説明

ディスクブレーキ

【課題】ブレーキ鳴きの抑制とブレーキペダルの踏み始めにおける無効入力の低減とを両立することができ、ブレーキ性能を向上することができるディスクブレーキを提供する。
【解決手段】摩擦パッド5とピストン4との間にシム板9を介装する。このシム板9は、粘弾性体9B,9Cが被覆されたものとしている。また、シム板9の粘弾性体9Bは、表面を平面として形成している。一方、摩擦パッド5の裏板8のシム板対向面8Bには、複数の突起8Dを形成している。ブレーキ作動時に、各突起8Dは、シム板9の粘弾性体9Bに沈み込み、これにより粘弾性体9B中にひずみを発生させ、摩擦パッド5の振動を減衰できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に制動力を付与するディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられるディスクブレーキは、車両の固定部に対して回転可能なディスクの外周側を軸方向に跨いで配置されるキャリパと、該キャリパの軸方向の少なくとも一側に設けられるピストンと、該ピストンによりディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドと、該摩擦パッドとピストンとの間に介装され粘弾性体が被覆されるシム板とを備えて構成されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
車両の運転者等がブレーキ操作を行ったときは、例えばピストンを外部からの液圧供給によりディスク側に摺動変位させ、該ピストンによって摩擦パッドをディスクに向けて押圧することにより、該ディスクに制動力を付与する構成となっている。このとき、シム板は、ピストンやキャリパと摩擦パッドとの間で該摩擦パッドの振動を減衰(制振)し、これにより、所謂ブレーキ鳴き等を抑制することができる。
【0004】
ここで、特許文献1,2による従来技術では、ブレーキ鳴きをより低減できるようにするために、シム板の粘弾性体の表面に凹凸を形成している。すなわち、このシム板の粘弾性体の表面に形成した凹凸によって、シム板の表面の剛性を下げることができ、振動入力に対するシム板の表面の変形量、即ち、粘弾性体のひずみ量を大きくすることができる。これにより、振動入力に対する減衰効果を向上することができ、ブレーキ鳴きをより低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−148521号公報
【特許文献2】特開2000−249174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シム板の粘弾性体の表面に凹凸を形成する構成の場合、粘弾性体の表面の凸となる部位が、摩擦パッドを押圧する方向、即ち、ディスクの軸方向(ピストンが摺動変位する方向)に大きく圧縮変形する(潰される)傾向になる。これにより、例えばブレーキペダルの踏み始めにおける無効入力(無効ブレーキ液量)が大きくなり、ブレーキペダルのストローク量が増大し、ペダルフィーリングを良好にできなくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ブレーキ鳴きの抑制と無効入力の低減とを両立することができ、ブレーキ性能を向上することができるディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、車両の固定部に対して回転可能なディスクの外周側を軸方向に跨いで配置されるキャリパと、該キャリパの軸方向の少なくとも一側に設けられるピストンと、該ピストンにより前記ディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドと、該摩擦パッドと前記ピストンとの間に介装され粘弾性体が被覆されるシム板とを備えてなるディスクブレーキに適用される。
【0009】
そして、本発明が採用する構成の特徴は、前記シム板の粘弾性体は、表面を平面として形成し、前記摩擦パッドのうち前記シム板と対向するシム板対向面には、複数の突起を形成したことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブレーキ鳴きの抑制と無効入力の低減とを両立することができ、ブレーキ性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態によるディスクブレーキを示す縦断面図である。
【図2】摩擦パッドを、突起の大きさ等を誇張して示すインナ側(図1の右方向)からみた正面図である。
【図3】摩擦パッドを、突起の大きさ等を誇張して示す図2中のIII−III方向からみた断面図である。
