説明

テプレノン製剤及びテプレノン製剤の製造方法

【課題】油性で不安定であるテプレノンを、安定化及び粉体化し、使用時に水溶性化して利用することができるテプレノン薬剤及びその製造方法の提供。
【解決手段】テプレノン(6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン)と糖鎖分岐シクロデキストリン(グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン又はグルコピラノースを構成単位としたデキストリンからなる糖残基を導入した−β−シクロデキストリン)を水の存在下に混合、混練した後、乾燥し、粉砕して粉状体のテプレノンと、グルコシル−β−シクロデキストリン又はマルトシル−β−シクロデキストリンの複合体を得ることができる。その結果、安定化及び粉体化が可能になり、水中ではテプレノンを溶出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テプレノン製剤及びテプレノン製剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テプレノン(非特許文献1)は、防御因子強化型のテルぺン系抗潰瘍剤(例えば、エーザイ株式会社セルベックス(商標名))の医薬として知られている。テプレノンは、その化学構造中に4つの不飽和結合を有するイソプレンからなる炭化水素基と極性基を有しており、油状であり、空気中の酸素によって酸化されやすく、保存環境下で分解されやすい特性を有している。製剤とする場合には以下に記載するようにこの特性を十分に考慮して行われてきた。
【0003】
テプレノンを製剤化する場合には、抗酸化剤を添加して安定化して利用された。具体的には、テプレノンは、特定の抗酸化剤(プレニルケトン系化合物であるトコフェロール類、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールを含有する安定化組成物(特許文献1)、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有するテプレノン製剤(特許文献2)、タンニン、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、タンニン酸ジフェンヒドラミンおよびタンニン酸ベルベリンを、無機担体または有機担体を加え、常法に従って、固体、半固体または液体等の種々の剤型に製剤化(特許文献3)、ヒドロキノンを添加したテプレノン製剤(特許文献4)、テプレノンにアスコルビン酸を分散させたものを吸着剤に吸着させた後、薬学的に許容される担体を加えて製剤化した製剤(特許文献5)、テプレノンと、これに対し1.0wt%以上のL−アスコルビン酸もしくはエリソルビン酸またはそれらの塩類とを担持せしめた固形剤(特許文献6)がある。抗酸化剤並びにその両者を担持しえる粉末担体は、例えば、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、トウモロコシデンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドンであり、これに担持して用いることが行われている。これらは安定剤を用いると、初めて安定化が行われる。薬剤であるテプレノンは油性であるから、テプレノン自体を水溶化した状態で利用されることはない。
【0004】
市販されているテプレノンを含有する胃薬であるセルベックスはトコフェロール(酸化防止剤)及び乳糖(主に担体として作用していると考えられる)などの添加物とともに用いられている。又、カプセル剤では溶解補助剤であるラウリル硫酸ナトリウムやマクロゴールが配合されている。これはテプレノンが油性で水に溶解しないので、生体への吸収性或いは消化管液へのテプレノン親和性を補っているものと考えられる。患者への負担或いは製造や品質管理などのコスト面を考慮しても、添加物の種類は少ない方が望ましい。テプレノンを安定化することと水溶性化することができれば、これらの添加物の種類を減少させることができる。この点からの改善が必要であると考えられる。又、テプレノン単味での安定性は改善されるが、他の医薬品と配合したときに含量の低下する例が記載されている(非特許文献2)。いずれにしても、これらの方法では、安定性と水溶性を同時に達成できる製剤が必要であると考えられる。
【0005】
ユビキノンに、脂溶性薬物として脂溶性ビタミン類、テプレノン、DHA、及びEPAから選択される少なくとも1種少なくとも含む脂溶性薬物と、アルギン酸類を少なくとも含む乳化剤と、保持剤とを少なくとも含む乳化液を乾燥させて固形化する製剤方法(特許文献7)では、テプレノンなどはシクロデキストリンと共存して用いるというものであり、後で述べる医薬と複合体を形成して用いるものではなく、その意味では安定剤と共に用いるものであるから、前記従来の使用方法と変わるものではなく、安定性と水溶性を同時に達成できる製剤ではない。
【0006】
シクロデキストリンは、ブドウ糖が6個、7個、8個と環状(ド−ナツ状)に連なって、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンを形成している。このシクロデキストリンは他の物質を環状部分に取り込んで複合体を形成し、その物質の有している特性を変化させることができることが知られている。具体的には、物質の安定化をはかること、消臭化を可能とすること、水に可溶化させることができることから、物質を利用する際に、この特性を変化させることが必要となった場合には、これらの特性を変化させるための手段として物質にシクロデキストリンとの複合体を形成することが行われてきた。
【0007】
