説明

テレフタル酸の製造方法

【課題】本発明の目的はDMTからテレフタル酸の加水分解による製造方法において、加水分解反応槽におけるDMT、MMT、テレフタル酸を含んだ反応液のフォーミングならびDMTの昇華を抑制し、ベントライン内の閉塞を防止し、生産効率の高いテレフタル酸の製造方法を提供することにある。
【解決手段】加水分解反応槽中でテレフタル酸ジメチルを加水分解反応させてテレフタル酸を製造する方法において、加水分解反応槽から発生するメタノールを含む気体を加水分解反応槽の反応液面より上部に接続されている配管より除去し、且つ加水分解反応槽に供給するテレフタル酸ジメチル10重量部に対して1重量部以上の純水又は加水分解反応温度における溶解度以下の不純物を含む水を加水分解反応槽の反応液面より上部より加水分解反応槽内に供給することを特徴とするテレフタル酸の製造方法によって上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテレフタル酸ジメチルからテレフタル酸の加水分解反応による製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的にテレフタル酸を製造する方法は各種知られており、そのひとつとして、テレフタル酸ジメチル(以下、DMTと略記する。)を出発原料とするDMT加水分解法が知られている。該DMTの加水分解法で製造したテレフタル酸中には、未反応であるDMT並びに反応中間体であるテレフタル酸モノメチルエステル(以下、MMTと略記する。)が不純物として含有しており、不純物を減少させるためには加水分解反応条件として150℃以上の反応温度が必要とされていた(例えば、特許文献1参照。)。さらには加水分解反応を促進させるために、反応で生じるメタノールおよびジメチルエーテルは加水分解反応槽の上部に設置された配管(以下、ベントラインと省略する。)より除去する必要があることは公知であり、反応を促進させるためにメタノールおよびジメチルエーテルをストリッピングする水蒸気を加水分解反応槽に導入する方法などがある(例えば、特許文献2参照。)。ここで、除去されたメタノールは水分を多く含んでおり、蒸留塔にて精製されて別途使用されることが一般的である。
【0003】
しかしながら、上記のような加水分解反応条件下においては反応液のフォーミングが激しく生じ、DMT、MMT、テレフタル酸がベントライン内へ付着するためにベントラインが閉塞するといった問題がある。また、DMTが昇華することにより除去されるメタノールを精製するメタノール蒸留塔にまで多量のDMTが混入し、通常の常圧蒸留塔ではDMTが析出し、棚段やトレイを閉塞させる。これらベントラインおよびメタノール蒸留塔の閉塞は悪化すると加水分解反応を一旦停止させる必要が生じ、テレフタル酸の生産効率が低下するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−202848号公報
【特許文献2】特開平08−231464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的はDMTからテレフタル酸の加水分解による製造方法において、加水分解反応槽におけるDMT、MMT、テレフタル酸を含んだ反応液のフォーミングならびDMTの昇華を抑制し、ベントライン内の閉塞を防止し、生産効率の高いテレフタル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、
加水分解反応槽中でテレフタル酸ジメチルを加水分解反応させてテレフタル酸を製造する方法において、加水分解反応槽から発生するメタノールを含む気体を加水分解反応槽の反応液面より上部に接続されている配管より除去し、且つ加水分解反応槽に供給するテレフタル酸ジメチル10重量部に対して1重量部以上の純水又は加水分解反応温度における溶解度以下の不純物を含む水を加水分解反応槽の反応液面より上部より加水分解反応槽内に供給することを特徴とするテレフタル酸の製造方法によりプロセス内の閉塞を防止することが可能になり上記目的が達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加水分解反応によりDMTからテレフタル酸を効率よく製造することができ、その工業的意義は大である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の製造方法においては、DMTを原料として加水分解反応を実施し、テレフタル酸を製造する。