説明

チョウセンアサガオ由来のレクチンをコードする遺伝子およびその利用方法

【課題】天然物であるチョウセンアサガオ由来のレクチンを用いる場合に生じていたロット間の品質の不均一性を解消するため、遺伝子工学的に生産されたチョウセンアサガオレクチンを提供する。
【解決手段】チョウセンアサガオ由来のレクチン部分アミノ酸配列を基にRACE法を利用して該レクチンをコードする遺伝子の完全長cDNAをクローニングし、該遺伝子を利用して生産した、アイソザイムを含まない均一な組成のチョウセンアサガオ由来のレクチンタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョウセンアサガオ由来のレクチンをコードする遺伝子、ならびにその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レクチンとは糖または糖鎖と特異的かつ可逆的に結合する部位を2価以上持つ抗体以外のタンパク質であると定義される。動物の赤血球表面糖鎖と特異的に結合するレクチンは、赤血球凝集活性を示すことから、赤血球凝集素と呼ばれる。
【0003】
レクチンは、マイトジェン活性、悪性腫瘍細胞の選択的凝集活性等を有するため、生物学や医学の分野における重要な研究ツールとして利用されている。その利用範囲は、糖タンパク質の分類や糖鎖構造の特定のみならず、細胞の分化、神経細胞の追跡、細菌の同定、骨髄移植時のリンパ球と骨髄の分画など、基礎から応用まで多岐にわたる。近年、種々のレクチンを一枚のスライドグラス上に固定したチップを用いて、糖鎖構造を解析するレクチンマイクロアレイ法が開発され、悪性腫瘍などの疾病に伴う血清糖タンパク質の糖鎖構造変化を迅速に検出できる手段として期待されている。
【0004】
植物レクチンは、特異性や構造の共通性に基づいていくつかのグループに分類される。キチン結合性レクチンは、キチン(N-アセチル-D-グルコサミンがb-1,4結合したポリマー)に結合するレクチンのグループであり、イネ科、ナス科、イラクサ科などの種子・果実・塊茎・根茎からレクチンが見つかっている。これらのレクチンはキチンに結合する性質は共通であるが、異なる糖鎖構造を認識して結合することが知られており、中でもナス科に属するトマト果実およびチョウセンアサガオ種子から精製されたレクチンは動物糖鎖に対する特異性の違いが詳細に検討され、糖鎖構造解析試薬として汎用されている。近年トマトレクチンの構造が明らかにされた(非特許文献1)が、チョウセンアサガオレクチンの部分アミノ酸配列と全アミノ酸配列及び当該レクチンをコードする遺伝子配列はいずれも明らかにされていない。
【0005】
チョウセンアサガオレクチン(Datura stramonium agglutinin: 以下「DSA」という。)は、ナス科に属する1年草草本植物であるチョウセンアサガオの種子から単離された糖タンパク質である(非特許文献2)。その糖含量は約37%と見積もられている(非特許文献3)。DSAはサブユニットA(分子量32,000)とサブユニットB(分子量28,000)の異なる2種のサブユニットがジスルフィド結合により架橋した二量体であり、精製されたDSAはAとBの2種のサブユニットの三通りの組み合わせ(AA、AB、BB)により生じたイソレクチンの混合物であることが示されている(非特許文献4)。
【0006】
DSAは、ヒト赤血球をABO式血液型にかかわらず凝集する。またウサギ血球も凝集する。このためDSAは赤血球凝集活性を指標に活性を測定することができる。DSAは二量体あたり2個の糖鎖結合部位を有する。その糖鎖結合特異性は、赤血球凝集のハプテン阻害法や固定化DSAカラムを用いて明らかにされた(非特許文献5)。DSAの赤血球凝集活性は、単糖では阻害されず、キチンで阻害される。キチン加水分解物であるキトオリゴ糖に対しては、N-アセチルグルコサミンの重合度の増加に伴って親和性が高くなる。DSAはまた、動物の糖タンパク質糖鎖であるアスパラギン結合型およびムチン型糖鎖上に見られる二糖糖鎖構造のN-ラクトサミン構造と特異的に結合する。ラクトサミンに対するDSAの親和性は、N-アセチルラクトサミン構造を有する糖鎖のアンテナ構造に影響される。二本鎖複合型糖鎖は固定化DSAカラムに保持されず、三本鎖以上の分岐を有する多分岐複合型糖鎖はDSAカラムとの相互作用が観察される。三本鎖複合型糖鎖は、トリマンノシルコア糖鎖のα-マンノース残基上の置換位置によりイソフォームが存在する。DSAは三本鎖複合型糖鎖のイソフォームに対して異なる親和性を示して結合する。すなわち、Galb1-4GlcNAcb1-4(Galb1-4GlcNAcb1-2)Man を含む三本鎖糖鎖よりもGalb1-4GlcNAcb1-6(Galb1-4GlcNAcb1-2)Manを含む三本鎖糖鎖に対してより高い親和性を示す。DSAはまた、N-アセチルラクトサミンの直鎖繰り返し多糖であるポリラクトサミン糖鎖に結合する。
【0007】
糖タンパク質の糖鎖構造は、生産組織の悪性腫瘍化に伴って変化することが報告されている。高転移性を有するヒト大腸癌細胞株のリソソーム膜糖タンパク質はポリラクトサミン糖鎖や多分岐複合型糖鎖を発現していることが、固定化DSAを用いたカラムクロマトグラフィーによる糖鎖分画と糖鎖構造解析から示された(非特許文献6)。また、固定化DSAカラムは悪性度の高い絨毛癌組織の生産するヒトhCG糖鎖に特異的に出現する異常二分岐複合型糖鎖の分画に効果的に用いられた(非特許文献7)。
【0008】
DSAはラット脳グリオーマ細胞に糖鎖特異的に結合することにより、標的細胞の分化を誘導し、異常増殖を抑制する効果が示された(非特許文献8)。
【0009】
このような有用な特性からDSAは糖鎖生物学分野において必須の試薬として広く利用されている。これまでに利用されてきたDSAは、天然物であるチョウセンアサガオ種子から精製される。種子から精製されたDSAは前述のように3種のイソレクチンの混合物でありイソレクチンの糖鎖結合特異性はわずかに異なることが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S. Oguri et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 72, 2640 (2008).
