説明

テレフタル酸の乾燥方法

【課題】より簡便な粗製テレフタル酸、及び高純度テレフタル酸の乾燥方法を提供することである。
【解決手段】流動層乾燥機を用いてテレフタル酸を乾燥する方法であって、流動層乾燥機による乾燥工程の前に、テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する工程を有することを特徴とするテレフタル酸の乾燥方法であり、テレフタル酸をフラッシュ乾燥にかけることによりテレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレフタル酸の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、芳香族カルボン酸の一種であるテレフタル酸の製造工程のうち、粗製テレフタル酸を製造するにあたっては、図1に示す方法が行われている。まず酢酸Aからなる溶媒中、原料となるp−キシレンBを酸化反応器1で酸化させ、テレフタル酸を生成させる。テレフタル酸は晶析槽2で晶析されて、一次スラリーCが得られる。この一次スラリーCを固液分離機3に導入して、分離母液Dと脱水ケーキEとに分離し、この脱水ケーキEを乾燥装置4において、乾燥ガスにより流動させることにより、粗製テレフタル酸結晶Fを得る。分離母液Dを分離する一次固液分離工程を行う。
【0003】
従来、乾燥装置4では、スチームチューブドライヤーが用いられてきたが、近年のテレフタル酸製造プラントにおける、1つのプラントにおける製造能力の増加に伴い、スチームチューブドライヤーも大型化し、高額となってきた。そのため、より簡便な粗製テレフタル酸の乾燥方法が求められていた。
次に、粗製テレフタル酸から高純度テレフタル酸を製造するにあたっては、図2に示す方法が行われている。まず、混合槽21で上記粗製テレフタル酸の製造方法を用いて得られた粗製テレフタル酸aを、水bと混合して初期スラリーcとし、この初期スラリーcをポンプ22で昇圧後、予熱器23で加熱して完全溶解させる。この溶液dを水添反応器24にて水素で還元処理することにより、粗製テレフタル酸中の代表的な不純物である4−カルボキシルベンズアルデヒドを、水溶性の高いパラトルイル酸に還元する。この還元処理液eを晶析槽25で放圧冷却させることでテレフタル酸を晶析させてスラリーfとする。このスラリーfを固液分離装置26を用いて分離母液jと脱水ケーキgとに分離し、この脱水ケーキgを乾燥装置27において、乾燥ガスにより流動させることにより、高温高純度テレフタル酸結晶hを得る。
【0004】
従来、乾燥装置27では、スチームチューブドライヤーが用いられてきたが、近年の高純度テレフタル酸製造プラントにおける、1つのプラントにおける製造能力の増加に伴い、スチームチューブドライヤーも大型化し、高額となってきた。そのため、より簡便な高純度テレフタル酸の乾燥方法が求められていた。
【特許文献1】特開2004−315431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より簡便な粗製テレフタル酸、及び高純度テレフタル酸の乾燥方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、乾燥装置4、及び27に、スチームチューブドライヤーの代替手段として流動層乾燥機を用いると、設備のコンパクト化、投資金額の削減が可能となることを見出した。しかしながら、スチームチューブドライヤーを流動層乾燥機に置き換えた場合、流動層乾燥機内でテレフタル酸結晶が閉塞、固着し、乾燥効率の低下、更には機器停止に至る危険性があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明者等は更に鋭意検討をした結果、該流動層乾燥機内におけるテレフタル酸結晶の閉塞、固着が、テレフタル酸結晶に含まれる液が原因であることを見出し、流動層乾燥機へ挿入するテレフタル酸結晶の含液率をコントロールすることにより本発明を完成するに至った。即ち本発明の要旨は、下記(1)〜(6)に存する。
(1) 流動層乾燥機を用いてテレフタル酸を乾燥する方法であって、流動層乾燥機による乾燥工程の前に、テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する工程を有することを特徴とするテレフタル酸の乾燥方法。
