が流路230およびトリガー流路256を経由して液体スイッチ257に到達した時点で液体スイッチ257が開き、バッファー導入口220にあらかじめ導入されていたバッファーが主流路221中を移動する構成とすることができる。なお、液体スイッチ257の具体的な構成については、第三の実施形態において後述する。
【0123】
この構成によれば、バッファー導入口220中にあらかじめ所定のバッファーを導入しておくことにより、毛細管力による導入口217への試料の導入以降の処理をチップ215自体の構成により自動的に進行させることが可能となる。このため、試料中の成分の分離および検出をさらに効率よく行うことができる。
【0124】
(第二の実施形態)
図7は、本実施形態に係るチップの基本的な構成の一例を示す機能ブロック図である。チップ232は、第一の実施形態に記載のチップ211において、検出部214に代わり分析部として測定部233を有する点が異なる。測定部233は、外部装置を用いた測定に供する試料成分が貯留される領域である。
【0125】
図8は、図7の機能を有するチップ234の構成の一例を示す図である。チップ234の基本構成は第一の実施形態に記載のチップ215(図2)と同様であるが、検出槽223に代わり分取部235を有する点が異なる。分取部235は、分離領域218で分離された試料成分が分取される液溜めである。
【0126】
図9および図10は、分取部235を主たる構成要素とする測定部233の構成を例示する図である。分取部235は、図9に示したように試料を貯留する液溜めのみからなっていてもよい。または、図10に示したように、測定試薬236を有していてもよい。測定試薬として、たとえば、第一の実施形態に記載のチップ215において、検出試薬231として利用可能な物質を用いることができる。測定試薬を用いることにより、発色反応等を利用して、試料中の特定成分について確実に分析を行うことができる。具体的には、280〜850nm程度の波長領域における透過光強度を測定することができる。
【0127】
図11は、チップ234を挿入して分取部235の試料成分に関する光学測定を行う測定装置237の構成を模式的に示す図である。測定装置237は、チップ234が挿入される挿入部244と、挿入部244に挿入されたチップ232の分取部235に光を照射し、また光学特性を測定する測定ユニット242を有する。測定ユニット242は、光源238、集光部243、および受光部239を含む。
【0128】
測定ユニット242の大きさは、分取部235の大きさに対応して設計される。たとえば、チップ234において、分取部235の深さを100μm〜2mm程度とし、分取部235の間隔を100μm〜2mm程度とすることができ、このとき、光源238、集光部243、および受光部239の大きさもこれに合わせて設計される。
【0129】
光源238は、たとえばLED、レーザダイオード、半導体レーザ等とすることができる。光源の種類は、測定波長によって異なるため、測定試薬236によって生じる発色等の波長に合わせて適宜選択される。集光部243は、たとえばセルフォックスレンズを所定の形状、大きさに加工して用いることができる。受光部239は、たとえばフォトトランジスタ、光電セル等とすることができる。
【0130】
図12は、図11の測定装置237にチップ234を挿入する様子を示す図である。測定装置237の挿入部244にチップ234を挿入すると、測定ユニット242に対応する位置に分取部235が挿入される。このため、チップ234に形成された分取部235の数だけ測定ユニット242を設けておけば、それぞれの分取部235について、光学測定を一度に行うことができる。よって、短時間での測定が可能となる。また、測定装置237は測定ユニット242を1個有するものとし、チップ232を挿入部244中でスライドさせることにより、複数の分取部235について順次光学測定を行う構成としてもよい。
【0131】
また、図13は、測定装置237の別の構成を示す図である。図13の測定装置237は、図11の装置と基本構成が同様であるが、光源238を1台とし、また光学フィルタ240および遮光板241を有する点が異なる。なお、図13では、集光部243を設けない構成としたが、集光部243を設ける構成とすることもできる。
【0132】
光学フィルタ240を設けることにより、光源238からの出射光のうち、所定の波長範囲にある光のみを分取部235に照射することができる。このため、ランプ光源など、出射光の波長分布がブロードな光源238を用いる際にも、測定波長に対応する光学フィルタ240で分光し、測定するこができる。また、光学フィルタ240は遮光板241に支持されているため、他の測定ユニット242に光源238からの出射光が漏洩するのを防止することができる。
【0133】
光学フィルタ240には、光学フィルタとして既知の材料を所定の大きさに加工して用いることができる。
【0134】
なお、図11または図13に示した測定装置237において、光源238を設けずに、外部の光源からの光を光ファイバ等により導入し、分取部235の挿入される位置に照射する構成としてもよい。また、以上においては分取部235における透過度を測定するとして説明したが、測定ユニット242は、吸光度や散乱度を測定するように構成されていてもよい。
【0135】
また、チップ232の構成および測定装置237の構成は、上述したものに限られず、種々の構成とすることができる。
【0136】
たとえば、図14に示すように、分取部235を分注流路222上に設け、分取部235の下方に光導波路245を形成することもできる。ここで、光導波路245は、たとえば石英系材料または有機系ポリマー材料により形成することができる。光導波路245は、周囲の材料よりも屈折率が高くなるように構成される。この場合、光導波路245にはチップの底面から光が導入され、同様に、チップの底面から光が取り出される。図15は、図14のD−D’断面図である。図15に示したように、光導波路245の一端が投光用投光用光導波路246に接続され、他端が受光用光導波路247に接続されている。投光用光導波路246および受光用光導波路247は、基板216の水平面の法線方向に延在し、光導波路245から基板216の表面にわたって設けられている。
【0137】
この場合、たとえば、測定装置237の底面等に、チップの投光用光導波路246へ光を導入する光源238および受光用光導波路247からの光を受光するための受光部239を設けておくことができる。このような構成にすれば、測定装置237の底面等に、チップの投光用光導波路246および受光用光導波路247が露出した面を接触させることにより、分注流路222自体を測定用の分取部235として用い、分取部235への光の導入および分取部235からの光の検出を行うことができる。
【0138】
また、図14および図15に示したチップにおいて、光導波路245を設けない構成としてもよい。このとき、投光用光導波路246および受光用光導波路247を設けることにより、光源238からの出射光を投光用光導波路246を介して分取部235に導入し、分取部235からの出射光を受光用光導波路247を介して受光部239にて受光することができる。この構成についても、分取部235に分取された液体中の所定の成分に関する光学測定を行うことができる。また、光導波路245を設けないため、チップの構成を簡素化することができる。
【0139】
本実施形態においては、測定部233を有するチップ232を用いることにより、外部装置による測定に適した試料を容易に調製することができる。たとえば、チップ234を用いて分離および分取を行った試料に対し、チップ234をそのまま測定装置237に挿入して分離された成分に関する光学測定を行うことができる。このため、簡便な手法で確実に試料中の成分に関する分析を行うことができる。
【0140】
なお、チップ234をそのまま測定装置に供する構成とせず、チップ234の分取部235に分取された試料を抽出して外部装置の測定に供する態様としてもよい。
【0141】
チップ232を用いた測定として、たとえば血糖値の検出が挙げられる。この場合、血液を試料として導入口217に導入すると、分離領域218にて血球が分離される。分取部235には、バッファー導入口220に導入されたバッファーによって希釈された血漿成分が分注される。測定試薬236として、第一の実施形態の検出試薬と同様にNAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸2ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウムを用いれば、分取部235における発色の程度を測定装置237によって測定し、血糖値レベルを容易に判断することができる。また、肝酵素ASTの検出等も可能である。
【0142】
第一または第二の実施形態に記載の基本構成を有するチップは、さらに以下のいずれかの実施形態に記載の構成を有する。
【0143】
(第三の実施形態)
本実施形態に係るチップは、第一または第二の実施形態に記載の基本構成を有し、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間に、検出または測定に先立ち、試料濃度を均質化するための混合部を有する。図16および図17は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図16のチップ249では、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間に混合部248が形成されている。また、図17のチップ250では、分離部213と測定部233との間に混合部248が形成されている。以下、検出部214を有する構成の場合を例に説明する。
【0144】
図18は、混合部248を有するチップの構成の一例を示す図である。図18のチップ251の基本構成は図2のチップ215と同様であるが、分離領域218と分注流路222との間の主流路221に混合部248が設けられている点が異なる。
【0145】
チップ251において、混合部248は、主流路221中を流れる液体中の試料成分濃度を均質化することができるように構成されていれば、特に制限はないが、たとえば以下のように構成することができる。
【0146】
図19は、混合部248の構成の一例を示す図である。図19の混合部248は、対向流による均質化効果を利用した助走流路である。この流路は、主流路221の往路252と復路253とを混合用微細流路254により連通させた構成となっている。混合用微細流路254は、たとえば往路252と復路253とを隔てる隔壁に設けられた小孔とすることができる。
【0147】
混合用微細流路254の表面は往路252に比べて疎水性とする。こうすることにより、分離領域218を通過した液体が往路252を満たすまで、混合用微細流路254から復路253に流入しない構成とすることができる。往路252が液体で満たされ、復路253に至ると、混合用微細流路254中に往路252側と復路253側から液体が侵入することにより、往路252と復路253とが混合用微細流路254を介して互いに連通する。そして、往路252内の液体と復路253内の液体との間で相互拡散が起こり、液体の濃度を均質化することができる。均質化された液体は、主流路221から分注流路222を通って検出槽223に導かれる。
【0148】
このような構成とすれば、復路253を通過して分注流路222に流入する液体の濃度を均質化することができる。したがって、分離領域218を通過した液体中の試料成分濃度にむらがある場合にも、複数の検出槽223に供給される液体中の試料成分濃度を一定とすることができる。よって、検出反応の精度を向上させることができる。
【0149】
たとえば、試料成分濃度が高い領域が、主流路221中を流れる液体の先端領域にある場合、往路252を進むほど、既に希釈化された低濃度の復路253中の液体と交換されて、平均的濃度に均質化される。逆に、高濃度領域が主流路221中を流れる液体の先端から遠く、復路253に液体が侵入した後も往路252に存在する場合、復路253を進行する低濃度の液体は、復路253内の高濃度の液体と混合されて平均的な濃度に均質化される。なお、図19では、主流路221を一直線の形状としたが、ジグザグ形状やらせん状としてもよい。こうすることにより、混合部248をコンパクトな形状とすることができる。よって、チップ251を小型化することができる。
【0150】
また、図20は、混合部248の別の構成を示す図である。図20の混合部248においては、主流路221中に液溜め255が設けられ、液溜め255の下流において主流路221の2箇所を連通させるトリガー流路256が設けられている。トリガー流路256は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。トリガー流路256と主流路221との2箇所の交差点のうち、下流側すなわち分注流路222側の交差点に、液体スイッチ257を有する。
【0151】
このような混合部248では、当初は液体スイッチ257が閉じており、分離領域218を通過した液体は、液溜め255に貯留され、濃度が均質化される。液溜め255が液体で満たされると、その一部がトリガー流路256へと流入する。そして、トリガー流路256中に液体が満たされ、液体スイッチ257の形成領域に達すると、液体スイッチ257が開くため、液溜め255中で均質化された液体が分注流路222へと流入する。
【0152】
図21(A)〜図21(C)は、図19の液体スイッチ257部分を拡大した上面図である。液体スイッチ257は、液体の流動を制御するスイッチであり、液体がスイッチ開閉のトリガーとなる。図21(A)はスイッチ閉状態、図21(B)および図21(C)はスイッチ開状態を示す。図中、主流路221の側面にトリガー流路256が接続している。トリガー流路256は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。主流路221とトリガー流路256の交差する領域の上流側(図中上側)に堰き止め部258が設けられている。堰き止め部258は、流路の他の部分よりも強い毛細管力を有する部分となっている。堰き止め部258の具体的構成としては、以下のものが例示される。
【0153】
(i)複数の柱状体が配設された構成
この構成では、堰き止め部258における流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きくなっている。すなわち、主流路221に液体が満たされたとき、堰き止め部258においては、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0154】
(ii)多孔質体やビーズが複数充填された構成
この構成では、堰き止め部258において、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0155】
上記(i)の構成とする場合、柱状体は、基板の種類に応じて適宜な方法で形成することができる。ガラス基板や石英基板を用いる場合、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用して形成することができる。プラスチック基板を用いる場合、形成しようとする柱状体のパターンの反転パターンを有する金型を作製し、この金型を用いて成形を行い所望の柱状体パターン面を得ることができる。なお、このような金型は、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用することにより形成することができる。
【0156】
上記(ii)の構成とする場合、多孔質体やビーズは、これらを流路の所定箇所に直接充填、接着することにより形成することができる。
【0157】
本実施形態では、上記(i)の構成を採用する。
【0158】
図22は、堰き止め部258の上面図である。複数の柱状体260が、略等間隔で規則的に配置されている。柱状体260以外の領域は微細流路261となっている。堰き止め部258では、流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きい。このため、堰き止め部258に浸入した液体は、毛細管力により、微細流路261に保持される。
【0159】
図21(A)はスタンバイ状態にある液体スイッチ257を示している。主流路221に導入された液体試料259が堰き止め部258で保持されている。この状態から所望のタイミングでトリガー流路256を迂回してきたトリガー液262が導入されると、図21(B)のようにトリガー液262の液面の先端部分が前進し、堰き止め部258と接触することとなる。図21(A)の状態では、液体試料259は毛細管力により堰き止め部258に保持されているが、液体試料259がトリガー液262と接触した図21(B)の状態になると、液体試料259が図中下方向(下流側)に移動し、図21(C)の主流路221下流側に液体試料259が流出する。すなわち、トリガー液262が呼び水としての役割を果たし、液体試料259を下流側に引き出す液体スイッチとしての動作が発現する。
【0160】
以上において、液体試料259およびトリガー液262は、液溜め255を通過した液体である。したがって、この構成によれば、分離領域218を通過した液体が液溜め255を満たし、さらにトリガー流路256の先端すなわち主流路221の下流側の交差点に達するまでの間、液体が分注流路222側に流入しないようにすることができる。よって、液溜め255において確実に試料成分濃度の均質化を図ることができる。また、トリガー流路256の構成によって、分注流路222へと流入するタイミングを好適に調節することができる。
【0161】
図23(A)〜図23(C)は、トリガー流路256の構成を例示する図である。図23(A)では、トリガー流路256の一部に流路拡張領域263が形成されている。流路拡張領域263は、トリガー流路256中で時間遅れ槽として機能する。こうすることにより、液体スイッチ257を開くタイミングを遅延させることができる。
【0162】
図23(B)は、図23(A)の構成のトリガー流路256において、流路拡張領域263に疎水性領域264が形成されている。疎水性領域264は、トリガー流路256中の液体の進行方向に垂直な方向に流路拡張領域263を横切るように形成されている。このような疎水性領域264を設けることにより、流路拡張領域263において、液体が壁面のみをつたって他端に到達するのを抑制することができる。
【0163】
図23(C)は、じぐざぐ形状のトリガー流路256の例を示している。このようにトリガー流路256の形状、長さを最適化することにより、所望のタイミングで液体スイッチ257を開放することが可能となる。トリガー流路256の形状は、占有面積が小さいような形状であれば図23(C)の形状に限られず、たとえばらせん形とすることもできる。
【0164】
本実施形態に係るチップ249またはチップ250によれば、分離部213と検出部214または測定部233との間に混合部248を有するため、分離部213を通過した液体の濃度を均質化した後、検出部214または測定部233へと導くことができる。このため、検出部214または測定部233に導入される液体中の試料成分のむらを解消することができる。よって、検出部214における検出反応や測定部233における測定の精度を向上させることができる。
【0165】
(第四の実施形態) 本実施形態は、以上の実施形態に記載のチップにおいて、試料導入部212と分離部213との間に、分離に先立ち、試料に所定の前処理を施す前処理部が設けられたチップに関する。本実施形態のチップは、第一または第二の実施形態に記載の基本構成を有する。
【0166】
図24および図25は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図24および図25では、分析部としてそれぞれ検出部214および測定部233が設けられている。図24のチップ265、図25のチップ267のいずれにおいても、試料導入部212と分離部213との間に前処理部266が形成されている。以下、分析部として検出部214を有する場合、具体的には図24に示した検出部214を有する構成の場合を例に説明する。
【0167】
図26は、チップ265として利用可能なチップの構成の一例を示す図である。図26のチップ268では、導入口217と分離領域218との間に、前処理部266が形成されている。前処理部266は、主流路221中に設けられた前処理槽269と、液体スイッチ257と、トリガー流路256とを含む。トリガー流路256中には、時間遅れ槽としての流路拡張領域263が形成されている。
【0168】
前処理槽269には、導入口217に導入された試料に対し、所定の前処理を行うための液溜めである。図示していないが、前処理槽269には前処理に用いる酵素等の前処理試薬があらかじめ導入されている。
【0169】
導入口217に導入された試料は、主流路221から前処理槽269に流入し、前処理試薬と混和し、前処理がなされる。前処理槽269の下流には液体スイッチ257が設けられているため、当初は前処理槽269を通過した液体が液体スイッチ257よりも下流側に流入することはない。トリガー流路256は、前処理槽269における前処理時間に合わせてその構成を設計することができる。たとえば、前処理時間が長時間であれば、流路拡張領域263を大きくすることができる。
【0170】
主流路221からトリガー流路256中を進行する試料が液体スイッチ257まで到達すると、主流路221側からの試料とトリガー流路256側からの試料とが接触することにより液体スイッチ257が開く。そして、前処理槽269で前処理された試料は主流路221中を進み、分離領域218で所定の分離操作がなされた後、分注流路222から検出槽223に分注され、検出槽223で所定の検出反応が行われる。
【0171】
前処理槽269で行われる前処理として、たとえば、試料中の不溶成分の可溶化が挙げられる。導入口217に導入される試料が生体試料である場合、試料中の細胞の可溶化を行う必要があることがある。細胞を可溶化するためには、細胞膜、細胞骨格を可溶化する必要がある。また、動物細胞においては細胞外マトリックス、植物細胞の場合は細胞壁を破壊する必要がある。前処理槽269を有するチップ268を用いることにより、これらの前処理を行うことができる。以下、前処理として細胞外マトリックスや細胞壁の破壊を行う場合を例に説明する。
【0172】
前処理槽269には、可溶化酵素をあらかじめ導入しておく。たとえば、試料が唾液や鼻汁である場合には、可溶化酵素として塩化リゾチームを用いることができる。また、試料が組織である場合、たとえばコラゲナーゼを用いることができる。また、試料が植物細胞である場合、たとえばセルラーゼなどの細胞壁を可溶化する酵素を用いることができる。なお、前処理槽269での処理を行う間、所定の温度でインキュベートしてもよい。
【0173】
所定の時間前処理がなされた後、液体スイッチ257が開くことによって主流路221中を進行する試料は、分離領域218において分離される。ここで、分離領域218では、細胞周囲の余分な液体が分離除去され、細胞の洗浄をすることできる。バッファー導入口220に分離用バッファー、この場合は洗浄用バッファーを導入すると、微細流路229を介して主流路221と流路230とが連通し、主流路221中の余剰な液体成分が除去される。たとえば、コラゲナーゼ処理液や血漿等が洗浄用バッファーと混和抽出され、液溜め270に除去される。
【0174】
洗浄用バッファーが液溜め270を満たすと、液溜め270に連通するトリガー流路256中に液体が侵入し、これが液体スイッチ257に達すると、液体スイッチ257が開放される。液体スイッチ257が開放されると、主流路221中で洗浄された細胞が、分注流路222およびこれに連通する検出槽223へと順次分取される。
【0175】
この構成によれば、導入口217と分離領域218との間に形成された前処理部266において、試料に所定の前処理を施すことが可能となる。このため、チップ268上での分離および検出をさらに好適な条件で実施することができる。なお、前処理槽269への反応試薬の導入は、チップ268の作製時にあらかじめ行っておいてもよいし、チップ268を使用する際に所定のタイミングで行ってもよい。
【0176】
なお、前処理槽269でなされる前処理は、可溶化処理に限らず、種々の処理とすることができる。たとえば、試料中の成分がDNAである場合、前処理槽269においてPCR反応を行ってもよい。
【0177】
(第五の実施形態)
本実施形態は、第四の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間にさらに混合部248を有する構成に関する。図27および図28は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図27のチップ271では、分離部213と分析部(検出部214)との間に混合部248が設けられ、図28のチップ272では、分離部213と分析部(測定部233)との間に混合部248が設けられる。
【0178】
ここでは、図27に示したチップ271に対応する構成を例に説明する。図29は、チップ271に対応するチップの構成の一例を示す図である。図29のチップ273は、図26に示したチップ268において、分離領域218と分注流路222との間に混合部248が形成されている。混合部248の構成は、たとえば第三の実施形態に記載の構成とすることができる。
【0179】
このような構成とすることにより、前処理槽269および分離領域218でそれぞれ前処理および分離がなされた試料の主流路221中での濃度を均質化した後、それぞれの分注流路222に順次流入させることができる。このため、分離領域218の試料濃度に分布がある場合にもこれを平均化することが可能となり、それぞれの検出槽223中に導入された液体の試料成分濃度のばらつきを抑制することができる。よって、検出槽223における検出反応の精度を向上させることができる。
【0180】
なお、以上においては一種類の試料の濃度分布を減少させる場合を例に説明したが、複数の液溜めが混合部248に連通する構成としてもよい。こうすれば、それぞれの液溜め中に含まれる試料を混合することができる。
【0181】
(第六の実施形態)
本実施形態は、以上の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間にさらに反応部275を有する構成に関する。図107および図108は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図107および図108に示したチップは、それぞれ、第一および第二の実施形態1に記載の基本構成を有し、それぞれ、分離部213と分析部(検出部214)との間、分離部213と分析部(測定部233)との間に反応部275が設けられている。
【0182】
また、図30および図31は、本実施形態に係るチップの別の構成を示す機能ブロック図である。図30および図31では、分析部としてそれぞれ検出部214および測定部233が設けられている。図30のチップ274および図31のチップ276では、いずれも分離部213と混合部248との間に反応部275が設けられる。
【0183】
ここでは、チップ274に対応する構成を例に説明する。図32は、チップ274に対応するチップの構成の一例を示す図である。図32のチップ277は、図29に示したチップ268において、前処理部266、分離領域218に次いで反応部275が設けられている。さらに反応部275の下流に分離領域218および混合部248、が設けられ、これらの下流に分注流路222および検出槽223が形成されている。また、チップ277では、導入口217に連通する第一の主流路278および分注流路222に連通する第二の主流路279が形成されている。第一の主流路278と第二の主流路279とは、反応部275の下流に形成された分離領域218を介して互いに連通する。
【0184】
反応部275は、第一の主流路278中に設けられた反応槽280と、第二の主流路279に連通する液溜め284と、液体スイッチ257と、トリガー流路256とを含む。トリガー流路256中は、液溜め284と第一の主流路278に連通し、時間遅れ槽としての流路拡張領域263を有する。
【0185】
反応槽280は、分離領域218で分離された試料に対し、所定の前処理を行うための液溜めである。図示していないが、反応槽280には反応に用いる酵素等の反応試薬があらかじめ導入されていてもよい。また、所定のタイミングで280に反応試薬を導入する態様とすることもできる。また、液溜め284に反応試薬を導入しておき、所定のタイミングで反応槽280に移動させてもよい。
【0186】
また、液溜め284に反応試薬を導入しておき、所定のタイミングで反応槽280に移動させてもよい。この場合、分離領域218で分離された試料は、反応槽280に流入し、液溜め284に導入された反応試薬と混和し、所定の反応に供される。反応槽280の下流には液体スイッチ257が設けられているため、当初は反応槽280を通過した液体が液体スイッチ257よりも下流側に流入することはない。トリガー流路256は、反応槽280における前処理時間に合わせてその構成を設計することができる。たとえば、前処理時間が長時間であれば、流路拡張領域263を大きくすることができる。
【0187】
液溜め284からトリガー流路256中を進行する反応試薬が液体スイッチ257まで到達すると、第一の主流路278側からの試料とトリガー流路256側からの試料とが接触することにより液体スイッチ257が開く。そして、反応槽280で前処理された試料は第一の主流路278中を進み、分離領域218で所定の分離操作がなされる。
【0188】
分離領域218の構成は、以上の実施形態と同様、たとえば図示したように第一の主流路278と第二の主流路279とが微細流路229を介して連通した構成とすることができる。こうすれば、第一の主流路278中の反応後の試料のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが第二の主流路279中に移動することができる。よって、反応後の試料から所定の成分のみを分離することができる。分離領域218にて分離され、第二の主流路279に達した試料は、混合部248において濃度の均質化をなされた後、分注流路222から検出槽223に分注され、検出槽223で所定の検出反応が行われる。
【0189】
反応槽280で行われる反応として、たとえば、細胞膜や細胞骨格の可溶化反応が挙げられる。この場合、第四の実施形態で示したように、前処理槽269において細胞膜や細胞骨格の可溶化に先立つ細胞外マトリクスや細胞壁成分の破壊を行うことができる。そして、分離領域218において余剰の液体成分を分離除去された試料中の細胞について、第一の主流路278上に設けられた二つの反応槽280において、細胞膜の可溶化および細胞骨格の可溶化の処理を順次行うことができる。
【0190】
そこでこの場合、二つの反応槽280のうち、上流側の反応槽280に連通する液溜め284には、細胞膜すなわち脂質膜の界面活性剤およびリパーゼを反応試薬として導入する。こうすることにより、反応槽280に導入された試料がこれらの反応試薬と混和し、細胞膜が可溶化される。
【0191】
細胞膜が可溶化された試料は、上流側の反応槽280に連通する液溜め284中の余剰の反応試薬によって第一の主流路278中を進行し、下流側の反応槽280に貯留される。下流側の反応槽280では、細胞骨格の可溶化がなされる。下流側の反応槽280に連通する液溜め284には、反応試薬として、たとえば450mMの酢酸カリウム、200mMのTris−HCl(pH8.5)、250mMのMgOAc2、0.5mMのATP、および2%のPTEを含むバッファーを導入する。これらの試薬が反応槽280に導入されると、反応槽280中で可溶化反応が起こる。
【0192】
こうしてそれぞれの反応を所定の時間なされた後、下流側の反応槽280の下流に設けられた液体スイッチ257が開くことによって、反応後の試料は第一の主流路278中をさらに進行する。試料は、反応槽280の下流に形成された分離領域218においてさらに分離される。よって、以上の一連の反応によっても可溶化されなかった不溶成分は、反応槽280の下流に設けられた分離領域218において除去することができる。
【0193】
この構成によれば、分離領域218と検出槽223との間に形成された反応槽280において、試料に所定の反応処理を施すことが可能となる。このため、試料中の成分の検出をさらに好適な条件で行うことができる。なお、反応槽280または液溜め284への反応試薬の導入は、チップ277の作製時にあらかじめ行っておいてもよいし、チップ277を使用する際に所定のタイミングで行ってもよい。
【0194】
なお、反応部275を有する構成は、第四の実施形態以外の上述した実施形態に対しても適用可能である。他の実施形態に記載のチップにおいても、たとえば、分離部213と検出部214との間、分離部213と混合部248との間、分離部213と測定部233との間、あるいは分離部213と混合部248との間に反応部275を設けることができる。このようにすれば、試料導入部212に導入された試料の所定の成分を分離した後、検出または測定に先立ち種々の反応に供することができる。よって、より多様な検出または測定を簡便な構成で安定的に実施することができる。
【0195】
さらに、反応部275は、図90に示す構成としてもよい。図90に示した反応部は、主流路221に連通する2個の反応部275が形成されている。反応部275は、流路300と、流路300に連通する反応槽280、反応槽280に連通する試薬槽301および試薬槽302、反応槽280と試薬槽301との間に設けられた液体スイッチ257、反応槽280と試薬槽302との間に設けられた液体スイッチ257を有する。これらの二つの液体スイッチ257は、流路拡張領域263を介して連通している。また、二つの液体スイッチ257は、トリガー流路256を介しても主流路221に連通している。
【0196】
図90の構成では、主流路221中に試料が流れると、流路300から反応槽280に試料が充填される。ここでは、二つの反応槽280に順次充填される。試料は反応槽280を満たした後も主流路221中を進み、一部がトリガー流路256に迂回する。トリガー流路256中を流れる試料は、まず反応槽280と試薬槽301との間の液体スイッチ257を開放する。すると、試薬槽301中に保持されていた試薬が反応槽280へと移動し、試料と混和する。こうして、反応槽280において、最初の反応が行われる。
【0197】
また、トリガー流路256中を流れる試料の一部は流路拡張領域263にて時間遅れを生じた後に、試薬槽302と反応槽280との間に形成された液体スイッチ257を所定のタイミングで開放する。すると、試薬槽302中に保持されていた試薬がさらに反応槽280に移動するため、反応槽280において次の反応が行われる。
【0198】
この構成では、反応槽280が液体スイッチ257を介して複数の試薬槽と連通しており、それぞれの液体スイッチ257が順次開放される構成が実現されている。このため、チップ自体の構成によって所定のタイミングで多段階反応を実施することが可能となる。
【0199】
このような反応部を用いることにより、分離された液体試料に対して多段階の反応処理を施すことができる。このため、従来の装置構成では困難であったインシュリン濃度の測定や感染症への罹患度判定等が可能となる。また、試薬との混合と洗浄を順次実施することが可能となるため、酵素抗体法に適用することもできる。
【0200】
(第七の実施形態)
以上の実施形態に係るチップにおいて、制御部をさらに有していてもよい。以下、第六の実施形態に記載の機能を有するチップにさらに制御部を設けた構成を例に説明する。図33および図34は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図33に示したチップ281および図34に示したチップ282には、試料導入部212、前処理部266、分離部213、反応部275、混合部248、および分析部(検出部214または測定部233)における各処理条件を制御する制御部283が設けられる。
【0201】
制御部283を有するチップの例として、クロックラインを設け、これに基づいてチップ上の流路における試料の移動を制御する構成が挙げられる。図91は、クロックラインを配設したチップの構成を示す上面図である。図91のチップにおいては、試料の通る主流路221に直交する方向にクロック流路1201が設けられている。これらは、図92に示すように、多層の流路構造となっている。図92は、図91のチップの断面図である。このチップは、主流路用基板1220およびクロック流路用基板1210が張り合わされた構造を有する。主流路用基板1220の表面には主流路221が形成され、クロック流路用基板1210の表面にはクロック流路1201が形成されている。これらの流路は、制御用流路1212により接続されている。主流路221には、スイッチ1207が設けられている。
【0202】
図91に戻り、主流路221上の液体は、スイッチ1207が開くまでは、スイッチ1207の下流側に移動することができず、堰き止められる。クロック流路1201に導入されたクロック用流体は、時間遅れチャンバ1202によって流動が制御された後、制御用流路1212を経由してスイッチ1207に到達する。するとスイッチ1207が開状態となり、主流路221中の液体が下流側に移動する。
【0203】
その後、クロック用流体はクロック流路1201下流側に移動し、別の時間遅れチャンバを経た後、スイッチ1208に到達する。このように、クロック用流体をトリガー液としてスイッチを順次開放していくことにより、主流路221を通過する試料に所定の処理を所定の時間施すことができる。
【0204】
クロック流路1201におけるクロック用流体の流動は、あらかじめ、流路中の任意の位置に到達する所用時間が正確に再現されるようになっている。このため、このクロック流路の利用により、チップ上で任意の処理を時間制御性良く実行することが可能となる。
【0205】
また、制御部283は以下の構成としてもよい。ここでは、図8のチップ251を例に説明する。チップ251においては、下記(i)および(ii)のタイミングを制御することが重要である。
(i)バッファー導入口220から、主流路221にバッファーを流すタイミング、
(ii)混合部248で成分濃度が均質化された試料を分注流路222に流すタイミング。
【0206】
そこで、これらのタイミングを制御するために、チップ251上に、下記(I)〜(IV)を設けることができる。
(I)廃液溜め219内部に試料が到達したことを、対電極の導通を指標としてセンシングするセンサ、
(II)バッファー導入口220からのバッファーの流出をコントロールするための磁石を用いた液体スイッチ、
(III)混合部248がたとえば図19に示した助走流路を有する構成である場合、混合部248に溶液が到達したことを検出する対電極を有するセンサ、
(IV)助走流路の出口にて液体の進行を制御する磁石を用いた液体スイッチ。
【0207】
チップ215に上記(I)〜(IV)を設け、チップ251の液体スイッチ部分の下にソレノイド等に接続して可動となっている磁石がセットされた制御用のステージを用いることにより、上記(i)および(ii)のタイミングを確実に制御することが可能である。
【0208】
図93は、チップ251上に設けられた磁石を有する液体スイッチの構成と、磁石の移動を制御するステージの構成を模式的に示す断面図である。図93において、主流路221の一部に疎水性領域が設けられ、疎水性領域よりもバッファー導入口220側に、磁性ビーズがあらかじめ導入されている。疎水性領域と磁性ビーズを液体スイッチとして用いることができる。
【0209】
このチップ251の動作は以下の通りである。すなわち、まず、チップ251を制御用のステージ上に設置する。そして、廃液溜め219の内部に試料が到達したことを,対電極の導通を指標としてセンシングする。廃液溜め219に試料が到達したタイミングで、疎水性領域よりもバッファー導入口220側に位置する磁石を、疎水性領域を流路に沿って移動させる。すると、磁性ビーズが主流路221中を移動し、疎水性領域を横切る。このとき、主流路221の手前で堰き止められていた液体は、磁性ビーズとともに移動し、スイッチが開通する。
【0210】
スイッチが開通すると、分離領域218にて所定の分離がなされる。分離された試料は、混合部248に向かって移動する。そこで混合部248に溶液が到達したことを、対電極を用いて検出する。混合部248に試料が到達したタイミングで、制御用のステージの直下にある磁石を動かし、助走用流路上に設けられた液体スイッチを開通させる。すると、混合部248で均質化された試料は分注流路222に分注される。
【0211】
このように、制御部283を設けることにより、たとえば各機能ブロックに対する洗浄操作等を制御して行うことができる。このため、チップ281または282を再利用した際にも、基板216表面の汚染を抑制し、チップ上での一連の操作を確実に行うことができる。
【0212】
(第八の実施形態)
以上の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213の構成は次のようにしてもよい。図35(A)〜図35(C)は、分離部213をさらに詳細に説明する機能ブロック図である。図35(A)〜図35(C)に示した分離部213は、それぞれ粗分離部286、分画部287、精製処理部288を有する。このため、それぞれの分離部213では、試料の粗分離、分画、および精製処理部288を行うことができる。また、図35(A)〜図35(C)に示した分離部213では、粗分離部286、分画部287、または精製処理部288の上流に、バンド形成部285を有する。
【0213】
粗分離部286または精製処理部288として利用可能な構成として、たとえば以上の実施形態に記載のチップ215に設けられた分離領域218が挙げられる。また、試料中の成分の粗分離、分画、および精製に利用可能な分離部213の構成として、たとえば図36に示した構成が挙げられる。
【0214】
図36は、本実施形態に係るチップの構成の一例を模式的に示す図である。図36に示したチップ289は、導入口217と分離領域295との間にバンド形成部285が形成されている。バンド形成部285は、導入口217に連通するバンド形成用流路292と、バンド形成用流路292に連通する液溜め290と、主流路221に連通する展開バッファー槽291と、主流路221とバンド形成用流路292との交差点に設けられた液体スイッチ257と、を有する。
【0215】
また、図37は、図36のバンド形成用液体スイッチ293の拡大図である。バンド形成用液体スイッチ293においては、主流路221とバンド形成用流路292との交差点に堰き止め部258が形成されている。堰き止め部258の構成は、たとえば第三の実施形態に例示した構成とすることができる。また、主流路221には、堰き止め部258の両側にギャップ294が形成されている。ギャップ294は、たとえば、主流路221表面が疎水性処理された領域とすることができる。
【0216】
このようなバンド形成用液体スイッチ293を有するチップ289を用いる際には、まず、展開バッファー槽291に試料を展開する展開用バッファーを導入しておく。展開用バッファーは主流路221に形成されたギャップ294により、ギャップ294より下流側に侵入することができない。ところが、導入口217に試料を導入すると、毛細管力により堰き止め部258に速やかに試料が流入し、堰き止め部258に保持される。堰き止め部258に試料が保持されると、その両側に形成されたギャップ294に試料が一部はみ出す。すると、ギャップ294の手前で堰き止められていた展開用バッファーとはみ出した液とがつながり、展開用バッファーが主流路221中を移動する。このとき、主流路221中にバンド形成用流路292の幅で保持されていた試料が展開用バッファーと一緒に流れ、分離領域295へと導かれる。
【0217】
バンド形成用液体スイッチ293を設けることにより、導入口217に導入した試料のバンド幅を狭くした後主流路221中を移動させることができる。このため、試料の分離効率を向上させることができる。
【0218】
分離領域295は、主流路221中に形成される。分離領域295の構成として、たとえば
(A)複数の柱状体が設けられた構成、
(B)複数の凹部が設けられた構成、
(C)疎水性パッチが設けられた構成、
が挙げられる。(A)から(C)の具体的な構成については、第九〜第十一の実施形態において順に説明する。
【0219】