【図4】非制動時の状態の摩擦パッドとシム板を、突起の大きさ、シム板の厚さ等を誇張して示す図3と同様位置の断面図である。
【図5】制動時の状態の摩擦パッドとシム板を、突起の大きさ、シム板の厚さ等を誇張して示す図3と同様位置の断面図である。
【図6】図5中の(VI)部の拡大断面図である。
【図7】ひずみと加振入力との関係を示す特性線図である。
【図8】第1の比較例による摩擦パッドとシム板を、シム板の厚さ等を誇張して示す図4と同様位置の断面図である。
【図9】第2の比較例による摩擦パッドとシム板を、シム板の厚さ、凹部の大きさ等を誇張して示す図4と同様位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態によるディスクブレーキを、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
車両(図示せず)の固定部、例えば後述の取付部材2に対して回転可能なディスク1は、車輪(図示せず)と共に回転するものである。
【0014】
キャリアと呼ばれる取付部材2は、ディスク1の近傍に位置して車両の非回転部分に取付けられるものである。
【0015】
取付部材2は、ディスク1の回転方向(周方向、図1の表裏方向)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向(図1の左,右方向)に延びた一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体化するように連結して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部2Aと、ディスク1のアウタ側で各腕部の先端側を互いに連結し、ディスク1の周方向に延びる補強ビーム2Bとにより大略構成されている。
【0016】
ここで、各腕部は、摺動ピン(図示せず)を介して後述のキャリパ3をディスク1の軸方向に摺動可能に支持している。
【0017】
取付部材2のインナ側には、後述するインナ側の摩擦パッド5をディスク1の軸方向に案内する一対のパッドガイド(図示せず)が設けられている。これら各パッドガイドは、ディスク1の軸方向に延びる断面コ字形状(断面略U字形状)の凹溝として形成され、摩擦パッド5を挟んでディスク1の周方向一側,他側に離間している。そして、各パッドガイドには、摩擦パッド5の各耳部8Cが例えばパッドスプリング(図示せず)を介してそれぞれ嵌合される。
【0018】
取付部材2のアウタ側にも、後述するアウタ側の摩擦パッド6をディスク1の軸方向に案内する一対のパッドガイド(図示せず)が設けられている。これら各パッドガイドも、インナ側のパッドガイドと同様に、ディスク1の軸方向に延びる断面コ字形状(断面略U字形状)の凹溝として形成され、摩擦パッド6を挟んでディスク1の周方向一側,他側に離間している。そして、これら各パッドガイドには、摩擦パッド6の各耳部が例えばパッドスプリング(いずれも図示せず)を介してそれぞれ嵌合される。
【0019】
取付部材2には、キャリパ3がディスク1の軸方向に摺動可能に設けられている。このキャリパ3は、ディスク1の外周側を該ディスク1の軸方向に跨いで配置されたもので、ディスク1のインナ側に設けられたインナ脚部3Aと、取付部材2の各腕部間でディスク1の外周側を跨ぐようにインナ脚部3Aからディスク1のアウタ側へと延設されたブリッジ部3Bと、該ブリッジ部3Bの先端側であるアウタ側からディスク1の径方向内向きに延び、先端側が二又状の爪部となったアウタ脚部3Cとにより構成されている。
【0020】
キャリパ3のインナ脚部3Aには、ブレーキ操作時に外部からブレーキ液圧が供給されるシリンダ3Dが設けられ、該シリンダ3D内には後述のピストン4が摺動可能に挿嵌されている。また、インナ脚部3Aには、ディスク1の周方向に突出して一対のピン取付部(図示せず)が一体に設けられている。これら各ピン取付部は、摺動ピンを介してキャリパ3全体を取付部材2の各腕部に摺動可能に支持させるものである。
【0021】
キャリパ3のアウタ脚部3Cは、後述するアウタ側の摩擦パッド6にシム板10を介して当接している。そして、アウタ脚部3Cは、ブレーキ操作時にピストン4との間でインナ側,アウタ側の摩擦パッド5,6をディスク1の両面に向けて押圧するものである。
【0022】
キャリパ3の軸方向の一側(ディスク1の軸方向に関する一側)であるインナ脚部3Aには、ピストン4が設けられている。このピストン4は、有底筒状体として形成され、インナ脚部3Aのシリンダ3D内に摺動可能に挿嵌されている。そして、ピストン4は、インナ脚部3Aのシリンダ3D内に外部からブレーキ液圧が供給されると、このときの液圧力でディスク1側に向けて該ディスク1の軸方向に摺動変位され、後述するインナ側の摩擦パッド5をディスク1の一側面に押圧するものである。
