説明

チューニング支援装置およびプログラム

【課題】演奏全体に亘っての各音の高低を直感的に把握することを可能にする。
【解決手段】画像出力部と、曲の演奏または歌唱にて発音される各音のピッチを検出するピッチ検出部と、ピッチ検出部により検出されるピッチの出現頻度を集計してヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、ピッチ検出部により検出される各音のピッチについて複数の模範ピッチのうちの何れと最も近いかを特定することにより、各音のピッチをそれら複数の模範ピッチの何れかに対応するグループに分類する分類部と、分類部により分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとの関係を示す画像を画像出力部に出力させる評価部とを有することチューニング支援装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランペットなどの管楽器のチューニングを支援する技術に関し、特に、演奏中に行うチューニングを支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トランペットなどの管楽器においては、特定の音のピッチが正しい値となるようにチューニングが行われても、他の音が正しピッチ(以下、模範ピッチ)で発音されるとは限らない。このように、チューニングを行った後においても模範ピッチからのずれがある音については、例えば、バルブのスライドの長さを変えたり、唇への力の入れ具合を変えたり、吹き込む息の勢いを変えたりするなどの調整作業を行いつつ演奏するなど、模範ピッチからのずれが小さくなるように留意する必要がある。このような調整作業を適切に行うためには、チューニングを行った後においても模範ピッチからのずれがある音について、その模範ピッチからのずれの程度(以下、ずれ量)を把握しておく必要がある。このようなことを可能にするためには、例えば、特許文献1に開示された技術を利用することが考えられる。特許文献1には、模範音の音程(つまり、ピッチ)と演奏音(または歌唱音)の音程とを音程検出手段によって検出し、その両者について、音程を縦軸、時間を横軸とした音程座標を音程座標計算手段によって計算し、模範音についての音程座標軌跡と演奏音についての音程座標軌跡とを音程座標軌跡表示手段に表示させることにより、両者の音程の差を演奏者(または歌唱者)に把握させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開平8−123454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術では、模範音と演奏音(または歌唱音)のピッチ差がリアルタイム表示されるため、その表示内容に絶えず注意を払わねばならないことに加えて、演奏や歌唱全体に亘っての各音のピッチのずれを一括して直感的に把握することが難しいといった問題がある。
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、演奏や歌唱全体に亘っての模範ピッチからのずれを直感的に把握すること可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、画像出力手段と、曲の演奏または歌唱にて発音される各音のピッチを検出するピッチ検出手段と、前記ピッチ検出手段により検出されるピッチの出現頻度を集計してヒストグラムを生成するヒストグラム生成手段と、前記ピッチ検出手段により検出される各音のピッチについて複数の模範ピッチのうちの何れと最も近いかを特定することにより、前記各音のピッチを前記複数の模範ピッチの何れかに対応するグループに分類する分類手段と、前記分類手段により分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとの関係を示す画像を前記画像出力手段に出力させる評価手段とを有することを特徴とするチューニング支援装置、およびコンピュータ装置を上記各手段として機能させること特徴とするプログラムを提供する。このようなチューニング支援装置およびプログラムによれば、曲の演奏または歌唱において何れかの模範ピッチの音として演奏または歌唱された各音の出現頻度の分布とその模範ピッチとの関係を示す画像が画像出力手段によって出力される。このため、かかるチューニング支援装置またはプログラムのユーザは、上記画像出力手段(または画像出力装置)によって出力される画像から、模範ピッチとその模範ピッチの音として演奏または歌唱された音の分布との関係を把握することができる。
【0005】