ここで、加水分解反応の反応条件としては反応が進行すれば公知のいずれの技術を採用してもかまわないが、好ましくは反応系への異素材混入を抑える観点から無触媒で行なうことが好ましい。又、加水分解反応槽のフォーミング(発泡現象)を回避する観点から、加水分解反応槽に投入する液体の水量はDMT1重量部に対して、0.6重量部以上2重量部以下にすることが好ましく、特に好ましくは0.8重量部以上1.5重量部以下である。ここで液体の水量が少なくなると加水分解反応後に得られるテレフタル酸と水からなるスラリーの濃度が上昇し、そのスラリーの操作性が悪化するので好ましくない。又液体水量が増加するとフォーミングが加速するため、好ましくない。また消泡の観点から、加水分解反応槽の反応液面より上部より、加水分解反応温度における溶解度以下の不純物を含む水又は純水を加水分解反応槽内に供給することが必要である。
【0009】
その溶解度以下の不純物を含む水又は純水(水等と称することがある。)の添加量は加水分解反応に供給するDMT10重量部に対し、1重量部以上が好ましく、1重量部以上20重量部以下であることがより好ましい。さらに好ましくは2重量部以上15重量部以下である。この範囲に設定する事で、配管の閉塞を好適に防ぐことができ、且つ加水分解反応槽内に不必要なほど過剰な水等を添加することを防ぐことができる。
【0010】
ここで、加水分解反応温度における溶解度以下の不純物を含む水に含まれている不純物とは、具体的には酸素、窒素、二酸化炭素、各種アルゴンガス等の気体、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、テレフタル酸ジナトリウム塩、テレフタル酸ジカリウム塩、テレフタル酸マグネシウム、テレフタル酸カルシウム、MMTナトリウム塩、MMTカリウム塩などの各種無機塩・有機塩を挙げることができる。ここで、使用する水としては加水分解反応温度における溶解度以上の不純物が含まれていると、ベントライン内で不純物が析出し、加水分解反応槽に接続されている配管内の閉塞を促進させて好ましくない。ベントライン内の不純物の析出を避けるために溶解度以下の不純物が含まれている水、あるいは純水を使用する。また、水以外にも例えば有機溶剤を用いてもDMTおよびテレフタル酸を洗い流す効果が期待できるが、加水分解反応に無関係の有機溶剤を添加することは副反応を発生するなどの影響があり、好ましくない。
【0011】
また、加水分解反応槽の反応液面より上部よりとは、反応液面より上方にある部分を表わす。具体的には、加水分解反応槽内上部にあり、反応液により満たされていない空間(気相部)や、加水分解槽の上方に蒸留塔などが設置されている場合には、その蒸留塔の下部(但し加水分解槽の上部であることが必要)・蒸留塔の中間部・蒸留塔の上部であっても良い。この場所から上述の水等を投入することによって配管の閉塞を防止することができる。
【0012】
加水分解反応槽に投入するDMTは反応液中に供給するのが好ましい。反応液中にDMTを供給することで、DMTのベントラインへの飛散が少なくベントラインの閉塞を防止できる。DMTの加水分解反応では発生するメタノールおよびジメチルエーテルを除去することにより、反応平衡をテレフタル酸が生成する方向にずらし、加水分解反応速度を向上させるために加水分解反応槽から発生するメタノールを含む気体を加水分解反応槽の反応液面より上部に接続されている配管より除去する。好ましくはメタノールおよびジメチルエーテルをストリッピングするための水蒸気を加水分解反応槽に導入することが好ましい。
【0013】
加水分解反応槽は、回分式でも連続式でもどちらでも問題なく採用することができ、DMTの加水分解反応は温度150〜280℃、圧力0.3〜6.3MPa(ゲージ圧)、望ましくは150〜260℃、圧力0.3〜4.6MPa(ゲージ圧)がよい。このとき、メタノールを含む気体の温度についても150℃以上であることが好ましい。その気体の温度が150℃未満であると気体とともに飛散したDMTが融点以下となり、ベントライン内で固化し、付着することによる閉塞が生じるため、効率よく加水分解反応を実施できない。
【0014】
