説明

ディスプレイを製造する方法

有機発光ディスプレイを製造する方法が、第1の電極層(106)と複数のウェルを画定するバンク構造(112)とを備える基板(102)を設け、第1の電極上に導電性有機層(108a)を堆積させ、導電性有機層上に有機発光層(108b)を堆積させ、有機発光層上に第2の電極(110)を堆積させることを含み、この方法において、ポリアニオンをドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む組成物をインクジェット印刷することによって導電性有機層が堆積させられ、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いてポリスチレン分子量標準に対して相対的に測定された30kDa以下の分子量をポリアニオンが有しており、組成物の粘度は10mPa・s以下であり、組成物の固形分は、組成物の量を基にして5重量%以下である。組成物は、随意の溶媒または他の添加剤を含んでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ディスプレイのような光電気デバイスを製造する方法と、光電気デバイスをインクジェット印刷するための組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
光電気デバイスの一種に、発光(または、光電池等の場合は検出)に有機材料を用いるものがある。これらのデバイスの基本構造は、例えばポリ(p−フェニレンビニレン)(「PPV」)またはポリフルオレンの膜のような発光有機層が、有機層に負電荷担体(電子)を注入するためのカソードと正電荷担体(正孔)を注入するためのアノードとに挟まれたものである。電子と正孔は、有機層で結合して光子を生成する。国際公開第90/13148号では、有機発光材料はポリマーである。米国特許第4,539,507号明細書では、有機発光材料は、(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(「Alq3」)のような、小分子材料として知られる種類のものである。実際のデバイスでは、一方の電極が透明であり、光子がデバイスから出られるようになっている。
【0003】
典型的な有機発光デバイス(organic light-emissive device、「OLED」)は、酸化インジウムスズ(「ITO」)のような透明なアノードで被覆されたガラスまたはプラスチックの基板上に製造される。この第1の電極を、少なくとも1つのエレクトロルミネッセンス有機材料の薄膜の層が覆う。最後に、エレクトロルミネッセンス有機材料の層をカソードが覆う。カソードは、典型的には金属または合金であり、アルミニウムのような単一の層、またはカルシウムおよびアルミニウムのような複数の層で構成され得る。
【0004】
動作時は、正孔がアノードを通じてデバイスに注入され、電子がカソードを通じてデバイスに注入される。正孔と電子は有機エレクトロルミネッセンス層で結合して励起子を形成し、続いて励起子は放射性崩壊をして光を発する(光検出デバイスでは、この過程が本質的に逆に進む)。
【0005】
これらのデバイスは、ディスプレイにとって大きな可能性を有する。ところが、いくつかの重大な問題が存在する。1つは、デバイスを効率的にすること、特にその外部出力効率および外部量子効率の尺度でみて効率的にすることである。もう1つは、ピーク効率が得られる電圧を最適化(例えば低減)することである。もう1つは、デバイスの電圧特性を経時的に安定化させることである。もう1つは、デバイスの寿命を延ばすことである。
【0006】
この目的に向けて、これらの問題のうちの1つ以上を解決するために、上記の基本デバイス構造に対して数多くの変更が加えられた。
【0007】
そのような変更の1つが、発光有機層と一方の電極との間に導電性ポリマーの層を設けることである。このような導電性ポリマー層を設けることにより、デバイスのターンオン電圧、低電圧におけるデバイスの輝度、効率、寿命、および安定性を向上させられることが分かった。これらの利益を達成するため、これらの導電性ポリマー層は、典型的には106Ω/sq.より低いシート抵抗を有してよく、導電率はポリマー層のドーピングによって制御可能である。デバイス構成によっては、高すぎる導電率を有しないことが有利な場合がある。例えば、複数の電極がデバイスに設けられているが導電性ポリマーの唯一の連続層が全電極に延びている場合、導電率が高すぎると、電極間における横方向の導通(「クロストーク」として知られる)および短絡につながりかねない。
