説明

ディスクブレーキ用パッド組立体

【課題】内側、外側両シム板3a、4aを、周方向に関する相対変位可能に、且つ、不用意に分離しない状態に組み合わせる。且つ、前記両シム板3a、4aの一部が、パッド1のプレッシャプレート2aの内外両周縁から突出する量を少なく抑える。
【解決手段】前記内側シム板3aの周方向両端部に設けた一対の係止折り曲げ部15、15の基端部に形成した係止透孔16、16に、前記外側シム板4aの周方向両端縁に設けた一対の係止突片19、19を係合させ、前記両シム板3a、4aの分離防止を図る。これら両シム板3a、4aに形成し、前記プレッシャプレート2aの周縁部に係合させた、各係止片8d、8e、8f、13d、13e、13fを互いに重ね合わせる事がない為、前記プレッシャプレート2aの内外両縁からの突出量を抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制動を行う為に利用するディスクブレーキに組み込んで、制動時にパッドが振動する事により発生するブレーキ鳴きを抑えたり、このパッドのライニングの磨耗が不均一になる偏摩耗を抑える為に利用する、ディスクブレーキ用パッド組立体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動に使用するディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータを挟んで一対のパッドを配置し、制動時にはこれら両パッドをこのロータの軸方向両側面に押し付ける様に構成している。この様なディスクブレーキの基本的構造としては、フローティング型と対向ピストン型との2種類がある。何れの構造の場合でも、制動時には一対のパッドにより車輪と共に回転するロータを軸方向両側から強く挟持する。これら両パッドは、十分な剛性を有するプレッシャプレートの前面にライニングを添着して成る。そして、制動時にこのうちのプレッシャプレートの背面を押圧し、このライニングの前面と前記ロータの軸方向両側面とを摩擦させる。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向、周方向、径方向とは、特に断らない限り、ディスクブレーキ用パッド組立体をディスクブレーキに組み付けた状態での、ロータの軸方向、周方向、径方向を言う。又、周縁部とは、このロータの径方向に関する内周縁部又は外周縁部を言う。
【0003】
制動時には、摩擦力が作用する部分である、前記ロータの軸方向両側面と前記両パッドのライニングの前面との当接部と、これら両パッドに加わるブレーキトルクを支承するアンカ部分である、前記プレッシャプレートとサポート又はキャリパとの当接部とは、軸方向に関して、少なくとも前記両パッドのライニングの厚さ分だけずれる(ブレーキトルク支承部に対し、摩擦部分がオフセットする)。そして、この厚さ分のずれに基づいてこれら両パッドに、前記ロータの回入側が互いに近づく(倒れ込む)方向のモーメントが加わり、これら両パッドの姿勢が不安定になり易い。制動時にこれら両パッドの姿勢が不安定になると、これら両パッドの挙動がスムーズになりづらく、これら両パッドが振動して、鳴きと呼ばれる騒音を発生したり、前記ライニングの偏摩耗の程度が著しくなり易い。
【0004】
この様な鳴きや偏摩耗を緩和する為に、従来から、パッドを構成するプレッシャプレートの背面と、この背面を押圧する為の押圧面であるピストンの先端面或いはキャリパ爪部の内側面との間にシム板を挟持する事が、広く行われている。この様なシム板は、1枚のみの単板構成の場合もあるが、前記鳴きや偏摩耗の抑制効果を向上させる為、内側シム板と外側シム板とを重ね合わせた2枚構造とする事も、広く行われている。又、これら内側、外側両シム板同士を、厚さ方向の分離を防止しつつ、周方向の変位を可能に組み合わせる構造も、従来から知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、この様な機能を備えたディスクブレーキ用パッド組立体として、図13〜15に示す様な構造が記載されている。この従来構造は、パッド1を構成するプレッシャプレート2の背面に、内側シム板3と外側シム板4とから成る組み合わせシム板5を装着して成る。前記パッド1は、前記プレッシャプレート2の前面(ディスクブレーキへの組み付け時にロータの側面と対向する面)にライニング6を、制動時に加わるブレーキトルクによりずれ動かない様に、大きな結合力により添着固定して成る。前記内側シム板3は、ステンレス鋼板、ゴムをコーティングしたステンレス鋼板等の金属板製で、平板状の内側本体部分7と、複数の内側係止片8a、8b、8cとを備える。これら各内側係止片8a、8b、8cの先半部の形状は、軸方向中間部が前記プレッシャプレート2aの周縁部に向け屈曲した、略「く」字形である。
