説明

チューブ継手

【課題】施工作業を簡易化して迅速に行うことを可能とし、コスト低減を実現できると共に、品質の信頼性を向上させることができるチューブ継手を提供する。
【解決手段】チューブ11の一端部12にリング40を予め圧入することで、該一端部12は拡径した状態に保持される。このリング40内に継手本体20の内筒部22を挿入しつつ、前記一端部12を凹溝21の奥まで圧入した際に、外筒部23がリング40の最肉厚部41まで覆う状態となる。この状態で継手本体20に袋ナット30を螺合して、外筒部23を介してリング40の最肉厚部41が前記一端部12と共に内筒部22に押圧され、かつ、リング40によりチューブ11の屈折部12cに、袋ナット30の差込孔34の孔周縁34aが圧接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造や液晶製造を始め、医療・医薬品製造、食品加工等の各種製造工程で取り扱われる超純水や、硫酸、塩酸といったような人体に危険な薬液を含む、あらゆる流体の流路となるチューブの接続手段として用いられるチューブ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のチューブ継手はフッ素樹脂に代表される樹脂製のものが多く知られており、一般的には大別すると、図19に示した「インナーリングタイプ」と呼ばれる、チューブの内側にリングを挿入する種類と、図20に示した「フレアータイプ」と呼ばれる、チューブを拡径(フレアー)する種類が存在する。
インナーリングタイプとしては、特許文献1に記載されたものが知られており、また、フレアータイプとしては、特許文献2に記載されたものが知られている。このような各種類のチューブ継手は、それぞれ長所と短所を持ち合わせている。
【0003】
インナーリングタイプの長所としては、リングを一度チューブに挿入することで、チューブの処理が完了し、施工性に優れている点や、チューブに引っ張り荷重が負荷した際にリングが抜け防止となり引っ張り強度が高い点等である。
また、フレアータイプの長所としては、チューブと継手本体の接続部とは袋ナットにより圧接されており、隙間がないことから、流体が浸み込む可能性が低い点や、チューブを確実に拡径しないと、チューブを継手本体に取り付けることが不可能であることから、事故に繋がるようなミスを防止できる点等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−318475号公報
【特許文献2】特開平11−182751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来一般のインナーリングタイプ(図19参照)では、チューブの内側に挿入したリングの両端に、流体が浸み込みやすく、また、流体が溜りやすいという問題点があった。また、リングがチューブ内径よりも小さく変形するため、流体を移送する際の圧力を損失するという問題点もあった。
【0006】
さらに、リングをチューブの内側に挿入しない状態でも、図21に示すように、チューブを継手本体内に組み込むことが可能な形状であり、その状態を外部から確認できないため、リングをチューブ内側に挿入しなかった場合は、引き抜き抵抗が全くなくなり、事故に繋がる危険性があるという問題点もあった。
【0007】
このような従来一般のインナーリングタイプの問題点は、前述した特許文献1に記載のチューブ継手によれば解決される。しかしながら、特許文献1に記載のチューブ継手であっても、継手に振動がかかった場合や、チューブに引っ張り力が負荷した場合には、拡径リングとチューブがどうしても動いてしまう。そのため、シール性能が不安定となったり、チューブの引っ張り強度が弱まるという問題点があった。
【0008】
一方、前述した従来一般のフレアータイプ(図20参照)の他、特許文献2に記載のチューブ継手は、チューブを継手本体に取り付けるために、チューブを拡径した形状で保持する必要がある。そのため、チューブを3〜10回程拡径する動作を繰り返す必要があり、この動作にかなりの労力が必要となるため、施工性に難があるという問題点があった。また、チューブに引っ張り荷重が負荷した際に、インナーリングタイプと比較すると、引っ張り強度が弱い傾向にあるという問題点もあった。
【0009】
さらに、フレアータイプでは、インナーリングタイプと比較すると問題は小さいが、継手本体の先端部が内側に変形しており、流体を移送する際の圧力を損失するという問題点もあった。フレアータイプでは、図22に示すように、継手本体の先端部内径に傾斜角度θ2のテーパーを設けることで、チューブと継手本体の境界面に隙間が生まれないようにして、液の浸み込みや液溜りを防止していたが、図20に示すように、継手本体の先端部は、内径方向に局部的な変形を起こしていた。
【0010】
このような変形によって、流体の流れが妨げられたり、圧力損失の原因ともなっていた。しかも、変形によって、流体の流れが乱されることに起因して、マイクロバブルと呼ばれる微細な泡を発生させることもある。かかるマイクロバブルは、半導体製造工程では、半導体製品の不良を発生させる要因となるため、大きな問題点であった。
【0011】
本発明は、前述したような従来のインナーリングタイプとフレアータイプのそれぞれの問題点に着目してなされたものであり、内部に液体が滞留する事態(液溜り)や液体移送時の圧力損失を極力なくすことができ、施工を簡易化してコスト低減を実現すると共に、品質の信頼性を向上させることができ、特にリングとチューブが動くことを大幅に防止することができ、シール性能を安定させると共に、チューブの引っ張り強度を格段に高めることができるチューブ継手を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]チューブ(11)の一端部(12)を拡径しつつ該拡径した状態に保持するリング(40)を圧入し、該チューブ(11)の拡径した一端部(12)を継手本体(20,20A)に接続すると共に、該チューブ(11)を貫通させた状態で前記拡径した一端部(12)を囲む袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けることで、継手本体(20,20A)にチューブ(11)を固定するチューブ継手(10,10A)において、
前記袋ナット(30,30A)は、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)を収めるネジ孔(31)と、該ネジ孔(31)の内周に形成された雌ネジ部(32)と、該ネジ孔(31)の奥側を塞ぐ奥壁(33)と、該奥壁(33)を貫き前記チューブ(11)を貫通させる差込孔(34)とを有し、