【0008】
導電性ポリマー層は、正孔または電子の注入に役立つように、および/または正孔または電子を遮るように、好適な仕事関数を有するよう選択されてもよい。このように、鍵となる電気的特徴が2つある。すなわち、導電性ポリマー組成物全体の導電率と、導電性ポリマー組成物の仕事関数である。組成物の安定性やデバイス内の他の組成物との反応性も、許容可能な寿命を実際のデバイスにもたらす上で重要になる。また、組成物の加工性は、製造を容易にするために重要になる。
【0009】
導電性ポリマー調合物は、本出願人の先の出願である英国特許出願第0428444.4(A)号明細書において論じられている。現在、これらのデバイスの発光層および導電性ポリマー層の両方で用いられる有機調合物を最適化する必要性がある。
【0010】
OLEDは、特に有利な形態の電気光学ディスプレイを提供できる。それらのディスプレイは、明るく、色彩豊かで、高速スイッチングが可能であり、広い視野角を提供し、多様な基板で容易かつ安価に製造できる。有機(ここでは有機金属系を含む)LEDは、使用される材料に応じて、さまざまな色で(または多色型ディスプレイで)、ポリマーまたは小分子のいずれかを用いて製造され得る。前述したように、典型的なOLEDデバイスは2層の有機材料を備え、その一方は、発光ポリマー(LEP)、オリゴマー、または発光低分子量材料のような発光材料の層であり、他方は、導電性ポリマー層、例えばポリチオフェン誘導体またはポリアニリン誘導体のような正孔輸送材料の層である。
【0011】
有機LEDは、画素のマトリクスという形で基板上に堆積させられて、単色または多色画素型ディスプレイを構成し得る。多色型ディスプレイは、赤、緑、および青の発光画素群を用いて構成されてよい。いわゆるアクティブマトリクスディスプレイは、各画素と関連付けられた、典型的には記憶キャパシタおよびトランジスタであるメモリ素子を有するが、これに対して、パッシブマトリクスディスプレイはそのようなメモリ素子を持たず、その代わり、安定した画像という印象を与えるために、繰り返し走査される。
【0012】
図1は、OLEDデバイス100の例の縦断面を示す図である。アクティブマトリクスディスプレイでは、画素の領域の一部が、関連する駆動回路(図1には図示しない)によって占められる。説明の目的上、デバイスの構造は幾分単純化してある。
【0013】
OLED100は、基板102を備える。基板102は、典型的には0.7mmまたは1.1mmのガラスだが、透明なプラスチックとすることも随意であり、その上にはアノード層106が堆積させられている。アノード層は、典型的には厚さ約150nmのITO(インジウムスズ酸化物)で構成され、その上には金属接触層が設けられ、金属接触層は、典型的には約500nmのアルミニウムであり、アノード金属と呼ばれることがある。ITOと接触金属とで被覆されたガラス基板は、米国コーニング社から購入可能である。接触金属(および随意にITO)は、フォトリソグラフィおよびそれに続くエッチング、という従来の工程により、ディスプレイを覆うことがないように必要に応じてパターン形成される。
【0014】
アノード金属上には、実質的に透明な正孔輸送層108aが設けられ、続けてエレクトロルミネッセンス層108bが設けられる。また、例えばポジ型またはネガ型のフォトレジスト材料から、基板上にバンク112を形成し、例えば液滴堆積またはインクジェット印刷の技術によって、これらの活性有機層が選択的に堆積させられ得るウェル114を画定するようにしてもよい。こうしてウェルは、ディスプレイの発光領域、すなわち画素を画定する。ウェルの代替として、活性有機層が選択的に堆積させられ得る別の種類の開口を形成するように、フォトレジストをパターン形成してもよい。特に、フォトレジストをパターン形成してチャネルを形成し、チャネルが、ウェルとは異なり、複数の画素にわたって延び、チャネル端において閉じ、または開き得るようにしてよい。
【0015】
