説明

ツイストドリル

【解決手段】ツイストドリルにおいて、直線状シンニング切刃10から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成したすくい面のすくい角と、直線状主切刃11から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成したすくい面のすくい角とを互いに一定角度(0度)に設定するとともに、直線状シンニング切刃10と直線状主切刃11との間の境界角部14から延びる境界縁15でこれらのすくい面12,13を互いに交差させている。
【効果】すくい面12,13間の不連続を極力なくし、切削時の引っ掛かり現象を生じにくくしてシンニング切刃10や主切刃11の欠損を防止することができるとともに、シンニング切刃10や主切刃11で生じる切削力が極力同じ向きで働くようにして切削能力を高めることができる。従って、高硬度鋼用のツイストドリルに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チゼルエッジから延びるシンニング切刃とそのシンニング切刃から延びる主切刃とを有するツイストドリルにおいて、それらの切刃の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1で開示された従来のツイストドリルにおいては、図3に示すように、ドリル本体に形成された螺旋状主切屑排出溝4が開放された両切削端部3で、チゼル部2の心厚を削り落としたシンニング部9により形成されてチゼルエッジ2aから延びるシンニング切刃10と、そのシンニング切刃10から延びる主切刃11とが設けられている。
【特許文献1】特開平7−112311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1では、シンニング切刃10と主切刃11との間の境界部がアール状になっているため、このシンニング切刃10から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成されたすくい面と、この主切刃11から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成されたすくい面とを互いにつなぐアール状境界部のすくい面では、シンニング切刃10のすくい面のすくい角や主切刃11のすくい面のすくい角とは異なるすくい角が多数生じ、これらのすくい面が互いに不連続になって切削時に引っ掛かり現象が生じ易くなり、シンニング切刃10や主切刃11の欠損の原因になるおそれがあった。また、すくい角の異なる多数のすくい面が存在するため、シンニング切刃10や主切刃11で生じる切削力の向きが分散し易くなり、切削能力が低下する原因になっていた。
【0004】
この発明は、ツイストドリルの切刃を改良して、このようなすくい面の不連続を極力なくし、切削時の引っ掛かり現象を生じにくくしてシンニング切刃や主切刃の欠損を防止するとともに、シンニング切刃や主切刃で生じる切削力が極力同じ向きで働くようにして切削能力を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
後記実施形態の図面(図1〜2)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明にかかるツイストドリルは、下記のように構成されている。
ドリル本体1の先端部でドリル本体1の回転中心線1a上に形成したチゼル部2の外周に、切刃7を有する複数の切削端部3と、この切削端部3に隣接して開放した複数の螺旋状主切屑排出溝4とをドリル本体1の回転方向Xへ交互に並べている。この各切削端部3における回転方向Xの両側の端縁5a,5bのうち回転向きXF側の端縁5aに前記チゼル部2から切削端部3の外周部6側へ延びる前記切刃7を先端切刃角θを有するように形成している。この各切削端部3には逃げ角αを有する逃げ面8をこの切刃7からこの回転向きXFに対する反対向きXR側へ形成するとともにすくい角β12,β13を有するすくい面12,13をこの切刃7から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成している。前記各切刃7は、チゼル部2の心厚Tを削り落としたシンニング部9により形成されてチゼルエッジ2aから直線状に延びるシンニング切刃10と、そのシンニング切刃10から前記切削端部3の外周部6まで直線状に延びる主切刃11とを有している。この直線状シンニング切刃10から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成したすくい面12のすくい角β12をこの直線状シンニング切刃10の延設方向全範囲にわたり一定角度に設定するとともに、この直線状主切刃11から螺旋状主切屑排出溝4側へ形成したすくい面13のすくい角β13をこの直線状主切刃11の延設方向全範囲にわたり一定角度に設定し、この直線状シンニング切刃10と直線状主切刃11との間の境界角部14から延びる境界縁15でこれらのすくい面12,13を互いに交差させている。
【0006】
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明においては、前記直線状シンニング切刃10のすくい面12のすくい角β12と、前記直線状主切刃11のすくい面13のすくい角β13とを互いに等しい角度で設定している。
【0007】
請求項1の発明を前提とする請求項3の発明においては、前記直線状シンニング切刃10のすくい面12のすくい角β12と、前記直線状主切刃11のすくい面13のすくい角β13とを互いに異なる角度で設定している。
【0008】
請求項2または請求項3の発明を前提とする請求項4の発明においては、前記直線状シンニング切刃10のすくい面12のすくい角β12と、前記直線状主切刃11のすくい面13のすくい角β13とのうち、少なくともいずれか一方のすくい角β12,β13は、0度に設定されている。
【0009】
請求項1から請求項4のうちいずれか一つの請求項の発明を前提とする請求項5の発明においては、前記切削端部3と螺旋状主切屑排出溝4とをそれぞれ一対設けている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ツイストドリルにおいて、すくい面12,13間の不連続を極力なくし、切削時の引っ掛かり現象を生じにくくしてシンニング切刃10や主切刃11の欠損を防止することができるとともに、シンニング切刃10や主切刃11で生じる切削力が極力同じ向きで働くようにして切削能力を高めることができる。従って、本発明は高硬度鋼用のツイストドリルに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態にかかるツイストドリルについて図1〜2を参照して説明する。