前記継手本体(20,20A)は、前記袋ナット(30,30A)を締め付ける一端側に、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)が嵌入する環状の凹溝(21)と、該凹溝(21)の内側となり前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)が外嵌する内筒部(22)と、該凹溝(21)の外側となり前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)が内嵌する外筒部(23,23A)と、該外筒部(23,23A)の外周に形成されて前記雌ネジ部(32)が螺合する雄ネジ部(24)と、前記内筒部(22)の内側で前記チューブ(11)の内径とほぼ同じ孔径でネジ軸方向へ貫通する貫通孔(25)とを有し、
前記リング(40)は、その外周が両端よりも中央側で最大径となる断面形状に形成され、該最大径となる最肉厚部(41)が圧入した前記チューブ(11)の一端部(12)の内周に喰い込むように係合することで位置決めされ、
前記リング(40)内に前記継手本体(20,20A)の内筒部(22)を挿入しつつ、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)を前記凹溝(21)の奥まで圧入した際に、前記外筒部(23,23A)が前記リング(40)の少なくとも最肉厚部(41)まで覆う状態となり、この状態で前記継手本体(20,20A)の雄ネジ部(24)に前記袋ナット(30,30A)の雌ネジ部(32)を螺合して、該雄ネジ部(24)のある前記外筒部(23,23A)を介して前記リング(40)の最肉厚部(41)がチューブ(11)の一端部(12)と共に前記内筒部(22)に押圧され、かつ、前記リング(40)により拡径し終わるチューブ(11)の屈折部(12c)に、前記袋ナット(30,30A)の差込孔(34)の孔周縁(34a)が圧接したことを特徴とするチューブ継手(10,10A)。
【0013】
[2]前記継手本体(20A)の外筒部(23A)は、前記リング(40)内に前記継手本体(20A)の内筒部(22)を挿入しつつ、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)を前記凹溝(21)の奥まで圧入した際に、先端側(29)が前記リング(40)の最肉厚部(41)を乗り越えてリング(40)全体を覆う位置まで延びる状態に形成され、
前記袋ナット(30A)は、その前記奥壁(33)の周囲に、中心軸かつ前記ネジ孔(31)の入口方向へ山型断面形状に突出し、袋ナット(30A)を継手本体(20A)に締め付ける際、前記外筒部(23A)の先端側(29)を前記リング(40)の一端側に押し付ける突条環(36)を有していることを特徴とする[1]に記載のチューブ継手(10A)。
【0014】
[3]前記袋ナット(30,30A)の差込孔(34)の孔周縁(34a)は、中心軸かつ前記ネジ孔(31)の入口方向へ山型断面形状に突出し、
前記チューブ(11)の屈折部(12c)は、前記差込孔(34)の孔周縁(34a)と前記内筒部(22)の先端側との間に挟持されることを特徴とする[1]または[2]に記載のチューブ継手(10,10A)。
【0015】
[4]前記継手本体(20,20A)の外筒部(23,23A)の内径寸法を、前記リング(40)の最肉厚部(41)により拡径された前記チューブ(11)の一端部(12)の最大外径寸法よりも小さく設定し、
前記袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けることで、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)が前記凹溝(21)の奥まで圧入されることを特徴とする[1],[2]または[3]に記載のチューブ継手(10,10A)。
【0016】
[5]前記継手本体(20,20A)の内筒部(22)の先端側口縁の内周側に、前記袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けた後に先端側口縁が中心軸に向って変形する厚み分だけ予め面取りした第1内側テーパー部(26)と、該第1内側テーパー部(26)の先端側でその傾斜角以上に傾斜し移動媒体である流体の溜りを防止する第2内側テーパー部(27)とを設けたことを特徴とする[1],[2],[3]または[4]に記載のチューブ継手(10,10A)。
【0017】
[6]前記継手本体(20,20A)の内筒部(22)の先端側口縁の外周側に、前記袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けた後に前記チューブ(11)の屈折部(12c)の内周に圧接して気密性を保持する外側テーパー部(28)を設け、該外側テーパー部(28)をアール断面形状に形成したことを特徴とする[1],[2],[3],[4]または[5]に記載のチューブ継手(10,10A)。
【0018】
前記本発明は、次のように作用する。
前記[1]に記載のチューブ継手(10,10A)によれば、チューブ(11)の一端部(12)を継手本体(20,20A)に外嵌する前に、チューブ(11)の一端部(12)を拡径しつつ該拡径した状態に保持するリング(40)を予め圧入しておく。
【0019】
リング(40)によって、チューブ(11)の拡径した一端部(12)は縮径することはなく、かかる拡径した状態のチューブ(11)の一端部(12)を、継手本体(20,20A)の内筒部(22)に容易に外嵌させると共に外筒部(23,23A)に内嵌させつつ、凹溝(21)に圧入することができる。このようにチューブ(11)と継手本体(20,20A)の接続時には、特に治具を用いる必要はない。
【0020】
前記リング(40)は、その外周が両端よりも中央側で最大径となる断面形状に形成され、該最大径となる最肉厚部(41)が圧入した前記チューブ(11)の一端部(12)の内周に喰い込むように係合することで位置決めされる。このように、リング(40)を当該位置に位置決めすることで、リング(40)がチューブ(11)の奥に入り込んでしまったり、逆に抜け出てしまう事態を防止することができる。
【0021】
また、前記リング(40)内に継手本体(20,20A)の内筒部(22)を挿入しつつ、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)を前記凹溝(21)の奥まで圧入した際に、前記外筒部(23,23A)は前記リング(40)の少なくとも最肉厚部(41)まで覆う状態となる。
【0022】
この状態で継手本体(20,20A)の雄ネジ部(24)に袋ナット(30,30A)の雌ネジ部(32)を螺合すると、該雄ネジ部(24)のある外筒部(23,23A)を介してリング(40)の最肉厚部(41)がチューブ(11)の一端部(12)と共に内筒部(22)に軸心方向に押圧され、かつ、リング(40)により拡径し終わるチューブ(11)の屈折部(12c)に、袋ナット(30,30A)の差込孔(34)の孔周縁(34a)が圧接する。
