説明

テトラヒドロゲラニルアセトンを生成させるための方法

【課題】プソイドイオノン、ゲラニルアセトン、および/またはジヒドロゲラニルアセトンを選択的に水素化することによってテトラヒドロゲラニルアセトンを調製する方法を提供する。
【解決手段】テトラヒドロゲラニルアセトンを生成する方法であって、プソイドイオノン、ゲラニルアセトン、および/またはジヒドロゲラニルアセトンを含み、且つ炭素-酸素二重結合よりも炭素-炭素二重結合の水素化を優先的に行うことのできる触媒の粒子が懸濁されている液相を、水素を含有するガスの存在下で、該触媒粒子の移動を妨げる器具を通して導通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
テトラヒドロゲラニルアセトンの調製
本発明はプソイドイオノン、ゲラニルアセトン、および/またはジヒドロゲラニルアセトンを選択的に水素化することによってテトラヒドロゲラニルアセトンを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロゲラニルアセトン(THGAC、ヘキサヒドロプソイドイオノン)はビタミンEおよびビタミンKを調製するための反応体として用いられるイソフィトールを調製するための出発材料として用いられる(例えば、Ullmann's Encyclopedia for Industrial Chemistry, 第5版、CD-ROM版, "Vitamins", 第4.11章を参照せよ)。
【0003】
GB 788,301では、THGAC生成の最終ステップでゲラニルアセトンまたはジヒドロゲラニルアセトン(テトラヒドロプソイドイオノン)を水素化する、THGACの調製方法が述べられている。
【0004】
原理的には、THGACはプソイドイオノンの水素化によっても得ることができる。プソイドイオノンはシトラールをアセトンと反応させることにより、またはジヒドロリナロールをジケテンと、またはイソプロペニルメチルエーテルと反応させることにより調製することができる(Ullmann's Encyclopedia for Industrial Chemistry, 上述の文献、を参照せよ)。しかし、プソイドイオノンからTHGACを調製する際は、3つのオレフィン性二重結合をケトカルボニル基の存在下で選択的に水素化しなければならない、という問題が生ずる(スキーム1参照)。
【0005】
スキーム1
【化1】

【0006】
不均一触媒での触媒水素化は、多くの場合、連続プロセス操作が可能な利点があるために、固定ベッドリアクターを用いて行われている。しかし、特別に調製された触媒を作成して用いなければならず、それらの触媒は短時間の操作時間の後でも活性を失うとことがよくあり、高価で不便な方法で触媒を交換または再生しなければならず、そのことのためには通常は水素化プラントのシャットダウンのみならずその後の作業ステージも関わってくる。
【0007】
あるいはまた、不均一触媒で触媒された水素化は、その水素化触媒を例えば撹拌タンク内で、機械的エネルギーを用いて液相中に懸濁することによって懸濁反応の形で行うことができる。これについては、例えば、Ullmanns Encyklopadie der technischen Chemie, 第4版, 第13巻, 1997, p138, Verlag Chemie Weinheimを参照せよ。懸濁に必要な程度以上にエネルギーを導入しても、水素化される分子の触媒分子表面への物質移動の著しい改善は起こらないが、それは、その触媒粒子と液相との間の到達しうる相対速度が沈降速度をわずかに超えるにすぎないからである。フロー型または流動型ベッドリアクターによってより高い相対速度が可能であるとはいえ、そのような速度には大きさが明らかに大きな触媒粒子を必要とし、それによって触媒のベッドが多少なりと操作の間に拡張されるようになる。しかし、大きな触媒粒子の容積に対して表面積がより小さければ物質の変換の程度が低くなり、相対速度が速くなった効果を相殺する。
【0008】
米国特許第5,939,589号では、触媒反応を行うための方法が述べられており、その方法では、リアクター中の触媒が懸濁されている液相と気相とが、水力直径が0.5から20 mmの開口部または流路を有する器具を通して導通される。ヒドロデヒドロリナロールからヒドロリナロールへの水素化、およびさらにテトラヒドロリナロールへの水素化について述べられている。ヒドロデヒドロリナロールは水素化されうる官能基としては三重結合が1つあるのみなので、当業者であれば選択的水素化に関して他の何らかの可能性を考慮することはないであろう。
【発明の開示】
【0009】