(2) テレフタル酸が、パラキシレンを酸化して得られる4−カルボキシベンズアルデヒドを含む粗テレフタル酸であることを特徴とする上記(1)に記載の乾燥方法。
(3) テレフタル酸が、パラキシレンを酸化して、4−カルボキシベンズアルデヒドを含む粗テレフタル酸を生成し、得られた粗テレフタル酸を、水溶媒に溶解させて粗テレフタル酸水溶液とし、該粗テレフタル酸水溶液中の上記4−カルボキシベンズアルデヒドを、触媒の存在下で水素により還元してパラトルイル酸とした還元反応液を得え、該還元反応液を冷却して、上記テレフタル酸の結晶を晶析させてスラリーとし、該スラリーから、上記テレフタル酸結晶を主成分とするテレフタル酸ケーキと還元反応母液とを固液分離して得られたテレフタル酸であることを特徴とする上記(1)に記載の乾燥方法。
【0008】
(4) テレフタル酸をフラッシュ乾燥にかけることによりテレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の乾燥方法。
(5) テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する工程が、テレフタル酸の含液率を10重量%以下に低減することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の乾燥方法。
(6) 流動層乾燥機から出てくるテレフタル酸の温度が、100℃以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の乾燥方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡便なテレフタル酸の乾燥方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明について詳細に説明する。
本発明のテレフタル酸の乾燥方法は、流動層乾燥機を用いてテレフタル酸を乾燥する方法であって、流動層乾燥機による乾燥工程の前に、テレフタル酸の含液率を13重量%以下に低減する工程を有することを特徴とする。
本発明において乾燥させるテレフタル酸の由来に関しては特に限定はなく、パラキシレンを酸化して得られた粗製テレフタル酸であっても、該粗製テレフタル酸を水に溶解させ、上記粗製テレフタル酸結晶水溶液を白金族金属の触媒存在下で、水素と接触させて還元処理し、この処理液を晶析させてスラリーとし、上記スラリー中の結晶を、固液分離装置により分離して得られたテレフタル酸であってもよい。固液分離後のテレフタル酸は、通常、その脱水ケーキGの上記テレフタル酸に対する含水率が15〜20重量%である。
【0011】
製品としてのテレフタル酸は、水分濃度0.12重量%以下が求められる。そのため、こうして得られたテレフタル酸は、乾燥工程に送り乾燥する必要がある。本発明においては乾燥工程で流動層乾燥機を用い、流動層乾燥機内における高純度テレフタル酸結晶の閉塞、固着を防止するために、該乾燥工程の前に、テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する工程を設けることを必須とする。含液率の低減は、好ましくは13重量%未満、より好ましくは10重量%以下、特に好ましくは8重量%以下である。なお、この工程で乾燥しすぎると流動層乾燥機を使用する必要がなくなり本発明を適用する意味がなくなるため、含液率の低減は、通常3重量%まで、好ましくは5重量%までである。
【0012】
本発明における「含液率」とは、テレフタル酸ケーキに付着する液の重量(W1)の、固形分の重量(W2)に対する重量比(W1/W2)である。本発明においては、液が水の場合はカールフィッシャー法により含水率を求めればよい。テレフタル酸ケーキに付着する液が水以外の場合、液と固形分が混合された状態の重量(W1+W2)を測定し、次にオーブンを用いて液分を蒸発させることにより除去し、残った固形分の重量(W2)を測定することによって求めることができる。なお、本発明においては、常圧下において、沸点以上かつテレフタル酸の昇華温度以下(例えば150℃)で加熱した状態で3分以上重量変化がなければ液分が蒸発したとみなす。
【0013】
テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する方法としては、(i)テレフタル酸をフラッシュ乾燥する方法、(ii)ヒーターによりテレフタル酸を予備乾燥する方法、(iii)乾燥したテレフタル酸結晶を混合する方法等が挙げられる。装置の簡便さやコンパクト化等の観点から、テレフタル酸をフラッシュ乾燥する方法が好ましい。
【0014】
(i)テレフタル酸をフラッシュ乾燥する方法
フラッシュ乾燥とは、特開2002−336687号公報に記されている方法であり、テレフタル酸ケーキを分離装置中の圧力より低い圧力、且つ分離装置中の温度より低い温度の化合物回収帯域へ移動させ、その移動によって開放された内部エネルギーによりケーキに付着した液を蒸発させる乾燥方法である。分離装置内内の圧力と化合物回収帯域の圧力の差は好ましくは0.01MPa〜22MPa、さらに好ましくは0.11MPa〜12MPa、特に好ましくは0.21MPa〜7MPaである。分離装置内のケーキ温度と化合物回収帯域に排出されたケーキの温度差は、好ましくは5℃〜250℃、さらに好ましくは10℃〜200℃、特に好ましくは20〜170℃である。この方法により、テレフタル酸ケーキの含液率は、好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは6重量%以上、特に好ましくは9重量%以上低下する。ここで、テレフタル酸ケーキの含液率が3重量%低下するとは、ケーキの含液率が例えば15%から12%へ低下することを意味する。
【0015】
(ii)ヒーターによりテレフタル酸を予備乾燥する方法
この方法は、乾燥装置の前にヒーターを設け、テレフタル酸ケーキが含む液を蒸発させることにより除去し、含液率を低下させる方法である。加熱温度は、液の沸点以上であり、加熱時間は含液率をチェックして選定すればよい。ヒーターの熱源としては、テレフタル酸製造工程が副生される蒸気を使用することが経済上望ましい。この方法により得られるテレフタル酸ケーキの含液率は、好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。含液率が高すぎると、下流の乾燥装置に多大の負荷がかかり、また機器とケーキの接触部にケーキが付着し、固着、堆積することによる不具合を生じさせる可能性がある。
【0016】
(iii)乾燥したテレフタル酸結晶を混合する方法
特開2004−217595号公報にこの方法について具体的に記述されている。乾燥機に入る前の含液率が高いテレフタル酸ケーキに、乾燥後の含液率が0.12重量%以下、好ましくは0.10重量%以下の製品テレフタル酸を混ぜる方法である。製品テレフタル酸混合後の含液率は、好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。含液率が高すぎると、下流の乾燥装置に多大の負荷がかかり、また機器とケーキの接触部にケーキが付着し、固着、堆積することによる不具合を生じさせる可能性がある。
【0017】
本発明における流動層乾燥機としては、特開2004−315431号公報に記載されている乾燥機等が挙げられる。
粗製テレフタル酸を製造する工程は、例えば図3に示すような手順が挙げられる。
まず酢酸A'からなる溶媒中、原料となるp−キシレンB'を酸化反応器11で酸化させ、テレフタル酸を生成させる。酸化反応器11は一つのみである必要はなく、直列に複数あって酸化反応を多段階的に行うことが好ましい。上記酸化反応器で生成されたテレフタル酸は、晶析槽12において圧力を低下させて冷却することで、主に上記テレフタル酸からなる結晶を晶析させ、一次スラリーC'が得られる。なお、晶析槽12も一つのみであるよりも、直列に複数あって晶析を多段階的に行うことが好ましい。
【0018】
この一次スラリーC'を固液分離機13に導入して、分離母液D'と脱水ケーキE'を得る。
本発明においては、この脱水ケーキE'を含液率低減工程14に送り、テレフタル酸の含液率を13重量%以下に低減する。そして含液率が13重量%以下に低減されたテレフタル酸ケーキF'は、流動層乾燥機15で乾燥して、粗製テレフタル酸結晶G'を得る。
【0019】
次に、上記の固液分離装置13におけるスラリーC'の固液分離方法について説明する。固液分離工程は固液分離工程と洗浄工程の2つのから成り、一般に、それぞれ別々の装置によって行われるが、同時に行うことが出来る固液分離・洗浄装置を用いてもよい。本発明においても、このような固液分離・洗浄を同時に行う装置を用いてよい。このような装置としては、例えば(i)スクリーンボウル型遠心分離機や(ii)ロータリーバキュームフィルター、(iii)水平ベルトフィルター等が挙げられ、好ましくはスクリーンボウル型遠心分離機である。
