説明

チャンバ装置のシール構造及びこれを用いたチャンバ装置

【課題】シール部材をシール溝内に確実に拘束することが可能で、かつチャンバ部品間のシール効果も高めることができるシール構造を提供する。
【解決手段】チャンバ装置の下蓋3に形成されたシール溝7にシール部材10を取り付け、そのシール部材10を上蓋2と接触させてチャンバをシールするシール構造において、シール部材10には、シール溝7内に圧縮された状態で嵌め合わされる基部11と、基部11よりも断面上の幅が小さく、かつシール溝7から突出して上蓋2と接触する接触部12とを設ける。基部11がシール溝7に嵌め合わされているときの基部11とシール溝7の側壁9との接触範囲をシール溝7のエッジ7aよりも溝内に後退した範囲に制限する。接触部12の先端部には、上蓋2が離れている状態で概略平坦形状となるフラット部12bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ用基板に塗布されたレジスト膜剤の乾燥等に使用されるチャンバ装置及びそのパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルに使用されるカラーフィルタの製造工程では、パターン形成用のレジスト液が均一厚さで塗布されたガラス基板を真空チャンバ内に導入して真空乾燥させることにより、レジスト膜を形成する処理が行われる。この種の処理に使用される真空チャンバ装置は、一対のチャンバ部品としての上蓋と下蓋とを有し、下蓋にはチャンバの周囲に沿ってシール溝が形成され、そのシール溝にOリングが装着されている。上蓋と下蓋とを重ね合わせてチャンバを閉じたとき、そのOリングが上蓋と接してチャンバがシールされる。なお、Oリングによるシール構造は、各種のシール構造において広く使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−126814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Oリングをチャンバのシール構造に利用した場合、Oリングをシール溝内に拘束する力(以下、これを拘束力と呼ぶことがある。)が比較的小さく、チャンバの開閉に伴ってOリングがシール溝から浮き上がることがある。Oリングが浮き上がった場合、チャンバが閉じられる際にOリングがリング取付溝のエッジに噛み合って損傷し、それによりシール漏れが生じるおそれがある。浮き上がりを防止すべくOリングの締め代を大きく設定すれば、Oリングがシール溝から部分的にはみ出してOリングが傷付くおそれもある。Oリングのシール溝からの突出量も比較的小さく、かつその突出部分とチャンバ部品との接触状態が線接触である。従って、シール効果が低く、空気が漏れるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、シール部材をシール溝内に確実に拘束することが可能で、かつチャンバ部品間のシール効果も高めることができるシール構造及びこれを用いたチャンバ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシール構造は、一対の開閉可能なチャンバ部品(2、3)を重ね合わせてそれらのチャンバ部品間にチャンバ(4)を形成するチャンバ装置(1)に適用され、一方のチャンバ部品のシール溝(7)に取り付けられたシール部材(10)を他方のチャンバ部品と接触させて前記チャンバをシールするチャンバ装置のシール構造であって、前記シール部材は、前記シール溝内に圧縮された状態で嵌め合わされる基部(11)と、前記基部よりも断面上の幅が小さく、かつ前記シール溝から突出して前記他方のチャンバ部品と接触する接触部(12)とを有し、前記基部が前記シール溝に嵌め合わされているときの当該基部と前記シール溝の側壁(9)との接触範囲が該シール溝の開口端のエッジ(7a)よりも溝内に後退した範囲に制限され、前記他方のチャンバ部品と接触すべき前記接触部の先端部には、前記他方のチャンバ部品が離れている状態で概略平坦形状となるフラット部(12b)が設けられることにより、上述した課題を解決する。また、本発明のチャンバ装置は、本発明のシール構造が、前記チャンバ部品としての上蓋(2)と下蓋(3)との間の接合部分に設けられていることにより、上述した課題を解決する。
【0007】
