説明

チャープZ変換によるOFDM信号伝送方式

【課題】従来OFDM伝送に主として用いられて来たFFT方式には演算量が大きく携帯型端末の実現が困難である事と個々のサブチャネルを独立に用いることができないという問題がある。それを解決するために提案されたSAWチャープフィルタを用いる方式は受信にしか適用できないという限界がある。本発明は受信にも送信にも適用でき且つ特性改善が可能なOFDM伝送方式を実現せむとする。
【解決手段】本発明はチャープZ変換によって受信OFDMをTDM信号に変換し、TDM信号を後置波形整形フィルタ6に入力する。後置整形フィルタはOFDM信号のGI(Guard Interval)に相当する部分の周波数成分を除去する。その際後置波形整形フィルタをナイキスト特性にする事により符号間干渉を大幅に低減できる。上のチャープZ変換の逆変換回路によってOFDM送信装置も実現できる。それによって携帯端末も可能になると共にFDM−CDMAが可能になり応用範囲が拡大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地上ディジタル放送やADSL,無線LAN,次世代高速移動通信などに広く用いられる直交周波数多重(OFDM)信号の通信方式に関する。
【背景技術】
【0002】
直交周波数多重(OFDM)方式は地上波ディジタル放送、無線LAN,ADSLなどに広く応用されているが、更に次世代高速移動通信に対しても有力な信号伝送技術として注目されている。その詳細は文献[5]モバイルITフォーラム 4G技術調査報告書(Ver.1.1)(モバイルITフォーラム 第四世代モバイル部会 システム専門委員会システムインフラストラクチャWG)に譲るが一つの問題点は次世代高速データ伝送の為には高速フーリエ変換(FFT)にかかる処理量が大きい事が上げられる。例えばBo=10MHzの帯域幅を用いてN=1,000点FFTを行うには400MIPSの演算量が必要となり、特に小型携帯端末の実現は困難である。
【0003】
上の問題を解決する為にSAW(Surface Acoustic Wave,弾性表面波)素子のチャープフィルタを用いたOFDM受信方式が提案されている。詳細は文献[2]M.Heumer他の“SAWBASED CHIRP FOURIER TRANSFORM FOR OFDM SYSTEMS”1999 IEEE Ultrasonics Symposium pp373−376 に譲るがSAWチャープフィルタを用いたOFDM受信方式は確かに演算量の問題は解決できるが、この方式ではOFDM送信装置の実現が不可能である。またOFDM信号のGI(Guard Interval)の時間比率は伝播状況に応じて異なる値に設定するのが望ましいが、本公知例はすべてのサブチャネルに固定的なGI時間率しか適用できない限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のOFDM通信装置の構成を図5,6,7に示す。図5において11は直列/並列(S/P)変換回路.12はN点逆FFT回路、13はGI(Guard Interval)挿入回路である。図6において14はGI除去回路、15はFFT回路、16は並列/直列(P/S)変換回路である。図7は送信部におけるGIの挿入と受信部におけるその除去によってOFDMが電波伝搬路で生じる遅延分散の影響を除去する仕組みを図示している。
【0005】
OFDMの動作については文献[1]に詳述されているのでここではその概略を述べる。送信部においては送信データ列を回路11のS/P変換によりN(自然数)並列化してFFT回路12に入力する。FFT回路12のN点の出力はGI挿入回路13において図示するごとくG(自然数)個のGIサンプルが加えられて全体でN+G個の標本のブロックを構成しGI部分から順に読み出されて出力される。
受信部においてはGI除去回路14においてシフトレジスタに読み込まれた−ブロックの標本のうち先頭のG個の標本はGIとして捨てられ残りのN個の標本がFFT回路15直列に入力される。FFT回路15の出力はP/S変換回路16により直列化されて出力される。
【0006】