【0006】
又、前記内側本体部分7に、それぞれの内側にグリースを保持する為の、複数の透孔9、9を形成している。又、前記プレッシャプレート2の径方向に関する内外両周縁部のうち、外径側周縁部の周方向中央部に係止凹部10を、内径側周縁部の周方向両端寄り部分に一対の段差部11、11を、それぞれ形成している。前記内側シム板3は、前記各内側係止片8a、8b、8cのうちの外径側の内側係止片8aを前記係止凹部10に、内径側の内側係止片8b、8cを前記両段差部11、11に、それぞれ係合させつつ、これら各内側係止片8a、8b、8cにより前記プレッシャプレート2を、径方向両側から挟持している。この状態で前記内側シム板3がこのプレッシャプレート2の背面側に、周方向及び径方向の変位を制限(実質的に阻止)された状態で装着される。
【0007】
又、前記外側シム板4は、ステンレス鋼板等の金属板製で、平板状の外側本体部分12と、複数の外側係止片13a、13b、13cとを備える。これら各外側係止片13a、13b、13cの先半部の形状に関しても、軸方向中間部が前記プレッシャプレート2の周縁部に向け屈曲した、略「く」字形である。この様な外側シム板4は、これら各外側係止片13a、13b、13cを前記各内側係止片8a、8b、8cに重ね合わせつつ、前記外側本体部分12を前記内側本体部分7に重ね合わせる。この際、前記各外側係止片13a、13b、13cの先半部内面(前記プレッシャプレート2の周縁部に対向する面)のうちの突出部分を、前記各内側係止片8a、8b、8cの先半部外面(前記プレッシャプレート2の周縁部と反対側の面)の凹部に、弾性的に係合させる。この状態で前記外側シム板4が前記内側シム板3に、厚さ方向の分離を抑えられた状態で、且つ、周方向の変位を可能に組み付けられる。この為に、前記外側係止片13aの周方向に関する幅寸法を、前記係止凹部10及び前記内側係止片8aの周方向の幅寸法よりも小さくし、前記両外側係止片13b、13cの互いに反対側側縁である周方向外側縁同士の間隔を、前記両段差部11、11同士の間隔よりも小さくしている。
【0008】
上述の様な構成を有する従来構造の場合、前記各内側係止片8a、8b、8cと前記各外側係止片13a、13b、13cとを重ね合わせている為、前記プレッシャプレート2の周縁からの、これら各外側係止片13a、13b、13cの突出量が多くなる。この結果、これら各外側係止片13a、13b、13cと、ディスクブレーキの他の構成部材、例えばキャリパとの干渉防止の為の配慮が必要になる。ディスクブレーキの設置スペースは限られている反面、キャリパ等の構成部材には大きな剛性が要求される。この為、前記干渉防止の為の配慮が必要になる事は、ディスクブレーキの設計の自由度を確保する面から不利になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−200560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、内側、外側両シム板を周方向に関する相対変位可能に、且つ、不用意に分離しない状態に組み合わせ、しかも、パッドのプレッシャプレートの内外両周縁からの突出量を少なく抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のディスクブレーキ用パッド組立体は、パッドと、内側シム板と、外側シム板とを備える。
このうちのパッドは、プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置される。
又、前記内側シム板は、前記パッドを構成するプレッシャプレートの背面に添設された、平板状の内側本体部分を有する。
更に、前記外側シム板は、前記内側シム板の内側本体部分に重ね合わされた、平板状の外側本体部分を有する。
【0012】
特に、本発明のディスクブレーキ用パッド組立体に於いては、それぞれ一対ずつの係止折り曲げ部と、係止透孔と、係止突片とを備える。
このうち、前記両係止折り曲げ部は、前記内側シム板の周方向両端部に、前記内側本体部分から前記プレッシャプレートと反対側に折り曲げられた状態で形成している。
又、前記両係止透孔は、前記両係止折り曲げ部の基端部の幅方向中央部に形成している。
又、前記両係止突片は、前記外側シム板を構成する前記外側本体部分の周方向両端縁の径方向中間部から、それぞれ周方向に突出する状態で形成している。
又、前記両係止突片の先端縁同士の距離は、前記両係止折り曲げ部同士の間隔よりも大きい。
又、前記外側本体部分の周方向両端縁のうちで前記両係止突片の径方向両側部分の周方向長さは、前記両係止折り曲げ部同士の間隔よりも短い。
そして、前記両係止突片を前記両係止透孔に係合させた状態で、前記内側本体部分と前記外側本体部分とを重ね合わせている。
【0013】