本発明によれば、シール部材が、シール溝に嵌め合わされる基部に加えて、その基部よりも断面上の幅が小さい接触部を有しているため、基部には、シール部材をシール溝に十分な力で拘束できるような断面形状を与え、それによりシール部材の浮き上がりを防止することができる。この場合、接触部の幅が基部よりも小さく設定され、かつ、シール溝の側壁と基部との接触範囲がシール溝のエッジよりも溝内に後退しているため、基部をシール溝内で十分に圧縮変形させてシール部材の拘束力を高めても、シール部材がシール溝から接合面上にはみ出るおそれがない。これにより、シール部材の損傷を防止することができる。接触部に関しては、一方のチャンバ部品からの突出量を大きく確保して、チャンバを閉じたときに接触部と他方のチャンバとを十分な力で接触させることができる。しかも、接触部の先端部のフラット部により、接触部と他方のチャンバ部品との間の接触面積も大きく確保することができる。従って、シール部材と他方のチャンバ部品との間のシール効果を高めることができる。
【0008】
本発明の一形態において、前記基部は、前記シール溝の底面(8)と接触する概略平坦な底面(11a)と、前記シール溝の側壁(9)と接触する側面(11b)とを組み合わせた断面形状を有し、無負荷状態で前記側面が外側に向かって丸みを帯びて膨らんでいるものとしてもよい。この場合、基部をシール溝に嵌め合わせると、基部が幅方向に圧縮されてシール溝の底面と側壁との間の隅部を埋めるように弾性変形し、それにより、シール部材の基部とシール溝との間の接触面積が断面円形のOリングを使用した場合と比較して増加する。これにより、シール部材とシール溝との間の密着度を高め、シール溝とシール部材との間で空気等が漏れるおそれを低減させることができる。
【0009】
本発明の一形態においては、前記シール溝の一対の側壁が互いに平行でかつ前記シール溝の底面に対して直交していてもよい。シール溝がこのような単純な断面形状であっても、シール溝の側壁とシール部材の基部との間に十分な摩擦力を生じさせてシール部材のシール溝からの浮き上がりを防止することができる。
【0010】
本発明の一形態においては、前記シール部材がフッ素ゴムにて形成されてもよい。この場合には、シール部材と他方のチャンバ部品への貼り付きに起因するシール部材のシール溝からの浮き上がりを効果的に抑えることができる。
【0011】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように、本発明によれば、シール部材に、シール溝に嵌め合わされる基部に加えて、その基部よりも断面上の幅が小さい接触部を設けるとともに、基部とシール溝の側壁との間の接触範囲をシール溝のエッジよりも溝内に後退させたため、基部をシール溝内で十分に圧縮変形させてシール部材の拘束力を高めることにより、シール溝からのシール部材の浮き上がりを防止するとともに、シール溝から接合面上へのシール部材のはみ出しを防止してシール部材が損傷するおそれを解消することができる。そして、一方のチャンバ部品からの接触部の突出量を大きく確保して、チャンバを閉じたときに接触部と他方のチャンバとを十分な力で接触させ、しかも、接触部の先端部のフラット部により、接触部と他方のチャンバ部品との間の接触面積も大きく確保することができる。従って、シール部材と他方のチャンバ部品との間のシール効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一形態に係るシール構造が適用されたチャンバ装置1の要部を示している。チャンバ装置1は、例えば、液晶パネルのカラーフィルタの製造ライン上に設置され、レジスト膜が塗布されたガラス基板をチャンバ内に取り込んで真空乾燥させるために使用される。チャンバ装置1には、チャンバ部品として上蓋2と下蓋3とが設けられている。上蓋2は不図示の昇降機構により下蓋3に対して昇降する。上蓋2を下蓋3に重ね合わせることにより、それらの内部にチャンバ4が形成される。図1は上蓋2が上昇してチャンバ4が開放され、その内部にガラス基板5が導入された状態を示している。上蓋2には、チャンバ4内から空気を吸引するためのダクト6が設けられている。
【0014】
下蓋3には、チャンバ4の周囲を一周するようにシール溝7が設けられ、そのシール溝7にはシール部材10が取り付けられている。図2はそのシール部材10が取り付けられた下蓋3を上面側、つまり上蓋2との接合面3a側から見た状態を示している。図2から明らかなように、シール部材10は、矩形状の下蓋3の外周に沿ってこれを一周する無端状の形状をゆうしている。上蓋2を下蓋3に下降させるとシール部材10が上蓋2の接合面2a(図3参照)と全周に亘って密着し、それにより、チャンバ4の外周がシールされる。
【0015】
