説明

テレフタル酸ジ−n−ブチル及びテレフタル酸ジイソブチルの低融点混合物

低下された凝固点を有するテレフタル酸ジエステルの混合物及び前記テレフタル酸ジエステルの製造方法。この方法は、第1のアルコール、第2のアルコール及びテレフタル酸ジメチルを触媒の存在下で接触させることによってテレフタル酸ジエステルを生成させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はn−ブチルイソブチルテレフタレート及び低融点を有するテレフタル酸ジエステル混合物に関する。本発明は、また、n−ブチルイソブチルテレフタレート及びテレフタル酸ジエステル混合物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸ジ−n−ブチル(DBT)及びテレフタル酸イソブチル(DiBT)のようなテレフタル酸ジエステルは、ポリ塩化ビニルのような種々の高分子物質中に可塑剤として使用できる。しかし、テレフタル酸ジ−n−ブチル(DBT)は約16℃の融点を有する。同様に、純粋なテレフタル酸ジイソブチルは54℃の更に高い温度で凝固する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このことは、これらの生成物は低温での貯蔵時に凝固するという問題に至ることがあった。このような生成物の凝固は、多くの場合、加熱タンク、移送ライン及び関連取扱設備の取り付けを必要とし、従ってこれらの生成物の使用コストを増大させる。本発明は、より低い融点を有するテレフタル酸ジエステルを生成することよって、この問題に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様はn−ブチルイソブチルテレフタレートを含んでなる組成物に関する。
【0005】
別の態様はn−ブチルイソブチルテレフタレートを含んでなる可塑剤に関する。
【0006】
第3の態様はn−ブタノール、イソブタノール及びテレフタル酸ジメチルを触媒の存在下で接触させることを含んでなるn−ブチルイソブチルテレフタレートの製造方法に関する。
【0007】
更に別の態様は、第1のアルコール、第2のアルコール及びテレフタル酸ジメチルを触媒の存在下で接触させることを含んでなり、前記第1のアルコールと前記第2のアルコールとが異なるテレフタル酸ジエステル混合物の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】純粋なDBTのDSC融点分析を示す。
【図2A】DBT:DiBT75:25のDSC融点分析を示す。
【図2B】DBT:DiBT50:50のDSC融点分析を示す。
【図3A】DBT:DiBT75:25のDSC凝固点分析を示す。
【図3B】DBT:DiBT50:50のDSC凝固点分析を示す。
【図4A】DBT:DiBT75:25の第2DSC融点分析を示す。
【図4B】DBT:DiBT50:50の第2DSC融点分析を示す。
【図5】純粋なDBTのDSC凝固点分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明はn−ブチルイソブチルテレフタレート及び低融点を有するテレフタル酸ジエステル混合物の製造に関する。この混合物は1)テレフタル酸ジ−n−ブチル;2)n−ブチルイソブチルテレフタレート;及び3)テレフタル酸イソブチルを含む。一般に、n−ブチルイソブチルテレフタレート及び/又はテレフタル酸ジエステル混合物を形成する反応は、下記式で表すことができる。
【0010】
【化1】