【0023】
従って、継手本体(20,20A)の内筒部(22)の先端側、袋ナット(30,30A)の差込孔(34)の孔周縁(34a)、チューブ(11)の屈折部(12c)の各間の隙間がなくなり十分な密着性が得られ、継手本体(20,20A)にチューブ(11)を強固に接続し固定することができる。
【0024】
特に、リング(40)の最肉厚部(41)、チューブ(11)の一端部(12)、それに継手本体(20,20A)の外筒部(23,23A)が、それぞれ軸心方向に内筒部(22)に重なり合うので、継手本体(20,20A)に振動がかかった場合や、チューブ(11)に引っ張り力が負荷した場合でも、リング(40)とチューブ(11)が動くことを大幅に防止することができ、シール性能を安定させると共に、チューブ(11)の引っ張り強度を高めることができる。
【0025】
前記[2]に記載のチューブ継手(10A)によれば、前記継手本体(20A)の外筒部(23A)は、前記リング(40)内に前記継手本体(20A)の内筒部(22)を挿入しつつ、前記チューブ(11)の拡径した一端部(12)を前記凹溝(21)の奥まで圧入した際に、外筒部(23A)の先端側(29)が前記リング(40)の最肉厚部(41)を乗り越えてリング(40)全体を覆う位置まで延びる状態に形成されている。
【0026】
これにより、リング(40)により拡径されたチューブ(11)の一端部(12)全体が継手本体(20A)の外筒部(23A)で取り囲まれるよう覆われた状態となる。この状態で継手本体(20A)に袋ナット(30A)を螺合すると、袋ナット(30A)の奥壁(33)の周囲にある突条環(36)が、前記外筒部(23A)の先端側(29)をリング(40)の一端側に押し付けることになる。従って、前記凹溝(21)の入口側が狭まるように塞がれ、リング(40)で拡径されたチューブ(11)の一端部(12)が凹溝(21)に閉じ込められることにより、なおさらシール性能と引っ張り強度を高めることができる。
【0027】
前記[3]に記載のチューブ継手(10,10A)によれば、前記袋ナット(30,30A)の差込孔(34)の孔周縁(34a)は、中心軸かつネジ孔(31)の入口方向へ山型断面形状に突出しており、前記チューブ(11)の屈折部(12c)は、前記差込孔(34)の孔周縁(34a)と前記継手本体(20,20A)の内筒部(22)の先端側との間に挟持される。これにより、継手本体(20,20A)に対するチューブ(11)の引っ張り強度がいっそう大きくなり、チューブ(11)が抜ける事態をより確実に防止することができる。
【0028】
前記[4]に記載のチューブ継手(10,10A)によれば、前記継手本体(20,20A)の外筒部(23,23A)の内径寸法を、前記リング(40)の最肉厚部(41)により拡径された前記チューブ(11)の一端部(12)の最大外径寸法よりも小さく設定する。そして、前記袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けることで、チューブ(11)の拡径した一端部(12)が袋ナット(30,30A)の凹溝(21)の奥まで圧入されるようにしたから、よりいっそうシール性能が安定して気密性を高めることができる。
【0029】
前記[5]に記載のチューブ継手(10,10A)によれば、前記継手本体(20,20A)の内筒部(22)の先端側口縁の内周側に、袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けた後に先端側口縁が中心軸に向って変形する厚み分だけ予め面取りした第1内側テーパー部(26)と、該第1内側テーパー部(26)の先端側でその傾斜角以上に傾斜し移動媒体である液体の溜りを防止する第2内側テーパー部(27)とを設けた。なお、第1内側テーパー部(26)は、1段のみのテーパー形状に限らず、2段あるいは3段等と多段テーパー形状にしても良い。
【0030】
継手本体(20,20A)の内筒部(22)が貫通孔(25)の内径方向に局所的な変形を起こすと、流体の流れの妨げとなるが、前記第1内側テーパー部(26)によって、内径への変形を抑えるのではなく、変形した状態で流体の流れの妨げとなるような凸状にならないようにする。第1内側テーパー部(26)と第2内側テーパー部(27)とを設けたことにより、流体の浸み込みや液溜りを防止すると共に、流体の流れの妨げとなる局部的な凸状の出っ張りを抑制することができる。
【0031】
前記[6]に記載のチューブ継手(10,10A)によれば、前記継手本体(20,20A)の内筒部(22)の先端側口縁の外周側に、袋ナット(30,30A)を継手本体(20,20A)に締め付けた後に前記チューブ(11)の屈折部(12c)の内周に圧接して気密性を保持する外側テーパー部(28)を設け、該外側テーパー部(28)をアール断面形状に形成した。このように外側テーパー部(28)をアール断面形状としたことにより、袋ナット(30,30A)の締め付けトルクを増加させずに、継手内部の特に内筒部(22)の先端側とチューブ(11)の屈折部(12c)との間における流体の漏洩や浸透を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るチューブ継手によれば、従来のインナーリングタイプとフレアータイプのそれぞれの問題点を解決することが可能となり、内部に液体が滞留する事態(液溜り)や液体移送時の圧力損失を極力なくすことができ、施工を簡易化してコスト低減を実現すると共に、品質の信頼性を向上させることができ、特にリングとチューブが動くことを大幅に防止することができ、シール性能を安定させると共に、チューブの引っ張り強度を格段に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手を示す要部断面図である。
【図2】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手のうち継手本体の一端部を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手のうち袋ナットを示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手のうちリングを示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手の外観を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における外筒部の内径寸法とリングの最肉厚部により拡径されたチューブの一端部の最大外径寸法との関係を示す説明図である。
【図7】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の第1内側テーパー部と第2内側テーパー部の傾斜角を示す説明図である。
