説明

ディジタルマイクロ波無線送信装置および信号送信方法

【課題】 小型で動作安定性の良いディジタルマイクロ波無線送信装置を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、ディジタルマイクロ波無線送信装置は、インタフェース部と、アナログ/ディジタル変換部と、FM変調部と、ディジタル変調部と、送信部とを具備する。インタフェース部は、ディジタルの主信号とアナログの補助信号とを取り込む。アナログ/ディジタル変換部は、補助信号をディジタル化する。FM変調部は、主信号をディジタル化された補助信号に基づいてディジタル領域でFM(Frequency Modulation)変調して変調信号を生成する。ディジタル変調部は、変調信号をディジタル変調して送信信号を生成する。送信部は、送信信号を無線送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えばディジタル多値変調方式を採用するディジタルマイクロ波無線送信装置とその信号送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの水位などを遠隔地から観測するための監視制御情報を監視センターとの間で伝送する中継伝送装置の一つとして、ディジタルマイクロ波無線通信システムが用いられている。この種の中継伝送装置においては監視制御情報であるリアルタイムのビデオデータや水位の観測値などの生のデータ、および観測装置のリモコンデータを含むディジタル信号(主信号と称する)に加え、中継伝送装置の保守運用に係わる音声打ち合わせ、リモコン制御などの用途に用いられる信号(補助信号と称する)が中継無線リンクにより伝送される。補助信号はベースバンドでは数KHzオーダのアナログ信号であり、無線中継用リンクの例えば6.5GHz帯/7.5GHz帯(M/Nバンド)の一部に設けられる専用チャネル(サービスチャネル(Service Channel : SC)と称する)で伝送される。
【0003】
サービスチャネルは主信号に多重される。その多重方式には、大別して補助信号をディジタル符号化して主信号に多重(挿入)する時分割(TDM)多重方式と、主信号の搬送波に補助信号により浅くFM(Frequency Modulation)変調を施して伝送するFM変調方式との二つがある。このうちFM変調方式はTDM多重方式に比べて送信スペクトラムの帯域幅を拡大せずに補助信号を伝送できるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−147570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
補助信号をFM変調方式で主信号に多重する従来のシステムにおいて、送信装置におけるFM変調部分はVCO(Voltage Controlled Oscillator)等のアナログ回路で構成されていた。このため回路規模が大きくなるのに加えて、ジッタを低く抑えるなど所期の性能を得るための調整作業量が多い問題が有った。
目的は、小型かつ、動作安定性の良いディジタルマイクロ波無線送信装置および信号送信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、ディジタルマイクロ波無線送信装置は、インタフェース部と、アナログ/ディジタル変換部と、FM変調部と、ディジタル変調部と、送信部とを具備する。インタフェース部は、ディジタルの主信号とアナログの補助信号とを取り込む。アナログ/ディジタル変換部は、補助信号をディジタル化する。FM変調部は、主信号をディジタル化された補助信号に基づいてディジタル領域でFM(Frequency Modulation)変調して変調信号を生成する。ディジタル変調部は、変調信号をディジタル変調して送信信号を生成する。送信部は、送信信号を無線送信する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係わるディジタルマイクロ波無線送信装置を示す機能ブロック図。
【図2】RF信号のスペクトラム分布を示す図。
【図3】比較のため既存のディジタル送信装置を示す図。
【図4】第2の実施形態のディジタルマイクロ波無線送信装置の機能ブロック図。
【図5】第2の実施形態のディジタルマイクロ波無線送信装置の機能ブロック図。
【図6】TDM多重信号フレームフォーマットの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係わるディジタルマイクロ波無線送信装置を示す機能ブロック図である。図1において、図示しない情報処理装置や撮影機材などから出力されたディジタルの主信号はインタフェース部10により所要の信号フォーマットになるようインタフェース処理されて装置内部に取り込まれる。アナログの補助信号もインタフェース部10によるインタフェース処理を経て装置内部に取り込まれ、アナログ/ディジタル変換器(A/D)20によりディジタルデータ化される。
