説明

テルピリジル基含有化合物

【課題】 機能性材料の新たな展開が期待できる新規なテルピリジル基含有化合物を提供すること。
【解決手段】 炭素原子又はケイ素原子を中心原子とし、該中心原子に結合した同一の有機基を4つ有し、上記有機基がそれぞれテルピリジル基を1つ含む基である、テルピリジル基含有化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテルピリジル基含有化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配位結合性化合物として、テルピリジル基を有する有機化合物に関する研究が精力的に行われている(下記特許文献1参照)。
【0003】
配位子に金属が配位した金属錯体は、触媒材料やエネルギー変換材料等の機能性材料として注目されている。
【0004】
ポリピリジル化合物は、種々の金属と錯体を形成し、エレクトロクロミズムや光触媒等の特異な性質を示す金属配位子として興味がもたれている。
【0005】
しかし、既存の配位性有機化合物は、その複数の配位部位の方向性を保つことが難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−166727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
新規な構造を持つテルピリジル基含有化合物を得ることは、機能性材料の新たな展開の上で意味深いことである。そこで、本発明は、新規なテルピリジル基含有化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、炭素原子又はケイ素原子を中心原子とし、該中心原子に結合した同一の有機基を4つ有し、上記有機基がそれぞれテルピリジル基を1つ含む基である、テルピリジル基含有化合物を提供する。
【0009】
本発明のテルピリジル基含有化合物は、新規な構造を有する有機化合物であり、中心に炭素又はケイ素を持つため、立体的な構造をとり、配位部位の異方性を持つ。また、本発明のテルピリジル基含有化合物は、4つのテルピリジル基を持つため、複数の金属を結合させることができる。ここでテルピリジル基は、その芳香環に置換基を有するものも含む。
【0010】
本発明のテルピリジル基含有化合物は、芳香環を有する化合物であることが好ましい。テルピリジル基含有化合物が芳香環を有することにより、分子の剛直性が得られ、大きな分子サイズを得ることができる。
【0011】
本発明のテルピリジル基含有化合物は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】



[式(1)中、Xは炭素原子又はケイ素原子を示し、Yは単結合、或いは、下記一般式(2)又は(3)で表される基を示す。]
【化2】



[式(2)中、Rは水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、nは1又は2を示す。]
【化3】



[式(3)中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。]
【0012】
上記一般式(1)で表されるテルピリジル基含有化合物は、構造の立体性、配位部位の異方性、及び、4つのテルピリジル基により複数の金属を結合させる効果をより向上させることができる。
【0013】
本発明のテルピリジル基含有化合物は、カップリング反応により合成される化合物であることが好ましい。カップリング反応により合成されたテルピリジル基含有化合物は、より安定した特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規なテルピリジル基含有化合物を提供することができる。本発明のテルピリジル基含有化合物は、中心に炭素又はケイ素を持つため、立体的な構造をとり、配位部位の異方性を持つ。また、本発明のテルピリジル基含有化合物は、分子内に芳香環を有する場合、剛直性が得られ、大きな分子サイズが得られる。
【0015】
また、本発明のテルピリジル基含有化合物は、4つのテルピリジル基を持つため、複数の金属を結合させることができる。
【0016】
本発明のテルピリジル基含有化合物の用途として、例えば、水素吸蔵材料への使用が挙げられる。本発明のテルピリジル基含有化合物を、水素を化学吸着する金属微粒子と組み合わせることで、物理吸着サイトとなりうる規則的なフレームワーク構造を持つ水素吸蔵材料を得ることができる。
【0017】
また、本発明のテルピリジル基含有化合物の他の用途として、例えば、触媒材料への使用が挙げられる。本発明のテルピリジル基含有化合物を、触媒能を持つ金属イオンと組み合わせることで、特異な選択性を持つ触媒を得ることができる。
【0018】
更に、本発明のテルピリジル基含有化合物の他の用途として、例えば、電子移動媒体への使用が挙げられる。本発明のテルピリジル基含有化合物を、光応答性を持つ金属イオンと組み合わせることで、新規なエネルギー材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物のプロトンNMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物のMALDI−MSスペクトルである。
【図3】実施例2で得られたテルピリジル基含有化合物のプロトンNMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られたテルピリジル基含有化合物のMALDI−MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明のテルピリジル基含有化合物は、炭素原子又はケイ素原子を中心原子とし、該中心原子に結合した同一の有機基を4つ有し、上記有機基がそれぞれテルピリジル基を1つ含む基である化合物である。中心原子に結合した4つの有機基がそれぞれ1つのテルピリジル基を含むため、テルピリジル基含有化合物は分子内に4つのテルピリジル基を有することとなる。
【0022】
上記テルピリジル基含有化合物は、テルピリジル基において金属微粒子と配位結合により結合しやすく、安定した結合状態を得ることができる。
【0023】
また、上記テルピリジル基含有化合物において、4つテルピリジル基は金属への修飾に異方性を持つため、金属微粒子とテルピリジル基含有化合物とが交互に結合した3次元網目構造を形成しやすい。ここで、テルピリジル基含有化合物は、中心に炭素又はケイ素を持つことによりテルピリジル基の異方性が生じ、テトラヘドラルな対称性を持つこととなる。また、それらの効果がより有効に奏されることから、テルピリジル基含有化合物において、有機基は末端にテルピリジル基を有していることが好ましい。
【0024】
上記テルピリジル基含有化合物は、分子内に芳香環を有する化合物であることが好ましい。芳香環を有することでテルピリジル基含有化合物の分子の剛直性が増す。また、共役系を伸ばすことができる。
【0025】
上記テルピリジル基含有化合物の具体例としては、例えば以下のような化合物が挙げられる。
【化4】