【図8】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の第1内側テーパー部を2段にした変形例を示す説明図である。
【図9】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の第1内側テーパー部を3段にした変形例を示す説明図である。
【図10】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の外側テーパー部での力のかかる方向を示す説明図である。
【図11】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の外側テーパー部での応力の分散例を示す説明図である。
【図12】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の外側テーパー部のアール形状の意義を示す説明図である。
【図13】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における内筒部の外側テーパー部のアール形状の角度を特定する説明図である。
【図14】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手においてチューブの一端部を拡径しつつリングを圧入する工程を順に示す説明図である。
【図15】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手の組み立て工程を順に示す説明図である。
【図16】本発明の第1実施の形態に係るチューブ継手における各部品の具体的な寸法例を示す説明図である。
【図17】本発明の第2実施の形態に係るチューブ継手を示す要部断面図である。
【図18】本発明の第2実施の形態に係るチューブ継手の組み立て途中の状態を示す要部断面図である。
【図19】従来一般のインナーリングタイプのチューブ継手の代表例を示す要部断面図である。
【図20】従来一般のフレアータイプのチューブ継手の代表例を示す要部断面図である。
【図21】従来一般のインナーリングタイプのチューブ継手における問題点を説明するための要部断面図である。
【図22】従来一般のフレアータイプのチューブ継手における継手本体の先端部内径に設けたテーパーを示す要部断面図である。
【図23】従来一般のフレアータイプのチューブ継手における継手本体の先端部内径の変形した角度を説明するための要部断面図である。
【図24】本実施の形態に係るチューブ継手における継手本体の内筒部の第1内側テーパー部の傾斜角を定めるための実験データを示した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づき、本発明を代表する各種実施の形態を説明する。
図1〜図16は、本発明の第1実施の形態を示している。
図1は、本実施の形態に係るチューブ継手10を示す要部断面図、図2は、チューブ継手10のうち継手本体20の一端部を示す断面図、図3は、チューブ継手10のうち袋ナット30を示す断面図、図4は、チューブ継手10のうちリング40を示す断面図、図5は、チューブ継手10の外観を示す斜視図である。
【0035】
図1〜図5に示すように、チューブ継手10は、チューブ11と、継手本体20と、袋ナット30と、それにリング40とを組み合わせて成る。かかるチューブ継手10は、チューブ11の一端部12を拡径しつつ該拡径した状態に保持するリング40を圧入し、該チューブ11の拡径した一端部12を継手本体20に接続すると共に、該チューブ11を貫通させた状態で前記拡径した一端部12を囲む袋ナット30を継手本体20に締め付けることで、継手本体20にチューブ11を固定したものである。
【0036】
図1に示すように、チューブ11は内部が空洞の円筒管である。チューブ11の材質として、例えば、PTFE(四フッ化エチレン)樹脂、PFA(四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエキレン共重合)樹脂等に代表されるフッ素樹脂等が用いられる。すなわち、チューブ11の材質としては、耐熱性や耐薬品性に優れるだけではなく、その一端部12が、ある程度拡径し得るように弾性変形が可能な材質が用いられる。
【0037】
図1,図5に示すように、リング40は、前記チューブ11の一端部12に予め圧入され、該一端部12を拡径した状態に保持するための部材である。すなわち、チューブ11の一端部12は、リング40を介して後述する継手本体20に接続されることになる。リング40は、チューブ11と継手本体20とのシール代の長さ分より若干短い全長を有し、その内径寸法は、継手本体20の内筒部22の外径とほぼ同じか若干大きく設定されている。
【0038】
詳しく言えばリング40は、その外周が両端よりも中央側で最大径となる断面形状、具体的には算盤珠のような断面形状に形成されている。すなわち、リング40の両端側の外周は、中央側に向って拡径するテーパー形状に形成されており、リング40の中央側の外周が、最大径で所定長さだけ延びた最肉厚部41となっている。
【0039】
リング40は、その最大径となる最肉厚部41が圧入した前記チューブ11の一端部12の内周に喰い込むように係合することにより、前記チューブ11の一端部12内に位置決めされる。なお、リング40の材質としては、例えば、摩擦特性に優れたフッ素樹脂の中でも最も摩擦係数の低いPTFE(四フッ化エチレン)樹脂を用いる。ただし、PTFE(四フッ化エチレン)樹脂は機械強度が低く、チューブ11の内径への収縮を防止するには、リング40の肉厚を厚く設定する必要があった。
【0040】
このことから、リング40に最適な材質として、PTFE(四フッ化エチレン)樹脂に次ぐ摩擦係数の小ささを有しており、かつPTFE(四フッ化エチレン)樹脂よりも機械強度の高い、PFA(四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエキレン共重合)樹脂を用いると良い。この他、FEP(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合)樹脂、ETFE(四フッ化エチレン−エチレン共重合)樹脂、PVDF(ビニルデンフルオライド)樹脂、ECTFE(エチレン−クロロトリフルオロエチレン)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂も使用可能である。
【0041】
図1に示すように、チューブ11の一端部12は、前記リング40が予め圧入され拡径された状態で、次述する継手本体20に接続される。ここでリング40により拡径されたチューブ11の一端部12は、図6に示すように、本来の外径である基準部12aに対して、リング40の外径形状に沿って拡径された膨出部12b、および基準部12aと膨出部12bとの間に位置してリング40により拡径し終わる屈折部12cとから成る。