【非特許文献2】D. C. Kilpatrick and M. M. Yeoman, Biochem. J., 175, 1151 (1978)
【非特許文献3】J. F. Crowley and I. J. Goldstein, FEBS Lett., 130, 149 (1981)
【非特許文献4】W. F. Broekaert, A. K. Allen and W. J. Peumans, FEBS Lett., 220, 116(1987)
【非特許文献5】K. Yamashita et al., J Biol Chem, 262, 1602 (1987).
【非特許文献6】O. Saitoh et al., J Biol Chem, 267, 5700 (1992).
【非特許文献7】T. Mizuochi et. al., J. Biol. Chem., 258, 14126 (1983).
【非特許文献8】T. Sasaki et al., Br J Cancer, 87, 918 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
イソレクチンの構成比は、材料となる品種の違いや栽培・製造条件の違いにより変動する可能性がある。したがって天然物であるDSAを用いる場合にはロット間の品質が不均一になる可能性が否定できない。DSAを糖鎖分析による腫瘍の判定などの検査目的や、治療などの常に一定の品質が求められる用途に応用した場合にこの不均一性は問題となる。
【0012】
従って、遺伝子工学的手法を用いて均一なDSAを生産することができれば、上記問題は解消することが期待されるが、上述のようにDSAの部分アミノ酸配列と全アミノ酸配列及び当該レクチンをコードする遺伝子配列はいずれも明らかにされていない。そのため、均一なDSAを得るためには、チョウセンアサガオ由来のレクチン部分のアミノ酸配列を基に該レクチンをコードする遺伝子の塩基配列を決定し、該遺伝子を用いて、遺伝子工学的にチョウセンアサガオ由来のレクチンを製造する技術を確立しなければらない。
【0013】
このような問題点に鑑み、本発明は、チョウセンアサガオ種子由来のレクチンをコードする遺伝子を単離し、該遺伝子を利用することによりチョウセンアサガオ由来のレクチンの遺伝子工学的生産を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、チョウセンアサガオ種子由来のレクチンの部分アミノ酸配列を基に、RACE法を利用して該レクチンをコードする遺伝子の完全長cDNAをクローニングし、その塩基配列を決定することに成功した。
【0015】
すなわち本発明はチョウセンアサガオ種子由来のレクチンタンパク質をコードする遺伝子に関する。該遺伝子は具体的には以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつレクチン活性を有するタンパク質。
【0016】
本発明の遺伝子はまた、以下の(c)または(d)のDNAからなる遺伝子である。
(c)配列番号1であらわされる塩基配列からなるDNA
(d)配列番号1であらわされる塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつレクチン活性を有するタンパク質をコードするチョウセンアサガオ由来のDNA。
【0017】
本発明はまた、本発明の遺伝子を利用した組換えタンパク質を提供する。該組換えタンパク質は、以下の(a)または(b)のタンパク質である。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつレクチン活性を有するタンパク質。
【0018】
また本発明は、本発明の遺伝子を含有する組換えベクターを提供する。さらに本発明は本発明の遺伝子を宿主に導入して得られる形質転換体を提供する。
【0019】
本発明の組換えタンパク質は、上記形質転換体を培養し、得られる培養物からレクチンタンパク質を採取することにより得ることができるが、本発明はこのようなチョウセンアサガオ由来のレクチンタンパク質の製造方法をも提供する。
【0020】
また、本発明は、上記組み換えタンパク質が二量体となったレクチンタンパク質を含む試薬を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、チョウセンアサガオ由来のレクチンタンパク質をコードする遺伝子が提供される。該遺伝子を利用すればアイソザイムを含まない均一な組成のチョウセンアサガオ由来のレクチンタンパク質の大量生産が可能になる。これにより、アイソザイムを含まない均一な組成のチョウセンアサガオレクチンを含む試薬を提供することが可能となり、この試薬は、糖鎖研究用試薬はもとより、診断薬や腫瘍細胞の増殖抑制作用を有する医薬品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】チョウセンアサガオゲノムを鋳型にし、フォワードとリバースの縮重プライマーを組み合わせた条件を用いたPCR産物の電気泳動結果を示す図である。
【図2】DSAをコードするゲノムDNA断片DSA#1-1の塩基配列とその翻訳アミノ酸配列、DSAのアミノ酸配列と一致した部分を示す図である。
【図3】DSAをコードするゲノムDNA断片DSA#1-6の塩基配列とその翻訳アミノ酸配列、DSAのアミノ酸配列と一致した部分を示す図である。
【図4】5’-RACEと3’-RACEのPCR産物の電気泳動結果を示す図である。
【図5】5’-RACE法で決定されたDSAのcDNA配列とその翻訳配列を示す図である。
【図6】3’-RACE法で決定されたDSAのcDNA配列とその翻訳配列を示す図である。
【図7】RT-PCR産物の電気泳動結果を示す図である。
【図8】5’-RACE法により得られた2種のクローンのcDNA塩基配列を比較した図である。
【図9】図8に示した5’-RACE法により得られた2種のクローンのcDNA塩基配列から推定された翻訳アミノ酸配列を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.チョウセンアサガオ種子由来のレクチン
本発明において「チョウセンアサガオ」とは、ナス科に属する1年草でありその学名はDatura stramoniumである。
【0024】
本実施形態において「レクチン」とは、糖または糖鎖と特異的かつ可逆的に結合する部位を2価以上持つ抗体以外のタンパク質をいう。動物の赤血球表面糖鎖と特異的に結合するレクチンは、赤血球凝集活性を示すことから、赤血球凝集素(ヘムアグルチニン)と呼ばれる。
【0025】
本実施形態において「チョウセンアサガオ種子由来のレクチン」(以下「DSA」という。)は、チョウセンアサガオ種子から抽出・精製されたキチン結合性レクチンである。Broekaertらの報告によればDSAは分子量の異なる2種のサブユニットで構成されるヘテロまたはホモ2量体である。
【0026】
チョウセンアサガオ遺伝子(以下「DSA遺伝子」という。)は、DSAのN末端部分アミノ酸配列、および中央部の部分アミノ酸配列に基づき、チョウセンアサガオのゲノムDNAあるいはcDNAライブラリーから周知の方法に従ってクローニングすることができる。しかしながら、これまでにDSAのN末端部分アミノ酸配列、および内部アミノ酸配列の報告はない。ここでは、まずDSAのアミノ酸配列の決定について説明する。