[式(1)中、Xは炭素原子又はケイ素原子を示し、Yは単結合、或いは、下記一般式(2)又は(3)で表される基を示す。]
【0026】
【化5】



[式(2)中、Rは水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、nは1又は2を示す。]
【0027】
【化6】



[式(3)中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。]
【0028】
上記一般式(1)において、Yは上記一般式(2)又は(3)で表される基であることが好ましい。また、上記一般式(2)において、nは1又は2を示すが、1であることが特に好ましい。更に、上記一般式(3)において、mは1〜3の整数を示すが、1又は2であることが特に好ましい。上記一般式(1)において、Yが上記一般式(2)又は(3)で表される基である場合、n又はmの値を調整することで、分子サイズを調整することができる。
【0029】
本発明のテルピリジル基含有化合物は、カップリング反応により合成される化合物であることが好ましい。カップリング反応によりテルピリジル基含有化合物を合成することで、中心原子に結合する4つの有機基を簡便に同一のものとすることができる。
【0030】
テルピリジル基含有化合物は、例えば、炭素原子又はケイ素原子を中心原子として含む化合物と、テルピリジル基を含む化合物とをカップリングすることにより合成することができる。カップリング反応としては、反応操作が簡便であり、目的のテルピリジル基含有化合物が得られやすいことから、触媒にパラジウム化合物を用いる鈴木カップリング反応が好ましい。
【0031】
鈴木カップリング反応により合成を行う場合、例えば、上記一般式(1)で表されるテルピリジル基含有化合物は、下記一般式(1−a)で表される化合物と、下記一般式(1−b)で表される化合物とをカップリングすることにより合成することができる。
【0032】
【化7】



【0033】
【化8】



【0034】
上記一般式(1−a)において、X及びYは一般式(1)中のX及びYと同義であり、Zはハロゲン原子を示す。
【0035】
カップリング反応は、公知の方法で行うことができ、例えば、原料化合物を触媒等の存在下、溶媒中で加熱還流することによって行うことができる。溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン等と、水とからなる二層系溶媒を用いることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
(炭素型テルピリジル基含有化合物の合成)
2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronicacidを文献(Michael,S. Bice, H. Prasenjit, M. Org. Lett., 2008, 10(12), 2513)に従って、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]methaneを文献(Isabelle, A. et. al.,J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 8177)に従って、それぞれ合成した。2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronic acidを1.45g(5.29mmol)と、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]methaneを0.77g(0.93mmol)とを、Pd(PPh触媒(220mg、0.19mmol)、炭酸ナトリウム(2.96g、27.9mmol、関東化学社製、特級)及びトリフェニルホスフィン(1.22g、4.65mmol、関東化学社製、特級)の存在下、窒素バブリングしたトルエン(150mL、関東化学社製)、水(100mL)及びTHF(100mL、関東化学社製、特級、蒸留後使用)の二層系溶媒で33日間加熱還流を行った(鈴木カップリング)。反応後、析出した固体を濾別し、脱水クロロホルム(関東化学社製、特級)で洗浄して、目的物である下記式(4)で表される炭素型テルピリジル基含有化合物を得た(716mg、収率61%)。
【0038】
【化9】



