説明

ディスク装置用サスペンション

【課題】湿度が変化してもスライダのピッチ角が変化しにくいディスク装置用サスペンションを提供する。
【解決手段】ディスク装置用サスペンションは、ベースプレートと、ロードビームと、フレキシャとを有している。このフレキシャは、ベース金属50と、ベース金属50に沿って設けられた配線部51とを有している。配線部51は、ロードビームの長手方向に延びている。配線部51は、第1のポリイミドからなるベース樹脂52と、導体55a,55bと、第2のポリイミドからなるカバ−樹脂56を含んでいる。カバ−樹脂56の吸湿膨張係数はベース樹脂52の吸湿膨張係数よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に使用されるディスク装置用サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ等の情報処理装置に、ハードディスク装置(HDD)が使用されている。ハードディスク装置は、スピンドルを中心に回転する磁気ディスクと、ピボット軸を中心に旋回するキャリッジなどを含んでいる。キャリッジのアームに、ディスク装置用サスペンションが設けられている。
【0003】
ディスク装置用サスペンションは、前記キャリッジに固定されるロードビーム(load beam)と、ロードビームに重ねて配置されるフレキシャ(flexure)などを有している。フレキシャに形成されたタング部にスライダが取付けられている。スライダにはデータの読取りあるいは書込みを行なうための素子(トランスジューサ)が設けられている。
【0004】
前記フレキシャは、要求される仕様に応じて様々な形態のものが実用化されている。その一例として、下記特許文献1に開示されているように、配線付きフレキシャ(flexure with conductors)が知られている。配線付きフレキシャは、薄いステンレス鋼からなるベース金属と、このベース金属上に形成されたポリイミド等の電気絶縁材料からなるベース樹脂と、このベース樹脂上に形成された銅からなる複数本の導体などを含んでいる。導体はポリイミド等の電気絶縁材料からなるカバー部材によって覆われている。
【特許文献1】特開平2005−183831公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記フレキシャのタング部が自由状態にあるときのスライダのピッチ方向の傾きを、当業界ではピッチ角(Pitch Static Attitude)と称している。ディスク装置用サスペンションが所定の性能を発揮するためには、前記ピッチ角のばらつきを極力小さくすることが望まれる。
【0006】
前記ピッチ角は様々な要因により変化する。例えばフレキシャの加工精度のばらつきによってピッチ角がばらつくこともあるし、温度変化によってピッチ角がばらつくことも知られている。本発明者等が鋭意研究したところによれば、特に配線付きフレキシャは、配線無しのフレキシャと比較して、湿度の変化に影響されやすいことが判った。特に、配線部の前記カバー樹脂に感光性ポリイミドが使用された配線付きフレキシャは、湿度の変化に敏感に反応してピッチ角が大きく変化することがあった。
【0007】
従ってこの発明は、スライダのピッチ角が湿度変化に影響される度合いを小さくすることができるディスク装置用サスペンションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベースプレートと、ロードビームと、前記ロードビームに沿って配置されかつ先端部にスライダが設けられるフレキシャと、を有するディスク装置用サスペンションにおいて、前記フレキシャは、ベース金属と、前記ベース金属に沿って設けられて前記ロードビームの長手方向に延びかつ前記スライダに電気的に接続される配線部とを有し、前記配線部が、第1のポリイミドからなり少なくとも一部が前記ベース金属に積層されたベース樹脂と、前記ベース樹脂上に積層された導体と、第2のポリイミドからなり前記導体を覆うカバー樹脂とを具備し、かつ、前記カバー樹脂の吸湿膨張係数が前記ベース樹脂の吸湿膨張係数よりも小さいことを特徴とするものである。この発明において、前記ベース樹脂と前記カバー樹脂の吸湿膨張係数の差が3ppm/%RH以下であれば、ピッチ角の変化を十分小さくすることができる。
【0009】
前記第1のポリイミドと前記第2のポリイミドの一例は、それぞれ、感光基をもたない非感光性のポリイミドである。前記フレキシャは、前記ベース金属と前記配線部とが重なる部分と、前記配線部のみからなる部分とを有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベース金属とベース樹脂、導体およびカバー樹脂等からなる配線付きフレキシャを備えたディスク装置用サスペンションにおいて、スライダのピッチ角が湿度変化に影響される度合いを小さくすることができ、スライダのピッチ角を許容範囲内に収める上で大きな効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の一実施形態について、図1から図8を参照して説明する。