【0011】
n−ブチルイソブチルテレフタレート及び/又はテレフタル酸ジエステル混合物を生成させるためには、回分反応器又は連続反応器を用いてエステル交換触媒の存在下でn−ブタノール/イソブタノール混合物をテレフタル酸ジメチル(DMT)と反応させることができる。例えば反応器に単純な蒸留カラム並びにDMT、アルコール混合物及び触媒を装入するための入口を装着することができる。実際には、反応器にDMT、種々のモル比のn−ブタノール/イソブタノール及び触媒量のテトライソプロポキシチタネート(TIPT)のような触媒を装入する。混合物を還流するまで加熱及び撹拌すると、エステル交換によってメタノールが生成するが、それは蒸留カラムの上部で選択的に除去される。n−ブタノール/イソブタノール混合物への転化は6〜8時間で本質的に完了する。次いで、この粗製生成物から過剰の未反応アルコール混合物をストリッピングし、2.5% NaOHで処理して、チタネート触媒を冷却し、水洗し、減圧において真空乾燥させることができる。活性炭処理を用いて、最終生成物中の色を減少させることができる。
【0012】
本方法において使用する触媒はエステル交換触媒である。更に、触媒は、反応混合物中に可溶な、即ちアルコール及びテレフタル酸ジエステル生成物中に可溶な化合物であることができる。例えば触媒はチタン触媒であることができる。適当なチタン化合物の例としては、式Ti(OR)4(式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基である)を有するチタンテトラアルコキシドが挙げられる。一例はTIPTと一般に略されるテトライソプロポキシチタネートである。チタン化合物の触媒有効量は、一般に、反応混合物中に約10〜2000重量ppm、75〜1000重量ppm又は100〜200重量ppmのチタン[Ti]濃度範囲をもたらす量である。他の適当な触媒としては、チタンテトラブトキシド、錫テトラエトキシド、ジメチル錫アセテート、酸化チタン、ブチル錫酸(butyl stanoic acid)、ジブチル錫オキシド及びジルコニウムテトライソプロポキシドが挙げられる。
【0013】
前記混合物は、また、2種の純粋なジエステルを混合し、TIPTエステル交換触媒を添加し、加熱することによって生成することもできる。室温でワックス又は固体と考えられるテレフタル酸ジアルキルに転化される、より高分子量のアルコールは、混合エステルに転化されて、より低融点の複合生成物を生成することができるであろう。
【0014】
この方法は、モル比約0.5:1.0〜約4.0:1.0又は約0.75:1.0〜約3.0:1.0又は更には約1.0:1.0〜約2.0:1.0の範囲のn−ブタノール/イソブタノールを用いて実施できる。
【0015】
未反応アルコール混合物は前記プロセスに容易に再循還させることができる。このプロセスは、DMTを溶融された形態で適当な反応器に加えることによって連続モードで実施でき、アルコール/TIPT混合物は別のポンプによってカラムを装着した撹拌反応器に供給し、反応からのメタノールを除去し且つ未反応のより高級のアルコールを還流で反応器に戻すことができるようにする。この反応器からの流出物は一連の1つ又はそれ以上の仕上げ反応器に移すことができ、そこでメタノールを除去しながらエステル混合物への転化を続ける。この反応の生成物は更に、バッチの例に記載した工程と一致する工程によって更に処理し、精製することができる。
【実施例】
【0016】
以下の実施例において、使用した装置は、加熱マントル、電磁撹拌子、温度センサー及び10”Penn State充填蒸留カラムを装着した1リットルベースからなるものであった。カラムの上部には、メタノールの選択的除去を可能にする可変速度引取(take-off)ヘッドを装着した。
【0017】
各実施例は、典型的な反応条件下で、還流させながら反応を実施すると同時に、メタノールを充填カラムによって引取比1:4で除去することによって行った。反応の完了時に、次に、分留カラムを3”Vigreuxカラムと交換し且つ最終圧力18mmHgまで真空を適用してから、過剰のアルコールをベースからストリッピングした。粗製生成物を2.5%NaOH水溶液で処理してTIPT触媒を中和し、脱イオン水で2回洗浄した。次に、材料を、Dicalite濾過助剤でコーティングされたガラス繊維フィルターサークルを通して吸引濾過した。続いて、生成物を約120℃の最終ベース温度において1mmHgで乾燥させ、1時間保持した。90℃に冷却後、活性炭(0.2重量%)を添加し、1時間撹拌しながら同温度に保持した。最終生成物を、Dicalite濾過助剤でコーティングされたガラス繊維フィルターを通して濾過することよって単離した。
【0018】
実施例1
反応は、前に一般的に示した反応式に従って実施し、n−ブタノール及びイソブタノールの50:50モル%混合物から導かれる生成物を生成するように設計した。
【0019】
反応器系にテレフタル酸ジメチル436.9g(2.25mol,MW=194.19)、n−ブタノール207.5g(2.8mol,MW=74.12)、イソブタノール207.5g(2.8mol,MW=74.12)及びテトライソプロポキシチタネート(TIPT)223ppm(0.19g)を装入した。反応の進行を下記表Iに要約する:
【0020】
【表1】

【0021】
生成物を、下記表IIに要約したようにしてストリッピングした。
【0022】
【表2】

【0023】
前記の一般的なワークアップ操作に従って中和、乾燥、炭素処理及び最終濾過を行った後、単離された生成物は重量が547.7gであった。生成物の理論量は626.28gであり、単離収率は87.5%であった。
【0024】
実施例2
n−ブタノール及びイソブタノールの75:25モル%混合物から導かれる生成物を生成するために、実施例1に記載した反応を繰り返した。反応器系にテレフタル酸ジメチル233g(1.2mol,MW=194.19)、n−ブタノール200.1g(2.78mol,MW=74.12)、イソブタノール66.7g(0.9mol,MW=74.12)及びTIPT 220ppm(0.11g)を装入した。反応の進行を下記表IIIに要約する:
【0025】
【表3】

【0026】
生成物を、前記実施例1において要約したようにしてストリッピングし、中和、乾燥、炭素処理及び最終濾過後に透明液体として単離した。
【0027】
実施例3
n−ブタノール及びイソブタノールの25:75モル%混合物から導かれる生成物を生成するために、実施例1に記載した反応を繰り返した。反応器系にテレフタル酸ジメチル233g(1.2mol,MW=194.19)、n−ブタノール66.7g(0.9mol,MW=74.12)、イソブタノール200.1g(2.7mol,MW=74.12)及びTIPT 280ppm(0.14g)を装入した。反応の進行を下記表IVに要約する:
【0028】
【表4】