次に、カソード層110が、例えば物理蒸着によって付けられる。カソード層は、典型的には、より厚いアルミニウムのキャップ層で覆われた、カルシウムまたはバリウムのような低仕事関数金属で構成され、電子のエネルギー準位の整合を向上させるため、フッ化リチウムの層のような、エレクトロルミネッセンス層に直接隣接する付加的な層を随意に含む。カソードは透明でもよい。これは、基板を通した発光が、発光画素の下に位置する駆動回路によって部分的に遮られるアクティブマトリクスデバイスにとって、特に好ましい。透明カソードデバイスの場合、アノードが必ずしも透明でないことは認められるであろう。パッシブマトリクスディスプレイの場合、カソード線の相互の電気的な隔離は、カソードセパレータ(図3bの要素302)を用いて実現してよい。典型的には、いくつかのディスプレイが単一の基板上に製造され、製造工程の最後に基板がけがかれて、ディスプレイが分離される。酸化と水分侵入を防止するために、ガラス板または金属缶のような封止材が利用される。
【0016】
この一般的な種類の有機LEDは、ポリマーと、デンドリマーと、いわゆる小分子とを含むさまざまな材料を用いて製造され得、さまざまな駆動電圧および効率でさまざまな波長にわたって発光する。ポリマー系OLED材料の例は、国際公開第90/13148号、国際公開第95/06400号、および国際公開第99/48160号に記載され、デンドリマー系材料の例は、国際公開第99/21935号および国際公開第02/067343号に記載され、小分子OLED材料の例は、米国特許第4,539,507号明細書に記載されている。上記のポリマー、デンドリマー、および小分子は、一重項励起子の放射性崩壊(蛍光)によって発光する。しかし、励起子の75%までは、通常は非放射性の崩壊をする、三重項励起子である。三重項励起子の放射性崩壊によるエレクトロルミネッセンス(燐光)は、例えば"Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence," M. A. Baldo, S. Lamansky, P. E. Burrows, M. E. Thompson, and S. R. Forrest, Applied Physics Letters, Vol. 75(1) pp.4-6, July 5, 1999に開示されている。ポリマー系OLEDの場合、層108は、正孔注入層108aと、発光ポリマー(LEP)エレクトロルミネッセンス層108bとで構成される。エレクトロルミネッセンス層は、例えば(乾燥)厚さ約70nmのPPV(ポリ(p−フェニレンビニレン))を含んでよく、また、正孔注入層は、アノード層およびエレクトロルミネッセンス層の正孔のエネルギー準位を整合させる働きをするのであるが、正孔注入層は、例えば(乾燥)厚さ約50〜200nm、好ましくは約150nmのPEDOT:PSS(ポリスチレンスルホン酸をドープされたポリエチレンジオキシチオフェン)を含んでよい。
【0017】
図2は、活性カラー層の1つの堆積後の3色アクティブマトリクス画素型OLEDディスプレイ200の一部を上から(すなわち、基板を通してではなく)見た様子を示す図である。この図は、ディスプレイの画素を画定するバンク112とウェル114との配列を示す。
【0018】
図3aは、パッシブマトリクスOLEDディスプレイをインクジェット印刷するための基板300の上面図を示す。図3bは、図3aの基板を線Y−Y’に沿って切った断面を示す図である。
【0019】
図3aおよび図3bを参照すると、基板には、(領域304に堆積させられる)隣接するカソード線を分離するために、複数のカソードアンダーカットセパレータ302が設けられる。複数のウェル308がバンク310によって画定され、バンク310は、各ウェル308の周囲に作られ、ウェルの底部にアノード層306を露出させている。バンクの縁または面は、図示のように基板の表面にかけて薄くなっており、従来、その角度は10度ないし40度である。バンクは疎水性表面を呈しており、それによって、堆積させられた有機材料の溶液によってバンクがぬれず、堆積させられた材料をウェル内に閉じ込めるのを助けるようになっている。これは、欧州特許第0989778号明細書に開示されたように、ポリイミドのようなバンク材料をO2/CF4プラズマで処理することによって達成される。あるいは、国際公開第03/083960号に開示されたように、フッ素化ポリイミドのようなフッ素化材料を用いることによって、プラズマ処理ステップを回避してもよい。
【0020】