上述の様な本発明のディスクブレーキ用パッド組立体を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記両係止折り曲げ部のうちの少なくとも一方の係止折り曲げ部の先端寄り部分に、先端縁に向かうに従って他方の係止折り曲げ部から離れる方向に傾斜したガイド傾斜部を設ける。
そして、前記外側シム板の外側本体部分のうちの何れかの周方向端縁で何れかの係止突片を他方の係止透孔に係合(この他方の係止透孔にこの何れかの係止突片を挿入)させつつ、前記外側本体部分を前記内側本体部分に近付けた状態で、別の係止突片の先端縁が前記ガイド傾斜部に当接する様に、各部の寸法を規制する。
【0014】
又は、請求項3に記載した発明の様に、前記内側シム板の内側本体部分の内周縁及び外周縁のうちでこれら両周縁に振り分けられた(何れか一方の周縁のみではない)3箇所以上部分に内側係止片を、前記プレッシャプレートの側に折れ曲がった状態で形成する。そして、これら各内側係止片を、このプレッシャプレートの内外両周縁に弾性的に当接させる事により、前記内側シム板をこのプレッシャプレートの背面に、径方向及び周方向の変位を制限した状態で添設する。
又、前記外側シム板の外側本体部分の内周縁及び外周縁のうちでこれら両周縁に振り分けられた3箇所以上部分に外側係止片を、前記プレッシャプレートの側に折れ曲がった状態で形成する。そして、これら各外側係止片を、このプレッシャプレートの内外両周縁のうちで前記各内側係止片が設けられた部分から周方向に外れた部分に当接させる事により、前記外側シム板を前記内側シム板の背面に、径方向の変位を制限すると共に周方向の変位を許容する状態で重ね合わせる。
【0015】
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記プレッシャプレートの周縁部で前記各外側係止片の片面と当接する部分に、この片面と対向する部分の周方向中央部が周方向両端部よりも径方向に突出した凸部を形成する。そして、前記プレッシャプレートの周縁部と前記各外側係止片の片面とを、この片面の周方向両端寄り部分で互いに離隔させる。
更に、この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項5に記載した発明の様に、前記プレッシャプレートの周縁部に、周方向に隣接する両側部分よりも径方向に凹入し、周方向に関する幅寸法が前記外側係止片の同方向の幅寸法よりも大きな係止凹部を形成する。そして、前記プレッシャプレートの周縁部のうちでこの係止凹部の底部に対応する部分に、前記凸部を形成する。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用パッド組立体によれば、内側、外側両シム板を周方向に関する相対変位可能に、且つ、不用意に分離しない状態に組み合わせ、しかも、パッドのプレッシャプレートの内外両周縁からの突出量を少なく抑えられる構造を実現できる。即ち、本願発明のディスクブレーキ用パッド組立体の場合には、前記内側、外側両シム板同士の分離防止を、これら両シム板の周方向両端部に設けた係止透孔と係止突片との係合により図っている。従って、前述の図13〜15に示した従来構造の様に、内側シム板に設けた各内側係止片と、外側シム板に設けた各外側係止片とを重ね合わせる必要がない。これら両シム板をプレッシャプレートに対し保持すべく、請求項3に記載した発明の如く、前記内側、外側両シム板に形成した、内側、外側各係止片をプレッシャプレートの内外両周縁に係止する場合でも、これら両周縁の各部に係合している係止片は1枚のみとなり、前記突出量を小さく抑えられる。又、前記両シム板を組み合わせる作業は、請求項2に記載した発明の構成を採用する事により、容易に行える。
【0017】
又、請求項4に記載した構成を採用する事により、上述の様な本発明により得られる作用・効果に加えて、前記各外側係止片と前記プレッシャプレートの周縁部との周方向変位を円滑に行わせる事ができる構造を、低コストで実現できる。
即ち、前記プレッシャプレートの周縁部に形成した凸部の存在に基づき、この周縁部と前記各外側係止片の片面とが、この片面の周方向両端寄り部分で互いに離隔するので、尖った形状を有する(断面形状の曲率半径ほぼ0である)、前記片面の端縁と前記プレッシャプレートの周縁部とが擦れ合う事がない。この為、前記各外側係止片の周方向端縁がこの周縁部に食い込む事を防止して、前記プレッシャプレートに対する前記外側シム板の、周方向に関する変位を円滑に行える。