【0027】
(1)DSAの精製
DSAは試薬などとして一般に入手可能である。また、例えばKilpatrickらの報告(非特許文献2)やCrowleyらの報告(非特許文献3)を用いて、またKilpatrickらの報告の改良法である発明者の以下の方法を用いてチョウセンアサガオの種子から精製することもできる。DSAの活性は、2%ウサギ赤血球の凝集を指標にして測定する。下記にDSAの精製方法の一例について説明するが、これには限定されない。
【0028】
チョウセンアサガオの果実から採取した完熟種子は使用まで-30℃において冷凍保存する。冷凍保存したチョウセンアサガオ種子を乳鉢を用いて粉砕する。種子粉砕物に重量の20倍量のPBS(生理食塩水)を加えて懸濁し、4℃で一晩ゆるやかに混合した後にガーゼでろ過してろ液を回収する。このろ液は15,000 x gで20分の遠心分離を行って遠心分離後の上清に種子抽出液を得る。種子抽出液は70℃で15分間の熱処理を行い、熱処理により生じた不溶物を15,000 x gで20分の遠心分離により除去した後に、0℃に氷冷する。氷冷後の上清90mlに対して-20℃に冷却したアセトン22.5 mlを加える。氷上で10分間静置した後に、生じた不溶物を同様に遠心分離を用いて除去し、-20℃に冷却したアセトン157.5mlを上清に加え-20℃で3時間静置する。この結果生じる沈殿を遠心分離を用いて回収した後に、PBSに溶解する。この溶液は十分量のPBSに対して4℃で透析する。透析後のチョウセンアサガオ種子抽出液は、キチンゲルカラムに添加する。カラムに結合したレクチンは、1,3-ジアミノプロパン溶液を添加して溶出する。カラム溶出液はPBSに対して透析し、続いてトヨパールHW-55Fゲルろ過カラム(1.5 cm × 90 cm)に添加してクロマトグラフィーを行う。カラムはPBSを用いて溶出し、赤血球凝集活性を示す溶出画分を回収する。
【0029】
(2)DSAのプロテアーゼ消化と内部アミノ酸配列解析
精製されたDSAはジチオスレイトールで還元し、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により分離する。使用する分離ゲルのアクリルアミド濃度は10%とする。DSAは、電気泳動後のゲルからPVDF膜に転写する。PVDF膜に転写されたDSAはポンソーSで染色し赤色のバンドとして検出する。このバンドを切り取りN末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーにより解析することができる。また、PVDF膜上のDSAはジチオスレイトールを用いて還元した後にTPCK処理トリプシン(プロメガ社)により消化され、PVDF膜から遊離したペプチド断片は逆相カラムを用いたHPLCを用いて分離した。これらのペプチド断片のアミノ酸配列をプロテインシークエンサーを用いて分析することにより10個のアミノ酸配列(配列番号4〜13)を特定することができた。
【0030】
2.DSA遺伝子のクローニング
DSA遺伝子は、決定されたDSAのN末端部分アミノ酸配列、および中央部の部分アミノ酸配列に基づき、cDNAから周知の方法に従ってクローニングすることができる。例えば、cDNAに対して上記部分アミノ酸配列から作製される縮重プライマーを用いてRACE法を利用して目的のDSA遺伝子をクローニングする。しかしながら、遺伝子が同定されていない段階での実験であるために、mRNAの供給源とする試料にDSAのmRNAが発現している確証がないことに加えて、縮重プライマーを用いたRACE法では目的の遺伝子が増幅される可能性が低い。このため、発明者はチョウセンアサガオのゲノムDNAを鋳型に用いて縮重プライマーを用いたPCRを行ってDSA遺伝子の断片を増幅し、そこから得られたDNA配列を用いて縮重のないDSA遺伝子特異的なプライマーを作製してcDNAを鋳型としたRACE法を行う方針を立てた。
【0031】
(1)ゲノムDNAの抽出
まず、チョウセンアサガオよりゲノムDNAを調製する。ゲノムDNAの供給源は、チョウセンアサガオの葉、茎、根、花、果実、種子などの器官あるいは植物体全体でも良いが、組織重量あたりのDNA含量が多いこと、組織が柔らかく粉砕しやすいこと、病害虫など異種生物の混入がないなどの利点から、人工照明下において無菌的に播種して育苗したチョウセンアサガオの芽生えが好ましい。
【0032】
ゲノムDNAの抽出は通常行われる手法により行うことができる。例えば、チョウセンアサガオの芽生えを刈り取った後に直ちにマイクロチューブに入れ、芽生えと等量のDNA抽出緩衝液(500mM NaClと50mM EDTAを含む100mM Tris-HCl緩衝液 pH 7.5)を加えてホモジナイズする。この液に抽出液容量の10分の1容量の20% SDS溶液を加えて室温で30秒間攪拌した後に65℃に加温し10分間保持する。この植物体磨砕液はフェノール試薬やクロロフォルムなどで処理してエタノール沈殿を行いゲノムDNA画分を得る。得られたゲノムDNA画分はRNaseA処理後にフェノール試薬やクロロフォルムなどで処理してエタノール沈殿を行いさらに精製を行う。あるいは、市販のキットを用いて抽出しても良い。
【0033】
(2)PCRに用いるプライマー配列の設計
前述のごとく決定されたDSAのアミノ酸配列から縮重プライマーを設計する。設計に用いるアミノ酸配列の選択と、使用コドンを限定することは、特異的遺伝子増幅のために極めて重要な要素となる。そのためには、近縁種植物のレクチンの遺伝子配列情報の参照が不可欠である。この目的のために、トマトレクチンのcDNA配列(非特許文献1)を参考にすることができる。プライマーは同一のアミノ酸配列に対してフォワード側とリバース側の2方向を合成する。
【0034】
(3)ゲノムDNAを鋳型とした部分DSA遺伝子断片の取得
こうして合成された縮重プライマーを用いてゲノムDNAを鋳型としてPCRを行う。PCRに用いるプライマーはフォワード側とリバース側の組み合わせが総当たりとなるようにする。この結果、DSAのアミノ酸配列の一部をコードする2種類の約200boのゲノムDNA断片を増幅することができた。これらの遺伝子断片がDSAをコードする遺伝子の一部であることは、この遺伝子配列の翻訳アミノ酸配列に前述のように決定されたDSAの内部アミノ酸配列と一致する配列が存在することから結論することができる。次いでこの特定した内部塩基配列をもとに作製したDSA遺伝子配列特異的プライマーを用いてcDNAを鋳型に5’-RACE法と3’-RACE法を行い、目的とするDSAの完全長cDNA配列の取得に必要なDSA遺伝子の5’-非翻訳領域と3’非翻訳領域の塩基配列の決定を行う。
【0035】
(4)全RNA画分の抽出