前述したように、バンク構造およびセパレータ構造は、例えばポジ型(またはネガ型)レジストをバンクに用い、ネガ型(またはポジ型)レジストをセパレータに用いて、レジスト材料から形成されてよい。これらのレジストが両方とも、ポリイミド系で、基板にスピンコートされてもよいし、フッ素化フォトレジストもしくはフッ素化状のフォトレジストが用いられてもよい。図示の例では、カソードセパレータは、高さ約5μm、幅約20μmである。バンクは通常、幅20μmないし100μmであり、図示の例では、各縁に4μmのテーパーを有する(従って、バンクは高さ約1μmである)。図3aの画素はおよそ300μm四方であるが、後述するように、画素の大きさは、用途に応じて相当に変更可能である。
【0021】
インクジェット印刷技術を用いた有機発光ダイオード(organic light emitting diode、OLED)の材料の堆積については、いくつかの文書に記載されている。例えば、Y. Yang, "Review of Recent Progress on Polymer Electroluminescent Devices," SPIE Photonics West: Optoelectronics '98, Conf. 3279, San Jose, Jan., 1998、欧州特許第0880303号明細書、および"Ink-Jet Printing of Polymer Light-Emitting Devices," Paul C. Duineveld, Margreet M. de Kok, Michael Buechel, Aad H. Sempel, Kees A. H. Mutsaers, Peter van de Weijer, Ivo G. J. Camps, Ton J. M. van den Biggelaar, Jan-Eric J. M. Rubingh and Eliav I. Haskal, Organic Light-Emitting Materials and Devices V, Zakya H. Kafafi, Editor, Proceedings of SPIE Vol. 4464 (2002)などである。インクジェット技術を用いて、小分子LEDおよびポリマーLEDの両方の材料を堆積させることができる。
【0022】
分子電子材料を0.5%ないし4%の溶解物質とともに堆積させるには、一般に揮発性溶媒が用いられる。こうすると乾燥するのに数秒から数分かかる場合があり、当初の「インク」量と比べて比較的薄い膜が生じる。乾燥材料の厚みを十分なものにするため、好ましくは乾燥が始まる前に、しばしば複数の液滴が堆積させられる。使用されてきた典型的な溶媒は、シクロヘキシルベンゼンおよびアルキル化ベンゼンなどで、特にはトルエンまたはキシレンであり、他のものは、国際公開第00/59267号、国際公開第01/16251号、および国際公開第02/18513号に記載されている。また、これらの混合物を含む溶媒が用いられる場合もある。米国カリフォルニア州のライトレックス社(Litrex Corporation)製の機械のような精密インクジェットプリンタが使用され、好適なプリントヘッドは、英国ケンブリッジのザール社(Xaar)および米国ニューハンプシャー州のスペクトラ社(Spectra, Inc.)から入手できる。特に有利ないくつかの印刷手順が、2002年11月28日に出願された本出願人の英国特許出願第0227778.8号明細書に記載されている。
【0023】
インクジェット印刷をOLEDディスプレイの正孔伝導層およびエレクトロルミネッセンス層の画定に用いることの実現性は、十分に実証されている。インクジェット印刷に対する格別の動機は、高価な製品個別の工作機械を必要とせずに、拡張性と適合性のある製造工程を開発して大きな基板寸法を処理できるようにする、という見通しに後押しされたものである。
【0024】
近年、電子材料を堆積させるためのインクジェット印刷の開発がますます活発になってきている。特に、10数社のディスプレイ製造業者により、OLEDデバイスの正孔伝導(hole conduction、HC)層およびエレクトロルミネッセンス層の両方のインクジェット印刷が実証されている。
【0025】