この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に、請求項5に記載した発明の構成を採用すれば、係止凹部を形成した部分で、前記プレッシャプレートの周縁からの前記外側係止片の突出量を、より小さく抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の1例を示す、パッドの背面側で径方向外側から見た斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態の1例を、径方向内方から見た斜視図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態の1例を、背面側から見た正投影図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態の1例を、径方向外方から見た正投影図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態の1例を、図3の左方から見た正投影図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態の1例に関して、内側、外側両シム板を組み合わせる以前の状態で、背面側且つ径方向外側から見た斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態の1例に関して、内側、外側両シム板を組み合わせる途中の状態を、背面側且つ径方向内側で、周方向に異なる2方向から見た斜視図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態の1例に関して、パッドの背面側に内側シム板のみを添設した状態を、背面側で径方向外側から見た斜視図である。
【図9】図9は、図8と同様の状態を、背面側で径方向内側から見た斜視図である。
【図10】図10は、図8と同様の状態を、背面側から見た正投影図である。
【図11】図11は、図8と同様の状態を、径方向外側から見た正投影図である。
【図12】図12は、図8と同様の状態を、図10の左方から見た正投影図である。
【図13】図13は、従来構造の1例を示す、図1と同様の図である。
【図14】図14は、この従来構造を、組み合わせる以前の状態で示す斜視図である。
【図15】図15は、この従来構造を、組み合わせた状態でパッドの背面側から見た正投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜12は、全請求項に対応する、本発明の実施の形態の1例を示している。本例のディスクブレーキ用パッド組立体14は、パッド1と、内側シム板3aと、外側シム板4aとを備える。このうちのパッド1は、プレッシャプレート2aの前面にライニング6を添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置される。前記プレッシャプレート2aの外径側周縁部の周方向中央部に係止凹部10aを、内径側周縁部の周方向両端寄り部分に一対の段差部11、11を、それぞれ形成している。
【0020】
又、前記内側シム板3aは、ステンレスのばね鋼板、前記プレッシャプレート2aの背面と対向する側の面にゴムをコーティングしたステンレスのばね鋼板等、耐食性及び弾性を有する金属板に、プレス加工による打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造っている。そして、平板状の内側本体部分7aと、この内側本体部分7aの周方向両端部から前記プレッシャプレート2aと反対側に、ほぼ直角に曲げ起こされた、一対の係止折り曲げ部15、15とを備える。これら両係止折り曲げ部15、15の基端部(前記内側本体部分7aと同一平面上に存在する部分)から中間部分(この内側本体部分7aに対し直角に折れ曲がった部分)に掛けての幅方向(径方向)中央部分に、それぞれ係止透孔16、16を形成している。又、前記両折り曲げ板部15、15の先端寄り部分に、それぞれガイド傾斜部17、17を形成している。これら両ガイド傾斜部17、17の傾斜方向は、それぞれの先端縁に向かうに従って互いの間隔が拡がる方向としている。又、前記内側本体部分7aの複数箇所に、それぞれの内部に潤滑用のグリースを保持する為の、透孔9、9を形成している。
【0021】