【0039】
(炭素型テルピリジル基含有化合物の分析1)
得られた炭素型テルピリジル基含有化合物について、プロトンNMR分析を行った。プロトンNMRスペクトルを図1に示した。プロトンNMRスペクトルから、上記式(4)で表される目的の化合物と1Hの数が一致し、また8.6〜8.8ppm付近に3H、7.8ppm及び7.4ppm付近に1Hずつあり、これはテルピリジンに共通するピークであるため、目的物の合成が確認された。
【0040】
(炭素型テルピリジル基含有化合物の分析2)
得られた炭素型テルピリジル基含有化合物について、MALDI−MS分析を行った。MALDI−MSスペクトルを図2に示した。上記式(4)で表される目的物の分子量は1244.5であり、その存在がMALDI−MSスペクトルで確認された。
物性値:1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ8.76 (1H, s), 8.72 (1H, d, J = 3.9Hz), 8.67 (1H,d, J = 8.1Hz), 7.88 (1H, dd, J = 1.7, 5.9Hz), 7.84 (1H, d, J = 8.1Hz), 7.48(1H,d, J = 8.5Hz), 7.32-7.37(1H, m); MALDI-TOF-MS 1245.1 (M+)
【0041】
[実施例2]
(ケイ素型テルピリジル基含有化合物の合成)
2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronicacidを文献(Michael,S. Bice, H. Prasenjit, M. Org. Lett., 2008, 10(12), 2513)に従って、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]silaneを文献(J.H.Fournier.; X.Wang.;J.D.Wuest. Can. J. Chem, 2003,81, 376-380)に従って、それぞれ合成した。2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronic acidを329mg(1.2mmol)と、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]silaneを331mg(0.4mmol)とを、Pd(PPh触媒(46.3mg、0.04mmol)、炭酸ナトリウム(637mg、6mmol、関東化学社製、特級)及びトリフェニルホスフィン(262mg、1mmol、関東化学社製、特級)の存在下、窒素バブリングしたトルエン(30mL、関東化学社製)、水(20mL)及びTHF(20mL、関東化学社製、特級、蒸留後使用)の二層系溶媒で7日間窒素下にて加熱還流を行った。反応後、反応物の有機層を塩化メチレンで抽出し、カラム及びHPLCによる精製を行ったところ、目的物である下記式(5)で表されるケイ素型テルピリジル基含有化合物を得た(12mg、0.01mmol、収率5%)。
【0042】
【化10】



【0043】
(ケイ素型テルピリジル基含有化合物の分析1)
得られたケイ素型テルピリジル基含有化合物について、プロトンNMR分析を行った。プロトンNMRスペクトルを図3に示した。プロトンNMRスペクトルから、上記式(5)で表される目的の化合物と1Hの数が一致し、また8.4〜8.8ppm付近に3H、7.8ppm及び7.3ppm付近に1Hずつあり、これはテルピリジンに共通するピークであるため、目的物の合成が確認された。
【0044】
(ケイ素型テルピリジル基含有化合物の分析2)
得られたケイ素型テルピリジル基含有化合物について、MALDI−MS分析を行った。MALDI−MSスペクトルを図4に示した。上記式(5)で表される目的物の分子量は1260であり、その存在がMALDI−MSスペクトルで確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子又はケイ素原子を中心原子とし、該中心原子に結合した同一の有機基を4つ有し、前記有機基がそれぞれテルピリジル基を1つ含む基である、テルピリジル基含有化合物。
【請求項2】
前記テルピリジル基含有化合物が芳香環を有する化合物である、請求項1記載のテルピリジル基含有化合物。
【請求項3】
前記テルピリジル基含有化合物が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1又は2記載のテルピリジル基含有化合物。
【化1】



[式(1)中、Xは炭素原子又はケイ素原子を示し、Yは単結合、或いは、下記一般式(2)又は(3)で表される基を示す。]
【化2】



[式(2)中、Rは水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、nは1又は2を示す。]
【化3】



[式(3)中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。]
【請求項4】
前記テルピリジル基含有化合物がカップリング反応により合成される化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のテルピリジル基含有化合物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−93854(P2011−93854A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250661(P2009−250661)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】