本発明の1目的は、C-C二重結合の水素化に高い選択性を有する、すなわち、カルボニル基の還元を伴う6,10-ジメチルウンデカノールの形成が大きく抑制された、プソイドイオノン、ゲラニルアセトン、および/またはジヒドロゲラニルアセトンからTHGACを調製するための方法を提供することである。この方法は高い時空収率(space-time yield)と単純な触媒交換の利点を兼ね備えている。
【0010】
我々はこの目的が、プソイドイオノン、ゲラニルアセトン、および/またはジヒドロゲラニルアセトンを含み、且つ炭素-酸素二重結合よりも炭素-炭素二重結合の水素化を優先的に行うことのできる触媒の粒子が懸濁されている液相を、水素を含有するガスの存在下で、該触媒粒子の移動を妨げる器具を通して導通させる方法により達成されることを見出した。
【0011】
本発明の方法では、触媒粒子の移動は適切な方法、例えば、リアクター内の内部構造物などによって妨げられる、すなわち、触媒粒子はそれの周囲の液体よりも強く引き留められるので、触媒粒子に対する液相の比較的高い相対速度が得られる。懸濁した粒子が体積に対して大きな表面積であることと組み合わせると、結果として高い時空収率が達成される。
【0012】
本発明の方法を行うための適切な装置はEP-A 798 039中に述べられている。
【0013】
触媒粒子の移動を妨げる器具は、好ましくは水力直径が触媒粒子の平均粒子径の2から2000倍の、特に5から500倍の、さらに好ましくは5から100倍の開口部または流路を有する。
【0014】
水力直径は円形でない流路構造と等価な直径について述べる際の尺度として当業者にはよく知られたものである。開口部の水力直径は、開口部の断面積に4をかけてそれを外周で割った商と定義される。二等辺三角形の形状の断面を有する流路の場合には、水力直径は次のような式で示すことができ、
2bh/(b+2s)
式中、bは底辺、hは高さ、sはその三角形の等辺の長さである。
【0015】
適切な器具の開口部または流路は、通常は0.5から20 mm、好ましくは1から10 mm、より好ましくは1から3 mmの水力直径を有する。
【0016】
通例、触媒粒子はその平均直径が0.0001から2 mm、好ましくは0.001から1 mm、より好ましくは0.005から0.1 mmのものが用いられる。
【0017】
触媒粒子の移動を妨げる器具は、好ましくはプラスチック、例えばポリウレタンもしくはメラミン樹脂、またはセラミック製の充填物、編織物、オープンセルフォーム構造体、或いは、原理的には(すなわち、その幾何学的形状が)、蒸留と抽出の技術分野で既に知られているような、構造化充填エレメントを含んでなるものとすることができる。しかし、本発明の目的に用いるものは、原理的には構造化充填物が、蒸留と抽出技術分野で用いられている内部構造物と比較すると十分に小さな水力直径、多くの場合は2分の1から10分の1の直径を有している。
【0018】
有用な構造化充填エレメントは特に金属編み込み充填物およびワイヤー編み込み充填物、例えばMontz A3、Sulzer BX、DX、およびEXなどである。金属編み込み充填物の替わりに他の、織り込んだ、編み込んだ、またはフェルト状とした材料でできた構造化充填物の使用も可能である。さらに有用な構造化充填物はフラットまたは波形のシート、好ましくは穴があいていないか、またはその他の比較的大きな開口部を持たないもの、例えば、Montz B1またはSulzer Mellapakに対応するようなデザインのものである。例えばMontz BSHの構造化充填物などの拡張金網 (expanded metal) で作られた構造化充填物も有利である。本発明で用いるための構造化充填物の適切性を決定する要因はその幾何学的形状ではなく、液体が流れうる開口部のサイズと流路の幅である。
【0019】
好ましい1実施形態においては、器具の液相に面する表面はその粗さが触媒粒子の平均粒子径の0.1から10倍のもの、好ましくは0.5から5倍のものである。表面の平均の粗さの値Ra(DIN 4768/1に従って測定するとき)が0.001から0.01 mmであるような材料が好ましい。織り込んだステンレス鋼ワイヤーの充填物を用いるときには、適切な表面粗さはおそらく、酸素の存在下での熱処理、例えばその編み込んだものを約800℃の温度で空気中で加熱処理することによって得ることができる。
【0020】
液相は重量比で少なくとも80%、とりわけ重量比で少なくとも90%のプソイドイオノンを含んでなるものが好ましい、すなわち、多量の希釈剤を含むものではないことが好ましい。好ましくはないが、液相は希釈剤、たとえばC1-C4-アルカノール、たとえばメタノールを含んでなるものとすることができる。
【0021】