【0023】
この場合、ピストン4は、その開口端(先端)がインナ側の摩擦パッド5に後述のシム板9を介して当接している。そして、車両のブレーキ作動時には、ピストン4の開口端側がシム板9に当接した状態で摩擦パッド5をディクス1の表面に向けて押圧するものである。
【0024】
ディスク1の軸方向両側面に対向して配置されたインナ側,アウタ側の摩擦パッド5,6は、ディスク1の周方向に延びる板状体として形成されている。これら一対の摩擦パッド5,6は、ピストン4によりディスク1の両面(軸方向両側面)に押圧されるものである。
【0025】
なお、インナ側の摩擦パッド5とアウタ側の摩擦パッド6は、ピストン4により押圧されるかキャリパ3のアウタ脚部3Cにより押圧されるかで異なる以外、同様の構成および作用効果を有する。このため、以下、インナ側の摩擦パッド5について説明し、アウタ側の摩擦パッド6に関しては、インナ側の摩擦パッド5と同様の構成に同様の符号を付してその説明は省略する。
【0026】
インナ側の摩擦パッド5は、ディスク1の表面(軸方向側面)に摩擦接触する摩擦材としてのライニング7と、該ライニング7の裏面側に固着(接合)された裏板8とによって構成されている。ここで、裏板8は、例えば金属や合成樹脂等により成形され、該裏板8の表面は、ライニング7が取付けられるライニング取付面8Aとなり、裏板8の裏面は、後述するシム板9が対向するシム板対向面8Bとなっている。
【0027】
裏板8には、ディスク1の周方向に離間してそれぞれ凸形状をなした耳部8Cが設けられている。これら各耳部8Cは、パッドスプリング(図示せず)を介して取付部材2のインナ側の各パッドガイドにそれぞれ嵌合され、これらパッドガイドとパッドスプリングとによってディスク1の軸方向に摺動可能に支持されている。そして、各耳部8Cは、車両のブレーキ作動時にディスク1から摩擦パッド5が受ける制動トルクを、取付部材2のパッドガイドと当接して伝達するものである。
【0028】
摩擦パッド5を構成する裏板8のうち後述のシム板9と対向するシム板対向面8Bには、複数の突起8Dが形成されている。これら各突起8Dは、図2に示すように、シム板対向面8Bのうちシム板9が当接する部位の全体にわたって形成されている。
【0029】
ここで、各突起8Dは、円柱状の突出部として形成されている。これら各突起8Dは、例えば車両のブレーキ作動時に、シム板9の粘弾性体9Bの表面を弾性変形させる(ひずませる)ものである。即ち、図5に示すように、各突起部8Dは、ブレーキ作動時に、ピストン4の押圧力Fに基づいて、その先端側がシム板9の粘弾性体9Bに沈み込むように、該粘弾性体9Bを弾性変形させる。このとき、摩擦パッド5が振動する傾向となっても、各突起部8Dによって粘弾性体9Bがひずむことにより、摩擦パッド5の振動を減衰させることができ、ブレーキ鳴きを抑制することができる。
【0030】
インナ側の摩擦パッド5の裏板8とピストン4との間には、インナ側のシム板9が介装されている。このシム板9は、摩擦パッド5と対向する側の側面とピストン4と対向する側の側面との両側面に粘弾性体9B,9Cが被覆されたものである。即ち、シム板9は、例えば鋼板(ステンレス鋼板)等の金属板9Aの両側面を、ゴム、合成樹脂等の粘弾性体9B,9Cによって被覆(コーティング)することにより形成されている。
【0031】
また、シム板9の粘弾性体9B,9Cは、表面を平面として形成されている。より具体的には、シム板9の粘弾性体9B,9Cの表面のうち、少なくとも摩擦パッド5(裏板8のシム板対向面8B)と対向(当接)する部位は、平面として形成されている。
【0032】
そして、シム板9は、インナ側の摩擦パッド5の裏板8の背面側(ピストン4側)に着脱可能に取付けられ、ピストン4と摩擦パッド5との間でブレーキ鳴きを抑制するものである。具体的には、車両のブレーキ作動時に、例えばディスク1と摩擦パッド5との間の摩擦力の変動等に伴い該摩擦パッド5が振動すると、この摩擦パッド5の振動に基づいて、裏板8の各突起8Dがシム板9の粘弾性体9Bの表面に沈み込むようにその表面を押圧する。
【0033】
これにより粘弾性体9Bの表面にひずみが発生し、このとき、振動による運動エネルギーが粘弾性体9Bの内部摩擦による熱エネルギーに変換され、摩擦パッド5の振動が減衰されると共に、該摩擦パッド5の振動がピストン4側に伝達されることが抑制される。これにより、ブレーキ鳴きを高次元で抑制することができる。
【0034】
なお、アウタ側の摩擦パッド6の裏板8とキャリパ3のアウタ脚部3Cとの間には、アウタ側のシム板10が介装されている。このアウタ側のシム板10と上述のインナ側のシム板9は、キャリパ3のアウタ脚部3Cにより押圧されるかピストン4により押圧されるかで異なる以外、同様の構成および作用効果を有する。このため、アウタ側のシム板10に関しては、これ以上の説明は省略する。