まず、チョウセンアサガオ種子からmRNAを含む全RNA画分を抽出する。チョウセンアサガオは、温室において4月から7月にかけて栽培し、開花6日から8日後の未熟なチョウセンアサガオの果実から採取した種子をmRNAの供給源とする。果実を採取した後に種子を取り出してただちに液体窒素で凍結し、使用まで-80℃で保存する。次いで、凍結した種子を液体窒素で冷却しながら粉砕し、RNAiso(タカラバイオ株式会社)やISOGEN(ニッポンジーン社)などの市販試薬を加えて全RNA画分を得る。またはRNAeasy Plant Mini Kit (キアゲン社)などのキットを用いても良い。抽出された全RNA画分はDNase処理を行って混入するゲノムDNAを除去した後にcDNA合成に用いる。DNase処理はTurbo DNA free Kit (Ambion社製)などのキットを用いて行うことができる。
【0036】
(5)cDNAの合成
こうして得られた全RNAを鋳型として、市販のキット、例えばBD SMART RACEキット(クロンテック社)等を用いて一本鎖cDNAを合成し、キットの説明書に従って5’-RACE法の鋳型となる5’-Ready cDNAライブラリーと3’-RACE法の鋳型となる3’-Ready cDNAライブラリーを調製する。
【0037】
(6)RACE法による完全長cDNAの取得
次に、5’-Ready cDNAライブラリーを鋳型に用いて5’-RACE法を、3’-Ready cDNAライブラリーを鋳型に用いて3’-RACE法を行う。5’-RACE法では、DSAのゲノムDNA断片の配列から設計した遺伝子特異的プライマーをリバース方向のプライマーに用いて、また3’-RACE法ではフォワード方向のプライマーとして用いてPCRを行い、まずDSAの5’端と3’端の非翻訳領域を含む配列を決定する。続いてそれらの配列から新たに5’側及び3’側の遺伝子特異的プライマーを作製して5’-Ready cDNAライブラリーを鋳型に用いてPCRを行い、目的とする完全長cDNAを取得する。
【0038】
3.DSA遺伝子
上記の方法により単離されたDSA遺伝子(cDNA)は、配列番号1に示す1030塩基からなる塩基配列を有し、配列番号2に示す279アミノ酸残基からなるチョウセンアサガオ種子由来のレクチンタンパク質のアミノ酸配列をコードしていた。
【0039】
しかしながら、本発明にかかるDSA遺伝子は、上記配列に限定されず、配列番号1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる他のポリヌクレオチドも、それが本発明のレクチン活性を有するDSAタンパク質をコードする限り、本発明の遺伝子に含まれる。ここで、ストリンジェントな条件下とは、例えば、5 X SSPE (0.75 M NaCl、43.3 mM リン酸ナトリウム、6.25 mM EDTA) 、5 x デンハルト試薬(0.1% BSA、0.1 % フィコール、0.1 % ポリビニルピロリドン)および0.5% SDSからなるハイブリダイゼーション緩衝液中において温度が45℃〜65℃、好ましくは55℃〜65℃である。
【0040】
なお本明細書中において、「遺伝子」という用語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNA及びcRNAも含むものとする。したがって、本実施形態の遺伝子には、常に配列表に示されるコーディング鎖とその相補鎖の両方が含まれ、該塩基配列を有するDNA、mRNA、cDNA、及びcRNAの全でが含まれる。また、配列表の塩基配列はすべでDNA配列としで記載するが、該配列がRNAを示す場含は、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする。
【0041】
また、本実施形態のDSAタンパク質も配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、該配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパクであっても、また、アミノ酸配列の一部のアミノ酸残基の側鎖が糖鎖修飾されているタンパク質であっても、それがレクチン活性を有する限り、本実施形態のDSAタンパク質に含まれる。なお、本明細書中において、「レクチン活性」とは、キチン結合性を有すること、または赤血球凝集活性を有することをいう。
【0042】
かくして一旦本実施形態の遺伝子とその塩基配列が確定されると、その後は化学含成によって、またはゲノムDNAやcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしでハイブリダイズさせることによって、さらに本実施形態の遺伝子を得ることができる。
【0043】
4.組換えDSAタンパク質の製造
以上に説明した本実施形態にかかるレクチン遺伝子によれば、優れた生産性で、均一な組成のチョウセンアサガオ由来のレクチンを組換え生産できる。
【0044】
DSAは、チョウセンアサガオ種子から精製できるが、天然の材料を用いる限り、品種の違いや栽培条件の違いによる製造ロットの性質の違いが発生する可能性がある。さらに、Broekaertらの報告によれば天然のチョウセンアサガオ種子から精製されたDSAは分子量の異なる2種のサブユニットから構成されるヘテロまたはホモ2量体であり、サブユニット構成により糖鎖認識の程度が異なる(非特許文献4)。本実施形態のDSAをコードする遺伝子を発現させることにより、均一なサブユニット構成の組換えDSAを得ることができる。
【0045】
DSAは、糖鎖研究用試薬はもとより、疾患に伴う糖鎖変化を検出するための臨床検査薬や、腫瘍増殖抑制作用を有する医薬品として利用されることが期待される。したがって、遺伝子工学的にDSAを大量生産することができれば、極めて効率的に均一なレクチンを取得する方法となる。このように、本明細書で開示される方法によれば、均一なチョウセンアサガオレクチンを取得可能とし、均一なチョウセンアサガオレクチンを含む試薬を提供することが可能となる。この試薬は、上述するように、糖鎖研究試薬や診断薬、さらには医薬品として使用することができる。
【0046】
また、本発明により提供されるチョウセンアサガオレクチンを用いて、糖鎖を検出する方法も提供することができる。このような糖鎖を検出する方法としては、上記試薬を用いる他、本発明により提供する均一なチョウセンアサガオレクチンを固定化させたカラムや、マイクロアレイなど、従来周知の方法を適用することができる。このような均一なレクチンを使用することで、安定した結合特異性および結合強度を提供することができ、研究や診断において非常に有力なツールを提供することができる。以下、本発明のDSA遺伝子を利用した組換えDSAの製造方法について述べる。
【0047】
1)組換えベクターの作製
DSA遺伝子を含む組換えベクターは、公知のベクターに本発明のDSA遺伝子を連結(挿入)することによって得ることができる。前記ベクターは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、ファージDNA等を用いることができる。
【0048】