主流路221中の試料は分離領域295で分離され、各成分は分離領域295上の異なる位置に分布するようになる。分離領域295の側壁には、小孔が多数設けられており、この小孔を微細流路229として、流路230に連通している。微細流路229の表面は弱い疎水性であるため、当初は微細流路229から流路230に液体が移動することはない。
【0220】
分離領域295での展開が終わったら、液溜め284に発色試薬を含む液体を導入する。発色試薬が流路230中を移動すると、微細流路229中に主流路221と流路230から液体がはみ出ることにより両者が連通する。そして、主流路221中の成分と流路230中の成分が相互拡散する。ここで、流路230中を進行する発色試薬の移動速度は、分離領域295上の全域に展開されるのに充分速い。
【0221】
分離領域295上に展開された発色試薬は、主流路221上に展開された成分に応じて発色するため、分離領域295上に発色の濃淡パターンが形成される。そして、これらのパターンを順次検出槽223に分取することができる。なお、分離領域295に形成された濃淡パターンを画像解析に供して解析を行ってもよい。
【0222】
このような構成は、たとえばLDHアイソザイム群の解析に利用することができる。導入口217に導入されたLDHアイソザイム群は、その分子量に応じて分離領域295上に展開される。このため、濃淡パターンはアイソザイム群の量の多少を反映する。たとえば、心筋由来のLDHの位置において他の領域よりも濃く染まっている場合、心筋の疾病の可能性がある。
【0223】
以上のようにチップ289の構成を用いれば、さらに分離効率を向上させることができるため、試料中の成分の分析精度、感度を向上させることができる。なお、以上においては検出部214を有するチップ289を例に説明したが、測定部233を有するチップについても、本実施形態に係る分離部213の構成を適用することが可能である。
【0224】
なお、分離領域295は、主流路221に微粒子が充填された構成としてもよい。このとき、試料中の成分のうち、バッファー導入口220中に導入されたバッファーとの親和性が高い成分ほど速やかに移動し、試料中の成分の親和性に応じて展開される。主流路221に充填する微粒子としては、TLC(薄層クロマトグラフィー)において吸着剤として用いる材料等を用いることができる。具体的には、たとえば、シリカゲル、アルミナ、セルロース等を用い、粒径はたとえば5〜40nmとすることができる。たとえば微粒子としてシリカゲルを用いる場合、分離領域295へのシリカゲル粉体の充填は、主流路221の下流側に堰き止め部材を設けた上で、シリカゲル粉体、バインダ、および水の混合体を流路に流し込み、その後、この混合体を乾燥、固化させることにより、行うことができる。
【0225】
(第九の実施形態)
本実施形態では、第八の実施形態における
(A)複数の柱状体が設けられた構成
について具体的に説明する。
【0226】
この構成では、分離領域295には、複数の柱状体が設けられる。柱状体は、たとえば、基板を所定のパターン形状にエッチングすることにより形成することができるが、その作製方法は特に制限はない。
【0227】
柱状体の形状は、円柱、楕円柱等、擬円柱形状;円錐、楕円錐、三角錐等の錐体;三角柱、四角柱等の角柱のほか、ストライプ状の突起等、様々な形状を含む。柱状体のサイズは、幅はたとえば10nm〜1mm程度、高さはたとえば10nm〜1mm程度とすることができる。
【0228】
隣接する柱状体の間隔は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮、
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮、
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮、
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とすることができる。
【0229】
また、分離領域295中に一または二以上の柱状体配設部を設けることができる。柱状体配設部は柱状体群を含む。各柱状体配設部中の柱状体群は、互いに異なるサイズ、間隔で任意の配置とすることができる。また、柱状体を同一サイズとしてほぼ等間隔に規則正しく形成してもよい。
【0230】
隣接する柱状体配設部間の間隔には、試料の通過し得るパスが形成される。ここで、柱状体配設部間の間隔を柱状体間の間隔よりも大きくすると、巨大サイズの分子等を円滑に移動させることができるので、分離効率を一層向上させることができる。
【0231】
図38は、図36中の分離領域295の構造を詳細に示したものである。なお、図38に示した構造は、図38以降の図においても適用することが可能である。図38中、基板216に幅W、深さDの溝部が形成され、この中に、直径φ、高さDの円柱形状のピラー125が等間隔で規則正しく形成されている。ピラー125間の間隙を試料が透過する。隣接するピラー125間の平均間隔はpである。各寸法は、たとえば図6中に示された範囲とすることができる。
【0232】
なお、本明細書における実施形態中、「ピラー」は柱状体の一形態として示したものであり、円柱ないし楕円柱の形状を有する微小な柱状体をいう。また、「ピラーパッチ」および「パッチ領域」は、柱状体配設部の一形態として示したものであり、多数のピラーが群をなして形成された領域をいう。
【0233】
図39は、図36の分離領域295の断面図である。基板216に形成された溝部によって形成される空間内に多数のピラー125が形成されている。ピラー125の間隙は、分離用の流路となる。
【0234】
多数のピラー125が密集して形成された構造を試料分離手段として用いる場合、主として2つの分離方式が考えられる。一つは、図40に示す分離方式である。もう一つについては、図51を参照して後述する。図40の方式では、分子サイズが大きい程、ピラー125が障害となり、図中の分離領域295の通過時間が長くなる。分子サイズの小さいものは、ピラー125間の間隙を比較的スムーズに通過し、分子サイズが大きいものに比べて短時間で分離領域を通過する。
【0235】
ピラー125を用いることにより、試料中の複数の成分を確実に分離することができる。
【0236】
また、以上においては柱状体を一定間隔で配設した例を示したが、柱状体配設部内において柱状体を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで、大、中、小等の複数の大きさの分子またはイオンをさらに効率的に分離することができる。また、柱状体の配置に関し、試料の進行方向に対して互い違いに柱状体を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、目詰まりを効果的に防止しつつ目的の成分を効率的に分離することができる。
【0237】
また、分離領域295に設けられる柱状体は、その頂部の直径が底部の直径よりも小さい形状を有することが好ましい。すなわち、柱状体が錐体ないし擬錐体形状を有し、断面が末広がりになっていることが好ましい。特に柱状体表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成する場合、このような形状とすることによる効果が顕著となる。たとえば、柱状体を熱酸化してその表面に熱酸化膜を設けようとすると、柱状体の底部近傍で酸化が進み、柱状体の高さが減少してアスペクト比が低下することがある。柱状体の形状を上記のようにすると、このような酸化によるアスペクト比の低下を効果的に防止することができる。
【0238】
また、柱状体の形状として上述の形状を採用した上で、試料分離領域に設けられた柱状体を、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成することが望ましい。こうすることによって、酸化によるアスペクト比の低下を一層効果的に防止することができる。図41は、このような構造を採用した柱状体の一例である。図41に示したナノ構造体では、基板216表面に円錐状の柱状体が設けられ、その表面がシリコン酸化膜104により覆われている。柱状体は、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成されている。
【0239】
このような配置とすることにより、基板216を熱酸化して表面をシリコン酸化膜で覆った場合、柱状体底部のシリコン酸化膜104の膜厚が薄くなり、柱状体のアスペクト比を良好に維持できる。この理由は必ずしも明らかではないが、円錐状の柱状体の側面が互いに接した構造となっているため、柱状体の底部近傍で酸化が進行した際、圧縮応力が発生し、それ以上の酸化が進みにくくなることによるものと推察される。
【0240】
次に、基板216がシリコンの基板110である場合を例に、図41に示したナノ構造体の形成方法について図42(A)〜図42(D)および図43(E)〜図43(G)を参照して説明する。ここでは、まず図42(A)のように、基板110上にシリコン酸化膜105、レジスト膜107をこの順で成膜する。次いで電子線露光等によりレジスト膜107をパターニングして所定の開口部を有するパターンを形成する(図42(B))。
【0241】
次いでこのレジスト膜107を用いてシリコン酸化膜105をドライエッチング等することにより、シリコン酸化膜105からなるハードマスクが形成される(図42(C))。レジスト膜107を除去した後(図42(D))、基板110をドライエッチングすることにより(図43(E))、アスペクト比の高い柱状体が得られる。シリコン酸化膜105を除去後(図43(F))、たとえば850℃以上の高温で表面を酸化し、シリコン酸化膜104を形成する(図43(G))。以上の工程により、図41に示すナノ構造体が得られる。このナノ構造体を主流路221上に形成し、試料の分離に用いることができる。
【0242】
図42(A)〜図42(D)および図43(E)〜図43(G)においては、レジストマスクを用いて形成したハードマスクにより基板110をエッチングしたが、レジストマスクを用いて直接基板110をエッチングすることもできる。図44(A)〜図44(C)はこの方法を示す図である。図44(A)〜図44(C)に示したプロセスでは、基板110上にレジスト900を形成した後(図44(A))、パターニングし(図44(B))、これをマスクとして基板110をエッチングして柱状体を形成している(図44(C))。
【0243】
次に、柱状体を有する分離領域295を形成する別の方法について図45(A)〜図49を用いて説明する。図45(A)〜図49において、右側の図は上面図であり、左側の図は断面図である。基板216として、シリコン基板201を用いる。まず、図45(A)に示すように、シリコン基板201上にシリコン酸化膜202、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト203をこの順で形成する。シリコン酸化膜202、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト203の膜厚は、それぞれ35nm、55nmとする。次に、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となるアレー領域を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図45(B)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
【0244】
なお、下記に示す構造を有するカリックスアレーン電子ビームネガレジスト203は、電子線露光用のレジストとして用いられ、ナノ加工用のレジストとして好適に利用することができる。
【0245】
【化1】
【0246】
つづいて全面にポジ型フォトレジスト205を塗布する(図45(C))。膜厚は1.8μmとする。その後、アレー領域が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図45(D))。
【0247】
次に、シリコン酸化膜202をCF4、CHF3の混合ガスを用いてRIEエッチングする。エッチング後の膜厚を35nmとする(図46(A))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理をする(図46(B))。つづいて、シリコン基板201をHBrガスを用いてECRエッチングする。エッチング後のシリコン基板201の膜厚を400nmとする(図46(C))。つづいてBHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜202を除去する(図46(D))。
【0248】
次に、シリコン基板201上にCVDシリコン酸化膜206を堆積する(図47(A))。膜厚は100nmとする。つづいて全面にポジ型フォトレジスト207を塗布する(図47(B))。膜厚は1.8μmとする。つづいて図47(C)のように、流路領域をマスク露光し(アレー領域を保護)、現像する。その後、CVDシリコン酸化膜206をバッファードフッ酸でウェットエッチングする(図47(D))。その後、有機洗浄によりポジ型フォトレジスト207を除去し(図48(A))、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド)を用いてシリコン基板201をウェットエッチングする(図48(B))。つづいてCVDシリコン酸化膜206をバッファードフッ酸でウェットエッチングして除去する(図48(C))。
【0249】
そして、この状態のシリコン基板201を炉に入れてシリコン熱酸化膜209を形成する(図48(D))。このとき、シリコン熱酸化膜209の膜厚がたとえば20nmとなるように熱処理条件を選択する。このような膜を形成することにより、流路の表面を親水化し、流路内に緩衝液を導入する際の困難を解消することができる。その後、流路上に被覆210を設けてもよい(図49)。被覆210は、図3に示した蓋226として用いることができる。
【0250】
以上により、柱状体を有する流路が得られる。この方法では、微細な柱状体配列構造を精度よく確実に形成することが可能である。
【0251】
さらに、柱状体を有する流路の別の作製方法として、金型を用いてマスクのパターニングを行う方法について説明する。図50(A)〜図50(D)は、分離領域295の製造方法を示す工程断面図である。まず図50(A)に示すように、表面に樹脂膜160が形成されたシリコンからなる基板110と、成型面を所定の凹凸形状に加工した金型106とを用意する。樹脂膜160の材質はポリメチルメタクリレート系材料とし、その厚みは200nm程度とする。金型106の材質は特に制限がないが、Si、SiO2、SiC等を用いることができる。
【0252】
次いで図50(B)に示すように、金型106の成型面を樹脂膜160表面に当接させた状態で加熱しながら加圧する。圧力は600〜1900psi程度とし、温度は140〜180℃程度とする。その後、基板110を脱型し、酸素プラズマアッシングを行い、樹脂膜160をパターニングする(図50(C))。
【0253】
つづいて樹脂膜160をマスクとして基板110をドライエッチングする(図50(D))。エッチングガスは、たとえばハロゲン系ガスを用いる。エッチング深さは約0.4μmであり、エッチングにより形成される柱状体の間隔は約100nmである。エッチングのアスペクト比(縦横比)は4:1程度である。このとき、エッチングによって生じた凹部の底近傍では、マイクロローディング効果によりエッチングの進行が鈍化し、凹部の先端が狭まり、曲面となる。この結果、柱状体は末広がりになり、その断面形状は、頂部よりも底部において幅広となる。また、柱状体間の距離が狭いため、各柱状体は、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成されることとなる。
【0254】
図50(D)の後、800〜900℃の炉アニールにより熱酸化を行い、柱状体の側壁にシリコン熱酸化膜(図50(A)〜図50(D)では不図示)を形成する。このとき、柱状体および凹部の形状が上述した末広がりの形状となっているため、図41を用いて前述したように、柱状体底部の酸化膜厚が薄くなり、柱状体のアスペクト比を良好に維持できる。
【0255】
以上の工程により、基板110上に柱状体群が形成される。このようにすれば、電子線露光によるマスク開口部の形成工程が不要となるため、生産性が顕著に向上する。
【0256】
図50(A)〜図50(D)においては、マスクとなる樹脂膜160のパターニングを行う際に金型を用いたが、この金型を用いて直接柱状体を形成することもできる。具体的には、所定のプラスチック材料を基板上にコートした後、上記と同様の工程により囲う成型することができる。基板上にコートするプラスチック材料は、成型性が良好で、かつ、適度な親水性を有するものが好ましく用いられる。たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン−ビニルアルコール樹脂(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート等が好ましく用いられる。疎水性樹脂であっても、成型後、上記コーティングを行えば流路表面を親水性とすることができるので利用可能である。
【0257】
なお、分離領域295を図40のように構成した場合、試料中に巨大なサイズの物質を含む際に目詰まりを起こすことがある。いったん発生した目詰まりを解消することは一般に困難である。
【0258】
目詰まりの問題は、分子サイズの小さい物質を多種類含む試料を高い分離能で分離しようとしたとき、より顕著となる。分子サイズの小さい物質を多種類含む試料を高い分離能で分離するためには、ピラー125間の間隙をある程度小さく設定することが必要となる。ところが、そのようにすると、大きいサイズの分子にとっては、より目詰まりしやすい形態となる。
【0259】
この点、図51に示す分離方式とすると、このような問題が解消される。図51中、分離領域295には、複数の柱状体配設部(ピラーパッチ121)が離間して形成されている。各柱状体配設部には、それぞれ、同一サイズのピラー125が等間隔に配置されている。この分離領域295では、大きな分子が小さな分子よりも先に通過していく。分子サイズが小さいほど、分離領域中でトラップされて長い経路を通ることになる一方、大きいサイズの物質は、隣接するピラーパッチ121間のパスを円滑に通過するからである。
【0260】
この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。こうした効果をより顕著にするためには、隣接するピラーパッチ121間のパスの幅を、ピラーパッチ121中のピラー125間の間隙よりも大きくするのが良い。パスの幅は、ピラー125間の間隙の好ましくは2〜20倍程度、より好ましくは5〜10倍程度とする。
【0261】
複数の柱状体配設部を有する分離領域295は、たとえば以下のようにして作製することができる。図52(A)〜図52(C)および図53(D)〜図53(E)は、分離領域295の作製工程を示す図である。
【0262】
まず、図52(A)に示したように、シリコン基板201上に膜厚35nmのシリコン酸化膜202を形成する。次に、膜厚55nmのカリックスアレーン電子ビームネガレジストを形成し、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となるアレー領域を露光する。現像はキシレンを用いて行うことができる。また、リンスはイソプロピルアルコールにより行うことができる。この工程により、図52(B)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
【0263】
次に、シリコン酸化膜202をCF4、CHF3の混合ガスを用いてRIEエッチングする(図52(C))。そして、レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理し、シリコン基板201をHBrガスおよび酸素ガスを用いてECRエッチングする(図53(D))。その後、BHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜を除去する。こうして得られた基板を炉に入れてシリコン熱酸化膜209を形成する(図53(E))。以上により、複数の柱状体配設部を有する流路が得られる。
【0264】
なお、この構成においても、柱状体配設部内において柱状体を異なる間隔で配設することもできる。
【0265】
たとえば、図54(A)のように、流れの向きにしたがってピラーの間隔を小さくした柱状体配設部を採用することができる。この場合、柱状体配設部に進入した分子は移動するほど移動速度が低下するため、柱状体配設部に進入することができない大きめの分子との保持時間差が顕著となる。その結果、分離能の向上が実現される。一方、図54(B)のように、流れの向きにしたがってピラーの間隔を大きくした柱状体配設部を採用することもできる。このようにすることにより、柱状体配設部における目詰まりを抑制することができるため、スループットの向上を図ることが可能となる。なお、流れの向きにしたがってピラーの間隔を小さくしたり、大きくしたりする形態は、柱状体配設部を有しない分離領域にも適用することができる。
【0266】
さらに、複数の柱状体配設部をまとめてさらに大きな柱状体配設部とし、その大きな柱状体配設部同士の間隔を、もとの柱状体配設部同士の間隔よりも広くするような階層的な配置も可能である。その一例を図55に示す。小さなピラーパッチ712が七つ集合することにより中程度のピラーパッチ713を形成し、さらに中程度のピラーパッチ713が七つ集合することにより大きなピラーパッチ714を形成している。このように、柱状体配設部を階層的に構成することにより、幅広いサイズレンジの分子を同時にかつ大きい順に分離することが可能になる。すなわち、より大きな分子はより大きな柱状体配設部の間を通過するのに対して、中等度のサイズの分子は中等度のサイズの柱状体配設部の内部に捕捉されて分離される。さらに小さな分子は、さらに小さな柱状体配設部の内部に捕捉されて分離される。このため、小さな分子ほど流出に時間がかかり、大きさが異なる複数の分子を、大きい順に分離することが可能になる。
【0267】
図51に示した分離方式を実現する試料分離領域の構造について、図56を参照して説明する。図56に示したように、この試料分離領域は、流路の壁129によって囲まれた空間内にピラーパッチ121が等間隔で配置された構造となっている。ピラーパッチ121は、それぞれ多数のピラーにより構成されている。ここでは、ピラーパッチ121の幅Rは、10μm以下とする。一方、ピラーパッチ121間の間隔Qは20μm以下とする。
【0268】
図51においては、ピラーが密集してなるピラーパッチ121は、上面からみて円形の領域として形成されているが、円形に限らず他の形状であってもよい。図57の例では上面からみてストライプ状の領域にパッチ領域130が形成されている。この形態においては、パッチ領域130の幅Rは10μm以下、パッチ領域130間の間隔Qは10〜100μmとする。
【0269】
また、図58は菱形のピラーパッチ121を採用し、さらに複数のピラーパッチ121を菱形状になるように配置させた例である。この場合、パスと流れの向きとが一定の角度をなしており、分子とピラーパッチ121との接触頻度が上昇するため、ピラーパッチ121を構成するピラーの間隔よりも小さい分子がピラーパッチ121に捕捉される確率は上昇する。そのため、ピラーパッチ121に捕捉された分子と捕捉されない大きめの分子との保持時間差が顕著となるため、分離能の向上を図ることができる。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、ピラーパッチ121同士の間隔h、ピラーパッチ121の対角線dおよびD、ピラーパッチを構成するピラーの間隔pについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより目的とする分子を精度良く分離することができる。
h:R≦h<10R
p:0.5R≦p<2R
d:5h≦d<20h
D:5h≦D<20h
【0270】
また、パッチ領域を構成するものはピラーに限られない。たとえば、板状体が一定の間隔で配置されてなるパッチ領域とすることもできる。図59(A)〜図59(C)にこの例を示す。図59(A)は上面図であり、図中のA−A’断面図を図59(B)に示す。このパッチ領域を図59(C)に示すように配置する。一旦パッチ領域130に捕捉された分子は主流路221に脱出するまでパッチ領域130に留まることとなる。したがって、パッチ領域に捕捉された分子と捕捉されない分子との保持時間の差が顕著となるため分離能が向上する。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、パッチ領域130同士の間隔Λ、パッチ領域130を構成する板状体同士の間隔λについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより、目的とする分子を精度良く分離することができる。
Λ:R≦Λ<10R
λ:0.5R≦λ<2R
【0271】
また、上記の柱状体または板状体の頂部と流路の上面とは接していてもよいし、離間していてもよい。離間している場合は、柱状体あるいは板状体と流路上面との間に間隙が存在するため、大きな分子の通過機会が増加する。このため、さらなる目詰まりの解消を図ることができる。また、小さな分子についても、この間隙を経由して上方からパッチ領域へ入り込む機会が増加することから、分離効果がさらに向上する。このような形態は、流路の上面となる部材(カバーガラスなど)にあらかじめ溝部を設けておくこと、または柱状体や板状体の高さを流路の深さよりも低く作製することによって容易に実現することが可能である。
【0272】
また、柱状体配設部間のパスの幅及び、柱状体配設部内の柱状体の間隔は、分離しようとする成分、たとえば核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などの有機分子やキレートした金属イオンなどの分子またはイオンのサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば柱状体の間隔は、分離したい分子群のサイズの中央値に相当する慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、上記中央値に相当する慣性半径と、柱状体の間隔との差異を、100nm以内、より好ましくは10nm以内、最も好ましくは1nm以内とする。柱状体の間隔を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
【0273】
隣接する柱状体配設部間の間隔(パスの幅)は、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と柱状体配設部間の間隔との差異を、当該分子の慣性半径の10%以内、より好ましくは5%以内、最も好ましくは1%以内とする。柱状体配設部間の間隔が広すぎると、サイズの小さい分子の分離が充分に行われなくなることがあり、柱状体配設部間の間隔が狭すぎると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
【0274】
以上においては柱状体を基板216側に設ける構成を例に説明したが、柱状体は、蓋226に設けてもよい。図87は、分離領域295の他の構成を示す図であり、図36の分離領域295のE−E’方向の断面図である。図87および分離領域295では、蓋226にレジストパターン299が形成されている。また、図88は、レジストパターン299の平面図である。図88では、ストライプ状の柱状体が互いに平行に複数配置された構成のレジストパターン299を示している。
【0275】
レジストパターン299の材料は、たとえば、樹脂とすることができる。また、レジストパターン299は、蓋226の所定の領域を覆う樹脂膜とすることができる。主流路221において、レジストパターン299の下部の領域は流路の深さが浅いのに対し、レジストパターン299が設けられていない領域は深い。このような構成を利用すれば、レジストパターン299の下部の領域を通過できる成分と通過できない成分とに試料中の成分を分離することができる。
【0276】
図87および図88に示した構成は、基板216に対してナノスケールのリソグラフィーを行うことなく形成することができる。このため、チップを安価で安定的に生産することができる。たとえば、蓋226をガラス基板とする場合、ガラス基板表面にレジストを塗布し、これをパターニングする。こうしてレジストパターン299が形成された蓋226を、レジストパターン299の形成面が基板216側となるようにして接合すれば、図87の分離領域295が得られる。
【0277】
なお、図87および図88の構成において、流路の深さは分離対象に応じて適宜選択できるが、たとえば分離対象が10kb程度のDNA分子である場合、レジストパターン299の下部における流路深さを数100nm程度とし、レジストパターン299の形成されていない領域の下部の流路深さを数〜数十μm程度とすることができる。
【0278】
本実施形態の構成では、分離領域295に複数の柱状体が配設されるため、試料中の成分の分離を効率よく確実に行うことができる。
【0279】
(第十の実施形態)
本実施形態では、第八の実施形態における
(B)複数の凹部が設けられた構成
について具体的に説明する。
【0280】
凹部は、円柱、楕円柱、円錐、楕円錐のものが好適に用いられるが、直方体、三角錐等、さまざまな形状を採用することができる。また、凹部のサイズは、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とすることができる。
【0281】
凹部の深さについても用途に応じて適宜設定することができるが、たとえば5〜2000nmとすることができる。また、隣接する凹部の平均間隔は、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは70nmとする。下限については特にないが、たとえば5nm以上とすることができる。なお、凹部の間隔とは、凹部の中心点間距離をいう。
【0282】
図60は、本実施形態に係るチップの分離領域295の構造を詳細に示したものである。図60中、基板216に幅W、深さDの溝部が形成され、この溝の底部に、直径φ、深さdの円柱形状の穴が等間隔pで規則正しく形成されている。なお、流路の幅W、流路の深さD、穴の直径φ、穴の深さd、穴の間隔pについては、たとえば図示されたサイズとすることができる。また、後述の図62、図63、図64、図65に示される形態においても、W、D、φ、d、pについて同様のサイズとすることができる。
【0283】
次に、多数の穴が設けられた構造が試料分離手段として機能する理由について、図61を参照して説明する。図61中、分離領域295には、複数の穴部が所定の間隔で形成されている。この領域を通過する際、穴の径よりも大きなサイズの分子は、穴にトラップされることなく流路を素通りするため、短い時間でこの領域を通過する。一方小さいサイズの分子は、基板に設けられた穴にトラップされて長い経路を通ることになる。この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で試料が分離される。
【0284】
このように、分離領域295に凹部が形成された構成では、目詰まりの原因となりやすいサイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。
【0285】
図61に示した分離方式を実現する試料分離領域の構造の例について、図62を参照して説明する。図62に示したように、この試料分離領域は、開口部最大径φの凹部が間隔pにて規則的に形成されている。
【0286】
図63は他の試料分離領域の例である。この例では凹部が列をなして整然と配列されている。
【0287】
図64は他の試料分離領域の例である。この例では流路を進むにしたがってサイズの大きな凹部が配列された構成となっている。
【0288】
図65は他の試料分離領域の例である。この例では開口径の異なる凹部がランダムに配列された構成となっている。
【0289】
図66は他の試料分離領域の例である。この例では凹部がストライプ状に形成されている。すなわち、凹部はホールではなく、溝となっている。この場合、φ、pはそれぞれ溝の幅、溝と溝との間隔を表している。
【0290】
図67は他の試料分離領域の例である。この例では、流路を進むにしたがって幅が広くなる溝が流路中に設けられた構成となっている。
【0291】
図68は他の試料分離領域の例である。図66と同様、凹部がストライプ状に形成されているが、試料の流れ方向に対するストライプの方向が、図66では平行であったのに対し、図68では垂直の関係となっている。この場合においても、φ、pはそれぞれ溝の幅、溝と溝との間隔を表している。
【0292】
分離領域295を、図64、図65、図67に示すような構成とすることにより下記のような効果が得られる。
【0293】
穴や溝のサイズよりも大きな分子には、穴による分離効果が得られ難い。従って、穴や溝のサイズを一定にすると、その穴や溝のサイズよりも大きなサイズの分子に対する分解能は小さい分子に比べて低下してしまう。また、穴や溝のサイズを一定にすると、大きな分離効果が得られる分子サイズのレンジが狭くなってしまう。そのため、分離領域295を図64、図65、図67に示すような構造とすることにより、大きなサイズの分子に対する分解能を高くすることができるとともに、十分な分離効果が得られる分子サイズのレンジを広くすることができる。
【0294】
凹部の開口部の最大径は、分離しようとする成分のサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば、分離したい分子群のサイズの中央値に相当する慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとしてもよい。
具体的には、上記中央値に相当する慣性半径と、凹部の開口部の最大径との差異を、100nm以内、より好ましくは10nm以内、最も好ましくは1nm以内とする。凹部の開口部の最大径を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
【0295】
また、以上の構成では、凹部を一定間隔で配設した例を示したが、試料分離領域内において凹部を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで大・中・小等の複数の大きさの分子・イオンを効率的に分離することができる。また、凹部の配置に関し、図62に示されるように、試料の進行方向に対して互い違いに凹部を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、凹部と分子との遭遇機会が増すため、目詰まりを効果的に防止しつつ目的の成分を効率的に分離することができる。
【0296】
また、以上の構成では、凹部が円柱状である例を示したが、凹部の形状はこれに限られない。たとえば、凹部の内径が底面に近づくに従って小さくなっているテーパー状の形態を採用することもできる。具体的には、図69(A)に示されるように、凹部の内径が段階的に小さくなっている形態や、図69(B)または図69(C)に示されるような、凹部の内径が連続的に小さくなっている形態が挙げられる。これらの場合、小さい分子ほど凹部の奥深くまで移動可能であるため、当該凹部に滞在する時間が長くなる。その結果、分離能がさらに向上する。
【0297】
このようなテーパー状の凹部は種々の手法により設けることができる。例えば上記した陽極酸化法により凹部を設ける際に、電圧を徐々に降下させることにより、テーパー状の凹部を設けることができる。
【0298】
また、エッチングによりテーパー状の凹部を設けることも可能である。例えば基板としてシリコンを用いる場合、まず、設けようとする凹部の底面の内径と同程度の内径を有する縦穴をドライエッチングにより設ける。次に、この縦穴に対して等方性のエッチング液を用いたウェットエッチングを行う。このとき、縦穴におけるエッチング液の交換速度は、縦穴の底面において最も小さく、縦穴の底面から開口部へ向かうにつれて大きくなる。このため、縦穴の底面付近ではサイドエッチングがほとんど生じず、内径はほとんど広がらない。その一方で、底面から開口部へ近づくにつれてサイドエッチングの程度が大きくなることから、それに伴って内径も広がることになる。こうしてテーパー状の凹部を設けることもできる。
【0299】
さらに、以上の構成においては、凹部を平面上に配置させた例を示したが、凹部を立体的に配置させることも可能である。例えば、流路に分離板を設けることにより流路を二層に分割し、分離板および流路壁に凹部を設けることができる。
【0300】
本実施形態の構成では、小さい分子ほど流出が遅くなるという特性を有している。大きな分子と同様の迅速さで小さい分子を分取するために、上記の分離板に目的の分子のサイズと同程度の口径の貫通孔を設けることができる。このようにすれば、目的とする小さい分子は、凹部の設けられた流路を迂回することができる。そのため、大きな分子と同様の迅速さで小さな分子を分取することができるとともに、それ以外の分子の分離を実現することが可能となる。
【0301】
図70(A)〜図70(C)は流路を二層に分割した形態の一例を示す図である。図70(A)は、流れ方向に対する垂直断面図である。ここでは、基板216がシリコン基板417である場合を例に説明する。シリコン基板417に設けられた流路409が分離板419により二層に分割されている。図70(B)は、図70(A)中のA−A’面における断面図である。分離板419には部分的に貫通孔420および凹部421が設けられており、貫通孔420を通過可能な分子は図中の下方の流路409に移動する。このような構造を採用することにより、流路が一層である構造では流出時間が遅い、小さな分子を迅速に分取することが可能となる。さらに分離板419に、凹部421よりも小さな凹部422を設けることもできる(図70(C))。このようにすることにより、下方の流路409において小さな分子の精密な分離を実現できる。
【0302】
また、図71(A)または図71(B)のように、流路にピラーや突起を設け、そのピラーまたは突起および流路壁に凹部を設けることもできる。このようにすることにより、凹部を備えた分離領域の面積を増大させることができるため、分離能の向上を図ることができる。
【0303】
次に、基板への凹部の形成方法について説明する。凹部は、基板にエッチングを施すことによって作製することができる。図72(A)〜図72(J)は、基板への凹部の作製工程を説明するための図である。ここでは、基板216がシリコン基板201である場合を例に説明する。
【0304】
まず、図72(A)に示すように、シリコン基板201を用意し、その上にカリックスアレーン電子ビームネガレジスト203を塗布する(図72(B))。次に、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となる部分を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図72(C)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
【0305】
つづいて、これをマスクとして、シリコン基板201をエッチングする(図72(D))。レジストを除去した後(図72(E))、再度全面にポジ型フォトレジスト205を塗布する(図72(F))。その後、流路部分が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図72(G))。ポジ型フォトレジスト205は、シリコン基板201に所望の凹部(穴部)が形成されるようにパターニングされている。
【0306】
次に、シリコン基板201をCF4、CHF3の混合ガスを用いてRIEエッチングする(図72(H))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後(図72(I))、必要に応じて被覆210を設け、凹部を完成する(図72(J))。なお、被覆210は、以上の実施形態で示した蓋226として用いることができる。
【0307】
また、凹部は陽極酸化法によっても形成することができる。陽極酸化法とは、電解液中で酸化させたい金属(例えばアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルなど)を陽極として通電し、酸化させる処理のことをいう。この処理法においては、酸性電解液を用い、通電による水の電気分解により、陰極では水素が生成するが、陽極では酸素が生成せず、金属表面に酸化被膜層が形成される。アルミニウムの場合、この酸化被膜層はポーラスアルミナと呼ばれ、図73に示されるように、ポーラスアルミナ層416は各セル431の中央に細孔430を持った周期的構造を有する。これらの構造は自己組織的に形成されるため、パターニングを必要とせず、容易にナノ構造を得ることができる。セルの間隔は酸化電圧に比例(2.5nm/V)し、アルミニウムの場合では酸化電圧により硫酸(〜30V)、シュウ酸(〜50V)、リン酸(〜200V)が酸性電解液として使用される。
【0308】
一方、細孔のサイズは酸化条件および酸化後の表面処理に依存する。酸化電圧の上昇に従って細孔の直径は拡大する。例えば、酸化電圧を5V、25V、80V、120Vとしたとき、それぞれ10nm、20nm、100nm、150nm程度の最大径を有する、開口部が円形ないし楕円形の細孔ができる。また、ポーラスアルミナを形成後、例えば3wt%のリン酸によりその表面をエッチングする表面処理が行われるが、この表面処理の時間が長いほど、細孔の直径は拡大することになる。
【0309】
以上のように、酸化電圧や表面処理の時間を適宜選択することにより、規則正しく整列し、かつ所望の間隔および直径を有する凹部を設けることが可能となる。
【0310】
なお、ポーラスアルミナをより均質に設けるためには、図74または図75に示したように、陽極酸化する対象のアルミニウム層の周辺部を絶縁膜で覆いつつ、上記の陽極酸化を実施することが好ましい。たとえば図74は、絶縁性基板の上に形成されたアルミニウム層402の周辺部が絶縁膜411で覆われた状態を示す上面図である。絶縁膜411としては、たとえば感光性ポリイミドなどの絶縁性の樹脂を用いることができる。このようにすることにより、電極取付部412の周辺でのみ陽極酸化反応が速く進み、陽極から遠い部分では酸化されない領域ができる現象を抑制することができるため、アルミニウム層402全体にポーラスアルミナを均質に設けることが可能となる。
【0311】
また、阿相らの方法(J.Vac.Sci.Technol.,B,19(2),569(2001))により、ポーラスアルミナを設けたい箇所に、モールドを用いて予め窪みを設けてから陽極酸化を実施することにより、ポーラスアルミナを所望の配置に設けることもできる。この場合も上記同様、電圧を制御することにより凹部の最大径を望みのものとすることができる。
【0312】
また、図75は、アルミニウム層402の周辺部が導電体層413で覆われた状態を示す図である。図75(A)が上面図、図75(B)が断面図である。図75(A)、図75(B)に示したように、陽極酸化されない導電体(金など)をスライドガラス401上に設けられたアルミニウム層402に蒸着させることにより導電体層413を形成後、陽極酸化を実施することによってもアルミニウム層402全体にポーラスアルミナを均質に設けることが可能となる。なお、陽極酸化実施後、導電体層413は導電体が金の場合、金エッチャントにより取り除かれる。金エッチャントはヨウ化カリウムとヨウ素の水溶液を混合することによって得られる。混合比はヨウ化カリウム:ヨウ素:水=1:1:3(重量比)とする。
【0313】
さらに、流路壁に対してDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングするなど、親水化処理をすることが好ましい。この結果、良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、例えば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質が挙げられる。このような物質としてはリピジュア(登録商標、日本油脂社製)などが例示される。リピジュア(登録商標)を用いる場合は、0.5wt%となるようにTBEバッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を流路内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0314】