本発明の方法で、上述した加水分解反応槽から発生するメタノールを含むガスを蒸留する蒸留塔の塔頂温度は142℃以上であることが好ましい。142℃未満であれば、DMTが融解しないため、蒸留塔の閉塞が生じる。また蒸留塔の塔底温度は加水分解反応温度以下であることが好ましい。加水分解反応温度を超える温度であると、蒸留するためのエネルギーが別途必要になり非効率である。メタノールからDMTの析出するトラブルを回避する観点から、メタノールを主成分とする蒸留塔塔頂の留出液はDMT濃度が0.1wt%以下とすることである。
【0015】
加水分解槽から発生するメタノールを含む気体を蒸留する工程を実施する蒸留塔の設置位置としては、蒸留塔下部と加水分解反応槽上部が直結している構造となっており、蒸留塔缶出液が加水分解反応槽に供給されることが、加水分解反応後の反応液のフォーミングによりベントライン内に付着したDMT、MMT、テレフタル酸を除去できるため好ましい。
【実施例】
【0016】
以下実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
【0017】
[実施例1]
DMT4100〜4200kg/h、純水3200〜3300kg/h、水蒸気4100〜4200kg/hをそれぞれ別のラインから加水分解反応槽に連続して供給し、反応温度250℃、反応圧力4.2MPaの条件下で加水分解反応を実施してDMTからテレフタル酸を製造した。この加水分解反応の実施中に、4800〜4900kg/hで発生したメタノールを含むガスは加水分解反応槽の上部にある配管から蒸留塔へ供給され、理論段数10段、加水分解槽と同圧の条件で蒸留を行い、メタノールと水を分留した。その蒸留を行いながら、200℃の純水を加水分解反応槽の反応液面より上部である塔頂より900kg/hで供給し、更に加水分解反応槽にまで供給して加水分解反応を継続した結果、配管内の閉塞は発生しなかった。なお、塔頂ガスから得られたメタノール凝縮液をサンプリングしてガスクロにて測定した結果、DMTは検出限界未満であり、0.01wt%未満であった。
【0018】
[比較例1]
実施例1において、蒸留塔へと通じる加水分解反応槽上部にある配管内に純水を供給しない以外は同条件で加水分解反応を実施した。その結果、DMTが蒸留塔へと通じる加水分解反応槽上部にある配管内で圧力が上昇し、閉塞が生じたため加水分解反応を停止した。
【0019】
[比較例2]
実施例1において、蒸留塔の圧力を常圧とし、塔頂より99wt%のメタノールを抜取り、塔底より0.5wt%以下メタノールを含む水、DMTを缶出液として加水分解反応槽に供給した。その結果、DMTが蒸留塔に付着し、蒸留塔内の圧力が上昇し、閉塞が生じたため加水分解反応を停止した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、加水分解反応によりDMTからテレフタル酸を効率よく製造することができ、その工業的意義は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解反応槽中でテレフタル酸ジメチルを加水分解反応させてテレフタル酸を製造する方法において、加水分解反応槽から発生するメタノールを含む気体を加水分解反応槽の反応液面より上部に接続されている配管より除去し、且つ加水分解反応槽に供給するテレフタル酸ジメチル10重量部に対して1重量部以上の純水又は加水分解反応温度における溶解度以下の不純物を含む水を加水分解反応槽の反応液面より上部より加水分解反応槽内に供給することを特徴とするテレフタル酸の製造方法。
【請求項2】
加水分解反応槽から発生するメタノールを含む気体を蒸留塔の塔頂温度が142℃以上となる温度で加圧蒸留し、蒸留塔からのメタノールの留出液中のテレフタル酸ジメチル濃度が0.1wt%以下とする工程を含む請求項1記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項3】
加水分解反応槽から発生するメタノールを含む気体を蒸留する工程において、蒸留塔下部と加水分解反応槽上部が直結している構造となっており、蒸留塔缶出液が加水分解反応槽に供給されることを特徴とする請求項1または2記載のテレフタル酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−178684(P2011−178684A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42307(P2010−42307)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】