正孔伝導/正孔注入層のインクジェット印刷は、典型的にはPEDOT:PSSを含む組成物の使用を伴う。そのような組成物は、独国レバークーゼンのH.C.スタルク社からバイトロンP(Baytron P)という商標で個別に市販されている。水溶液において、PEDOTは比較的不溶解性であるが、PSSは比較的溶解性である。市販の組成物には、その電気的な膜抵抗率を増すために付加的なPSSが追加されてよい。例えば、国際公開第2006/123167号では、エレクトロルミネッセンス材料または電荷輸送材料と高沸点溶媒とを含むインクジェット印刷用組成物が提供されている。これらの組成物は、グリセロール30%および水69%を、30または40:1のPSS:PEDOT調合物の固形分1%とともに含む。しかしながら、そのような高いPSSレベルは製造されるデバイスの寿命に悪影響を及ぼしがちなので、より少ない量のPSSを用いることが好ましい。この種のインクジェット用組成物の欠点は、固形分が比較的低く大幅に増やすことができない、ということである。高固形分を有する組成物は高い粘度を有する傾向があり、このため、インクジェット印刷を用いてこれらの組成物を堆積させるのが困難または不可能になる。比較的低い固形分のインクジェット印刷用組成物における問題は、エレクトロルミネッセンスデバイス用に十分な厚さの層を実現するのが困難である、ということである。実際には、そのようなデバイスをインクジェット印刷によって製造しようとする場合、電荷輸送有機層は、2回以上のプリンタヘッド走行で堆積させられなければならない。このことは、層の品質に劇的な影響を及ぼしかねない。なぜならば、複数回の走行での堆積は、不均一な層を生じる傾向があるからである。ひいては、これによりデバイス性能が低くなる。なぜならば、電荷輸送有機材料の層における不均一によって、その上の有機発光層に不均一が生じるからである。
【0026】
従って、従来技術の欠点に悩まされない、光電気デバイスをインクジェット印刷するための改良された組成物の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0027】
第1の態様によれば、本発明は、光電気デバイスをインクジェット印刷するための組成物であって、ポリアニオンをドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む電荷輸送有機材料を含む組成物において、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いてポリスチレン分子量標準に対して相対的に測定された70kDaより小さな分子量をポリアニオンが有する組成物を提供する。
【0028】
以下、本発明は、PEDT:PSSに関してさらに説明されるが、任意の好適なポリアニオンがPSSの代わりに用いられ得ることは認められるであろう。
【0029】
従来の市販のPSSよりも低い分子量をもつPSSの使用が、電荷輸送有機層で用いられ得ること、そしてデバイス性能に対する悪影響なしにインクジェット印刷用組成物の粘度を低減する効果を有することが分かった。この結果、従来想定されたよりも高い固形分で組成物をインクジェット印刷により堆積させることが可能になる。こうして、プリントヘッドを複数回走行させる必要が回避される。
【0030】
本出願人は、PEDOTにおける膜不均一性の問題が、デバイス性能にとって、特にELデバイス性能にとって非常に重要であることを見いだした。デバイス性能が、PEDOT膜の厚さに著しく直接影響されることはないかもしれない。しかし、PEDOT膜の均一性は、上位のエレクトロルミネッセンス層の均一性に影響を及ぼす。EL層は厚さの変化に非常に敏感である。従って、本出願人は、均一なEL断面を実現するためにPEDOT断面の均一な膜が実現されることが最重要である、ということを見いだした。
【0031】
市販のPEDOT:PSSにおけるPSSは、約500kDaの分子量を有する傾向がある。これに対して、本発明に従って用いられるPSSは、70kDaより低い分子量、好ましくは40kDaより低い分子量、最も好ましくは30kDaより低い分子量を有する。本明細書に記載された例において、PSS分子量は、およそ27.3kDaである。
【0032】
PEDOT:対イオン組成物中に存在するPSS対イオンの量は、少なくともPEDOTの電荷と釣り合うのに十分であり、PEDOT:対イオン比は、1:2.5ないし1:18の範囲、より好ましくは1:6ないし1:10の範囲にあってよい。40kDaよりも低い分子量を有するPSSは、単独で用いられてもよいし、より高い分子量のPSSとの混合で用いられてもよい。例えば、PSS分子量が70kDaの1:6のPEDOT:PSS組成物は、1:10のPEDOT:PSSの全体的な重量比をもつ組成物を生じるために、40kDaより低い分子量を有する、ある量のPSSと混合することができる。
【0033】
膜の横方向の抵抗率は、通常は10Ω・cmないし5000Ω・cmであり、好ましくは1000Ω・cmを超えない。