【0020】
しかしながら、いずれの方法でも分離ケーキの含液率、つまり固形分に対する液付着率を10重量%以下にすることは難しく、固液分離装置13の設計変更によって含液率低減を図ると過大な機器増強となる。
次に、上記の流動層乾燥機15におけるテレフタル酸ケーキF'(含液率が14重量%以下に低減されたテレフタル酸ケーキ)の乾燥方法について説明する。流動層乾燥機15は、乾燥ガスH'を送り込みテレフタル酸ケーキF'に同伴する液分を蒸発させ、乾燥させるものである。ここでテレフタル酸ケーキF'に含まれる液分とは、酢酸が主成分であり、他に酸化反応器11における副産物の水が含まれる。また乾燥ガスとは、テレフタル酸ケーキF'に含まれる液分を同伴して除去するに際して、乾燥装置操作温度において結露しないような湿度を有するガスであり、その同伴する液分量に応じてガスの供給量も配慮する必要がある。特に、流動層乾燥機15内における上記乾燥ガスH'の上流側では、水分を同伴する量が下流側に比べて多いので、結露しないように注意を要する。乾燥ガスH'に露点−40℃のガスを用いる場合には、この乾燥ガスH'供給量はテレフタル酸ケーキF'中のテレフタル酸1トンあたり、標準状態で100〜1000mであることが望ましく、より望ましくは、300〜800mである。なお、標準状態とは、気温0℃、気圧1atmの状態をいう。また、テレフタル酸ケーキを乾燥ガスH'で流動化させることで、有効な乾燥面積が増大され、テレフタル酸ケーキ中の水分はほとんど表面蒸発の形で気化されるので、流動層乾燥機15内での処理ケーキの温度は100℃未満を維持することが可能である。
【0021】
また、乾燥ガスH'の温度は、上記処理ケーキの処理温度を維持できる範囲で任意に決定することができ、初期時点において100℃以上であってもよい。さらに、テレフタル酸ケーキ乾燥のためには、間接的に水蒸気等の熱源を併用することが望ましい。この乾燥操作の結果、流動層乾燥機15から得られる粗製テレフタル酸の結晶G'の温度は、70〜100℃であることが望ましく、90〜100℃であることがより望ましい。一方、温度が70℃未満であると、冷却には有利となるが、低温であるために液分の蒸発速度と蒸発量とが低下し、本来必要とする乾燥の効果が十分に得られなくなるおそれが出てくる。
【0022】
上記の乾燥ガスH'は、プロセスガスか不活性ガス、又はそれらの混合ガスであることが望ましい。上記プロセスガスとは、上記パラキシレンから上記粗製テレフタル酸を製造する工程、上記粗製テレフタル酸から高純度テレフタル酸を製造する工程、及び、それらに付随する工程において発生するガスをいう。具体例としては、上記パラキシレンを空気酸化するに際して発生する排ガスを処理したガス等が挙げられる。上記プロセスガスを用いると、別途ガスを用意することなく、安価に大量のガスを得ることができる。また、上記不活性ガスとは、上記テレフタル酸と反応を起こさないガスのことをいい、例えば、窒素、空気、希ガス等が挙げられる。
【0023】
流動層乾燥機15でテレフタル酸ケーキを乾燥させた乾燥ガスH'は、蒸発した液分を同伴させて流動層乾燥機15外へ乾燥装置排出ガスI'として排出する。ただし、流動層乾燥機15の乾燥ガスH'供給量や装置内ガス流速、流動状態等によっては、流動層乾燥機排出ガスI'中に、蒸発した液分だけではなく、上記テレフタル酸固形分である結晶物も含まれる場合がある。これらを廃棄してしまうと、工程全体での収率が低下してしまうため、出切る限り回収することが望ましい。
【0024】
そこで、サイクロン16により、流動層乾燥機排出ガスI'に含まれる上記テレフタル酸である上記結晶物を気体分から分離し、流動層乾燥機15内へ回収すると望ましい。上記サイクロン16では、遠心力を用いて、流動層乾燥機排出ガスI'中に含まれる上記テレフタル酸の上記結晶物を集め、沈降分離処理を行って、気体分であるサイクロン排出ガスK'から分離された、固形物J'を得る。
【0025】