図1に示すハードディスク装置(HDD)10は、ケース11と、スピンドル12を中心に回転するディスク13と、ピボット軸14を中心に旋回可能なキャリッジ15と、キャリッジ15を駆動するためのポジショニング用モータ16などを有している。ケース11は、図示しない蓋によって密閉される。
【0012】
図2はディスク装置10の一部を模式的に示す断面図である。図2に示されるように、キャリッジ15にアーム17が設けられている。アーム17の先端部にサスペンション20が取付けられている。サスペンション20の先端に、磁気ヘッドを構成するスライダ21が設けられている。ディスク13が高速で回転すると、ディスク13とスライダ21との間にエアベアリングが形成される。ポジショニング用モータ16によってキャリッジ15を旋回させると、サスペンション20がディスク13の径方向に移動することにより、スライダ21がディスク13の所望トラックまで移動する。
【0013】
図3にサスペンション20の一例が示されている。このサスペンション20は、ベースプレート30と、ロードビーム31と、薄いばね板からなるヒンジ部材32と、配線付きフレキシャ(flexure with conductors)40などを備えている。ベースプレート30のボス部30aは、キャリッジ15のアーム17に固定される。
【0014】
ロードビーム31は、ヒンジ部材32に固定される基部31aと、スライダ21の近傍に位置する先端部31bと、長手方向の中間部31cなどを有している。ヒンジ部材32は、一対のばね部33を有している。ばね部33は、ベースプレート30とロードビーム31との間に形成され、厚さ方向に撓むことができる。ロードビーム31は、固定側であるベースプレート30に対し、ばね部33付近を支点として、図3に矢印Aで示す方向に弾性的に変位することができる。本実施形態では、ヒンジ部材32にばね部33が形成されているが、ヒンジ部材32を有しないサスペンションの場合には、ロードビームの一部に、厚み方向に撓むことができるばね部が形成されていてもよい。
【0015】
フレキシャ40は、ロードビーム31に沿って、ロードビーム31の軸線X(図3に示す)に沿う方向に延びている。フレキシャ40の一部はロードビーム31に重なり、レーザ溶接等の固定手段によってロードビーム31に固定されている。フレキシャ40のベースプレート30寄りの部分40aは、ヒンジ部材32に固定されている。フレキシャ40の後部40bは、ベースプレート30に固定されている。フレキシャ40の一部40dは一対のばね部33間を通り、ベースプレート30とロードビーム31とにわたって配置されている。
【0016】
図4はフレキシャ40を示す斜視図である。フレキシャ40の先端部付近に、タング部(ジンバル部)41と、タング部41の両側に位置する一対のアウトリガー部(outrigger portion)42が設けられている。タング部41に前記スライダ21(図3に示す)が取付けられる。磁気ヘッドとして機能するスライダ21には、読取用素子および書込用素子などを備えたトランスジューサ部45(図3に示す)と、接続端子として機能するパッド部46などが設けられている。
【0017】
図5は、フレキシャ40の一部の前記軸線Xに沿う断面を模式的に示している。図6と図7は、それぞれ、フレキシャ40の互いに異なる部分の前記軸線Xと直角な方向の断面図である。このフレキシャ40は、ばね性のある薄いステンレス鋼板からなるベース金属50と、ベース金属50に沿って形成された配線部51とを含んでいる。
【0018】
配線部51は、ベース樹脂52と、ベース樹脂52上に形成された複数の導体55a,55bと、カバー樹脂56等によって構成されている。カバー樹脂56はベース樹脂52よりも薄く、カバー樹脂56によって導体55a,55bが覆われている。本実施形態では2本の導体55a,55bのみを示したが、このフレキシャ40には、図示しない他の導体も形成されている。導体の種類としては、例えばデータ読取り用の一対の導体、データ書込み用の一対の導体、必要に応じて形成されるヒータ用の導体などがある。
【0019】
導体55a,55bはめっき銅からなり、ベース樹脂52上に形成されている。各導体55a,55bは、フレキシャ40の長手方向に沿って、所定の配線パターンとなるようにエッチングによって形成されている。図3と図4に、導体55a,55bの配線パターンの一部が破線で示されている。導体55a,55bの先端は、スライダ21のパッド部46に接続される。導体55a,55bの他端は、図示しない端子部を介して、ディスク装置10のアンプに接続される。