より好ましい態様の上記チューニング支援装置においては、前記評価手段は、前記分類手段により分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとのずれ量を算出し、前記模範ピッチの各々についての前記ずれ量を表すグラフの画像を、当該分布と当該模範ピッチとのずれを示す画像として前記画像出力手段に出力させることを特徴とする。かかる態様によれば、チューニング支援装置のユーザは、上記模範ピッチの各々について、その模範ピッチを有する音として演奏または歌唱された各音の分布とのずれ量を上記グラフの画像から一括して把握することができる。
【0006】
さらに好ましい態様のチューニング支援装置においては、前記ピッチ検出手段は、曲の演奏または歌唱にて発音される各音のピッチを検出することに加えて、各音の発音時刻を検出し、前記ヒストグラム生成手段は、評価対象として指定された時間領域にて発音された音のピッチまたは評価対象として指定された周波数範囲に属するピッチのみを前記出現頻度の集計対象とすることを特徴とする。この態様においては、上記ユーザは、評価対象の時間領域または周波数範囲を指定し、その時間領域にて発音された音またはその周波数範囲に属する音についてのみ模範ピッチからのずれ量を把握することができる。
【0007】
また、別の好ましい態様のチューニング支援装置においては、前記評価手段は、前記分類手段により分類された各グループのうち、評価対象として指定された1または複数のグループの各々について、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとのずれ量を算出し、所定の形状を有するマークに前記ずれ量に応じた編集を施して得られるマークの画像を、当該分布と当該模範ピッチとのずれを示す画像としてそのグループ毎に前記画像出力手段に出力させることを特徴とする。かかる態様のチューニング支援装置のユーザは、評価対象として指定したグループについてのみ模範ピッチからのずれ量を上記画像出力手段により出力されるマークの態様から把握することができる。
【0008】
さらに、好ましい態様のチューニング支援装置においては、前記評価手段は、前記ずれ量に応じた編集とは異なる編集を前記出現頻度の分布の広がりに応じて前記マークに施すことを特徴とする。この態様のチューニング支援装置にユーザは、評価対象として指定したグループについての模範ピッチからのずれ量を画像出力手段により出力されるマークの態様から把握することができるとともに、上記分布の広がり(すなわち、ピッチのばらつき)も把握することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、演奏や歌唱全体に亘っての模範ピッチからのずれを直感的に把握することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態にチューニング支援装置10の電気的な構成例を示す図である。図1に示すように、チューニング支援装置10は、制御部110、収音部120、操作部130、画像出力部140、記憶部150、および、これら構成要素間のデータ授受を仲介するバス160を有している。
【0011】
制御部110は、例えばMPU(Micro Processing Unit)であり、記憶部150に記憶されている制御プログラム151aにしたがって作動することによりチューニング支援装置10の制御中枢として機能する。上記制御プログラムにしたがって制御部110が実行する処理については後に明らかにする。
【0012】
収音部120は、例えばトランペットなどチューニング対象の楽器の演奏音をチューニング支援装置10へ入力するためのものである。図1に示すように、収音部120は、上記演奏音を収音するマイク120aと、マイク120aから出力される音信号を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル形式の音声データに変換して制御部110へ引き渡すA/D変換器120bを含んでいる。
【0013】
操作部130は、チューニング支援装置10に対する作動指示などの各種指示をユーザに入力させるためのものである。操作部130の具体例としては、複数の操作子を備えたキーボードや、マウスなどのポインティングデバイスが挙げられる。操作部130は、上記各操作子やポインティングデバイスに対して何らかの操作が為されると、その操作内容を示すデータを制御部110に引渡すことにより、その操作内容を制御部110に伝達する。
【0014】
画像出力部140は、制御部110による制御下で、チューニング作業を支援するための各種画像(図5から図7参照)を出力するものである。この画像出力部140については、液晶ディスプレイとその駆動回路で構成する態様(すなわち、画像を表示する態様)や、例えばインクジェット方式や電子写真方式などの周知の方式で印刷用紙に画像を印刷して出力する印刷装置で構成する態様が考えられる。液晶ディスプレイ等で画像出力部140を構成する態様には、その出力画像を利用してGUI方式のユーザインタフェイスを提供することが可能になるといった利点があり、一方、印刷装置で画像出力部140を構成する態様には、チューニング作業を支援するための各種画像が印刷用紙に印刷されて出力されるため本番演奏中に行う調整作業を検討する際の資料として便利であり、また保存に適するといった利点がある。