【0042】
図1,図2に示すように、継手本体20は、その一端側に、前記チューブ11の拡径した一端部12が嵌入する環状の凹溝21と、該凹溝21の内側となり前記チューブ11の拡径した一端部12が外嵌する内筒部22と、該凹溝21の外側となり前記チューブ11の拡径した一端部12が内嵌する外筒部23とを有している。
【0043】
ここで外筒部23の外周から継手本体20の基端側にかけて雄ネジ部24が形成されている。また、内筒部22の内側は、前記チューブ11の基準部12aの内径とほぼ同じ孔径でネジ軸方向へ貫通する貫通孔25となっている。なお、継手本体20の材質も、前記チューブ11と同様に耐薬品性に優れたフッ素樹脂等が適している。
【0044】
内筒部22は、前記リング40の全長分よりも長く延びている。外筒部23は、凹溝21の最奥部21aより内筒部22と平行にその先端側に向って延びているが、外筒部23の全長は前記内筒部22よりも短く設定されている。ここで外筒部23は、前記リング40内に内筒部22を挿入しつつ、チューブ11の拡径した一端部12を凹溝21の最奥部21aまで圧入した際に、外筒部23の先端縁が前記リング40の少なくとも最肉厚部41を覆う状態となる長さに設定されている。
【0045】
内筒部22の外径寸法は、前述したリング40の内径寸法とほぼ同じか若干小さく設定されている。また、図6に示すように、外筒部23の内径寸法φPは、リング40の最肉厚部41により拡径されたチューブ11の一端部12の最大外径寸法である膨出部12bの外径寸法φQよりも小さく設定されている。すなわち、後述する袋ナット30を継手本体20に締め付けることで、チューブ11の拡径した一端部12が凹溝21の奥まで圧入されるようになっている。
【0046】
また、図7に示すように、内筒部22の先端側口縁の内周側には、袋ナット30を継手本体20に締め付けた後に先端側口縁が中心軸に向って変形する厚み分だけ予め面取りした第1内側テーパー部26が設けられている。さらに、第1内側テーパー部26の先端側には、該第1内側テーパー部26の傾斜角θ1以上に傾斜した傾斜角θ2で流体の溜りを防止する第2内側テーパー部27が設けられている。
【0047】
第1内側テーパー部26と第2内側テーパー部27のそれぞれの傾斜角の関係は、θ1≦θ2であり、また、第1内側テーパー部26の傾斜角θ1は、3°≦θ1≦17°に設定されている。ここで傾斜角θ1の数値限定は、局部変形抑制効果の実験データに基づき定められたものであり、その判断基準は、図23に示すような従来のフレアータイプの組み立て後における継手本体の先端部内径の変形した角度θ5に基づき、次のように設定した。
【0048】
すなわち、変形角度θ5が1.5°未満(θ5<1.5°)の場合、局部変形抑制の「効果有り」とし、変形角度θ5が1.5°以上(θ5≧1.5°)の場合、局部変形抑制の「効果無し」として判断した。その結果を図24の図表に示している。この結果によれば、前述した第1内側テーパー部26の傾斜角θ1を3°≦θ1≦17°の範囲に設定することにより、局部変形抑制の効果を得られることになる。なお、チューブ11には多種のサイズが存在するが、前記局部変形抑制効果の実験では、チューブ11の代表的なサイズとしてφ9.5×φ7.5のものを採用した。
【0049】
また、第1内側テーパー部26に関しては、前述した1段のみのテーパー形状に限らず、2段あるいは3段等と多段テーパー形状にしても良い。具体的には、図8に示すように、第1内側テーパー部26を2段にして、本来の第1内側テーパー部26(傾斜角θ1)にさらにテーパー部26(傾斜角θ3)を追加した形状でも、かかる部位における局部的な変形を抑えることが可能である。この場合、追加するテーパー部26(傾斜角θ3)は、第1内側テーパー部26(傾斜角θ1)に連なって配置されるため、追加のテーパー部26の傾斜角θ3は、第1内側テーパー部26の傾斜角θ1よりも小さな角度となる。
【0050】
さらに、多段テーパー形状として、図9に示すように、第1内側テーパー部26を3段にして、本来の第1内側テーパー部26(傾斜角θ1)に前記テーパー部26(傾斜角θ3)の他、もう一つのテーパー部26(傾斜角θ4)を追加した形状でも良い。この場合、内側のテーパー部26から順にそれぞれの傾斜角の関係は、θ4<θ3<θ1となる。このように、第1内側テーパー部26を多段になるように新たにテーパーを追加する場合は、既存の第1内側テーパー部26の角度の中で最も小さな角度から、第1内側テーパー部26の傾斜角θ1に連なるように配置される。
【0051】
また、第2内側テーパー部27の具体的な傾斜角θ2に関しては、流体の溜りを防止する観点より、前述したように第1内側テーパー部26のうち最も大きな傾斜角θ1と同等かそれ以上の角度であれば足りる。なお、θ2=θ1の場合には、第1内側テーパー部26と第2内側テーパー部27とは同一角度で連続することになり、1つの内側テーパー部が形成されることになる。
【0052】
ところで、前記第1内側テーパー部26を設ける場合には、内筒部22の先端側口縁が薄肉となり新たな問題が発生する。チューブ継手10は、一般的に袋ナット30を継手本体20に締め込むことで、チューブ11を押圧し、継手本体20とチューブ11の境界面に応力を発生させることで、内部流体の漏洩や浸透を防ぐものである。また、この応力が高くなる程、内部流体の漏洩や浸透を防ぐ能力がより高くなる。
【0053】
しかしながら、本実施の形態に係るチューブ継手10のように、継手本体20の内筒部22の先端側口縁に第1内側テーパー部26を設けて薄肉にした場合、薄肉にした箇所の変形が大きくなってしまうため、継手本体20とチューブ11の境界面の応力が減少してしまうことになる。本実施の形態に係るチューブ継手10は、第1内側テーパー部26を設け流体の妨げとなるような凸形状をなくすと共に、継手本体20とチューブ11の境界面の応力を減少させないものである。
【0054】
かかる応力を減少させない具体的な方法は、以下の通りである。継手本体20に後述する袋ナット30を締め付けることで、図10に示すP0という軸方向の力が発生する。この力を部分的に見た場合の1つの力をPとすると、内筒部22の先端側口縁の外周側に設けた外側テーパー部28の形状により、2つの単純な力で考えた場合、テーパー角度方向の力P1と外側テーパー部28への垂線方向の力P2とに分解される。この2つの力のうちP2が継手本体20とチューブ11の境界面の応力に相当する。
【0055】