分離領域295を以上のように構成することにより、チップ上での試料の分離を効率よく確実に行うことができる。
【0315】
(第十一の実施形態)
本実施形態では、第八の実施形態における
(C)疎水性パッチが設けられた構成
について具体的に説明する。
【0316】
本実施形態の分離領域295の表面は、2次元的に略等間隔で配置された複数の疎水性領域と、疎水性領域を除く試料分離部表面を占める親水性領域とからなっている。図76は、第八の実施形態における分離領域295の構造を詳細に示したものである。図76中、基板701に深さDの溝部が形成され、この溝部に、直径φの疎水性領域705が等間隔で規則正しく形成されている。なお、基板701は、以上の実施形態で述べたチップの基板216として用いることができる。
【0317】
本実施形態において、疎水性領域705は、疎水基を有するカップリング剤を基板701表面に付着ないし結合することにより形成している。
【0318】
図76中、各部の寸法は、たとえば以下のようにする。
W:10〜20μm
D:50nm〜10μm
Φ:10〜1000nm
p:50nm〜10μm
【0319】
各部のサイズは、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、pについては、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とする。
【0320】
また、深さDの大きさは、分離性能を支配する重要な因子であり、分離対象となる試料の慣性半径の1〜10倍程度とすることが好ましく、1〜5倍程度とすることがより好ましい。
【0321】
図77(A)および図77(B)は、図76の構造の上面図(図77(A))および側面図(図77(B))である。疎水性領域705は、通常、0.1〜100nm程度の膜厚となる。疎水性領域705以外の部分は基板701の表面が露出した状態となっている。基板701としてガラス基板のように親水性材料を選択することにより、図76の構造において、親水性表面上に疎水性表面が所定のパターンをもって形成された構成となり、試料分離機能が発現する。すなわち、キャリア溶媒として親水性の緩衝液等を用いると、試料は親水性表面上のみを通過し、疎水性表面上は通過しない。このため、疎水性領域705が試料通過の障害物として機能し、試料分離機能が発現するのである。
【0322】
次に、疎水性領域705のパターン形成による分離領域295での分離方式について、分子サイズに着目して説明する。分離方式として主として2つの方式が考えられる。一つは、図78に示す分離方式である。この方式では、分子サイズが大きい程、疎水性領域705が障害となり、図示した分離部を通過するのに要する時間が長くなる。分子サイズの小さいものは、疎水性領域705間の間隙を比較的スムーズに通過し、分子サイズが大きいものに比べて短時間で分離領域295を通過する。
【0323】
図79は、図78とは逆に大きな分子が早く、小さな分子が遅く流出する方式となっている。図78の方式では、試料中に巨大なサイズの物質を含む場合、このような物質が疎水性領域705の間隔を塞いでしまい、分離効率が低下する場合がある。図63に示す分離方式では、このような問題が解消される。図79中、主流路221中に複数の試料分離部706が離間して形成されている。各試料分離部706内には、それぞれ、略同一サイズの疎水性領域705が等間隔に配置されている。
【0324】
試料分離部706間には、大きな分子が通り抜けられるような広幅のパスが設けられているため、図78とは逆に大きな分子が早く、小さな分子が遅く流出するようになる。分子サイズが小さいほど、分離領域中でトラップされて長い経路を通ることになる一方、大きいサイズの物質は、隣接する試料分離部706間のパスを円滑に通過するからである。この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、前述した疎水性領域705間に大きな分子がトラップされて分離効率が低下するといった問題が低減され、分離効率が顕著に改善される。こうした効果をより顕著にするためには、隣接する試料分離部706間のパスの幅を、試料分離部706中の疎水性領域705間の間隙よりも大きくするのが良い。パスの幅は、疎水性領域705間の間隙の好ましくは2〜200倍程度、より好ましくは5〜100倍程度とする。
【0325】
なお、図79の例では、各試料分離部に同じサイズ、間隔の疎水性領域705を形成しているが、それぞれの試料分離部で、異なるそれぞれサイズ、間隔の疎水性領域705を形成してもよい。
【0326】
分子サイズの物質を分離する場合、試料分離部間のパスの幅及び、試料分離部内の疎水性領域705の間隔は、分離しようとする成分(核酸、アミノ酸、ペプチド・タンパク質などの有機分子、キレートした金属イオンなどの分子・イオン)のサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば疎水性領域705の間隔は、試料中に含まれる最小サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最小サイズの分子の慣性半径と、疎水性領域705の間隔との差異を、100nm以内、より好ましくは50nm以内、最も好ましくは10nm以内とする。第一の領域の間隔を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
【0327】
隣接する試料分離部706間の間隔(パスの幅)は、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と試料分離部間の間隔との差異を、当該分子の慣性半径の10%以内、より好ましくは5%以内、最も好ましくは1%以内とする。試料分離部706間の間隔が広すぎると、サイズの小さい分子の分離が充分に行われなくなることがあり、試料分離部706間の間隔が狭すぎると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
【0328】
また、上記実施形態では疎水性領域を一定間隔で配設した例を示したが、試料分離部706内において疎水性領域を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで大・中・小等の複数の大きさの分子またはイオンを効率的に分離することができる。また、疎水性領域の配置に関し、試料の進行方向に対して互い違いに疎水性領域を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、目的の成分を効率的に分離することができる。
【0329】
次に、本実施形態の構成を有する分離領域295の製造方法について、図80(A)〜図80(D)および図81(A)〜図81(B)を用いて説明する。初めに、図80(A)のように、基板701上に電子ビーム露光用レジスト702を形成する。続いて、電子ビームを用い、電子ビーム露光用レジスト702を所定の形状にパターン露光する(図80(B))。露光部分を溶解除去すると、図80(C)のように所定の形状にパターニングされた開口部が形成される。その後、図80(D)のように酸素プラズマアッシングを行う。なお、酸素プラズマアッシングは、サブミクロンオーダーのパターンを形成する際には必要となる。酸素プラズマアッシングを行えばカップリング剤の付着する下地が活性化し、精密なパターン形成に適した表面が得られるからである。一方、ミクロンオーダー以上の大きなパターンを形成する場合においては必要性が少ない。
【0330】
アッシング終了後、図81(A)の状態となる。図中、親水性領域703はレジスト残さおよび汚染物が堆積して形成されたものである。この状態で、疎水性領域705を形成する(図81(B))。疎水性領域705を構成する膜の成膜法としては、たとえば気相法を用いることができる。この場合、密閉容器中に基板701と疎水基を有するカップリング剤を含む液とを配置し、所定時間放置することにより膜を形成する。この方法によれば、基板701の表面に溶剤等が付着しないため、所望どおりの精密なパターンの処理膜を得ることができる。他の成膜法としてスピンコート法を用いることもできる。この場合、疎水基を有するカップリング剤溶液を塗布して表面処理を行い、疎水性領域705を形成する。疎水基を有するカップリング剤としては、3−チオールプロピルトリエトキシシランを用いることができる。成膜方法として、ほかにディップ法等を用いることもできる。疎水性領域705は、親水性領域703の上部には堆積せず、基板701の露出部のみに堆積するため、図77(A)および図77(B)に示すように、多数の疎水性領域705が離間して形成された表面構造が得られる。
【0331】
以上述べたプロセスの他、以下のような方法により上記と同様の表面構造を得ることもできる。この方法では、図80(C)のようにパターニングされた未露光部702aを形成した後、酸素プラズマアッシングを行わずに図82(A)のようにレジスト開口部に3−チオールプロピルトリエトキシシランを堆積して疎水性領域705を形成する。その後、未露光部702aを選択的に除去できる溶媒を用い、ウェットエッチングを行って、図82(B)の構造を得る。この際、溶媒としては、疎水性領域705を構成する膜に損傷を与えないものを選択することが重要である。このような溶媒として、たとえばアセトン等を例示することができる。
【0332】
上記実施の形態では、流路の溝部に疎水性領域を形成したが、これ以外に以下のような方法を採用することもできる。まず図83(A)、図83(B)のように二種類の基板を用意する。図83(A)の基板は、ガラス基板901上に3−チオールプロピルトリエトキシシラン等の疎水基を有する化合物からなる疎水性膜903が形成された構成となっている。疎水性膜903は、所定のパターニング形状にて形成される。この疎水性膜903の設けられた箇所が試料分離部となる。一方、図83(B)の基板は、ガラス基板902表面にストライプ状の溝が設けられた構成となっている。この溝の部分が試料流路となる。疎水性膜903の形成方法は、上述のとおりである。ガラス基板902表面へのストライプの溝の形成も上述のように、マスクを用いたウェットエッチングにより容易に行うことができる。これらを図71(A)および図71(B)のように張り合わせることによって、本実施形態の構成を得ることができる。2枚の基板によって形成される空間904が試料流路となる。この方法によれば、平坦な表面に疎水性膜903を形成することとなるので、製造が容易であり、製造安定性が良好である。
【0333】
カップリング剤膜の作製方法としては、たとえばLB膜引き上げ法により基板全面にシランカップリング剤からなる膜を形成し、親水性/疎水性のマイクロパターンを形成する方法を用いることができる。
【0334】
さらに、本実施形態において、分離領域295には一つの疎水性領域のみを設けることもできる。この場合、たとえば、親水性表面を有する分離用流路内に、試料の流れ方向に延在する一つの疎水性領域を形成することもできる。このようにしても、試料が分離用流路を通過する際に、試料分離領域の表面特性によって試料を分離することができる。
【0335】
さらに、上述した疎水性処理および親水性処理により主流路221自体を形成することもできる。
【0336】
疎水性処理により流路を形成する場合、ガラス基板など親水性の基板を用いて、流路の壁に相当する部分を疎水性領域で形成する。親水性である緩衝液は、疎水性領域を避けて進入するため、壁部分の間に流路が形成される。流路には被覆を被せても被せなくてもよいが、被覆を被せる場合は基板から数μmの隙間をあけるのが好ましい。隙間は被覆の断端付近をのりしろとして、PDMSやPMMAなどの粘稠性の樹脂をのりとして基板に接着することで実現できる。断端付近だけの接着でも、緩衝液を導入すると疎水性領域が水をはじくため、流路が形成される。
【0337】
一方、親水性処理により流路を形成する場合、疎水性の基板、もしくはシラザン処理等で疎水性とした基板表面に親水性の流路を形成する。この場合も、親水性領域にのみ緩衝液が進入するので親水性領域を流路とすることができる。
【0338】
さらに、この疎水性処理、あるいは親水性処理はスタンプやインクジェットプリントなどの印刷技術を用いて行うこともできる。スタンプによる方法では、PDMS樹脂を用いる。PDMS樹脂はシリコーンオイルを重合して樹脂化するが、樹脂化した後も分子間隙にシリコーンオイルが充填された状態となっている。そのため、PDMS樹脂を親水性の表面、例えば、ガラス表面に接触させると、接触した部分が強い疎水性となり水をはじく。これを利用して、流路部分に対応する位置に凹部を形成したPDMSブロックをスタンプとして、親水性の基板に接触させることにより、前記の疎水性処理による流路が簡単に製造できる。
【0339】
インクジェットプリントによる方法では、粘稠性が低いタイプのシリコーンオイルをインクジェットプリントのインクとして用い、印刷紙として親水性の樹脂薄膜、例えばポリエチレン、PET、酢酸セルロース、セルロース薄膜(セロハン)などを用いる。流路壁部分にシリコーンオイルが付着するようなパターンに印刷することによっても同じ効果が得られる。
【0340】
さらに、疎水性処理および親水性処理により、所定形状の疎水性パッチまたは親水性パッチを形成し、特定のサイズ未満の物質を通過させ、特定のサイズ以上の物質を通過させないようなフィルタを流路中に形成することもできる。
【0341】
例えば疎水性パッチによりフィルタを構成する場合、パッチを一定の間隔をあけて直線的に繰り返し配置することにより、破線状のフィルタパターンを得ることができる。疎水性パッチどうしの間隔は、通過させたい物質のサイズよりも大きく、通過させたくない物質のサイズよりも小さくする。例えば100μm以上の物質を除去したい場合、疎水性パッチどうしの間隔は、100μmより狭く、例えば50μmに設定する。
【0342】
フィルタは、流路を形成するための疎水性領域パターンと、前記、破線状に形成された疎水性パッチのパターンを一体に形成することで実現できる。形成方法としては、前述のフォトリソグラフィーとSAM膜形成による方法、スタンプによる方法、インクジェットによる方法等を適宜用いることができる。
【0343】
なお、流路中にフィルタを構成する場合、流れ方向に対して垂直にフィルタ面を設けてもよく、流れ方向に平行にフィルタ面を設けてもよい。フィルタ面を流れ方向に平行に設ける場合は、垂直に設ける場合と比べて、物質が詰まりにくく、フィルタの面積を広く取れるという長所がある。この場合、流路部分の幅を広めに、たとえば1000μmとし、その中央部分に50μm×50μmの正方形の疎水性パッチを、互いに50μmの隙間を有するように流路の流れの方向に形成することで、流路を流れ方向に並行に2分割することができる。分割された流路の一方の側から、分離したい物質を含む液体を導入すると、その液体に含まれる50μmよりも大きな物質が除かれた濾液が、他方の流路に流出する。これにより、流路の一方の側で物質を濃縮することができる。
【0344】
分離領域295を以上のように構成することにより、チップ上での試料の分離を効率よく確実に行うことができる。
【0345】
(第十二の実施形態)
以上の実施形態において、流路上の1つの領域から複数の分注流路222が分岐する構成としてもよい。図89は、本実施形態に係るチップの流路構成を示す図である。図89のチップには、分離領域218の下流で主流路221上に設けられた液溜め306から複数の分注流路222が分岐している。それぞれの分注流路222の下流に検出槽223を備えた流路が複数設けられ、その流路と交差し、かつ当該分離領域に試料を導入する目的の試料導入用流路が設けられている。
【0346】
このような構成とすることにより、液溜め306で試料中の成分濃度を均質化した後分注流路222に導くことができる。このため、検出槽223において正確な検出反応を行うことができる。
【0347】
なお、図89には、液溜め306から5本の分注流路222が分岐した構成が示されているが、分注流路222の本数は、検出項目または測定項目に応じて任意に選択することができる。また、以上においては分析部として検出部214を有し、分注流路222の下流に検出槽223が設けられた構成の場合を例に説明をしたが、分析部として測定部233を有するチップの場合にも、分注流路222の下流に分取部235を設けることにより、同様に放射状の分注経路が形成可能である。
【0348】
(第十三の実施形態)
以上の実施形態に係るチップにおいて、主流路221から分析部を構成する液溜め(検出槽223または分取部235)への試料の分注経路を以下のように構成してもよい。以下、検出部214を有するチップの場合を例に説明するが、測定部233を有するチップについても同様の構成を適用可能である。
【0349】
図99は、検出部214の構成を示す図である。この検出部214において、分注流路222が主流路221および検出槽223に向かって拡大した形状となっている。このように、分注流路222に曲率をもたせることにより、主流路221から検出槽223への試料の分注が、泡を生じることなくスムーズに行われる。また、図99において、検出槽223への分岐点における主流路221の開口幅Aは主流路221の幅Bよりも広くなっている。このようにすれば、検出槽223への試料の分注がさらに効率よくなされる。
【0350】
図100は、検出部214の他の構成を示す図である。この検出部214では、検出槽223にトリガー流路256が連通している。トリガー流路256は、分注流路222の下流側で主流路221に液体スイッチ257を介して連通している。このような構成とすれば、上流側に設けられた検出槽223から順に液体が充填されてゆき、1つの検出槽223に液体が満たされた後、次の検出槽223が満たされる。このため、検出槽223に一定量の液体を効率よく分注することができる。なお、図100では検出槽223が2個の場合を例に説明したが、検出槽223の数は任意に選択可能である。
【0351】
(第十四の実施形態)
以上に示した実施形態において、試料導入部212の構成は以下のようにすることもできる。以下、試料導入部212が主流路221に連通する構成を例に説明するが、試料導入部212が他の流路に連通している場合にも同様の構成とすることができる。
【0352】
図94は、本実施形態の試料導入部212の構成を示す断面図である。図94の試料導入部212では、導入口217の上面が主流路221の上面よりも高く構成されている。導入口217の上面が主流路221の上面、あるいは反応槽280その他の液溜めの上面よりも高くすることにより、導入口217中の試料の水位を主流路221等における水位よりも高く保つことができる。このため、導入口217に導入された試料に好適な圧力を付与することができる。よって、試料を確実に主流路221へと移動させ、さらに主流路221で確実に下流側に向かって移動させることができる。
【0353】
図95は、導入口217の上面が主流路221の上面よりも高く構成された試料導入部212の別の例を示す断面図である。図95に示したように、基板216と蓋226との間の空隙を主流路221とする構成の場合にも、たとえば蓋226を貫通させる孔を導入口217とすることにより、導入口217における試料の水位を主流路221等における水位よりも高く維持することができる。
【0354】
図96は、試料導入部212の他の構成の例を示す断面図である。図96は、図95と同様に基板216と蓋226との間の空隙に主流路221が形成された構成であるが、導入口217の側壁となる凸部が蓋226に設けられている。こうすれば、導入口217における試料の水位を主流路221等における水位よりも高い位置により一層確実に維持することができる。
【0355】
また、図96においては、主流路221上の所定の位置に目盛り304が設けられている。蓋226を透明材料で構成し、目盛り304を設けることにより、一定量の試料を導入口217からチップ中に確実に導入することが可能となる。
【0356】
なお、試料導入部212以外の液溜めについても、主流路221よりも高い水位を確保するような構成としてもよい。たとえば、第一の実施形態に係る図101の構成において、バッファー導入口220を図97の断面図に示した構成としてもよい。図97においても、バッファー導入口220の上面が主流路221よりも高くなるように蓋226の一部が突出する形状となっている。また、図97のバッファー導入口220の上面は封止部303により封止されている。この構成では、所定のタイミングで封止部303を剥離することにより、空気孔225が露出し、バッファー導入口220中のバッファーの移動が開始する。よって、所望のタイミングで主流路221にバッファーを確実に流すことができる。また、図97に示したように、所望のタイミングで主流路221にバッファー導入口に導入されたバッファーを流すための液体スイッチ257をさらに設ける構成としてもよい。
【0357】
(第十五の実施形態)
以上に示した実施形態において、試料導入部212の構成は次のようにすることもできる。図84は、試料導入部212の構成をさらに詳細に示す機能ブロック図である。図84において、試料導入部212は、試料採取部296、試料貯留部297および不活化部298を備える。
【0358】
試料採取部296は、チップに導入する試料を採取する機能を有する。このような構成として、たとえば、チップの側面に穿刺針を備えた構成が挙げられる。
【0359】
図98は、血液を採取するための試料採取部296の構成の一例を示す断面図である。図98の試料採取部296は、基板216上に数本の微細な注射針が固定された構成である。注射針は、たとえば27G(ゲージ)以下30G程度、外径0.2mm、内径0.1mm程度のステンレス製とすることができる。
【0360】
注射針の内腔は,血液吸収材に連通する。血液吸収材として、たとえば、シリカゲル粉末層、微細グラスウール層などを用いることができる。また、血液吸収材の表面には、血液凝固阻害剤(不図示)がコーティングされている。血液凝固阻害剤として、たとえば、微量のヘパリンナトリウムやEDTAなどを用いることができる。コーティングは、血液凝固阻害剤を含む液体中に血液吸収材を浸漬し、乾燥させて行うことができる。
【0361】
また、血液吸収材は主流路221に連通しており、主流路221の一部に観察窓が設けられている。観察窓を設けることにより、血液吸収材が血液で満たされたかどうかを容易に判断することができる。血液吸収材に吸収された血液は、バッファー導入口220に導入された抽出用バッファーで洗い流される。こうして、血液が主流路221中に導入される。
【0362】
また、注射針は周囲をスポンジゴムによりカバーされている。スポンジゴムの表面に、局所麻酔剤を含む局所麻酔剤シールが固定されている。局所麻酔剤シールは、たとえばリドカインを含むヒドロゲルとすることができる。また、局所麻酔剤シールの強度は、注射針によって容易に貫通できる程度とする。
【0363】
図98の試料採取部296は、下記(i)〜(vi)の手順に沿って使用する。こうすることにより、血液が採取され、主流路221中に導入される。
(i)チップのシール227をはがし、穿刺部を露出させる。
(ii)穿刺部を2分程度度弱くつまむ。これにより、指先の皮膚表面が麻酔される。
(iii)スポンジをつぶす程度に強くつまむ。これにより、注射針が皮膚に刺さる。
(iv)のつまんだ圧力をゆるめる。すると、血液が血液吸収材へと毛細管効果によって導かれる。
(v)血液吸収材に血液がみたされたかどうかを観察窓から色の変化を観察することにより確認する。血液吸収剤に血液がみたされたら、つまんでいた指をはなす。
(vi)バッファー導入口220に抽出用バッファーを導入し、血液を主流路221中に抽出する。あるいは、図98中に示したように、血液吸収材とバッファー導入口220とを連通させる経路上に液体スイッチを設け、血液が充填されたら液体スイッチが開通する構成としてもよい。
【0364】
図98の構成によれば、指でスポンジをつまむ間に採血されるため、採血時の痛みを軽減することができる。また、採取される血液が見えない構成であるため、採血に対する心理的な負担を軽減することができる。
【0365】
図84にもどり、試料貯留部297は、採取した試料が投入され、貯留される機能を有する。たとえば、以上の実施形態における導入口217等とすることができる。
【0366】
また、不活化部298は、試料貯留部297等に残存する試料を不活化する機能を有する部位である。たとえば、消毒液を貯留する液溜めと、液溜め中の消毒液を所定のタイミングで導入口217に導く流路とを備える構成とすることができる。
【0367】
このような構成とすれば、たとえば血液を採取して、血液中の所定の成分を分離し、検出あるいは測定を行うという一連の手順を、一枚のチップを用いて連続的に実施することができる。また、さらに。使用後はチップの消毒をチップ内の構成要素により行うことが可能であるため、簡便にチップを消毒し、安全な状態で廃棄することができる。
【0368】
(第十六の実施形態)
以上の実施形態に係るチップにおいて、試料中の成分の分離および分析は、以下のようにすることもできる。本実施形態では、凝集ビーズを分離する免疫学的検出方法により、試料中の被検出物質を免疫学的に検出または定量する。この仕組みを用いたチップでは、ビーズの凝集によって被検出物質を検出または定量する。
【0369】
ビーズの凝集を利用して被検出物質を定量する方法としては、ラテックスビーズ凝集法がある。この方法では、ラテックス等からなる直径数μmから数十μmの微細なビーズの表面に、検出したい抗体に対する抗原または検出したい抗原に対する抗体をコーティングしておく。このビーズをバッファー中に懸濁したビーズ液と試料とを混合すると、たとえばビーズ表面の抗原と試料中の抗体が結合する。このとき、抗体は結合部分(エピトープ)を複数もつため、抗原をまたいでビーズ同士が結合することによりビーズが凝集し、沈殿する。
【0370】
分析部として測定部233を有するチップを用いる場合、この凝集状態を散乱強度として測定部233(図7等)にて光学的に測定することができる。また、分析部として検出部214を有するチップを用いる場合、ビーズが沈殿して濁りが消えることを検出部214(図1等)にて検知することにより、試料中の被検出物質の分析がなされる。被検出物質の濃度は、たとえば凝集を生じる試料の希釈倍率によっても測定できる。また、被検出物質の濃度が高い程ビーズは速く凝集するので、濁度の時間変化や沈殿の速さを測定することによっても被検出物質の濃度を測定できる。
【0371】
本実施形態のチップでは、ビーズが凝集塊をつくりその直径が大きくなると、流路の分離領域(分離流路)内での移動速度が変化することを利用して被検出物質を検出する。この方法では、たとえば第八〜第十一の実施形態で前述したピラー等が配置された分離流路内に試料液と混和したビーズ液を流す。具体的には、分離流路内のピラーは第九の実施形態にて前述したパッチ状に形成される。このとき、凝集したビーズ塊はピラーパッチの内部に進入できず、パッチ間を移動するようなサイズに設計される。
【0372】
分離流路内では、凝集したビーズ塊は凝集していないビーズよりも速く移動する。このため、所定の時間内に一定の距離にビーズが到達したか否かを判定窓502を用いて判定することで、ビーズの凝集が起こったか否かを判定できる。これにより、試料中の被検出物質を検出できる。また、ラテックスなどのビーズ基材を視認可能に着色しておくことで、さらに明瞭な判定が可能である。
【0373】
図104(A)は、本実施形態に係るチップの構成を模式的に示す平面図である。また、図104(B)〜図104(D)は、図104(A)のF−F’断面図である。図104(A)および図104(B)に示したように、本実施形態に係るチップの基板500の内部には、分離部213として分離流路501が設けられており、その下流には検出部214として判定窓502が開けられている。分離流路501は、たとえば以上の実施形態に記載のチップの主流路221の一部であり、その具体的構成はたとえば第九の実施形態において前述したピラーをパッチ状に配置した流路である。
【0374】
図104(A)および図104(B)において、図中右側からビーズと試料の混合液が流れてくると、試料中に被検出物質が存在する場合、凝集したビーズ塊を生じているため、ビーズはピラーパッチ内に捕捉されずに分離流路501を速やかに移動し、凝集ビーズ504が一定時間の後に判定窓502部分に到達する。また、着色されたビーズ基材を用いた場合、所定時間経過後、凝集ビーズ504の出現により流路内の所定の領域がビーズ基材に由来する色に染まる(図104(C))ことを、判定窓502を介して視認することで、ビーズが到達したことを知ることができる。
【0375】
一方、試料に被検出物質が含まれない場合、ビーズは凝集しないまま未凝集ビーズ503の状態で移動する。未凝集ビーズ503は分離流路501中ではピラー間の領域に捕捉されて減速し、一定時間内には判定窓502に到達しない。その結果、所定時間経過後、分離流路501内の判定窓502の直下の領域が着色しない。
【0376】
従って、試料と混和されたビーズが分離流路501に導入されてから一定時間後に判定窓502近傍の分離流路501内が着色しているか否かを判定し、着色していれば被検出物質が試料に含まれていた(陽性(+):図104(C))と判断し、着色がなければ被検出物質が含まれていなかった(陰性(−):図104(D))と判断することができる。
【0377】
さらに、判定窓502を分離流路501に沿って複数設けること、または分離流路501の上面全面に透明な蓋226(図3)を設け、分離流路501に沿ってスケールを設けることにより、試料中の被検出物質の濃度を定量することが可能になる。試料中の被検出物質の濃度が高いと凝集ビーズ504のビーズ塊が速く成長してその直径が大きくなるため、分離流路501の下流側の端部により速く到達する。
【0378】
たとえば、図104(A)および図104(B)に示したチップにおいて、分離流路501上に流路の延在方向に沿って複数の判定窓502を設け、これらの判定窓502の着色状態を一定時間後に判定する場合、分離流路501の図中左端に近い判定窓502まで着色していることは、試料中の被検出物質の濃度が高いことを意味し、左端から遠い判定窓502しか着色しないことは、被検出物質の濃度が低いことを意味する。それゆえ、判定窓502の位置と試料中の被検出物質の濃度を対応づけておけば、どの判定窓502まで着色したかを検知することで、試料中の被検出物質の濃度が測定できる。また、着色部分の先端位置には、最も成長した凝集ビーズ504のビーズ塊が存在するため、着色部分の先端位置が一定時間後にどの位置に到達しているかを、スケールを利用して読むことによっても試料中の被検出物質の濃度が測定できる。最も成長したビーズ塊の大きさもまた、試料中の被検出物質の濃度を反映するからである。
【0379】
なお、以上においては、大きなビーズ塊ほど速く移動するような分離流路501を用いた例を示した。逆に、凝集していない小さなビーズほど速く移動するような分離流路を用いても、被検出物質の分離および検出が可能である。その場合、分離流路内には、たとえば第九の実施形態において前述したピラーなどの障害物をビーズの直径の数倍程度離隔して一様に配置する。分離流路を流れる粒子の大きさが小さいほど、障害物の隙間をぬって速く移動できるが、粒子サイズが大きくなると障害物に衝突する頻度が増し、その結果ゆっくりとしか移動できない。このような分離流路を用いる場合、ビーズの大きな凝集塊ほど、手前側に残ることになるので、複数の判定窓502を設けて被検出物質の濃度を測定する場合は、分離流路の上流側(図104(A)中左側)の試料導入路(不図示)から見て、手前側の判定窓が着色しているほど被検出物質の濃度が高いと解釈し、スケールを利用して測定する場合、最大の凝集塊が存在するビーズの最後縁の位置を読みとることで被検出物質の濃度が測定できる。
【0380】
次に、分離部213(図1等)において、試料液とビーズ液を混合して分離流路501へと導入する導入機構の構成を説明する。図105(A)、図105(B)、図106(A)および図106(B)は、試料液およびビーズ液の導入機構を、液体スイッチを利用して実現した例を示す平面図である。図105(A)および図105(B)は、たとえば試料と混合されたビーズ液を必ずしもパルス状に分布させず、着色したビーズの流れの先端位置を読む構成のチップに用いられる。着色部分の先端には、最も大きく成長したビーズ塊が存在するため、その先端の位置に注目することでも被検出物質が定量できる。
【0381】
図105(A)に示した導入機構は、試料導入路505、ビーズ槽506、分離流路507、および液体スイッチからなる。液体スイッチは、トリガー流路509、遅延流路511、堰き止め部508、および空気穴510から構成される。試料導入路505は、たとえば以上の実施形態における導入口217(図2等)に連通している構成とすることができる。また、試料導入路505が前処理部266(図24等)に連通しており前処理後の試料が試料導入路505に移動する構成とすることもできる。ビーズ槽506は、試料導入路505に連通しており、また、堰き止め部508を介して分離流路507に接続されている。また、本実施形態のチップにおいて、液体スイッチの基本構成および動作は、第三の実施形態において前述した通りである。
【0382】
はじめビーズ槽506には、検出用の抗原等をコートした微小ビーズの懸濁液(ビーズ液)が保持されている。ビーズ槽506の内部は分離流路507と連通しているものの、疎水性の表面処理を施すなどして形成された堰き止め部508が介在しているため、堰き止め部508より下流(図中左側)には流れない状態となっている。
【0383】
試料導入路505に試料液が導入されると、試料液はビーズ槽506へ流入してビーズ液と混合する他、ビーズ槽506の手前でトリガー流路509へと分岐する。堰き止め部508の下流で分離流路507に連通しているトリガー流路509には遅延流路511が設けられており、ビーズ槽506内でビーズ液と試料液とが充分混和された頃、試料液が堰き止め部508部分へと導かれ堰き止め部508を開通させる。その結果、試料と混和されたビーズ液は分離流路507へと流れ出す。
【0384】
図105(A)では、トリガー流路509はビーズ槽506へ入る前に試料導入路505から分岐したが、図105(B)のように、トリガー流路509をビーズ槽506から分岐させることも可能である。その場合、トリガー流路509の基点をビーズ槽506の最も上端に位置させることで、ビーズ槽506に試料が充分に導入されてはじめてトリガー流路509が満たされる構成とすることができる。このため、操作の確実性をさらに向上させることができる。
【0385】
また、図105(A)および図105(B)では、ビーズ液はパルス状に分布しておらず着色したビーズの先端部分の位置を観測するだけであるため、先端部分のビーズ塊の量が充分でないとその位置を正確に読みとりにくい場合が生じうる。図106(A)に示す導入機構では、ビーズ液を分離流路507の延在方向に沿ってパルス状に分布させることで、これを改善する。
【0386】
図106(A)の導入機構は、試料導入路512、バッファー槽513、分離流路507、ビーズ槽516、ならびに液体スイッチを構成するバッファー槽トリガー流路515、ビーズ槽トリガー流路514、バッファー槽堰き止め部517、ビーズ槽堰き止め部518、空気穴510、および遅延流路511からなる。はじめ、バッファー槽513とビーズ槽516には、それぞれバッファー液、ビーズ液が充填されている。
【0387】
バッファー槽513およびビーズ槽516のそれぞれの内部は、分離流路507と連通しているが、それぞれバッファー槽堰き止め部517、ビーズ槽堰き止め部518があるために、分離流路507中を進行できないよう保持されている。特にビーズ槽516は、バッファー槽堰き止め部517およびビーズ槽堰き止め部518に挟まれることにより、分離流路507の延在方向に沿ってパルス状の分布を保っている。バッファー槽堰き止め部517は、ビーズ槽516からバッファー槽トリガー流路515への逆流を防ぐために2カ所に設けられているが、バッファー槽トリガー流路515が満たされると、堰き止め部が一つの場合と同様に堰止効果がなくなる。
【0388】
試料導入路512に試料液が導入されると、ビーズ槽516に流入し、そこで試料液はビーズ液と混ざる。試料液は一方、ビーズ槽516に流入する前にバッファー槽トリガー流路515、ビーズ槽トリガー流路514の2本のトリガー流路に分岐する。各トリガー流路には遅延流路511が設けられており、ビーズ槽516内でビーズ液と試料液が充分に混和されたタイミングで、バッファー槽堰き止め部517、ビーズ槽堰き止め部518を開通させる。その結果、パルス状に分布しているビーズ液がバッファー液に押し流される形で分離流路507内を移動する。
【0389】
なお、図106(A)では、トリガー流路は試料液がビーズ槽516に到達する前に分岐したが、図105(B)の場合と同様に、ビーズ槽516に到達した後に分岐させることも可能ある。図106(B)のように、ビーズ槽516に到達した後分岐させる構造とすることにより、操作の確実性をさらに向上させることができる。
【0390】
本実施形態のチップには、分離部213に試料中の所定の成分(被検出物質)に特異的に吸着して凝集するビーズが設けられているため、試料中の所定の成分をさらに確実に分離するとともに、分離された成分を検出部214または測定部233にて分析することが可能である。
【0391】
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0392】
たとえば、以上においては、チップに設けられている検出槽223や分取部235の形状が主として円柱形である場合を例示したが、これらは内容物の分析(検出または測定)を行うような形状であればよく、円柱形に限られず適宜選択することができる。たとえば、検出槽223や分取部235の形状を、四角柱等の角柱とすることができる。また、検出槽223や分取部235は憩室状でなくてもよく、たとえば図14を参照して前述したように、検出槽223や分取部235を流路状としてもよい。
【0393】
また、以上においては、検出槽223および分取部235以外のチップに設けられている他の液溜め、たとえば、図2に示したチップに設けられた導入口217、廃液溜め219、バッファー導入口220、液溜め224等についても、それぞれの液溜めに導入または回収される液体を保持するのに充分な体積が確保されていればよく、円柱以外の形状とすることができる。チップに設ける液溜めの形状は、たとえば、四角柱等の角柱や、所定の平面形状の流路状とすることができる。また、廃液溜めの形状をたとえば平面視においてジグザグ型の流路状としたり、内面に凹凸が形成された柱状とすることもできる。こうすれば、廃液溜めの表面積を増加させることができるので、毛細管効果をさらに向上させ、廃液をさらに確実に回収可能な構成とすることができる。
【0394】
また、測定部233を有するチップにおいて、分取部235に分取された試料中の成分を抽出して外部装置による測定に供する態様としてもよい。具体的には、チップ上に分取された各成分を、電気浸透流等によってESI(エレクトロスプレーイオン化)装置に導入してもよい。このとき、チップ上の各分注流路222に連通するクロック流路を設け、分取された成分が順次ESI装置に導入される構成としてもよい。このようにすれば、分取された各成分についての質量分析を効率よく行うことができる。
【0395】
また、分取された試料中の成分を外部装置による測定に供する場合、各分注流路222の先端に、キャピラリー分光分析装置のキャピラリーを設けてもよい。キャピラリーをチップの先端に突出させておけば、突出したキャピラリーをキャピラリーセルの代わりに分光分析装置に挿入し、測定することが可能となる。
【0396】
また、以上においては、毛細管効果により試料をチップに導入し、チップ中で移動させる場合を例に説明したが、マイクロシリンジポンプ等の外部装置を用いることもできる。
【0397】
また、検出部214を有するチップにおいて、検出部214を肉眼で観察し、試料中の成分の定量を行うことができる構成としてもよい。具体的には、下記(i)〜(vi)の方法を用いることができる。
(i)化学物質感受性ゲル(CSG)の利用
(ii)化学物質感受性流体の利用
(iii)成分濃度別検出槽アレーの利用
(iv)光沢層の利用
(v)検出槽表面での全反射の利用
(vi)干渉縞の利用
【0398】
上記(i)において、CSGは検出したい物質の濃度に依存して体積が膨潤または収縮するゲルのことである。これを用いる場合、検出槽223を、下流側ほど幅の狭い流路状とし、着色したCSGビーズを検出槽223に導入しておけば、検出対象の成分濃度に応じてCSGビーズの大きさが変化する。CSGビーズが膨張するほど検出槽223の下流側に進行することができず、上流側で堰き止められる。このため、あらかじめ成分濃度とCSG位置との関係を求めて蓋226上に目盛りを設けておけば、検出槽223中でのCSGビーズの停止位置に応じて成分濃度を目視により定量することができる。
【0399】
上記(ii)において、化学物質感受性流体は、検出したい物質の濃度に応じて粘度が変化する流体のことである。このような流体として、たとえばポリマー溶液等を用いることができる。これを用いる場合、検出槽223を細長い流路状に形成し、検出槽223中に化学物質感受性流体および目視可能なビーズを充填しておく。検出槽223中に分注された液体中の成分濃度に応じて流体の粘度が変化すると、ビーズの移動速度が変化する。このため、一定時間経過後のビーズの位置を目視で観察することにより、成分濃度を定量することができる。
【0400】
上記(iii)の場合、1つの検出対象を複数の検出槽223に分注する構成とし、これらの検出槽223に分注される成分濃度が一定の割合で異なるようにする。そして、それぞれの検出槽223における検出反応を目視で認識できる発色反応等とする。こうすれば、発色がどの成分濃度の検出槽223まで生じるかによって、成分濃度に換算することができる。
【0401】
上記(iv)の場合、検出槽223下方の基板216の底面に銀紙等の光沢層を設けておく。検出槽223を上方から一定の確度で観察すると、検出槽223中の液体の屈折率によって光沢層が観察されて明るく見える場合と光沢層が観察されず暗く見える場合とが生じる。これを用いれば、試料中の成分に応じた液体の屈折率変化を目視により検知することができる。たとえば、上記(i)の場合において、ビーズが着色されていなくてもビーズの停止位置を容易に目視で測定することができる。
【0402】
上記(v)の場合、検出槽223の表面に低屈折率材料からなる層を形成する。このような検出槽223中に液体が侵入すると、液体の屈折率に応じて検出槽223の表面と液体との界面にて全反射が生じる場合がある。全反射が生じる場合、検出槽223が明るく見える。よって、全反射の発生の有無を用いて、液体の屈折率を見積もり、これを成分濃度に換算することができる。
【0403】
上記(vi)の場合、検出槽223の形状を高さまたは幅が可視光の数倍程度の長さの流路状とする。そして、その流路幅が下流ほど狭い構成とする。基板216に透明材料を用いれば、検出槽223中の液体の屈折率に応じて干渉縞の生じる位置が変動するため、干渉縞の位置から液体の屈折率を見積もり、これを成分濃度に換算することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分離および分析が可能なチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、試料の前処理・反応・分離・検出などの化学操作をマイクロチップ上で行うマイクロ化学分析(μ−TAS)が急速に発展しつつある。マイクロ化学分析によれば、使用する試料が微量ですみ、環境負荷も小さく高感度な分析が可能となる。このような分析に用いるマイクロチップは、従来1枚のチップ上に分離、分析等のうちの1つの機能が設けられた単一素子であった(たとえば、特許文献1)。
【0003】
ところが、単一の機能のみを有するチップでは、チップで所定の処理を行った後、次の処理をするために試料を抽出し、他の装置に供する必要があった。たとえば、分離機能のみを有するチップを用いて試料の分離を行った場合、分離された試料を抽出し、大型の外部装置等を用いて分析等を行っていた。このため、操作が煩雑であった。また、微量の試料である場合、試料を移動する際のロスが生じたり、充分な感度で検出することが困難であった。
【0004】
このため、多機能を有する複合チップの開発が求められていた。ところが、従来、1枚のチップ上に複数の機能をもたせ、試料を連続的に処理することは困難であった。