ドリル本体1の先端部でドリル本体1の回転中心線1a上に形成されたチゼル部2の外周に、一対の切削端部3と、この切削端部3に隣接して開放された一対の螺旋状主切屑排出溝4とがドリル本体1の回転方向Xへ交互に並べられている。この各切削端部3における回転方向Xの両側の端縁5a,5bのうち回転向きXF側の端縁5aには前記チゼル部2から切削端部3の外周部6側へ延びる切刃7が先端切刃角θを有するように形成されている。この各切削端部3には逃げ角αを有する逃げ面8がこの切刃7からこの回転向きXFに対する反対向きXR側へ形成されている。
【0012】
この各切刃7は、チゼル部2の心厚Tを削り落としたシンニング部9により形成されてチゼルエッジ2aから直線状に延びるシンニング切刃10と、そのシンニング切刃10から切削端部3の外周部6まで直線状に延びる主切刃11とを有している。この直線状シンニング切刃10から螺旋状主切屑排出溝4側へこの直線状シンニング切刃10の延設方向全範囲にわたり形成されたすくい面12と、この直線状主切刃11から螺旋状主切屑排出溝4側へこの直線状主切刃11の延設方向全範囲にわたり形成されたすくい面13とは、この直線状シンニング切刃10と直線状主切刃11との間の境界角部14から直線状に延びる境界縁15で互いに交差している。これらのすくい面12,13のすくい角β12,β13はいずれも0度に設定されている。
【0013】
前述した実施形態では、直線状シンニング切刃10のすくい面12のすくい角β12と直線状主切刃11のすくい面13のすくい角β13とはいずれも0度に設定されているが、これらのすくい角β12,β13をいずれも例えばプラス15〜20度またはマイナス15〜20度に設定したり、これらのすくい角β12,β13のうち一方をプラス15〜20度またはマイナス15〜20度に他方を0度に設定したりしてもよい。なお、一般にこのすくい角β12はこのすくい角β13よりも小さく設定されている。
【0014】
本実施形態では、直線状シンニング切刃10のすくい面12のすくい角β12と、直線状主切刃11のすくい面13のすくい角β13との二種類しか存在しないため、直線状シンニング切刃10と直線状主切刃11との間の境界角部14から延びる境界縁15以外はそれらのすくい面12,13間の不連続を極力なくし、切削時の引っ掛かり現象を生じにくくしてシンニング切刃10や主切刃11の欠損を防止することができる。また、シンニング切刃10で生じる切削力の向きと、主切刃11で生じる切削力の向きとの二種類しか存在しないため、シンニング切刃10で生じる切削力や主切刃11で生じる切削力はそれぞれ同じ向きで働き、切削能力を高めることができる。
【0015】
なお、前記切削端部3と主切屑排出溝4とをそれぞれ三以上交互に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本実施形態にかかるツイストドリルにおいてドリル本体の先端部を示す平面図であり、(b)は同じく部分正面図である。
【図2】(a)はこのドリル本体の先端部においてチゼルエッジから延びるシンニング切刃の部分断面図であり、(b)はこのシンニング切刃から延びる主切刃の部分断面図である。
【図3】従来のツイストドリルにおいてドリル本体の先端部を示す平面図である。
【符号の説明】
【0017】
1…ドリル本体、1a…ドリル本体の回転中心線、2…チゼル部、2a…チゼルエッジ、3…切削端部、4…螺旋状主切屑排出溝、5a…回転向き側の端縁、6…切削端部の外周部、7…切刃、8…逃げ面、9…シンニング部、10…シンニング切刃、11…主切刃、12…シンニング切刃のすくい面、13…主切刃のすくい面、14…境界角部、15…境界縁、X…ドリル本体の回転方向、XF…回転向き、XR…回転向きに対する反対向き、θ…先端切刃角、α…逃げ角、T…チゼル部の心厚、β12…すくい角、β13…すくい角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体の先端部でドリル本体の回転中心線上に形成したチゼル部の外周に、切刃を有する複数の切削端部と、この切削端部に隣接して開放した複数の螺旋状主切屑排出溝とをドリル本体の回転方向へ交互に並べ、この各切削端部における回転方向両側の端縁のうち回転向き側の端縁に前記チゼル部から切削端部の外周部側へ延びる前記切刃を先端切刃角を有するように形成し、この各切削端部には逃げ角を有する逃げ面をこの切刃からこの回転向きに対する反対向き側へ形成するとともにすくい角を有するすくい面をこの切刃から螺旋状主切屑排出溝側へ形成したツイストドリルにおいて、
前記各切刃は、チゼル部の心厚を削り落としたシンニング部により形成されてチゼルエッジから直線状に延びるシンニング切刃と、そのシンニング切刃から前記切削端部の外周部まで直線状に延びる主切刃とを有し、
この直線状シンニング切刃から螺旋状主切屑排出溝側へ形成したすくい面のすくい角をこの直線状シンニング切刃の延設方向全範囲にわたり一定角度に設定するとともに、この直線状主切刃から螺旋状主切屑排出溝側へ形成したすくい面のすくい角をこの直線状主切刃の延設方向全範囲にわたり一定角度に設定し、この直線状シンニング切刃と直線状主切刃との間の境界角部から延びる境界縁でこれらのすくい面を互いに交差させた
ことを特徴とするツイストドリル。
【請求項2】
前記直線状シンニング切刃のすくい面のすくい角と、前記直線状主切刃のすくい面のすくい角とを互いに等しい角度で設定したことを特徴とする請求項1に記載のツイストドリル。
【請求項3】
前記直線状シンニング切刃のすくい面のすくい角と、前記直線状主切刃のすくい面のすくい角とを互いに異なる角度で設定したことを特徴とする請求項1に記載のツイストドリル。
【請求項4】
前記直線状シンニング切刃のすくい面のすくい角と、前記直線状主切刃のすくい面のすくい角とのうち、少なくともいずれか一方のすくい角は、0度に設定されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のツイストドリル。
【請求項5】
前記切削端部と螺旋状主切屑排出溝とをそれぞれ一対設けたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一つの請求項に記載のツイストドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−142963(P2009−142963A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325056(P2007−325056)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000205052)大見工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】