説明

ツイストペアケーブル

【課題】導体径を細くするとともに絶縁体外径も細くし、また絶縁体の強度の低下を防ぐとともに伝送特性が良好で通常のLAN用モジュラプラグに容易に接続もできるツイストペアケーブルを提供する。
【解決手段】本発明のツイストペアケーブル1は、絶縁体2が被覆された圧縮撚線導体3の2本が撚り合わされて1対の心線4が形成され、心線の2対が撚り合わされ、これらの心線の間に介在5が配置され、その周囲に順次外層に向かって遮蔽層6、7及び外被8が設けられており、絶縁体は発泡層2aから構成されるとともに、発泡層の表面が無発泡化された層2bからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LAN用若しくはFA用の通信、制御用配線として使用される100BASE−TX通信に適用可能なツイストペアケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
LAN(Local Area Network)の伝送、またはFA(Factory Automation System)のような工場内の通信ネットワークの伝送において、配線に稼働部を有する場合には柔軟性や耐屈曲性を持たせるために撚線導体が使用される。また、イミュニティ(Immunity:妨害耐性)とEMI(Electro Magnetic Interference:電磁妨害)の対策としてケーブルに遮蔽を施すこともよく行われる。
【0003】
ところで、撚線導体の場合、通常の撚線導体では同じ断面積の単線導体と比較して導体径が太くなり、その上減衰量も劣るため伝送距離が短くなるという欠点がある。例えばLAN用のツイストペアケーブルを用いた伝送において最大伝送長は100mとされているが、これは100mのうちの90mに単線導体を用いた場合のことであり、撚線導体だけでケーブルを構成する場合にはケーブル長はより短くなる。
【0004】
一方、遮蔽は絶縁コアの静電容量を大きくする働きがあり、遮蔽前の特性を維持させるにはさらに絶縁外径を太くする必要がある。以上の結果、絶縁体の外径は一般のLAN用モジュラプラグに接続できる上限(通常1.02mm)を超える場合がある。
【0005】
このような状況から、撚線導体を圧縮した圧縮撚線導体を使用して導体径を細くしたケーブルが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、絶縁体を発泡化させて絶縁外径を細くしたケーブルも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−59514号公報
【特許文献2】特開平8−203347号公報
【特許文献3】実開平6−7116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、従来から導体径を細くするために圧縮撚線導体を用いたり、絶縁外径を細くするために絶縁体を発泡化させたりすることが行われていたが、圧縮撚線導体を用いても通常のポリエチレン(PE)絶縁(充実層絶縁)では絶縁外径が太く、コネクタ接続が困難であるという問題は依然として存在していた。
【0008】
また、絶縁体を発泡化させる場合には、発泡により絶縁コアの機械的強度が弱くなり、ケーブルの製造中または布設時の負荷により電気特性が悪化するほか、耐圧不良、混線等の問題もあった。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、導体径を細くするとともに絶縁体外径も細くしながら伝送特性が良好で通常のLAN用モジュラプラグに容易に接続もできるツイストペアケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために本発明のツイストペアケーブルの第1の態様は、絶縁体が被覆された圧縮撚線導体の2本が撚り合わされて1対の心線が形成され、心線の2対が撚り合わされ、これらの心線の間に介在が配置され、その周囲に順次外層に向かって遮蔽層及び外被が設けられてなるツイストペアケーブルにおいて、絶縁体は発泡層から構成されるとともに、発泡層の表面が無発泡化された層からなることを特徴とする。
【0011】
また本発明のツイストペアケーブルの第2の態様は、第1の態様において、発泡層は発泡率が17〜23%であることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明のツイストペアケーブルの第3の態様は、第1または第2の態様において、無発泡層の厚さが0.04〜0.06mmであることを特徴とする。
