説明

テトラポット等ブロックの敷設方法

【課題】 海水中で固化するに従ってテトラポットを保持して容易に浮沈させることなく、海草類の着生性も良いブロックの敷設方法を提供する。
【解決手段】 本発明のテトラポット等ブロックの敷設方法は、重量比で山砂60〜70%、ポルトランドセメント5〜15%、鉄スラグ10〜20%および若干の界面活性剤を混合し、(a)該混合組成物を封入した場合の自重に耐えうる強度を備え、(b)該混合組成物が形態を保ち得る程度に固化するまで水中で強度を保ち得、(c)所定期間後に水に溶ける紙にて、袋体又は箱体を形成する。該混合組成物を投入した袋体又は箱体を、テトラポット等ブロックの下敷き及び/又は端部間に敷設し、海水や河川水を該混合組成物内部に浸透させてブロック端部形状に沿って固化させると共に海草類を着生させ易くすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水等による短期固化反応技術と海草等の着生技術により、護岸にテトラポットを固定するなど海洋土木に応用可能なブロックの敷設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸工事とは造成されたコンクリート製あるいは砂製の護岸部分の上にテトラポットを敷設する工事をいう。
従来、テトラポットは潮の流れや潮の干満により、護岸工事直後よりその重量に抗して浮沈を繰り返し、移動してしまうことが避けられない。特に砂の上に置かれたテトラポットは徐々に沈んでしまい、2〜3段に積み上げられた場合でもその自重に抗して全体が動いたり沈んでしまったりする。このように該テトポットの移動あるいは沈降は、テトラポット本来の機能である波の打ち消し効果を減退させてしまう結果を招く。
そこで、設置したブロックが砂地等に沈んで機能を失った場合、従来は沈んだ異形ブロックの上に別の異形ブロックを積み上げることで復元していたので莫大な費用がかかってしまうので、これを解消する一手段として、特許文献1には、テトラポット等の異形ブロックを対象として、沈んだ状態の異形ブロックを掘り起こすための掘り起こし機が提案されている。
しかし、かかる手段によっても、掘り起こしに要する作業量が膨大で、手間と費用のかかるものでしかなかった。

【特許文献1】特開平10−237893
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の混合組成物は上記実情に鑑みてなされたもので、透水性に優れ、適度な強靱性を備える無機質材料で、海水中で固化するに従ってテトラポットを保持して容易に浮沈させることはなく、海草類の着生性も良いブロックの敷設方法を提供するものである。更に、使用後には比較的簡単に崩壊させることができ、且つ廃棄物の問題が生じることなく、土壌に戻し易い無機質材料であるブロックの敷設方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、請求項1記載のテトラポット等ブロックの敷設方法は、重量比で山砂60〜70%、ポルトランドセメント5〜15%、鉄スラグ10〜20%および若干の界面活性剤を混合し、(a)該混合組成物を封入した場合の自重に耐えうる強度を備え、(b)該混合組成物が形態を保ち得る程度に固化するまで水中で強度を保ち得、(c)所定期間後に水に溶ける紙にて、袋体又は箱体を形成する。該混合組成物を投入した袋体又は箱体を、テトラポット等ブロックの下敷き及び/又は端部間に敷設し、海水や河川水を該混合組成物内部に浸透させてブロック端部形状に沿って固化させると共に海草類を着生させ易くすることを特徴とする。
【0005】
請求項2記載のブロックの敷設方法は、請求項1記載の紙がクラフト紙または水溶紙であることを特徴とする。
【0006】
請求項3記載のテトラポット等ブロックの敷設方法は、請求項1又は2記載の混合組成物1つである山砂の粒子径が1〜2mmで、鉄スラグの粒子径が0.5〜1mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のテトラポット等ブロックの敷設方法は、テトラポットの一端部の形状に沿って固化するが、このときテトラポットの一端部が食い込んで固化するので、潮の流れや潮の干満に対してアンカー効果を発揮してテトラポットを動きにくくし、波に対する安定、固定効果が生まれる。
混合組成物が一定期間を経過して固化すると、該固化した組成物の鉄スラグから鉄分及びリン酸、カルシウム等の要素成分が溶出され、該要素成分は海草を生え易くし、海草類の根付きが起こり易い環境を形成し、その結果、プランクトンや小魚を集めて、漁場形成に寄与する。
該組成物は無機質および界面活性剤であるので、廃棄物の問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
そこで、この発明の実施の形態を、図1〜図5および表1〜表5に基づいて説明する。
本発明は、透水性を保有する無機質組成物として一体化するが、その選定材料としては山砂、ポルトランドセメントおよび鉄スラグを用い、添加剤として界面活性剤を混合して混合組成物を形成する。
次の段階で、上記混合組成物をクラフト紙で造形した袋体又は箱体に小分けして使用する。
以下、該選定材料の特徴について説明し、形成される混合組成物の特徴について説明する。