本発明者らは、シクロデキストリンと医薬の複合体を形成させる製剤の研究をおこなってきた。医薬であるテプレノンとβ−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンは複合体を形成し、β−シクロデキストリンでは安定化された複合体からなる粉体を得ることができることがわかった。しかしながら、テプレノンに対して、β−シクロデキストリンを用いたときに水に溶出して水溶性化する点については十分な結果をえることができず、結局、安定化と水溶性化を同時にはかることは、前記シクロデキストリンを用いることによっては達成することができなかった(非特許文献3)。又、β−シクロデキストリン及びメチル化されたβ−シクロデキストリンは溶血作用があることが指摘され、薬剤をヒドロキシプロピルエーテル−β−シクロデキストリンなどの複合体の利用も行われる(特許文献8)。薬剤には非ステロイド系リウマチ剤、ステロイド、強心剤配糖体、ベンゾジアゼピン誘導体、ピペリジン誘導体などである。又、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン、エトキシβ−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン誘導体と医薬の複合体の利用も行われる(特許文献9)。これらを適用することも検討したが、やはり良好な結果を得ることができなかった。
【0008】
さらに、非水溶性又は難水溶性薬理活性物質(ステロイド系抗炎症剤、強心剤、中枢神経剤、抗生物質、脂溶性ビタミン)とグルコシル−β−シクロデキストリンを混合した複合体(特許文献10)、ビタミン(ビタミンA、D、E)やホルモンとマルトシル−β−シクロデキストリンを混ぜ合わせて得られる複合体(特許文献11)、分岐シクロデキストリンカルボン酸と医薬の複合体(特許文献12)、分岐シクロデキストリン−カルボン酸を溶解剤として水不溶性ないし難溶性物質である医薬と添加した複合体(特許文献13)、分岐シクロデキストリンカルボン酸エステルと医薬の複合体(特許文献14)を得ることができることも知られている。これらの特許では数多くの医薬が列挙されているにもかかわらず、これらの従来例にあっても油性であるテプレノンは対象とされておらず、テプレノンについて水溶性化することについては困難であると考えられていたものであると考えられる。
【0009】
以上述べたとおり、油性で不安定であるテプレノンを安定化及び粉体化し、使用時に水溶性化して利用することが困難であるとされており、テプレノンを医薬として利用することに関しては満足する状態にない。このようなことから、油性で不安定であるテプレノンを安定化及び粉体化し、使用時に水溶性化して利用することができるテプレノン製剤及びその製造法の開発が切望されてきた。
【特許文献1】特公昭62−9096号公報
【特許文献2】特開平6−56658号公報
【特許文献3】特開平9−95442号公報
【特許文献4】特開平9−241155号公報
【特許文献5】特開平9−227364号公報
【特許文献6】特開平9−100228号公報
【特許文献7】特開2004−331597号公報
【特許文献8】特公平05−70612号公報
【特許文献9】特表2005−530866号公報
【特許文献10】特開昭63−27440号公報
【特許文献11】特開昭62−281855号公報
【特許文献12】特開平7−76594号公報
【特許文献13】特開平7−215895号公報
【特許文献14】特開平9−235302号公報
【非特許文献1】Helv.Chim. Acta. 28, 590 (1945)
【非特許文献2】エーザイ株式会社インタビューフォーム
【非特許文献3】深水啓朗、「第23回シクロデキストリンシンポジウム要旨集」 p210から211(2005)、シクロデキストリン学会発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、油性で不安定であるテプレノンを、安定化及び粉体化し、使用時に水溶性化して利用することができるテプレノン製剤及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、テプレノンに対して糖鎖分岐シクロデキストリンであるグルコシル−β−シクロデキストリン又はマルトシル−β−シクロデキストリンについて混ぜ合わせ、混練した後、乾燥して得られる複合体は、テプレノンのカルボニル伸縮振動に由来する1718cm−1の吸収ピークが1701cm−1の付近にシフトすることが観察され、その結果、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンは複合体を形成することを確認し、複合体を形成することによりテプレノンが安定化され、又粉体化されること、又、これらの混合物について水に対する溶出試験を行うと、マルトシル−β−シクロデキストリンは30%を超えるテプレノンの溶出を起こすことを観察し、良好な水溶出量を有することがわかり、本発明を完成させた。
前記したようにテプレノンは油性であり、不安定な物質であり、β−シクロデキストリンにより包接されると安定性を向上させることができ、粉体化ができるが、水溶性化することはできなかった。ジメチル化されたβ−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化されたβ−シクロデキストリンやアルキレンスルフオン酸で置換されたβ−シクロデキストリンを用いる場合にも良好な結果を得ることができなかった。
そして、テプレノンはグルコシル−β−シクロデキストリン又はマルトシル−β−シクロデキストリンにより包接されたことにより、β−シクロデキストリンや前記β−シクロデキストリンでは良好な結果を得ることができなかった、水溶性及び安定性を向上させることができることを見出して、本発明を完成させた。
以上のことから、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体は、不安定で油性のテプレノンの安定化、粉体化及び水溶出性を可能にし、医薬として有効に用いることができることを確認して本発明を完成させた。