【0034】
本発明の組成物は、溶媒をさらに含む。溶媒は、好ましくは互いに混和できる1つ以上の溶媒でよいが、溶媒が有機材料を溶解してもよいし、溶媒と有機材料とが一緒に分散を形成してもよい。例えば、PEDOT/PSSの水性組成物は、分散形態にある。好ましくは、溶媒は、水と1つ以上の有機溶媒とを典型的に含む水性溶媒である。国際公開第2006/123167号は、本発明で使用できる溶媒の例を提供している。この構成によれば、水より高い沸点を有する高沸点溶媒が提供される。高沸点溶媒の提供により、組成物の乾燥時間が長くなり、その結果、より対称的な膜形成で乾燥がより均一になる。
【0035】
好ましくは、高沸点溶媒は、10体積%ないし50体積%、20体積%ないし40体積%、または約30体積%の割合で組成物中に存在する。好ましくは、溶媒の沸点は、110℃ないし400℃、150℃ないし250℃、または170℃ないし230℃である。
【0036】
高沸点溶媒は、エチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、およびジメチルスルホキシドのうちの1つ以上を含んでよい。これらの溶媒成分は、単独または混合で供給されてよい。高沸点溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、またはグリセロールのような、ポリオールであることが好ましい。
【0037】
小さな画素の場合、通常はより高い固形分が用いられる。より大きな画素の場合は、より低い固形分が用いられる。より大きな画素の場合、良好な膜形成特性を得るために組成物の濃度が下げられる。典型的な固形分は、組成物の量を基にして、0.1重量%ないし5重量%、好ましくは0.4重量%ないし2.5重量%である。
【0038】
溶媒の粘度が非常に高いと、組成物をインクジェット印刷するのが困難になる場合がある。組成物の粘度が高くなりすぎると、プリントヘッドを加熱しなければインクジェット印刷するのに適さなくなる。本発明の実施の形態は、組成物をインクジェット印刷するためにプリントヘッドを加熱する必要がないような粘度のものであることが好ましい。好ましくは、組成物の粘度は、12mPa・sを超えず、より好ましくは10mPa・sを超えない。
【0039】
さらに、溶媒とバンクの材料との接触角が大きすぎると、バンクが十分にぬれない場合がある。逆に、溶媒とバンクとの接触角が小さすぎると、バンクは組成物を閉じ込められず、その結果ウェルからあふれてしまう場合がある。
【0040】
このように、任意の高沸点溶媒を選択することにより、組成物のぬれ特性を変えることができる。例えば、組成物とバンクとの接触角が大きすぎると、乾燥時に膜が薄い縁を有し、その結果不均一な発光を生じる。あるいは、組成物とバンクとの接触角が小さすぎると、ウェルがあふれることになる。そのような構成では、乾燥時に導電性/半導電性の有機材料がバンク構造を覆うように堆積させられて、短絡の問題を引き起こしてしまう。
【0041】
好ましくは、組成物は、バンクをぬらすがウェルからあふれないように、バンクとの接触角を有するべきである。この構成であれば、乾燥時にコーヒーリング効果が生じて、縁が厚くなる。その結果、より均一な膜形態が得られて、完成したデバイスでより均一な発光を生じる。
【0042】
エレクトロルミネッセンス材料と導電性材料との接触角が高すぎると、導電性材料はエレクトロルミネッセンス材料に十分にぬれなくなる。
【0043】
あふれの問題に対する解決策の1つは、ウェルに適切に閉じ込められるように十分な接触角を有する高沸点溶媒を選択することである。逆に、バンクの不十分なぬれの問題に対する解決策の1つは、ウェルの基材との接触角が高くなく、かつバンクとの接触角が高すぎない高沸点溶媒を選択することである。
【0044】
不十分なぬれまたはあふれの問題は、ウェルがあふれることなく十分にぬれるように接触角を変更する好適な添加剤を加えることによって制御できる。そのような添加剤の提供により、より平らな膜形態も作ることができる。
【0045】
組成物の、ウェルをぬらす能力を高めるために、組成物に界面活性剤が加えられてよい。好適な界面活性剤は、2−ブトキシエタノールを含む。
【0046】
本発明の組成物がインクジェット印刷される場合、組成物は、インクジェットプリントヘッドからの組成物の漏れを避けるために、少なくとも35mN/mの表面張力を有するのが好ましい。
【0047】