前記プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pUC18、pUC19,pBlue Script等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばPUB110,pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13等のYEp系、YCp50等のYCp系)などが、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらにレトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターなどを用いてもよい。
【0049】
本発明に係るレクチン遺伝子を含む発現ベクターは、宿主において機能的な制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選抜マーカー等)を適宜含むことができる。なお選抜マーカーとしては、例えばアンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等を挙げることができる。発現ベクターにおいて、本発明に係るレクチン遺伝子は制御領域の制御下に配置される。また、本発明に係るレクチン遺伝子によりコードされるレクチンを他のタンパク質との融合タンパク質と発現させるために、発現ベクターにDSA遺伝子を当該他のタンパク質をコードする遺伝子と機能的に連結させても良い。
【0050】
前記ベクターヘの本発明のDSA遺伝子の挿入は、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの適当な制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が採用される。またはベクターと本発明に係るレクチン遺伝子のそれぞれ一部に相同な領域持たせることにより、試験管内における相同組換え反応を利用してベクターに挿入する方法であっても良い。
【0051】
2)形質転換体の作出
DSA遺伝子を導入した形質転換体は、上述の組換えベクターをDSAが発現しうる態様で宿主中に導入することによって得ることができる。ここで宿主としては、本発明のDSA遺伝子を発現できるのもであれば特に限定されず、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、またサッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、サル細胞(COS細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)等の動物細胞、あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞、タバコ細胞(BY2)などの植物細胞、及び植物(例えば、ナス科に属するタバコ(Nicotiana tabacum)、トマト(Solanum lycopersicum)、アブラナ科に属するシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))を挙げることができる。
【0052】
細菌への発現ベクターの導入法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0053】
酵母への発現ベクターの導入法としては、例えば酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
【0054】
動物細胞への発現ベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等が用いられる。
【0055】
昆虫細胞への発現ベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等が用いられる。
【0056】
植物を宿主とする場合は、植物全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子、果実等)または、植物カルス、植物培養細胞などが用いられる。植物への発現ベクターの導入方法としては、例えばパーティクルガン法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、ポリエチレングリコール法等が用いられる。
【0057】
本発明に係るレクチン遺伝子が宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、RT-PCR法等により行うことができる。
【0058】
3)DSAタンパク質の生産
本発明のDSAタンパク質は、前項2)記載の形質転換体を培養し、その培養物から該タンパク質を採取することによって得ることが出来る。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0059】
培養後、本発明のタンパク質が菌体内または細胞内に生産される場合は、菌体内または細胞を破砕する。一方、本発明のタンパク質が菌体内または細胞外に分泌される場合は、培養液をそのまま用いるか、遠心分離等によって菌体または細胞を除去後上清を得る。タンパク質の単離・精製には一般的に例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独あるいは適宜組み合わせて用いることにより、上記の培養物から本実施形態のDSAタンパク質を単離・精製することができる。
【実施例】
【0060】
A.DSAのアミノ酸配列解析
チョウセンアサガオの果実から採取した完熟種子は使用まで-30℃において冷凍保存した。冷凍保存したチョウセンアサガオ種子5 gを乳鉢を用いて粉砕した。種子粉砕物に100mlのPBS(生理食塩水)を加えて懸濁し、4℃で一晩ゆるやかに混合した後にガーゼでろ過てろ液を回収した。このろ液は15,000 x gで20分の遠心分離を行って遠心分離後の上清に種子抽出液を得た。種子抽出液は70℃で15分間の熱処理を行い、熱処理により生じた不溶物を15,000 x gで20分の遠心分離により除去した。熱処理後の上清90mlを0℃に氷冷し、そこに-20℃に冷却したアセトン22.5 mlを加えた。この混合物を氷上で10分間静置した後に、生じた不溶物を同様に遠心分離を用いて除去した。遠心分離上清157.5mlに冷却したアセトンを加え-20℃の冷凍庫中で3時間静置した。遠心分離後の沈殿を回収し、は50mlのPBSに溶解した。この溶液は3リットルのPBSに対して4℃で4時間透析した後に、透析外液を捨て、さらに3リットルのPBSに対して4℃で一晩透析した。透析後のチョウセンアサガオ種子抽出液は、4mlのキチンゲルカラムに添加した。キチンゲルカラムはカラム溶出液の280nmの吸光度が0.05以下になるまでPBSを用いて洗浄した。カラムに結合したレクチンは、20mlの1,3−ジアミノプロパン溶液を添加して溶出した。カラム溶出液はPBSに対して透析した。透析後のキチンゲルカラム溶出液はトヨパールHW-55Fゲルろ過カラム(1.5cm×90cm)に添加した。カラムはPBSを用いて溶出し、赤血球凝集活性を示す溶出画分を回収した。
【0061】