上のGIの挿入と除去によりGIの時間長よりも短い電波伝搬路で生じる遅延分散の影響が除去される事は図7より明らかであろう。上のOFDM伝送は送信側のIFFTと受信側のFFTが対となって並列化された各サブチャネルが多重、分離される。上のデータ伝送速度を1/T(samples/sec)とするとGIの挿入によりRF部において伝送速度は(G+N)/N倍される。これを周波数帯域幅に換算して内部帯域幅Bi=1/T(Hz),外部帯域幅Bo=(1+G/N)・Biと呼ぶ事にする。
【0007】
従来のOFDM通信装置の別な例を図8に示す。1はチャープフィルタであり、2はミキサ、4はチャープ信号発生器、9は差動復号器である。これは文献[2],[3]の方式を示したものである。本方式の動作については後述する。
【0008】
移動通信において符号分割多元接続(Code Division Multiple Access,CDMA)方式は隣接セル間で同じ周波数を用いることができる上に移動体がセル間の境界を移動する時のハンドオーバー制御が簡単になるという特長がある。通常は時間軸上で発生した高速の擬似雑音(PN)信号を低速の送信データ信号に乗算してスペクトル拡散を行い、受信側で受信信号に上記拡散符号と同じPN信号を乗算することにより逆拡散を行い低速のデータ信号を再生する。このとき技術的な困難は受信側において拡散符号と同じPN信号のタイミング同期を達成することである。拡散符号の長さが長いほど同期確立に時間がかかる。そこで時間軸ではなく周波数軸上でスペクトル拡散のための乗算処理を行うFDM−CDMAが考案された。その送信部の構成を図10に、受信部の構成を図11に示す。21はOFDMしくはTMUX(Trans Multiplexer)等の周波数分割多重(FDM)装置である。22は上記FDM装置の第i番目のサブチャネルに+1,または−1なる値を取る符号C[i]を乗ずる事によりPN符号{C[0],C[1],,,,C[N−1]}によるスペクトル拡散を行う拡散回路である。23はOFDM受信装置またはTDUX(Trans De−multiplexer)などの周波数分割多元接続(FDM)信号のサブチャネル分離を行う受信装置である。24は各サブチャネルについて送信側と同じ拡散符号による乗算を受けた信号の総和をとる事により逆拡散を行うための加算器である。FDM−CDMAの詳細については文献[4]に譲るが、その特長は拡散符号が各サブチャネルに一対一に割り当てられているため、受信側でサブチャネル分離が確立すると直ちに逆拡散を行って通信が開始できる事である。
【0009】
従来OFDM伝送に用いられて来たのは主として前述のFFT方式であるが次の問題がある。
問題1;データの高速化に伴いFFTの演算量が大きくなる。例えばBi=10(Msamples/s)の伝送速度をN=127点FFTを用いて伝送するにはFFTの処理速度はBi・log2(N)=7Bi=70MIPSの複素乗算、即ち実乗算では280MIPS(Mega Instructions per second)が必要となる。
問題2;IFFTとFFTは全チャネルを一括処理するため個々のサブチャネルを独立に用いることができない。
上の問題1,2は少容量通信で十分な携帯型通信端末の実現を困難にする。
そこで図8に示すSAW Chirp filterを用いた方法が提案された。文献[2],[3]に示されるようにチャープフィルタとしてはSAW素子が用いられる。この方法は上の問題1,2を解決できるが受信にのみ適用でき、送信には適用できない。従って問題を半分しか解決していない。完全な問題解決には送信にも適用できる完全なチャープZ変換方式のOFDM信号伝送技術が必要である。
また前述のFDM−CDMAは周波数分割多元接続(FDM)送受信装置が前提となるが上述の問題から従来の技術では実現困難となる。
【00010】
本発明は以上の問題を解決するためにFDMチャネルの多重と分離に必要な演算量を根本的に低減する事ができ、個別のサブチャネル単位の回線割り当てが可能で受信だけでなく送信においても適用可能なOFDM通信方式を実現する目的から生まれた。またそれにより直ちにFDM−CDMA装置も実用可能となる。
【課題を解決するための手段】
【00011】
本発明のOFDM受信装置の構成を図1にその動作を図2に示す。1はチャープフィルタ、2,3はミキサ、4,5はチャープ信号発生器、6は後置波形整形フィルタである。
本発明のOFDM送信装置を図3に、その動作を図4に示す。7は初期位相設定のための移相器、8は前置波形整形フィルタである。
【00012】
