説明

ディスクブレーキ装置のパッド落下防止装置

【課題】 鉄道車両等のディスクブレーキ装置における制動用パッドの落下防止装置であって、落下防止機能が確実で、しかも作業性を改善することのできるものを提供すること。
【解決手段】 パッドをパッドホルダの下側から挿入して取り付ける構造とし、該パッドホルダに取り付けたパッドの落下を防止する落下防止部材を前記パッドホルダの下部に移動可能に設け、該落下防止部材がパッドの挿入を可能とする開位置から該パッドの落下を防止する作用位置まで移動したとき、パッドホルダと落下防止部材のうちの一方に設けられた係止部材が、他方に設けられた係合部に係止するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等のディスクブレーキ装置における制動用パッドの落下防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、古くから、車輪に直接摩擦材を押し当てて制動するブレーキ装置が使用されてきたが、近年は、車輪に摩擦材を押し当てる代わりに、車軸に取り付けたディスクに制動力を付与するディスクブレーキ装置が広く使用されるようになっている。このディスクブレーキ装置は、ディスクを両側から摩擦材(パッド)で挟み付けて制動するものである。
【0003】
図10は、この種の一般的なディスクブレーキ装置を例示するもので、車軸AにブレーキディスクDが取り付けられており、このディスクDを挟むように二股形状のクランプレバー(ブレーキ用梃)K,Kが設けられている。クランプレバーKの基部は、車両の支持フレームに支持されている。
【0004】
クランプレバーKの先端部には制動子(パッド)Pが取り付けられており、高圧エアをダイヤフラムB内に注入して該ダイヤフラムを膨張させることにより、クランプレバーKを制動方向に回動させて、パッドP,Pで左右からディスクDを挟圧し該ディスクを制動するのである。ダイヤフラムの代わりに、シリンダを用いて制動するものもある。
【0005】
上記パッドは、パッドホルダで支持されるが、その支持構造については種々の方式が提案されている。これらのなかには、パッドホルダに取り付けたパッドの不意の落下を防止する手段を設けて、信頼性の向上をはかるものも知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平8−326795号公報
【特許文献2】特開2003−14012号公報
【0007】
以下、前記特許文献に記載されている記号を()で囲んで表示し、その構造を簡単に説明する。まず、上記特許文献1に開示されているものは、パッド(3)の凹部(9)をキャリパ(パッドホルダ)(1)に蝶番(8)によって回動可能に取り付けられたアンカーブロック(落下防止部材)(6)に係合させるとともに、ボルト(7)によってアンカーブロック(6)をキャリパ(1)に取り付けて、パッド(3)が落下しないようにしている。
【0008】
また、上記特許文献2に開示されているものは、落下防止を揺動自在に設けた部材で行うもので、この部材をバネで付勢している。すなわち、落下防止部材であるラッチ(15)に連結鎖(16)を介して取り付けられたスナップピン(17)の直線部(17c)をパッドホルダ(8)下部のピン孔(19)に挿入し、かつ湾曲部(17b)をパッドホルダ(8)下部の溝部(21)に嵌めることにより、ラッチ(15)が直線部(17c)と湾曲部(17b)の間に挟まれて揺動が規制されることにより、不用意なパッドの落下を防止するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているものは、キャリパ(パッドホルダ)(1)に対するアンカーブロック(落下防止部材)(6)の係止方法がボルト締めによるものであるから、車両下方の狭いスペースでは、作業が面倒である。また、上記特許文献2に記載されているものは、パッドの落下防止に関しては万全であると考えられるが、これも上記と同様に、車両下方の狭いスペースでスナップピン(17)をピン孔(19)に挿入する等の作業は煩雑かつ困難で、手間がかかるという問題点がある。
【0010】
そこで本発明は、上記従来のディスクブレーキ装置におけるパッド落下防止方法を改良し、落下防止機能が確実で、しかも作業性を改善することのできる落下防止装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、本発明に係るパッドの落下防止装置は、車両の台車に取り付けられて車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドをパッドホルダの下側から挿入して取り付ける構造とし、該パッドホルダに取り付けたパッドの落下を防止する落下防止部材を前記パッドホルダの下部に移動可能に設けるとともに、該落下防止部材がパッドの挿入を可能とする開位置から該パッドの落下を防止する作用位置まで移動したとき、パッドホルダと落下防止部材のうちの一方に設けられた係止部材が、他方に設けられた係合部に係止するように構成したことを特徴としている。
【0012】
上記係止部材としては、請求項2に記載されているように、弾性体によって付勢されたピンを用い、このピンを他方に設けた凹部に挿入することによりパッドの落下を防止するようにするのが好ましい。さらに、上記落下防止部材は、請求項3に記載されているように、パッドホルダに対してディスクの軸方向に付勢しておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