【0009】
図1において、ディジタルデータ化された補助信号(補助信号Aと表記する)はI/Q変換回路131に入力される。主信号(主信号Bと表記する)はI/Q変換回路132に入力され、それぞれ個別に直交変調される。生成されたI信号、Q信号は乗算器140において互いに複素乗算され、ベースバンド(B/B)のディジタル化FM変調信号が出力される。
【0010】
このディジタル化FM変調信号は、変調部50においてQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)などの方式で変調されるとともに、基準発振器60からの第1ローカル信号により例えば、140MHz帯のIF(Intermediate Frequency)信号にアップコンバートされる。このIF信号はディジタル/アナログ(D/A)変換器70によりアナログ信号に変換されたのち、乗算器80で基準発振器60からの第2ローカル信号と乗算されて例えば、6GHz帯のRF(Radio Frequency)信号にさらにアップコンバートされる。このRF信号は電力増幅器90で送信電力にまで増幅されたのち、アンテナ100を介して送信される。
【0011】
図2は、RF信号のスペクトラム分布を示す図である。図2(a)は、本実施形態の電力増幅器が出力するRF信号スペクトラム、図2(b)は時分割多重されたRF信号のスペクトラムである。前者は、後者に比べて帯域が狭い。図2(a)、図2(b)の実線は主信号本来のスペクトラムを示し、図2(a)の点線部は、FM変調による周波数遷移状況を示し、図2(b)の点線部は、時分割(TDM)多重された信号の帯域を示す。
【0012】
すなわち、TDM多重された補助信号は、ベースバンドで例えば、5KHz帯域のアナログ信号であるとすると100kbps程度のディジタル信号に変換されるので送信信号の帯域がそれだけ必要になる。
【0013】
これに対して、補助信号で主信号をFM変調する実施形態の手法では、主信号が変調されたキャリヤ(搬送波)が、補助信号のベースバンド信号の2倍程度の帯域変動する程度に納めることが可能となる。
図3は、比較のため補助信号によりFM変調を施す従来のディジタルマイクロ波無線送信装置を示す図である。図3においてはディジタルの主信号のみが主信号変調部150において、例えば、QPSK方式でディジタル変調され、更に140MHzのIF信号にアップコンバートされる。このIFディジタル変調信号は基準発振器60からの第2ローカル信号によって乗算器80で送信帯域のRF周波数にまでアップコンバートされる。
【0014】
一方、アナログの補助信号はVCO(電圧制御発振器)160によって±10KHzの範囲で遷移する信号に変換されてからFM多重変調部170に入力され、RFのディジタル変調信号と乗算される。これにより更にFM変調のかかった送信信号が生成され、この送信信号は電力増幅器90で送信電力にまで増幅されたのち、アンテナ100を介して無線送信される。
【0015】
このような従来の構成においては、ディジタルの主信号に基づき生成したRF周波数に対して、アナログの補助信号によりFM変調をかけるようにしている。しかしながら、VOC160の調整が必要であり、温度変化に伴い特性が変化するなどの結果、送信電波の不安定性がもたらされていた。また図2の構成では、インタフェース部10から変調処理系に至るまでに主信号のための伝送系と、補助信号のための伝送系とを必要とする。よって装置内部のケーブルの引き回しが煩雑になり、ノイズの増加する原因にもなり得る。
【0016】
これに対し実施形態では、主信号と補助信号とをいずれもディジタルデータのかたちで装置内部を伝送し、それぞれI/Q変換を施したのちFM変調回路(乗算器140など)に入力する。FM変調回路は、ベースバンド帯(I,Q)でのディジタル演算により主信号に対して補助信号によるFM変調を施す。このFM変調信号をさらにディジタル変調して無線送信するようにしている。
【0017】
このように、FM変調処理をディジタル領域で実施しているので、回路の殆どの部分をディジタル化することが可能になり、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて集積化を促すことができる。これにより送信装置の更なる小型化を促進することが可能になる。具体的に言えば、I/Q変換回路131、132乗算器140、UpConv変調部50の各機能ブロックが、数cm四方の一つのFPGAにより実行され、VCOの様な変動要因、調整要素を削除している。
【0018】
また、主信号と補助信号とをビット多重していないので、送信信号の帯域が広がることもない。従って無線区間において利用可能な伝送帯域が限られているような状況下では大きなメリットを得ることができる。これらのことから、伝送品質の向上を図ったディジタルマイクロ波無線送信装置および信号送信方法を提供することが出来る。