【0013】
また本発明のツイストペアケーブルの第4の態様は、第1から第3の態様において、2対の心線のうち1方の対の撚り合わせの対ピッチを15mm若しくは16mmとし、他方の対の対ピッチを17mm、18mm若しくは19mmのうちの何れか一つとしたことを特徴とする。
【0014】
さらに本発明のツイストペアケーブルの第5の態様は、第1から第4の態様において、2対の心線の対間距離が0.2mm以上であることを特徴とする。
【0015】
また本発明のツイストペアケーブルの第6の態様は、第1から第5の態様において、心線と遮蔽層との間の距離が0.3mm以上であることを特徴とする。
【0016】
さらに本発明のツイストペアケーブルの第7の態様は、第1から第6の態様において、介在としてデニール数の異なる複数本のプラスチック紐が挿入されていることを特徴とする。
【0017】
また本発明のツイストペアケーブルの第8の態様は、第7の態様において、デニール数の異なる複数本のプラスチック紐は、6,000デニール2本及び11,000デニール3本のポリプロピレン・スプリット紐であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧縮撚線導体を用い、表面を無発泡化した発泡層を絶縁体とし、対ピッチ、対間距離、心線と遮蔽層との間の距離、介在紐のデニール数などを考慮することにより、ケーブルとしての減衰量や近端漏話減衰量などの伝送特性に優れ、絶縁体の強度も確保でき、また導体径や絶縁体外径を抑えることができるLAN用モジュラプラグに接続も可能なツイストペアケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のツイストペアケーブルの好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明のツイストペアケーブルの断面図である。図1において、ツイストペアケーブル1は、絶縁体2が被覆された圧縮撚線導体3を2本撚り合わせて1対の心線とし、この心線が2対撚り合わせられている。ツイストペアケーブルの場合は4対のケーブルもよく知られているが、4対よりも2対の方が心線の対間距離や心線と遮蔽層との間の距離に対する自由度をより高く確保できる。また、100BASE−TX通信において2対のツイストペアケーブルでも4対と比較して十分満足する伝送特性を有することが可能である。
【0021】
2対の心線の周囲には介在5としてプラスチック紐が充填されており、外観を丸型に整えるとともに2本の心線の対間距離や心線と遮蔽層との間の距離が調整されるようになっている。
【0022】
そして、介在5が充填されて形が整えられた周囲には第1の遮蔽層6及び第2の遮蔽層7が被覆されており、さらにこれらの遮蔽層の周囲に外被8が被覆されている。
【0023】
ここで、圧縮撚線導体3は導体として軟銅線7本を撚り合わせ、所定の圧縮率で圧縮し、導体径を低減させたものを用いている。
【0024】
また絶縁体2は図2に示すように発泡層2aと表面の無発泡層2bとから構成されている。発泡層2aとしては発泡架橋ポリエチレン(フォームスキン架橋ポリエチレン)が被覆されており、この発泡架橋ポリエチレン(発泡架橋PE)の発泡率は17〜23%の範囲であることが好ましい。発泡率が17%未満では、目的とする絶縁体外径の細径化及び必要とする伝送特性が得られず、発泡率が23%を超すと絶縁体の強度が確保できないという理由からである。
【0025】
また、無発泡層2bを設ける理由は、絶縁体をすべて発泡層から構成するよりも強度的な低下を防ぐことができるためである。なお、無発泡層の厚さは0.04mm〜0.06mmが好ましい。無発泡層の厚さが0.04mmよりも薄くなると強度低下の防止の効果を奏することができず、また0.06mmより厚くなると目的とする絶縁体外径の細径化及び必要とする伝送特性が得られなくなるからである。
【0026】
介在5は心線の対間距離や心線と遮蔽層との間の距離を確保するために必要なもので、通常プラスチック紐、例えばポリプロピレン・スプリット紐(P.P.スプリット紐)が用いられる。P.P.スプリット紐は太さが種々のものが用いられるが、本発明では異なるデニール数の複数本のP.P.スプリット紐、即ち6,000デニールのもの2本、11,000デニールのもの3本を用いると効果が高い。
【0027】