【0009】
山砂は、主として花崗岩などが風化してできた土で、山で採取できる砂であり、火山灰などの粘土質を除いた骨材である。岩石を破砕して分粒し細骨材相当の砕石も含まれる。その粒度は、通常2mmのふるい目下のものが用いられ、具体的には1〜2mmの砕石を採用した。
図1に示すように、山砂2が主成分として混合される混合組成物1は、山砂2の粒子間にランダムな空隙aを形成させる。この空隙aが存在することにより、混合物中の空気や水が保存できることを表し、海水中に沈めると、海水が混合物の表層部から内部に徐々に浸透し、混合物中の空気と置換することを示している。山砂2の粒子径が1〜2mmより大きいと空隙aも大きくなり、透水性が高くなるので、該混合組成物1として固化する前にバラバラに流出してしまう。粒子径が小さいと空隙aが小さくなり、混合物内部にまで透水することは少ない。
【0010】
ポルトランドセメント3は、山砂2の表面を実質的に囲繞し、山砂2の各粒子を結合して一体に固化し、多数の空隙を形成してブロック体をポーラス状に保持する役割を担っている。
しかしながら、ポルトランドセメントは骨材間の接合力を大きく保持できるが、それ自体が団子状、塊状になり易く、空隙を埋め易いので、使用量は少量が望ましい。


【0011】
混合組成物1のもう一つの組成である鉄スラグ4は、鉄製品を製造する際に出る屑で、その粒度は通常1mmのふるい目下のものが用いられ、具体的には0.5〜1mmの電気炉酸化スラグを採用した。該電気炉酸化スラグの分析結果を表1に示す。


【0012】
【表1】

【0013】
上記分析表に示される如く、鉄スラグ4には、多量の鉄成分が含まれると同時に、カルシウムやリンが含有されているので、粒子径0.5〜1mmの鉄スラグ4が、当該混合組成物1の表面および内部に分散して存在した場合、上記山砂によりポーラスな造りが形成されているので、該鉄スラグ4から溶出した鉄・カルシウム・リン酸等の要素成分が容易に海草を生えさせ、海草類の根付きが起こり易い環境を形成する。

【0014】
界面活性剤5はノニオン系が使用される。その性状は山砂2の濡れ性を高め、該山砂2の表面にポルトランドセメント3を均一に分散させ、水の表面張力を抑えて均一な透水を可能とする。ポルトランドセメント3が山砂2の表面において均一に分散されると、ブロック体として適度な強度が現れるが、ポルトランドセメント3が山砂2の表面において不均一であると、団子状や塊状となり、強度が強くなり過ぎる部分と脆い部分が発生してしまい、不適である。
山砂2の濡れ性や分散性を高めるノニオン系界面活性剤5としては、ノニルフェニルエーテル系重合体で炭素数6〜7のものを利用することができる。