【0015】
記憶部150は、図1に示すように、例えばFlashROMなどの不揮発性記憶部151と、例えばRAMなどの揮発性記憶部152とを含んでいる。不揮発性記憶部151には、本発明に係るチューニング支援装置に特徴的な処理を制御部110に実行させる制御プログラム151aと、この制御プログラム151aの実行過程で参照される模範音テーブル151bとが予め格納されている。一方、揮発性記憶部152は、上記制御プログラムを実行する際のワークエリアとして制御部110によって利用されるものである。上記ワークエリアとしては、制御プログラム151aをロードするためのプログラム実行領域(図示省略)の他に、図1に示す時系列データ記憶領域152aや出現頻度テーブル記憶領域152bが挙げられる。これらワークエリアの使用法については後に明らかにする。
【0016】
模範音テーブル151bには、例えば平均律などの所定の音律における各音のピッチ(すなわち、模範ピッチ)を示す模範ピッチデータが格納されている。この模範音テーブル151bの格納内容は、収音部120により収音される各音について、その音のピッチが上記模範ピッチの何れに最も近いかを特定することにより、上記収音される各音をグループ分けする際に利用される。模範ピッチデータとしては、平均律における音のピッチを示すデータの代わりに、例えば純正律などの他の音律におけるピッチを示すデータを用いても勿論良い。また、複数種の模範音テーブル(例えば、平均律における各音のピッチを示す基準ピッチデータが格納された第1の模範音テーブルと、純正律における各音のピッチを示す第2の模範音テーブル)を不揮発性記憶部151に予め格納しておき、その何れを用いてチューニング支援を行うかをユーザに選択させても良い。また、図2に示すように、各模範ピッチデータに対応付けてその模範ピッチを有する音の音名を示す音名データを模範音テーブル151bに格納しておけば、上記グループ分けを行うことによって、収音部120により収音される音の各々について、何れの音名を有する音として演奏されたものであるのかも特定される。なお、本実施形態では、制御プログラム151aとは別個に模範音テーブル151bを不揮発性記憶部151に格納したが、制御プログラム151aに模範音テーブル151bを埋め込んでおいても勿論良い。
【0017】
図3は、制御プログラム151aにしたがって制御部110が実行する処理の一例を示す図である。この制御プログラム151aは、例えば、チューニング支援装置10の電源(図示省略)が投入されたことを契機として、不揮発性記憶部151から揮発性記憶部152内のプログラム実行領域にロードされ、その実行が開始される。図3に示すように、制御部110は、制御プログラム151aにしたがってピッチ抽出処理310、ピッチグラフ生成処理320、ヒストグラム生成処理330、分類処理340および評価処理350の5つの処理を実行する。
【0018】
ピッチ抽出処理310は、収音部120からの音データの引渡しに同期して実行される処理である。このピッチ抽出処理310は、収音部120から引渡される音データを解析し、その音データの表す音のピッチを検出する処理である。図4は、所定のピッチPを有する単音として演奏または歌唱される音のピッチの時間変動の様子を示すグラフである。図4に示すように、上記演奏音(または歌唱音)のピッチは、一般に、その立ち上がり区間および減衰区間においては一定ではなく、模範ピッチとの比較には適さない。このため、ピッチ抽出処理310においては、上記立ち上がり区間及び減衰区間を除いた区間(図4に示す安定区間)のみを対象としてピッチの検出が行われ、そのピッチの値を示すピッチデータが生成される。なお、ピッチの検出手法としては、例えば自己相関値算出法などの周知の手法を用いれば良い。また、ピッチ抽出処理310においては、例えばリアルタイムクロック(図示省略)などを利用して上記音データの受け取り時刻を取得し、上記音データの表す音の発音時刻をその受け取り時刻から換算してその発音時刻を示すタイムスタンプを生成する処理も行われ、上記ピッチデータに上記タイムスタンプを付与して時系列データ記憶領域152aに蓄積する処理も実行される。
【0019】
