説明

テストピース、及びその製造方法

【課題】金属検知器の性能測定、及びその調整等に用いるためのもので、角部分が多いテストピース、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】テストピース1は、正立方体の形状にする。テストピース1は、非金属材料のテストピースケース2に固定される。テストピース1は、金属材料で正立方体の形状に加工した後、テストピース1の各辺に応力を加え、又は、テストピース1を焼入れする処理を行う。よって、物理的ストレスや熱応力が掛かって破断が起こった鉄製破片やマルテンサイト変態したステンレス破片等を想定することが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属検知器の性能測定、及びその調整等に用いられるテストピース、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の製造過程において、搬送機、洗浄機、攪拌機、切断機、練機、蒸し器等の各種容器や刃物、篩等が金属疲労を受けてめくれ、破断、剥がれ、削れ、欠け等を原因として、その破断片等が製品に異物として入り込む。これらの異物を検知し、排除することが重要であり、安全で保証された製品の生産には欠かせないものである。被検査物に混入した異物を検知する手段として、磁性体金属には電磁波型のセンサーコイル等が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、被検査物に含まれる金属異物をセンサーコイルを用いて検知できる装置を開示している。金属検出器の性能測定、及びその調整には、小型のテストピースを用いている。例えば、特許文献3(段落[0004]を参照)においては、小金属球のテストピースを用いて、金属検出器の動作を試験している。
【0004】
センサーコイル等のようなサーチコイル方式の金属検出器は、電磁波を放射して金属異物の内部及び表面に渦状電流を流し、この渦状電流による発生磁界や電流位相等をサーチコイルで検出し、判定している。球体は、表面積や電流断面積が大きくて、他の形状のものと比較して理論上検出しやすい。加えて、テストピースが、球形の形状をしていると、テストピースのどの方向からでも同一の感度で検出ができる。
【0005】
つまり、金属検出器のセンサの指向性が現れなくなる。そのために、サーチコイル方式の金属検出器は、球形のテストピースを用いてその性能の比較、及び金属検出器の調整を行っている。更に、テストピースの一例としてベアリング球等の市販品が多く出回っており、作りやすく、手に入りやすく、価格も安い。
【0006】
同様に、X線異物探知機等のテストピースとしても球体形状のものが用いられている。その理由も、球体形状は細線や薄板よりもX線吸収が大きくて見つけやすいことや検査感度に方向性がないためである。
【特許文献1】国際公開WO2003/027659号広報
【特許文献2】特願2003−427855号
【特許文献3】特開2002−031567号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、テストピースは球体の形状をしていると、検出しやすい、センサ感度の方向性がなく、更に、低価格である等とさまざまな利点がある。しかしながら、食品や工業製品等に混入する異物は、針状、削り屑、摩耗等で発生したバリ片、疲労破壊による割れ、欠け等全く形状が予測できない不定形の異物である。特に、ステンレスの異物には、テストピースで用いられているような球体が混入することは考えられない。市販のベアリングの転動球は焼入れを行うため全て鋼製である。
【0008】
上述のように球体のテストピースを用いて、金属検出器の性能を設定した場合、金属異物検知器では実際の不定形異物の検出が出来ないことがある。仮に、金属検知器で直径2mmの球体が検出できたとする。この金属検知器は、径0.5mm長さ2mmの線材や厚さ0.5mm、幅と長さ共に2mm(0.5×2×2mm)の薄板、径3mmのスプリングワッシャー等が検出できるという保証はない。その理由は、不定形の線材や薄板等は渦状電流が流れる断面積が、球形に比較して小さいため、この渦状電流による発生磁界や電流位相等をサーチコイルで検出できなくなる。
【0009】
また、スプリングワッシャー等の場合は、全体の面積が大きくても電流の経路が断たれ、渦状電流が発生する面積は小さい。スプリングワッシャーに流れる渦状電流による発生磁界や電流位相等は小さくサーチコイルで検出できなくなる。このように球体のテストピースで、金属検知器の調整を行うと、方向性を持つ不定形の金属異物が、金属検知器をすり抜けて消費者に届くことになる。
【0010】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記の目的を達成する。