【特許文献1】特開2000−262871号公報
【発明の開示】
【0005】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、従来複数の装置を用いて行われていた分離および分析を、一枚のチップ上で実現する技術を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、微量の試料を簡便な操作で分離し、高精度または高感度で分析する技術を提供することにある。
【0007】
本発明によれば、基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部の上流に設けられ、前記試料導入部に導入された前記液体試料に所定の前処理を施す前処理部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップが提供される。
【0008】
本明細書において、「チップ」とは、導入された試料に対し所定の操作を行う機能が付与された基板のことをいう。本発明におけるチップは、たとえば、基板表面に流路溝が設けられ、この流路溝中に液体試料が流動するように構成することができる。液体試料は、毛細管現象等を利用して流路溝中を移動するようにしてもよいし、電界や圧力などの外力を付与することにより移動するようにしてもよい。試料導入部から導入された液体試料が、前処理部、分離部、および分析部を順次移動する。
【0009】
本発明のチップでは、基板に試料導入部、分離部、および分析部が必須の部材として設けられている。分離部では、液体試料中の成分の分離が行われる。また、分析部では、分離部にて分離された成分の分析が行われる。このため、一枚のチップ上で試料の分離と分析の各操作を連続して行うことができる。従来のチップは単位操作ごとに構成されており、分離後の試料を分析機器に移す必要があったが、本発明の構成によれば、試料を移す必要がないため、簡便である。また、移動による試料のロスが生じないため、試料が微量であってもこれを確実に分離し、そして高感度で分析することができる。
【0010】
本発明に係るチップにおいて、分離部や分析部は、外力の付与によりその機能を果たす形態とすることもできるが、液体試料の流動にしたがって自動的に所定成分の分離および分離された成分の分析が順次実行されるように構成することが好ましい。こうした構成は、液体試料を移動させる駆動力として毛細管現象等を利用することにより実現できる。
【0011】
また、本発明のチップには、前記分離部の上流に、前記試料導入部に導入された前記液体試料に所定の前処理を施す前処理部がさらに設けられている。このため、分離に先立ち試料に所定の前処理を施すことができる。よって、分離部と分析部を単に接続した構成では、分離効率や分析感度に劣る試料についても、分離部において確実に分離し、分離された成分について所定の分析を行うことができる。
【0012】
本発明のチップにおいて、前記前処理部は、前処理槽と、前記前処理槽の下流に設けられ、前記前処理部から前記分離部への前記液体試料の供給を制御するスイッチと、を含み、前記スイッチは、前記前処理槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。この構成によれば、液溜めの下流にスイッチが設けられているため、所定のタイミングまでスイッチが閉じられている。スイッチが閉じられている間、液溜め中に試料を保持することができるため、液溜め中の液体の分離部への移動を防止することができる。したがって、前処理を所望の期間確実に行うことができる。また、前処理後、所定のタイミングでスイッチが開くことにより、液溜め中の液体を速やかに分離部へと移動させることができる。
【0013】
上記構成において、スイッチは、堰き止め部に連通するトリガー流路を有する。このため、トリガー流路の長さや断面形状を調節すれば、トリガー流路中を流れる液体が堰き止め部に達するタイミングを調節することができる。このため、外部の制御装置を設けることなく、トリガー流路からの液体の導入により、流路の開通を所望のタイミングで制御性良く実行することができる。よって、液体試料を所定のタイミングで分離部へと導くことができる。なお、トリガー流路を流れる液体は、液体試料の一部とすることもできるし、他の液体とすることもできる。
【0014】
本発明のチップにおいて、前記液体試料が不溶成分を含み、前記前処理槽は前記不溶成分を可溶化する可溶化物質を有してもよい。このような構成とすれば、液体試料が前処理部に移動した際に、可溶化物質が液体試料に触れて液体試料と可溶化物質が混和し、不溶成分を確実に可溶化することができる。
【0015】
本発明のチップにおいて、前記分離部および前記分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部を有してもよい。
【0016】
また、本発明によれば、基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部および分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部と、
前記混合部で均質化された前記成分を含む液体中の前記成分を分析する前記分析部と、
を有することを特徴とするチップが提供される。
【0017】
この構成においては、試料導入部から導入された液体試料が、分離部、混合部、および分析部を順次移動する。一枚のチップで分離と分析の複数の機能を実現し、分離部で分離された液体試料が自動的に分析部へ導かれるようにした構成においては、被分離試料を分析に適した形で分析部へ導くことが重要な技術的課題となる。混合部を有する上記構成は、こうした課題を解決するものであり、分離された試料中の分析対象となる成分の濃度が均質化され、安定した分析結果を得ることが可能となる。
【0018】
こうした混合部は、外力を付与することなく、液体試料の流動にしたがって自動的に混合操作を実行するように構成することが好ましい。こうした構成は、流路中にある液体試料の毛細管現象や対向流を利用することにより実現することができる。
【0019】
本発明のチップにおいて、前記混合部は、前記流路の一の領域と他の領域とが、微細流路を介して連通した構成であってもよい。このようにすれば、流路内における液体試料中の成分濃度のばらつきを簡素な構成で効果的に低減することができる。
【0020】
本発明のチップにおいて、前記混合部は、前記流路に設けられ、前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。こうすることにより、液体試料の成分濃度が一定になるまで堰き止め部の上流に液体試料を保持しておくようにトリガー流路を設計することができる。このため、液体試料中の成分濃度を確実に均質化することができる。また、所定のタイミングで堰き止め部を開放することができるため、外部制御装置を設けることなくチップ内で成分濃度の均質化を行うことができる。
【0021】
本発明のチップにおいて、前記混合部は、前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを制御する移動制御部を有し、前記移動制御部は、前記液体試料を所定の時間保持した後、前記液体試料を前記分析部へ導くように構成されてもよい。移動制御部を設けることにより、液体試料を分析部の上流側に所定の時間保持しておくことができる。このため、成分濃度の均質化をさらに確実に行うことができる。また、成分濃度を均質化された液体試料は、所定のタイミングで分析部に移動させることができる。
【0022】
本発明のチップにおいて、前記移動制御部は前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。こうすることにより、液体試料を分析部の上流側に所定の時間確実に保持しておくことができる。このため、混合部から分析部への液体試料の移動をより一層確実に制御することができる。
【0023】
本発明のチップにおいて、前記トリガー流路は、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ流路を含んでもよい。こうすることにより、液体試料を時間遅れ流路中に迂回させ、流路中を移動させながら、分析部の上流側に保持しておくことができる。時間遅れ流路の長さや太さを調節することにより、液体試料を分析部に移動させるタイミングを調節することができる。
【0024】
本発明のチップにおいて、前記トリガー流路に、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ槽が設けられてもよい。こうすることにより、液体試料を時間遅れ槽内に滞留させておくことができる。このため、分析部の上流側に液体試料を保持しておくことができる。
【0025】
本発明のチップにおいて、前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部を有してもよい。
【0026】
また、本発明によれば、基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップが提供される。
【0027】
この構成においては、試料導入部から導入された液体試料が、分離部、反応部、および分析部を順次移動する。一枚のチップで分離と分析の複数の機能を実現し、分離部で分離された液体試料が自動的に分析部へ導かれるようにした構成においては、さらに、分離された試料の成分に特異的な反応を利用するなどして成分の検出感度を向上させることが、重要な技術的課題となる。反応部を有する上記構成は、こうした課題を解決するものであり、分離部で分離された成分を所定の反応に供した後、分析することにより、分離後の試料を直接分析することが困難である場合であっても、反応部で所定の反応に関与させ、分析部における分析に適した試料を調製することができる。また、チップ上で実現可能な分析の種類を増加させることができる。
【0028】
本発明のチップにおいて、前記反応部は、反応槽と、前記反応槽の下流に設けられたスイッチと、を含み、前記スイッチは、前記反応槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有してもよい。こうすることにより、反応部にて反応を行う間に液体試料が分析部に移動しないようにすることができる。また、所定の時間が経過するとトリガー流路中の液体が堰き止め部に到達し、液体スイッチが開放されるため、反応時間の制御と反応後の試料の分析部への移動の制御に関する外部装置を設けることなく、チップ自体の機能によってこれらを制御することが可能となる。
【0029】
本発明のチップにおいて、前記反応槽中に、前記液体試料中の前記成分に作用する反応物質を有してもよい。このような構成とすれば、液溜め中に到達した液体試料に反応物質が混和するため、液体試料を確実に反応に関与させることができる。また、本発明のチップにおいて、前記反応槽中に、前記液体試料中の所定の成分に作用する反応物質を有してもよい。こうすれば、液体試料中の成分の分析前に、所定の成分を反応に関与させて、より一層分析に適した状態を得ることができる。
【0030】
本発明のチップにおいて、前記基板の表面を被覆するシールを有してもよい。こうすることにより、使用前のチップの汚染を防止することができる。この構成において、前記シールは前記基板の全面を被覆してもよい。こうすれば、使用前のチップの汚染をさらに確実に防止することができる。
【0031】
本発明のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間に不活性ガスが充填されていてもよい。また、本発明のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間が減圧されていてもよい。こうすることにより、保存に伴う基板表面の親水性の低下を好適に抑制することができる。よって、液体試料を毛細管現象により流路中で確実に移動させることができる。
【0032】
本発明のチップにおいて、前記基板の表面が親水性樹脂により構成されていてもよい。こうすることにより、試料導入部に導入された試料を毛細管現象により確実に流路に導き、流路中を移動させることができる。また、基板の表面に液体試料中の成分が非特異吸着するのを抑制することができる。このため、液体試料の分離および分析をさらに確実に行うことができる。
【0033】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記試料導入部に導入された前記液体試料を所定のタイミングで前記流路に移動させるスイッチを含んでもよい。こうすることにより、試料の分離を開始するタイミングをチップ自体の構成によって制御することができる。
【0034】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の柱状体を有してもよい。こうすることにより、液体試料中の成分をその形状や大きさなどに基づいて確実に分離することができる。
【0035】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の凹部を有してもよい。こうすることにより、液体試料中の成分の分離を好適に行うことができる。
【0036】
本発明のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の表面は、離間して配置された複数の第一の領域と、該第一の領域を除く前記分離部の表面を占める第二の領域と、を有し、前記第一の領域および前記第二の領域のうち、一方が疎水性領域であり、他方が親水性領域であってもよい。
【0037】
このような構成として、具体的には、
(i)第一の領域を疎水性領域とし、第二の領域を親水性領域とする構成
(ii)第一の領域を親水性領域とし、第二の領域を疎水性領域とする構成
のいずれかを採用することができる。なお、本発明における親水性領域とは、疎水性領域よりも親水性が高い領域のことをいう。親水性の程度はたとえば水接触角の測定により把握することができる。
【0038】
以下、本発明における試料の分離の原理について、上記(i)の場合を例に挙げて説明する。この場合、分離対象となる試料を、比較的親水性の高い溶媒中に溶解または分散させた状態として装置内に導入する。このような溶媒は、分離部において、疎水性領域(第一の領域)の表面を避け親水性領域(第二の領域)にのみ分布する。したがって、疎水性領域の間隙部が分離対象となる試料の通過する経路となり、この結果、疎水性領域間の間隔と試料のサイズとの関係によって分離部の通過に要する時間が決定されることとなる。これにより、サイズに応じて試料の分離がなされる。
【0039】
また、本発明においては、サイズに応じた分離のほか試料の極性に応じた分離もなされる。すなわち、親水性/疎水性の程度の異なる複数種類の試料を分離することができる。上記(i)の例では、疎水性の高い試料は疎水性領域に捕捉されやすく流出時間が比較的長くなる一方、親水性の高い試料は疎水性領域に捕捉されにくく、流出時間が比較的短くなる。このように本発明は、試料のサイズだけでなく極性をも含めた分離がなされ、従来では分離困難であった多成分系の分離を実現することができる。
【0040】
本発明の場合、障害物となる構造体により分離を行う方式とは異なり、流路表面に設けられた分離部を分離手段とする。たとえば従来用いられている膜分離の場合は膜中の細孔の大きさを精度良く制御することが必要となるが、所望のサイズ、形状の細孔を有する膜を安定的に製造することは必ずしも容易ではない。これに対し本発明は、流路の表面処理により分離部を形成することができ、第一の領域の間隔を制御することによって所望の分離性能が得られるため、分離目的に応じた適切な構成を比較的容易に実現することができる。
【0041】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料を特定の性状に従って展開する試料吸着粒子を有してもよい。展開とは、試料の性状にしたがって、試料分離領域に試料を分布させることをいう。基板に試料吸着用粒子を付着させた分離部は、流路中に微細加工を施す場合よりも簡便な方法で容易に形成することができる。そして、たとえば試料を展開するための展開液と試料との親和性に応じて試料を展開することができる。また、試料を極性に応じて展開することも可能となる。このため、試料を確実に分離することができる。また、本発明によれば、試料をある程度乾燥させた状態で分離を開始することができる。このため、試料のバンド幅を細くすることが可能となる。
【0042】
本発明のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の底面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低い構成とすることができる。こうすることにより、土手部と流路の底面との間に形成される隙間を介して二本の流路が連通された構成とすることができる。このため、隙間を通過することが可能な成分のみを確実に分離し、分析に供することができる。
【0043】
本発明のチップにおいて、前記分離部を覆う蓋を有し、前記蓋の面のうち、前記基板側の面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低い構成としてもよい。このような構成は、流路中に柱状体を設ける構成に比べ、容易に作製することができる。このため、分析感度にすぐれたチップを簡便な方法で安定的に製造することができる。
【0044】
本発明のチップにおいて、前記土手部は、前記蓋の前記基板側の面上に形成された樹脂膜であってもよい。こうすることにより、さらに容易に分離部を作製することができる。また、試料中の成分の分離を確実に行うことができる。
【0045】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路の一部をなす第一の流路と、前記流路を通過する前記液体試料から分離された特定成分を含む液体の通過する第二の流路と、前記第一の流路および前記第二の流路を連通させ、前記特定成分のみを通過させる分離流路を含んでもよい。こうすることにより、第一の流路中を流れる液体試料のうち、所定の成分を選択的に第二の流路に移動させることができる。よって、試料中の成分の分離を確実に行うことができる。
【0046】
たとえば、前記第一の流路および前記第二の流路の進行方向に沿って、これらを分割する土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記第一の流路および前記第二の流路の深さよりも低い構成とすることができる。こうすれば、第一の流路と第二の流路とが土手部で隔てられ、かつ土手部が形成されていない隙間を介して連通する構成とすることができる。このため、隙間を通過することができる成分のみを選択的に第一の流路から第二の流路へと移動させることができる。
【0047】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記流路の一部をなす第一の流路と、前記流路を通過する流体から分離された特定成分を含む液体の通過する第二の流路と、前記第一の流路および前記第二の流路を連通させ、前記特定成分のみを通過させる複数の分離流路を含んでもよい。複数の分離流路を設けることにより、第一の流路中を流れる液体試料のうち、所定の成分のみをさらに確実に第二の流路に移動させることができる。よって、試料中の成分の分離をさらに確実に行うことができる。
【0048】
本発明のチップにおいて、前記分析部は、前記成分が分取される複数の液溜めを有してもよい。こうすることにより、分離後の液体試料を複数の液溜めに分注することができ、これらの液溜めの光透過度を測定する等により、同一試料に含まれる複数の成分について分析することができる。
【0049】
本発明のチップにおいて、前記液溜めまたは前記液溜めに連通する前記流路の前記液溜めの近傍に空気孔を有してもよい。こうすることにより、分離後の液体試料を確実に液溜めに導くことができる。
【0050】
本発明のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていてもよい。こうすることにより、空気孔からの液体試料の漏出をさらに抑制することができる。このため、一定量の液体試料を液溜めに確実に分注することができる。
【0051】
本発明のチップにおいて、前記分析部は、前記成分を検出する検出部を有してもよい。このような構成とすれば、外部の検出装置を用いることなくチップ自体の構成を用いて分離された試料の分析を行うことが可能となる。
【0052】
本発明のチップにおいて、前記検出部を覆う被覆部材をさらに備え、該被覆部材とマイクロレンズとが一体成形されてもよい。こうすることにより、検出部における検出反応の結果を目視により容易に視認することができる。
【0053】
本発明のチップにおいて、前記分析部の下流側で前記流路に連通する廃液溜めを有し、前記廃液溜めへの前記液体の移動に伴い前記流路中の前記液体が前記流路の下流に向かって移動するように構成されてもよい。こうすることにより、液体の一部が廃液溜めに達した後も、流路中の液体を下流に向かって確実に移動させることができる。よって、試料の分離、分析を外部の駆動装置を用いることなく毛細管現象を利用してさらに確実に行うことができる。
【0054】
本発明のチップにおいて、前記廃液溜めに液体保持部が設けられてもよい。こうすることにより、流路中の液体を廃液溜めに向かってさらに確実に移動させることができる。
【0055】
本発明のチップにおいて、前記廃液溜めまたは前記廃液溜めに連通する前記流路の前記廃液溜めの近傍に空気孔を有してもよい。こうすることにより、分離後の液体試料を確実に廃液溜めに導くことができる。
【0056】
本発明のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていてもよい。こうすることにより、廃液溜めに排出された液体試料が空気孔から漏出しないようにすることができる。
【0057】
本発明のチップにおいて、前記流路は分岐部を有し、前記分岐部は複数の前記液溜めに連通してもよい。こうすることにより、各分析部に分注される液体中の成分濃度を均質化することができる。
【0058】
本発明のチップにおいて、毛細管現象により前記液体試料が前記流路中を移動するように構成されてもよい。こうすることにより、試料を試料導入部に導入した後は、外部の駆動装置を用いることなくチップ自体の構成により試料を分離し、分析することが可能となる。
【0059】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料中の所定の成分に特異的に吸着して凝集する粒子を備える構成とすることができる。こうすることにより、液体試料中の所定の成分をさらに確実に分離することができる。
【0060】
本発明のチップにおいて、前記分離部は、前記粒子を保持する粒子保持槽と、前記粒子保持槽から前記流路への前記粒子の移動を制御するスイッチと、を含み、前記スイッチは、前記粒子保持槽中の前記粒子を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記粒子を導くトリガー流路と、を有する構成とすることができる。このようにすれば、液体試料中の所定の成分をより一層確実に分離することができる。
【0061】
本発明のチップにおいて、前記分析部は、前記分離部に連通する分析用流路と、前記基板の前記分析用流路の上部に設けられ前記粒子の凝集状態を検知させる窓部と、を有する構成とすることができる。こうすることにより、分離部で分離される所定の成分を簡素な構成でさらに確実に分析することができる。
【0062】
以上説明したように本発明によれば、従来複数の装置を用いて行われていた分離および分析が、一枚のチップ上で実現される。また、本発明によれば、微量の試料を簡便な操作で分離し、高精度または高感度で分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0064】
【図1】実施の形態に係るチップの基本的な機能ブロックを示す図である。
【図2】図1の機能を有するチップの構成を示す図である。
【図3】図2のA−A’断面図である。
【図4】図2のB−B’断面図である。
【図5】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図6】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図7】実施の形態に係るチップの基本的な機能ブロックを示す図である。
【図8】図7の機能を有するチップの構成を示す図である。
【図9】実施の形態に係るチップの測定部の構成を示す図である。
【図10】実施の形態に係るチップの測定部の構成を示す図である。
【図11】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図12】図11の測定装置に実施の形態に係るチップを挿入する様子を示す図である。
【図13】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図14】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図15】図14のD−D’断面図である。
【図16】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図17】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図18】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図19】実施の形態に係るチップの混合部の構成を示す図である。
【図20】実施の形態に係るチップの混合部の構成を示す図である。
【図21】図19の液体スイッチ部分を拡大した上面図である。
【図22】図19の液体スイッチにおける堰き止め部の上面図である。
【図23】実施の形態に係るトリガー流路の構成を示す図である。
【図24】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図25】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図26】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図27】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図28】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図29】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図30】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図31】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図32】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図33】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図34】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図35】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図36】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図37】図36のバンド形成用液体スイッチの拡大図である。
【図38】図36中の分離領域の構造を詳細に示したものである。
【図39】図36の分離領域の断面図である。
【図40】実施の形態に係るチップの分離部の分離方式を説明する図である。
【図41】実施の形態に係るチップの分離部に設けるナノ構造体の構成を示す図である。
【図42】図41に示したナノ構造体の形成方法について説明する図である。
【図43】図41に示したナノ構造体の形成方法について説明する図である。
【図44】図41に示したナノ構造体の形成方法について説明する図である。
【図45】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図46】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図47】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図48】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図49】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図50】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図51】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図52】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図53】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図54】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図55】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図56】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図57】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図58】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図59】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図60】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図61】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図62】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図63】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図64】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図65】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図66】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図67】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図68】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図69】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図70】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図71】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図72】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を説明する図である。
【図73】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図74】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を説明する図である。
【図75】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を説明する図である。
【図76】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図77】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図78】実施の形態に係るチップの分離方式を説明する図である。
【図79】実施の形態に係るチップの分離方式を説明する図である。
【図80】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図81】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図82】実施の形態に係るチップの分離領域の形成方法を示す図である。
【図83】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を示す図である。
【図84】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を示す図である。
【図85】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図86】図85の分離領域を用いた分離方法を説明する図である。
【図87】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図88】図87の分離領域の拡大上面図である。
【図89】実施の形態に係るチップの分注経路の構成を示す図である。
【図90】実施の形態に係るチップの反応部の構成を示す図である。
【図91】実施の形態に係るチップの流路の構成を示す図である。
【図92】図91の断面図である。
【図93】実施の形態に係るチップの制御部の構成を示す図である。
【図94】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を示す図である。
【図95】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を説明する図である。
【図96】実施の形態に係るチップの試料導入部の構成を説明する図である。
【図97】実施の形態に係るチップのバッファー導入口の構成を示す図である。
【図98】実施の形態に係るチップの試料採取部の構成を示す図である。
【図99】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図100】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図101】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図102】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図103】実施の形態に係るチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図104】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図105】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図106】実施の形態に係るチップの分離部の構成を示す図である。
【図107】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図108】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0066】
はじめに、第一および第二の実施形態において、試料の分離および分析がなされるチップの基本構成を説明する。以下の実施形態で説明するチップは、基本構成として試料導入部、分離部、および分析部を含む。分析部においては、分離された試料中の成分の分析が行われる。分析部は、たとえば所定の成分の検出反応が行われる結果、目視にて検出可能となるような検出部とすることができる。また、分析部は、外部装置を用いた測定に供する試料成分が貯留される測定部とすることもできる。第一の実施形態は、分析部が検出部である構成であり、第二の実施形態は分析部が測定部である構成である。
【0067】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態に係るチップの基本的な機能を示す機能ブロック図である。図1のチップ211は、試料の分離および分析を行うことができるチップであり、試料導入部212、分離部213、および分析部である検出部214を含む。チップ211では、たとえばシリコン、ガラス、石英、各種プラスチック材料、またはゴム等の弾性材料により構成される基板の表面に形成することができる。たとえば、基板の表面に溝部を設け、これを表面部材によって封止し、これらによって囲まれた空間内に図1に示した機能を果たす部材やそれらを連通させる流路を形成することができる。また、複数の基板を貼り合わせ、チップ211としてもよい。たとえば、2枚の基板のそれぞれに溝を形成し、これら溝の位置が一致するように2枚の基板を当接させ、接合してもよい。こうすれば、管状の流路を形成することができる。
【0068】
図2は、図1の機能を有するチップ211の構成の一例を示す図である。図2のチップ215は、基板216上に、導入口217、分離領域218、廃液溜め219、バッファー導入口220、主流路221、分注流路222、検出槽223、液溜め224が設けられている。
【0069】
また、図3は、図2のA−A’断面図である。なお、図3では、主流路221等の構成部材を省略し、基板216、蓋226、およびシール227の積層構造のみを示した。チップ215において、基板216の上部に蓋226が設けられている。蓋226には、廃液溜め219、液溜め224および各検出槽223に連通する空気孔225が設けられている。また、蓋226の上面は、シール227で封止されている。
【0070】
基板216の大きさは、たとえば3〜5cm×2〜3cm程度とすることができる。また、基板216の厚さは、たとえば0.5mm〜1cm程度とすることができる。蓋226の材料は、たとえば、基板216に用いられる材料とすることができる。なお、基板216の表面および蓋226の底面すなわち基板216と接合される面は、親水性であることが好ましい。親水性の表面とすることにより、毛細管現象を用いて試料をチップ215中に導入し、移動させることができる。ポンプや電極等の外部駆動装置を設けることなく試料の導入または移動が可能となるため、簡便な装置構成とすることができる。
【0071】
主流路221および分注流路222は、たとえば幅100μm程度、深さ20μm程度とすることができる。また、導入口217は、φ3mm程度の円柱形の液溜めとし、蓋226にも同サイズの穴を貫通させることによって形成することができる。
【0072】
検出槽223は、たとえばφ100μm〜2mm程度の円柱形や、100μm〜2mm角程度の直方体の液溜めとし、蓋の対応する位置に空気孔225を形成することによって得られる。検出槽223の深さは、たとえば深さ100μm〜2mm程度とすることができる。また、検出槽223の深さを分注流路222と同程度とするか、または基板216の厚さよりわずかに浅い程度としてもよい。こうすることにより、深さ方向に光路長を増すことができるため、検出感度を向上させることができる。また、検出槽223の表面は親水性であることが好ましい。検出槽223の表面を親水性とすることにより、分離後の試料を確実に導くことができる。
【0073】
空気孔225は、検出槽223の近傍で検出槽223に連通していれば検出槽223の直上に設けられていなくてもよい。空気孔225はたとえばφ50μm〜1mm程度の大きさとすることができる。こうすることにより、検出槽223に確実に液体を導くことができる。また、空気孔225周辺の表面は疎水化されていることが好ましい。空気孔225の表面を疎水化することにより、検出槽223に分注された液体が空気孔225から漏出しないようにすることができる。このため、検出槽223に一定量の液体を分取することができる。また、試料の損失を防止することができる。
【0074】
空気孔225の上部は、剥離可能な封止部により封止されていてもよい。こうすれば、チップ215を使用する際に所定のタイミングで封止部を剥離し、空気孔225を露出させることができる。
【0075】
廃液溜め219は、たとえばφ5mm程度の円柱形の液溜めとし、蓋の対応する位置に空気孔225を形成することによって得られる。廃液溜め219近傍の空気孔225の構成は、検出槽223近傍の空気孔225と同様に、その周辺の表面を疎水性とすることが好ましい。空気孔225は廃液溜め219の近傍で廃液溜め219に連通していれば廃液溜め219の直上に設けられていなくてもよい。空気孔225はたとえばφ50μm〜2mm程度の大きさとすることができる。また、検出槽223近傍の空気孔225よりも大きくしてもよい。
【0076】
空気孔225は、ゴム系の接着剤などにより着脱可能に封止されていてもよい。こうすれば、チップ215の使用時に空気孔225を露出させ、使用後は再び封止することができる。このため、使用後も安全にチップ215を廃棄することができる。
【0077】
廃液溜め219の表面は親水性であることが好ましい。廃液溜め219の表面を親水性とすることにより、主流路221中の液体を毛細管効果により廃液溜め219に向かって確実に移動させることができる。また、液体の一部が廃液溜め219に達した後も、毛細管効果により主流路221中の液体を下流に向かって移動させる駆動力を維持することができる。
【0078】
廃液溜め219には、吸水性材料が充填されていてもよい。こうすることにより、液体をさらに確実に下流に向かって移動させることができる。吸水性材料として、たとえば吸水ポリマーを用いることができる。また、廃液溜め219の表面に多数の柱状体を設ける方法などにより、廃液溜め219の表面積を増加させることもできる。この場合にも、廃液溜め219側への液体の移動を促進することができる。
【0079】
シール227は、チップ215を使用する際に剥離可能に形成されていればよい。たとえば各種プラスチック材料の薄膜の表面に酢酸ビニルなどのエマルジョン系粘着剤が塗布された構成とするとすることができる。また、エポキシ系やシリコーン系の接着剤を用いてもよい。
【0080】
試料導入部212に対応する導入口217には、所定の試料が導入され、チップ215では液溜めとなっている。
【0081】
チップ215を使用する際には、まず、シール227をはがす。シール227をはがすことにより、導入口217および空気孔225が開放され、外気に接触する。次いで、開放された導入口217に試料を添加する。添加された試料は、毛細管現象により分離領域218に導かれる。なお、空気孔225の上部が封止部により封止されている構成の場合には、シール227を剥離した後、所望のタイミングで封止部を剥離し、空気孔225の上部を開放することができる。
【0082】
分離領域218は、流路230、主流路221およびこれらを連通させる複数の微細流路229を有し、フィルタ状に構成されている。流路230に連通して不要な試料を排出する廃液溜め219が設けられている。また、主流路221に連通して、バッファー導入口220が形成されている。なお、チップ215において、分離領域218の構成は図2の構成には限定されず、たとえば、後出の実施形態で説明する構成等とすることができる。
【0083】
図85は、分離領域218の構成を説明する図である。図85においては、基板216上に流路溝161aおよび流路溝161b(いずれも幅W、深さD)が形成され、これらの間に隔壁165が介在している。ここで、161aおよび161bのいずれか一方が主流路221となり、他方が流路230となる。隔壁165には、分離流路が規則的に形成されている。ここでいう「分離流路」は、微細流路229に対応する構成である。分離流路は、流路溝161aおよび流路溝161bと直交し、幅d1の分離流路が所定の間隔d2で規則的に形成されている。図中に示された各寸法は、分離する試料等に応じて適宜な値に設定されるが、たとえば以下のような範囲から好適な数値が選択される。
【0084】
W:10μm〜1000μm
L:10μm〜1000μm
D:50nm〜1000μm
d1:10nm〜1μm
d2:10nm〜1μm