ピッチグラフ生成処理320は、時系列データ記憶領域152aに蓄積されたピッチデータをそのタイムスタンプの若い順に読出し、そのピッチデータの表わすピッチとそのタイムスタンプの表わす時刻とを座標値としてピッチグラフ(図5(a)参照)を生成し、そのピッチグラフの画像を画像出力部140に出力させる処理である。なお、ピッチグラフの生成手法としては、例えば特許文献1に開示された手法などの周知の手法を用いれば良い。このピッチグラフ生成処理320をどのようなタイミングで実行するかについては、画像出力部140をどのように構成するのかに関連して種々の態様が考えられる。例えば、画像出力部140を液晶ディスプレイおよびその駆動回路で構成する場合には、ピッチ抽出処理310による時系列データ記憶領域152aへのピッチデータの書き込みに同期させてピッチグラフ生成処理320を実行する態様、操作部130を介して実行指示を与えられたことを契機としてピッチグラフ生成処理320を実行する態様、および、演奏終了を検出したこと契機としてピッチグラフ生成処理320を実行する態様の3種類が考えられる。なお、演奏終了の検出手法としては、収音部120から引渡される音データが無音を示すものである状態が一定時間以上継続した場合に演奏終了と判定するなどの手法が考えられる。一方、画像出力部140を印刷装置で構成する場合には、時々刻々変化するピッチグラフを一枚の印刷用紙にリアルタイムで印刷することはできないため、操作部130を介して実行指示を与えられたこと、または、演奏終了を検出したことを契機としてピッチグラフ生成処理320を実行する態様のみが考えられる。このように、ピッチグラフ生成処理320をどのようなタイミングで実行するのかについては、画像出力部140の構成との関連で適宜定めれば良い。
【0020】
ヒストグラム生成処理330は、時系列データ記憶領域152aに蓄積されたピッチデータを読み出し、各ピッチデータをそのピッチの昇順にソートした後に各ピッチの出現頻度を集計して出現頻度テーブル記憶領域152b内の出現頻度テーブル300(図3参照)へ書き込むとともに、その出現頻度テーブル300の格納内容にしたがって各ピッチの出現頻度を表すヒストグラム(図5(b))を生成し、そのヒストグラムの画像を画像出力部140に出力させる処理である。図3に示すように出現頻度テーブル300には、演奏中に発音された各音のピッチ(すなわち、各ピッチデータの表すピッチ)に対応付けてその出現頻度を示すデータが書き込まれる。なお、上記ヒストグラムの生成対象は、全ての演奏音であっても良く、操作部130に対する操作により評価対象として指定された音域(すなわち、周波数範囲)に属する演奏音のみ、または、同評価対象として指定された時間領域に属する演奏音のみであっても良い。例えば、評価対象の音域が指定された場合には、時系列データ記憶領域152aに蓄積されたピッチデータのうち、その音域に属するピッチを表すピッチデータのみを集計して上記ヒストグラムの生成を行えば良く、また、評価対象の時間領域が指定された場合には、その時間領域内の時刻を表すタイムスタンプが付与されたピッチデータのみを集計して上記ヒストグラムの生成を行えば良い。なお、ヒストグラム生成処理330の実行タイミングについても、前述したピッチグラフ生成処理320と同様、画像出力部140の構成に応じて適宜定めれば良い。
【0021】
分類処理340と評価処理350とは、操作部130を介して実行指示を与えられたこと、または演奏終了を検出したことを契機として実行される。この分類処理340は、ヒストグラム生成処理330にてヒストグラムの生成対象とされたピッチデータの各々について、模範音テーブル151bに格納されている各模範ピッチデータの表すピッチ(すなわち、模範ピッチ)の何れに最も近いかを特定することにより、それらピッチデータを上記複数の模範ピッチの各々に対応するグループの何れかに分類する処理である。ヒストグラム生成処理330にてヒストグラムの生成対象とされたピッチデータ(すなわち、出現頻度テーブル300に格納されている各ピッチデータ)を上記各グループに分類する手法としては種々のものが考えられる。例えば、出現頻度テーブル300に格納されているピッチデータの各々について、当該ピッチデータの表すピッチと上記複数の模範ピッチの各々との差を算出し、その差の絶対値が最小になる模範ピッチに対応するグループに分類する手法や、上記複数の模範ピッチの各々を中心とした互いに重なり合わない周波数範囲の何れに上記ピッチデータの表すピッチが属するかを特定することにより分類する手法などである。そして、出現頻度テーブル300(図3参照)に格納されているピッチデータの各々について、そのピッチデータが属するグループのグループ識別子を出現頻度テーブル300の該当領域へ書き込むことにより上記グループ分けは完了する。ここで、上記グループ識別子としては、ピッチデータの表すピッチに最も近いと特定された模範ピッチを示す模範ピッチデータを用いる態様や、模範音テーブルに前述した音名データが格納されている場合には、その音名データを用いる態様が考えられる。特に、グループ識別子として音名データを用いるようにすれば、出現頻度テーブルに格納されている各ピッチデータの表す音が何れの音名を有する音として演奏されたものであるのを特定することが可能になる。