異なるデニール数の複数本のP.P.スプリット紐を用いると最密充填が可能であるという理由のために心線の対間距離や心線と遮蔽層との間の距離の自由度が高くなるからである。
【0028】
また、ケーブルを製造するにあたり、P.P.スプリット紐の配置を工夫することで、ケーブル完成後の伝送特性の向上、外径の安定化が図られることが明らかとなった。
【0029】
図3はケーブル製造に際してのP.P.スプリット紐の配置状況を示した図で、(a)は本発明のケーブルに用いる配置状況である。なお、(b)、(c)は比較のために示した配置状況である。本図においては遮蔽層及び外被は図示を省略している。
【0030】
図3(a)に示すように、本発明のツイストペアケーブルは11,000デニール(d)のP.P.スプリット紐3本(5a、5b、5c)と6,000dのP.P.スプリット紐2本(5d、5e)を配置してケーブルを製造する。P.P.スプリット紐をこのように配置してケーブルを製造すると、心線の対間距離や心線と遮蔽層との間の距離の調整の自由度が高くなり、より優れた伝送特性を有するケーブルを得ることができる。
【0031】
一方本発明との比較のために、同一のデニール数のP.P.スプリット紐を用いた例を図3(b)及び図3(c)に示す。図3(b)は11,000dのP.P.スプリット紐4本(5f、5g、5h、5i)を配置した例を示し、図3(c)は22,000dの太いP.P.スプリット紐2本(5j、5k)を配置した例を示したものである。
【0032】
次に、本発明のツイストペアケーブルは、2対の心線のうちの1方の対の撚り合わせの対ピッチが15mm若しくは16mm、他方の対の対ピッチが17mm、18mm若しくは19mmのうちの何れか一つの組み合わせが好ましい。このような組み合わせにすると100BASE−TX通信100mに必要な減衰量や近端漏話減衰量などの伝送特性において優れた効果が得られる。なお、対ピッチについては±0.5mm程度の変動(例えば、対ピッチが15mmの場合、14.5〜15.5mmまで)があっても伝送特性に大きな影響は及ぼさない。
【0033】
また、2対の心線の対間距離が0.2mm以上であることが好ましい。対間距離が0.2mm未満では心線と心線が近くなり過ぎて近端漏話減衰量特性が低下するからである。
【0034】
さらに、心線と遮蔽層との間の距離は0.3mm以上であることが好ましい。心線と遮蔽層との間の距離が0.3mm未満の場合には心線と遮蔽層とが近くなり過ぎるので100BASE−TX通信100mに必要な減衰量特性が低下するからである。
【0035】
なお、第1の遮蔽層6には既知のアルミ/ポリエステルラミネートテープ(AL/PETテープ)が用いられ、第2の遮蔽層7にはやはり既知の0.1mmの錫メッキ軟銅線からなる編組線が用いられる。また、外被8はポリ塩化ビニール(PVC)樹脂が用いられる。
【実施例】
【0036】
次に本発明のツイストペアケーブルの具体的な構造例について説明する。
【0037】
本発明のツイストペアケーブルにおいては、24AWGの外径0.208mmの軟銅線を7本撚り合わせた撚線導体について、導体径を0.624mmから0.565mmまで圧縮して(圧縮率約90%)圧縮撚線導体とし、その周囲に発泡率20%の発泡架橋PEを被覆して絶縁体被覆圧縮撚線導体を作成した。この時の絶縁体表面の無発泡層の厚さは0.05mm、絶縁体外径は0.98mmであった。
【0038】
この絶縁体被覆圧縮撚線導体2本を撚り合わせて心線とし、心線2本を1対として2対組み合わせて撚り合わせた。介在は6000dのP.P.スプリット紐2本、11000dのP.P.スプリット紐3本を図2(a)に示すように配置し、第1の遮蔽層としてAL/PETテープ、第2の遮蔽層として0.1mm錫メッキ軟銅線の編組線を巻回し、PVCにより外被を設け、ケーブル外径を6.4mmとした図1に示す構造のツイストペアケーブルを作成した。
【0039】
このようなツイストペアケーブルにおいて、対ピッチ組み合わせ、心線の対間距離、心線と遮蔽層との間の距離を種々変更して100BASE−TX通信100mに必要な減衰量特性、近端漏話減衰量特性を測定した。また、外観の凹凸について目視により判定した。結果を比較例とともに表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、実施例1〜3はいずれも100BASE−TX通信100mに必要な減衰量特性も近端漏話減衰量特性も優れており、また外観も良好だった。特に実施例1については近端漏話減衰量について最も優れた特性を示した。