【0020】
フレキシャ40は、ベース金属50と配線部51とが重なった部分60を有している。図6は、ベース金属50と配線部51が重なっている部分60を、前記軸線Xと直角な方向に切断した断面を模式的に示している。
【0021】
またこのフレキシャ40は、配線部51のみの部分(ベース金属50が無い部分)61を有している。図7は、配線部51のみ部分61を、前記軸線Xと直角な方向に切断した断面図を模式的に示している。配線部51のみの部分61は、フレキシャ40の全長のうち、例えば図3に示すように、スライダ21の近傍でスライダ21の側面に沿う領域、すなわちアウトリガー部42に沿って形成されている。配線部51のみの部分61は、ベース金属50の一部をエッチングによって除去することによって形成される。
【0022】
図6と図7に示されるように、各導体55a,55bは、それぞれ厚み方向の断面が台形状となるように、前記めっき銅の層をエッチングすることによって形成される。従って各導体55a,55bは、厚み方向の断面に関し、ベース樹脂52と対向する面80の幅W1が、ベース樹脂52と反対側の面81の幅W2よりも大きい。このように導体55a,55bの断面が台形状をなしているため、本実施形態の配線部51は、断面が矩形の導体を有する配線部と比較して、配線部51の曲げ剛性が小さく、導体55a,55bの剥離強度が大きい。なお、導体55a,55bの断面形状は例えば正方形や長方形であってもよい。
【0023】
ベース樹脂52は、電気絶縁性の第1の樹脂としての第1のポリイミドからなる。第1のポリイミドの一例は非感光性のポリイミドであり、第1の吸湿膨張係数を有している。第1の吸湿膨張係数は例えば10.7ppm/%RHである。例えば1ppm/%RHは、相対湿度(Relative Humidity)が1%変化したときにポリイミドが1ppm変化することを表している。
【0024】
カバー樹脂56は、電気絶縁性の第2の樹脂としての第2のポリイミドからなる。第2のポリイミドの一例は非感光性のポリイミドであり、第2の吸湿膨張係数を有している。第2の吸湿膨張係数は例えば8.0ppm/%RHである。カバー樹脂56は、ベース樹脂52とは異なる成膜プロセスを経て導体55a,55b上に形成される。このためカバー樹脂56は、その成膜プロセスに応じて、ベース樹脂52とは異なるポリイミドが使用されている。本実施形態では、ベース樹脂52とカバー樹脂56にそれぞれ非感光性ポリイミドを用いることにより、ベース樹脂52とカバー樹脂56の吸湿膨張係数の差を小さくすることができる。
【0025】
カバー樹脂56の吸湿膨張係数(第2の吸湿膨張係数)は、ベース樹脂52の吸湿膨張係数(第1の吸湿膨張係数)よりも小さい。このためベース樹脂52とカバー樹脂56に同じ湿度が作用したときに、カバー樹脂56の吸湿による膨張の程度は、ベース樹脂52の膨張の程度よりも小さい。
【0026】
図8は、本実施形態のフレキシャ40を備えたサスペンション20について、一定の温度(40℃)のもとで、湿度が変化したときのピッチ角(Pitch Static Attitude)の変化を測定した結果である。ピッチ角は、図3に矢印Bで示す方向のスライダ21の傾きである。ベース樹脂52の吸湿膨張係数が10.7ppm/%RH、カバー樹脂56の吸湿膨張係数が8.0ppm/%RHである。ベース樹脂52とカバー樹脂56の吸湿膨張係数の差は2.7ppm/%RHである。図8に示されるように、本実施形態のフレキシャ40を備えたサスペンション20は、湿度が変化してもピッチ角がほとんど変化しないことが確認された。
【0027】
前記実施形態では、ベース樹脂52の吸湿膨張係数よりもカバー樹脂56の吸湿膨張係数の方が小さい。ベース樹脂52の少なくとも一部にベース金属50が積層されている。すなわちポリイミドと比較して剛性が大きいベース金属50にベース樹脂52が固定されているため、ベース樹脂52の吸湿による膨張がベース金属50によって抑制される。これに対しカバー樹脂56は、ベース金属50から厚み方向に離れており、しかも配線部51の最も外側に積層されているため、カバー樹脂56の吸湿による膨張は配線部51を反らせる原因となりやすい。
【0028】