【0022】
評価処理350は、分類処理340に後続して実行される処理である。この評価処理350は、分類処理340にて分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとの関係を示す画像を画像出力部140に出力させる処理である。この評価処理350の具体的な態様としては、様々なものが考えられるが、その一例としては、以下の2つの態様が挙げられる。第1の態様は、分類処理340にて分類された各グループのうちから、評価対象のグループをユーザに指定させ、当該グループ属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとのずれ量を算出し、所定の形状を有するマークに上記ずれ量に応じた編集を施して得られるマークの画像をそのグループ毎に画像出力部140に出力させる態様、すなわち、各グループについて個別評価を行う態様である。そして、第2の態様は、分類処理340にて分類された各グループについて、上記ずれ量を算出し、模範ピッチの各々についての上記ずれ量を表すグラフの画像を画像出力部140に出力させる態様、すなわち、演奏全体についての評価を行う態様である。以下、これら2つの態様の各々について詳細に説明する。
【0023】
(1:個別評価の態様)
この態様では、まず、評価対象のグループをユーザに指定させる。評価対象として指定するグループの数は1つであっても良く、2以上であっても良い。評価対象のグループをユーザに指定させる方法としては、そのグループのグループ識別子(そのグループに対応する模範ピッチの値や音名)をキー入力させる態様や、例えば、図5(a)に示すピアノロールにおいて、そのグループ識別子に対応する鍵をポインティングさせる態様が考えられる。このようにして評価対象のグループが指定されると、制御部110は、各グループ毎に、そのグループに属する音のピッチの出現頻度の分布の統計的な特徴を示す特徴量と当該グループに対応付けられた模範ピッチとの差を上記ずれ量Δを算出する。なお、上記特徴量としては、平均値(すなわち、分布の重心)を用いても良く、また、最頻出値や中央値を用いても良い。そして、制御部110は、所定の形状を有するマークに上記ずれ量Δに応じた編集を施して得られるマークの画像を評価対象として指定されたグループ毎に画像出力部140に出力させるのである。
【0024】
上記マークとしては、様々な種類の形状のものを用いることが考えられるが、ヒストグラムの概形に近似するという観点、および、ずれ量Δを判り易く表現し易いといった観点から二等辺三角形や半円形などの線対称な形状のものを用いることが望ましい。また、上記編集の態様としても、歪みの付与や平行移動、色彩の付与などの種々の態様が考えられる。図6(a)から図6(c)は、上記マークとして二等辺三角形状のものを用い、上記編集として歪みの付与を用いた場合の表示例を示す図である。ここで、歪みの付与とは上記二等辺三角形状のマークの対称性を低下させることであり、具体的には、対称軸上の頂点をその対称軸と垂直な方向に移動させることである。図6(a)から図6(c)を参照すれば明らかなように、この態様では、模範ピッチからのずれ量Δが0である場合に表示される二等辺三角形状のマーク(図6(b)参照)からの歪みの方向および大きさにより、模範ピッチからのずれ量をユーザに把握させることができる。なお、上記マークの対称軸方向の長さをそのマークに対応する音の出現頻度に応じて圧伸する編集をさらに施しても勿論良い。具体的には、上記出現頻度が高いほど上記対称軸方向の長さを長くするのである。このような編集を施すことによって、演奏全体に亘っての各音の出現頻度をユーザに把握させることができる。
【0025】
一方、図6(d)から図6(f)は、上記マークとして半円形状のものを用い、上記編集として平行移動を用いた場合の表示例を示す図である。図6(d)から図6(f)を参照すれば明らかなように、上記編集として平行移動を用いた態様においては、模範ピッチからのずれ量Δが0である場合のマークの表示位置(図6(e)参照)からの平行移動の方向とその移動量により、模範ピッチからのずれ量をユーザに把握させることができる。また、色彩の付与によりずれ量Δを表現する態様としては、ずれ量Δが0である場合にはマークとして白抜きのものを用い、ずれ量Δが正の値である場合には、第1の色(例えば、赤)を上記マークに付与し、逆にずれ量Δが負の値である場合には、上記第1の色とは異なる第2の色(例えば、青)を上記マークに付与するとともに、ずれ量Δの絶対値が大きいほど上記付与する色を濃くする態様が考えられる。
【0026】