図3は、シール溝7にシール部材10を取り付けた状態を示す断面図である。なお、無負荷状態、すなわちシール部材10に内部応力が生じていない状態のシール部材10を図中に想像線で示している。シール溝7は、接合面3aと平行な底面8と、底面8に対して直交しかつ互いに平行な一対の側壁9とを備えている。シール溝7の断面形状はその全周に亘って一定である。接合面3aから底面8までの深さDgはシール溝7の全周に亘って一定であり、側壁9間の溝幅Wgもシール溝7の全周に亘って一定である。さらに、溝幅Wgは、シール溝7の深さ方向に関しても一定である。但し、接合面3aと直交する方向に関して、側壁9に幾らか傾斜が付されてもよい。その傾斜の程度は、例えば加工上の都合から決定されてもよいし、あるいはシール部材10を保持するための都合から決定されてもよい。
【0016】
シール部材10は、基部11と、その基部11から突出する接触部12とを備えている。シール部材10の断面形状もその全周に亘って一定である。基部11は、シール溝7への嵌め合い部分である。基部11の断面形状は、概略平坦な底面11aとやや丸みを帯びるように膨らんだ側面11bとを組み合わせた非円形の形状である。シール溝7に装着された状態で、基部11は幅方向に圧縮されてシール溝7の底面8と側壁9との間の隅部を埋めるように弾性変形する。無負荷状態における基部11の幅(以下、これをシール幅と呼ぶ。)Wsは、シール溝7の溝幅Wgよりも大きい。よって、基部11をシール溝7に嵌め合わせた場合、基部11が幅方向に圧縮され、その圧縮に対する弾性反発力により、基部11がシール溝7内に拘束される。シール幅Wsを溝幅Wg以下に設定すると、基部11の締め代がなくなって、シール溝7からのシール部材10の浮き上がりを防止することが困難となる。他方、シール幅Wsを溝幅Wgに対して過度に大きく設定すると、シール溝7のシール部材10の装着が困難となり、シール溝7の開口端のエッジ7aで基部11を傷付けるおそれがある。一例として、シール幅Wsは溝幅Wgに対して例えば101〜110%の範囲に設定される。
【0017】
接触部12は、その側面12aを基部11よりも幅方向中心側に等しく後退させて幅Wcをシール幅Wsよりも減少させた断面形状を有している。接触部12の幅Wcは、一例として、シール幅Wsに対して57〜60%程度に設定される。接触部12の先端部、つまり上蓋2の接合面2aと接触すべき端部には、フラット部12bが設けられている。基部11がシール溝7に嵌め合わされ、かつ上蓋2がシール部材10から離された状態において、フラット部12bは実質的に平坦形状を維持する。基部11と接触部12とはアール部13を介してなだらかに接合されている。
【0018】
シール部材10の無負荷状態における全高Hsは、シール溝7の深さDgよりも大きく設定されている。シール部材10の基部11をシール溝7に取り付けた場合、シール部材10の接触部12はシール溝7を越えて上方に突出する。接触部12の接合面3aからの突出量δは、一例として溝深さDgに対して60〜72%程度の範囲に設定される。基部11がシール溝7に嵌め合わされた状態において、基部11と側壁9との接触範囲の上端paは、シール溝7のエッジ7aよりも溝内に後退している。つまり、基部11と側壁9との接触範囲は、エッジ7aよりも溝7内に後退した範囲に制限されている。
【0019】
以上のシール構造によれば、シール部材10の基部11が圧縮された状態でシール溝7内に取り付けられることにより、基部11と側壁9との間に摩擦による十分な拘束力を生じさせてシール部材10の浮き上がりを抑えることができる。しかも、基部11が、同一溝幅Wgのシール溝に適用される断面円形のOリングと比較して、断面積の大きい非円形の断面形状に形成されているため、Oリングをシール溝7内に装着した場合と比較して、シール溝7の底面8及び側壁9とシール部材10との接触面積を増加させてそれらの密着度を高めることができる。それにより、シール溝7とシール部材10との間で空気が漏れるおそれを低減させることができる。
【0020】
また、シール溝7とシール部材10の基部11との接触範囲がシール溝7のエッジ7aよりも溝内に後退した範囲に制限されているため、上蓋2を下蓋3に重ね合わせた場合でも、シール部材10がエッジ7aから接合面3a上にはみ出るおそれがない。従って、エッジ7aによるシール部材10の損傷、及びその損傷に起因するシール不良を防止することができる。基部11よりも幅の狭い接触部12をシール溝7から突出させているので、Oリングを使用した場合と比較して、シール部材10の突出量δを大きく確保することができる。言い換えれば、基部11の形状の制限を受けることなく接触部12の高さを自由に設定できるので、接触部12の突出量δを十分に大きく設定することができる。これにより、上蓋2を閉じたときに接触部12を十分な力で接合面2aと接触させることができる。しかも、接触部12の先端部にフラット部12bを設けているので、シール部材10と上蓋2の接合面2aとの接触面積を増加させて密着度を高めることができる。よって、シール部材10と上蓋2との間ら空気が漏れるおそれを低減させてシール効果を高めることができる。さらに、突出量δを増加させることにより、上蓋2と下蓋3とを重ね合わせたときの両者間の隙間量を十分に確保して蓋2、3同士の接触を防止することができる。