このうち、分離流路の長さに相当するLの数値は、分離特性に直接影響するため、分離目的に応じて精密に設計することが重要となる。たとえば高分子の分離においては、分離流路を通過する際に分子のコンフォーメーションが変化し、エンタルピー変化が生じる。したがって、分離流路の長さによって分子の通過に伴うエンタルピー変化の総量が相違することとなり、分離特性が変化するのである。本発明においては、流路を溝により構成しているため、エッチングや成型加工により作製することができ、形状やサイズを精密に制御することができる。この結果、所望の分離特性を有する分離装置を安定的に製造することができる。なお、流路溝161a、流路溝161bおよび分離流路は、様々は方法で形成することができるが、d1やd2の値を100nm以下に設定した場合、微細加工性の点で電子線露光技術を組み合わせたドライエッチングを用いることが望ましい。
【0085】
図85に示した構造の分離領域218を用いた分離方法について図86を参照して説明する。図86は、この分離装置を上から見たときの概略構造を示した模式図である。まず、試料の分離を行う前の準備として、各流路溝にキャリアとなる緩衝液を満たしておく。図86では、流路溝161b中に、図中下向きに混合物150を含む試料原液が流れる。すると、混合物中の小さな分子151が、図の中央に示される隔壁に設けられた分離流路を通過し、隣接する流路溝161aに進入する。流路溝161aには、分離目的成分と化学反応を起こさない溶媒が図中上向きに流れている。したがって、流路溝161aに進入した小さな分子151は、その流れにのって図中上向きの方向に運搬される。一方、流路溝161b中の大きな分子152は、分離流路を通過できないので、流路溝161b中をそのまま流れていき、流路の末端で回収される。以上のようにして、小さな分子151および大きな分子152が分離される。
【0086】
図85では、流路溝161aおよび流路溝161bの流れの方向を逆向きとした。同じ向きとすることもできるが、逆向きにした場合、分離効率が向上する。たとえば流路溝161aの流れの方向を図中下向きとした場合、流れの進行方向に向かうにしたがって小さな分子151の濃度が高くなっていく。したがって、流路溝161aと流路溝161bにおける大きな分子152の濃度差が、流れの進行方向に向かうにしたがって小さくなり、ある地点で等濃度となる。この地点から先の領域では、流路溝161bから流路溝161aへの大きな分子152の移動は起こりにくくなり、分離できなくなる。これに対して本実施形態のように逆向きの方向にした場合は、流路溝161aと流路溝161bにおける大きな分子152の濃度差は担保されるので、分離流路を一定の長さの領域にわたって形成した場合でも、高い分離能力を確保することができる。
【0087】
また、以上においては、分離流路となる複数の微細流路229が形成された隔壁を有する構成を示したが、分離領域218は、以下の構成としてもよい。
【0088】
図103は分離領域218の構成を示す図であり、分図(A)、(B)はそれぞれ断面図、斜視図である。図103(A)に示されるように、基板216には二本の流路溝161a、bが設けられ、それらを分けるようにして隔壁308が設けられている。基板166の上には蓋226が配設される。便宜上、蓋226は図103(B)には示していない。なお、隔壁308は上述の土手部に相当する。
【0089】
図103(A)から分かるように、隔壁308と蓋226との間には空間が確保されているため、この空間を介して流路溝161aおよび流路溝161bは互いに連通している。この空間は、上記の分離領域218の隔壁165に設けられた分離流路に相当する。したがって、例えば流路溝161aに分離対象物質を含む試料を流し、流路溝161bに緩衝液を流すことにより分離操作を実行することができる。
【0090】
なお、この場合、蓋226にはポリジメチルシロキサンやポリカーボネートなどの疎水性材料からなるものを選択することが好ましい。このようにすることにより、各々の流路溝に試料あるいは緩衝液を他の流路溝に浸入させることなく導入することができ、かつ両方の流路溝に試料等が満たされた段階で、上記空間を介して両流路溝内の試料および緩衝液の混和を生じさせることができる。このような効果は、蓋226を取り付けない状態で操作実施することによっても得ることができる。このとき、空気自体が疎水性物質として蓋226と同様に機能しているものと考えられる。
【0091】
また、ポリエチレンテレフタレートなどの親水性の樹脂材料からなる蓋226を取り付けた状態で、例えば流路溝161aに試料を流すと、当該試料は他方の流路溝161bへ浸入する。この浸入の際に、蓋226と隔壁308との間に形成された空間よりも小さなサイズの成分のみが濾しとられるため、試料中の成分の分離が実現する。
【0092】
この構成によれば、隔壁308を設けることにより、流路溝161aおよび流路溝161bを、微細流路229を有する隔壁165に比較して広い面積で接続するため、分離効率を向上させることができる。また、細長い物質であっても詰まりにくく、流路間を容易に移動できるため、こうした物質を含む試料の分離に好適に用いることができる。
【0093】
このような流路溝161a、流路溝161bおよび隔壁165は、例えば(100)Si基板をウェットエッチング処理することにより得られる。(100)Si基板を用いた場合、<001>方向に直交あるいは平行な方向では、図示されるように台形型にエッチングが進行する。そのため、エッチング時間を調節することにより隔壁165の高さを調節することが可能である。
【0094】
また、図102に示されるように、隔壁308を蓋226上に設けることもできる。このような隔壁308を備えた蓋226は、ポリスチレンなど樹脂を射出成形することにより容易に得ることが可能である。また、基板216には1本の流路をエッチング等により設けるだけでよい。したがって、この分離領域218は上記のような簡便なプロセスにより得られるため、大量生産に適している。
【0095】
本実施形態の分離装置では、たとえば試料原液の毛細管現象による導入と、拡散により分離できる。また、分子の浸透圧差を利用して分離することができる。
【0096】
図2にもどり、導入口217に導入された試料は、毛細管現象により流路230に導かれる。試料が流路230を満たしたら、バッファー導入口220に所定のバッファーを導入する。バッファーは、試料中の成分の分離用展開液として用いられる。バッファー導入口220に導入されたバッファーは、毛細管現象により主流路221に導かれ、流路230中の試料の移動方向と逆向きに移動する。
【0097】
ここで、流路230と主流路221とを連通させている微細流路229は、流路230よりも幅または深さが小さいため、流路230中の試料成分のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが微細流路229を通過し、主流路221に移動することができる。また、微細流路229中を通過できない成分は、廃液溜め219に排出される。こうして、試料中の成分を、その移動相中での大きさまたは形状に従って分離することができる。なお、微細流路229は、流路230と主流路221とを隔てる隔壁中に小孔が形成された構成とすることができる。
【0098】
このような分離領域218を用いて、たとえば試料の粗分離、精製等を行うことができる。粗分離の場合として、試料中の固形成分や細胞等を分離除去することができる。また、液体試料の場合、たとえば低分子量成分と高分子量成分との分離等が可能である。
【0099】
主流路221中の試料成分は、主流路221に連通する分注流路222から、検出槽223に導かれ、分注される。ここで、検出槽223は、図1における検出部214に対応する。分注流路222および検出槽223は基板216上に所定の数だけ設けることができる。図2のチップ215では、主流路221から複数の分注流路222が順次分岐しており、分注流路222は主流路221よりも細い流路であるため、毛細管現象によって上流側の分注流路222に連通する検出槽223に順に試料成分が導入される。また、すべての検出槽223に試料成分が導かれた後の不要な試料は、液溜め224に排出される。
【0100】
このような構成とすれば、チップ215への試料の導入および移動を毛細管現象を利用して自動的に生じさせることができるため、外部の駆動装置を用いることなくチップ自体の構成により試料を分離し、分析することが可能となる。なお、必要に応じて、ポンプや電極等を有する外部装置にチップ215を接続してもよい。
【0101】
また、本実施形態および以降の実施形態において、バッファー導入口220その他の液溜めを有する部分には、チップの使用前からあらかじめ試薬を導入しておいてもよいし、チップを使用する際に必要に応じて所望のタイミングで注入することもできる。
【0102】
図4(A)および図4(B)は、図2のB−B’断面図であり、検出槽223を主たる構成要素とする検出部214の構成例を示す図である。図4(A)および図4(B)において、検出槽223は、底面に検出試薬231を有している。検出試薬231は、試料中に含まれる特定成分と相互作用することによりたとえば発色、発光、変色、脱色または消光する物質ないし試薬とすることができる。分離領域218で分離された試料が検出槽223に達すると、検出試薬231が移動相中に溶解または分散し、検出槽223中で所定の検出反応が行われる。なお、複数の検出槽223を有するチップ215については、このうち一つの検出槽223には検出試薬231を導入せず、参照用の液溜めとして用いることもできる。
【0103】
図4(A)の構成では、検出反応による発色等を、蓋226越しに目視で観察する構成となっている。また、図4(B)では、蓋226にマイクロレンズ228が形成されているため、検出槽223内の様子を拡大して観察できる。したがって、検出槽223中における発色、発光、変色、脱色または消光をより詳細に視認することが可能である。さらに、検出槽223が極めて小さい場合でも当該発色、発光、変色、脱色または消光を視認することができる。したがって、分析に供する試料を少量化することができる。
【0104】
また、図5および図6は、検出部214のまた別の構成を示す図である。図5は図2のB−B’断面図であり、図6は図2のC−C’断面図である。図5および図6に示したように、マイクロレンズ228は、複数の検出槽223間にわたって形成してもよい。この場合、マイクロレンズ228はたとえばかまぼこ型とすることができる。こうすれば、蓋226の構成をより簡素化することができる。
【0105】
図2のチップ215の作製は、たとえば次のようにして行う。基板216に溝を形成し、主流路221、流路230および分注流路222とする。また、主流路221に連通する導入口217、検出部113、および検出部115を形成する。これらの形成は、基板216としてプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板216の材料の種類に適した方法で行うことができる。主流路221の幅は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、細胞の液状分画成分(細胞質)のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)の抽出を行う場合、5μm〜1000μm、とする。また、蓋226に、試料導入部217、および空気孔225を形成する。
【0106】
得られた基板216および蓋226を接合する、さらに、蓋226の上面をシール227で封止する。こうして、チップ215が得られる。
【0107】
なお、基板216および蓋226がプラスチック材料である場合、たとえばこれらを熱融着により接合することができる。この場合、基板216および蓋226を構成する樹脂のガラス転移温度付近まで加温した状態で、当接させ、圧着した後、室温まで降温させ、その後圧力を解除すればよい。
また、溶媒を用いた融着を行ってもよい。この場合、基板216および蓋226を溶解させる溶剤をこれらの表面に極めて薄くスプレーした後、これらを当接させて、接合させることができる。
【0108】
また、基板216と蓋226とを当接させた状態でこれらに超音波振動を与え,そのエネルギーで基板216および蓋226の表面を融解し、接着してもよい。
【0109】
また、基板216および蓋226の種類に応じて選択される接着剤を用いて接着してもよい。接着剤を用いる場合、主流路221等の微小空間が接着剤により埋設されないようにする必要がある。そこでたとえば接着剤を蓋226にのみ極めて薄く塗布または展開することができる。また、マスクを用いて基板216の微小構造以外の部分にのみ接着剤を塗布または展開し、蓋226を接着してもよい。
【0110】
また、基板216および蓋226がたとえばガラス、石英、または表面を酸化したシリコン基板である場合には、たとえば、溶媒によりこれらを融着することができる。具体的には、フッ化水素水溶液を基板216または蓋226の表面に極めて薄くスプレーした後、これらを押し当てた状態で加温し、接着することができる。また、SOG(シリコンオキサイドゲル)などの接着剤を用いてもよい。SOGを用いる場合、基板216または蓋226の表面にSOGを塗布、展開した後これらを当接させ、オーブン中で200℃程度に加熱してもよい。加熱によりSOGをガラス化し、確実に接着することができる。
【0111】
また、基板216および蓋226がゴムである場合には、架橋剤を接着剤として用いることができる。基板216または蓋226の表面に接着剤を塗布し、これらを押し付けた状態で架橋反応を生じさせることにより、これらが接合される。
【0112】
なお、主流路221または流路230の壁面にDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングすることが好ましい。こうすれば、チップ215が良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、たとえば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質等が挙げられる。また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂、あるいは牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。また、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー等の親水性高分子等のコーティング等により、基板216表面を親水性樹脂で構成することもできる。また、親水性のシランカップリング剤により基板216の表面をコーティングしてもよい。
【0113】
基板216の表面の親水化をMPCポリマーを用いて行う場合、具体的には、リピジュア(登録商標、日本油脂社製)などを用いることができる。リピジュア(登録商標)を用いる場合、たとえばこれを0.5wt%となるようにTBE(トリスボレイト+EDTA)バッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を主流路221または流路230内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0114】
また、流路壁をはじめとする基板216の表面を親水化することにより、毛細管現象を利用して導入口217に試料を確実に導入することができる。また、導入口217に導入された試料をより一層確実に流路230に導入し、毛細管現象により流路230および主流路221中を移動させることができる。基板216の表面を親水化する方法として、流路230の表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成することが有効である。親水性膜の形成により、特に外力を付与しなくとも緩衝液が円滑に導入される。
【0115】
また、基板216の少なくとも表面を、PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)等の親水性高分子材料で構成することにより、毛細管効果が促進される。さらに、基板216表面への試料成分の非特異的な吸着を抑制することができる。このため、試料が微量であっても確実に分離および検出または測定を行うことができる。また、基板216の表面を酸化チタンで構成し、この表面に紫外線照射を行うことにより、基板216表面を親水化することができる。また、基板216の表面を酸素プラズマによりアッシングしてもよい。
【0116】
また、蓋226の表面をシール227でシールする際に、基板216と蓋226の接合体の表面をシール227で封止する際には、開口部に窒素等の不活性ガスを充填した後封止してもよい。こうすれば、チップ215を使用する直前まで基板216の表面が空気中に曝されないようにすることができる。このため、チップ215が空気中に曝されることによる表面の親水性の低下を抑制することができる。よって、毛細管現象による試料の導入および移動を確実に行わせることができる。なお、不活性ガスを充填せずに、接合体の表面を減圧下でシール227により封止してもよい。また、シール227により封止されたチップ215を、外装体中に収納し、保存することもできる。このとき、外装体中に不活性ガスを充填するか、減圧下で外装体中にチップ215を収納することが好ましい。
【0117】
また、図3では、シール227が設けられているチップ215を例示したが、本実施形態および以降の実施形態におけるチップは、シール227を有さない構成であってもよい。シール227を設けない構成とすることにより、チップの構成を簡素化することができる。また、シール227を設けることにより、導入口217や空気孔225等の開口部分が外気に接触しないようにすることができる。このため、搬送時等の取り扱いをさらに簡便化することができる。また、チップ中に塵芥が入らないようにすることができる。また、検出槽223中に検出試薬231が保持されている場合、検出試薬231の変質を抑制することができる。
【0118】
以上のように、本実施形態に係るチップ211を用いることにより、試料中の所定の成分を分離し、さらに検出を行うことができる。
【0119】
たとえば、検出槽223において呈色反応が行われる場合、これを比色して試料中の特定の成分の有無を判断したり、濃度を測定したりすることができる。この場合、基板216が透明な材料により形成されていることが好ましい。こうすることにより、より正確な検出を行うことができる。透明な材料として、具体的には、石英、環状ポリオレフィン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いることができる。
【0120】
チップ211を用いた検出として、たとえば血糖値の測定が挙げられる。この場合、血液を試料として導入口217に導入すると、分離領域218にて血球が分離される。検出槽223には、バッファー導入口220に導入されたバッファーによって希釈された血漿成分が分注される。検出試薬231として、NAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸2ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウムを用いれば、検出槽223における発色の程度によって、血糖値を容易に判断することができる。
【0121】
なお、図2のチップ215において、廃液溜め219がトリガー流路256を介してバッファー導入口220に連通する構成としてもよい。図101は、このような構成を模式的に示す図である。図101において、廃液溜め219とバッファー導入口220とを接続するトリガー流路256には、フィルタ307が設けられている。フィルタ307を設けることにより、流路230中の成分のうち、分離領域218を通過できない成分がトリガー流路256の下流側に侵入しないようにすることができる。
【0122】
また、主流路221とトリガー流路256との交差点に液体スイッチ257が形成されている。液体スイッチ257を設けることにより、導入口217に導入された液体試料が流路230およびトリガー流路256を経由して液体スイッチ257に到達した時点で液体スイッチ257が開き、バッファー導入口220にあらかじめ導入されていたバッファーが主流路221中を移動する構成とすることができる。なお、液体スイッチ257の具体的な構成については、第三の実施形態において後述する。
【0123】
この構成によれば、バッファー導入口220中にあらかじめ所定のバッファーを導入しておくことにより、毛細管力による導入口217への試料の導入以降の処理をチップ215自体の構成により自動的に進行させることが可能となる。このため、試料中の成分の分離および検出をさらに効率よく行うことができる。
【0124】
(第二の実施形態)
図7は、本実施形態に係るチップの基本的な構成の一例を示す機能ブロック図である。チップ232は、第一の実施形態に記載のチップ211において、検出部214に代わり分析部として測定部233を有する点が異なる。測定部233は、外部装置を用いた測定に供する試料成分が貯留される領域である。
【0125】
図8は、図7の機能を有するチップ234の構成の一例を示す図である。チップ234の基本構成は第一の実施形態に記載のチップ215(図2)と同様であるが、検出槽223に代わり分取部235を有する点が異なる。分取部235は、分離領域218で分離された試料成分が分取される液溜めである。
【0126】
図9および図10は、分取部235を主たる構成要素とする測定部233の構成を例示する図である。分取部235は、図9に示したように試料を貯留する液溜めのみからなっていてもよい。または、図10に示したように、測定試薬236を有していてもよい。測定試薬として、たとえば、第一の実施形態に記載のチップ215において、検出試薬231として利用可能な物質を用いることができる。測定試薬を用いることにより、発色反応等を利用して、試料中の特定成分について確実に分析を行うことができる。具体的には、280〜850nm程度の波長領域における透過光強度を測定することができる。
【0127】
図11は、チップ234を挿入して分取部235の試料成分に関する光学測定を行う測定装置237の構成を模式的に示す図である。測定装置237は、チップ234が挿入される挿入部244と、挿入部244に挿入されたチップ232の分取部235に光を照射し、また光学特性を測定する測定ユニット242を有する。測定ユニット242は、光源238、集光部243、および受光部239を含む。
【0128】
測定ユニット242の大きさは、分取部235の大きさに対応して設計される。たとえば、チップ234において、分取部235の深さを100μm〜2mm程度とし、分取部235の間隔を100μm〜2mm程度とすることができ、このとき、光源238、集光部243、および受光部239の大きさもこれに合わせて設計される。
【0129】
光源238は、たとえばLED、レーザダイオード、半導体レーザ等とすることができる。光源の種類は、測定波長によって異なるため、測定試薬236によって生じる発色等の波長に合わせて適宜選択される。集光部243は、たとえばセルフォックスレンズを所定の形状、大きさに加工して用いることができる。受光部239は、たとえばフォトトランジスタ、光電セル等とすることができる。
【0130】
図12は、図11の測定装置237にチップ234を挿入する様子を示す図である。測定装置237の挿入部244にチップ234を挿入すると、測定ユニット242に対応する位置に分取部235が挿入される。このため、チップ234に形成された分取部235の数だけ測定ユニット242を設けておけば、それぞれの分取部235について、光学測定を一度に行うことができる。よって、短時間での測定が可能となる。また、測定装置237は測定ユニット242を1個有するものとし、チップ232を挿入部244中でスライドさせることにより、複数の分取部235について順次光学測定を行う構成としてもよい。
【0131】
また、図13は、測定装置237の別の構成を示す図である。図13の測定装置237は、図11の装置と基本構成が同様であるが、光源238を1台とし、また光学フィルタ240および遮光板241を有する点が異なる。なお、図13では、集光部243を設けない構成としたが、集光部243を設ける構成とすることもできる。
【0132】
光学フィルタ240を設けることにより、光源238からの出射光のうち、所定の波長範囲にある光のみを分取部235に照射することができる。このため、ランプ光源など、出射光の波長分布がブロードな光源238を用いる際にも、測定波長に対応する光学フィルタ240で分光し、測定するこができる。また、光学フィルタ240は遮光板241に支持されているため、他の測定ユニット242に光源238からの出射光が漏洩するのを防止することができる。
【0133】
光学フィルタ240には、光学フィルタとして既知の材料を所定の大きさに加工して用いることができる。
【0134】
なお、図11または図13に示した測定装置237において、光源238を設けずに、外部の光源からの光を光ファイバ等により導入し、分取部235の挿入される位置に照射する構成としてもよい。また、以上においては分取部235における透過度を測定するとして説明したが、測定ユニット242は、吸光度や散乱度を測定するように構成されていてもよい。
【0135】
また、チップ232の構成および測定装置237の構成は、上述したものに限られず、種々の構成とすることができる。
【0136】
たとえば、図14に示すように、分取部235を分注流路222上に設け、分取部235の下方に光導波路245を形成することもできる。ここで、光導波路245は、たとえば石英系材料または有機系ポリマー材料により形成することができる。光導波路245は、周囲の材料よりも屈折率が高くなるように構成される。この場合、光導波路245にはチップの底面から光が導入され、同様に、チップの底面から光が取り出される。図15は、図14のD−D’断面図である。図15に示したように、光導波路245の一端が投光用投光用光導波路246に接続され、他端が受光用光導波路247に接続されている。投光用光導波路246および受光用光導波路247は、基板216の水平面の法線方向に延在し、光導波路245から基板216の表面にわたって設けられている。
【0137】
この場合、たとえば、測定装置237の底面等に、チップの投光用光導波路246へ光を導入する光源238および受光用光導波路247からの光を受光するための受光部239を設けておくことができる。このような構成にすれば、測定装置237の底面等に、チップの投光用光導波路246および受光用光導波路247が露出した面を接触させることにより、分注流路222自体を測定用の分取部235として用い、分取部235への光の導入および分取部235からの光の検出を行うことができる。
【0138】
また、図14および図15に示したチップにおいて、光導波路245を設けない構成としてもよい。このとき、投光用光導波路246および受光用光導波路247を設けることにより、光源238からの出射光を投光用光導波路246を介して分取部235に導入し、分取部235からの出射光を受光用光導波路247を介して受光部239にて受光することができる。この構成についても、分取部235に分取された液体中の所定の成分に関する光学測定を行うことができる。また、光導波路245を設けないため、チップの構成を簡素化することができる。
【0139】
本実施形態においては、測定部233を有するチップ232を用いることにより、外部装置による測定に適した試料を容易に調製することができる。たとえば、チップ234を用いて分離および分取を行った試料に対し、チップ234をそのまま測定装置237に挿入して分離された成分に関する光学測定を行うことができる。このため、簡便な手法で確実に試料中の成分に関する分析を行うことができる。
【0140】
なお、チップ234をそのまま測定装置に供する構成とせず、チップ234の分取部235に分取された試料を抽出して外部装置の測定に供する態様としてもよい。
【0141】
チップ232を用いた測定として、たとえば血糖値の検出が挙げられる。この場合、血液を試料として導入口217に導入すると、分離領域218にて血球が分離される。分取部235には、バッファー導入口220に導入されたバッファーによって希釈された血漿成分が分注される。測定試薬236として、第一の実施形態の検出試薬と同様にNAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸2ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウムを用いれば、分取部235における発色の程度を測定装置237によって測定し、血糖値レベルを容易に判断することができる。また、肝酵素ASTの検出等も可能である。
【0142】
第一または第二の実施形態に記載の基本構成を有するチップは、さらに以下のいずれかの実施形態に記載の構成を有する。
【0143】
(第三の実施形態)
本実施形態に係るチップは、第一または第二の実施形態に記載の基本構成を有し、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間に、検出または測定に先立ち、試料濃度を均質化するための混合部を有する。図16および図17は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図16のチップ249では、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間に混合部248が形成されている。また、図17のチップ250では、分離部213と測定部233との間に混合部248が形成されている。以下、検出部214を有する構成の場合を例に説明する。
【0144】
図18は、混合部248を有するチップの構成の一例を示す図である。図18のチップ251の基本構成は図2のチップ215と同様であるが、分離領域218と分注流路222との間の主流路221に混合部248が設けられている点が異なる。
【0145】
チップ251において、混合部248は、主流路221中を流れる液体中の試料成分濃度を均質化することができるように構成されていれば、特に制限はないが、たとえば以下のように構成することができる。
【0146】
図19は、混合部248の構成の一例を示す図である。図19の混合部248は、対向流による均質化効果を利用した助走流路である。この流路は、主流路221の往路252と復路253とを混合用微細流路254により連通させた構成となっている。混合用微細流路254は、たとえば往路252と復路253とを隔てる隔壁に設けられた小孔とすることができる。
【0147】
混合用微細流路254の表面は往路252に比べて疎水性とする。こうすることにより、分離領域218を通過した液体が往路252を満たすまで、混合用微細流路254から復路253に流入しない構成とすることができる。往路252が液体で満たされ、復路253に至ると、混合用微細流路254中に往路252側と復路253側から液体が侵入することにより、往路252と復路253とが混合用微細流路254を介して互いに連通する。そして、往路252内の液体と復路253内の液体との間で相互拡散が起こり、液体の濃度を均質化することができる。均質化された液体は、主流路221から分注流路222を通って検出槽223に導かれる。
【0148】
このような構成とすれば、復路253を通過して分注流路222に流入する液体の濃度を均質化することができる。したがって、分離領域218を通過した液体中の試料成分濃度にむらがある場合にも、複数の検出槽223に供給される液体中の試料成分濃度を一定とすることができる。よって、検出反応の精度を向上させることができる。
【0149】
たとえば、試料成分濃度が高い領域が、主流路221中を流れる液体の先端領域にある場合、往路252を進むほど、既に希釈化された低濃度の復路253中の液体と交換されて、平均的濃度に均質化される。逆に、高濃度領域が主流路221中を流れる液体の先端から遠く、復路253に液体が侵入した後も往路252に存在する場合、復路253を進行する低濃度の液体は、復路253内の高濃度の液体と混合されて平均的な濃度に均質化される。なお、図19では、主流路221を一直線の形状としたが、ジグザグ形状やらせん状としてもよい。こうすることにより、混合部248をコンパクトな形状とすることができる。よって、チップ251を小型化することができる。
【0150】
また、図20は、混合部248の別の構成を示す図である。図20の混合部248においては、主流路221中に液溜め255が設けられ、液溜め255の下流において主流路221の2箇所を連通させるトリガー流路256が設けられている。トリガー流路256は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。トリガー流路256と主流路221との2箇所の交差点のうち、下流側すなわち分注流路222側の交差点に、液体スイッチ257を有する。
【0151】
このような混合部248では、当初は液体スイッチ257が閉じており、分離領域218を通過した液体は、液溜め255に貯留され、濃度が均質化される。液溜め255が液体で満たされると、その一部がトリガー流路256へと流入する。そして、トリガー流路256中に液体が満たされ、液体スイッチ257の形成領域に達すると、液体スイッチ257が開くため、液溜め255中で均質化された液体が分注流路222へと流入する。
【0152】
図21(A)〜図21(C)は、図19の液体スイッチ257部分を拡大した上面図である。液体スイッチ257は、液体の流動を制御するスイッチであり、液体がスイッチ開閉のトリガーとなる。図21(A)はスイッチ閉状態、図21(B)および図21(C)はスイッチ開状態を示す。図中、主流路221の側面にトリガー流路256が接続している。トリガー流路256は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。主流路221とトリガー流路256の交差する領域の上流側(図中上側)に堰き止め部258が設けられている。堰き止め部258は、流路の他の部分よりも強い毛細管力を有する部分となっている。堰き止め部258の具体的構成としては、以下のものが例示される。
【0153】
(i)複数の柱状体が配設された構成
この構成では、堰き止め部258における流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きくなっている。すなわち、主流路221に液体が満たされたとき、堰き止め部258においては、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0154】
(ii)多孔質体やビーズが複数充填された構成
この構成では、堰き止め部258において、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0155】
上記(i)の構成とする場合、柱状体は、基板の種類に応じて適宜な方法で形成することができる。ガラス基板や石英基板を用いる場合、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用して形成することができる。プラスチック基板を用いる場合、形成しようとする柱状体のパターンの反転パターンを有する金型を作製し、この金型を用いて成形を行い所望の柱状体パターン面を得ることができる。なお、このような金型は、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用することにより形成することができる。
【0156】
上記(ii)の構成とする場合、多孔質体やビーズは、これらを流路の所定箇所に直接充填、接着することにより形成することができる。
【0157】
本実施形態では、上記(i)の構成を採用する。
【0158】
図22は、堰き止め部258の上面図である。複数の柱状体260が、略等間隔で規則的に配置されている。柱状体260以外の領域は微細流路261となっている。堰き止め部258では、流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きい。このため、堰き止め部258に浸入した液体は、毛細管力により、微細流路261に保持される。
【0159】
図21(A)はスタンバイ状態にある液体スイッチ257を示している。主流路221に導入された液体試料259が堰き止め部258で保持されている。この状態から所望のタイミングでトリガー流路256を迂回してきたトリガー液262が導入されると、図21(B)のようにトリガー液262の液面の先端部分が前進し、堰き止め部258と接触することとなる。図21(A)の状態では、液体試料259は毛細管力により堰き止め部258に保持されているが、液体試料259がトリガー液262と接触した図21(B)の状態になると、液体試料259が図中下方向(下流側)に移動し、図21(C)の主流路221下流側に液体試料259が流出する。すなわち、トリガー液262が呼び水としての役割を果たし、液体試料259を下流側に引き出す液体スイッチとしての動作が発現する。
【0160】
以上において、液体試料259およびトリガー液262は、液溜め255を通過した液体である。したがって、この構成によれば、分離領域218を通過した液体が液溜め255を満たし、さらにトリガー流路256の先端すなわち主流路221の下流側の交差点に達するまでの間、液体が分注流路222側に流入しないようにすることができる。よって、液溜め255において確実に試料成分濃度の均質化を図ることができる。また、トリガー流路256の構成によって、分注流路222へと流入するタイミングを好適に調節することができる。
【0161】
図23(A)〜図23(C)は、トリガー流路256の構成を例示する図である。図23(A)では、トリガー流路256の一部に流路拡張領域263が形成されている。流路拡張領域263は、トリガー流路256中で時間遅れ槽として機能する。こうすることにより、液体スイッチ257を開くタイミングを遅延させることができる。
【0162】
図23(B)は、図23(A)の構成のトリガー流路256において、流路拡張領域263に疎水性領域264が形成されている。疎水性領域264は、トリガー流路256中の液体の進行方向に垂直な方向に流路拡張領域263を横切るように形成されている。このような疎水性領域264を設けることにより、流路拡張領域263において、液体が壁面のみをつたって他端に到達するのを抑制することができる。
【0163】
図23(C)は、じぐざぐ形状のトリガー流路256の例を示している。このようにトリガー流路256の形状、長さを最適化することにより、所望のタイミングで液体スイッチ257を開放することが可能となる。トリガー流路256の形状は、占有面積が小さいような形状であれば図23(C)の形状に限られず、たとえばらせん形とすることもできる。
【0164】
本実施形態に係るチップ249またはチップ250によれば、分離部213と検出部214または測定部233との間に混合部248を有するため、分離部213を通過した液体の濃度を均質化した後、検出部214または測定部233へと導くことができる。このため、検出部214または測定部233に導入される液体中の試料成分のむらを解消することができる。よって、検出部214における検出反応や測定部233における測定の精度を向上させることができる。
【0165】
(第四の実施形態) 本実施形態は、以上の実施形態に記載のチップにおいて、試料導入部212と分離部213との間に、分離に先立ち、試料に所定の前処理を施す前処理部が設けられたチップに関する。本実施形態のチップは、第一または第二の実施形態に記載の基本構成を有する。
【0166】
図24および図25は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図24および図25では、分析部としてそれぞれ検出部214および測定部233が設けられている。図24のチップ265、図25のチップ267のいずれにおいても、試料導入部212と分離部213との間に前処理部266が形成されている。以下、分析部として検出部214を有する場合、具体的には図24に示した検出部214を有する構成の場合を例に説明する。
【0167】
図26は、チップ265として利用可能なチップの構成の一例を示す図である。図26のチップ268では、導入口217と分離領域218との間に、前処理部266が形成されている。前処理部266は、主流路221中に設けられた前処理槽269と、液体スイッチ257と、トリガー流路256とを含む。トリガー流路256中には、時間遅れ槽としての流路拡張領域263が形成されている。
【0168】
前処理槽269には、導入口217に導入された試料に対し、所定の前処理を行うための液溜めである。図示していないが、前処理槽269には前処理に用いる酵素等の前処理試薬があらかじめ導入されている。
【0169】
導入口217に導入された試料は、主流路221から前処理槽269に流入し、前処理試薬と混和し、前処理がなされる。前処理槽269の下流には液体スイッチ257が設けられているため、当初は前処理槽269を通過した液体が液体スイッチ257よりも下流側に流入することはない。トリガー流路256は、前処理槽269における前処理時間に合わせてその構成を設計することができる。たとえば、前処理時間が長時間であれば、流路拡張領域263を大きくすることができる。
【0170】
主流路221からトリガー流路256中を進行する試料が液体スイッチ257まで到達すると、主流路221側からの試料とトリガー流路256側からの試料とが接触することにより液体スイッチ257が開く。そして、前処理槽269で前処理された試料は主流路221中を進み、分離領域218で所定の分離操作がなされた後、分注流路222から検出槽223に分注され、検出槽223で所定の検出反応が行われる。
【0171】
前処理槽269で行われる前処理として、たとえば、試料中の不溶成分の可溶化が挙げられる。導入口217に導入される試料が生体試料である場合、試料中の細胞の可溶化を行う必要があることがある。細胞を可溶化するためには、細胞膜、細胞骨格を可溶化する必要がある。また、動物細胞においては細胞外マトリックス、植物細胞の場合は細胞壁を破壊する必要がある。前処理槽269を有するチップ268を用いることにより、これらの前処理を行うことができる。以下、前処理として細胞外マトリックスや細胞壁の破壊を行う場合を例に説明する。
【0172】
前処理槽269には、可溶化酵素をあらかじめ導入しておく。たとえば、試料が唾液や鼻汁である場合には、可溶化酵素として塩化リゾチームを用いることができる。また、試料が組織である場合、たとえばコラゲナーゼを用いることができる。また、試料が植物細胞である場合、たとえばセルラーゼなどの細胞壁を可溶化する酵素を用いることができる。なお、前処理槽269での処理を行う間、所定の温度でインキュベートしてもよい。
【0173】
所定の時間前処理がなされた後、液体スイッチ257が開くことによって主流路221中を進行する試料は、分離領域218において分離される。ここで、分離領域218では、細胞周囲の余分な液体が分離除去され、細胞の洗浄をすることできる。バッファー導入口220に分離用バッファー、この場合は洗浄用バッファーを導入すると、微細流路229を介して主流路221と流路230とが連通し、主流路221中の余剰な液体成分が除去される。たとえば、コラゲナーゼ処理液や血漿等が洗浄用バッファーと混和抽出され、液溜め270に除去される。
【0174】
洗浄用バッファーが液溜め270を満たすと、液溜め270に連通するトリガー流路256中に液体が侵入し、これが液体スイッチ257に達すると、液体スイッチ257が開放される。液体スイッチ257が開放されると、主流路221中で洗浄された細胞が、分注流路222およびこれに連通する検出槽223へと順次分取される。
【0175】
この構成によれば、導入口217と分離領域218との間に形成された前処理部266において、試料に所定の前処理を施すことが可能となる。このため、チップ268上での分離および検出をさらに好適な条件で実施することができる。なお、前処理槽269への反応試薬の導入は、チップ268の作製時にあらかじめ行っておいてもよいし、チップ268を使用する際に所定のタイミングで行ってもよい。
【0176】
なお、前処理槽269でなされる前処理は、可溶化処理に限らず、種々の処理とすることができる。たとえば、試料中の成分がDNAである場合、前処理槽269においてPCR反応を行ってもよい。
【0177】
(第五の実施形態)