従って、境界面の応力を減少させないためには、分力P2をより大きくできる形状にすれば良いことが分かる。ただし、袋ナット30を既定の締め付け量よりもきつく締め付けた場合は、軸方向の全体の力P0が大きくなるため、Pが大きくなり、P1およびP2も大きくなる。しかし、軸方向の力P0が大きくなってしまうと、袋ナット30を締め付ける際の締め付けトルクも大きくなってしまうため、チューブ継手10を組み立てる際の作業性が著しく悪化してしまう。そこで、本実施の形態に係るチューブ継手10では、P0を大きくしないでP2を大きくするための形状を採用する。
【0056】
すなわち、継手本体20の内筒部22の先端側口縁の外周側に、袋ナット30を継手本体20に締め付けた後にチューブ11の屈折部12cの内周に圧接して気密性を保持する外側テーパー部28を設け、該外側テーパー部28をアール断面形状に形成した。図11(a)においてP2の応力を大きくするには、図13に示すθ6の角度(θ6は、軸線と平行な線と、外側テーパー部28との角度である)を、より大きくすることにより、P1とP2の分力の関係から、P2への分力が大きくなる。なお、図11(a)は図10中の要部を拡大して抜き出したものであり、図11(b)は、θ6を大きくしたものである。
【0057】
しかし、外側テーパー部28をアール形状ではなく、直線状とした場合は、テーパー部全体へP2と近い力が負荷され、結果的に、図10中のP0が大きくなり、袋ナット30を締め付ける際の締め付けトルクも大きくなってしまう。ここで内部流体の漏洩や浸透を防ぐために必要な応力は、外側テーパー部28全体に必要ではない。流体の漏洩や浸透を防ぐためには、外側テーパー部28の先端付近(図13中のp1により近い部分)に高い値が負荷することにより、流体の侵入する入口を抑えることが可能である。
【0058】
そこで、外側テーパー部28をアール形状にした場合には、図13の外側テーパー部28の先端付近(p1に近い部分)では、θ6の角度(アール形状の場合、θ6は角度を測定する点での接線と軸線と平行な線との角度である。)が大きくなり、図12に示すように、p1より遠くなる程、θ6は小さくなる。このように、外側テーパー部28をアール形状とすることで、p1に近くなる程、θ6が大きくなり、分力P2も大きくなる。これにより、先端付近に必要な応力を負荷させても、余分な応力を他の部分に負荷させないことが可能となる。
【0059】
図10に示す軸方向の力P0は、このP2の総和と比例関係にあるので、外側テーパー部28をアール形状にすることで、外側テーパー部28の先端付近に十分な力を負荷しても、先端から遠い部分ではP2は小さくなり、P2の総和も外側テーパー部28が直線の場合と比較して小さく抑えることが可能となる。以上より、全体としての軸方向の力P0を大きくしないことで、袋ナット30の締め付けトルクを増加させずに、内部流体の漏洩や浸透を防ぐことが可能となった。
【0060】
また、図5に示すように、継手本体20の外周中央部には、略六角断面形の被締付部が設けられている。被締付部に、スパナ等の締付工具を嵌め込むように成っている。この被締付部を間にして、継手本体20の他端側にも、凹溝21、内筒部22、外筒部23、雄ネジ部24が、前述した一端側と同様に設けられている。継手本体20には、その一端側の内筒部22の先端側口縁から他端側の内筒部22の先端側口縁に亘って前記貫通孔25が連通している。
【0061】
図1に示すように、袋ナット30は、そのネジ孔31の奥側に袋部を成すようにネジ軸に直交する奥壁33を有している。袋ナット30のネジ孔31の入口側には、雌ネジ部32が刻設され、奥壁33には、チューブ11を貫通させるための差込孔34が穿設されている。また、袋ナット30の外周には略六角断面形の被締付部35(図5参照)が設けられ、被締付部35にスパナ等のナット締付工具を嵌め込むようになっている。
【0062】
また、図1に示すように、前記孔周縁34aは、中心軸(ネジ軸心)に向ってネジ孔31の入口方向へ傾斜する山型断面形状に突出している。この孔周縁34aが、前記チューブ11の一端部12における屈折部12cに圧接させる部位である。すなわち、チューブ11の屈折部12cは、差込孔34の孔周縁34aと内筒部22の先端側である外側テーパー部28との間に挟持されることになる。なお、袋ナット30も、前記チューブ11や継手本体20と同様に、具体的な材質としてはフッ素樹脂等が適している。
【0063】
次に、本発明の実施の形態の作用について説明する。
図1に示すように、チューブ継手10はフレアータイプを基本形状とする。インナーリングタイプでは、流体の浸み込みを防止すること、流体の圧力損失を防止することが難しいためである。また、フレアータイプを基本形状とすることにより、図21に示すようなリング40を挿入しなかった場合の事故の可能性がなくなる。これは、拡径しないとチューブ11の取り付けが不可能であり、拡径して取り付けた場合、問題は起こらないからである。
【0064】
チューブ継手10はフレアータイプを基本形状とするが、リング40を使用することで、フレアータイプでありながら、チューブ11の拡径は、リング40を一度チューブ11に圧入することで、チューブ処理が完了となり、チューブ11の一端部12を何度も拡径させる作業は不要となり施工性が改善される。また、リング40を使用することで、チューブ11に引っ張り荷重が負荷した際も、リング40によって抜け出ることが防止されるために、引っ張り強度が高くなる。
【0065】
ところで、従来のインナーリングタイプでは、チューブ継手の組み立て後にリングの内径部が流体の流路となる。この場合は、リングの内径寸法は、チューブ内径寸法と同等に設定することにより、流体の圧力損失を抑えることが可能であった。これに対して本実施の形態に係るチューブ継手10では、リング40の内側に継手本体20の内筒部22が配置されるため、内筒部22の内径部が流体の流路となる。
【0066】
従って、流体の圧力損失を抑えるためには、内筒部22の内径寸法をチューブ11の内径寸法と同等にする必要があり、拡径したチューブ11の内径への収縮を防止するためには、一定以上の肉厚をリング40に持たせる必要がある。よって、従来のリングと比較すると今回提案するリング40は、外径寸法が大きくなってしまう。リング40の外径寸法が大きくなると、リング40をチューブ11の内径に挿入する場合には、チューブ11への負荷が大きく、チューブ11の挫屈が発生してリング40を挿入できない虞があった。
【0067】
このようなチューブ11の挫屈を防止するには、チューブ11への負荷をできる限り小さくする必要がある。そのための手段は、チューブ11の内径への収縮を防止する範囲で、リング40の外径寸法をできる限り小さくすることと、チューブ11に負荷する摩擦抵抗を小さくするために、摩擦係数の小さな材質でリング40を製作することである。そこでリング40は、前述したようにPFA(四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエキレン共重合)樹脂等を用いることが前提となる。
【0068】