以上説明した個別評価の態様によれば、評価対象として指定されたグループについての模範ピッチからのずれ量Δを上記マークの形状や配置位置、色彩から直感的に把握することが可能になる。なお、上記分布の広がり(例えば、標準偏差)に応じて対称軸とは垂直な方向に拡大/縮小するなどの編集を施すことにより、評価対象として指定されたグループに属する各音のピッチのばらつき具合を表現しても良い。要は、ずれ量Δを表現する態様とは異なる態様の編集を施したマークの画像を出力させることにより、評価対象のグループについての模範ピッチからのずれ量Δとそのグループに属する各音のピッチのばらつきとを同時に把握させることが可能になる。
【0027】
(2:全体評価の態様)
この態様では、まず、分類処理340にて分類された各グループについて上記ずれ量Δの算出が行われる。そして、この態様に係る評価処理350では、一方の座標で模範ピッチを表わし、他方の座標でその模範ピッチからのずれ量Δを表すグラフ(図7(a)参照)を表すグラフデータが生成され、そのグラフデータにしたがった画像を画像出力部140に出力させる処理が行われる。図7(a)に示すグラフを視認したユーザは、上記各グループについての模範ピッチからのずれ量Δを一括して把握することができる。例えば、図7(a)に示すグラフからは、特定のピッチの音Aを境にその音よりも高音側では、演奏音のピッチが模範ピッチよりも高めに、低音側では模範ピッチよりも低めにずれていることを把握できる。また、図7(b)に示すように、各グループについて、そのグループに属する各音のピッチの出現頻度の分布の広がり表す特徴量(前述した標準偏差)を算出し、その特徴量に応じた大きさのエラーバーEを付与したグラフの画像を出力することにより、演奏全体に亘っての各模範ピッチからのずれ量と、その模範ピッチの音として演奏された各音のピッチのばらつき具合とを一括して把握させるようにしても良い。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係るチューニング支援装置10によれば、演奏全体に亘っての模範ピッチからのずれを直感的にユーザに把握させることが可能になる。このため、例えば、本番演奏に先立って行われるリハーサル時に本チューニング支援装置10を使用しつつ演奏を行い、その演奏全体に亘っての模範ピッチからのずれを把握しておけば、バルブのスライドの長さや、唇への力の入れ具合、吹き込む息の勢いを変えるなどの調整作業を本番演奏中に適切に行うことが可能になる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、係る実施形態に以下に述べる変形を加えても良いことは勿論である。
(1)上述した実施形態では、トランペットについてのチューニングの支援を本発明に係るチューニング支援装置により行ったが、トロンボーンやホルンなどの他の金管楽器や、クラリネットなどの木管楽器のチューニング支援を本発明に係るチューニング支援装置により行っても良いことは勿論であり、また、歌唱音の音合わせを本発明に係るチューニング支援装置を使用して行っても良い。
【0030】
(2)上述した実施形態では、評価処理350の評価結果を表す画像の他に、ピッチグラフやヒストグラムを出力させたが、ピッチグラフやヒストグラムの出力は必ずしも必須ではないので、これらピッチグラフやヒストグラムを出力しないようにしても良く、また、ピッチグラフやヒストグラムを出力するか否かをユーザの指示に応じて切替えても良い。さらに、ピッチグラフ生成処理320で生成されるヒストグラムは、他の処理で利用されることはないため、このピッチグラフ生成処理320を実行しないようしても勿論良い。加えて、ピッチグラフ生成処理320を行わない態様や、評価対象とする時間領域の指定を行わせない態様においては、前述したタイムスタンプを付与する必要がないことは言うまでもない。
【0031】
(3)上述した実施形態では、本発明に特徴的な処理を制御部110に実行させる制御プログラムがチューニング支援装置10の記憶部150に予め格納されていた。しかし、この制御プログラムをCD−ROM(Compact Disk-Read Only memory)などのコンピュータ装置読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線を介したダウンロードにより配布しても良い。このようにして配布される制御プログラムをパーソナルコンピュータなどのコンピュータ装置に記憶させ、その制御部をその制御プログラムにしたがって作動させる。これにより、そのコンピュータ装置に本発明に係るチューニング支援装置と同一の処理を行わせることが可能になる。また、ピッチ検出処理、ヒストグラム生成処理、分類処理および評価処理の各々を実行する電子回路を組み合わせて本発明に係るチューニング支援装置を構成しても勿論良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るチューニング支援装置10の電気的構成の一例を示すブロック図である。