しかし本実施形態では、カバー樹脂56の吸湿膨張係数がベース樹脂52の吸湿膨張係数よりも小さくなるように2種類のポリイミド(第1のポリイミドと第2のポリイミド)を組合わせたことにより、吸湿によって配線部51が反ることを抑制することができた。その結果、配線部51の反りがタング部41に影響することを抑制することができ、スライダ21のピッチ角の変化を小さくすることができた。なお、ベース樹脂52とカバー樹脂56の吸湿膨張係数の差が3ppm/%RHを越えると、湿度が変化したときにピッチ角の変化が大きくなり過ぎ、実用に適さないものとなった。よって、ベース樹脂52とカバー樹脂56の吸湿膨張係数の差は、3ppm/%RH以下であることが望まれる。
【0029】
図9は、比較例(従来例)のサスペンションについて、一定の温度(40℃)のもとで湿度を変化させたときのピッチ角の変化を測定した結果である。ベース樹脂は非感光性ポリイミドからなり、吸湿膨張係数は10.7ppm/%RHである。カバー樹脂は感光性ポリイミドからなり、吸湿膨張係数は55.0ppm/%RHである。ベース樹脂とカバー樹脂の吸湿膨張係数の差は44.3ppm/%RHである。図9に示されるように、比較例のサスペンションは、湿度が変化するとピッチ角が1度近くも変化してしまい、実用に適さないことが判った。
【0030】
前記比較例は、カバー樹脂の吸湿膨張係数の方がベース樹脂の吸湿膨張係数よりも大きい。ベース樹脂はベース金属に積層されているのに対し、カバー樹脂はベース金属から厚み方向に離れかつ配線部の最も外側に位置している。このため前記比較例は、ベース樹脂よりも吸湿膨張係数が大きいカバー樹脂が伸びたことにより、配線部51が反ってしまい、その影響がタング部41に及んでピッチ角が大きく変化してしまったものである。
【0031】
なお本発明を実施するに当たり、ベースプレートやロードビームをはじめとして、フレキシャを構成するベース金属や配線部、ベース樹脂、カバー樹脂、導体などを、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更して実施できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るサスペンションを備えたディスク装置の斜視図。
【図2】図1に示されたディスク装置の一部の断面図。
【図3】図1に示されたディスク装置に使用されるサスペンションの斜視図。
【図4】図3に示されたサスペンションのフレキシャの斜視図。
【図5】図4に示されたフレキシャの一部の軸線方向に沿う断面図。
【図6】図5中のF6−F6に沿うフレキシャの一部の断面図。
【図7】図5中のF7−F7に沿うフレキシャの一部の断面図。
【図8】図3に示されたサスペンションの湿度とピッチ角との関係を示す図。
【図9】従来のサスペンションの湿度とピッチ角との関係を示す図。
【符号の説明】
【0033】
10…ディスク装置
20…サスペンション
21…スライダ
30…ベースプレート
31…ロードビーム
40…フレキシャ
50…ベース金属
51…配線部
52…ベース樹脂
55a,55b…導体
56…カバー樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートと、
ロードビームと、
前記ロードビームに沿って配置されかつ先端部にスライダが設けられるフレキシャと、
を有するディスク装置用サスペンションにおいて、
前記フレキシャは、
ベース金属と、
前記ベース金属に沿って設けられて前記ロードビームの長手方向に延びかつ前記スライダに電気的に接続される配線部とを有し、
前記配線部が、
第1のポリイミドからなり少なくとも一部が前記ベース金属に積層されたベース樹脂と、
前記ベース樹脂上に積層された導体と、
第2のポリイミドからなり前記導体を覆うカバー樹脂とを具備し、かつ、
前記カバー樹脂の吸湿膨張係数が前記ベース樹脂の吸湿膨張係数よりも小さいことを特徴とするディスク装置用サスペンション。
【請求項2】
前記ベース樹脂の吸湿膨張係数と前記カバー樹脂の吸湿膨張係数との差が3ppm/%RH以下であることを特徴とする請求項1に記載のディスク装置用サスペンション。
【請求項3】
前記第1のポリイミドと前記第2のポリイミドがそれぞれ非感光性ポリイミドであることを特徴とする請求項2に記載のディスク装置用サスペンション。
【請求項4】
前記フレキシャが、前記ベース金属と前記配線部とが重なる部分と、前記配線部のみからなる部分とを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のディスク装置用サスペンション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−251121(P2008−251121A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94055(P2007−94055)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】