本発明のOFDM受信装置の動作を図2によって詳細に説明する。この図は横軸に時間t、縦軸に周波数fを取り、その中で信号の所在を線で表すt−f図である。先ず受信信号はFDM信号である。そのうちのサブチャネルkの信号は周波数fkなる位置でブロック時間Tsだけ所定の正弦波が持続するので横軸に平行な線分で表示される。矢印の根元がブロックの始まりであり、矢の部分が終わりである。これらがk=0.1.2.,,,N−1のN個合わさったのが受信OFDM信号である。次のブロックでは次の信号が継続するがここでは各部の動作の説明のために一つのブロックの入力信号のみに着目して記述する。
第一チャープ信号は各ブロックタイミングの初めに所定の低い開始周波数から時間tに比例して高い方向に周波数が変化しブロックの終わりのタイミングで最高周波数に到り、次のブロックの始まりで再び開始周波数に戻る。周波数が上がる方向に変化するのでこれをUp Chirpという。
第一ミキサ2において受信FDM信号は第一チャープ信号と乗算され周波数加算されるため第一ミキサ2の出力信号はすべてのサブチャネルが一斉にUp Chirpされ、チャープフィルタ1に入力される。ここでチャープフィルタ1は第一チャープ信号とは逆特性のDown Chirp特性を持っている。即ちそのインパルス応答は先に高周波成分が出力され、時間に比例して出力周波数が低くなるものである。言い換えればチャープフィルタ1は高周波に対する群遅延(Group Delay)が小さく低周波になるほど群遅延が大きい分散遅延線フィルタである。周波数変化に対する群遅延の変化は一定であり、その比μ=Δf/Δtをチャープ率と呼ぶ。今の場合第一チャープ信号のチャープ率はμ1=Bo/Tsであり、チャープフィルタ1のチャープ率はμf=−Bo/Tsである。
チャープフィルタ1の内部においては早く入力された低周波ほど大きな遅延が生じ、前述の正負のチャープ率が打ち消しあってチャープフィルタ1の出力において各サブチャネルは時間的に分離された信号、即ちTDM(Time Division Multiplex)信号に変換される。
上記TDM信号は図2に示すように全体的にDown Chirpされているのでチャープ率μ2=μfを有する第二チャープ信号発生器の出力により第二ミキサ3により周波数減算を行えばすべてのTDM信号が同一周波数に変換される。
なお上の場合はチャープフィルタ1がDown chirp,第一チャープ信号がUp chirpの場合を示したがchirp率の極性が反対の場合でも同様の動作が得られる。
【00013】
ここで第二ミキサ3の出力における各TDM信号の帯域幅はBoである。TDM信号間の時間間隔はもとのFDM信号の周波数間隔Δf=Bo/Nがチャープ率μ=Δf/Δt=Bo/Tsにより時間間隔に変換されるのであるからΔt=Δf/μ=Ts/Nとなる。即ちブロック時間Tsの中で均等に各信号パルスが分布する。
【00014】
次に後置波形整形フィルタ6により不要な周波数部分を除去する。それはGI(Guard Interval)の部分、即ち受信信号の各ブロックの始めの部分である。ここで受信信号のGI部分はブロック時間長Tsのうち最初のTg=G/(G+N)・Tsである。それは後置波形整形フィルタ6の入力においては各TDM信号の低周波部分の帯域Bg=G/(G+N)・Boに相当する。この部分を除去すると後置波形整形フィルタの出力において得られる信号は帯域幅がBi=N/(G+N)・Boの信号となる。
【00015】
後置整形フィルタ6の出力信号の時間波形はフーリエ逆変換により
v(t)=[−Bi/2,Bi/2]∫e^(j2πf・t)df=Bi・sin(πBi・t)/(πBi・t)となる。この波形はt=0でv(0)=Bi,t=+n/Bi,−n/Bi(n=1,2,3,,,,)においてv(t)=0となる。ところがOFDM信号を発生するN点EFTの性質からBi.Ts=Nであるから1/Bi=Ts/N=Δtとなる。即ち後置波形整形フィルタの出力において各TDM信号は相互に干渉がゼロとなり、各サブチャネルが独立に分離される。ここで用いた後置波形整形フィルタの周波数特性を図12に示す。
【00016】
上で用いた特性のフィルタの他に一般的にロールオフ率αのナイキスト特性を用いた後置波形整形フィルタの構成を図13に示す。実は図12の特性はロールオフ率が0となる特殊な場合として一般的なナイキスト特性に含まれている。また図13に示す直線ロールオフ型の他にもRaised Cosine等の多種多様なナイキスト特性が存在するが何れの型を用いても同様の特性が得られる。