【0015】
以上の各材料は本発明の混合組成物1を示した。以下の材料は該混合組成物1を小分けするために必要な袋体及び箱体の材料について説明する。
該袋体及び箱体の材料は、(a)該混合組成物を封入した場合の自重に耐えうる強度を備え、(b)該混合組成物が形態を保ち得る程度に固化するまで水中で一定強度を保ち得、(c)所定期間後に水に溶けるという、(a)〜(c)の要件を備えた紙であることが必要となる。
(a)の要件は、混合組成物を封入した袋体、箱体を護岸設置にクレーン等で持ち上げた場合に、山砂等の重量物を含む組成物の自重に耐え得る強度を指す。(b)の要件は、混合組成物を海水や河川水中に沈めた場合に、山砂等の粒状成分が分散してしまわないよう、組成物が水による固化反応でその形態を保ち得る程度に固化するまで、袋体、箱体が一定の強度を保つことをいう。(c)の要件は、その後袋体、箱体が水に溶出し、固化した組成物の表面が露出され、そこに流れ藻やその種が付着し、内部の鉄成分等の成分要素により海草が着生し易くすることを指す。
上記(a)〜(c)の要件を備えた紙の具体例がクラフト紙及び水溶紙である。
図2は、該クラフト紙7を袋体6とする構造体を示す。袋体6はクラフト紙7の1層厚さを1mmとし、厚さ5mmの5層構造体の板紙として造形した。この構造体は海水などに浸透されて徐々に吸水し、半年程度で海水に溶解する。半年という時間は、上記混合組成物1が徐々に海水を吸水して固化する時間が1ヶ月で、その後の海草類の根付きが起こる時間が3ヶ月とし、海草類が成長する時間を更に3ヶ月として勘案した時間である。
又、無サイズ紙と呼ばれる海水など水を吸水させると1週間程度で溶解する水溶紙がある。紙が水に濡れて破れやすくなる性質を極限まで高めたもので、紙を構成している繊維が分散した状態をいい、混合組成物の水中での固化反応を1週間程度でおこなう等の早期の固化及び海草の着生が望ましい場合には、このような水溶紙を用いることもできる。
クラフト紙7の紙質試験成績表を表2に示す。
【0016】
【表2】

クラフト紙は、上記の如く、空中で(a)の要件を備え、水中で(b)及び(c)の要件を満たしている。

【0017】
以上に記述した各材料の特徴を踏まえ、本発明である透水性を保有した上記混合組成物1の配合と成形方法について説明する。
表3にその配合表を示す。

【0018】
【表3】



【0019】
前記配合に基づいた混合組成物1を用いてテトラポット等のブロックを敷設する工程を以下に説明する。
該混合組成物1を容器に取り、撹拌機で撹拌の後、クラフト紙7で造形した袋体6に充填する。この状態にて護岸工事を行った湾岸にて波打ち際に並行数列に並べ、その上にクレーンにてテトラポットを乗せて、該テトラポットの一端部で該混合組成物1を押さえつける。波打ち際であるので、クラフト紙を透過して、絶えず海水が浸入し、山砂、鉄スラグとポルトランドセメントとの化学反応を徐々に進行させながら該混合組成物1の中心部分に達する。
このとき、混合組成物はポーラス状であるので、化学反応が早く、固化することができる。
また、本発明の配合は、基本原料が天然素材であり、且つ界面活性剤に有害な物質を一切含有していないことから、海洋植物は約3ヶ月後頃から生え始める。廃棄時には粉砕して自然土に還元できる材料を使用し、新たな産業廃棄物を発生ささない。そのままでも自然土に還元できるブロック体となっている。
【実施例】
【0020】
この発明の実施例を、上記実施の形態に基づいて製作した。その実施状況を以下に説明する。
【0021】
上記の形態に基づいて製作した組成物を製作するための配合表を表4に示す。

【0022】
【表4】

【0023】
造成されたコンクリート製あるいは砂製の護岸部分8の上に、クラフト紙7製の袋体6に充填した本発明である該混合組成物1を並べ、その上にテトラポット9を敷設する護岸工事を行った。特にテトラポット9を2〜3段重ねる場合は、テトラポット9が互いにぶつかり合って破壊されないようにテトラポット9の突き当たり部分にも、当該混合組成物1を袋体6に入れたまま間に挟んで敷設し、テトラポット9の一端部で該混合組成物1を自重で押さえつける挟み込み方式とした。以上の護岸工事の状況を図3及び図5に示した。