【0029】
生成物を、前記実施例1において要約したようにしてストリッピングし、中和、乾燥、炭素処理及び最終濾過後に部分的に固体の物質として単離した。目的はより凝固点の低い生成物を開発することであるので、この物質に関してはこれ以上作業を行わなかった。
【0030】
各サンプルをキャピラリーガスクロマトグラフィーによって分析した(未補正面積%値を報告)。結果を下記表Vに要約する:
【0031】
【表5】

【0032】
凝固点分析
前記物質のうち2種(158−01,163−01)を純粋なDBTと共に、DSC点分析に供した。この分析は、密封ステンレス鋼パン中における加熱−冷却−加熱サイクルを採用した。走査速度はヘリウム中で2℃/分であった。図1は、純粋なDBTに関するウォームアップサイクルである。
【0033】
結果は、複雑な凝固点挙動を示している。75:25のDBT/DIBT混合物については:
1.1回目のウォームアップ時には、−66℃及び−42℃に2つの結晶化イベントがあり、その後に−5℃に小さい融解イベント及び6℃に大きい融解イベントが続く。
【0034】
2.2回目のウォームアップ時には、−35℃及び−29℃の2つの結晶イベントを経て、その後の−5℃における小さい融解イベント及び6℃における大きい融解イベントが続く。
【0035】
3.凝固点は約−42℃でピークに達した(過冷却)。
【0036】
50:50の混合物については、
1.凝固点は約−22℃でピークに達した(過冷却)。
【0037】
2.1回目のウォームアップ時には、2つの低温のイベント(−56℃において結晶化及び−17℃において融解)を経て、その後に−6℃における別の融解及び8℃における最終融解が続く。
【0038】
3.2回目のウォームアップ時には、それは−15℃における結晶化イベント及び−8℃における融解イベントを経て、その後に10℃における小さい融解イベントが続く。
【0039】
2つのうち、50:50混合物は、より温かい領域により小さい融解イベントがある点で、最良のように見える(50:50混合物については8〜10℃に小さいイベントがあるのに対して、75:25混合物については6℃に大きいイベントがある)。他方、75:25混合物は、50:50混合物よりも低い温度まで過冷却されるようである(−42℃対−22℃)。
【0040】
図5に示されるように、DBTは凝固前に−7℃まで過冷却したことに留意されたい。
【0041】
本発明を特にその好ましい実施態様に関して詳述したが、本発明の精神及び範囲内において変形及び変更が可能なことがわかるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n−ブチルイソブチルテレフタレートを含んでなる組成物。
【請求項2】
テレフタル酸ジ−n−ブチル及びテレフタル酸ジイソブチルを更に含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
n−ブチルイソブチルテレフタレートを含んでなる可塑剤。
【請求項4】
テレフタル酸ジ−n−ブチル及びテレフタル酸ジイソブチルを更に含んでなる請求項3に記載の可塑剤。
【請求項5】
n−ブタノール、イソブタノール及びテレフタル酸ジメチルを触媒の存在下で接触させることを含んでなるn−ブチルイソブチルテレフタレートの製造方法。
【請求項6】
前記触媒がエステル交換触媒である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒がテトライソプロポキシチタネートである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記n−ブタノール及びイソブタノールがn−ブタノール/イソブタノールのモル比約0.5:1.0〜約4.0:1.0の量で存在する請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記n−ブタノール及びイソブタノールがn−ブタノール/イソブタノールのモル比約0.75:1.0〜約3:1.0の量で存在する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記n−ブタノール及びイソブタノールがn−ブタノール/イソブタノールのモル比約1.0:1.0〜約2.0:1.0の量で存在する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1のアルコール、第2のアルコール及びテレフタル酸ジメチルを触媒の存在下で接触させることを含んでなり、前記第1のアルコールと前記第2のアルコールとが異なるテレフタル酸ジエステル混合物の製造方法。
【請求項12】
前記第1のアルコールがn−ブタノールであり且つ前記第2のアルコールがイソブタノールである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物がn−ブチルイソブチルテレフタレート、テレフタル酸ジ−n−ブチル及びテレフタル酸ジイソブチルのうちの少なくとも2種を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒がエステル交換触媒である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒がテトライソプロポキシチタネートである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記n−ブタノール及びイソブタノールがn−ブタノール/イソブタノールのモル比約0.5:1.0〜約4.0:1.0の量で存在する請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記n−ブタノール及びイソブタノールがn−ブタノール/イソブタノールのモル比約0.75:1.0〜約3:1.0の量で存在する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記n−ブタノール及びイソブタノールがn−ブタノール/イソブタノールのモル比約1.0:1.0〜約2.0:1.0の量で存在する請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−525100(P2010−525100A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504041(P2010−504041)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/004221
【国際公開番号】WO2008/130483
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】