図13に示すナイキスト特性を用いると後置波形整形フィルタの出力は次式で与えられる。
v’(t)=Bi・sin(πBi・t)/(πBi・t)・sin(α・πBi・t)/(α・πBi・t)
=v(t)・sin(α・πBi・t)/(α・πBi・t)
となる。すなわちロールオフ率0の場合の出力波形v(t)に更にsin(x)/x(x=απBi・t)なる抑制がかかる特性になる。ここでt=0でv’(0)=Bi,t=+n/Bi,−n/Bi(n=1,2,3,,,,)においてv’(t)=0となるOFDMの直交条件は全く同じく満たされている。更にTDM波形は時間tに対して1/t^2の形で減衰する。即ちロールオフ率が0の場合の1/tに比べて遥かに速やかに減衰するため、TDM信号の符号間干渉を大幅に低減する事ができる。
【00017】
本発明のOFDM送信装置の構成と動作を図3と第四4によって説明する。チャープフィルタ1からチャープ信号発生回路5までの回路と動作は前述の受信装置と同様である。
まず初期位相設定回路7について説明する。OFDM送信装置の出力信号はある一つのブロック内について見ると y(t)=[k=O,4N−1]ΣC(k)・e^(j2π・kΔf・t) (O<t<Ts)となる。ここでΔf=Bo/Nである。即ち第kチャネルは周波数k・Δfの位置に送信される。ここで既

ルが位相0に揃わなくてはならない。
すなわちC(k)・e^(j2π・kΔf・Tg)=1,故にC(k)=e^(−j2π・kΔf・Tg)なる初期位相設定を行う必要が生じる。次に前置波形整形フィルタ8は図4に示すように信号を帯域幅Boに整形する。入力信号がBoよりも充分広帯域である、即ち時間的には充分短いパルスである時には前置波形整形フィルタは図14に示すような帯域幅Boの矩形フィルタとなる。
【00018】
ここで前述の受信装置の後置波形整形フィルタをナイキスト特性にする場合に関連して送信装置の前置波形整形フィルタをもナイキスト特性にする事ができる。特に送信と受信装置のフィルタを整合させて全体としてナイキスト特性を持たせる時に最良の信号検出特性を得る事ができる。この時各波形整形フィルタは√ナイキスト特性に設定する。図15に直線型ナイキスト特性の√フィルタの周波数特性を示す。総合特性として1/2になる周波数(ナイキスト周波数)において√ナイキストフィルタの特性は1/√(2)となる。実際の運用においては送受信フィルタを整合させるために受信部において正確なタイミングの再生が必要となる。
【00019】
ここで本発明とSAWチャープフィルタを用いる図8に示す従来のOFDM受信装置との違いを説明する。この公知例は文献[2],[3]によるものである。図9において実線は本発明、点線は公知例の動作を示す。同図に示すように本発明と公知例の違いは次の諸点にある。
(1)第一のチャープ信号は本発明においては0<t<Tsの全区間において動作するのに対して公知例ではTg<t<Tsの区間(Tu)のみにおいて動作する。
(2)周波数掃引幅は本発明も公知例も同じくBoである。従ってチャープ率は本発明がBo/Tsであるのに対して公知例ではBo/(Ts−Tg)となり本発明より大きくなる。
(3)チャープフィルタの出力において本発明はブロック全体0<t<Tsに亘って均等にTDM信号が出現するのに対して公知例ではGIの時間を除いたTg<t<Tsの部分にしかTDM信号が現れない。またTDM信号の時間間隔はチャープ率の大きさに逆比例して本発明よりも間隔が短くなる。
(4)公知例では本発明の後置波形整形フィルタは想定されていない。即ちOFDMのGI部の除去が公知例では第一チャープ信号によって時間軸上で行われるのに対して本発明では前述の後置波形整形フィルタによって周波数軸上で行われる点が根本的に異なる。
(5)以上より公知例の設計思想ではOFDMの送信装置が発想できないのは明らかである。
(6)当然ながら送受で整合したナイキスト型の信号伝送は公知例の方法では不可能である。
(7)更に実用上の違いは公知例では同じシステム内で異なるGIの比率のOFDM信号を受信する事はできないが、本発明においては後置波形整形フィルタの切り替えによって異なるGI比率のOFDM信号の受信が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【00020】