用いられる水素含有のガスは通常は少なくとも容積比で99.5%の純度を有する水素ガスである。それは、液相中に存在するカルボニル化合物の量に基づいて、少なくとも化学量論的量が用いられ、通常は1から20%過剰な量が用いられる。
【0022】
用いられる触媒は、炭素-酸素二重結合よりも炭素-炭素二重結合を優先的に水素化することができる市販の触媒懸濁液とすることができる。特に有用な触媒は活性成分として少なくともパラジウムを含んでなるものである。パラジウムに加えて、該触媒はさらに別の活性成分、例えば亜鉛、カドミウム、白金、銀、またはセリウムなどの希土類金属をも含んでなるものとすることができる。該触媒は金属型および酸化型のものを用いることができる。該活性成分を支持体材料にアプライすることが好ましい。有用な支持体材料の例としては、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、または黒鉛、カーボンブラック、もしくは活性炭などの炭素が含まれる。懸濁が容易なため、活性炭が好ましい。触媒の総重量に基づいて、パラジウムの含量は好ましくは重量比で0.1から10%、特に重量比で0.5から7%、より好ましくは重量比で2から6%である。
【0023】
懸濁した触媒材料は、液相に導入することができ、その液相内で従来技法の助けを借りて分散される。
【0024】
触媒粒子の移動を妨げる器具は通例はリアクター中にある複数の内部構造物であり、それらは反応混液がそのリアクターを通過する際にその器具を通るように設計されている。すなわちその内部構造物は通常はリアクターのフリーの断面全体を満たしている。その内部構造物は、必ずしもそうでなくともよいが、好ましくは、液相の流れる方向にリアクターの長さ全体にわたって伸びている。
【0025】
種々のリアクターの形態が適切なものとしてあげられ、例えば、ジェットノズルリアクター、バブルカラムリアクター、またはチューブバンドルリアクターなどがある。それらのうちで特に適切なリアクターは垂直バブルカラムまたはチューブバンドルリアクターで、それらでは内部構造物は個々のチューブ内に収められている。
【0026】
水素含有ガスと液相とを同時に、好ましくは重力方向に逆らって、リアクターを通過させることが好ましい。気相は液相と、例えばインジェクターノズルによって十分に混合される。液相の表面速度は好ましくは100 m3/m2hを超える速度、特に100から250 m3/m2hであり、気相の表面速度は、好ましくは100 Nm3/m2h (STP)を超える速度、特に100から250 Nm3/m2h (STP)である。十分に高い表面速度を達成するためには、リアクターから出たガスと液相を再循環する副流があることが好ましい。
【0027】
水素化流体中に懸濁された触媒粒子は通常用いられる方法、例えば沈降、遠心、ケーキろ過、クロスフローろ過などによって除去される。
【0028】
本発明の方法は、好ましくは1から100 barで、より好ましくは1から50 barで、とりわけ1から20 barの圧力で行われる。反応温度は好ましくは20から150℃、より好ましくは20から120℃、とりわけ40から80℃である。
【0029】
本発明の方法は付属の図面と下記の実施例で説明される。
【0030】
図1は本発明の方法を実施するために適したプラントを図示したもので、それは触媒粒子の移動を妨げる構造化充填物2を有するリアクター(バブルカラム)1を含んでなる。液体はライン3を経由してリアクターへと導入され、水素ガスはライン4を経由して導入される。循環させたガス5は新鮮なガスおよびポンプ14で循環された懸濁液11と混合ノズル6を用いて混合される。リアクターの排出流はライン7を経由して分離容器8へと移送され、その中で気相は分離され、ライン9を経由して除去される。ガス状の不純物の蓄積を低く抑えるため、このガスの副流はライン10から引き出され、その残りはライン5を経由してリアクター中に導入される。懸濁された触媒はクロスフローフィルター12によって戻し入れられてリアクターシステム内に残り、触媒を含まない液相のみがライン13を経由して外に排出される。熱交換機15はリアクターシステム内の温度を正確に調整するために用いることができる。
【0031】
図2は波型に織られた層を図示したものである。本発明で使用可能な構造化充填物はこれらの層を2つ以上重ねて配置することにより得られる。各層は、等辺の長さs、底辺b、および高さhの二等辺三角形の形状の断面を有する流路を含んでなる。
【実施例】
【0032】
図1に示したプラントでMontz A3 1200型の構造化織り込み充填物を備えたバブルカラム(長さ3000 mm、直径27.3 mm)を含んでなるものを用いた。この構造化充填物はステンレスワイヤーの織り込んだものを重ね合わせた複数の層からなるもので、その織ったものは、二等辺三角形の形状の断面を有する流路が形成されるように波型にされており、その二等辺三角形の等辺の長さは3.1 mm、底辺は5.1 mm、高さは1.8 mmで、それは水力直径1.62 mmに相当する。