本実施形態は、第四の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間にさらに混合部248を有する構成に関する。図27および図28は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図27のチップ271では、分離部213と分析部(検出部214)との間に混合部248が設けられ、図28のチップ272では、分離部213と分析部(測定部233)との間に混合部248が設けられる。
【0178】
ここでは、図27に示したチップ271に対応する構成を例に説明する。図29は、チップ271に対応するチップの構成の一例を示す図である。図29のチップ273は、図26に示したチップ268において、分離領域218と分注流路222との間に混合部248が形成されている。混合部248の構成は、たとえば第三の実施形態に記載の構成とすることができる。
【0179】
このような構成とすることにより、前処理槽269および分離領域218でそれぞれ前処理および分離がなされた試料の主流路221中での濃度を均質化した後、それぞれの分注流路222に順次流入させることができる。このため、分離領域218の試料濃度に分布がある場合にもこれを平均化することが可能となり、それぞれの検出槽223中に導入された液体の試料成分濃度のばらつきを抑制することができる。よって、検出槽223における検出反応の精度を向上させることができる。
【0180】
なお、以上においては一種類の試料の濃度分布を減少させる場合を例に説明したが、複数の液溜めが混合部248に連通する構成としてもよい。こうすれば、それぞれの液溜め中に含まれる試料を混合することができる。
【0181】
(第六の実施形態)
本実施形態は、以上の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間にさらに反応部275を有する構成に関する。図107および図108は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図107および図108に示したチップは、それぞれ、第一および第二の実施形態1に記載の基本構成を有し、それぞれ、分離部213と分析部(検出部214)との間、分離部213と分析部(測定部233)との間に反応部275が設けられている。
【0182】
また、図30および図31は、本実施形態に係るチップの別の構成を示す機能ブロック図である。図30および図31では、分析部としてそれぞれ検出部214および測定部233が設けられている。図30のチップ274および図31のチップ276では、いずれも分離部213と混合部248との間に反応部275が設けられる。
【0183】
ここでは、チップ274に対応する構成を例に説明する。図32は、チップ274に対応するチップの構成の一例を示す図である。図32のチップ277は、図29に示したチップ268において、前処理部266、分離領域218に次いで反応部275が設けられている。さらに反応部275の下流に分離領域218および混合部248、が設けられ、これらの下流に分注流路222および検出槽223が形成されている。また、チップ277では、導入口217に連通する第一の主流路278および分注流路222に連通する第二の主流路279が形成されている。第一の主流路278と第二の主流路279とは、反応部275の下流に形成された分離領域218を介して互いに連通する。
【0184】
反応部275は、第一の主流路278中に設けられた反応槽280と、第二の主流路279に連通する液溜め284と、液体スイッチ257と、トリガー流路256とを含む。トリガー流路256中は、液溜め284と第一の主流路278に連通し、時間遅れ槽としての流路拡張領域263を有する。
【0185】
反応槽280は、分離領域218で分離された試料に対し、所定の前処理を行うための液溜めである。図示していないが、反応槽280には反応に用いる酵素等の反応試薬があらかじめ導入されていてもよい。また、所定のタイミングで280に反応試薬を導入する態様とすることもできる。また、液溜め284に反応試薬を導入しておき、所定のタイミングで反応槽280に移動させてもよい。
【0186】
また、液溜め284に反応試薬を導入しておき、所定のタイミングで反応槽280に移動させてもよい。この場合、分離領域218で分離された試料は、反応槽280に流入し、液溜め284に導入された反応試薬と混和し、所定の反応に供される。反応槽280の下流には液体スイッチ257が設けられているため、当初は反応槽280を通過した液体が液体スイッチ257よりも下流側に流入することはない。トリガー流路256は、反応槽280における前処理時間に合わせてその構成を設計することができる。たとえば、前処理時間が長時間であれば、流路拡張領域263を大きくすることができる。
【0187】
液溜め284からトリガー流路256中を進行する反応試薬が液体スイッチ257まで到達すると、第一の主流路278側からの試料とトリガー流路256側からの試料とが接触することにより液体スイッチ257が開く。そして、反応槽280で前処理された試料は第一の主流路278中を進み、分離領域218で所定の分離操作がなされる。
【0188】
分離領域218の構成は、以上の実施形態と同様、たとえば図示したように第一の主流路278と第二の主流路279とが微細流路229を介して連通した構成とすることができる。こうすれば、第一の主流路278中の反応後の試料のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが第二の主流路279中に移動することができる。よって、反応後の試料から所定の成分のみを分離することができる。分離領域218にて分離され、第二の主流路279に達した試料は、混合部248において濃度の均質化をなされた後、分注流路222から検出槽223に分注され、検出槽223で所定の検出反応が行われる。
【0189】
反応槽280で行われる反応として、たとえば、細胞膜や細胞骨格の可溶化反応が挙げられる。この場合、第四の実施形態で示したように、前処理槽269において細胞膜や細胞骨格の可溶化に先立つ細胞外マトリクスや細胞壁成分の破壊を行うことができる。そして、分離領域218において余剰の液体成分を分離除去された試料中の細胞について、第一の主流路278上に設けられた二つの反応槽280において、細胞膜の可溶化および細胞骨格の可溶化の処理を順次行うことができる。
【0190】
そこでこの場合、二つの反応槽280のうち、上流側の反応槽280に連通する液溜め284には、細胞膜すなわち脂質膜の界面活性剤およびリパーゼを反応試薬として導入する。こうすることにより、反応槽280に導入された試料がこれらの反応試薬と混和し、細胞膜が可溶化される。
【0191】
細胞膜が可溶化された試料は、上流側の反応槽280に連通する液溜め284中の余剰の反応試薬によって第一の主流路278中を進行し、下流側の反応槽280に貯留される。下流側の反応槽280では、細胞骨格の可溶化がなされる。下流側の反応槽280に連通する液溜め284には、反応試薬として、たとえば450mMの酢酸カリウム、200mMのTris−HCl(pH8.5)、250mMのMgOAc2、0.5mMのATP、および2%のPTEを含むバッファーを導入する。これらの試薬が反応槽280に導入されると、反応槽280中で可溶化反応が起こる。
【0192】
こうしてそれぞれの反応を所定の時間なされた後、下流側の反応槽280の下流に設けられた液体スイッチ257が開くことによって、反応後の試料は第一の主流路278中をさらに進行する。試料は、反応槽280の下流に形成された分離領域218においてさらに分離される。よって、以上の一連の反応によっても可溶化されなかった不溶成分は、反応槽280の下流に設けられた分離領域218において除去することができる。
【0193】
この構成によれば、分離領域218と検出槽223との間に形成された反応槽280において、試料に所定の反応処理を施すことが可能となる。このため、試料中の成分の検出をさらに好適な条件で行うことができる。なお、反応槽280または液溜め284への反応試薬の導入は、チップ277の作製時にあらかじめ行っておいてもよいし、チップ277を使用する際に所定のタイミングで行ってもよい。
【0194】
なお、反応部275を有する構成は、第四の実施形態以外の上述した実施形態に対しても適用可能である。他の実施形態に記載のチップにおいても、たとえば、分離部213と検出部214との間、分離部213と混合部248との間、分離部213と測定部233との間、あるいは分離部213と混合部248との間に反応部275を設けることができる。このようにすれば、試料導入部212に導入された試料の所定の成分を分離した後、検出または測定に先立ち種々の反応に供することができる。よって、より多様な検出または測定を簡便な構成で安定的に実施することができる。
【0195】
さらに、反応部275は、図90に示す構成としてもよい。図90に示した反応部は、主流路221に連通する2個の反応部275が形成されている。反応部275は、流路300と、流路300に連通する反応槽280、反応槽280に連通する試薬槽301および試薬槽302、反応槽280と試薬槽301との間に設けられた液体スイッチ257、反応槽280と試薬槽302との間に設けられた液体スイッチ257を有する。これらの二つの液体スイッチ257は、流路拡張領域263を介して連通している。また、二つの液体スイッチ257は、トリガー流路256を介しても主流路221に連通している。
【0196】
図90の構成では、主流路221中に試料が流れると、流路300から反応槽280に試料が充填される。ここでは、二つの反応槽280に順次充填される。試料は反応槽280を満たした後も主流路221中を進み、一部がトリガー流路256に迂回する。トリガー流路256中を流れる試料は、まず反応槽280と試薬槽301との間の液体スイッチ257を開放する。すると、試薬槽301中に保持されていた試薬が反応槽280へと移動し、試料と混和する。こうして、反応槽280において、最初の反応が行われる。
【0197】
また、トリガー流路256中を流れる試料の一部は流路拡張領域263にて時間遅れを生じた後に、試薬槽302と反応槽280との間に形成された液体スイッチ257を所定のタイミングで開放する。すると、試薬槽302中に保持されていた試薬がさらに反応槽280に移動するため、反応槽280において次の反応が行われる。
【0198】
この構成では、反応槽280が液体スイッチ257を介して複数の試薬槽と連通しており、それぞれの液体スイッチ257が順次開放される構成が実現されている。このため、チップ自体の構成によって所定のタイミングで多段階反応を実施することが可能となる。
【0199】
このような反応部を用いることにより、分離された液体試料に対して多段階の反応処理を施すことができる。このため、従来の装置構成では困難であったインシュリン濃度の測定や感染症への罹患度判定等が可能となる。また、試薬との混合と洗浄を順次実施することが可能となるため、酵素抗体法に適用することもできる。
【0200】
(第七の実施形態)
以上の実施形態に係るチップにおいて、制御部をさらに有していてもよい。以下、第六の実施形態に記載の機能を有するチップにさらに制御部を設けた構成を例に説明する。図33および図34は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図33に示したチップ281および図34に示したチップ282には、試料導入部212、前処理部266、分離部213、反応部275、混合部248、および分析部(検出部214または測定部233)における各処理条件を制御する制御部283が設けられる。
【0201】
制御部283を有するチップの例として、クロックラインを設け、これに基づいてチップ上の流路における試料の移動を制御する構成が挙げられる。図91は、クロックラインを配設したチップの構成を示す上面図である。図91のチップにおいては、試料の通る主流路221に直交する方向にクロック流路1201が設けられている。これらは、図92に示すように、多層の流路構造となっている。図92は、図91のチップの断面図である。このチップは、主流路用基板1220およびクロック流路用基板1210が張り合わされた構造を有する。主流路用基板1220の表面には主流路221が形成され、クロック流路用基板1210の表面にはクロック流路1201が形成されている。これらの流路は、制御用流路1212により接続されている。主流路221には、スイッチ1207が設けられている。
【0202】
図91に戻り、主流路221上の液体は、スイッチ1207が開くまでは、スイッチ1207の下流側に移動することができず、堰き止められる。クロック流路1201に導入されたクロック用流体は、時間遅れチャンバ1202によって流動が制御された後、制御用流路1212を経由してスイッチ1207に到達する。するとスイッチ1207が開状態となり、主流路221中の液体が下流側に移動する。
【0203】
その後、クロック用流体はクロック流路1201下流側に移動し、別の時間遅れチャンバを経た後、スイッチ1208に到達する。このように、クロック用流体をトリガー液としてスイッチを順次開放していくことにより、主流路221を通過する試料に所定の処理を所定の時間施すことができる。
【0204】
クロック流路1201におけるクロック用流体の流動は、あらかじめ、流路中の任意の位置に到達する所用時間が正確に再現されるようになっている。このため、このクロック流路の利用により、チップ上で任意の処理を時間制御性良く実行することが可能となる。
【0205】
また、制御部283は以下の構成としてもよい。ここでは、図8のチップ251を例に説明する。チップ251においては、下記(i)および(ii)のタイミングを制御することが重要である。
(i)バッファー導入口220から、主流路221にバッファーを流すタイミング、
(ii)混合部248で成分濃度が均質化された試料を分注流路222に流すタイミング。
【0206】
そこで、これらのタイミングを制御するために、チップ251上に、下記(I)〜(IV)を設けることができる。
(I)廃液溜め219内部に試料が到達したことを、対電極の導通を指標としてセンシングするセンサ、
(II)バッファー導入口220からのバッファーの流出をコントロールするための磁石を用いた液体スイッチ、
(III)混合部248がたとえば図19に示した助走流路を有する構成である場合、混合部248に溶液が到達したことを検出する対電極を有するセンサ、
(IV)助走流路の出口にて液体の進行を制御する磁石を用いた液体スイッチ。
【0207】
チップ215に上記(I)〜(IV)を設け、チップ251の液体スイッチ部分の下にソレノイド等に接続して可動となっている磁石がセットされた制御用のステージを用いることにより、上記(i)および(ii)のタイミングを確実に制御することが可能である。
【0208】
図93は、チップ251上に設けられた磁石を有する液体スイッチの構成と、磁石の移動を制御するステージの構成を模式的に示す断面図である。図93において、主流路221の一部に疎水性領域が設けられ、疎水性領域よりもバッファー導入口220側に、磁性ビーズがあらかじめ導入されている。疎水性領域と磁性ビーズを液体スイッチとして用いることができる。
【0209】
このチップ251の動作は以下の通りである。すなわち、まず、チップ251を制御用のステージ上に設置する。そして、廃液溜め219の内部に試料が到達したことを,対電極の導通を指標としてセンシングする。廃液溜め219に試料が到達したタイミングで、疎水性領域よりもバッファー導入口220側に位置する磁石を、疎水性領域を流路に沿って移動させる。すると、磁性ビーズが主流路221中を移動し、疎水性領域を横切る。このとき、主流路221の手前で堰き止められていた液体は、磁性ビーズとともに移動し、スイッチが開通する。
【0210】
スイッチが開通すると、分離領域218にて所定の分離がなされる。分離された試料は、混合部248に向かって移動する。そこで混合部248に溶液が到達したことを、対電極を用いて検出する。混合部248に試料が到達したタイミングで、制御用のステージの直下にある磁石を動かし、助走用流路上に設けられた液体スイッチを開通させる。すると、混合部248で均質化された試料は分注流路222に分注される。
【0211】
このように、制御部283を設けることにより、たとえば各機能ブロックに対する洗浄操作等を制御して行うことができる。このため、チップ281または282を再利用した際にも、基板216表面の汚染を抑制し、チップ上での一連の操作を確実に行うことができる。
【0212】
(第八の実施形態)
以上の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213の構成は次のようにしてもよい。図35(A)〜図35(C)は、分離部213をさらに詳細に説明する機能ブロック図である。図35(A)〜図35(C)に示した分離部213は、それぞれ粗分離部286、分画部287、精製処理部288を有する。このため、それぞれの分離部213では、試料の粗分離、分画、および精製処理部288を行うことができる。また、図35(A)〜図35(C)に示した分離部213では、粗分離部286、分画部287、または精製処理部288の上流に、バンド形成部285を有する。
【0213】
粗分離部286または精製処理部288として利用可能な構成として、たとえば以上の実施形態に記載のチップ215に設けられた分離領域218が挙げられる。また、試料中の成分の粗分離、分画、および精製に利用可能な分離部213の構成として、たとえば図36に示した構成が挙げられる。
【0214】
図36は、本実施形態に係るチップの構成の一例を模式的に示す図である。図36に示したチップ289は、導入口217と分離領域295との間にバンド形成部285が形成されている。バンド形成部285は、導入口217に連通するバンド形成用流路292と、バンド形成用流路292に連通する液溜め290と、主流路221に連通する展開バッファー槽291と、主流路221とバンド形成用流路292との交差点に設けられた液体スイッチ257と、を有する。
【0215】
また、図37は、図36のバンド形成用液体スイッチ293の拡大図である。バンド形成用液体スイッチ293においては、主流路221とバンド形成用流路292との交差点に堰き止め部258が形成されている。堰き止め部258の構成は、たとえば第三の実施形態に例示した構成とすることができる。また、主流路221には、堰き止め部258の両側にギャップ294が形成されている。ギャップ294は、たとえば、主流路221表面が疎水性処理された領域とすることができる。
【0216】
このようなバンド形成用液体スイッチ293を有するチップ289を用いる際には、まず、展開バッファー槽291に試料を展開する展開用バッファーを導入しておく。展開用バッファーは主流路221に形成されたギャップ294により、ギャップ294より下流側に侵入することができない。ところが、導入口217に試料を導入すると、毛細管力により堰き止め部258に速やかに試料が流入し、堰き止め部258に保持される。堰き止め部258に試料が保持されると、その両側に形成されたギャップ294に試料が一部はみ出す。すると、ギャップ294の手前で堰き止められていた展開用バッファーとはみ出した液とがつながり、展開用バッファーが主流路221中を移動する。このとき、主流路221中にバンド形成用流路292の幅で保持されていた試料が展開用バッファーと一緒に流れ、分離領域295へと導かれる。
【0217】
バンド形成用液体スイッチ293を設けることにより、導入口217に導入した試料のバンド幅を狭くした後主流路221中を移動させることができる。このため、試料の分離効率を向上させることができる。
【0218】
分離領域295は、主流路221中に形成される。分離領域295の構成として、たとえば
(A)複数の柱状体が設けられた構成、
(B)複数の凹部が設けられた構成、
(C)疎水性パッチが設けられた構成、
が挙げられる。(A)から(C)の具体的な構成については、第九〜第十一の実施形態において順に説明する。
【0219】
主流路221中の試料は分離領域295で分離され、各成分は分離領域295上の異なる位置に分布するようになる。分離領域295の側壁には、小孔が多数設けられており、この小孔を微細流路229として、流路230に連通している。微細流路229の表面は弱い疎水性であるため、当初は微細流路229から流路230に液体が移動することはない。
【0220】
分離領域295での展開が終わったら、液溜め284に発色試薬を含む液体を導入する。発色試薬が流路230中を移動すると、微細流路229中に主流路221と流路230から液体がはみ出ることにより両者が連通する。そして、主流路221中の成分と流路230中の成分が相互拡散する。ここで、流路230中を進行する発色試薬の移動速度は、分離領域295上の全域に展開されるのに充分速い。
【0221】
分離領域295上に展開された発色試薬は、主流路221上に展開された成分に応じて発色するため、分離領域295上に発色の濃淡パターンが形成される。そして、これらのパターンを順次検出槽223に分取することができる。なお、分離領域295に形成された濃淡パターンを画像解析に供して解析を行ってもよい。
【0222】
このような構成は、たとえばLDHアイソザイム群の解析に利用することができる。導入口217に導入されたLDHアイソザイム群は、その分子量に応じて分離領域295上に展開される。このため、濃淡パターンはアイソザイム群の量の多少を反映する。たとえば、心筋由来のLDHの位置において他の領域よりも濃く染まっている場合、心筋の疾病の可能性がある。
【0223】
以上のようにチップ289の構成を用いれば、さらに分離効率を向上させることができるため、試料中の成分の分析精度、感度を向上させることができる。なお、以上においては検出部214を有するチップ289を例に説明したが、測定部233を有するチップについても、本実施形態に係る分離部213の構成を適用することが可能である。
【0224】
なお、分離領域295は、主流路221に微粒子が充填された構成としてもよい。このとき、試料中の成分のうち、バッファー導入口220中に導入されたバッファーとの親和性が高い成分ほど速やかに移動し、試料中の成分の親和性に応じて展開される。主流路221に充填する微粒子としては、TLC(薄層クロマトグラフィー)において吸着剤として用いる材料等を用いることができる。具体的には、たとえば、シリカゲル、アルミナ、セルロース等を用い、粒径はたとえば5〜40nmとすることができる。たとえば微粒子としてシリカゲルを用いる場合、分離領域295へのシリカゲル粉体の充填は、主流路221の下流側に堰き止め部材を設けた上で、シリカゲル粉体、バインダ、および水の混合体を流路に流し込み、その後、この混合体を乾燥、固化させることにより、行うことができる。
【0225】
(第九の実施形態)
本実施形態では、第八の実施形態における
(A)複数の柱状体が設けられた構成
について具体的に説明する。
【0226】
この構成では、分離領域295には、複数の柱状体が設けられる。柱状体は、たとえば、基板を所定のパターン形状にエッチングすることにより形成することができるが、その作製方法は特に制限はない。
【0227】
柱状体の形状は、円柱、楕円柱等、擬円柱形状;円錐、楕円錐、三角錐等の錐体;三角柱、四角柱等の角柱のほか、ストライプ状の突起等、様々な形状を含む。柱状体のサイズは、幅はたとえば10nm〜1mm程度、高さはたとえば10nm〜1mm程度とすることができる。
【0228】
隣接する柱状体の間隔は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮、
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮、
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮、
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とすることができる。
【0229】
また、分離領域295中に一または二以上の柱状体配設部を設けることができる。柱状体配設部は柱状体群を含む。各柱状体配設部中の柱状体群は、互いに異なるサイズ、間隔で任意の配置とすることができる。また、柱状体を同一サイズとしてほぼ等間隔に規則正しく形成してもよい。
【0230】
隣接する柱状体配設部間の間隔には、試料の通過し得るパスが形成される。ここで、柱状体配設部間の間隔を柱状体間の間隔よりも大きくすると、巨大サイズの分子等を円滑に移動させることができるので、分離効率を一層向上させることができる。
【0231】
図38は、図36中の分離領域295の構造を詳細に示したものである。なお、図38に示した構造は、図38以降の図においても適用することが可能である。図38中、基板216に幅W、深さDの溝部が形成され、この中に、直径φ、高さDの円柱形状のピラー125が等間隔で規則正しく形成されている。ピラー125間の間隙を試料が透過する。隣接するピラー125間の平均間隔はpである。各寸法は、たとえば図6中に示された範囲とすることができる。
【0232】
なお、本明細書における実施形態中、「ピラー」は柱状体の一形態として示したものであり、円柱ないし楕円柱の形状を有する微小な柱状体をいう。また、「ピラーパッチ」および「パッチ領域」は、柱状体配設部の一形態として示したものであり、多数のピラーが群をなして形成された領域をいう。
【0233】
図39は、図36の分離領域295の断面図である。基板216に形成された溝部によって形成される空間内に多数のピラー125が形成されている。ピラー125の間隙は、分離用の流路となる。
【0234】
多数のピラー125が密集して形成された構造を試料分離手段として用いる場合、主として2つの分離方式が考えられる。一つは、図40に示す分離方式である。もう一つについては、図51を参照して後述する。図40の方式では、分子サイズが大きい程、ピラー125が障害となり、図中の分離領域295の通過時間が長くなる。分子サイズの小さいものは、ピラー125間の間隙を比較的スムーズに通過し、分子サイズが大きいものに比べて短時間で分離領域を通過する。
【0235】
ピラー125を用いることにより、試料中の複数の成分を確実に分離することができる。
【0236】
また、以上においては柱状体を一定間隔で配設した例を示したが、柱状体配設部内において柱状体を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで、大、中、小等の複数の大きさの分子またはイオンをさらに効率的に分離することができる。また、柱状体の配置に関し、試料の進行方向に対して互い違いに柱状体を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、目詰まりを効果的に防止しつつ目的の成分を効率的に分離することができる。
【0237】
また、分離領域295に設けられる柱状体は、その頂部の直径が底部の直径よりも小さい形状を有することが好ましい。すなわち、柱状体が錐体ないし擬錐体形状を有し、断面が末広がりになっていることが好ましい。特に柱状体表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成する場合、このような形状とすることによる効果が顕著となる。たとえば、柱状体を熱酸化してその表面に熱酸化膜を設けようとすると、柱状体の底部近傍で酸化が進み、柱状体の高さが減少してアスペクト比が低下することがある。柱状体の形状を上記のようにすると、このような酸化によるアスペクト比の低下を効果的に防止することができる。
【0238】
また、柱状体の形状として上述の形状を採用した上で、試料分離領域に設けられた柱状体を、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成することが望ましい。こうすることによって、酸化によるアスペクト比の低下を一層効果的に防止することができる。図41は、このような構造を採用した柱状体の一例である。図41に示したナノ構造体では、基板216表面に円錐状の柱状体が設けられ、その表面がシリコン酸化膜104により覆われている。柱状体は、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成されている。
【0239】
このような配置とすることにより、基板216を熱酸化して表面をシリコン酸化膜で覆った場合、柱状体底部のシリコン酸化膜104の膜厚が薄くなり、柱状体のアスペクト比を良好に維持できる。この理由は必ずしも明らかではないが、円錐状の柱状体の側面が互いに接した構造となっているため、柱状体の底部近傍で酸化が進行した際、圧縮応力が発生し、それ以上の酸化が進みにくくなることによるものと推察される。
【0240】
次に、基板216がシリコンの基板110である場合を例に、図41に示したナノ構造体の形成方法について図42(A)〜図42(D)および図43(E)〜図43(G)を参照して説明する。ここでは、まず図42(A)のように、基板110上にシリコン酸化膜105、レジスト膜107をこの順で成膜する。次いで電子線露光等によりレジスト膜107をパターニングして所定の開口部を有するパターンを形成する(図42(B))。
【0241】
次いでこのレジスト膜107を用いてシリコン酸化膜105をドライエッチング等することにより、シリコン酸化膜105からなるハードマスクが形成される(図42(C))。レジスト膜107を除去した後(図42(D))、基板110をドライエッチングすることにより(図43(E))、アスペクト比の高い柱状体が得られる。シリコン酸化膜105を除去後(図43(F))、たとえば850℃以上の高温で表面を酸化し、シリコン酸化膜104を形成する(図43(G))。以上の工程により、図41に示すナノ構造体が得られる。このナノ構造体を主流路221上に形成し、試料の分離に用いることができる。
【0242】
図42(A)〜図42(D)および図43(E)〜図43(G)においては、レジストマスクを用いて形成したハードマスクにより基板110をエッチングしたが、レジストマスクを用いて直接基板110をエッチングすることもできる。図44(A)〜図44(C)はこの方法を示す図である。図44(A)〜図44(C)に示したプロセスでは、基板110上にレジスト900を形成した後(図44(A))、パターニングし(図44(B))、これをマスクとして基板110をエッチングして柱状体を形成している(図44(C))。
【0243】
次に、柱状体を有する分離領域295を形成する別の方法について図45(A)〜図49を用いて説明する。図45(A)〜図49において、右側の図は上面図であり、左側の図は断面図である。基板216として、シリコン基板201を用いる。まず、図45(A)に示すように、シリコン基板201上にシリコン酸化膜202、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト203をこの順で形成する。シリコン酸化膜202、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト203の膜厚は、それぞれ35nm、55nmとする。次に、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となるアレー領域を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図45(B)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
【0244】
なお、下記に示す構造を有するカリックスアレーン電子ビームネガレジスト203は、電子線露光用のレジストとして用いられ、ナノ加工用のレジストとして好適に利用することができる。
【0245】
【化1】
【0246】
つづいて全面にポジ型フォトレジスト205を塗布する(図45(C))。膜厚は1.8μmとする。その後、アレー領域が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図45(D))。
【0247】
次に、シリコン酸化膜202をCF4、CHF3の混合ガスを用いてRIEエッチングする。エッチング後の膜厚を35nmとする(図46(A))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理をする(図46(B))。つづいて、シリコン基板201をHBrガスを用いてECRエッチングする。エッチング後のシリコン基板201の膜厚を400nmとする(図46(C))。つづいてBHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜202を除去する(図46(D))。
【0248】
次に、シリコン基板201上にCVDシリコン酸化膜206を堆積する(図47(A))。膜厚は100nmとする。つづいて全面にポジ型フォトレジスト207を塗布する(図47(B))。膜厚は1.8μmとする。つづいて図47(C)のように、流路領域をマスク露光し(アレー領域を保護)、現像する。その後、CVDシリコン酸化膜206をバッファードフッ酸でウェットエッチングする(図47(D))。その後、有機洗浄によりポジ型フォトレジスト207を除去し(図48(A))、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド)を用いてシリコン基板201をウェットエッチングする(図48(B))。つづいてCVDシリコン酸化膜206をバッファードフッ酸でウェットエッチングして除去する(図48(C))。
【0249】
そして、この状態のシリコン基板201を炉に入れてシリコン熱酸化膜209を形成する(図48(D))。このとき、シリコン熱酸化膜209の膜厚がたとえば20nmとなるように熱処理条件を選択する。このような膜を形成することにより、流路の表面を親水化し、流路内に緩衝液を導入する際の困難を解消することができる。その後、流路上に被覆210を設けてもよい(図49)。被覆210は、図3に示した蓋226として用いることができる。
【0250】
以上により、柱状体を有する流路が得られる。この方法では、微細な柱状体配列構造を精度よく確実に形成することが可能である。
【0251】
さらに、柱状体を有する流路の別の作製方法として、金型を用いてマスクのパターニングを行う方法について説明する。図50(A)〜図50(D)は、分離領域295の製造方法を示す工程断面図である。まず図50(A)に示すように、表面に樹脂膜160が形成されたシリコンからなる基板110と、成型面を所定の凹凸形状に加工した金型106とを用意する。樹脂膜160の材質はポリメチルメタクリレート系材料とし、その厚みは200nm程度とする。金型106の材質は特に制限がないが、Si、SiO2、SiC等を用いることができる。
【0252】
次いで図50(B)に示すように、金型106の成型面を樹脂膜160表面に当接させた状態で加熱しながら加圧する。圧力は600〜1900psi程度とし、温度は140〜180℃程度とする。その後、基板110を脱型し、酸素プラズマアッシングを行い、樹脂膜160をパターニングする(図50(C))。
【0253】
つづいて樹脂膜160をマスクとして基板110をドライエッチングする(図50(D))。エッチングガスは、たとえばハロゲン系ガスを用いる。エッチング深さは約0.4μmであり、エッチングにより形成される柱状体の間隔は約100nmである。エッチングのアスペクト比(縦横比)は4:1程度である。このとき、エッチングによって生じた凹部の底近傍では、マイクロローディング効果によりエッチングの進行が鈍化し、凹部の先端が狭まり、曲面となる。この結果、柱状体は末広がりになり、その断面形状は、頂部よりも底部において幅広となる。また、柱状体間の距離が狭いため、各柱状体は、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成されることとなる。
【0254】
図50(D)の後、800〜900℃の炉アニールにより熱酸化を行い、柱状体の側壁にシリコン熱酸化膜(図50(A)〜図50(D)では不図示)を形成する。このとき、柱状体および凹部の形状が上述した末広がりの形状となっているため、図41を用いて前述したように、柱状体底部の酸化膜厚が薄くなり、柱状体のアスペクト比を良好に維持できる。
【0255】
以上の工程により、基板110上に柱状体群が形成される。このようにすれば、電子線露光によるマスク開口部の形成工程が不要となるため、生産性が顕著に向上する。
【0256】
図50(A)〜図50(D)においては、マスクとなる樹脂膜160のパターニングを行う際に金型を用いたが、この金型を用いて直接柱状体を形成することもできる。具体的には、所定のプラスチック材料を基板上にコートした後、上記と同様の工程により囲う成型することができる。基板上にコートするプラスチック材料は、成型性が良好で、かつ、適度な親水性を有するものが好ましく用いられる。たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン−ビニルアルコール樹脂(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート等が好ましく用いられる。疎水性樹脂であっても、成型後、上記コーティングを行えば流路表面を親水性とすることができるので利用可能である。
【0257】
なお、分離領域295を図40のように構成した場合、試料中に巨大なサイズの物質を含む際に目詰まりを起こすことがある。いったん発生した目詰まりを解消することは一般に困難である。
【0258】
目詰まりの問題は、分子サイズの小さい物質を多種類含む試料を高い分離能で分離しようとしたとき、より顕著となる。分子サイズの小さい物質を多種類含む試料を高い分離能で分離するためには、ピラー125間の間隙をある程度小さく設定することが必要となる。ところが、そのようにすると、大きいサイズの分子にとっては、より目詰まりしやすい形態となる。
【0259】
この点、図51に示す分離方式とすると、このような問題が解消される。図51中、分離領域295には、複数の柱状体配設部(ピラーパッチ121)が離間して形成されている。各柱状体配設部には、それぞれ、同一サイズのピラー125が等間隔に配置されている。この分離領域295では、大きな分子が小さな分子よりも先に通過していく。分子サイズが小さいほど、分離領域中でトラップされて長い経路を通ることになる一方、大きいサイズの物質は、隣接するピラーパッチ121間のパスを円滑に通過するからである。
【0260】
この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。こうした効果をより顕著にするためには、隣接するピラーパッチ121間のパスの幅を、ピラーパッチ121中のピラー125間の間隙よりも大きくするのが良い。パスの幅は、ピラー125間の間隙の好ましくは2〜20倍程度、より好ましくは5〜10倍程度とする。
【0261】
複数の柱状体配設部を有する分離領域295は、たとえば以下のようにして作製することができる。図52(A)〜図52(C)および図53(D)〜図53(E)は、分離領域295の作製工程を示す図である。
【0262】
まず、図52(A)に示したように、シリコン基板201上に膜厚35nmのシリコン酸化膜202を形成する。次に、膜厚55nmのカリックスアレーン電子ビームネガレジストを形成し、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となるアレー領域を露光する。現像はキシレンを用いて行うことができる。また、リンスはイソプロピルアルコールにより行うことができる。この工程により、図52(B)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
【0263】
次に、シリコン酸化膜202をCF4、CHF3の混合ガスを用いてRIEエッチングする(図52(C))。そして、レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理し、シリコン基板201をHBrガスおよび酸素ガスを用いてECRエッチングする(図53(D))。その後、BHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜を除去する。こうして得られた基板を炉に入れてシリコン熱酸化膜209を形成する(図53(E))。以上により、複数の柱状体配設部を有する流路が得られる。
【0264】
なお、この構成においても、柱状体配設部内において柱状体を異なる間隔で配設することもできる。
【0265】
たとえば、図54(A)のように、流れの向きにしたがってピラーの間隔を小さくした柱状体配設部を採用することができる。この場合、柱状体配設部に進入した分子は移動するほど移動速度が低下するため、柱状体配設部に進入することができない大きめの分子との保持時間差が顕著となる。その結果、分離能の向上が実現される。一方、図54(B)のように、流れの向きにしたがってピラーの間隔を大きくした柱状体配設部を採用することもできる。このようにすることにより、柱状体配設部における目詰まりを抑制することができるため、スループットの向上を図ることが可能となる。なお、流れの向きにしたがってピラーの間隔を小さくしたり、大きくしたりする形態は、柱状体配設部を有しない分離領域にも適用することができる。
【0266】
さらに、複数の柱状体配設部をまとめてさらに大きな柱状体配設部とし、その大きな柱状体配設部同士の間隔を、もとの柱状体配設部同士の間隔よりも広くするような階層的な配置も可能である。その一例を図55に示す。小さなピラーパッチ712が七つ集合することにより中程度のピラーパッチ713を形成し、さらに中程度のピラーパッチ713が七つ集合することにより大きなピラーパッチ714を形成している。このように、柱状体配設部を階層的に構成することにより、幅広いサイズレンジの分子を同時にかつ大きい順に分離することが可能になる。すなわち、より大きな分子はより大きな柱状体配設部の間を通過するのに対して、中等度のサイズの分子は中等度のサイズの柱状体配設部の内部に捕捉されて分離される。さらに小さな分子は、さらに小さな柱状体配設部の内部に捕捉されて分離される。このため、小さな分子ほど流出に時間がかかり、大きさが異なる複数の分子を、大きい順に分離することが可能になる。
【0267】
図51に示した分離方式を実現する試料分離領域の構造について、図56を参照して説明する。図56に示したように、この試料分離領域は、流路の壁129によって囲まれた空間内にピラーパッチ121が等間隔で配置された構造となっている。ピラーパッチ121は、それぞれ多数のピラーにより構成されている。ここでは、ピラーパッチ121の幅Rは、10μm以下とする。一方、ピラーパッチ121間の間隔Qは20μm以下とする。
【0268】
図51においては、ピラーが密集してなるピラーパッチ121は、上面からみて円形の領域として形成されているが、円形に限らず他の形状であってもよい。図57の例では上面からみてストライプ状の領域にパッチ領域130が形成されている。この形態においては、パッチ領域130の幅Rは10μm以下、パッチ領域130間の間隔Qは10〜100μmとする。
【0269】
また、図58は菱形のピラーパッチ121を採用し、さらに複数のピラーパッチ121を菱形状になるように配置させた例である。この場合、パスと流れの向きとが一定の角度をなしており、分子とピラーパッチ121との接触頻度が上昇するため、ピラーパッチ121を構成するピラーの間隔よりも小さい分子がピラーパッチ121に捕捉される確率は上昇する。そのため、ピラーパッチ121に捕捉された分子と捕捉されない大きめの分子との保持時間差が顕著となるため、分離能の向上を図ることができる。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、ピラーパッチ121同士の間隔h、ピラーパッチ121の対角線dおよびD、ピラーパッチを構成するピラーの間隔pについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより目的とする分子を精度良く分離することができる。
h:R≦h<10R
p:0.5R≦p<2R
d:5h≦d<20h
D:5h≦D<20h
【0270】
また、パッチ領域を構成するものはピラーに限られない。たとえば、板状体が一定の間隔で配置されてなるパッチ領域とすることもできる。図59(A)〜図59(C)にこの例を示す。図59(A)は上面図であり、図中のA−A’断面図を図59(B)に示す。このパッチ領域を図59(C)に示すように配置する。一旦パッチ領域130に捕捉された分子は主流路221に脱出するまでパッチ領域130に留まることとなる。したがって、パッチ領域に捕捉された分子と捕捉されない分子との保持時間の差が顕著となるため分離能が向上する。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、パッチ領域130同士の間隔Λ、パッチ領域130を構成する板状体同士の間隔λについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより、目的とする分子を精度良く分離することができる。