精製されたDSAはジチオスレイトールで還元し、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。DSAは、電気泳動後のゲルからPVDF膜に転写した。PVDF膜に転写されたDSAのN末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーにより解析し、N末端配列を特定した(配列番号4)。また、PVDF膜上のDSAは還元カルボキシメチル化した後にTPCK処理トリプシンにより消化され、PVDF膜から遊離したペプチド断片は逆相カラムを用いたHPLCを用いて分離した。これらのペプチド断片のアミノ酸配列をプロテインシークエンサーを用いて分析することにより9個のアミノ酸配列(配列番号5〜13)を特定することができた。なお、下記アミノ酸配列中Oはヒドロキシプロリン残基を、Xは未同定のアミノ酸残基を示す。
N末端アミノ酸配列:AQPYSE (配列番号4)
内部アミノ酸配列
(Peptide T-4) CGIQAGGRR(配列番号5)
(Peptide T-7) DRCGWQADGR(配列番号6)
(Peptide T-8) HCNPNNCQSQ(配列番号7)
(Peptide T-5) LPSOXOOOO(配列番号8)
(Peptide T-10) SCPTGVCCSE(配列番号9)
(Peptide T-12) CPNGMCCSYTGXCGNTS(配列番号10)
(Peptide T-14) KCPTGVCCSL(配列番号11)
(Peptide T-15) CPTGVCCSLS(配列番号12)
(Peptide T-16) CGWQADGGVCPTGVCCSL(配列番号13)
これらのアミノ酸配列に基づき、以下の手順でレクチン遺伝子のクローニングを試みた。
【0062】
B.DSA遺伝子のクローニング
1.ゲノムDNAの抽出
無菌的に播種してグロースチャンバー内で25℃において育てたチョウセンアサガオの茎と葉1gを液体窒素で冷却しながら乳鉢を用いて粉砕した。粉砕した茎と葉からゲノムDNAを精製した。
【0063】
2.RNAの抽出
チョウセンアサガオのRNAは市販のキットRNeasy Plant mini Kit (キアゲン社製)を用いて抽出した。すなわち受粉後6日の果実から採取し-80℃にて保存していた未熟チョウセンアサガオ種子1.7gを液体窒素で冷却しながら乳鉢を用いて粉砕した。粉砕した種子0.1gをキットの説明書にしたがって処理し、RNAを得た。RNAはDNase処理をして混入すると予想されるゲノムDNAを除去した。DNase処理は市販のキットTurbo DNA free Kit (Ambion社製)を用いて説明書に従っておこなった。
【0064】
3.cDNAの合成
精製したRNAからのcDNA合成は市販のキットBD SMART RACEキット(クロンテック社)を用いて付属の説明書に従って行った。すなわち、830 ngのRNAを含むRNA溶液3μlを用いて100μlの5’-RACE ready cDNAライブラリーと100μlの3’-RACE ready cDNAライブラリーを調製した。
【0065】
4.チョウセンアサガオゲノムDNAを用いた縮重プライマーによるPCR
(1)縮重プライマーの設計
調製したゲノムDNAに対して縮重プライマーを用いたPCRを行った。縮重プライマーは、解読した該レクチンタンパク質の部分アミノ酸配列(配列番号5、6、7、8)を基に、チョウセンアサガオと同じナス科に属するトマト果実由来のレクチンのcDNA配列情報から使用コドンを限定する独自の工夫を加味して設計し化学合成した。ペプチドのアミノ酸配列についてフォワードとリバースの二方向のDNAプライマーを設計した
【0066】
(フォワードプライマー)
DSA 1F(Forward primer): 5’-CGITGYGGMATHCAAGCTGGIGG-3’(配列番号14)
DSA 2F(Forward primer):
5’-CGGTGCGGATGGCAAGCTGATGGTAG-3’(配列番号15)
DSA 3F(Forward primer): 5’-TTACCGTCACCTCCTCCTCCACC-3’(配列番号16)
DSA 4F(Forward primer): 5’-CAYTGYAAYCCIAAYAAYTGTCA-3’(配列番号17)
(リバースプライマー)
DSA 1R(Reverse primer): 5’-CCICCAGCTTGDATKCCRCAICG-3’(配列番18)
DSA 2R(Reverse primer): 5’-CTACCATCAGCTTGCCATCCGCACCG-3’(配列番号19)
DSA 3R(Reverse primer):5’-GGTGGAGGAGGAGGTGACGGTAA-3’(配列番号20)
DSA 4R(Reverse primer):5’-TGACARTTRTTIGGRTTRCARTG-3’(配列番号21)
HはG以外、MはA又はC、YはCまたはT、Iはイノシン、をそれぞれ表す。
【0067】
PCR反応は市販のキットBlend Taq(東洋紡社)を用いて、付属の10x Blend Taq Buffer、 dNTP mixtureおよびBlend Taqを用いて行った。PCR反応組成およびPCR反応条件は表1、表2に示すとおりである。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(2)ゲノムDNAを鋳型としたPCR
まず、先に得られたゲノムDNAを鋳型とし、フォワードプライマーとリバースプライマーは総当りになるように組み合わせてPCRを行った。このPCRによりDNA断片が増幅されたことをPCR産物のアガロースゲル電気泳動及びエチジウムブロマイド染色にて確認した。結果を図1に示す。
【0071】
(3)PCRによって増幅されたゲノムDNA断片のサブクローニングと配列解析
次に、DSA 1FとDSA 2Rの組み合わせを用いたPCRにおいて増幅された約200bpのDNA断片(図1 lane 1)を定法に従い精製した。該DNA断片をpT7-Blue Tベクター(Novagen社)にサブクローニングし、該DNA断片を含むプラスミドDNAは、アルカリSDS法を用いて調製した。次に、Big Dye Terminator cycle sequencing kit ver. 3(アプライドバイオシステムス社)を用いてキット付属の説明書に従って当該プラスミドDNA中の得られた増幅断片の塩基配列をABI prism 310 Genetic analyzer(アプライドバイオシステムス社)にて同定した。
【0072】
得られた蛍光パターンから塩基配列を分析した。塩基配列を分析した結果、縮重プライマーDSA 1FとDSA 2Rを用いて行ったPCRで得られたゲノムDNA断片は、それぞれDSA#1-1とDSA#1-6と命名された164bpの異なる配列からなる2種のDNA断片を含んでいたことが明らかになった。図2にDSA#1-1の塩基配列分析の結果と予想翻訳アミノ酸配列を示し、図3にDSA#1-6の塩基配列分析結果と予想翻訳アミノ酸配列を示した。なお、増幅に用いたプライマー配列を矢印で示した。また、DSAの内部アミノ酸配列と一致した部分を下線で示した。DSA#1-1とDSA#1-6の塩基配列から予想されたアミノ酸配列は前述のDSAのアミノ酸配列と一致したことから、これらのDNA断片はDSAのアミノ酸配列をコードしているゲノムDNAの一部であることが確認された。また、DSA#1-1とDSA#1-6の塩基配列はストップコドンを含んでいなかった。