本発明は次世代高速移動通信に適用可能である。移動通信は基地局を中心とする一つの地域(セル)に存在する利用者端末に対して無線通信機能を提供する星状網が一般的な構成である。基地局から送信される下り回線信号はすべての移動端末によって受信される。その信号は前述のNチャネルが周波数多重されたOFDM信号である。移動端末は下り回線OFDM信号を受信して回線同期を確立すると共に通信時には自局あての信号を受信する。移動端末から基地局への上り回線は通信を要求する端末に対して通常−または少数のサブチャネルを割り当てるOFDMA方式が一般的である。OFDMA回線は全体としてはOFDMに等価な信号となるように基地局と移動局が制御信号を交換してタイミング同期を行う。移動端末から高速データ通信を行う事も多数またはすべてのサブチャネルを割り当てる事によって実行できる。
【00021】
本発明のOFDM信号伝送方式は次のような形態の実施が可能となる。
(1)基地局も移動局も共に本発明のOFDM送信及び受信装置を用いる事により装置規模を小型化、低電力化できる。
(2)特に移動局は本発明により、携帯端末が実現可能となる。
(3)本発明のチャープZ変換回路は受信も送信も同じ回路を用いる事ができるので、TDD通信方式(基地局と移動局が送受の時間を交互に交代するSimplex方式)が採用されるシステムでは端末は更に小型化が可能となる。
(4)基地局の近傍に存在する移動局は多数のサブチャネルを割り当てて高速通信を行い、遠方の移動局には一つ、もしくは少数のサブチャネルを割り当ててチャネル当たりの送信電力を高めて伝搬損失を補い安定な通信を行う事ができる。即ち通信量に応じた柔軟なチャネル割り当てが可能である。
(5)またOFDMのサブチャネルを幾つかのグループに分け、基地局の近傍にいる移動局のグループにはGIの時間比を小さくして通信速度を上げ、遠方にいる移動局のグループには大きな時間比のGIを設定して伝搬路で生じる遅延分散の影響を除去する事ができる。
即ちGIの時間比率を柔軟に設定できる。
(6)本発明は送受OFDM機能を有する携帯端末の実現によってFDM−CDMAが可能となる。FDM−CDMAは近隣のセルにおいて同一周波数の使用を可能にしてシステム全体としての通信容量を上げる事ができる。更には端末がセル間を移動する場合にソフトハンドオフが可能になるという特長に加えてFDM−CDMAは初期同期補足の問題が無いので特に有効である。
(7)更にはOFDM通信とFDM−CDMA通信の混在共用が可能である。即ちFDM−CDMA信号がOFDM信号よりも充分低電力であればOFDM信号に大した劣化を与えない。またFDM−CDMA信号は受信部における逆拡散により処理利得の分C/Iを改善して安定に通信を行う事ができる。例えばサブチャネル数N=1,000の場合、処理利得は30dBであるから基地局における受信端でOFDMに対してFDM−CDMAの電力を−20dBに設定すればFDM−CDMAが10台以下ならば相互に大した劣化を生ずる事無く混在共用が可能となる。具体的には基地局の近くの端末はOFDMで遠方、特に隣接セルとの境界付近にいる端末はFDM−CDMAで通信を行う事ができる。
(8)OFDMとFDM−CDMAの共用性を活かして地上のセルラー通信と移動体衛星通信の共用が可能となる。既存の移動体衛星通信に対してFDM−CDMAにより充分低い電力で送信すれば既存のシステムに性能劣化を生ずる事なく通信が可能となる。
(9)以上より、基地局の近傍ではOFDMにより高速通信を行い、基地局の遠方ではFDM−CDMAによる遠方通信を行い、更に遠方の地上通信網の範囲を越える場所では移動体衛星通信を行う携帯型の汎用移動通信網が実現可能となる。
【発明の効果】
【00022】
本発明により次の効果が得られる。
(1)直交周波数多重(OFDM)信号の受信及び送信装置の小型化が可能となる。
(2)特に受信ばかりでなく送信も可能なOFDM移動端末が実現可能となる。
(3)TDDシステムにおいてはチャープZ変換回路の送受共用により更に小型化が可能となる。
(4)従来のOFDM信号受信においてナイキストフィルタを用いる事により符号間干渉を低減できる。即ち従来のOFDMシステムと互換性を保ち、同時に大幅な特性改善が可能である。