また、リング40の具体的な外径寸法に関しては、以下のように設定する必要がある。すなわち、図16において、リング40の外径寸法φBは、次のように設定する。
φB = (m×t)+φA
2<m≦4
また、リング40の長さCは、次の範囲とする。
3mm≦C≦12mm
さらに、リング40のテーパー角度Eは、次の範囲とする。
20°≦E≦35°
以上の関係性により、リング40をチューブ11の一端部12の内径に挿入することが可能であり、拡径したチューブ11の一端部12を継手本体20の凹溝21に挿入することが可能となる。
【0069】
このような関係性を持たない場合は、リング40をチューブ11の一端部12の内径に挿入する際に、チューブ11の挫屈が発生する可能性があり、また、チューブ11をチューブ11の一端部12の内径に挿入できた場合でも、チューブ11の一端部12の内径への収縮が大きくなってしまい、結果として、継手本体20の凹溝21に挿入することが困難となる可能性が高くなる。
【0070】
図14は、チューブ11の一端部12を拡径しつつリング40を圧入する工程を示している。かかる工程では、リング挿入部品である治具60を用いる。図14(a)に示すように、治具60は、チューブ11の内径よりも小さい細径部61と、該細径部61より漸次拡径するフレアー部62と、該フレアー部62に続きチューブ11の内径を前記継手本体20の内筒部22に外嵌する径まで広げる太径のリング保持部63とから成る。なお、治具60の材質は、摩擦特性に優れたフッ素樹脂の中でも最も摩擦係数の低いPTFE(四フッ化エチレン)樹脂が適している。
【0071】
先ず、図14(b)に示すように、リング40を治具60のリング保持部63まで挿入する。続いて、図14(c)に示すように、チューブ11を治具60と同芯上に固定する。この時、チューブ11の一端部12は、治具60の細径部61に外嵌した状態に位置決めされる。かかる状態で、図14(d)に示すように、治具60をチューブ11の方向へ移動させ、チューブ11の内側へ治具60およびリング40を押し込む。
【0072】
その後、図14(e)に示すように、治具60をチューブ11と逆方向へ移動させることで、リング40はその最肉厚部41がチューブ11の内径に係合し、チューブ11の内径への収縮力により、チューブ11の一端部12内部に位置決めされた状態で保持される。このようなリング40の圧入工程においては、チューブ11の一端部12を加熱する必要はなく、治具60をチューブ11の一端部12に対して1回のみ圧入するだけで、チューブ11の一端部12を拡径しつつリング40を内嵌させることができる。
【0073】
図15は、チューブ継手10の組み立て工程を示している。かかる工程では、図14(a)に示すように、継手本体20と、リング40により一端部12を拡径したチューブ11、それに袋ナット30を同軸上に並べて、図14(b)に示すようにリング40内に継手本体20の内筒部22を挿入しつつ、チューブ11の拡径した一端部12を継手本体20の凹溝21の奥まで圧入する。この時、継手本体20の外筒部23がリング40の最肉厚部41まで覆う状態となる。
【0074】
かかる状態で、図14(c)に示すように、継手本体20の雄ネジ部24に袋ナット30の雌ネジ部32を螺合させ、既定された位置まで締め込むことで、チューブ継手10の組み立て完了となる。組み立てが完了したチューブ継手10では、継手本体20の雄ネジ部24のある外筒部23を介してリング40の最肉厚部41がチューブ11の一端部12と共に内筒部22に押圧され、かつ、リング40により拡径し終わるチューブ11の屈折部12cに、袋ナット30の差込孔34の孔周縁34aが圧接した状態となる。
【0075】
このようにして、図1に示すように、継手本体20の内筒部22の先端側、袋ナット30の差込孔34の孔周縁34a、チューブ11の屈折部12cの各間の隙間がなくなり十分な密着性が得られ、継手本体20にチューブ11を強固に接続し固定することが可能となる。
【0076】
特に、リング40の最肉厚部41、チューブ11の一端部12、それに継手本体20の外筒部23が、それぞれ軸心方向に内筒部22に重なり合うので、継手本体20に振動がかかった場合や、チューブ11に引っ張り力が負荷した場合でも、リング40とチューブ11が動くことを大幅に防止することができ、シール性能を安定させると共に、チューブ11の引っ張り強度を高めることができる。
【0077】
また、袋ナット30は、その差込孔34の孔周縁34aが、中心軸に向ってネジ孔31の入口方向へ傾斜する山型断面形状に突出している。従って、継手本体20の雄ネジ部24に袋ナット30の雌ネジ部32を螺合していくと、前記孔周縁34aがチューブ11の屈折部12cに喰い込むように圧接し、屈折部12cは、孔周縁34aと内筒部22の外側テーパー部28との間に挟持される。これにより、継手本体20に対するチューブ11の引っ張り強度がいっそう大きくなり、チューブ11が抜ける事態をより確実に防止することができる。
【0078】
ここで、内筒部22の先端側の外側テーパー部28をアール断面形状としたことにより、図10において軸方向の力P0を大きくしないことで、袋ナット30の締め付けトルクを増加させずに、継手内部の特に内筒部22の先端側とチューブ11の屈折部12cとの間における流体の漏洩や浸透を防ぐことが可能となる。
【0079】
また、前述したように、継手本体20の内筒部22が貫通孔25の内径方向に局所的な変形を起こすと、流体の流れの妨げとなるが、第1内側テーパー部26によって、内径への変形を抑えるのではなく、変形した状態で流体の流れの妨げとなるような凸状にならないようにした。
【0080】
このように、第1内側テーパー部26と第2内側テーパー部27とを設けたことにより、流体の浸み込みや液溜りを防止すると共に、流体の流れの妨げとなる局部的な凸状の出っ張りを抑制することができる。なお、第1内側テーパー部26は、1段のみのテーパー形状に限らず、2段あるいは3段等と多段テーパー形状にしても良い。
【0081】
さらに、図6に示すように、外筒部23の内径寸法φPは、リング40の最肉厚部41により拡径されたチューブ11の一端部12の最大外径寸法である膨出部12bの外径寸法φQよりも小さく設定した。これにより、袋ナット30を継手本体20に締め付けることで、チューブ11の拡径した一端部12が凹溝21の奥まで圧入される。これにより、いっそうシール性能が安定して気密性を高めることができる。
【0082】
図17および図18は、本発明の第2実施の形態を示している。
本実施の形態では、前述した第1実施の形態に係るチューブ継手10と基本的な構成は共通するが、継手本体20Aの外筒部23Aの具体的な構成が異なっている。図17は、本実施の形態に係るチューブ継手10Aを示す要部断面図、図18は、チューブ継手10Aの組み立て途中の状態を示す要部断面図である。なお、図18中における袋ナット30Aは切断部端面図を示している。