このパッドの落下防止装置は、パッドをパッドホルダの下側から挿入して取り付ける構造であり、パッドホルダに取り付けたパッドの落下を防止する落下防止部材が設けられているので、パッドホルダによるパッドの保持が確実である。また、前記落下防止部材が、パッドホルダの下部に移動可能に設けられていて、該落下防止部材がパッドの挿入を可能とする開位置から該パッドの落下を防止する作用位置まで移動したとき、パッドホルダと落下防止部材のうちの一方に設けられた係止部材が、他方に設けられた係合部に係止するので、特別に落下防止部材の固定操作を行わなくても落下防止部材によるパッドの落下防止が確実に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施形態について、具体的に説明する。図は本発明の実施形態を例示するもので、このパッド落下防止装置1は、ブレーキディスクDに対面する作用面に上下方向のアリ溝2aが切られたパッドホルダ2を備えている。パッドホルダ2の背面側には上下一対の軸受け3,3が所定間隔で突設され、この軸受け3,3に案内ピン4が支持されている。このパッドホルダ2は、前記軸受け3,3に支持される案内ピン4がディスクブレーキ装置のキャリパ(ブレーキ用梃)Kに連結され、該キャリパの開閉動作によって作動する。図中の5はブッシュであり、6はピン4の逸脱を防止する割りピンである。
【0015】
パッドホルダ2の上部には表裏に通じる横方向の細長いスリット7が形成されていて、このスリット7を通して図に示す屈曲板バネからなるパッドガタツキ防止バネ9が背面側から挿入されている。また、パッドホルダ2の背面側には、左右一対の上下方向の補強リブ11,11が設けられている。さらに、この補強リブ11の側方には、該リブと平行なマグネット支持軸13がブラケット14,14によって軸回りに回動自在に支持されている。このマグネット支持軸13には、上下のマグネット15,15を支持するアーム15a,15aが取り付けられている。これら両マグネットは、パットホルダ2に設けた通孔16,16を通してパッドの裏側に接触可能なように設けられている。
【0016】
パッドホルダ2の下部には、前記マグネット支持軸13の端部を受ける軸受け17と、ブラケット18が設けられている。前記支持軸13の端部にはパッドの落下を防止する落下防止部材(ラッチ)20が取り付けられ、該支持軸13の回動により当該支持軸を中心として回動するようになっている。
【0017】
図5は上記パッド落下防止部材20を表すもので、この落下防止部材20の先端部にはピン穴21が設けられ、中間部にはパッドホルダ2の表面側へ突出する凸部20aが設けられるとともに、該突出部の端部寄りの位置にはバネ挿通穴22が設けられている。落下防止部材20の前記ピン穴21よりも先端側の部分は、先端側が次第に薄肉となるようなテーパ部20bとして形成されている。落下防止部材20の中間部のバネ挿通穴22にはU状のバネ25の基部が挿入され、その端部はパッド落下防止部材20の板面に沿うように屈曲されていて、抜け出しが防止されている。また、U状のバネ25の反対側の端部は、前記ブラケット18に設けた通孔18aに挿入されている。落下防止部材20がパッドホルダ2から離れた開位置ではU状バネ25は自然長であるが、落下防止部材20をその中間部の凸部20aがパッドホルダ2の表面側に突出する閉方向に移動させるときは、U状バネ25が最も圧縮される点を通過した後、再度伸長する。このため、落下防止部材20は、U状バネ25によって開位置においても閉位置においてもU状バネ25によってその状態が維持されるように付勢される。
【0018】
ブラケット18には、係止部材として、コイルバネとピンを有するスプリングプランジャ27が取り付けられている。このプランジャのピン28は前記落下防止部材20側に突出する方向にコイルバネによって付勢されていて、その突出した状態では、係合部である前記ピン穴21に嵌合する。プランジャ27は、位置決め用のインデックスプランジャとして機能するもので、そのピン28の後端部には、ピン引き抜き用のリング29が取り付けられている。係止部材としては、他の適当な係止手段を有するものを用いてもよい。また、上記係止部材(プランジャ)27を落下防止部材20側に設け、係合部(ピン穴)21をパッドホルダ側に設けてもよい。
【0019】
パッドホルダ2の表面(作用面)側に切られた上下方向のアリ溝2aには、図6及び図7に示すように、該アリ溝2aに摺動自在に嵌合するアリ(キー)30aを備えたパッド30が取り付けられる。その取り付けは、下方からパッド30のアリ30aをアリ溝2aに挿入することにより行われる。図中の30bはパッド裏面に装着された磁性体(鉄板)のライナーである。
【0020】
パッドホルダ2に取り付けられたパッド30の下端部は、U状バネ25によってアリ溝2aの下端部を閉塞する方向、すなわち、アリ溝側に突出する閉方向に付勢された落下防止部材20によって支持される。このため、パットホルダ2に取り付けられたパッド30が逸脱することはない。
【0021】
さらに、上記落下防止部材20が閉位置すなわちアリ溝2aの下端部を閉塞する作用位置では、内部のコイルバネによって付勢されているスプリングプランジャ27のピン28が当該落下防止部材20のピン穴21に嵌合するため、落下防止部材20の移動(図示例では揺動)が規制される。このため、落下防止部材20が作用位置から外れることはなく、パッド30の逸脱防止機能がより確実となる。
【0022】
一方、アリ30aとアリ溝2aの嵌合を介してパッドホルダ2に取り付けられたパッド30の上端部は、前記スリット7からアリ溝側に突出するガタツキ防止バネ9によって弾力的に押さえられるため、車両の走行中におけるそのガタツキが防止される。このため走行中における騒音や振動が少なく、部品の損傷も抑制される。
【0023】
