説明

チルドまたは冷凍米飯用品質改良剤

【課題】チルドまたは冷凍された米飯を加熱することなく常温に戻した際の米飯の外観および食感の劣化を抑制することができる米飯用品質改良剤を提供すること。
【解決手段】(a)プロテアーゼ、(b)ペクチンおよび/またはタマリンドシードガム、および(c)グリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルドまたは冷凍される米飯の品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、米飯は温かい状態で食される場合と、すしのシャリやおにぎりなどの様に常温まで冷ました状態で食される場合とがある。近年米飯は、チルドや冷凍の状態で流通し、スーパーやコンビニエンスストアーで取り扱われることが多くなり、消費者が食す際に電子レンジなどで加熱して温めたり、加熱せずに常温まで戻した後に食されている。
チルドまたは冷凍されたすしのシャリやおにぎりなど常温で食される米飯は、加熱することなく常温に戻している。しかし、加熱することなく常温に戻した米飯は、米飯のツヤや透明感が低下し、さらに硬く、粘りの無い食感になるという問題点があった。
【0003】
チルドまたは冷凍米飯の食感や外観の改善方法の従来技術としては、クエン酸塩と糖アルコールとを含むことを特徴とする米飯改良剤(特許文献1参照)、うるち米の精米の炊飯米を用いた食品添加物を含有する米飯食品であって、常温以上の温度帯で自然解凍して喫食できる冷凍米飯食品(特許文献2参照)、醸造酢、糖類および増粘剤を含有することを特徴とする米飯の品質改良剤(先行文献3参照)、有機酸塩と澱粉分解酵素を含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用改良剤(先行文献4参照)、(a)プロテアーゼおよび(b)ペクチンまたはタマリンドシードガムを含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用改良剤(先行文献5参照)などが開示されている。
しかし上記した技術では、チルドまたは冷凍の米飯を加熱することなく常温に戻した際、米飯の外観は悪く、食感の劣化は完全に抑制されておらずさらに良い方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−215476号公報
【特許文献2】特開平11−75733号公報
【特許文献3】特開2001−17099号公報
【特許文献4】特開2006−75104号公報
【特許文献4】特開2008−245582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、チルドまたは冷凍された米飯を加熱することなく常温に戻した際の米飯の外観および食感の劣化を抑制することができる米飯用品質改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、プロテアーゼ、ペクチンおよび乳化剤を加えることにより上記課題を解決すること見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(a)プロテアーゼ、(b)ペクチンおよび/またはタマリンドシードガム、および(c)グリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする米飯用品質改良剤、からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤を用いることにより、チルドおよび冷凍の米飯を加熱することなく常温にもどした際の外観および食感(米の粒々感、粘り感)の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるプロテアーゼとしては、特に制限はなく、例えば、アスペルギルス属、ムコール属、リゾープス属、ペニシリウム属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、バシルス属などに属する各種微生物から採取することのできるプロテアーゼ;植物から採取することのできるブロメライン、パパインなどのプロテアーゼ;および動物の臓器などから採取されるトリプシン、ペプシンなどのプロテアーゼが挙げられ、好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)属菌起源の中性プロテアーゼである。アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼとしては、例えば、プロテアーゼP「アマノ」3G(起源:Aspergillus melleus;天野エンザイム社製)、デナチームAP(起源:Aspergillus oryzae;ナガセケムテックス社製)スミチームFP(起源:Aspergillus oryzae;新日本化学工業社製)、スミチームNPL180(起源:Aspergillus oryzae;新日本化学工業社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0009】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤100質量%中のプロテアーゼの含有量は、通常約0.05〜5質量%、好ましくは約0.1〜1質量%である。
【0010】
本発明で用いられるペクチンとは、柑橘類やリンゴなどから得られたメチル化ポリガラクチュロン酸などの多糖類を成分とするものであり、例えば、高メトキシルペクチン(HM)、低メトキシルペクチン(LM)などが挙げられ、好ましくは高メトキシルペクチンである。