更に、前記内側本体部分7aの内外両周縁のうち、内周縁の周方向中央部分と、外周縁の周方向両端寄り2箇所部分との、合計3箇所部分に、それぞれ前記プレッシャプレート2a側に折れ曲がった、内側係止片8d、8e、8fを形成している。これら各内側係止片8d、8e、8fは、それぞれの先半部が、前記内側本体部分7aに対する角度が鋭角となる状態まで折り曲げており、それぞれの先半部を、径方向に関する互いの間隔を拡げる方向に弾性変形させつつ、前記プレッシャプレート2aの背面側に添着可能としている。本例の場合、このプレッシャプレート2aの内周縁部の周方向中央部に、前記内側本体部分7aの内周縁の周方向中央部分に形成した内側係止片8dを係合可能な、内径側係止凹部18を形成している。前記内側シム板3aは前記プレッシャプレート2aに対し、内側係止片8dの先半部内面を前記内径側係止凹部18部分でこのプレッシャプレート2aの内周縁部に、前記両内側係止片8e、8fの先半部内面をこのプレッシャプレート2aの外周縁部の周方向両端寄り部分2箇所位置に、それぞれ弾性的に当接させた状態で、前記内側本体部分7aを前記プレッシャプレート2aの背面に当接させる。この状態で前記内側シム板3aはこのプレッシャプレート2aの背面に、この背面との間に作用する摩擦力、前記両内側係止片8e、8fと前記プレッシャプレート2aの外周縁部との(非直線上の)係合等に基づき、径方向及び周方向に関する変位を制限された状態で添着される。
【0022】
又、前記外側シム板4aは、ステンレスのばね鋼板等、耐食性及び弾性を有する金属板に、プレス加工による打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造ったもので、平板状の外側本体部分12aと、3個の外側係止片13d、13e、13fとを備える。これら各外側係止片13d、13e、13fのうち、前記外側本体部分12aの外周縁側に設けた1個の外側係止片13dは、周方向中央部に、同じく内周縁側に設けた2個の外側係止片13e、13fは周方向両端寄り部分に、それぞれ設けている。この様な各外側係止片13d、13e、13fに関しても、上述した各内側係止片8d、8e、8fと同様に、それぞれの先半部を、前記外側本体部分12aに対する角度が鋭角となる状態まで折り曲げており、前記プレッシャプレート2aの背面側に、前記内側シム板3aを介して添着可能としている。尚、前記各外側係止片13d、13e、13fに関しては、前記プレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの、径方向に関する位置決めを図りつつ、周方向の変位を可能にできれば良く、必ずしも前記プレッシャプレート2aの周縁に対し弾性的に当接させる必要はない。
【0023】
本例の場合、前記プレッシャプレート2aの外周縁部の周方向中央部に、前記外側本体部分12aの外周縁の周方向中央部分に形成した外側係止片13dを、周方向に関する若干の変位を許容する状態で係合可能な、前記係止凹部10aを形成している。この為に、この係止凹部10aの周方向に関する幅W10を、前記外側係止片13dの周方向に関する幅w13よりも少し大きく(W10>w13)している。又、前記両段差部11、11同士の間隔D11を、前記内周縁側の一対の外側係止片13e、13fの反対側端縁同士の距離L13よりも少し大きく(D11>L13)している。
【0024】
更に、前記外側本体部分12aの周方向両端縁の径方向中央部に、それぞれ係止突片19、19を、これら両端縁のうちで径方向に隣接する部分よりも周方向に突出する状態で形成している。前記両係止突片19、19の先端縁同士の距離L19は、前記内側シム板3aの周方向両端部に形成した、前記両係止折り曲げ部15、15同士の間隔D15よりも大きい(L19>D15)。但し、これら各寸法L19、D15は、前記各ガイド傾斜部17、17との関係で、次の様に規制している。即ち、図7に示す様に、前記外側本体部分12aのうちの何れか(図7の右側)の周方向端縁で何れか(図7の右側)の係止突片19を、何れか(図7の右側)の係止透孔16と係合させつつ、前記外側本体部分12aを前記内側シム板3aの内側本体部分7aに近付けた状態で、別(図7の左側)の係止突片19の先端縁が、図7に示す様に別(図7の左側の)の係止折り曲げ部15の先端部に形成したガイド傾斜部17に当接する様に、各部の寸法を規制している。又、前記外側本体部分12aのうち、前記両係止突片19、19を除いた、前記両係止折り曲げ部15、15同士の間に存在する部分の周方向長さL12は、前記間隔D15よりも少し小さく(L12<D15)している。
【0025】
上述の様な外側シム板4aは、その外側本体部分12aを前記プレッシャプレート2aの背面に、前記内側本体部分7aを介して重ね合わせる。これら両本体部分12a、7a同士を重ね合わせる作業は、図7に示した状態からこれら両本体部分12a、7aをそれぞれの厚さ方向に押圧する事により、容易に行える。即ち、図7に示した状態から前記両本体部分12a、7a同士を、厚さ方向に関して互いに近付く方向に押圧すれば、前記別の係止突片19の先端縁と、前記別の係止折り曲げ部15の先端部のガイド傾斜部17との擦れ合いに伴い、この別の係止折り曲げ部15が前記何れかの係止折り曲げ部15から離れる方向に弾性変形しつつ、前記別の係止突片19の先端縁の通過(軸方向の変位)を許容する。そして、通過後は、前記両係止突片19、19と前記両係止透孔16、16とが係合する。