【0035】
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0036】
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ3のシリンダ3Dにブレーキ液圧を供給することによりピストン4をディスク1に向けて摺動変位させ、これによりインナ側の摩擦パッド5をディスク1の一側面に押圧する。そして、このときにはキャリパ3がディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ3全体が取付部材2の腕部に対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部3Cがアウタ側の摩擦パッド6をディスク1の他側面に押圧する。
【0037】
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド5,6は、車輪と共に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から強く挟持することができ、このディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、ピストン4への液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド5,6がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。
【0038】
ところで、シム板9,10は、金属板9Aに粘弾性体9B,9Cを蒸着させることにより形成され、摩擦パッド5,6とピストン4またはキャリパ3のアウタ脚部3Cとに挟まれて用いられる。このように粘弾性体9B,9Cを持った部材(シム板9,10)が金属(ピストン4、キャリパ3)に挟まれる構成は、一般的な制振鋼板と同様である。このため、制振鋼板の制振メカニズムと、シム板9,10による摩擦パッド5,6とピストン4またはキャリパ3との間の制振メカニズムとは、共通するものと考えられる。
【0039】
ここで、2枚の鋼板の間に粘弾性体が配置された制振鋼板の制振メカニズムを考えると、振動する鋼板の変形に伴って粘弾性体は、ずり変形を強制され、これにより粘弾性体中にひずみが発生する。このとき、振動による運動エネルギーは、該振動に伴って繰り返されるひずみの発生によって粘弾性体の内部摩擦による熱エネルギーに変換され、これにより、振動を小さくさせる、即ち、振動を減衰することができる。
【0040】
一方、ディスクブレーキでは、制動によって発生するディスク1と摩擦パッド5,6との間の摩擦力変動が加振力となり、摩擦パッド5,6ではディスク1やキャリパ3に対して相対的に面内振動(ディスク1の側面に沿う方向の振動)、面外振動(ディスク1の側面に直交する方向の振動)といった剛体振動が発生することがある。また、摩擦パッド5,6は、弾性体であるため、剛体振動と共に、摩擦パッド5,6自身の曲げやねじれ等の弾性振動が発生することがある。
【0041】
ここで、摩擦パッド5,6とキャリパ3またはピストン4との間にシム板9,10を設置した場合、摩擦パッド5,6とキャリパ3またはピストン4との相対振動の影響を受けて、シム板9,10の粘弾性体9B,9Cにずり変形が生じる。そして、シム板9,10は、このずり変形によって粘弾性体9B,9Cにひずみが発生することにより、振動系から熱として運動エネルギーを散逸させて、その振動を小さくする、即ち、振動を減衰する効果がある。
【0042】
ディスクブレーキの振動がブレーキ鳴きに至るには、複数のメカニズムがあると考えられている。その一つに、モード連成とういう発生メカニズムがある。これは、制動による摩擦パッド5,6とディスク1との間の摩擦力変化が加振入力となって、ディスク1の回転軸方向に振動する軸方向振動モードと、ディスク1の回転方向に振動する周方向振動モードとが励起され、これら2つの振動モードが互いを加振し合う自励振動となって振動が大きくなり、振動が空気中に音として伝播するというメカニズムである。
【0043】
実際にブレーキ鳴きに至るには、軸方向の振動と周方向の振動とが互いに一定以上の振動振幅を持っており、他方の振動に十分に作用できる大きさを持っている場合に限られる。シム板9,10は、軸方向および周方向の振動を小さくする制振効果があり、これによってブレーキ鳴きをモード連成に至る前に未然に防止することができる。
【0044】