(5)OFDM送信と受信装置の波形整形フィルタの整合により最適のS/N特性の伝送方式を実現できる。即ちOFDMシステムを理論的最良特性を実現するように改良する事も可能である。
(6)基地局からの距離や所要伝送速度に応じて移動局毎の柔軟なチャネル割り当てが可能である。即ちチャネル単位の回線運用が可能である。
(7)基地局からの距離に応じたグループ分けにより異なるGIを設定する事ができる。
(8)送受OFDM機能を有する携帯端末の実現によってFDM−CDMAが可能となる。
(9)OFDM通信とFDM−CDMA通信の混在共用が可能であり、両者の利点を活用できる。
(10)更には地上のセルラー通信と移動体衛星通信を共用する携帯型の汎用移動通信が実現可能となる。
【00023】
引用文献
[1]市吉 修“次世代高速移動通信へのTMUXの応用”
電子情報通信学会 信学技報IEICE Technical Report SAT 2008−11(2008−7)pp25−30
[2]M.Heumer,A.Koppler,C.C.W.Ruppel,L.Reindl,A.Sprinfer,R.Weigel,
“SAW BASED CHIRP FOURIER TRANSFORM FOR OFDM SYSTEMS”
1999 IEEE Ultrasonics Symposium pp373−376
[3]M.Heumer,C.C.W.Ruppel,L.Reindl,A.Sprinfer,R.Weigel,
“A NEW SAW BASED OFDM RECEIVER CONCEPT”
0−7803−5135−5/99/$10.00(c)1999 IEEE
[4]市吉 修“FDM−CDMA送信方法、FDM−CDMA受信方法及びそれらの装置”
特許出願2000−138181
[5]モバイルITフォーラム 4G技術調査報告書(Ver.1.1)
モバイルITフォーラム 第四世代モバイル部会 システム専門委員会
システムインフラストラクチャWG
【図面の簡単な説明】
図1は本発明のOFDM受信装置の構成を示す。1はチャープフィルタ、2,3はミキサ、4,5はチャープ信号発生器、6は後置波形整形フィルタである。
図2は図1の装置の動作を示す。
図3は本発明のOFDM送信装置の構成を示す。7は初期位相設定を行う移相器、8は前置波形整形フィルタである。
図4は図3の装置の動作を示す。
図5は従来のOFDM送信装置の構成を示す。11は直列信号から並列信号への変換を行うS/P変換器、12はN点逆高速フーリエ変換器(IFFT),13はGI(Guard Interval)挿入回路である。
図6は従来のOFDM受信装置の構成を示す。14はGI除去回路、15は高速フーリエ変換(FFT)回路、16は並列信号を直列に変換するP/S変換器である。
図7はGIの挿入と除去により多重伝搬路で生じる分散遅延の影響を除去する機構を図説する。
図8はSAW Chirp filterを用いるOFDM受信装置の従来例の構成を示す。9は差動復号器である。
図9は図8に示す従来法と本発明の違いを示す。
図10はFDM−CDMA送信装置の構成を示す。21はOFDM送信装置やTMUX(Trans Multiplexer)などの周波数分割多重(FDM)装置である。22は擬似雑音信号{C[i];i=0,1,2,,,,N−1}の各符号の乗算を行う符号拡散回路である。
図11はFDM−CDMA受信装置の構成を示す。23はOFDM受信装置やTDUX(Trans Demultiplexer)などのFDM信号分離装置である。24は加算器であり擬似雑音信号{C[i];i=0,1,2,,,,N−1}の各符号の乗算を行う乗算回路22と共に受信の符号逆拡散回路を構成する。
図12は本発明のOFDM受信装置の後置波形整形フィルタの特性としてロールオフ率0の場合の周波数特性を示す。
図13は後置波形整形フィルタとして有限なロールオフ率αを用いる場合の周波数特性を示す。
図14は本発明のOFDM送信装置によって従来と同じOFDM信号を発生する場合の前置波形整形フィルタの周波数特性を示す。
図15は本発明のOFDM送信装置と受信装置間で整合型のナイキスト波形伝送を行う場合の波形整形フィルタの√ナイキスト周波数特性を示す。
【符号の説明】
1はチャープフィルタ、2,3はミキサ、4,5はチャープ信号発生器、6は後置波形整形フィルタである。
7は初期位相設定を行う移相器、8は前置波形整形フィルタである。9は差動復号器である。