本発明の目的は、不定形異物を想定した角部分が多いテストピース、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明1のテストピースは、金属検知器の性能測定又は調整に用いるためのテストピースであって、正立方体の形状をしていることを特徴とする。
【0012】
本発明2のテストピースは、本発明1において、前記テストピースは、非磁性体ステンレス又は磁性体の金属材料からなると良い。
【0013】
本発明3のテストピースは、本発明2において、前記金属材料は、オーステナイト系ステンレスであり、前記テストピースを前記正立方体の形状に加工した後、前記テストピースの各辺に応力を加えて前記オーステナイト系ステンレスの結晶を塑性変形させ、弱磁性体化していると良い。
【0014】
本発明4のテストピースは、本発明2において、前記金属材料は、鉄であり、前記テストピースを前記正立方体の形状に加工した後、前記テストピースを焼入れしていると良い。
【0015】
本発明5のテストピースの製造方法は、金属検知器の性能測定又は調整に用いるためのテストピースを製造するための製造方法において、前記テストピースは、非磁性体ステンレス及び/又は磁性体の金属材料からなり、正立方体の形状に加工することを特徴とする。
【0016】
本発明6のテストピースの製造方法は、発明5のテストピースの製造方法において、前記金属材料は、オーステナイト系ステンレスであり、前記加工の後、前記テストピースの各辺に応力を加え、前記オーステナイト系ステンレスの結晶を塑性変形させ、弱磁性体化していると良い。
【0017】
本発明7のテストピースの製造方法は、発明5のテストピースの製造方法において、前記金属材料は、鉄であり、前記加工の後、前記テストピースを焼入れすると良い。
【0018】
上述のテストピース、及びその製造方法においては、前記テストピースの各辺に応力を加え、又は焼入れを行うことで、次のような異物に対応することができる。
【0019】
金属検知器で検査をしている被検出物には、オーステナイト系ステンレスがマルテンサイト変態をしている金属異物が含まれることがある。そのために、前記テストピースの各辺に応力を加えると、オーステナイト系ステンレスの結晶が塑性変形してマルテンサイト変態する様態を想定することが可能になる。
【0020】
金属検知器で検査をしている被検出物に、焼入れを行った金属材料からできている金属異物が含まれることがある。そのために、前記テストピースを焼入れして、物理的ストレスや熱応力が掛かって破断等が起こった金属異物を想定することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、次の効果が奏される。
本発明のテストピースは、正立方体の形状にすることで、バリや角等の不定形の異物を想定した角が多い形状になった。
【0022】
本発明のテストピースは、その各片に応力を掛け塑性変形させることで、オーステナイト系ステンレス材料がマルテンサイト変態したことを想定することが可能になった。
【0023】
本発明のテストピースは、鉄から作られ、焼入れすることで、物理的ストレスや熱応力が掛かって破断等が起こった異物が混入することを想定することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の最良の実施の形態の概要を説明する。図1には、本発明の最良の実施の形態のテストピース1の概要を図示している。図2には、本発明の最良の実施の形態のテストピースケース2の概要を図示している。テストピース1は、正立方体の形状をしている。テストピース1は、バリや角等の多い不定形の異物を想定し、角が多い形状になっている。テストピースケース2は、細長い板状の形状をしている。
【0025】
例えば、テストピースケース2は、幅30mm、長さ50mm、厚さ10mmの寸法である。テストピースケース2は、非金属の材料からできている。非金属の材料としては、例えば、MCナイロン(登録商標)等のポリアミド系合成高分子や塩化ビニル等が掲げられる。テストピースケース2の中央部分をくり貫き、穴3をあけている。穴3には、テストピース1を固定している。テストピース1は、幅1mmの真四角の辺を有する正立方体である。
【0026】
テストピース1は、金属材料からできている。例えば、テストピース1は、ステンレス、鉄等の金属材料からできる。図2(a)は、テストピースケース2の上面図である。図2(b)は、図2(a)のテストピースケース2のA−A断面の断面図である。穴3は、接着剤等で充満され、その中にテストピース1を固定している。穴3の形状は、図2に図示したような形状に限定されるものではなく、テストピース1をその中に入れて固定できるものならどのような形状でも良い。
【0027】
テストピース1は、更に、検知する異物を想定して、応力の付加や、焼入れ等の処理をすることが望ましい。例えば、マルテンサイト変態したステンレス破片を想定する場合を説明する。テストピース1は、SUS304等のオーステナイト系ステンレスで作り、正立方体に加工した後、その各片に応力を掛け塑性変形させる処理をすることが好ましい。図1に図示した矢印は、テストピース1の各片に応力を掛ける様子を示すものである。テストピース1の各辺に応力を加えると、オーステナイト系ステンレスの結晶が塑性変形してマルテンサイト変態する。