【図2】同チューニング支援装置10の不揮発性記憶部151に格納される模範音テーブル151bの一例を示す図である。
【図3】同チューニング支援装置10の制御部110が不揮発性記憶部151に格納されている制御プログラム151aにしたがって行う処理の流れを示す図である。
【図4】所定のピッチPを有する音として演奏または歌唱される音のピッチに時間変動の様子を示す図である。
【図5】同制御部110が制御プログラム151aにしたがって画像出力部140に出力させるピッチグラフの画像およびヒストグラムの画像の一例を示す図である。
【図6】個別評価の態様に係る評価処理350により出力される評価画像の一例を示す図である。
【図7】全体評価の態様に係る評価処理350により出力される評価画像の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10…チューニング支援装置、110…制御部、120…収音部、120a…マイク、120b…A/D変換器、130…操作部、140…画像出力部、150…記憶部、151…不揮発性記憶部、151a…制御プログラム、151b…模範音テーブル、152…揮発性記憶部、160…バス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像出力手段と、
曲の演奏または歌唱にて発音される各音のピッチを検出するピッチ検出手段と、
前記ピッチ検出手段により検出されるピッチの出現頻度を集計してヒストグラムを生成するヒストグラム生成手段と、
前記ピッチ検出手段により検出される各音のピッチについて複数の模範ピッチのうちの何れと最も近いかを特定することにより、前記各音のピッチを前記複数の模範ピッチの何れかに対応するグループに分類する分類手段と、
前記分類手段により分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとの関係を示す画像を前記画像出力手段に出力させる評価手段と
を有することを特徴とするチューニング支援装置。
【請求項2】
前記評価手段は、前記分類手段により分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとのずれ量を算出し、前記模範ピッチの各々についての前記ずれ量を表すグラフの画像を、当該分布と当該模範ピッチとのずれを示す画像として前記画像出力手段に出力させることを特徴とする請求項1に記載のチューニング支援装置。
【請求項3】
前記ピッチ検出手段は、曲の演奏または歌唱にて発音される各音のピッチを検出することに加えて、各音の発音時刻を検出し、
前記ヒストグラム生成手段は、評価対象として指定された時間領域にて発音された音のピッチまたは評価対象として指定された周波数範囲に属するピッチのみを前記出現頻度の集計対象とすることを特徴とする請求項2に記載のチューニング支援装置。
【請求項4】
前記評価手段は、前記分類手段により分類された各グループのうち、評価対象として指定された1または複数のグループの各々について、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとのずれ量を算出し、所定の形状を有するマークに前記ずれ量に応じた編集を施して得られるマークの画像を、当該分布と当該模範ピッチとのずれを示す画像としてそのグループ毎に前記画像出力手段に出力させることを特徴とする請求項1に記載のチューニング支援装置。
【請求項5】
前記評価手段は、前記ずれ量に応じた編集とは異なる編集を前記出現頻度の分布の広がりに応じて前記マークに施すことを特徴とする請求項4に記載のチューニング支援装置。
【請求項6】
コンピュータ装置を、
曲の演奏または歌唱にて発音される各音のピッチを検出するピッチ検出手段と、
前記ピッチ検出手段により検出されるピッチの出現頻度を集計してヒストグラムを生成するヒストグラム生成手段と、
前記ピッチ検出手段により検出される各音のピッチについて複数の模範ピッチのうちの何れと最も近いかを特定することにより、前記各音のピッチを前記複数の模範ピッチの何れかに対応するグループに分類する分類手段と、
前記分類手段により分類された各グループについて、当該グループに属する音のピッチの出現頻度の分布と当該グループに対応付けられた模範ピッチとの関係を示す画像を画像出力装置に出力させる評価手段と
して機能させることを特徴とするプログラム。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−75187(P2009−75187A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241847(P2007−241847)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】