11は直列信号から並列信号への変換を行うS/P変換器、12はN点逆高速フーリエ変換器(IFFT),13はGI(Guard Interval)挿入回路である。
14はGI除去回路、15は高速フーリエ変換(FFT)回路、16は並列信号を直列に変換するP/S変換器である。
21はOFDM送信装置やTMUX(Trans Multiplexer)などの周波数分割多重(FDM)装置である。22は擬似雑音信号{C[i];i=0,1.2,,,,N−1}の各符号の乗算を行う符号拡散回路である。
23はOFDM受信装置やTDUX(Trans Demultiplexer)などのFDM信号分離装置である。24は加算器であり擬似雑音信号{C[i];i=0,1,2,,,,N−1}の各符号の乗算を行う乗算回路22と共に受信の符号逆拡散回路を構成する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交周波数分割多重(OFDM)信号を受信してFDM/TDM変換を行い、上記OFDM信号の各チャネル信号を時間軸上に時分割多重(TDM)信号列として得る事を目的として、時間に比例して周波数が一定のチャープ率(μ)で変化する正弦波を一定時間(Tf)発生するインパルス応答を有するチャープフィルタと外部より加えられる開始信号によって上記チャープフィルタと同じ変化速度で逆方向に周波数が変化する(チャープ率が−μ)正弦波を発生する第一のチャープ信号発生回路と外部より加えられる開始信号によって前記チャープフィルタと同じチャープ率の正弦波を発生する第二のチャープ信号発生器を有し、前記受信OFDM信号と前記第一のチャープ信号発生回路の出力との乗算を行う第一のミキサを有し、上記第一のミキサの出力を前記チャープフィルタに入力し、上記チャープフィルタの出力と前記第二のチャープ信号発生器の出力との乗算を行う第二のミキサを有し、上記第二のミキサの出力を受けて所定の帯域制限を行う後置波形整形フィルタを有し、上記後置波形整形フィルタの出力において前記目的の時間軸上に分離されたチャネルのTDM信号列を得る事を特徴とするOFDM受信装置
【請求項2】
時分割多重(TDM)信号列を受けてTDM/FDM変換を行い、上記TDM信号の各チャネル信号が周波数軸上に直交周波数分割多重されたOFDM信号を得る事を目的として、前記チャープフィルタと、上記チャープフィルタと逆極性のチャープ率の第一のチャープ信号発生器と、前記チャープフィルタと同極性のチャープ率を有する第二のチャープ信号発生器を有し、前記TDM信号列を受けて上記各信号に所定の初期位相を与える移相器と上記移相器の出力を受けて所定の信号を発生する前置波形整形フィルタを有し、上記前置波形整形フィルタの出力と前記第一のチャープ信号発生器の出力との乗算を行う第一のミキサと、上記第一のミキサの出力を前記チャープフィルタに入力し、上記チャープフィルタの出力と前記第二のチャープ信号発生器の出力との乗算を行う第二のミキサを有し、上記第二のミキサの出力において目的とするOFDM信号を得る事を特徴とするOFDM送信装置。
【請求項3】
請求項1において前記後置波形整形フィルタとしては前記OFDMのGI(Guard Interval)に相当する周波数部分を除去するために所定のロールオフ率(0〜100%)のナイキスト特性のフィルタを用いる事。
【請求項4】
請求項2において前記前置波形整形フィルタとしては前記OFDM信号の全帯域に亘って平坦な特性、もしくは所定のロールオフ率(0〜100%)のナイキスト特性のフィルタを用いる事。
【請求項5】
請求項3,4において前記OFDM送信装置と受信装置においてナイキスト伝送方式を用いる場合には前記前置波形整形フィルタと後置波形整形フィルタは整合条件を満足するように各々ルートナイキスト特性の周波数特性を有する事。
【請求項6】
送信部においては請求項2において同一データを前記TDM信号の各信号に入力し、上記TDMされた各信号にその順番iに応じた+1,または−1の値を有する拡散符号C[i]を乗じることにより拡散動作を行い、上記拡散されたTDM信号列を前述の方法でOFDM信号に変換して送信し、受信部においては請求項1に記述されたFDM/TDM変換によって出力として得られる前記出力TDM信号の第i番目の信号に前記拡散符号C[i]を乗じ、上記乗算結果をすべてのiについて加算することにより逆拡散動作を行うFDM−CDMAシステム。