また別の方法として、スクラバー17により、酢酸を用いて流動層乾燥機排出ガスI'をスクラビング処理して、流動層乾燥機排出ガスI中に含まれる上記結晶物を、スクラバー排出ガスM'と分離し、回収スラリーとして回収すると望ましい。さらに、スクラバー17により、酢酸を用いて、サイクロン排出ガスK'をスクラビング処理して、サイクロン16では回収できずにサイクロン排出ガスK'中に残存する上記結晶物を、スクラバー排出ガスM'と分離し、回収スラリーL'として回収すると、回収処理がより徹底されてなお望ましい。
【0026】
こうして得られた回収スラリーL'は、混合槽11へ送ってp−キシレンB'とともに再度酢酸A'に溶解させてもよく、また固液分離装置13へ送って脱水ケーキC'の水洗のための洗浄液に用いるとより望ましい。どちらの場合も、回収された上記テレフタル酸等は粗製テレフタル酸を製造する工程に戻ることになる。
また、スクラバー排出ガスM'は、流動層乾燥機15とスクラバー17とで液分を含有している。このスクラバー排出ガスM'からガス処理装置18を用いて液分を除去し、上記の乾燥ガスH'と同様の条件を満たす湿度と温度とにした循環ガスN'として、その一部又は全部を、流動層乾燥機15において乾燥ガスH'とともに用いると、系外へ廃棄される排気量を低減させることができるので望ましい。
【0027】
次に、粗製テレフタル酸から高純度テレフタル酸を製造する工程は、例えば図4に示すような手順が挙げられる。
まず、混合槽31で粗製テレフタル酸Aを水Bと混合して初期スラリーCとし、この初期スラリーCをポンプ32で昇圧後、予熱器33で加熱して完全溶解させる。得られた溶液Dを水添反応器34において水素と接触させて、粗製テレフタル酸が含有する酸化中間体を還元することにより、粗製テレフタル酸を精製処理する。この酸化中間体とは、パラキシレンを酸化させてテレフタル酸を精製する際の中間物質であり、主に4−カルボキシルベンズアルデヒドであり、その還元物質は水溶性の高いパラトルイル酸である。
【0028】
このように精製処理した還元処理液Eを、晶析槽35において圧力を低下させて冷却することで、主に上記テレフタル酸からなる結晶を晶析させ、スラリーFとする。なお、晶析槽35は一つのみであるよりも、直列に複数あって晶析を多段階的に行うことが好ましい。上記水添反応器において上記酸化中間体を水溶性の高い成分に還元しているため、ここで晶析する上記結晶の大半が上記テレフタル酸となるが、温度が低すぎると還元した物質が共晶するため、最終的な晶析温度は通常120〜180℃であることが望ましい。このスラリーFを、固液分離装置36を用いて、脱水ケーキGと分離母液Jとに分離するが、ここで脱水ケーキGは水洗され、常圧まで圧力低下している。一般に、上記の固液分離装置36には遠心分離機や濾過機が用いられ、その脱水ケーキGの上記テレフタル酸に対する含水率は15〜20重量%である。
【0029】
本発明においては、この脱水ケーキGを含液率低減工程37に送り、テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する。そして含液率が14重量%以下に低減されたテレフタル酸ケーキHは、流動層乾燥機38で乾燥して、高純度テレフタル酸結晶Iを得る。
次に、上記の固液分離装置36におけるスラリーFの固液分離方法について説明する。固液分離工程は固液分離工程と洗浄工程の2つから成り、一般に、それぞれ別々の装置によって行われるが、同時に行うことが出来る固液分離・洗浄装置を用いてもよい。本発明においても、このような固液分離・洗浄を同時に行う装置を用いてよい。このような装置としては、例えばスクリーンボウル型遠心分離機やロータリーバキュームフィルター、水平ベルトフィルター等が挙げられ、好ましくはスクリーンボウル型遠心分離機である。
【0030】
しかしながら、いずれの方法でも分離ケーキの含液率、つまり固形分に対する液付着率を14重量%以下にすることは難しく、固液分離装置36の設計変更によって含液率低減を図ると過大な機器増強となる。
次に、上記の流動層乾燥機38におけるテレフタル酸ケーキH(含液率が14重量%以下に低減されたテレフタル酸ケーキ)の乾燥方法について説明する。流動層乾燥機38は、乾燥ガスKを送り込みテレフタル酸ケーキHを乾燥させるものである。ここで、乾燥ガスとは、テレフタル酸ケーキHに含まれる水分を同伴して除去するに際して、乾燥装置操作温度において結露しないような湿度を有するガスであり、その同伴する水分量に応じてガスの供給量も配慮する必要がある。特に、流動層乾燥機38内における上記乾燥ガスKの上流側では、水分を同伴する量が下流側に比べて多いので、結露しないように注意を要する。乾燥ガスKに露点−40℃のガスを用いる場合には、この乾燥ガスK供給量はテレフタル酸ケーキH中のテレフタル酸1トンあたり、標準状態で100〜1000mであることが望ましく、より望ましくは、300〜800mである。なお、標準状態とは、気温0℃、気圧1atmの状態をいう。