【0028】
また、鉄の場合は、物理的ストレスや熱応力が掛かって破断等が起こって異物が混入することを想定して、正立方体に加工した後、焼入れを行う処理をすることが好ましい。この応力の大きさや焼入れ温度、時間等はテストピースのサイズでそれぞれ異なる。このようにして作った正立方体のテストピースを、比透磁率換算電圧計で電圧測定をして確認をすることが好ましい。
【0029】
比透磁率換算電圧計は、中が空の非金属製パイプの穴から、自由落下でテストピース1を落として測定する機器である。比透磁率換算電圧計の測定原理は、非金属製パイプの中を自由落下で通過する際、非金属製パイプの外側を巻いたコイルに誘起される電圧を電圧計で測定するものである。電圧計で測定した値から、テストピース1の比透磁を求める。比透磁率換算電圧計は、受信した信号を増幅するための信号増幅器を内蔵し、信号増幅器のゲイン調整用の切替えスイッチも有する。
【0030】
テストピース1は、テストピースケース2には、接着剤等の固定手段によって固定される。テストピース1は、テストピースケース2に固定される方法は、本発明の趣旨ではないのでその詳細な説明は省略する。接着剤は、テストピース1をテストピースケース2に固定できればどのような種類のものでも良い。接着剤は、テストピース1を検知するときの磁界に影響を与えない素材、特に、非金属成分からなる素材のものであることが望ましい。
【0031】
テストピースケース2は、上述の寸法に限るものではない。被検知想定している異物と同等ぐらいの大きさをすれば、上述の寸法に限らない。テストピースケース2は、異物を検知するとき、異物の有無を判定するホトセンサ等の光を遮ることが出来る不透明でセンサに検知されるような大きさであれば良い。更に、テストピースケース2をワーク(検査製品)の中に挿入したり上に置いたりして検査することもできる。
【0032】
テストピース1を有するテストピースケース2は、X線探知機等のテストピースとしても用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、金属異物を検知する装置に利用すると良い。特に、食品、医薬品、塗料等の製造分野に利用されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の最良の実施の形態のテストピース1の概要を図示している図である。
【図2】図2は、本発明の最良の実施の形態のテストピースケース2の概要を図示している図であり、図2(a)はテストピースケース2の上面図、図2(b)はテストピースケース2の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1…テストピース
2…テストピースケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属検知器の性能測定又は調整に用いるためのテストピースであって、
前記テストピースは、正立方体の形状をしている
ことを特徴とするテストピース。
【請求項2】
請求項1のテストピースにおいて、
前記テストピースは、非磁性体ステンレス又は磁性体の金属材料からなる
ことを特徴とするテストピース。
【請求項3】
請求項2のテストピースにおいて、
前記金属材料は、オーステナイト系ステンレスであり、
前記テストピースを前記正立方体の形状に加工した後、前記テストピースの各辺に応力を加えて前記オーステナイト系ステンレスの結晶を塑性変形させ、弱磁性体化している
ことを特徴とするテストピース。
【請求項4】
請求項2のテストピースにおいて、
前記金属材料は、鉄であり、
前記テストピースを前記正立方体の形状に加工した後、前記テストピースを焼入れしている
ことを特徴とするテストピース。
【請求項5】
金属検知器の性能測定又は調整に用いるためのテストピースを製造するための製造方法において、
前記テストピースは、非磁性体ステンレス又は磁性体の金属材料からなり、正立方体の形状に加工する
ことを特徴とするテストピースの製造方法。
【請求項6】
請求項5のテストピースの製造方法において、
前記金属材料は、オーステナイト系ステンレスであり、
前記加工の後、前記テストピースの各辺に応力を加え、前記オーステナイト系ステンレスの結晶を塑性変形させ、弱磁性体化している
ことを特徴とするテストピースの製造方法。
【請求項7】
請求項5のテストピースの製造方法において、
前記金属材料は、鉄であり、
前記加工の後、前記テストピースを焼入れする
ことを特徴とするテストピースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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