この状態で、前記内側シム板3aと前記外側シム板4aとが、周方向に関する若干の相対変位を可能に組み合わされる。又、これら両シム板3a、4aを、それぞれ前記各係止片8d、8e、8f、13d、13e、13fにより前記プレッシャプレート2aに対し係止する事で、前記内側シム板3aに関してはこのプレッシャプレート2aに対して径方向及び周方向の位置決めを図った状態で、前記外側シム板4aに関しては、径方向の位置決めを図ると同時に、周方向に関する若干の変位を可能にした状態で、それぞれ添着される。尚、前記両シム板3a、4aは、予め組み合わせてから前記プレッシャプレート2aに対し組み付けても、或いは、このプレッシャプレート2aに対し、内側シム板3aと外側シム板4aとを、順番に組み付けても良い。
【0026】
前記プレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの周方向変位は、前記各部の寸法差(「W10−w13」、「D15−L12」、「D11−L13」のうちの最小値)に基づいて許容されるが、前記周方向変位の際、前記外側シム板4aに設けた3個の外側係止片13d、13e、13fの先半部内面と前記プレッシャプレート2aの周縁部とが擦れ合う。本例の場合には、製造コストを抑えつつ、この擦れ合いに基づく抵抗を低く抑えて、前記周方向変位を安定して行わせる為に、各部の形状を工夫している。具体的には前記各外側係止片13d、13e、13fの先半部内面の周方向に関する形状を、互いに平行な直線状とすると共に、前記プレッシャプレート2aの周縁部のうちで前記各先半部内面と擦れ合う部分に、それぞれ部分円筒面状の凸部20a、20bを形成している。
【0027】
従って、前記プレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの周方向位置を中立位置とした状態で、前記各外側係止片13d、13e、13fの先半部内面は、前記各凸部20a、20bの頂部(最も径方向に突出した部分)に当接する。そして、この状態で、前記各外側係止片13d、13e、13fの先半部の周方向両側縁と前記プレッシャプレート2aの周縁部とが離隔する。言い換えれば、尖鋭な端縁である、前記各外側係止片13d、13e、13fの先半部内面の周方向端縁は、前記プレッシャプレート2aの周縁部に当接しない。
【0028】
上述の様に本例のディスクブレーキ用パッド組立体14は、前記内側、外側両シム板3a、4aにそれぞれ形成した、前記内側、外側各係止片8d、8e、8f、13d、13e、13fを前記プレッシャプレート2aの周縁部に対し直接当接させている。前記両シム板3a、4a同士の分離防止は、これら両シム板3a、4aの周方向両端部に設けた係止透孔16、16と係止突片19、19との係合により図っており、前述の図13〜15に示した従来構造の如く、複数の係止片8a、8b、8c、13a、13b、13cを重ね合わせる構造は採用していない。従って、この従来構造に比べて、前記各係止片8d、8e、8f、13d、13e、13fの前記プレッシャプレート2aの周縁からの突出量を少なく抑えられる。この為、ディスクブレーキの構造(フローティング型であるか、対向ピストン型であるか、更にはピストンの数が幾つであるか)に拘らず、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14と、ディスクブレーキの他の構成部分とが干渉し難くなり、高性能のディスクブレーキの設計の自由度を高くできる。
【0029】
しかも、本例のディスクブレーキ用パッド組立体14の場合には、制動及びその解除に伴って前記プレッシャプレート2aに対し周方向に変位する前記外側シム板4aに設けた、前記各外側係止片13d、13e、13fの先半部の周方向両端部の内面と前記プレッシャプレート2aの周縁部とを離隔させている。従って、前記各外側係止片13d、13e、13fの周方向端縁が前記プレッシャプレート2aの周縁部に食い込む事を防止して、このプレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの、周方向に関する変位を円滑に行える。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のディスクブレーキ用パッド組立体を構成するシム板の数は、2枚に限定されるものではない。3枚目のシム板(例えば中間シム板)を、プレッシャプレートと内側シム板との間、或いは内側シム板と外側シム板との間に挟持する構造に関して、本発明を実施する事もできる。
又、内側シム板と外側シム板との組み合わせの容易化を図る為、係止折り曲げ部の先端部のガイド傾斜部は、必ずしも両方の係止折り曲げ部に設ける必要はない。組み合わせ時に機能するのは、何れか一方のガイド傾斜部のみであるから、何れか一方の係止折り曲げ部にのみ、ガイド傾斜部を設けても良い。但し、図示の例の様に両方の係止折り曲げ部15、15にガイド傾斜部17、17を設ければ、組み付け方向を規制されずに、組み合わせ作業の容易化を図れる。