【0012】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)テプレノンと、糖鎖分岐シクロデキストリンからなる複合体を含有することを特徴とするテプレノン製剤。
(2)前記糖鎖分岐シクロデキストリンがマルトシル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする前記(1)記載のテプレノン製剤。
(3)前記糖鎖分岐シクロデキストリンがグルコシル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする前記(2)記載のテプレノン製剤。
(4)テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンを水の存在下に混合、混練した後、乾燥し、粉砕して粉状体テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンの複合体を得ることを特徴とするテプレノン製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により得られるテプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンからなる複合体は、テプレノン自体は不安定な物質であり、又油性であるにも関わらず、複合体とすることによりテプレノンの安定性及び水溶性を同時に向上させることができ、粉体化も可能となった。消化性潰瘍治療剤に用いられておりテプレノンは、前記複合体とすることにより、より安全で薬効を挙げることが可能となった。又水溶性化が容易となり医薬としての使用量も少なくすることが期待される。また、医薬であるテプレノンは、体内に吸収されて組織へ移動することができるので、バイオアベイアベイラビリティを向上させることができることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で対象とする製剤しようとする薬剤は以下の構造式で表されるテプレノン(6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン)である。
【化1】


特性は黄色油性である。沸点は155〜160℃である。
【0015】
テプレノンは、置換されたアセチレン誘導体から製造される(Helv.Chim.Acta. 28, 590 (1945))。和光純薬工業により製造される、市販品を用いることができる。
【0016】
本発明では、糖鎖分岐シクロデキストリンを用いる。この糖鎖分岐シクロデキストリンとは、β−シクロデキストリンの水酸基の一部を化学修飾したものであり、グルコシル基、又はマルトシル基から選ばれた糖残基を導入したものであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、又グルコピラノースを構成単位とするデキストリンからなる糖残基を導入した−β−シクロデキストリンである。
【0017】
前記糖鎖分岐シクロデキストリンに含まれるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンは、β−分岐シクロデキストリンの水酸基の一部を化学修飾したものであり、グルコシル基、又はマルトシル基から選ばれた糖残基を導入したものである。修飾基の導入は、酵素反応を利用して行うことができる。
マルトシル−β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンとマルトースをプルナーゼの存在下に反応させることによりマルトシル−残基を分枝に有する分枝−シクロデキストリンを得ることができる(特公平4−4875号、特開昭62−106901号)、グルコシル−β−シクロデキストリンは、ジマルトシル−β−シクロデキストリンにグルコアミラーゼを作用させてジグルコシル−β−シクロデキストリンを得ることができる(特開昭62−106901号公報)。
これらのグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンは市販されており、これを用いることができる(横浜国際バイオ株式会社製)。
糖鎖分岐シクロデキストリンに含まれるグルコピラノース単位を構成単位とするデキストリンからなる糖残基を導入したマルトシル−β−シクロデキストリンは、前記と同様にβ−シクロデキストリンの場合と同様に酵素を作用させて製造できるほか、グルコピラノース単位を構成単位とするデキストリンである糖をβ−シクロデキストリンと反応させて製造することができる。
前記糖鎖分岐シクロデキストリンに含まれるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、グルコピラノース単位を構成単位とするデキストリンからなる糖残基を導入した−β−シクロデキストリンは、いずれも糖残基を導入したものであり、その性質は類似しており、また、同様な特性を示す。
【0018】
グルコシル−β−シクロデキストリンの溶解度は971mg/ml、マルトシル−β−シクロデキストリンの溶解度は1471mg/mlである。なお、β−シクロデキストリンの溶解度は1.85mg/mlである
【0019】
複合体の形成方法は以下の通りである。
(1)テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンをモル比で1対2の割合で混合する。これらの用いる原料物質は粉状である。
(2)粉状である混合物に適当量の水を添加する。水の添加量は混合物を湿らす程度であればよい。水は存在する程度にあればよく、その量は液状になるように過剰量を添加することではない。
(3)水を添加した混合物を約5から10分間混練した後、105から120℃程度の温度で3時間から4時間減圧乾燥する。減圧する程度は、約0.1Torrである。乾燥操作が終了後、軽く粉砕して粉状として、目的物質を得る。