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載された、光電気デバイスの製造において層をインクジェットするための組成物の使用が提供される。
【0048】
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載された組成物を用いて形成される光電気デバイスが提供される。
【0049】
本発明のさらに別の態様によれば、有機発光ディスプレイを製造する工程であって、第1の電極層と複数のウェルを画定するバンク構造とを備える基板を設け、第1の電極上に導電性有機層を堆積させ、導電性有機層上に有機発光層を堆積させ、有機発光層上に第2の電極を堆積させることを含む工程において、本明細書に記載された組成物を複数のウェルにインクジェット印刷することによって導電性有機層が堆積させられる工程が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
次に、本発明の実施の形態について、単に例として、添付の図面を参照して説明する。
【図1】OLEDデバイスの例の縦断面を示す図である。
【図2】3色画素型OLEDディスプレイの一部分の上面図を示す。
【図3a】パッシブマトリクスOLEDディスプレイの上面図を示す。
【図3b】パッシブマトリクスOLEDディスプレイの断面図を示す。
【図4a】本発明による組成物の2kHzにおける噴射方向性を示す図である。
【図4b】比較組成物の2kHzにおける噴射方向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
全体的なデバイス構造は、図1に示され、また上で説明してある。
デバイスは、水分および酸素の侵入を防ぐために封止材(図示せず)で封止されることが好ましい。好適な封止材としては、ガラス板や、例えば国際公開第01/81649号に開示されているようなポリマーと誘電体との交互の積み重ねなどの好適な障壁特性を有する膜、または、例えば国際公開第01/19142号に開示されているような気密容器などがある。基板または封止材を透過する恐れのある雰囲気中の水分および/または酸素を吸収するゲッター材料が、基板と封止材との間に配置されてもよい。
【0052】
電荷輸送および発光に好適なポリマーは、アリーレン繰り返し単位から選択された第1の繰り返し単位を含んでよく、アリーレン繰り返し単位としては、特に、J. Appl. Phys. 1996, 79, 934に開示されたような1,4−フェニレン繰り返し単位、欧州特許第0842208号明細書に開示されたようなフルオレン繰り返し単位、例えばMacromolecules 2000, 33(6), 2016-2020に開示されたようなインデノフルオレン繰り返し単位、例えば欧州特許第0707020号明細書に開示されたようなスピロフルオレン繰り返し単位がある。これらの繰り返し単位のそれぞれは、随意に置換される。置換基の例としては、C1〜C20のアルキルまたはアルコキシのような可溶化基、フッ素、ニトロ、またはシアノのような電子求引基、およびポリマーのガラス転移温度(Tg)を上昇させる置換基などがある。
【0053】
特に好ましいポリマーは、随意に置換された2,7−結合フルオレンを含み、最も好ましくは、以下の式の第1の繰り返し単位を含む。
【化1】

ただし、R1およびR2は、水素、または随意に置換されたアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、およびヘテロアリールアルキルから別々に選択される。より好ましくは、R1およびR2のうちの少なくとも一方が、随意に置換されたC4〜C20のアルキル基またはアリール基を含む。
【0054】
第1の繰り返し単位を含むポリマーは、それがデバイスのどの層で用いられるかと、共繰り返し単位(co-repeat unit)の性質とに応じて、正孔輸送、電子輸送、および発光のうちの1つ以上の機能を提供してよい。
【0055】
エレクトロルミネッセンス・コポリマーは、例えば国際公開第00/55927号および米国特許第6353083号明細書に開示されたように、エレクトロルミネッセンス領域と、正孔輸送領域および電子輸送領域のうちの少なくとも1つとを含んでよい。正孔輸送領域および電子輸送領域のうちの一方だけが設けられる場合は、エレクトロルミネッセンス領域が正孔輸送機能および電子輸送機能のうちの他方も提供してよい。
【0056】