Λ:R≦Λ<10R
λ:0.5R≦λ<2R
【0271】
また、上記の柱状体または板状体の頂部と流路の上面とは接していてもよいし、離間していてもよい。離間している場合は、柱状体あるいは板状体と流路上面との間に間隙が存在するため、大きな分子の通過機会が増加する。このため、さらなる目詰まりの解消を図ることができる。また、小さな分子についても、この間隙を経由して上方からパッチ領域へ入り込む機会が増加することから、分離効果がさらに向上する。このような形態は、流路の上面となる部材(カバーガラスなど)にあらかじめ溝部を設けておくこと、または柱状体や板状体の高さを流路の深さよりも低く作製することによって容易に実現することが可能である。
【0272】
また、柱状体配設部間のパスの幅及び、柱状体配設部内の柱状体の間隔は、分離しようとする成分、たとえば核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などの有機分子やキレートした金属イオンなどの分子またはイオンのサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば柱状体の間隔は、分離したい分子群のサイズの中央値に相当する慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、上記中央値に相当する慣性半径と、柱状体の間隔との差異を、100nm以内、より好ましくは10nm以内、最も好ましくは1nm以内とする。柱状体の間隔を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
【0273】
隣接する柱状体配設部間の間隔(パスの幅)は、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と柱状体配設部間の間隔との差異を、当該分子の慣性半径の10%以内、より好ましくは5%以内、最も好ましくは1%以内とする。柱状体配設部間の間隔が広すぎると、サイズの小さい分子の分離が充分に行われなくなることがあり、柱状体配設部間の間隔が狭すぎると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
【0274】
以上においては柱状体を基板216側に設ける構成を例に説明したが、柱状体は、蓋226に設けてもよい。図87は、分離領域295の他の構成を示す図であり、図36の分離領域295のE−E’方向の断面図である。図87および分離領域295では、蓋226にレジストパターン299が形成されている。また、図88は、レジストパターン299の平面図である。図88では、ストライプ状の柱状体が互いに平行に複数配置された構成のレジストパターン299を示している。
【0275】
レジストパターン299の材料は、たとえば、樹脂とすることができる。また、レジストパターン299は、蓋226の所定の領域を覆う樹脂膜とすることができる。主流路221において、レジストパターン299の下部の領域は流路の深さが浅いのに対し、レジストパターン299が設けられていない領域は深い。このような構成を利用すれば、レジストパターン299の下部の領域を通過できる成分と通過できない成分とに試料中の成分を分離することができる。
【0276】
図87および図88に示した構成は、基板216に対してナノスケールのリソグラフィーを行うことなく形成することができる。このため、チップを安価で安定的に生産することができる。たとえば、蓋226をガラス基板とする場合、ガラス基板表面にレジストを塗布し、これをパターニングする。こうしてレジストパターン299が形成された蓋226を、レジストパターン299の形成面が基板216側となるようにして接合すれば、図87の分離領域295が得られる。
【0277】
なお、図87および図88の構成において、流路の深さは分離対象に応じて適宜選択できるが、たとえば分離対象が10kb程度のDNA分子である場合、レジストパターン299の下部における流路深さを数100nm程度とし、レジストパターン299の形成されていない領域の下部の流路深さを数〜数十μm程度とすることができる。
【0278】
本実施形態の構成では、分離領域295に複数の柱状体が配設されるため、試料中の成分の分離を効率よく確実に行うことができる。
【0279】
(第十の実施形態)
本実施形態では、第八の実施形態における
(B)複数の凹部が設けられた構成
について具体的に説明する。
【0280】
凹部は、円柱、楕円柱、円錐、楕円錐のものが好適に用いられるが、直方体、三角錐等、さまざまな形状を採用することができる。また、凹部のサイズは、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とすることができる。
【0281】
凹部の深さについても用途に応じて適宜設定することができるが、たとえば5〜2000nmとすることができる。また、隣接する凹部の平均間隔は、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは70nmとする。下限については特にないが、たとえば5nm以上とすることができる。なお、凹部の間隔とは、凹部の中心点間距離をいう。
【0282】
図60は、本実施形態に係るチップの分離領域295の構造を詳細に示したものである。図60中、基板216に幅W、深さDの溝部が形成され、この溝の底部に、直径φ、深さdの円柱形状の穴が等間隔pで規則正しく形成されている。なお、流路の幅W、流路の深さD、穴の直径φ、穴の深さd、穴の間隔pについては、たとえば図示されたサイズとすることができる。また、後述の図62、図63、図64、図65に示される形態においても、W、D、φ、d、pについて同様のサイズとすることができる。
【0283】
次に、多数の穴が設けられた構造が試料分離手段として機能する理由について、図61を参照して説明する。図61中、分離領域295には、複数の穴部が所定の間隔で形成されている。この領域を通過する際、穴の径よりも大きなサイズの分子は、穴にトラップされることなく流路を素通りするため、短い時間でこの領域を通過する。一方小さいサイズの分子は、基板に設けられた穴にトラップされて長い経路を通ることになる。この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で試料が分離される。
【0284】
このように、分離領域295に凹部が形成された構成では、目詰まりの原因となりやすいサイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。
【0285】
図61に示した分離方式を実現する試料分離領域の構造の例について、図62を参照して説明する。図62に示したように、この試料分離領域は、開口部最大径φの凹部が間隔pにて規則的に形成されている。
【0286】
図63は他の試料分離領域の例である。この例では凹部が列をなして整然と配列されている。
【0287】
図64は他の試料分離領域の例である。この例では流路を進むにしたがってサイズの大きな凹部が配列された構成となっている。
【0288】
図65は他の試料分離領域の例である。この例では開口径の異なる凹部がランダムに配列された構成となっている。
【0289】
図66は他の試料分離領域の例である。この例では凹部がストライプ状に形成されている。すなわち、凹部はホールではなく、溝となっている。この場合、φ、pはそれぞれ溝の幅、溝と溝との間隔を表している。
【0290】
図67は他の試料分離領域の例である。この例では、流路を進むにしたがって幅が広くなる溝が流路中に設けられた構成となっている。
【0291】
図68は他の試料分離領域の例である。図66と同様、凹部がストライプ状に形成されているが、試料の流れ方向に対するストライプの方向が、図66では平行であったのに対し、図68では垂直の関係となっている。この場合においても、φ、pはそれぞれ溝の幅、溝と溝との間隔を表している。
【0292】
分離領域295を、図64、図65、図67に示すような構成とすることにより下記のような効果が得られる。
【0293】
穴や溝のサイズよりも大きな分子には、穴による分離効果が得られ難い。従って、穴や溝のサイズを一定にすると、その穴や溝のサイズよりも大きなサイズの分子に対する分解能は小さい分子に比べて低下してしまう。また、穴や溝のサイズを一定にすると、大きな分離効果が得られる分子サイズのレンジが狭くなってしまう。そのため、分離領域295を図64、図65、図67に示すような構造とすることにより、大きなサイズの分子に対する分解能を高くすることができるとともに、十分な分離効果が得られる分子サイズのレンジを広くすることができる。
【0294】
凹部の開口部の最大径は、分離しようとする成分のサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば、分離したい分子群のサイズの中央値に相当する慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとしてもよい。
具体的には、上記中央値に相当する慣性半径と、凹部の開口部の最大径との差異を、100nm以内、より好ましくは10nm以内、最も好ましくは1nm以内とする。凹部の開口部の最大径を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
【0295】
また、以上の構成では、凹部を一定間隔で配設した例を示したが、試料分離領域内において凹部を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで大・中・小等の複数の大きさの分子・イオンを効率的に分離することができる。また、凹部の配置に関し、図62に示されるように、試料の進行方向に対して互い違いに凹部を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、凹部と分子との遭遇機会が増すため、目詰まりを効果的に防止しつつ目的の成分を効率的に分離することができる。
【0296】
また、以上の構成では、凹部が円柱状である例を示したが、凹部の形状はこれに限られない。たとえば、凹部の内径が底面に近づくに従って小さくなっているテーパー状の形態を採用することもできる。具体的には、図69(A)に示されるように、凹部の内径が段階的に小さくなっている形態や、図69(B)または図69(C)に示されるような、凹部の内径が連続的に小さくなっている形態が挙げられる。これらの場合、小さい分子ほど凹部の奥深くまで移動可能であるため、当該凹部に滞在する時間が長くなる。その結果、分離能がさらに向上する。
【0297】
このようなテーパー状の凹部は種々の手法により設けることができる。例えば上記した陽極酸化法により凹部を設ける際に、電圧を徐々に降下させることにより、テーパー状の凹部を設けることができる。
【0298】
また、エッチングによりテーパー状の凹部を設けることも可能である。例えば基板としてシリコンを用いる場合、まず、設けようとする凹部の底面の内径と同程度の内径を有する縦穴をドライエッチングにより設ける。次に、この縦穴に対して等方性のエッチング液を用いたウェットエッチングを行う。このとき、縦穴におけるエッチング液の交換速度は、縦穴の底面において最も小さく、縦穴の底面から開口部へ向かうにつれて大きくなる。このため、縦穴の底面付近ではサイドエッチングがほとんど生じず、内径はほとんど広がらない。その一方で、底面から開口部へ近づくにつれてサイドエッチングの程度が大きくなることから、それに伴って内径も広がることになる。こうしてテーパー状の凹部を設けることもできる。
【0299】
さらに、以上の構成においては、凹部を平面上に配置させた例を示したが、凹部を立体的に配置させることも可能である。例えば、流路に分離板を設けることにより流路を二層に分割し、分離板および流路壁に凹部を設けることができる。
【0300】
本実施形態の構成では、小さい分子ほど流出が遅くなるという特性を有している。大きな分子と同様の迅速さで小さい分子を分取するために、上記の分離板に目的の分子のサイズと同程度の口径の貫通孔を設けることができる。このようにすれば、目的とする小さい分子は、凹部の設けられた流路を迂回することができる。そのため、大きな分子と同様の迅速さで小さな分子を分取することができるとともに、それ以外の分子の分離を実現することが可能となる。
【0301】
図70(A)〜図70(C)は流路を二層に分割した形態の一例を示す図である。図70(A)は、流れ方向に対する垂直断面図である。ここでは、基板216がシリコン基板417である場合を例に説明する。シリコン基板417に設けられた流路409が分離板419により二層に分割されている。図70(B)は、図70(A)中のA−A’面における断面図である。分離板419には部分的に貫通孔420および凹部421が設けられており、貫通孔420を通過可能な分子は図中の下方の流路409に移動する。このような構造を採用することにより、流路が一層である構造では流出時間が遅い、小さな分子を迅速に分取することが可能となる。さらに分離板419に、凹部421よりも小さな凹部422を設けることもできる(図70(C))。このようにすることにより、下方の流路409において小さな分子の精密な分離を実現できる。
【0302】
また、図71(A)または図71(B)のように、流路にピラーや突起を設け、そのピラーまたは突起および流路壁に凹部を設けることもできる。このようにすることにより、凹部を備えた分離領域の面積を増大させることができるため、分離能の向上を図ることができる。
【0303】
次に、基板への凹部の形成方法について説明する。凹部は、基板にエッチングを施すことによって作製することができる。図72(A)〜図72(J)は、基板への凹部の作製工程を説明するための図である。ここでは、基板216がシリコン基板201である場合を例に説明する。
【0304】
まず、図72(A)に示すように、シリコン基板201を用意し、その上にカリックスアレーン電子ビームネガレジスト203を塗布する(図72(B))。次に、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となる部分を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図72(C)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
【0305】
つづいて、これをマスクとして、シリコン基板201をエッチングする(図72(D))。レジストを除去した後(図72(E))、再度全面にポジ型フォトレジスト205を塗布する(図72(F))。その後、流路部分が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図72(G))。ポジ型フォトレジスト205は、シリコン基板201に所望の凹部(穴部)が形成されるようにパターニングされている。
【0306】
次に、シリコン基板201をCF4、CHF3の混合ガスを用いてRIEエッチングする(図72(H))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後(図72(I))、必要に応じて被覆210を設け、凹部を完成する(図72(J))。なお、被覆210は、以上の実施形態で示した蓋226として用いることができる。
【0307】
また、凹部は陽極酸化法によっても形成することができる。陽極酸化法とは、電解液中で酸化させたい金属(例えばアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルなど)を陽極として通電し、酸化させる処理のことをいう。この処理法においては、酸性電解液を用い、通電による水の電気分解により、陰極では水素が生成するが、陽極では酸素が生成せず、金属表面に酸化被膜層が形成される。アルミニウムの場合、この酸化被膜層はポーラスアルミナと呼ばれ、図73に示されるように、ポーラスアルミナ層416は各セル431の中央に細孔430を持った周期的構造を有する。これらの構造は自己組織的に形成されるため、パターニングを必要とせず、容易にナノ構造を得ることができる。セルの間隔は酸化電圧に比例(2.5nm/V)し、アルミニウムの場合では酸化電圧により硫酸(〜30V)、シュウ酸(〜50V)、リン酸(〜200V)が酸性電解液として使用される。
【0308】
一方、細孔のサイズは酸化条件および酸化後の表面処理に依存する。酸化電圧の上昇に従って細孔の直径は拡大する。例えば、酸化電圧を5V、25V、80V、120Vとしたとき、それぞれ10nm、20nm、100nm、150nm程度の最大径を有する、開口部が円形ないし楕円形の細孔ができる。また、ポーラスアルミナを形成後、例えば3wt%のリン酸によりその表面をエッチングする表面処理が行われるが、この表面処理の時間が長いほど、細孔の直径は拡大することになる。
【0309】
以上のように、酸化電圧や表面処理の時間を適宜選択することにより、規則正しく整列し、かつ所望の間隔および直径を有する凹部を設けることが可能となる。
【0310】
なお、ポーラスアルミナをより均質に設けるためには、図74または図75に示したように、陽極酸化する対象のアルミニウム層の周辺部を絶縁膜で覆いつつ、上記の陽極酸化を実施することが好ましい。たとえば図74は、絶縁性基板の上に形成されたアルミニウム層402の周辺部が絶縁膜411で覆われた状態を示す上面図である。絶縁膜411としては、たとえば感光性ポリイミドなどの絶縁性の樹脂を用いることができる。このようにすることにより、電極取付部412の周辺でのみ陽極酸化反応が速く進み、陽極から遠い部分では酸化されない領域ができる現象を抑制することができるため、アルミニウム層402全体にポーラスアルミナを均質に設けることが可能となる。
【0311】
また、阿相らの方法(J.Vac.Sci.Technol.,B,19(2),569(2001))により、ポーラスアルミナを設けたい箇所に、モールドを用いて予め窪みを設けてから陽極酸化を実施することにより、ポーラスアルミナを所望の配置に設けることもできる。この場合も上記同様、電圧を制御することにより凹部の最大径を望みのものとすることができる。
【0312】
また、図75は、アルミニウム層402の周辺部が導電体層413で覆われた状態を示す図である。図75(A)が上面図、図75(B)が断面図である。図75(A)、図75(B)に示したように、陽極酸化されない導電体(金など)をスライドガラス401上に設けられたアルミニウム層402に蒸着させることにより導電体層413を形成後、陽極酸化を実施することによってもアルミニウム層402全体にポーラスアルミナを均質に設けることが可能となる。なお、陽極酸化実施後、導電体層413は導電体が金の場合、金エッチャントにより取り除かれる。金エッチャントはヨウ化カリウムとヨウ素の水溶液を混合することによって得られる。混合比はヨウ化カリウム:ヨウ素:水=1:1:3(重量比)とする。
【0313】
さらに、流路壁に対してDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングするなど、親水化処理をすることが好ましい。この結果、良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、例えば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質が挙げられる。このような物質としてはリピジュア(登録商標、日本油脂社製)などが例示される。リピジュア(登録商標)を用いる場合は、0.5wt%となるようにTBEバッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を流路内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0314】
分離領域295を以上のように構成することにより、チップ上での試料の分離を効率よく確実に行うことができる。
【0315】
(第十一の実施形態)
本実施形態では、第八の実施形態における
(C)疎水性パッチが設けられた構成
について具体的に説明する。
【0316】
本実施形態の分離領域295の表面は、2次元的に略等間隔で配置された複数の疎水性領域と、疎水性領域を除く試料分離部表面を占める親水性領域とからなっている。図76は、第八の実施形態における分離領域295の構造を詳細に示したものである。図76中、基板701に深さDの溝部が形成され、この溝部に、直径φの疎水性領域705が等間隔で規則正しく形成されている。なお、基板701は、以上の実施形態で述べたチップの基板216として用いることができる。
【0317】
本実施形態において、疎水性領域705は、疎水基を有するカップリング剤を基板701表面に付着ないし結合することにより形成している。
【0318】
図76中、各部の寸法は、たとえば以下のようにする。
W:10〜20μm
D:50nm〜10μm
Φ:10〜1000nm
p:50nm〜10μm
【0319】
各部のサイズは、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、pについては、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とする。
【0320】
また、深さDの大きさは、分離性能を支配する重要な因子であり、分離対象となる試料の慣性半径の1〜10倍程度とすることが好ましく、1〜5倍程度とすることがより好ましい。
【0321】
図77(A)および図77(B)は、図76の構造の上面図(図77(A))および側面図(図77(B))である。疎水性領域705は、通常、0.1〜100nm程度の膜厚となる。疎水性領域705以外の部分は基板701の表面が露出した状態となっている。基板701としてガラス基板のように親水性材料を選択することにより、図76の構造において、親水性表面上に疎水性表面が所定のパターンをもって形成された構成となり、試料分離機能が発現する。すなわち、キャリア溶媒として親水性の緩衝液等を用いると、試料は親水性表面上のみを通過し、疎水性表面上は通過しない。このため、疎水性領域705が試料通過の障害物として機能し、試料分離機能が発現するのである。
【0322】
次に、疎水性領域705のパターン形成による分離領域295での分離方式について、分子サイズに着目して説明する。分離方式として主として2つの方式が考えられる。一つは、図78に示す分離方式である。この方式では、分子サイズが大きい程、疎水性領域705が障害となり、図示した分離部を通過するのに要する時間が長くなる。分子サイズの小さいものは、疎水性領域705間の間隙を比較的スムーズに通過し、分子サイズが大きいものに比べて短時間で分離領域295を通過する。
【0323】
図79は、図78とは逆に大きな分子が早く、小さな分子が遅く流出する方式となっている。図78の方式では、試料中に巨大なサイズの物質を含む場合、このような物質が疎水性領域705の間隔を塞いでしまい、分離効率が低下する場合がある。図63に示す分離方式では、このような問題が解消される。図79中、主流路221中に複数の試料分離部706が離間して形成されている。各試料分離部706内には、それぞれ、略同一サイズの疎水性領域705が等間隔に配置されている。
【0324】
試料分離部706間には、大きな分子が通り抜けられるような広幅のパスが設けられているため、図78とは逆に大きな分子が早く、小さな分子が遅く流出するようになる。分子サイズが小さいほど、分離領域中でトラップされて長い経路を通ることになる一方、大きいサイズの物質は、隣接する試料分離部706間のパスを円滑に通過するからである。この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、前述した疎水性領域705間に大きな分子がトラップされて分離効率が低下するといった問題が低減され、分離効率が顕著に改善される。こうした効果をより顕著にするためには、隣接する試料分離部706間のパスの幅を、試料分離部706中の疎水性領域705間の間隙よりも大きくするのが良い。パスの幅は、疎水性領域705間の間隙の好ましくは2〜200倍程度、より好ましくは5〜100倍程度とする。
【0325】
なお、図79の例では、各試料分離部に同じサイズ、間隔の疎水性領域705を形成しているが、それぞれの試料分離部で、異なるそれぞれサイズ、間隔の疎水性領域705を形成してもよい。
【0326】
分子サイズの物質を分離する場合、試料分離部間のパスの幅及び、試料分離部内の疎水性領域705の間隔は、分離しようとする成分(核酸、アミノ酸、ペプチド・タンパク質などの有機分子、キレートした金属イオンなどの分子・イオン)のサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば疎水性領域705の間隔は、試料中に含まれる最小サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最小サイズの分子の慣性半径と、疎水性領域705の間隔との差異を、100nm以内、より好ましくは50nm以内、最も好ましくは10nm以内とする。第一の領域の間隔を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
【0327】
隣接する試料分離部706間の間隔(パスの幅)は、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と試料分離部間の間隔との差異を、当該分子の慣性半径の10%以内、より好ましくは5%以内、最も好ましくは1%以内とする。試料分離部706間の間隔が広すぎると、サイズの小さい分子の分離が充分に行われなくなることがあり、試料分離部706間の間隔が狭すぎると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
【0328】
また、上記実施形態では疎水性領域を一定間隔で配設した例を示したが、試料分離部706内において疎水性領域を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで大・中・小等の複数の大きさの分子またはイオンを効率的に分離することができる。また、疎水性領域の配置に関し、試料の進行方向に対して互い違いに疎水性領域を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、目的の成分を効率的に分離することができる。
【0329】
次に、本実施形態の構成を有する分離領域295の製造方法について、図80(A)〜図80(D)および図81(A)〜図81(B)を用いて説明する。初めに、図80(A)のように、基板701上に電子ビーム露光用レジスト702を形成する。続いて、電子ビームを用い、電子ビーム露光用レジスト702を所定の形状にパターン露光する(図80(B))。露光部分を溶解除去すると、図80(C)のように所定の形状にパターニングされた開口部が形成される。その後、図80(D)のように酸素プラズマアッシングを行う。なお、酸素プラズマアッシングは、サブミクロンオーダーのパターンを形成する際には必要となる。酸素プラズマアッシングを行えばカップリング剤の付着する下地が活性化し、精密なパターン形成に適した表面が得られるからである。一方、ミクロンオーダー以上の大きなパターンを形成する場合においては必要性が少ない。
【0330】
アッシング終了後、図81(A)の状態となる。図中、親水性領域703はレジスト残さおよび汚染物が堆積して形成されたものである。この状態で、疎水性領域705を形成する(図81(B))。疎水性領域705を構成する膜の成膜法としては、たとえば気相法を用いることができる。この場合、密閉容器中に基板701と疎水基を有するカップリング剤を含む液とを配置し、所定時間放置することにより膜を形成する。この方法によれば、基板701の表面に溶剤等が付着しないため、所望どおりの精密なパターンの処理膜を得ることができる。他の成膜法としてスピンコート法を用いることもできる。この場合、疎水基を有するカップリング剤溶液を塗布して表面処理を行い、疎水性領域705を形成する。疎水基を有するカップリング剤としては、3−チオールプロピルトリエトキシシランを用いることができる。成膜方法として、ほかにディップ法等を用いることもできる。疎水性領域705は、親水性領域703の上部には堆積せず、基板701の露出部のみに堆積するため、図77(A)および図77(B)に示すように、多数の疎水性領域705が離間して形成された表面構造が得られる。
【0331】
以上述べたプロセスの他、以下のような方法により上記と同様の表面構造を得ることもできる。この方法では、図80(C)のようにパターニングされた未露光部702aを形成した後、酸素プラズマアッシングを行わずに図82(A)のようにレジスト開口部に3−チオールプロピルトリエトキシシランを堆積して疎水性領域705を形成する。その後、未露光部702aを選択的に除去できる溶媒を用い、ウェットエッチングを行って、図82(B)の構造を得る。この際、溶媒としては、疎水性領域705を構成する膜に損傷を与えないものを選択することが重要である。このような溶媒として、たとえばアセトン等を例示することができる。
【0332】
上記実施の形態では、流路の溝部に疎水性領域を形成したが、これ以外に以下のような方法を採用することもできる。まず図83(A)、図83(B)のように二種類の基板を用意する。図83(A)の基板は、ガラス基板901上に3−チオールプロピルトリエトキシシラン等の疎水基を有する化合物からなる疎水性膜903が形成された構成となっている。疎水性膜903は、所定のパターニング形状にて形成される。この疎水性膜903の設けられた箇所が試料分離部となる。一方、図83(B)の基板は、ガラス基板902表面にストライプ状の溝が設けられた構成となっている。この溝の部分が試料流路となる。疎水性膜903の形成方法は、上述のとおりである。ガラス基板902表面へのストライプの溝の形成も上述のように、マスクを用いたウェットエッチングにより容易に行うことができる。これらを図71(A)および図71(B)のように張り合わせることによって、本実施形態の構成を得ることができる。2枚の基板によって形成される空間904が試料流路となる。この方法によれば、平坦な表面に疎水性膜903を形成することとなるので、製造が容易であり、製造安定性が良好である。
【0333】
カップリング剤膜の作製方法としては、たとえばLB膜引き上げ法により基板全面にシランカップリング剤からなる膜を形成し、親水性/疎水性のマイクロパターンを形成する方法を用いることができる。
【0334】
さらに、本実施形態において、分離領域295には一つの疎水性領域のみを設けることもできる。この場合、たとえば、親水性表面を有する分離用流路内に、試料の流れ方向に延在する一つの疎水性領域を形成することもできる。このようにしても、試料が分離用流路を通過する際に、試料分離領域の表面特性によって試料を分離することができる。
【0335】
さらに、上述した疎水性処理および親水性処理により主流路221自体を形成することもできる。
【0336】
疎水性処理により流路を形成する場合、ガラス基板など親水性の基板を用いて、流路の壁に相当する部分を疎水性領域で形成する。親水性である緩衝液は、疎水性領域を避けて進入するため、壁部分の間に流路が形成される。流路には被覆を被せても被せなくてもよいが、被覆を被せる場合は基板から数μmの隙間をあけるのが好ましい。隙間は被覆の断端付近をのりしろとして、PDMSやPMMAなどの粘稠性の樹脂をのりとして基板に接着することで実現できる。断端付近だけの接着でも、緩衝液を導入すると疎水性領域が水をはじくため、流路が形成される。
【0337】
一方、親水性処理により流路を形成する場合、疎水性の基板、もしくはシラザン処理等で疎水性とした基板表面に親水性の流路を形成する。この場合も、親水性領域にのみ緩衝液が進入するので親水性領域を流路とすることができる。
【0338】
さらに、この疎水性処理、あるいは親水性処理はスタンプやインクジェットプリントなどの印刷技術を用いて行うこともできる。スタンプによる方法では、PDMS樹脂を用いる。PDMS樹脂はシリコーンオイルを重合して樹脂化するが、樹脂化した後も分子間隙にシリコーンオイルが充填された状態となっている。そのため、PDMS樹脂を親水性の表面、例えば、ガラス表面に接触させると、接触した部分が強い疎水性となり水をはじく。これを利用して、流路部分に対応する位置に凹部を形成したPDMSブロックをスタンプとして、親水性の基板に接触させることにより、前記の疎水性処理による流路が簡単に製造できる。
【0339】
インクジェットプリントによる方法では、粘稠性が低いタイプのシリコーンオイルをインクジェットプリントのインクとして用い、印刷紙として親水性の樹脂薄膜、例えばポリエチレン、PET、酢酸セルロース、セルロース薄膜(セロハン)などを用いる。流路壁部分にシリコーンオイルが付着するようなパターンに印刷することによっても同じ効果が得られる。
【0340】
さらに、疎水性処理および親水性処理により、所定形状の疎水性パッチまたは親水性パッチを形成し、特定のサイズ未満の物質を通過させ、特定のサイズ以上の物質を通過させないようなフィルタを流路中に形成することもできる。
【0341】
例えば疎水性パッチによりフィルタを構成する場合、パッチを一定の間隔をあけて直線的に繰り返し配置することにより、破線状のフィルタパターンを得ることができる。疎水性パッチどうしの間隔は、通過させたい物質のサイズよりも大きく、通過させたくない物質のサイズよりも小さくする。例えば100μm以上の物質を除去したい場合、疎水性パッチどうしの間隔は、100μmより狭く、例えば50μmに設定する。
【0342】
フィルタは、流路を形成するための疎水性領域パターンと、前記、破線状に形成された疎水性パッチのパターンを一体に形成することで実現できる。形成方法としては、前述のフォトリソグラフィーとSAM膜形成による方法、スタンプによる方法、インクジェットによる方法等を適宜用いることができる。
【0343】
なお、流路中にフィルタを構成する場合、流れ方向に対して垂直にフィルタ面を設けてもよく、流れ方向に平行にフィルタ面を設けてもよい。フィルタ面を流れ方向に平行に設ける場合は、垂直に設ける場合と比べて、物質が詰まりにくく、フィルタの面積を広く取れるという長所がある。この場合、流路部分の幅を広めに、たとえば1000μmとし、その中央部分に50μm×50μmの正方形の疎水性パッチを、互いに50μmの隙間を有するように流路の流れの方向に形成することで、流路を流れ方向に並行に2分割することができる。分割された流路の一方の側から、分離したい物質を含む液体を導入すると、その液体に含まれる50μmよりも大きな物質が除かれた濾液が、他方の流路に流出する。これにより、流路の一方の側で物質を濃縮することができる。
【0344】
分離領域295を以上のように構成することにより、チップ上での試料の分離を効率よく確実に行うことができる。
【0345】
(第十二の実施形態)
以上の実施形態において、流路上の1つの領域から複数の分注流路222が分岐する構成としてもよい。図89は、本実施形態に係るチップの流路構成を示す図である。図89のチップには、分離領域218の下流で主流路221上に設けられた液溜め306から複数の分注流路222が分岐している。それぞれの分注流路222の下流に検出槽223を備えた流路が複数設けられ、その流路と交差し、かつ当該分離領域に試料を導入する目的の試料導入用流路が設けられている。
【0346】
このような構成とすることにより、液溜め306で試料中の成分濃度を均質化した後分注流路222に導くことができる。このため、検出槽223において正確な検出反応を行うことができる。
【0347】
なお、図89には、液溜め306から5本の分注流路222が分岐した構成が示されているが、分注流路222の本数は、検出項目または測定項目に応じて任意に選択することができる。また、以上においては分析部として検出部214を有し、分注流路222の下流に検出槽223が設けられた構成の場合を例に説明をしたが、分析部として測定部233を有するチップの場合にも、分注流路222の下流に分取部235を設けることにより、同様に放射状の分注経路が形成可能である。
【0348】
(第十三の実施形態)
以上の実施形態に係るチップにおいて、主流路221から分析部を構成する液溜め(検出槽223または分取部235)への試料の分注経路を以下のように構成してもよい。以下、検出部214を有するチップの場合を例に説明するが、測定部233を有するチップについても同様の構成を適用可能である。
【0349】
図99は、検出部214の構成を示す図である。この検出部214において、分注流路222が主流路221および検出槽223に向かって拡大した形状となっている。このように、分注流路222に曲率をもたせることにより、主流路221から検出槽223への試料の分注が、泡を生じることなくスムーズに行われる。また、図99において、検出槽223への分岐点における主流路221の開口幅Aは主流路221の幅Bよりも広くなっている。このようにすれば、検出槽223への試料の分注がさらに効率よくなされる。
【0350】
図100は、検出部214の他の構成を示す図である。この検出部214では、検出槽223にトリガー流路256が連通している。トリガー流路256は、分注流路222の下流側で主流路221に液体スイッチ257を介して連通している。このような構成とすれば、上流側に設けられた検出槽223から順に液体が充填されてゆき、1つの検出槽223に液体が満たされた後、次の検出槽223が満たされる。このため、検出槽223に一定量の液体を効率よく分注することができる。なお、図100では検出槽223が2個の場合を例に説明したが、検出槽223の数は任意に選択可能である。
【0351】
(第十四の実施形態)
以上に示した実施形態において、試料導入部212の構成は以下のようにすることもできる。以下、試料導入部212が主流路221に連通する構成を例に説明するが、試料導入部212が他の流路に連通している場合にも同様の構成とすることができる。
【0352】
図94は、本実施形態の試料導入部212の構成を示す断面図である。図94の試料導入部212では、導入口217の上面が主流路221の上面よりも高く構成されている。導入口217の上面が主流路221の上面、あるいは反応槽280その他の液溜めの上面よりも高くすることにより、導入口217中の試料の水位を主流路221等における水位よりも高く保つことができる。このため、導入口217に導入された試料に好適な圧力を付与することができる。よって、試料を確実に主流路221へと移動させ、さらに主流路221で確実に下流側に向かって移動させることができる。
【0353】
図95は、導入口217の上面が主流路221の上面よりも高く構成された試料導入部212の別の例を示す断面図である。図95に示したように、基板216と蓋226との間の空隙を主流路221とする構成の場合にも、たとえば蓋226を貫通させる孔を導入口217とすることにより、導入口217における試料の水位を主流路221等における水位よりも高く維持することができる。
【0354】
図96は、試料導入部212の他の構成の例を示す断面図である。図96は、図95と同様に基板216と蓋226との間の空隙に主流路221が形成された構成であるが、導入口217の側壁となる凸部が蓋226に設けられている。こうすれば、導入口217における試料の水位を主流路221等における水位よりも高い位置により一層確実に維持することができる。
【0355】
また、図96においては、主流路221上の所定の位置に目盛り304が設けられている。蓋226を透明材料で構成し、目盛り304を設けることにより、一定量の試料を導入口217からチップ中に確実に導入することが可能となる。
【0356】
なお、試料導入部212以外の液溜めについても、主流路221よりも高い水位を確保するような構成としてもよい。たとえば、第一の実施形態に係る図101の構成において、バッファー導入口220を図97の断面図に示した構成としてもよい。図97においても、バッファー導入口220の上面が主流路221よりも高くなるように蓋226の一部が突出する形状となっている。また、図97のバッファー導入口220の上面は封止部303により封止されている。この構成では、所定のタイミングで封止部303を剥離することにより、空気孔225が露出し、バッファー導入口220中のバッファーの移動が開始する。よって、所望のタイミングで主流路221にバッファーを確実に流すことができる。また、図97に示したように、所望のタイミングで主流路221にバッファー導入口に導入されたバッファーを流すための液体スイッチ257をさらに設ける構成としてもよい。
【0357】
(第十五の実施形態)
以上に示した実施形態において、試料導入部212の構成は次のようにすることもできる。図84は、試料導入部212の構成をさらに詳細に示す機能ブロック図である。図84において、試料導入部212は、試料採取部296、試料貯留部297および不活化部298を備える。
【0358】
試料採取部296は、チップに導入する試料を採取する機能を有する。このような構成として、たとえば、チップの側面に穿刺針を備えた構成が挙げられる。
【0359】
図98は、血液を採取するための試料採取部296の構成の一例を示す断面図である。図98の試料採取部296は、基板216上に数本の微細な注射針が固定された構成である。注射針は、たとえば27G(ゲージ)以下30G程度、外径0.2mm、内径0.1mm程度のステンレス製とすることができる。
【0360】
注射針の内腔は,血液吸収材に連通する。血液吸収材として、たとえば、シリカゲル粉末層、微細グラスウール層などを用いることができる。また、血液吸収材の表面には、血液凝固阻害剤(不図示)がコーティングされている。血液凝固阻害剤として、たとえば、微量のヘパリンナトリウムやEDTAなどを用いることができる。コーティングは、血液凝固阻害剤を含む液体中に血液吸収材を浸漬し、乾燥させて行うことができる。
【0361】
また、血液吸収材は主流路221に連通しており、主流路221の一部に観察窓が設けられている。観察窓を設けることにより、血液吸収材が血液で満たされたかどうかを容易に判断することができる。血液吸収材に吸収された血液は、バッファー導入口220に導入された抽出用バッファーで洗い流される。こうして、血液が主流路221中に導入される。
【0362】
また、注射針は周囲をスポンジゴムによりカバーされている。スポンジゴムの表面に、局所麻酔剤を含む局所麻酔剤シールが固定されている。局所麻酔剤シールは、たとえばリドカインを含むヒドロゲルとすることができる。また、局所麻酔剤シールの強度は、注射針によって容易に貫通できる程度とする。
【0363】
図98の試料採取部296は、下記(i)〜(vi)の手順に沿って使用する。こうすることにより、血液が採取され、主流路221中に導入される。
(i)チップのシール227をはがし、穿刺部を露出させる。
(ii)穿刺部を2分程度度弱くつまむ。これにより、指先の皮膚表面が麻酔される。
(iii)スポンジをつぶす程度に強くつまむ。これにより、注射針が皮膚に刺さる。
(iv)のつまんだ圧力をゆるめる。すると、血液が血液吸収材へと毛細管効果によって導かれる。
(v)血液吸収材に血液がみたされたかどうかを観察窓から色の変化を観察することにより確認する。血液吸収剤に血液がみたされたら、つまんでいた指をはなす。
(vi)バッファー導入口220に抽出用バッファーを導入し、血液を主流路221中に抽出する。あるいは、図98中に示したように、血液吸収材とバッファー導入口220とを連通させる経路上に液体スイッチを設け、血液が充填されたら液体スイッチが開通する構成としてもよい。
【0364】
図98の構成によれば、指でスポンジをつまむ間に採血されるため、採血時の痛みを軽減することができる。また、採取される血液が見えない構成であるため、採血に対する心理的な負担を軽減することができる。
【0365】
図84にもどり、試料貯留部297は、採取した試料が投入され、貯留される機能を有する。たとえば、以上の実施形態における導入口217等とすることができる。
【0366】
また、不活化部298は、試料貯留部297等に残存する試料を不活化する機能を有する部位である。たとえば、消毒液を貯留する液溜めと、液溜め中の消毒液を所定のタイミングで導入口217に導く流路とを備える構成とすることができる。
【0367】