【0031】
また、テレフタル酸ケーキを乾燥ガスKで流動化させることで、有効な乾燥面積が増大され、テレフタル酸ケーキ中の水分はほとんど表面蒸発の形で気化されるので、流動層乾燥機38内での処理ケーキの温度は100℃未満を維持することが可能である。
また、乾燥ガスKの温度は、上記処理ケーキの処理温度を維持できる範囲で任意に決定することができ、初期時点において100℃以上であってもよい。さらに、テレフタル酸ケーキ乾燥のためには、間接的に水蒸気等の熱源を併用することが望ましい。この乾燥操作の結果、流動層乾燥機38から得られる高純度テレフタル酸の結晶Iの温度は、70〜100℃であることが望ましく、90〜100℃であることがより望ましい。一方、温度が70℃未満であると、冷却には有利となるが、低温であるために水の蒸発速度と蒸発量とが低下し、本来必要とする乾燥の効果が十分に得られなくなるおそれが出てくる。
【0032】
上記の乾燥ガスKは、プロセスガスか不活性ガス、又はそれらの混合ガスであることが望ましい。上記プロセスガスとは、上記パラキシレンから上記粗製テレフタル酸を製造する工程、上記粗製テレフタル酸から上記高純度テレフタル酸を製造する工程、及び、それらに付随する工程において発生するガスをいう。具体例としては、上記パラキシレンを空気酸化するに際して発生する排ガスを処理したガス等が挙げられる。上記プロセスガスを用いると、別途ガスを用意することなく、安価に大量のガスを得ることができる。また、上記不活性ガスとは、上記テレフタル酸と反応を起こさないガスのことをいい、例えば、窒素、空気、希ガス等が挙げられる。
【0033】
流動層乾燥機38でテレフタル酸ケーキを乾燥させた乾燥ガスKは、蒸発した水分を同伴させて流動層乾燥機38外へ乾燥装置排出ガスLとして排出する。ただし、流動層乾燥機38の乾燥ガスK供給量や装置内ガス流速、流動状態等によっては、流動層乾燥機排出ガスL中に、蒸発した水分だけではなく、上記テレフタル酸固形分である結晶物も含まれる場合がある。これらを廃棄してしまうと、工程全体での収率が低下してしまうため、出切る限り回収することが望ましい。
【0034】
そこで、サイクロン39により、流動層乾燥機排出ガスLに含まれる上記テレフタル酸である上記結晶物を気体分から分離し、流動層乾燥機38内へ回収すると望ましい。上記サイクロン39では、遠心力を用いて、流動層乾燥機排出ガスL中に含まれる上記テレフタル酸の上記結晶物を集め、沈降分離処理を行って、気体分であるサイクロン排出ガスNから分離された、固形物Mを得る。
【0035】
また別の方法として、スクラバー40により、水を用いて流動層乾燥機排出ガスLをスクラビング処理して、流動層乾燥機排出ガスL中に含まれる上記結晶物を、スクラバー排出ガスPと分離し、回収スラリーとして回収すると望ましい。さらに、スクラバー40により、水を用いて、サイクロン排出ガスNをスクラビング処理して、サイクロン39では回収できずにサイクロン排出ガスN中に残存する上記結晶物を、スクラバー排出ガスPと分離し、回収スラリーQとして回収すると、回収処理がより徹底されてなお望ましい。
【0036】
こうして得られた回収スラリーQは、混合槽31へ送って粗製テレフタル酸Aとともに再度水Bに溶解させてもよく、また固液分離装置36へ送って脱水ケーキGの水洗のための洗浄水に用いるとより望ましい。どちらの場合も、回収された上記テレフタル酸等は高純度テレフタル酸を製造する工程に戻ることになる。
また、スクラバー排出ガスPは、流動層乾燥機38とスクラバー40とで水分を含有している。このスクラバー排出ガスPからガス処理装置41を用いて水分を除去し、上記の乾燥ガスKと同様の条件を満たす湿度と温度とにした循環ガスRとして、その一部又は全部を、流動層乾燥機38において乾燥ガスKとともに用いると、系外へ廃棄される排気量を低減させることができるので望ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