【0042】
それに対して比較例1は、近端漏話減衰量特性は非常に優れていたが、一方の対の対間ピッチが極めて小さいためにその対における100BASE−TX通信100mに必要な減衰量特性が実用上満足のいくものではなく、外観も凹凸があり不良であった。
【0043】
次に、比較例2は、心線の対間距離が短いために近端漏話減衰量が実用上満足のいく特性を有することができず、外観も凹凸があり不良であった。
【0044】
また、比較例3は、心線の対間距離が大きいために近端漏話減衰量特性は非常に優れていたが心線と遮蔽層との間の距離が短く、100BASE−TX通信100mに必要な減衰量特性が極めて悪かった。従って、外観上の問題はなかったが製品として使用することはできなかった。
【0045】
さらに、比較例4は、やはり心線と遮蔽層との間の距離が短いことから100BASE−TX通信100mに必要な減衰量特性が悪く、また外観上の問題もあった。
【0046】
上記したように本発明によれば、絶縁体を発泡層とし、この発泡層の表面を無発泡化することにより絶縁体の強度の低下を防ぐとともに導体径を細くし、また絶縁体外径も細くしたのでLAN用モジュラプラグへの接続を可能にし、さらに対ピッチや心線の対間距離、心線と遮蔽層との間の距離、介在の配置等を考慮することにより、100BASE−TX通信100mに必要な減衰量や近端漏話減衰量などの伝送特性の向上が可能なツイストペアケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のツイストペアケーブルの断面図である。
【図2】本発明のツイストペアケーブルの絶縁体を説明する図である。
【図3】本発明のツイストペアケーブルにおける介在の配置状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ツイストペアケーブル
2 絶縁体
3 圧縮撚線導体
4 心線
5 介在
6 第1の遮蔽層
7 第2の遮蔽層
8 外被

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体が被覆された圧縮撚線導体の2本が撚り合わされて1対の心線が形成され、前記心線の2対が撚り合わされ、これらの心線の間に介在が配置され、その周囲に順次外層に向かって遮蔽層及び外被が設けられてなるツイストペアケーブルにおいて、前記絶縁体は発泡層から構成されるとともに、前記発泡層の表面が無発泡化された層からなることを特徴とするツイストペアケーブル。
【請求項2】
前記発泡層は発泡率が17〜23%であることを特徴とする請求項1記載のツイストペアケーブル。
【請求項3】
前記無発泡層の厚さが0.04〜0.06mmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のツイストペアケーブル。
【請求項4】
前記2対の心線のうち1方の対の撚り合わせの対ピッチを15mm若しくは16mmとし、他方の対の対ピッチを17mm、18mm若しくは19mmのうちの何れか一つとしたことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項記載のツイストペアケーブル。
【請求項5】
前記2対の心線の対間距離が0.2mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項記載のツイストペアケーブル。
【請求項6】
前記心線と遮蔽層との間の距離が0.3mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項記載のツイストペアケーブル。
【請求項7】
前記介在としてデニール数の異なる複数本のプラスチック紐が挿入されていることを特徴とする請求項1から請求項6までの何れか1項記載のツイストペアケーブル。
【請求項8】
前記デニール数の異なる複数本のプラスチック紐は、6,000デニール2本及び11,000デニール3本のポリプロピレン・スプリット紐であることを特徴とする請求項7記載のツイストペアケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−230911(P2009−230911A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72164(P2008−72164)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】