シム板9,10の減衰量(減衰性能)は、加振入力よる粘弾性体9B,9Cのひずみの発生の仕方に関係があり、図7に示すひずみと加振入力との関係を表すヒステリシスループLの大きさで決定される。このヒステリシスループLの面積は、粘弾性体9B,9C中で内部摩擦によって熱として散逸するエネルギーを表しており、この面積を拡大することがシム板9,10の減衰量を向上させることを意味する。
【0045】
ここで、本実施の形態による制振効果を、図8に示す第1の比較例と図9に示す第2の比較例を参照しつつ説明する。
【0046】
図8中、101は第1の比較例によるシム板で、該シム板101は、金属板101Aを粘弾性体101B,101Cで被覆することにより形成されている。第1の比較例によるシム板101は、その表面(粘弾性体101Bの表面)を平面として形成している。また、摩擦パッド102は、ライニング103と裏板104とにより構成し、裏板104のシム板対向面104Aは、平面として形成している。
【0047】
このような第1の比較例によれば、摩擦パッド102とピストン4またはキャリパ3とが相対振動すると、この相対振動に伴って粘弾性体101B中にひずみが発生し、これにより制振効果を発揮することができる。しかし、第1の比較例の構成は、粘弾性体101Bの表面と裏板104のシム板対向面104Aとを互いに平滑面としている。このような平滑面同士の接触の場合、粘弾性体101Bに加わる面圧が均一に近くなり、相対的にひずみ量が小さくなる。
【0048】
一方、図9に示す第2の比較例によるシム板111は、金属板111Aを粘弾性体111B,111Cで被覆することにより形成され、粘弾性体111B,111Cのうち摩擦パッド102と対向する側の粘弾性体111Bの表面には、複数の凹部(ディンプル)111Dが形成されている。また、摩擦パッド102は、ライニング103と裏板104とにより構成し、裏板104のシム板対向面104Aは、平面として形成している。
【0049】
このような第2の比較例によれば、粘弾性体111Bの表面に凹部111Dを形成する分、シム板111の表面(粘弾性体111Bの表面)の剛性を低下させることができる。これにより、小さな振動入力でも大きな変形が発生し、ひずみ量を大きくすることができる。
【0050】
しかし、第2の比較例によるシム板111は、第1の比較例、即ち、表面が平滑なシム板101と比較して、凹部111Dを形成する分、摩擦パッド102の裏板104(シム板対向面104A)との当接面積が小さくなる。この場合、粘弾性体111Bの面圧が、シム板対向面104Aと当接する部位で高くなっても、シム板対向面104Aと当接してない部位で低くなり、粘弾性体111B中に発生するひずみが局所的になる虞がある。これにより、ひずみ量の小さい部位の減衰性能への寄与度が低下し、シム板111全体での減衰性能向上を阻む虞がある。
【0051】
しかも、第2の比較例によるシム板111は、凹部111Dを形成することによりその表面の剛性を小さくしているため、粘弾性体111Bの表面で凸となる部位が摩擦パッドを押圧する方向、即ち、ディスク1の軸方向(ピストン4が摺動変位する方向)に大きく圧縮変形する(潰される)傾向になる。これにより、例えばブレーキペダルの踏み始めにおける無効入力(無効ブレーキ液量)が大きくなり、ブレーキペダルのストローク量が増大し、ペダルフィーリングを低下させる虞がある。
【0052】
これに対し、本実施の形態によれば、摩擦パッド5,6の裏板8のシム板対向面8Bに複数の突起8Dを設けると共に、シム板9,10の粘弾性体9Bの表面を平面に形成している。このため、裏板8の各突起8Dと粘弾性体9Bとが当接する部位で面圧を上げることができる。これにより、当該部位でひずみ量を増大させることができ、振動の低減効果、即ち、振動入力に対する減衰効果を確保することができる。この結果、ブレーキ鳴きを高次元で抑制することができる。
【0053】
しかも、シム板9,10の粘弾性体9Bは、表面を平面として形成しているので、突起8Dの先端側が沈み込むことに伴って、突起8Dの先端面と当接する部位だけではなく、当該先端面と当接する部位の周囲もひずむようにできる。即ち、図6中に、粘弾性体9B内でひずみが発生する部位を梨子地模様で示すように、突起8Dの先端面と当接する部位だけでなく、当該部位の周囲も変形し、これにより、粘弾性体9Bのほぼ全体でひずみを発生させることができる。
【0054】
換言すれば、粘弾性体9B中には、ピストン4が摺動変位する方向(図6の左,右方向)に圧縮変形されることによるひずみが発生すると共に、突起8Dの径方向に変形することによるひずみも発生するようにできる。これに対して、第2の比較例によるシム板111は、粘弾性体111Bの表面の凸となる部位に、主としてピストン4が摺動変位する方向(図9の左,右方向)に圧縮変形されることによるひずみが発生する。