【0024】
テトラポット9の一端部による挟み込み方式により、海水の波による流出を防ぐことが可能であり、本発明である該混合組成物1の固化が順調に且つ早期に進行する。
すなわち、該混合組成物1を海水に沈めると約3時間後から固化が始まり、その強度を一軸圧縮強度で表すと約7日間で12N/cm、約12日間で18N/cm位に達し、その後約1ヶ月程度で最強強度21N/cmに達する。この固化に至る進捗状況を混合組成物1の固化速度として図4にグラフで示した。

【0025】
護岸工事の終了後、約1ヶ月経過すると混合組成物1は最強強度21N/cmに達し、テトラポット9の一端部の形状に沿って固化する。この状態はテトラポット9の一端部が混合組成物1に食い込んでいるので、潮の流れや潮の干満に対してアンカー効果を発揮してテトラポット9は動きにくくなることを意味している。
所謂、テトラポット9の一端部の形状に沿う変形は、混合組成物1が粒状組成を保持し、この粒状組成をクラフト紙7製の袋体6が柔らかい繊維状材料で包み、テトラポット9の自重で押さえられることにより起こる。
一方、テトラポット9とテトラポット9の間に配設した混合組成物1も、その形状に沿って固化すると共に、不安定な状況にある隙間が埋まって接触面積が増加するので波によって移動することがなく、固定効果が生まれ、安定化する。図5に混合組成物1の約1ヶ月経過後の固化状況を示した。

【0026】
混合組成物1が固化後3ヶ月経過すると、該ブロック中の鉄スラグ4から鉄分・カルシウム・リン酸等の要素成分が溶出し、該要素成分は容易に海草を生えさせ、海草類の根付きが起こり易い環境を形成する。このとき、固化後の組成物は、図1に示す如くポーラスな状態であり、流れ藻や種が付着しやすく、且つ、内部から上記要素成分が溶出し易く、海草の生育を促す状況を提起している。
その後、プランクトンが生まれ、それを餌に小魚が寄って来るので、更に大きな魚が来ることになる。このような状況は自然環境が戻ったことを意味し、海水が汚れていない、環境保全されている領域であることを指している。
本発明の組成物の計量証明は、財団法人栃木県環境技術協会に依頼した。いずれの測定項目においても基準値以下であることを確認し、海水への有害物質の溶出がないことが証明できた。計量結果を表5に示す。

【0027】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、テトラポットの他、三角錐型ブロックや円筒型ブロック等のブロックにも適用でき、これらを安定的に敷設させる方法として、海岸はもとより、河川等においても広く応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の混合組成物の分布状態の模式図を示す。
【図2】図2は、クラフト紙を袋体とする構造体の模式図を示す。
【図3】図3は、護岸工事の状況模式図を示す。
【図4】図4は、混合組成物の固化速度グラフを示す。
【図5】図5は、混合組成物の固化後の状況を示す。
【符号の説明】
【0030】
a 空隙
1 混合組成物
2 山砂
3 ポルトランドセメント
4 鉄スラグ
5 界面活性剤
6 袋体
7 クラフト紙
8 コンクリート製護岸部分
9 テトラポット






【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比で山砂60〜70%、ポルトランドセメント5〜15%、鉄スラグ10〜20%および若干の界面活性剤を混合し、
(a)該混合組成物を封入した場合の自重に耐えうる強度を備え、(b)該混合組成物が形態を保ち得る程度に固化するまで水中で一定強度を保ち得、(c)所定期間後に水に溶ける、紙にて袋体又は箱体を形成し、
該混合組成物を投入した袋体又は箱体を、テトラポット等ブロックの下敷き及び/又は端部間に敷設し、
海水や河川水を該混合組成物内部に浸透させてブロック端部形状に沿って固化させると共に海草類を着生させ易くすることを特徴とするブロックの敷設方法。
【請求項2】
請求項1記載の紙が、クラフト紙または水溶紙であるブロックの敷設方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の混合組成物1つである山砂の粒子径が1〜2mmで、鉄スラグの粒子径が0.5〜1mmであるブロックの敷設方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−25133(P2008−25133A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196457(P2006−196457)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(507210982)
【Fターム(参考)】