【0019】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では送信装置の変調処理に係わる部分を中心に述べた。第2の実施形態では送信装置全体としても補助信号をディジタル変換することにより装置の小型化を更に促進することも可能なことを説明する。
図4、図5は、本発明の第2の実施形態に係わるディジタルマイクロ波無線送信装置の機能ブロック図である。図1と重複する部分の説明は省略する。図4においては主信号と補助信号とがインタフェース部10に入力され、補助信号がA/D変換された後TDM部30によってTDM多重処理される。
【0020】
TDM部30は補助信号を主信号にディジタル領域で挿入し、すなわち主信号と補助信号とを時分割(TDM)多重し、図6に示すような多重信号フレームフォーマットを持つベースバンド(B/B)のTDM多重信号を生成する。そして、TDM多重された信号が同軸ケーブルや光ファイバ伝送路等による伝送部110により分離部120伝送される。分離部120は、再度もとの主信号とディジタル補助信号に分離され、I/Q変換回路131、132へ入力される。
【0021】
従来のアナログ処理によるFM変調をする方法においては、インタフェース部10から変調処理系に至るまでに主信号のための伝送系と、補助信号のための伝送系とを必要とする。よって装置内部のケーブルの引き回しが煩雑になり、ノイズの増加する原因にもなり得る。
【0022】
これに対し第2の実施形態では、主信号と補助信号とをディジタル多重して装置内部を伝送するようにしているので、配線の引き回しに要するスペースを縮小することができ、装置の省サイズ化を促すことに加えて、耐ノイズ性能を向上させることも可能になる。これらのことから、小型かつ、動作安定性の良いディジタルマイクロ波無線送信装置および信号送信方法を提供することが可能となる。
【0023】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
10…インタフェース部、20…アナログ/ディジタル変換器、50…変調部、60…基準発振器、70…ディジタル/アナログ変換器、80…乗算器、90…電力増幅器、100…アンテナ、131,132…I/Q変換回路、140…乗算器、150…主信号変調部、160…VCO(電圧制御発振器)、170…FM多重変調部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタルの主信号とアナログの補助信号とを取り込むインタフェース部と、
前記補助信号をディジタル化するアナログ/ディジタル変換部と、
前記主信号を前記ディジタル化された補助信号に基づいてディジタル領域でFM(Frequency Modulation)変調して変調信号を生成するFM変調部と、
前記変調信号をディジタル変調して送信信号を生成するディジタル変調部と、
前記送信信号を無線送信する送信部とを具備する、ディジタルマイクロ波無線送信装置。
【請求項2】
さらに、前記主信号と前記補助信号とをディジタル領域で多重して多重信号を生成する多重部と、
前記多重信号を伝送する伝送部と、
前記伝送部を介して伝送された多重信号から前記主信号と前記補助信号とを分離する分離部とを具備し、
前記FM変調部は、前記分離された主信号を前記分離された補助信号に基づいて変調する、請求項1に記載のディジタルマイクロ波無線送信装置。
【請求項3】
ディジタルマイクロ波無線送信装置における信号送信方法であって、
ディジタルの主信号とアナログの補助信号とをインタフェース処理し、
前記補助信号をディジタル化し、
前記主信号を前記ディジタル化された補助信号に基づいてディジタル領域でFM(Frequency Modulation)変調して変調信号を生成し、
前記変調信号をディジタル変調して送信信号を生成し、
前記送信信号を無線送信する、信号送信方法。
【請求項4】
さらに、前記主信号と前記補助信号とをディジタル領域で多重して多重信号を生成し、
前記ディジタルマイクロ波無線送信装置の内部で前記多重信号を伝送し、
前記伝送された多重信号から前記主信号と前記補助信号とを分離し、
前記変調信号を生成することは、前記分離された主信号を前記分離された補助信号に基づいて変調する、請求項3に記載の信号送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−195888(P2012−195888A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59921(P2011−59921)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】