【符号の説明】
【0031】
1 パッド
2、2a プレッシャプレート
3、3a 内側シム板
4、4a 外側シム板
5 組み合わせシム板
6 ライニング
7、7a 内側本体部分
8a、8b、8c、8d、8e、8f 内側係止片
9 透孔
10、10a 係止凹部
11 段差部
12、12a 外側本体部分
13a、13b、13c、13d、13e、13f 外側係止片
14 ディスクブレーキ用パッド組立体
15 係止折り曲げ部
16 係止透孔
17 ガイド傾斜部
18 内径側係止凹部
19 係止突片
20a、20b 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置されるパッドと、このパッドを構成するプレッシャプレートの背面に添設された、平板状の内側本体部分を有する内側シム板と、この内側シム板の内側本体部分に重ね合わされた、平板状の外側本体部分を有する外側シム板とを備えたディスクブレーキ用パッド組立体に於いて、
前記内側シム板の周方向両端部に、前記内側本体部分から前記プレッシャプレートと反対側に折り曲げる事により形成された一対の係止折り曲げ部と、これら両係止折り曲げ部の基端部の幅方向中央部に形成された係止透孔と、前記外側シム板を構成する前記外側本体部分の周方向両端縁の径方向中間部からそれぞれ周方向に突出する状態で形成された一対の係止突片とを備え、
これら両係止突片の先端縁同士の距離は前記両係止折り曲げ部同士の間隔よりも大きく、前記外側本体部分の周方向両端縁のうちで前記両係止突片の径方向両側部分の周方向長さは前記両係止折り曲げ部同士の間隔よりも短く、これら両係止突片を前記両係止透孔に係合させた状態で、前記内側本体部分と前記外側本体部分とを重ね合わせている事を特徴とするディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項2】
前記両係止折り曲げ部のうちの少なくとも一方の係止折り曲げ部の先端寄り部分に、先端縁に向かうに従って他方の係止折り曲げ部から離れる方向に傾斜したガイド傾斜部が設けられており、前記外側シム板の外側本体部分のうちの何れかの周方向端縁で何れかの係止突片を係止透孔に係合させつつ、前記外側本体部分を前記内側本体部分に近付けた状態で、別の係止突片の先端縁が前記ガイド傾斜部に当接する、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項3】
前記内側シム板の内側本体部分の内周縁及び外周縁のうちでこれら両周縁に振り分けられた3箇所以上部分に、前記プレッシャプレートの側に折れ曲がった状態で形成された内側係止片をこのプレッシャプレートの内外両周縁に弾性的に当接させる事により、前記内側シム板をこのプレッシャプレートの背面に、径方向及び周方向の変位を制限した状態で添設しており、前記外側シム板の外側本体部分の内周縁及び外周縁のうちでこれら両周縁に振り分けられた3箇所以上部分に、前記プレッシャプレートの側に折れ曲がった状態で形成された外側係止片をこのプレッシャプレートの内外両周縁のうちで前記各内側係止片が設けられた部分から周方向に外れた部分に当接させる事により、前記外側シム板を前記内側シム板の背面に、径方向の変位を制限すると共に周方向の変位を許容する状態で重ね合わせている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項4】
前記プレッシャプレートの周縁部で前記各外側係止片の片面と当接する部分に、この片面と対向する部分の周方向中央部が周方向両端部よりも径方向に突出した凸部を形成し、前記プレッシャプレートの周縁部と前記各外側係止片の片面とを、この片面の周方向両端寄り部分で互いに離隔させている、請求項3に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項5】
前記プレッシャプレートの周縁部に、周方向に隣接する両側部分よりも径方向に凹入し、周方向に関する幅寸法が前記外側係止片の同方向の幅寸法よりも大きな係止凹部が形成されており、前記プレッシャプレートの周縁部のうちでこの係止凹部の底部に対応する部分に前記凸部が形成されている、請求項4に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−61012(P2013−61012A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199675(P2011−199675)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】