合成例1:高純度テレフタル酸ケーキの製造
テレフタル酸の生産量が36Ton/hrの設備において液相酸化反応器に連続的にパラキシレン、酢酸を供給し、同時に触媒として酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素も連続的に供給し、温度197℃、圧力1.45MPaで酸化反応を行った。酸化反応を行うためのガスとしては空気を用いた。次いで、低温追酸化反応器に酸化スラリーを連続的に移し、温度190℃、圧力1.3MPaで酸化反応を行った。酸化反応を行うためのガスとしては空気を用いた。
【0038】
低温追酸化スラリーは3段の中間処理槽にて連続的に晶析し、大気圧において固液分離を行った。この時固液分離されたケーキの含液率は15.0重量%であった。
次に、このケーキを蒸気加熱源とするスチームチューブドライヤー型乾燥機にて大気圧において乾燥させた。乾燥機の周囲には0.6MPaの圧力を有する蒸気が循環されて乾燥機が加熱される。加熱により蒸発したケーキ付着液は、乾燥機内に流通させている不活性ガスにより、系外に取り出される。ここで、乾燥機の出口温度は140℃である。また、得られた粗テレフタル酸の含液率は0.10重量%であった。
【0039】
次に上記工程で得られた粗テレフタル酸と水を水添反応器に連続的に供給し、290℃、8.6MPaで還元反応を行った。還元反応を行うためのガスとしては水素を用いた。
還元スラリーは5段の中間処理槽にて連続的に晶析し、大気圧において固液分離を行った。この時固液分離されたケーキの含液率は15.0重量%であった。
次に、このケーキを蒸気加熱源とするスチームチューブドライヤー型乾燥機にて大気圧において乾燥させた。乾燥機の周囲には0.6MPaの圧力を有する蒸気が循環されて乾燥機が加熱される。加熱により蒸発したケーキ付着液は、乾燥機内に流通させている不活性ガスにより、系外に取り出される。ここで、乾燥機の出口温度は140℃である。また、得られた高純度テレフタル酸の含液率は0.10重量%であった。
【0040】
上記の方法によって得られた高純度テレフタル酸に、実施例に示す実験を行うため、水を加えてそれぞれ含水率14重量%、15重量%、20重量%のテレフタル酸ケーキを得た。
【0041】
<流動層乾燥機による乾燥テスト>
図5に示す流動層乾燥機51(内径300mm、流動床面積0.24m)を用いて、以下の流動乾燥テストを行った。
上記流動層乾燥機51に、ある規定の重量%の含水率となるように水を加えたテレフタル酸(イ)を加え、ヒーター52により加熱された乾燥ガス(ハ)を入れ、流動層乾燥装置51においてケーキを流動させることにより乾燥させた。乾燥ガス(ハ)には窒素ガスを用いた。流動層乾燥機51を通過したテレフタル酸結晶は(ロ)より排出され、この排出されたテレフタル酸結晶の水分をカールフィッシャー分析装置を用いて分析した。
【0042】
流動層乾燥機51を通過した流動層乾燥機排出ガス(ニ)はテレフタル酸ケーキより蒸発した水分だけでなく、テレフタル酸の結晶物も含まれる場合があるので、サイクロン53により、流動層乾燥機排出ガス(ニ)よりテレフタル酸結晶を気体分から分離し、流動層乾燥機51へ回収した。テレフタル酸結晶を回収した後の流動層乾燥機排出ガス(ホ)はブロワー54により、系外へ排出した。また、(ト)は間接加熱のための蒸気の配管であり、(ロ)はその蒸気の凝縮水の排出口である。加熱のための蒸気の温度は151℃である。
【0043】
<含水率の測定>
実施例における含水率は、カールフィッシャー法を用いて求めた。
実施例1
上記合成例1で得られた含水率(=含液率)14重量%の高純度テレフタル酸ケーキを上記流動層乾燥機51に200kg/hで供給し、100℃の乾燥窒素ガスを流動層乾燥機内での空塔速度0.3m/sとなるように調整した。
【0044】
テレフタル酸結晶の固着は発生せず、流動状態は良好であった。(ロ)で採取したテレフタル酸結晶の水分含有量を測定したところ、0.11重量%であった。
比較例1
上記流動層乾燥機51に供給する高純度テレフタル酸として、上記合成例1で得られた高純度テレフタル酸ケーキ(含液率=含水率=20重量%)を用いた以外は実施例1と同様にした。
【0045】
高純度テレフタル酸ケーキ投入直後から、流動層乾燥機31の内部で高純度テレフタル酸ケーキが全く流動せず、実験を中止した。