【0021】
上述したシール部材10の材質には、一般のシール部材、パッキン等の素材として使用される各種のゴム、エラストマーといった弾性材料を使用することができる。特に、フッ素ゴムにてシール部材10を形成した場合には、上蓋2とシール部材10との貼り付きに起因するシール部材10のシール溝7からの浮き上がりを効果的に抑えることができる。
【0022】
本発明は上述した形態に限定されることなく、適宜の形態にて実施することができる。例えば、本発明のシール構造は、カラーフィルタ用基板を乾燥させるための真空チャンバ装置に適用される例に限らず、適宜の構造のチャンバ装置に適用することができる。シール部材が取り付けられるチャンバ部品は、上述した下蓋3のように一定位置に固定されるチャンバ部品に限らず、チャンバの開閉のために駆動されるチャンバ部品(上記の例では上蓋2)にシール部材が取り付けられてもよい。シール部材は、チャンバの周囲を矩形状に取り囲む例に限らず、円形、楕円形といった形状でシール部材がチャンバの周囲を取り囲んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一形態に係るシール構造が適用されたチャンバ装置の要部を示す斜視図。
【図2】シール部材が取り付けられた下蓋を上面側、つまり上蓋との接合面側から見た状態を示す図。
【図3】シール溝にシール部材を取り付けた状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0024】
1 チャンバ装置
2 上蓋(チャンバ部品)
2a 上蓋の接合面
3 下蓋(チャンバ部品)
3a 下蓋の接合面
4 チャンバ
7 シール溝
7a シール溝のエッジ
8 シール溝の底面
9 シール溝の側壁
10 シール部材
11 基部
11a 基部の底面
11b 基部の側面
12 接触部
12a 接触部の側面
12b 接触部のフラット部
Dg 溝深さ
Hs シール部材の全高
Wc 接触部の幅
Wg 溝幅
Ws 基部の幅
δ シール部材の突出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の開閉可能なチャンバ部品を重ね合わせてそれらのチャンバ部品間にチャンバを形成するチャンバ装置に適用され、一方のチャンバ部品のシール溝に取り付けられたシール部材を他方のチャンバ部品と接触させて前記チャンバをシールするチャンバ装置のシール構造であって、
前記シール部材は、前記シール溝内に圧縮された状態で嵌め合わされる基部と、前記基部よりも断面上の幅が小さく、かつ前記シール溝から突出して前記他方のチャンバ部品と接触する接触部とを有し、
前記基部が前記シール溝に嵌め合わされているときの当該基部と前記シール溝の側壁との接触範囲が該シール溝の開口端のエッジよりも溝内に後退した範囲に制限され、
前記他方のチャンバ部品と接触すべき前記接触部の先端部には、前記他方のチャンバ部品が離れている状態で概略平坦形状となるフラット部が設けられている、
ことを特徴とするチャンバ装置のシール構造。
【請求項2】
前記基部は、前記シール溝の底面と接触する概略平坦な底面と、前記シール溝の側壁と接触する側面とを組み合わせた断面形状を有し、無負荷状態で前記側面が外側に向かって丸みを帯びて膨らんでいる、ことを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記シール溝の一対の側壁が互いに平行でかつ前記シール溝の底面に対して直交していることを特徴とする請求項1又は2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記シール部材がフッ素ゴムにて形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシール構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシール構造が、前記チャンバ部品としての上蓋と下蓋との間の接合部分に設けられていることを特徴とするチャンバ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228720(P2009−228720A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72752(P2008−72752)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】