【0073】
5.5’-RACEによるDSAのN末端をコードするcDNA配列の決定
縮重プライマーDSA 1FとDSA 2Rを用いて行ったPCRで得られたゲノムDNA断片はストップコドンを含んでいなかったことから、DSA遺伝子の内部に相当すると予想された。そこで、DNA断片の上流領域に存在するDSAのN末端側アミノ酸配列をコードするcDNA塩基配列を5’-RACEを用いて解析した。
【0074】
(1)プライマー設計
先に決定したゲノムDNA DSA#1-1の塩基配列から以下に示す縮重を持たないDSA遺伝子特異的プライマーを作製した。
DSA 5R:
5’-GGCCTGAACATTGGCTTTGACAGATTTCGG-3’ (配列番号22)
【0075】
(2)5’-RACE
5’-RACEは市販のキットBD SMART RACEキット(クロンテック社)を用いて付属の説明書に従って実施した。先に調製した5’-RACE ready cDNAライブラリーを鋳型に用いてPCRを行った。PCRはKOD Plus DNAポリメラーゼキット(東洋紡社)を用いて、プライマーは、BD SMART RACEキットに付属のプライマーUPMとアンチセンスプライマーDSA 5Rを用いて行った。PCR反応液の組成及びPCR反応条件は表3と表4に示す通りである。5’-RACEによるPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、DNA断片の増幅を確認した。結果は図4に示した。UPMとアンチセンスプライマーDSA 5Rを用いたPCRのみに約700bpのDNA断片が特異的に増幅され(図4レーン1)、UPMのみまたはDSA 5Rプライマーのみ(図4レーン2またはレーン3)のPCR反応液ではこの断片が増幅されないことを確認した。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
(3)5’-RACEにより増幅されたDNA断片のサブクローニング
5’-RACEにより増幅された約700bpのDNA断片を電気泳動後のアガロースゲルから切り出してDNA断片を回収した。回収されたDNA断片はTArget cloneキット(東洋紡社) を用いてキットに付属の説明書に従ってアデノシンを付加し、pT7 Blue-T vectorにサブクローニングした。クローニングされたDNA断片の塩基配列は、前述の方法と同様に解析した。
【0079】
このようにして5’-RACEで得られたDNA断片の塩基配列を解析した結果を図5に示した。なお、増幅に用いたプライマー配列を矢印で示し、DSAの内部アミノ酸配列と一致した部分を下線で示した。また、破線はキット由来の人工配列(BD-SMART RACE IIオリゴDNA)配列を示した。該DNA断片は5’端に52bpのアダプター配列を持ちその下流に665bpのcDNAを含む717bpの大きさであり、縮重プライマーを用いたPCRにより増幅されたゲノムDNA配列DSA#1-1とDSA#1-6が含まれていた。さらに、そこから推定されるアミノ酸配列は前述のDSAのN末端配列と内部アミノ酸配列を含んでいた。このことから、5’-RACEで得られたDNA断片は、DSA遺伝子の5’端のcDNA配列と考えられた。
【0080】
6. 3’-RACEによるDSAのC末端をコードするcDNA配列の決定
縮重プライマーDSA 1FとDSA 2Fを用いて行ったPCRで得られたゲノムDNA断片はストップコドンを含んでいなかったことから、DSA遺伝子の内部に相当すると予想された。そこで、DNA断片の上流領域に存在するDSAのC末端側アミノ酸配列をコードするcDNA塩基配列を3’-RACEを用いて解析した。
【0081】
(1)プライマー設計
先に決定したゲノムDNA DSA#1-6の塩基配列から以下に示す縮重を持たないDSA遺伝子特異的プライマーを作製した。
DSA 6F: 5’-GGGGTCGACG ATGTCCTAAT GGAATG-3’(配列番号23)
【0082】
(2)3’-RACE
3’-RACEは市販のキットBD SMART RACEキット(クロンテック社)を用いて付属の説明書に従って実施した。先に調製した3’-RACE ready cDNAライブラリーを鋳型に用いてPCRを行った。PCRはKOD Plus DNAポリメラーゼキット(東洋紡社)を用いて、プライマーは、BD SMART RACEキットに付属のプライマーUPMとセンスプライマーDSA 6Fを用いて行った。反応液の組成及び反応条件は表5と表6に示す通りである。3’-RACEによるPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、DNA断片の増幅を確認した。結果は図4に示した。UPMとセンスプライマーDSA 6Fを用いたPCRのみに約900bpのDNA断片が特異的に増幅され(図4レーン4)、UPMのみまたはDSA 6Fプライマーのみ(図4レーン5またはレーン6)のPCR反応液ではこの断片が増幅されないことを確認した。
【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
(3)3’-RACEにより増幅されたDNA断片のサブクローニング
3’-RACEにより増幅された約900bpのDNA断片を電気泳動後のアガロースゲルから切り出してDNA断片を回収した。回収されたDNA断片はTArget cloneキット(東洋紡社) を用いてキットに付属の説明書に従ってアデノシンを付加し、pT7 Blue-T vectorにサブクローニングした。クローニングされたDNA断片の塩基配列は、前述の方法と同様に解析した。
【0086】
このようにして3’-RACEで得られたDNA断片の塩基配列を解析した結果を図6に示した。なお、増幅に用いたプライマー配列を矢印で示し、DSAの内部アミノ酸配列と一致した部分を下線で示した。また、破線はキット由来の人工配列(BD-SMART RACE IIオリゴDNA)部分を示した。該DNA断片は910bpの大きさを持ち、縮重プライマーを用いたPCRにより増幅されたゲノムDNA配列DSA#1-6が含まれていた。さらに、そこから推定されるアミノ酸配列は前述のDSAの内部アミノ酸配列を含んでいた。該DNA断片はストップコドンとポリA配列を含んでいたことから、DSAのcDNA配列の3’側に該当することが明らかになった。
【0087】
7.RT−PCRによるDSA遺伝子をコードする完全長cDNA配列の決定
5’-RACE法と3’-RACE法を用いて上記のようにDSAをコードするcDNAの5’端または3’端を含む遺伝子断片を単離することができた。両遺伝子断片はそれぞれ245bpのオーバーラップする配列を含んでいたことから、一つのcDNAを鋳型としてPCRにより別々に増幅されたと考えられた。5’-RACE法と3’-RACE法により決定された遺伝子配列を含むDSAをコードする完全長cDNAを単離するためにチョウセンアサガオ種子cDNAを鋳型としたRT-PCRを行った。
【0088】
(1)プライマー設計