比較例2
上記合成例1で得られた含水率(=含液率)15重量%の高純度テレフタル酸を上記流動層乾燥機51に240kg/hで供給した以外は実施例1と同様にした。
【0046】
流動層乾燥機51内でテレフタル酸結晶の固着が発生し、そのため15分毎にテレフタル酸ケーキの供給を止め、流動層乾燥機51に打撃し、衝撃を与えることにより乾燥機内の壁に固着したテレフタル酸結晶を落とさねばならなかった。なお、(ロ)においてサンプリングしたテレフタル酸結晶の水分含有量は0.14重量%であった。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】粗製テレフタル酸の製造方法の例を示すフロー図
【図2】高純度テレフタル酸の製造方法の例を示すフロー図
【図3】粗製度テレフタル酸の製造方法の例を示すフロー図
【図4】高純度テレフタル酸の製造方法の例を示すフロー図
【図5】実施例で用いた流動乾燥機を示す図
【符号の説明】
【0049】
1、11:酸化反応器
2、12:晶析槽
3、13:固液分離機
4、14:乾燥装置
15、38、54:流動層乾燥機
16、39、53:サイクロン
17、40:スクラバー
18、41:ガス処理装置
A、A’:酢酸
B、B’:p−キシレン
C、C’:スラリー
D、D’:分離母液
E’:脱水ケーキ
F’、H:テレフタル酸ケーキ
G’:粗製テレフタル酸の結晶
H’、K:乾燥ガス
I’、L:流動乾燥機排出ガス
J’、M:固形物
K’、N:サイクロン排出ガス
L’、Q:回収スラリー
M’、P:スクラバー排出ガス
N’、R:循環ガス
21、31:混合槽
22、32、54:ポンプ
23、33、52:予熱器
24、34:水添反応器
25、35:晶析槽
26、36:固液分離装置
27:乾燥装置
37:含液率低減工程
a、A:粗製テレフタル酸
b、B:水
c、C:初期スラリー
d、D:溶液
e、E:還元処理液
f、F:スラリー
g、G:脱水ケーキ
h、I:高純度テレフタル酸結晶
j、J:分離母液
イ:テレフタル酸
ロ:排出口
ハ:乾燥ガス
ニ:流動層乾燥機排出ガス
ホ:流動層乾燥機排出ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層乾燥機を用いてテレフタル酸を乾燥する方法であって、流動層乾燥機による乾燥工程の前に、テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する工程を有することを特徴とするテレフタル酸の乾燥方法。
【請求項2】
テレフタル酸が、パラキシレンを酸化して得られる4−カルボキシベンズアルデヒドを含む粗テレフタル酸であることを特徴とする請求項1に記載の乾燥方法。
【請求項3】
テレフタル酸が、パラキシレンを酸化して、4−カルボキシベンズアルデヒドを含む粗テレフタル酸を生成し、得られた粗テレフタル酸を、水溶媒に溶解させて粗テレフタル酸水溶液とし、該粗テレフタル酸水溶液中の上記4−カルボキシベンズアルデヒドを、触媒の存在下で水素により還元してパラトルイル酸とした還元反応液を得え、該還元反応液を冷却して、上記テレフタル酸の結晶を晶析させてスラリーとし、該スラリーから、上記テレフタル酸結晶を主成分とするテレフタル酸ケーキと還元反応母液とを固液分離して得られたテレフタル酸であることを特徴とする請求項1に記載の乾燥方法。
【請求項4】
テレフタル酸をフラッシュ乾燥にかけることによりテレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項5】
テレフタル酸の含液率を14重量%以下に低減する工程が、テレフタル酸の含液率を10重量%以下に低減することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項6】
流動層乾燥機から出てくるテレフタル酸の温度が、100℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−203163(P2009−203163A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163694(P2006−163694)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】