【0033】
触媒が懸濁されたプソイドイオノン(重量比で97%)および水素ガスを下部から、充填されたリアクター内に表面速度を200 m3/m2*hとして導入した。用いた触媒は、活性炭上に5%のパラジウムを付着させた市販のPd-炭素触媒懸濁液で、平均粒子径が50μmのものである。
【0034】
(実施例1)
反応は10 barの水素圧、100℃の温度で連続的に行った。産物の総量に基づいた比率で、変換は99.9%を超え、96%超の選択性でテトラヒドロゲラニルアセトンが形成された。6,10-ジメチルウンデカン-2-オールについての選択性は3%であった。この触媒の時空速度 (hourly space velocity) は2.5 kgプソイドイオノン/(kg触媒*h);時空収率 (space-time yield) は500 kgプソイドイオノン/(m3*h)であった。
【0035】
(実施例2)
反応は10 barの水素圧、60℃の温度で連続的に行った。産物の総量に基づいた比率で、変換は99.9%を超え、96%超の選択性でテトラヒドロゲラニルアセトンが形成された。6,10-ジメチルウンデカン-2-オールについての選択性は0.3%であった。この触媒の時空速度 (hourly space velocity) は2.5 kgプソイドイオノン/(kg触媒*h);時空収率 (space-time yield) は500 kgプソイドイオノン/(m3*h)であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は本発明の方法を実施するために適したプラントを図示したものである。
【図2】図2は波型に織られた層を図示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロゲラニルアセトンの連続的調製方法であって、
- 重量比で少なくとも90%のプセイドイオノンを含む液相を、容積比で少なくとも99.5%の純度を有する水素含有ガスと十分に混合し;
- 炭素-酸素二重結合よりも炭素-炭素二重結合を優先的に水素化することができる、活性成分としてパラジウムを含む触媒粒子を液相中に懸濁させ;
- 液相と水素含有ガスとを、触媒粒子の移動を妨げる器具に通し;
- 液相をクロスフローろ過にかけて、触媒を含まない液相を取り出し、液相の副流を残った触媒と共に再循環させる、上記方法。
【請求項2】
該触媒粒子の移動を妨げる器具が、その触媒粒子の平均粒子径の2から2000倍の水力直径の開口部または流路を有するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
平均粒子径が0.0001から2 mmの触媒粒子が用いられる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該触媒粒子の移動を妨げる器具が充填物、編織物、オープンセルフォーム構造体、または構造化充填エレメントである請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該液相および該水素含有ガスが100 m3/m2hを超える表面速度で、該触媒粒子の移動を妨げる器具に通して導通される請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該器具の該液相に面している表面の粗さが該触媒粒子の平均粒子径の0.1から10倍の範囲である請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
反応圧力が1から100 barである請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
反応温度が20から120 ℃である請求項1から7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−303213(P2008−303213A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124626(P2008−124626)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【分割の表示】特願2004−520616(P2004−520616)の分割
【原出願日】平成15年7月14日(2003.7.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】