(4)このようにして得られた粉状物質を固めて固形剤とする。細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、散剤等の形態のものとすることができる。このように製剤として経口投与剤として使用することができる。製剤化されたテプレノン製剤は、胃粘膜病変、胃炎、胃潰瘍などの疾患に対して有効に使用され、その経口投与量は、通常、テプレノンとして1日150mgとされている。
(5)テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリン複合体は水溶性であることを利用して、水に溶解させて利用することができる。水溶性とすることで、生体に対する吸収性の改善が期待されるため、結果的に主薬であるテプレノンの使用量を減少させることができると考えられる。
【0020】
複合体の確認は、(1)IRスペクトル及び(2)熱質量分析により行う。
【0021】
(1)IRスペクトル分析については、テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体と、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンのIRスペクトルを比較することにより行う。複合体が形成されていると、テプレノン及びグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンのみの場合と比較して特定波長につき変化することにより確認することができる。このスペクトル分析を行うことにより、複合体には固有のスペクトルを見出すことができる。この結果から複合体が形成されていることを確認することができる。
【0022】
(2)熱質量分析については、テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンを単に混合したものと、テプレノンと、テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体としたものの熱質量分析を行った結果を比較する。
複合体を形成している場合の結果は、単に混合物の場合と比較して質量減少の変化を観察するので、複合体が形成されたことを確認することができる。
【0023】
水に対する溶出量の試験は以下により行う。
テプレノン(投与するセルベックス顆粒は、酸化防止剤及び乳糖などの保持剤を用いるものである。この状態のテプレノンを用いる。)と、糖鎖分岐シクロデキストリンであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体の粒状物を水中に浸し、複合体の溶出量を算出し、他の場合と対比して、水に対して溶出しやすいかどうかを比較する。水に対する溶出量を計測するにあたってはろ過により水に溶け出していない成分を取り除いた液体を高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)により溶出量を算出する。
【0024】
安定性試験は以下のようにして行う。
セルベックスまたはテプレノンとマルトシル-β-シクロデキストリンからなる複合体と合成ケイ酸アルミニウムを質量比1:2で混合し、40℃・75%RHで3日間保存する。セルベックス及びテプレノンとマルトシル-β-シクロデキストリンからなる複合体中のテプレノン含量をHPLCで定量した。
【0025】
以下に、テプレノンと、グルコシル−β−シクロデキストリン又はマルトシル−β−シクロデキストリンからなる複合体の形成方法の具体例及び複合体が形成されていることの確認方法、テプレノンの複合体の水に対する溶出量の試験、テプレノンの複合体の安定性試験の各結果を示す。テプレノンの複合体の形成方法の具体例はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
テプレノンと、糖鎖分岐シクロデキストリであるグルコシル−β−シクロデキストリン又はマルトシル−β−シクロデキストリンからなる複合体の形成方法
テプレノン50.0mgに、グルコシル−β−シクロデキストリン147.1mg、又はマルトシル−β−シクロデキストリン221.0mgを混合物に数滴の水を添加し、5分間混練し、105℃で3時間減圧乾燥させ、軽く粉砕したものを得た。得られた粒径は、1400μm以下であった(1400μmのふるいを通過したもの)。
【実施例2】
【0027】
複合体が形成されていることの確認(IRスペクトル分析)
テプレノンと、糖鎖分岐シクロデキストリンであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体の粒状物(粒径1400μm以下)のものについて、IRスペクトル分析を行った。測定結果については図1左側の図に示したとおりである。
グルコシル−β−シクロデキストリン又はマルトシル−β−シクロデキストリンを混ぜ合わせて得られる複合体は、テプレノンのカルボニル伸縮振動に由来する1718cm−1の吸収ピークが1701cm−1の付近にシフトすることが観察された。
その結果、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンは複合体を形成することを確認することができた。
参考までに他のβ−シクロデキストリン誘導体とテプレノンの複合体が形成される状態を図1右側に示した。
【実施例3】
【0028】
複合体の形成が形成されていることの確認(熱質量分析)
テプレノンとグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンを単に混合したものと、テプレノンとグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体としたものの熱質量分析を行った結果を比較した。代表例として、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンについて測定した結果を図2に示す。複合体を形成している場合は、単に混合物の場合と比較してテプレノンの揮発が抑制され、150℃付近の質量減少がほとんど観察されないので、複合体が形成されたことを確認することができた。