【0055】
このため、本実施の形態によるシム板9の粘弾性体9B中に発生する全ひずみ量と、第2の比較例によるシム板111の粘弾性体111B中に発生する全ひずみ量とが同程度の場合、本実施の形態によるシム板9の方が、ピストン4が摺動変位する方向のひずみ量を小さくすることができる。これにより、ブレーキペダルの踏み始めにおける無効入力(無効ブレーキ液量)を小さくすることができ、ペダルフィーリングを良好にすることができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態では、突起8Dは、シム板対向面8Bのうちシム板9が当接する部位の全体にわたって形成するようにしているが、これに限らず、図2に一点鎖線で示すピストン4の当接部位となる領域の周囲は、突起8Dを形成せず、突起8Dと同様の高さを有する平坦面としてもよい。また、この平坦面は、図示はしないが、アウタ脚部3Cの二又状の爪部の当接部位となる領域の周囲に設けてもよい。このようにした場合には、制動時に押圧力を受ける部位のシム板9への面圧を小さくすることができるので、シム板9の耐久性が向上する。
【0057】
また、上述した実施の形態では、キャリパ3のインナ脚部3Aに1個のピストン4を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、キャリパのインナ脚部に2個以上のピストンを設ける構成としてもよい。
【0058】
上述した実施の形態では、キャリパ3のインナ脚部3Aにシリンダ3Dを介してピストン4を摺動可能に設け、キャリパ3のアウタ脚部3Cによりアウタ側の摩擦パッド6を押圧する構成とした所謂フローティングキャリパ型のディスクブレーキを例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えばキャリパのインナ側とアウタ側とにそれぞれピストンを設ける構成とした所謂対向ピストン型のディスクブレーキに適用してもよい。
【0059】
以上の実施の形態によれば、摩擦パッドの裏板のシム板対向面に複数の突起を形成すると共に、シム板の粘弾性体の表面を平面に形成する構成としているので、ブレーキ鳴きの抑制と無効入力の低減とを両立することができ、ブレーキ性能を向上することができる。
【0060】
即ち、摩擦パッドの裏板のシム板対向面に複数の突起を形成する構成としているので、該各突起とシム板の粘弾性体とが当接する部位で面圧を上げることができる。これにより、当該部位でひずみ量を増大させることができ、振動の低減効果、即ち、振動入力に対する減衰効果を確保することができる。この結果、ブレーキ鳴きを高次元で抑制することができる。
【0061】
しかも、シム板の粘弾性体は、表面を平面として形成しているので、突起の先端側が沈み込むことに伴って、突起の先端面と当接する部位だけではなく、当該先端面と当接する部位の周囲もひずむようにできる。これにより、粘弾性体のほぼ全体でひずみを発生させることができ、全ひずみのうちでピストンが摺動変位する方向のひずみ量を相対的に小さくすることができる。これにより、ブレーキペダルの踏み始めにおける無効入力(無効ブレーキ液量)を小さくすることができ、ペダルフィーリングを良好にすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ディスク
2 取付部材(固定部)
3 キャリパ
4 ピストン
5 インナ側の摩擦パッド
6 アウタ側の摩擦パッド
8B シム板対向面
8D 突起
9 インナ側のシム板
9B,9C 粘弾性体
10 アウタ側のシム板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の固定部に対して回転可能なディスクの外周側を軸方向に跨いで配置されるキャリパと、
該キャリパの軸方向の少なくとも一側に設けられるピストンと、
該ピストンにより前記ディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドと、
該摩擦パッドと前記ピストンとの間に介装され粘弾性体が被覆されるシム板とを備えてなるディスクブレーキにおいて、
前記シム板の粘弾性体は、表面を平面として形成し、
前記摩擦パッドのうち前記シム板と対向するシム板対向面には、複数の突起を形成したことを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−29156(P2013−29156A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165445(P2011−165445)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】