【0011】
本発明で用いられるタマリンドシードガムとは、豆科タマリンド(Tamarindus indica LINNE)の種子の胚乳部より、温時〜熱時水若しくはアルカリ性水溶液で抽出して得られるものまたはこれを酵素(β−ガラクトシダーゼ、ラクターゼ)処理したものであり、主成分は多糖類である。用いられるタマリンドシードガムとしては、特に制限はないが、好ましくは低粘度タイプのものである。
【0012】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤100質量%中のペクチンおよび/またはタマリンドシードガムの含有量は、通常約2〜60質量%、好ましくは約10〜40質量%である。
【0013】
本発明で用いられるグリセリン脂肪酸エステルとしては、食品添加物として使用が許可されているグリセリン脂肪酸エステルであればよく、例えばグリセリンと脂肪酸とのエステル反応物、グリセリン酢酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、およびポリグリセリン縮合リシノール酸エステルなどが挙げられる。これらのグリセリン脂肪酸エステルは、一種または二種以上を用いることができる。好ましくは、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0014】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤100質量%中の乳化剤の含有量は、通常約1〜30質量%、好ましくは約5〜20質量%である。
【0015】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の形状に特に制限はないが、好ましくは粉末製剤である。その製剤化に際しては、賦形剤として例えば、ブドウ糖、果糖などの単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖などのオリゴ糖類、デキストリン、粉末水飴などのでん粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースなどのマルトオリゴ糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴などの糖アルコール類、乳清蛋白質などを用いることができ、好ましくはDE値が約5〜20のデキストリンが挙げられる。
ここでDE値とは、「Dextrose equivalent」の略称で、澱粉の加水分解の程度を示す指標であり、DE値が低い程、加水分解の程度が低く分子量が大きいことを意味する。
【0016】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤100質量%中の賦形剤の含有量は、通常約20〜90質量%、好ましくは約40〜70質量%である。
【0017】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤には、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマール酸、コハク酸、アジピン酸、グルコン酸などの有機酸のナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、およびグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤などを併用してもよい。
【0018】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤は、プロテアーゼ、ペクチンおよび/またはタマリンドシードガム、および乳化剤などの原材料を均一に混合することにより得られる。原材料を均一に混合する装置としては公知の混合装置を用いることができ、例えば、V型や二重円錐型に代表される容器回転型混合機、リボン型や縦型攪拌羽根に代表される機械攪拌型混合機など一般に食品工業で使用されている混合機が挙げられ、好ましくは容器回転型混合機、IBCブレンダー(マトコン・ジャパン社製)などである。
【0019】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤は、米飯の炊飯時に添加して用いられる。具体的な使用方法としては、例えば生米またはその洗米と該米飯改良剤を炊飯器に入れ、そこへ水を加えて炊飯する方法、炊飯器に生米またはその洗米を入れ、そこへ予め水に該米飯用品質改良剤を分散させて加え炊飯する方法などが挙げられる。炊飯に用いられる水の量に特に制限はなく、例えば生米質量の1.6〜1.8倍の加水量で炊飯することができる。
【0020】
本発明のチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の添加量に特に制限はないが、好ましくは生米100質量%に対し約0.1〜3.0質量%、さらに好ましくは約0.3〜1.5質量%である。
【0021】
本発明で用いることのできる炊飯器の種類としては特に制限はなく、例えば電気炊飯器やガス炊飯器や電磁加熱型炊飯器、蒸気式炊飯器、圧力釜炊飯等それらのバッチ式または連続式炊飯器、炊飯設備が挙げられる。
【0022】
本発明における米飯としては、精白米を炊飯して得られる米飯の他に、例えば玄米ご飯、赤飯、おこわ、炊き込み御飯、ピラフ、チャーハン、ドライカレー、すし、おにぎりなどが挙げられる。特に加熱せずに常温に戻して食される、すし、おにぎりなどが好適である。