このような構成とすれば、たとえば血液を採取して、血液中の所定の成分を分離し、検出あるいは測定を行うという一連の手順を、一枚のチップを用いて連続的に実施することができる。また、さらに。使用後はチップの消毒をチップ内の構成要素により行うことが可能であるため、簡便にチップを消毒し、安全な状態で廃棄することができる。
【0368】
(第十六の実施形態)
以上の実施形態に係るチップにおいて、試料中の成分の分離および分析は、以下のようにすることもできる。本実施形態では、凝集ビーズを分離する免疫学的検出方法により、試料中の被検出物質を免疫学的に検出または定量する。この仕組みを用いたチップでは、ビーズの凝集によって被検出物質を検出または定量する。
【0369】
ビーズの凝集を利用して被検出物質を定量する方法としては、ラテックスビーズ凝集法がある。この方法では、ラテックス等からなる直径数μmから数十μmの微細なビーズの表面に、検出したい抗体に対する抗原または検出したい抗原に対する抗体をコーティングしておく。このビーズをバッファー中に懸濁したビーズ液と試料とを混合すると、たとえばビーズ表面の抗原と試料中の抗体が結合する。このとき、抗体は結合部分(エピトープ)を複数もつため、抗原をまたいでビーズ同士が結合することによりビーズが凝集し、沈殿する。
【0370】
分析部として測定部233を有するチップを用いる場合、この凝集状態を散乱強度として測定部233(図7等)にて光学的に測定することができる。また、分析部として検出部214を有するチップを用いる場合、ビーズが沈殿して濁りが消えることを検出部214(図1等)にて検知することにより、試料中の被検出物質の分析がなされる。被検出物質の濃度は、たとえば凝集を生じる試料の希釈倍率によっても測定できる。また、被検出物質の濃度が高い程ビーズは速く凝集するので、濁度の時間変化や沈殿の速さを測定することによっても被検出物質の濃度を測定できる。
【0371】
本実施形態のチップでは、ビーズが凝集塊をつくりその直径が大きくなると、流路の分離領域(分離流路)内での移動速度が変化することを利用して被検出物質を検出する。この方法では、たとえば第八〜第十一の実施形態で前述したピラー等が配置された分離流路内に試料液と混和したビーズ液を流す。具体的には、分離流路内のピラーは第九の実施形態にて前述したパッチ状に形成される。このとき、凝集したビーズ塊はピラーパッチの内部に進入できず、パッチ間を移動するようなサイズに設計される。
【0372】
分離流路内では、凝集したビーズ塊は凝集していないビーズよりも速く移動する。このため、所定の時間内に一定の距離にビーズが到達したか否かを判定窓502を用いて判定することで、ビーズの凝集が起こったか否かを判定できる。これにより、試料中の被検出物質を検出できる。また、ラテックスなどのビーズ基材を視認可能に着色しておくことで、さらに明瞭な判定が可能である。
【0373】
図104(A)は、本実施形態に係るチップの構成を模式的に示す平面図である。また、図104(B)〜図104(D)は、図104(A)のF−F’断面図である。図104(A)および図104(B)に示したように、本実施形態に係るチップの基板500の内部には、分離部213として分離流路501が設けられており、その下流には検出部214として判定窓502が開けられている。分離流路501は、たとえば以上の実施形態に記載のチップの主流路221の一部であり、その具体的構成はたとえば第九の実施形態において前述したピラーをパッチ状に配置した流路である。
【0374】
図104(A)および図104(B)において、図中右側からビーズと試料の混合液が流れてくると、試料中に被検出物質が存在する場合、凝集したビーズ塊を生じているため、ビーズはピラーパッチ内に捕捉されずに分離流路501を速やかに移動し、凝集ビーズ504が一定時間の後に判定窓502部分に到達する。また、着色されたビーズ基材を用いた場合、所定時間経過後、凝集ビーズ504の出現により流路内の所定の領域がビーズ基材に由来する色に染まる(図104(C))ことを、判定窓502を介して視認することで、ビーズが到達したことを知ることができる。
【0375】
一方、試料に被検出物質が含まれない場合、ビーズは凝集しないまま未凝集ビーズ503の状態で移動する。未凝集ビーズ503は分離流路501中ではピラー間の領域に捕捉されて減速し、一定時間内には判定窓502に到達しない。その結果、所定時間経過後、分離流路501内の判定窓502の直下の領域が着色しない。
【0376】
従って、試料と混和されたビーズが分離流路501に導入されてから一定時間後に判定窓502近傍の分離流路501内が着色しているか否かを判定し、着色していれば被検出物質が試料に含まれていた(陽性(+):図104(C))と判断し、着色がなければ被検出物質が含まれていなかった(陰性(−):図104(D))と判断することができる。
【0377】
さらに、判定窓502を分離流路501に沿って複数設けること、または分離流路501の上面全面に透明な蓋226(図3)を設け、分離流路501に沿ってスケールを設けることにより、試料中の被検出物質の濃度を定量することが可能になる。試料中の被検出物質の濃度が高いと凝集ビーズ504のビーズ塊が速く成長してその直径が大きくなるため、分離流路501の下流側の端部により速く到達する。
【0378】
たとえば、図104(A)および図104(B)に示したチップにおいて、分離流路501上に流路の延在方向に沿って複数の判定窓502を設け、これらの判定窓502の着色状態を一定時間後に判定する場合、分離流路501の図中左端に近い判定窓502まで着色していることは、試料中の被検出物質の濃度が高いことを意味し、左端から遠い判定窓502しか着色しないことは、被検出物質の濃度が低いことを意味する。それゆえ、判定窓502の位置と試料中の被検出物質の濃度を対応づけておけば、どの判定窓502まで着色したかを検知することで、試料中の被検出物質の濃度が測定できる。また、着色部分の先端位置には、最も成長した凝集ビーズ504のビーズ塊が存在するため、着色部分の先端位置が一定時間後にどの位置に到達しているかを、スケールを利用して読むことによっても試料中の被検出物質の濃度が測定できる。最も成長したビーズ塊の大きさもまた、試料中の被検出物質の濃度を反映するからである。
【0379】
なお、以上においては、大きなビーズ塊ほど速く移動するような分離流路501を用いた例を示した。逆に、凝集していない小さなビーズほど速く移動するような分離流路を用いても、被検出物質の分離および検出が可能である。その場合、分離流路内には、たとえば第九の実施形態において前述したピラーなどの障害物をビーズの直径の数倍程度離隔して一様に配置する。分離流路を流れる粒子の大きさが小さいほど、障害物の隙間をぬって速く移動できるが、粒子サイズが大きくなると障害物に衝突する頻度が増し、その結果ゆっくりとしか移動できない。このような分離流路を用いる場合、ビーズの大きな凝集塊ほど、手前側に残ることになるので、複数の判定窓502を設けて被検出物質の濃度を測定する場合は、分離流路の上流側(図104(A)中左側)の試料導入路(不図示)から見て、手前側の判定窓が着色しているほど被検出物質の濃度が高いと解釈し、スケールを利用して測定する場合、最大の凝集塊が存在するビーズの最後縁の位置を読みとることで被検出物質の濃度が測定できる。
【0380】
次に、分離部213(図1等)において、試料液とビーズ液を混合して分離流路501へと導入する導入機構の構成を説明する。図105(A)、図105(B)、図106(A)および図106(B)は、試料液およびビーズ液の導入機構を、液体スイッチを利用して実現した例を示す平面図である。図105(A)および図105(B)は、たとえば試料と混合されたビーズ液を必ずしもパルス状に分布させず、着色したビーズの流れの先端位置を読む構成のチップに用いられる。着色部分の先端には、最も大きく成長したビーズ塊が存在するため、その先端の位置に注目することでも被検出物質が定量できる。
【0381】
図105(A)に示した導入機構は、試料導入路505、ビーズ槽506、分離流路507、および液体スイッチからなる。液体スイッチは、トリガー流路509、遅延流路511、堰き止め部508、および空気穴510から構成される。試料導入路505は、たとえば以上の実施形態における導入口217(図2等)に連通している構成とすることができる。また、試料導入路505が前処理部266(図24等)に連通しており前処理後の試料が試料導入路505に移動する構成とすることもできる。ビーズ槽506は、試料導入路505に連通しており、また、堰き止め部508を介して分離流路507に接続されている。また、本実施形態のチップにおいて、液体スイッチの基本構成および動作は、第三の実施形態において前述した通りである。
【0382】
はじめビーズ槽506には、検出用の抗原等をコートした微小ビーズの懸濁液(ビーズ液)が保持されている。ビーズ槽506の内部は分離流路507と連通しているものの、疎水性の表面処理を施すなどして形成された堰き止め部508が介在しているため、堰き止め部508より下流(図中左側)には流れない状態となっている。
【0383】
試料導入路505に試料液が導入されると、試料液はビーズ槽506へ流入してビーズ液と混合する他、ビーズ槽506の手前でトリガー流路509へと分岐する。堰き止め部508の下流で分離流路507に連通しているトリガー流路509には遅延流路511が設けられており、ビーズ槽506内でビーズ液と試料液とが充分混和された頃、試料液が堰き止め部508部分へと導かれ堰き止め部508を開通させる。その結果、試料と混和されたビーズ液は分離流路507へと流れ出す。
【0384】
図105(A)では、トリガー流路509はビーズ槽506へ入る前に試料導入路505から分岐したが、図105(B)のように、トリガー流路509をビーズ槽506から分岐させることも可能である。その場合、トリガー流路509の基点をビーズ槽506の最も上端に位置させることで、ビーズ槽506に試料が充分に導入されてはじめてトリガー流路509が満たされる構成とすることができる。このため、操作の確実性をさらに向上させることができる。
【0385】
また、図105(A)および図105(B)では、ビーズ液はパルス状に分布しておらず着色したビーズの先端部分の位置を観測するだけであるため、先端部分のビーズ塊の量が充分でないとその位置を正確に読みとりにくい場合が生じうる。図106(A)に示す導入機構では、ビーズ液を分離流路507の延在方向に沿ってパルス状に分布させることで、これを改善する。
【0386】
図106(A)の導入機構は、試料導入路512、バッファー槽513、分離流路507、ビーズ槽516、ならびに液体スイッチを構成するバッファー槽トリガー流路515、ビーズ槽トリガー流路514、バッファー槽堰き止め部517、ビーズ槽堰き止め部518、空気穴510、および遅延流路511からなる。はじめ、バッファー槽513とビーズ槽516には、それぞれバッファー液、ビーズ液が充填されている。
【0387】
バッファー槽513およびビーズ槽516のそれぞれの内部は、分離流路507と連通しているが、それぞれバッファー槽堰き止め部517、ビーズ槽堰き止め部518があるために、分離流路507中を進行できないよう保持されている。特にビーズ槽516は、バッファー槽堰き止め部517およびビーズ槽堰き止め部518に挟まれることにより、分離流路507の延在方向に沿ってパルス状の分布を保っている。バッファー槽堰き止め部517は、ビーズ槽516からバッファー槽トリガー流路515への逆流を防ぐために2カ所に設けられているが、バッファー槽トリガー流路515が満たされると、堰き止め部が一つの場合と同様に堰止効果がなくなる。
【0388】
試料導入路512に試料液が導入されると、ビーズ槽516に流入し、そこで試料液はビーズ液と混ざる。試料液は一方、ビーズ槽516に流入する前にバッファー槽トリガー流路515、ビーズ槽トリガー流路514の2本のトリガー流路に分岐する。各トリガー流路には遅延流路511が設けられており、ビーズ槽516内でビーズ液と試料液が充分に混和されたタイミングで、バッファー槽堰き止め部517、ビーズ槽堰き止め部518を開通させる。その結果、パルス状に分布しているビーズ液がバッファー液に押し流される形で分離流路507内を移動する。
【0389】
なお、図106(A)では、トリガー流路は試料液がビーズ槽516に到達する前に分岐したが、図105(B)の場合と同様に、ビーズ槽516に到達した後に分岐させることも可能ある。図106(B)のように、ビーズ槽516に到達した後分岐させる構造とすることにより、操作の確実性をさらに向上させることができる。
【0390】
本実施形態のチップには、分離部213に試料中の所定の成分(被検出物質)に特異的に吸着して凝集するビーズが設けられているため、試料中の所定の成分をさらに確実に分離するとともに、分離された成分を検出部214または測定部233にて分析することが可能である。
【0391】
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0392】
たとえば、以上においては、チップに設けられている検出槽223や分取部235の形状が主として円柱形である場合を例示したが、これらは内容物の分析(検出または測定)を行うような形状であればよく、円柱形に限られず適宜選択することができる。たとえば、検出槽223や分取部235の形状を、四角柱等の角柱とすることができる。また、検出槽223や分取部235は憩室状でなくてもよく、たとえば図14を参照して前述したように、検出槽223や分取部235を流路状としてもよい。
【0393】
また、以上においては、検出槽223および分取部235以外のチップに設けられている他の液溜め、たとえば、図2に示したチップに設けられた導入口217、廃液溜め219、バッファー導入口220、液溜め224等についても、それぞれの液溜めに導入または回収される液体を保持するのに充分な体積が確保されていればよく、円柱以外の形状とすることができる。チップに設ける液溜めの形状は、たとえば、四角柱等の角柱や、所定の平面形状の流路状とすることができる。また、廃液溜めの形状をたとえば平面視においてジグザグ型の流路状としたり、内面に凹凸が形成された柱状とすることもできる。こうすれば、廃液溜めの表面積を増加させることができるので、毛細管効果をさらに向上させ、廃液をさらに確実に回収可能な構成とすることができる。
【0394】
また、測定部233を有するチップにおいて、分取部235に分取された試料中の成分を抽出して外部装置による測定に供する態様としてもよい。具体的には、チップ上に分取された各成分を、電気浸透流等によってESI(エレクトロスプレーイオン化)装置に導入してもよい。このとき、チップ上の各分注流路222に連通するクロック流路を設け、分取された成分が順次ESI装置に導入される構成としてもよい。このようにすれば、分取された各成分についての質量分析を効率よく行うことができる。
【0395】
また、分取された試料中の成分を外部装置による測定に供する場合、各分注流路222の先端に、キャピラリー分光分析装置のキャピラリーを設けてもよい。キャピラリーをチップの先端に突出させておけば、突出したキャピラリーをキャピラリーセルの代わりに分光分析装置に挿入し、測定することが可能となる。
【0396】
また、以上においては、毛細管効果により試料をチップに導入し、チップ中で移動させる場合を例に説明したが、マイクロシリンジポンプ等の外部装置を用いることもできる。
【0397】
また、検出部214を有するチップにおいて、検出部214を肉眼で観察し、試料中の成分の定量を行うことができる構成としてもよい。具体的には、下記(i)〜(vi)の方法を用いることができる。
(i)化学物質感受性ゲル(CSG)の利用
(ii)化学物質感受性流体の利用
(iii)成分濃度別検出槽アレーの利用
(iv)光沢層の利用
(v)検出槽表面での全反射の利用
(vi)干渉縞の利用
【0398】
上記(i)において、CSGは検出したい物質の濃度に依存して体積が膨潤または収縮するゲルのことである。これを用いる場合、検出槽223を、下流側ほど幅の狭い流路状とし、着色したCSGビーズを検出槽223に導入しておけば、検出対象の成分濃度に応じてCSGビーズの大きさが変化する。CSGビーズが膨張するほど検出槽223の下流側に進行することができず、上流側で堰き止められる。このため、あらかじめ成分濃度とCSG位置との関係を求めて蓋226上に目盛りを設けておけば、検出槽223中でのCSGビーズの停止位置に応じて成分濃度を目視により定量することができる。
【0399】
上記(ii)において、化学物質感受性流体は、検出したい物質の濃度に応じて粘度が変化する流体のことである。このような流体として、たとえばポリマー溶液等を用いることができる。これを用いる場合、検出槽223を細長い流路状に形成し、検出槽223中に化学物質感受性流体および目視可能なビーズを充填しておく。検出槽223中に分注された液体中の成分濃度に応じて流体の粘度が変化すると、ビーズの移動速度が変化する。このため、一定時間経過後のビーズの位置を目視で観察することにより、成分濃度を定量することができる。
【0400】
上記(iii)の場合、1つの検出対象を複数の検出槽223に分注する構成とし、これらの検出槽223に分注される成分濃度が一定の割合で異なるようにする。そして、それぞれの検出槽223における検出反応を目視で認識できる発色反応等とする。こうすれば、発色がどの成分濃度の検出槽223まで生じるかによって、成分濃度に換算することができる。
【0401】
上記(iv)の場合、検出槽223下方の基板216の底面に銀紙等の光沢層を設けておく。検出槽223を上方から一定の確度で観察すると、検出槽223中の液体の屈折率によって光沢層が観察されて明るく見える場合と光沢層が観察されず暗く見える場合とが生じる。これを用いれば、試料中の成分に応じた液体の屈折率変化を目視により検知することができる。たとえば、上記(i)の場合において、ビーズが着色されていなくてもビーズの停止位置を容易に目視で測定することができる。
【0402】
上記(v)の場合、検出槽223の表面に低屈折率材料からなる層を形成する。このような検出槽223中に液体が侵入すると、液体の屈折率に応じて検出槽223の表面と液体との界面にて全反射が生じる場合がある。全反射が生じる場合、検出槽223が明るく見える。よって、全反射の発生の有無を用いて、液体の屈折率を見積もり、これを成分濃度に換算することができる。
【0403】
上記(vi)の場合、検出槽223の形状を高さまたは幅が可視光の数倍程度の長さの流路状とする。そして、その流路幅が下流ほど狭い構成とする。基板216に透明材料を用いれば、検出槽223中の液体の屈折率に応じて干渉縞の生じる位置が変動するため、干渉縞の位置から液体の屈折率を見積もり、これを成分濃度に換算することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部の上流に設けられ、前記試料導入部に導入された前記液体試料に所定の前処理を施す前処理部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップ。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載のチップにおいて、前記前処理部は、前処理槽と、前記前処理槽の下流に設けられ、前記前処理部から前記分離部への前記液体試料の供給を制御するスイッチと、を含み、
前記スイッチは、前記前処理槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項3】
請求の範囲第2項に記載のチップにおいて、前記液体試料が不溶成分を含み、前記前処理槽は前記不溶成分を可溶化する可溶化物質を有することを特徴とするチップ。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部および前記分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部を有することを特徴とするチップ。
【請求項5】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部および分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部と、
前記混合部で均質化された前記成分を含む液体中の前記成分を分析する前記分析部と、
を有することを特徴とするチップ。
【請求項6】
請求の範囲第4項または第5項に記載のチップにおいて、前記混合部は、前記流路の一の領域と他の領域とが、微細流路を介して連通した構成であることを特徴とするチップ。
【請求項7】
請求の範囲第4項または第5項に記載のチップにおいて、前記混合部は、前記流路に設けられ、前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、
前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項8】
請求の範囲第4項乃至第7項いずれかに記載のチップにおいて、前記混合部は、前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを制御する移動制御部を有し、前記移動制御部は、前記液体試料を所定の時間保持した後、前記液体試料を前記分析部へ導くように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のチップにおいて、前記移動制御部は前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、
前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載のチップにおいて、前記トリガー流路は、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ流路を含むことを特徴とするチップ。
【請求項11】
請求の範囲第9項に記載のチップにおいて、前記トリガー流路に、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ槽が設けられたことを特徴とするチップ。
【請求項12】
請求の範囲第1項乃至第11項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部を有することを特徴とするチップ。
【請求項13】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップ。
【請求項14】
請求の範囲第12項または第13項に記載のチップにおいて、
前記反応部は、反応槽と、前記反応槽の下流に設けられたスイッチと、を含み、
前記スイッチは、前記反応槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項15】
請求の範囲第14項に記載のチップにおいて、前記反応槽中に、前記液体試料中の前記成分に作用する反応物質を有することを特徴とするチップ。
【請求項16】
請求の範囲第1項乃至第15項いずれかに記載のチップにおいて、前記基板の表面を被覆するシールを有することを特徴とするチップ。
【請求項17】
請求の範囲第16項に記載のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間に不活性ガスが充填されていることを特徴とするチップ。
【請求項18】
請求の範囲第16項に記載のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間が減圧されていることを特徴とするチップ。
【請求項19】
請求の範囲第1項乃至第18項いずれかに記載のチップにおいて、前記基板の表面が親水性樹脂により構成されていることを特徴とするチップ。
【請求項20】
請求の範囲第1項乃至第19項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記試料導入部に導入された前記液体試料を所定のタイミングで前記流路に移動させるスイッチを含むことを特徴とするチップ。
【請求項21】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の柱状体を有することを特徴とするチップ。
【請求項22】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の凹部を有することを特徴とするチップ。
【請求項23】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の表面は、離間して配置された複数の第一の領域と、該第一の領域を除く前記分離部の表面を占める第二の領域と、を有し、
前記第一の領域および前記第二の領域のうち、一方が疎水性領域であり、他方が親水性領域であることを特徴とするチップ。
【請求項24】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料を特定の性状に従って展開する試料吸着粒子を有することを特徴とするチップ。
【請求項25】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の底面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低いことを特徴とするチップ。
【請求項26】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、
前記分離部を覆う蓋を有し、
前記蓋の面のうち、前記基板側の面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、
前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低いことを特徴とするチップ。
【請求項27】
請求の範囲第26項に記載のチップにおいて、前記土手部は、前記蓋の前記基板側の面上に形成された樹脂膜であることを特徴とするチップ。
【請求項28】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記流路の一部をなす第一の流路と、前記流路を通過する前記液体試料から分離された特定成分を含む液体の通過する第二の流路と、前記第一の流路および前記第二の流路を連通させ、前記特定成分のみを通過させる分離流路を含むことを特徴とするチップ。
【請求項29】
請求の範囲第1項乃至第28項いずれかに記載のチップにおいて、前記分析部は、前記成分が分取される複数の液溜めを有することを特徴とするチップ。
【請求項30】
請求の範囲第29項に記載のチップにおいて、前記液溜めまたは前記液溜めに連通する前記流路の前記液溜めの近傍に空気孔を有することを特徴とするチップ。
【請求項31】
請求の範囲第30項に記載のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていることを特徴とするチップ。
【請求項32】
請求の範囲第1項乃至第31項いずれかに記載のチップにおいて、前記分析部は、前記成分を検出する検出部を有することを特徴とするチップ。
【請求項33】
請求の範囲第32項に記載のチップにおいて、前記検出部を覆う被覆部材をさらに備え、該被覆部材とマイクロレンズとが一体成形されたことを特徴とするチップ。
【請求項34】
請求の範囲第1項乃至第33項いずれかに記載のチップにおいて、前記分析部の下流側で前記流路に連通する廃液溜めを有し、前記廃液溜めへの前記液体の移動に伴い前記流路中の前記液体が前記流路の下流に向かって移動するように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項35】
請求の範囲第34項に記載のチップにおいて、前記廃液溜めに液体保持部が設けられたことを特徴とするチップ。
【請求項36】
請求の範囲第34項または第35項に記載のチップにおいて、前記廃液溜めまたは前記廃液溜めに連通する前記流路の前記廃液溜めの近傍に空気孔を有することを特徴とするチップ。
【請求項37】
請求の範囲第36項に記載のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていることを特徴とするチップ。
【請求項38】
請求の範囲第29項乃至第37項いずれかに記載のチップにおいて、前記流路は分岐部を有し、前記分岐部は複数の前記液溜めに連通することを特徴とするチップ。
【請求項39】
請求の範囲第1項乃至第38項いずれかに記載のチップにおいて、毛細管現象により前記液体試料が前記流路中を移動するように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項40】
請求の範囲第1項乃至第39項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料中の所定の成分に特異的に吸着して凝集する粒子を備えることを特徴とするチップ。
【請求項41】
請求の範囲第40項に記載のチップにおいて、前記分離部は、前記粒子を保持する粒子保持槽と、前記粒子保持槽から前記流路への前記粒子の移動を制御するスイッチと、を含み、
前記スイッチは、前記粒子保持槽中の前記粒子を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記粒子を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項42】
請求の範囲第40項または第41項に記載のチップにおいて、前記分析部は、前記分離部に連通する分析用流路と、前記基板の前記分析用流路の上部に設けられ前記粒子の凝集状態を検知させる窓部と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部の上流に設けられ、前記試料導入部に導入された前記液体試料に所定の前処理を施す前処理部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップ。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載のチップにおいて、前記前処理部は、前処理槽と、前記前処理槽の下流に設けられ、前記前処理部から前記分離部への前記液体試料の供給を制御するスイッチと、を含み、
前記スイッチは、前記前処理槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項3】
請求の範囲第2項に記載のチップにおいて、前記液体試料が不溶成分を含み、前記前処理槽は前記不溶成分を可溶化する可溶化物質を有することを特徴とするチップ。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部および前記分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部を有することを特徴とするチップ。
【請求項5】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部および分析部に連通し、前記分離部で分離された前記成分を含む液体中の前記成分の濃度を均質化する混合部と、
前記混合部で均質化された前記成分を含む液体中の前記成分を分析する前記分析部と、
を有することを特徴とするチップ。
【請求項6】
請求の範囲第4項または第5項に記載のチップにおいて、前記混合部は、前記流路の一の領域と他の領域とが、微細流路を介して連通した構成であることを特徴とするチップ。
【請求項7】
請求の範囲第4項または第5項に記載のチップにおいて、前記混合部は、前記流路に設けられ、前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、
前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項8】
請求の範囲第4項乃至第7項いずれかに記載のチップにおいて、前記混合部は、前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを制御する移動制御部を有し、前記移動制御部は、前記液体試料を所定の時間保持した後、前記液体試料を前記分析部へ導くように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のチップにおいて、前記移動制御部は前記混合部から前記分析部への前記液体試料の供給を制御するスイッチを含み、
前記スイッチは、前記流路中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載のチップにおいて、前記トリガー流路は、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ流路を含むことを特徴とするチップ。
【請求項11】
請求の範囲第9項に記載のチップにおいて、前記トリガー流路に、前記液体試料を保持し前記液体試料が前記分析部に移動するタイミングを遅らせる時間遅れ槽が設けられたことを特徴とするチップ。
【請求項12】
請求の範囲第1項乃至第11項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部を有することを特徴とするチップ。
【請求項13】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に連通する流路と、
前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された液体試料中の成分を分離する分離部と、
前記分離部で分離された前記成分に所定の反応を生じさせる反応部と、
前記分離部で分離された前記成分を分析する分析部と、
を有することを特徴とするチップ。
【請求項14】
請求の範囲第12項または第13項に記載のチップにおいて、
前記反応部は、反応槽と、前記反応槽の下流に設けられたスイッチと、を含み、
前記スイッチは、前記反応槽中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側の箇所で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項15】
請求の範囲第14項に記載のチップにおいて、前記反応槽中に、前記液体試料中の前記成分に作用する反応物質を有することを特徴とするチップ。
【請求項16】
請求の範囲第1項乃至第15項いずれかに記載のチップにおいて、前記基板の表面を被覆するシールを有することを特徴とするチップ。
【請求項17】
請求の範囲第16項に記載のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間に不活性ガスが充填されていることを特徴とするチップ。
【請求項18】
請求の範囲第16項に記載のチップにおいて、前記基板と前記シールとにより形成された空間が減圧されていることを特徴とするチップ。
【請求項19】
請求の範囲第1項乃至第18項いずれかに記載のチップにおいて、前記基板の表面が親水性樹脂により構成されていることを特徴とするチップ。
【請求項20】
請求の範囲第1項乃至第19項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記試料導入部に導入された前記液体試料を所定のタイミングで前記流路に移動させるスイッチを含むことを特徴とするチップ。
【請求項21】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の柱状体を有することを特徴とするチップ。
【請求項22】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記流路に設けられた複数の凹部を有することを特徴とするチップ。
【請求項23】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の表面は、離間して配置された複数の第一の領域と、該第一の領域を除く前記分離部の表面を占める第二の領域と、を有し、
前記第一の領域および前記第二の領域のうち、一方が疎水性領域であり、他方が親水性領域であることを特徴とするチップ。
【請求項24】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料を特定の性状に従って展開する試料吸着粒子を有することを特徴とするチップ。
【請求項25】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部を構成する前記流路の底面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低いことを特徴とするチップ。
【請求項26】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、
前記分離部を覆う蓋を有し、
前記蓋の面のうち、前記基板側の面上に、前記流路を分割するように前記流路の進行方向に沿って土手部が設けられ、
前記土手部の高さが前記流路の深さよりも低いことを特徴とするチップ。
【請求項27】
請求の範囲第26項に記載のチップにおいて、前記土手部は、前記蓋の前記基板側の面上に形成された樹脂膜であることを特徴とするチップ。
【請求項28】
請求の範囲第1項乃至第20項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記流路の一部をなす第一の流路と、前記流路を通過する前記液体試料から分離された特定成分を含む液体の通過する第二の流路と、前記第一の流路および前記第二の流路を連通させ、前記特定成分のみを通過させる分離流路を含むことを特徴とするチップ。
【請求項29】
請求の範囲第1項乃至第28項いずれかに記載のチップにおいて、前記分析部は、前記成分が分取される複数の液溜めを有することを特徴とするチップ。
【請求項30】
請求の範囲第29項に記載のチップにおいて、前記液溜めまたは前記液溜めに連通する前記流路の前記液溜めの近傍に空気孔を有することを特徴とするチップ。
【請求項31】
請求の範囲第30項に記載のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていることを特徴とするチップ。
【請求項32】
請求の範囲第1項乃至第31項いずれかに記載のチップにおいて、前記分析部は、前記成分を検出する検出部を有することを特徴とするチップ。
【請求項33】
請求の範囲第32項に記載のチップにおいて、前記検出部を覆う被覆部材をさらに備え、該被覆部材とマイクロレンズとが一体成形されたことを特徴とするチップ。
【請求項34】
請求の範囲第1項乃至第33項いずれかに記載のチップにおいて、前記分析部の下流側で前記流路に連通する廃液溜めを有し、前記廃液溜めへの前記液体の移動に伴い前記流路中の前記液体が前記流路の下流に向かって移動するように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項35】
請求の範囲第34項に記載のチップにおいて、前記廃液溜めに液体保持部が設けられたことを特徴とするチップ。
【請求項36】
請求の範囲第34項または第35項に記載のチップにおいて、前記廃液溜めまたは前記廃液溜めに連通する前記流路の前記廃液溜めの近傍に空気孔を有することを特徴とするチップ。
【請求項37】
請求の範囲第36項に記載のチップにおいて、前記空気孔周辺の表面が疎水化されていることを特徴とするチップ。
【請求項38】
請求の範囲第29項乃至第37項いずれかに記載のチップにおいて、前記流路は分岐部を有し、前記分岐部は複数の前記液溜めに連通することを特徴とするチップ。
【請求項39】
請求の範囲第1項乃至第38項いずれかに記載のチップにおいて、毛細管現象により前記液体試料が前記流路中を移動するように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項40】
請求の範囲第1項乃至第39項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部は、前記液体試料中の所定の成分に特異的に吸着して凝集する粒子を備えることを特徴とするチップ。
【請求項41】
請求の範囲第40項に記載のチップにおいて、前記分離部は、前記粒子を保持する粒子保持槽と、前記粒子保持槽から前記流路への前記粒子の移動を制御するスイッチと、を含み、
前記スイッチは、前記粒子保持槽中の前記粒子を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその下流側で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記粒子を導くトリガー流路と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項42】
請求の範囲第40項または第41項に記載のチップにおいて、前記分析部は、前記分離部に連通する分析用流路と、前記基板の前記分析用流路の上部に設けられ前記粒子の凝集状態を検知させる窓部と、を有することを特徴とするチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
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【図62】
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【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【図73】
【図74】
【図75】
【図76】
【図77】
【図78】
【図79】
【図80】
【図81】
【図82】
【図83】
【図84】
【図85】
【図86】
【図87】
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【図89】
【図90】
【図91】
【図92】
【図93】
【図94】
【図95】
【図96】
【図97】
【図98】
【図99】
【図100】
【図101】
【図102】
【図103】
【図104】
【図105】
【図106】
【図107】
【図108】
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【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
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【図25】
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【図27】
【図28】
【図29】
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【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
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【図42】
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【図60】
【図61】
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【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【図73】
【図74】
【図75】
【図76】
【図77】
【図78】
【図79】
【図80】
【図81】
【図82】
【図83】
【図84】
【図85】
【図86】
【図87】
【図88】
【図89】
【図90】
【図91】
【図92】
【図93】
【図94】
【図95】
【図96】
【図97】
【図98】
【図99】
【図100】
【図101】
【図102】
【図103】
【図104】
【図105】
【図106】
【図107】
【図108】
【国際公開番号】WO2005/022169
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513525(P2005−513525)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012661
【国際出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/012661
【国際出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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