【0083】
本実施の形態に係るチューブ継手10Aによれば、継手本体20Aの外筒部23Aは、前記リング40内に継手本体20Aの内筒部22を挿入しつつ、前記チューブ11の拡径した一端部12を前記凹溝21の奥まで圧入した際に、図17に示すように、先端側29が前記リング40の最肉厚部41を乗り越えてリング40全体を覆う位置まで延びる状態に形成されている。
【0084】
これにより、リング40により拡径されたチューブ11の一端部12全体が継手本体20Aの外筒部23Aで取り囲まれるよう覆われた状態となる。すなわち、図18に示すような状態で継手本体20Aの雄ネジ部24に袋ナット30Aの雌ネジ部32を螺合すると、袋ナット30Aの奥壁33の周囲にある突条環36が、外筒部23Aの先端側29をリング40の一端側に押し付けることになる。
【0085】
その結果、図17に示すように、前記凹溝21の入口側が狭まるように塞がれ、リング40で拡径されたチューブ11の一端部12が凹溝21に閉じ込められることにより、なおさらシール性能と引っ張り強度を高めることができる。なお、第1実施の形態と同種の部位には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0086】
以上、本発明の各種実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、前記実施の形態では、継手本体20における一端側と他端側における内筒部22や外筒部23をそれぞれ同径に形成してあるが、それぞれ異なる径に形成しても良い。また、両端の内筒部22や外筒部23は同軸上に並ぶが、貫通孔25がL字形に曲がっている場合には、それぞれ直交する方向に連なり、また、それぞれがT字路形に連なるように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係るチューブ継手は、半導体製造や液晶製造を始め、医療・医薬品製造、食品加工等の各種製造工程で取り扱われる超純水や、硫酸、塩酸といったような人体に危険な薬液を含む、あらゆる流体の流路となるチューブの接続手段として用いられる。
【符号の説明】
【0088】
10…チューブ継手
10A…チューブ継手
11…チューブ
12…一端部
12a…基準部
12b…膨出部
12c…屈折部
20…継手本体
20A…継手本体
21…凹溝
21a…最奥部
22…内筒部
23…外筒部
23A…外筒部
24…雄ネジ部
25…貫通孔
26…第1内側テーパー部
27…第2内側テーパー部
28…外側テーパー部
29…先端側
30…袋ナット
30A…袋ナット
31…ネジ孔
32…雌ネジ部
33…奥壁
34…差込孔
34a…孔周縁
35…被締付部
36…突条環
40…リング
41…最肉厚部
60…治具
61…細径部
62…フレアー部
63…リング保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブの一端部を拡径しつつ該拡径した状態に保持するリングを圧入し、該チューブの拡径した一端部を継手本体に接続すると共に、該チューブを貫通させた状態で前記拡径した一端部を囲む袋ナットを継手本体に締め付けることで、継手本体にチューブを固定するチューブ継手において、
前記袋ナットは、前記チューブの拡径した一端部を収めるネジ孔と、該ネジ孔の内周に形成された雌ネジ部と、該ネジ孔の奥側を塞ぐ奥壁と、該奥壁を貫き前記チューブを貫通させる差込孔とを有し、
前記継手本体は、前記袋ナットを締め付ける一端側に、前記チューブの拡径した一端部が嵌入する環状の凹溝と、該凹溝の内側となり前記チューブの拡径した一端部が外嵌する内筒部と、該凹溝の外側となり前記チューブの拡径した一端部が内嵌する外筒部と、該外筒部の外周に形成されて前記雌ネジ部が螺合する雄ネジ部と、前記内筒部の内側で前記チューブの内径とほぼ同じ孔径でネジ軸方向へ貫通する貫通孔とを有し、
前記リングは、その外周が両端よりも中央側で最大径となる断面形状に形成され、該最大径となる最肉厚部が圧入した前記チューブの一端部の内周に喰い込むように係合することで位置決めされ、
前記リング内に前記継手本体の内筒部を挿入しつつ、前記チューブの拡径した一端部を前記凹溝の奥まで圧入した際に、前記外筒部が前記リングの少なくとも最肉厚部まで覆う状態となり、この状態で前記継手本体の雄ネジ部に前記袋ナットの雌ネジ部を螺合して、該雄ネジ部のある前記外筒部を介して前記リングの最肉厚部がチューブの一端部と共に前記内筒部に押圧され、かつ、前記リングにより拡径し終わるチューブの屈折部に、前記袋ナットの差込孔の孔周縁が圧接したことを特徴とするチューブ継手。
【請求項2】
前記継手本体の外筒部は、前記リング内に前記継手本体の内筒部を挿入しつつ、前記チューブの拡径した一端部を前記凹溝の奥まで圧入した際に、先端側が前記リングの最肉厚部を乗り越えてリング全体を覆う位置まで延びる状態に形成され、
前記袋ナットは、その前記奥壁の周囲に、中心軸かつ前記ネジ孔の入口方向へ山型断面形状に突出し、袋ナットを継手本体に締め付ける際、前記外筒部の先端側を前記リングの一端側に押し付ける突条環を有していることを特徴とする請求項1に記載のチューブ継手。
【請求項3】
前記袋ナットの差込孔の孔周縁は、中心軸かつ前記ネジ孔の入口方向へ山型断面形状に突出し、
前記チューブの屈折部は、前記差込孔の孔周縁と前記内筒部の先端側との間に挟持されることを特徴とする請求項1または2に記載のチューブ継手。
【請求項4】
前記継手本体の外筒部の内径寸法を、前記リングの最肉厚部により拡径された前記チューブの一端部の最大外径寸法よりも小さく設定し、
前記袋ナットを継手本体に締め付けることで、前記チューブの拡径した一端部が前記凹溝の奥まで圧入されることを特徴とする請求項1,2または3に記載のチューブ継手。
【請求項5】
前記継手本体の内筒部の先端側口縁の内周側に、前記袋ナットを継手本体に締め付けた後に先端側口縁が中心軸に向って変形する厚み分だけ予め面取りした第1内側テーパー部と、該第1内側テーパー部の先端側でその傾斜角以上に傾斜し移動媒体である流体の溜りを防止する第2内側テーパー部とを設けたことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載のチューブ継手。
【請求項6】
前記継手本体の内筒部の先端側口縁の外周側に、前記袋ナットを継手本体に締め付けた後に前記チューブの屈折部の内周に圧接して気密性を保持する外側テーパー部を設け、該外側テーパー部をアール断面形状に形成したことを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載のチューブ継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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