このディスクブレーキ装置の制動用パッド30を交換するときは、車両の下側空間内に潜って、パッド30を受ける用意をしてから、リング29を引くことにより、プランジャ27のピン28をピン穴21から引き抜き、落下防止部材20をU状バネ25の付勢力に抗して開方向すなわちアリ溝2aの下端部を開放する方向に回動させる。この回動の途中でU状バネ25が最も圧縮される点を通過し、その後伸長するため、この点を通過した落下防止部材20は、手を離しても当該U状バネ25によって最も開いた状態で保持される。このため作業が楽である。落下防止部材20を開くと、パッド30がアリ溝2aに沿って下降するので、これを受け取って取り出せばよい。
【0024】
新たなパッド30をパッドホルダ2に取り付けるときは、落下防止部材20を開方向に回動させた状態で、ホルダ2の下側からパッド30をアリ溝2aに沿わせて挿入する。しかるのち、U状バネ25の付勢力に抗して落下防止部材20を閉じる方向に回動させれば、該落下防止部材20はU状バネ25の最も圧縮される点を通過した後、アリ溝2aを閉じる閉位置に達して、そこで安定保持される。落下防止部材20が一杯に移動すると、そのピン穴21がプランジャ27のピン28の位置にくるが、このとき、内部のコイルバネによって突出方向に付勢された当該ピン28が、落下防止部材20のテーパ部20bによって案内されつつ突出して、落下防止部材20のピン穴21に挿入される。これにより、落下防止部材20の移動は規制され、パッド30が確実にパッドホルダ2に保持されるのである。
【0025】
このパッド落下防止装置は、パッドの取り付けのための挿入方向と異なる方向(図示例では直角方向)に移動する落下防止部材20によりパッド取り付け用の溝の端部を閉塞するので、作業は簡単である。しかも、落下防止部材20の開方向への移動を規制する手段としてスプリングプランジャ27が設けられているので、落下防止部材20による取り付け溝の閉塞と同時に該落下防止部材20の移動をロックすることができる。このため、落下防止操作をきわめて簡単かつ確実に行うことができる。
【0026】
なお、図示例では、落下防止部材20を作動させる軸13にアームを介してマグネット15が取り付けられており、落下防止部材20の作用位置への移動とともに当該マグネットが通孔16内を移動してパッド30の裏面に吸着するようになっている。このため、パッドの移動が規制され、上記ガタツキ防止バネとともに、振動や騒音の発生を抑制するが、場合によっては、このようなマグネットやガタツキ防止バネを設けておかなくてもよい。さらに、図示例では、落下防止部材20が軸13を中心に回動するようになっているが、横方向や前後方向に移動してアリ溝を開閉するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上の説明から明らかなように、本発明に係るディスクブレーキ装置のパッド落下防止装置は、ディスクを挟圧制動するパッドをパッドホルダに下側から取り付ける構造であり、その取り付け用の溝を当該取り付け方向とは異なる方向に移動して閉塞する落下防止部材を設けたので、車両下部の狭い空間においてもパッドの着脱が簡単となり、しかもパッドの逸脱が確実に防止される。このため、鉄道車両やその他の車両のブレーキ装置に広く採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】パッドホルダの背面図である。
【図2】その左側面図である。
【図3】その平面図である。
【図4】その下面図である。
【図5】落下防止部材の正面図(a)及び側面図(b)である。
【図6】パッドの正面図である。
【図7】その取り付け状態を表す断面図である。
【図8】U状バネの正面図である。
【図9】ガタツキ防止バネの外観図である。
【図10】ディスクブレーキ装置の説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 落下防止装置
2 パッドホルダ
4 ピン
9 ガタツキ防止バネ
13 支持軸
15 マグネット
20 落下防止部材
21 ピン穴(係合部)
27 スプリングプランジャ(係止部材)
30 パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の台車に取り付けられて車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドをパッドホルダの下側から挿入して取り付ける構造とし、該パッドホルダに取り付けたパッドの落下を防止する落下防止部材を前記パッドホルダの下部に移動可能に設けるとともに、該落下防止部材がパッドの挿入を可能とする開位置から該パッドの落下を防止する作用位置まで移動したとき、パッドホルダと落下防止部材のうちの一方に設けられた係止部材が、他方に設けられた係合部に係止するように構成したことを特徴とするディスクブレーキ装置のパッド落下防止装置。
【請求項2】
係止部材が弾性体によってパッドの落下防止作用方向に付勢されたピンであり、係合部が当該ピンが嵌合する凹部である請求項1に記載のディスクブレーキ装置のパッド落下防止装置。
【請求項3】
落下防止部材がパッドホルダに対してディスクの軸方向に揺動自在に取り付けられ、かつ弾性体によってディスクの軸方向に付勢されている請求項1又は2に記載のディスクブレーキ装置のパッド落下防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−2848(P2006−2848A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179960(P2004−179960)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】