【実施例4】
【0029】
テプレノンの複合体の水溶出量の測定
テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリであるグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体の粒状物を、日本薬局方一般試験法の溶出試験法第2法に準拠して水中に浸した。水温は37℃、水の量は複合体中のテプレノン含量50mgに対して900mLを用いた。測定時間は、0から2時間にわたって行った。測定時間となったときに、ろ過により水に溶け出していない成分を取り除いた。得られた液体を高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)により測定して、溶出量を算出した。結果を図3に示した。
比較するための対象例は市販されているセルベックス顆粒(エーザイ株式会社製)を用い、テプレノンの含有量を複合体と同じ50mgとし、粒径を150μm以下となるようにした。セルベックス顆粒を、複合体と同じ温度、同じ量の水に浸し、複合体の測定時間に合わせて、ろ過により水に溶け出していない成分を取り除いた。得られた液体を高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)により測定して、溶出量を算出した。結果を図3に示した。
テプレノンとマルトシル−β−シクロデキストリンからなる複合体の粒状物による溶出量は、30%程度に終始しており、一方、セルベックス顆粒の場合は殆ど溶出がなく、複合体の場合には溶出量が圧倒的に高いことを確認した。
従来用いられているセルベックス顆粒は、酸化防止剤及び乳糖などの保持剤を用いるものであり、使用する添加剤はテプレノンの複合体より多い。それにもかかわらず、テプレノンの水溶出量はほとんど観察されず、本発明のテプレノンの複合体では、テプレノンとして30%程度の水溶出量を得ているものであり、その効果は顕著なものであるということができる。
【実施例5】
【0030】
テプレノンの複合体の安定性の試験
セルベックス顆粒は合成ケイ酸アルミニウムと混合すると、著しい含量低下が認められるという報告がインタビューフォームに記載されている。そこで、セルベックスを対象に、テプレノンとマルトシル-β-シクロデキストリンからなる複合体の安定性について比較検討した。
セルベックスまたはテプレノンとマルトシル-β-シクロデキストリンからなる複合体と合成ケイ酸アルミニウムを質量比1:2で混合し、40℃・75%RHで3日間保存したとき、セルベックス及びテプレノンとマルトシル-β-シクロデキストリンからなる複合体中のテプレノン含量はそれぞれ約58、72%であった。したがって、テプレノンとマルトシル-β-シクロデキストリンが複合体を形成することによりテプレノンが安定化されたものと考えられた。
前記と同様に、テプレノンの安定化に関し、本発明のテプレノンの複合体では、セルベックスを超えて優れた結果を得ており、その効果は顕著なものであるということができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】テプレノン、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンとグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体のIRスペクトルの特定部分、テプレノンと他のシクロデキストリン誘導体の複合体のIRスペクトルの特定部分について結果を示した図である。
【図2】テプレノンとマルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンを単に混合したものと、テプレノンとマルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体の熱質量分析結果を示す図である。
【図3】テプレノンとグルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンとテプレノンからなる複合体及び市販されているセルベックスの水溶出量の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テプレノンと、糖鎖分岐シクロデキストリンからなる複合体を含有することを特徴とするテプレノン製剤。
【請求項2】
前記糖鎖分岐シクロデキストリンがマルトシル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1記載のテプレノン製剤。
【請求項3】
前記糖鎖分岐シクロデキストリンがグルコシル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項2記載のテプレノン製剤。
【請求項4】
テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンを水の存在下に混合、混練した後、乾燥し、粉砕して粉状体テプレノンと糖鎖分岐シクロデキストリンの複合体を得ることを特徴とするテプレノン製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−217318(P2007−217318A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37846(P2006−37846)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】