先に決定した5’-RACE法により増幅されたDNA断片の塩基配列の中で、DSA遺伝子特異的なcDNA配列の5’端の塩基配列から以下に示すDSA遺伝子特異的フォワードプライマーDSA 7Fを設計した。また、3’-RACE法により得られたDSA遺伝子特異的なcDNA配列の3’端の塩基配列から以下に示すDSA遺伝子特異的リバースプライマーDSA 8Rを設計した。両プライマーは化学合成した後にベクターへのサブクローニングのためにT4DNAポリヌクレオチドキナーゼを用いて5’端をリン酸化した。
DSA 7F: 5’-GATAACAACCCACAAAATGATGAGAATGAG
-3’(配列番号24)
DSA 8R: 5’- GCTATTTTAATTTAGACAAAAGTTCTTTATTTATTTTATTAATTA-3’(配列番号25)
【0089】
(2)RT-PCR
RT-PCRは先に調製した5’-RACE ready cDNAライブラリーを鋳型に用いた。PCRはKOD Plus DNAポリメラーゼキット(東洋紡社)を用いて、プライマーは、DSA 7FとDSA 8Rを用いて行った。PCR反応液の組成及びPCR反応条件は表7と表8に示す通りである。RT-PCRによるPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、DNA断片の増幅を確認した。結果は図7に示した。DSA 7FとDSA 8Rを用いたPCRのみに約1000bpと約800bpのDNA断片が特異的に増幅され(図7レーン1)、DSA 7FのみまたはDSA 8Rプライマーのみ(図7レーン2またはレーン3)のPCR反応液ではこの断片が増幅されないことを確認した。
【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
(3)RT-PCRにより増幅された約1000bpのDNA断片のサブクローニング
RT-PCRにより増幅された約1000bpのDNA断片を電気泳動後のアガロースゲルから切り出してDNA断片を回収した。回収されたDNA断片は、pT7 Blue-Blunt vector (Novagen社)にサブクローニングした。クローニングされたDNA断片の塩基配列は、前述の方法と同様に解析した。
【0093】
このようにしてRT-PCRで得られたDNA断片の塩基配列を解析した結果からDSAのcDNAの全長配列(配列番号1)が決定された。該配列は、開始コドン(Met)からストップコドンまでの配列番号2に示した279アミノ酸残基をコードする1030bpの塩基配列を含んでいた。得られたアミノ酸配列(配列番号2)は先に決定したN末端アミノ酸配列(配列番号4)および配列番号5から配列番号13に示した内部アミノ酸配列とすべて一致することが確認された。
【0094】
cDNA配列から推定されたアミノ酸配列(配列番号2)は、植物由来のキチン結合性レクチンに広く保存されるキチン結合ドメインを4個含むことがモチーフ検索により明らかにされ、配列番号2に示されたタンパク質はキチン結合性を有するタンパク質であることが示された。
【0095】
以上の結果から、配列番号1に示す塩基配列及びそのコードされているアミノ酸配列は、DSAをコードする遺伝子およびその対応するアミノ酸配列であることが確認された。
【0096】
図8は、5’-RACE法により得られた2種のクローンのcDNA塩基配列を比較した図である。clone 1はDSA遺伝子(配列番号1)から派生した5’-RACEクローンである。clone 2はclone 1と同一のcDNAライブラリーからクローニングされた。両者の一致した塩基は*で示した。また、図9は、図8に示した5’-RACE法により得られた2種のクローンのcDNA塩基配列から推定された翻訳アミノ酸配列を比較した図である。両者の一致したアミノ酸残基は*で示した。
【0097】
配列番号3に非翻訳領域を含む部分cDNA配列を記載するが、5’-RACE法で得られたクローンの中には、48bp塩基配列の欠失のためにアミノ酸が16残基欠失した短いクローンもあった(図8および図9)。この遺伝子は、配列番号2に示したアミノ酸配列を有するDSAとイソレクチンの関係にあるレクチン分子をコードするcDNAの5’端部分の遺伝子断片であり、そのアミノ酸配列は配列番号2のアミノ酸番号155(Pro)からアミノ酸番号170(Pro)までを欠失したものと考えられる。
【0098】
なお、RT-PCRにより増幅された約800bpのDNA断片の塩基配列を決定したところ、DSA遺伝子と異なる塩基配列を持つことが判明した。この遺伝子配列から推定されたアミノ酸配列は、配列番号2に示すDSAのアミノ酸配列と相同性を有するものの、3個のキチン結合ドメインで構成され、先に決定されたDSAの内部配列Peptide-16(配列番号12)と一致する配列が無かった。このことからDSAと別種のキチン結合タンパク質遺伝子であると結論した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号2であらわされるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2であらわされるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつレクチン活性を有するタンパク質。
【請求項2】
以下の(c)または(d)のDNAからなる遺伝子。
(c)配列番号1であらわされる塩基配列からなるDNA。
(d)配列番号1であらわされる塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつレクチン活性を有するタンパク質をコードするチョウセンアサガオ由来のDNA。
【請求項3】
以下の(a)または(b)の組換えタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又はまたは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつレクチン活性を有するタンパク質。
【請求項4】
請求項1又は2記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項5】
請求項1又は2記載の遺伝子を宿主に導入して得られる形質転換体。
【請求項6】
請求項5記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からレクチンタンパク質を採取する、レクチンタンパク質の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載のタンパク質を二量体として有するレクチンタンパク質を含む試薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−200135(P2011−200135A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68488(P2010−68488)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【Fターム(参考)】