【0023】
以下に実施例を挙げて更に詳しく本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
<チルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の作製>
(1)原材料
プロテアーゼ(商品名:スミチームNPL180;新日本化学工業社製)
ペクチン(商品名:GENUPectinTypeBIG−J;三晶社製)
タマリンドシードガム(商品名:グリエイト;大日本住友製薬社製)
モノグリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMMスーパーV;理研ビタミン社製)
ジグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムJ−2081V;理研ビタミン社製)
デキストリン(商品名:パインデックス♯2;松谷化学工業社製、DE値=11)
【0025】
(2)チルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の配合
上記原材料を用いて作製したチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の配合組成を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
(3)チルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の作製
表1に示した配合に基づいて、各原材料を混合しチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤を下記の方法で作製した。尚、チルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の1回の作成量は5000gとした。
各原材料をロッキングミキサー(型式:RM−30:愛知電機社製)に入れ、揺動かしながら15分間回転した後にJIS標準ふるい(ふるい番号16:目開き1.0mm)で篩い、通過したものをチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤(実施例品1〜5、比較例品1〜5)とした。
【0028】
<チルドまたは冷凍米飯用品質改良剤の評価>
(1)チルド米飯の作製(試験区1〜10)
生米(商品名:洗わず炊けるあきたこまち)320gに水を544gとチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤(実施例品1〜5、比較例品1〜5)各3.2gを加えて混合し、室温で30分間静置した後、これを電気炊飯器(型式:JNL−T551:タイガー魔法瓶社製)で炊飯した。炊飯時間は約20分、蒸らし時間は約10分とした。次に、炊き上がった米飯を軽く撹拌した後、ポリ袋に100gづつ充填して密封し、約5℃の冷蔵庫(型式:503D;日立冷熱社製)内で72時間保管してチルド米飯(試験区品1〜10)を得た。
【0029】
(2)冷凍米飯の作製(試験区11〜20)
(1)チルド米飯の作製と同様の方法で炊飯した米飯をポリ袋に充填して密閉した後、急速冷凍庫(型式:233FFB;大和冷機工業社製)で急速凍結運転(−33℃、3時間)を行い、その後に冷凍庫内(約−20℃)で72時間保管して冷凍米飯(試験区品11〜20)を得た。
【0030】
(3)評価方法
得られたチルド米飯(試験区品1〜10)および冷凍米飯(試験区品11〜20)を下記方法で加熱せずに常温に戻し、米飯の外観を目視で評価し、食感(ご飯の粒々感、粘り感)を官能で評価した。各評価は下記表2に示す評価基準に従い20名のパネラーで評価を行ない、評点の平均点を求め、以下の基準にしたがって記号化した。その結果を表3に示す。
◎: 平均値3.5以上
〇: 平均値2.5以上3.5未満
△: 平均値1.5以上2.5未満
×: 平均値1.5未満
【0031】
チルド米飯を加熱せずに常温に戻す方法は、チルド米飯を常温(約20℃)で1時間静置して常温(約20℃)に戻した。また、冷凍米飯を加熱せずに常温に戻す方法は、冷蔵保管庫内(約5℃)で24時間静置して自然解凍した後、常温(約20℃)で1時間静置して常温(約20℃)に戻した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】


結果より、実施例品1〜5を用いたチルド米飯(試験区品1〜5)は、米粒の表面が白蝋化することなく、米飯本来の粒々感およびモッチリとした食感を有していた。実施例品1〜5を用いた冷凍米飯(試験区品11〜15)も同様に米粒の表面が白蝋化することなく、米飯本来の粒々感およびモッチリとした食感を有していた。
比較例品1〜5を用いたチルド米飯(試験区品6〜10)は、米飯の表面は白蝋化し、粒々感がない食感、および/またはぼそぼそとした食感となった。比較例品1〜5を用いた冷凍米飯(試験区品16〜20)も同様に、米粒の表面が白蝋化し、粒々感がない食感、および/またはぼそぼそとした食感となった。この様に、比較例品1〜5を用いたチルド米飯および冷凍米飯は、外観、食感(ご飯の粒々感、粘り感)を同時に改善することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プロテアーゼ、(b)ペクチンおよび/またはタマリンドシードガム、および(c)グリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするチルドまたは冷凍米飯用品質改良剤。