このようなポリマー内の、それぞれの領域は、米国特許第6353083号明細書の通りポリマー骨格に沿って、または国際公開第01/62869号の通りポリマー骨格からぶら下がる基として、設けられてよい。
【0057】
層5を形成するために、単一のポリマーまたは複数のポリマーが溶液から堆積させられてよい。ポリアリーレン、特にポリフルオレンに好適な溶媒としては、トルエンやキシレンのようなモノアルキルベンゼンまたはポリアルキルベンゼンなどがある。特に好ましい溶液堆積技術は、スピンコーティングおよびインクジェット印刷である。
【0058】
インクジェット印刷は、情報量の高いディスプレイ、特にフルカラーディスプレイに、特に好適である。OLEDのインクジェット印刷は、例えば欧州特許第0880303号明細書に記載されている。
【0059】
場合によっては、デバイスの別個の層が異なる方法で形成されてよく、例えば、正孔注入層および/または正孔輸送層がスピンコーティングで形成され、発光層がインクジェット印刷で堆積させられてよい。
【0060】
デバイスの複数の層が溶液処理によって形成される場合、当業者は、隣接する層どうしが混ざり合うのを防ぐ技術に気付くであろう。これは例えば、ある層の架橋をしてから後続の層を堆積させたり、あるいは、隣接する層どうしの材料を、これらの層のうちの1番目を形成する材料が、2番目の層を堆積させるのに用いられる溶媒に溶解しないように選択したりすることによって行われる。
【0061】
従来技術には多くのホストが記載されており、それらには、Ikai et al.(Appl. Phys. Lett., 79 no. 2, 2001, 156)に開示された、CBPとして知られる4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニルおよびTCTAとして知られ
る(4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン)や、
MTDATAとして知られるトリス−4−(N−3−メチルフェニル−N−フェニル)フェニルアミンのようなトリアリールアミンなどの、「小分子」ホストが含まれる。また、ポリマーもホストとして知られており、特に、例えばAppl. Phys. Lett. 2000, 77(15), 2280に開示されたポリ(ビニルカルバゾール)、Synth. Met. 2001, 116, 379、Phys. Rev. B 2001, 63, 235206、およびAppl. Phys. Lett. 2003, 82(7), 1006に開示されたポリフルオレン、Adv. Mater. 1999, 11(4), 285に開示されたポリ[4−(N−4−ビニルベンジルオキシエチル,N−メチルアミノ)−N−(2,5−ジ−tert−ブチルフェニルナフタルイミド)]、およびJ. Mater. Chem. 2003, 13, 50-55に開示されたポリパラフェニレンのような、ホモポリマーが知られている。コポリマーも、ホストとして知られている。
【0062】
発光種は金属錯体でよい。金属錯体は、以下の式(22)の随意に置換された錯体で構成されてよい。
【化2】

ただし、Mは金属、L1、L2、およびL3はそれぞれ配位基、qは整数、rおよびsはそれぞれ独立に0または整数であり、(a・q)+(b・r)+(c・s)の合計はMで利用できる配位部位の数に等しい。ただし、aはL1の配位部位の数、bはL2の配位部位の数、cはL3の配位部位の数である。
【0063】
重元素Mは、強いスピン軌道結合を引き起こして、速い項間交差および三重項の状態からの発光(燐光)を可能にする。好適な重金属Mとしては、以下のものなどがある。
−セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ツリウム、エルビウム、ネオジムなどのランタニド金属、ならびに
−dブロック金属、特に2行目および3行目のもの、すなわち39番〜48番元素および72番〜80番元素であって、特にルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、および金。
fブロック金属に好適な配位基としては、カルボン酸、1,3−ジケトネート、ヒドロキシカルボン酸、アシルフェノールおよびイミノアシル基を含むシッフ塩基、のような酸素供与系または窒素供与系などがある。既知のように、発光ランタニド金属錯体は、金属イオンの第一励起状態より高い三重項励起エネルギー準位を有する増感基(または複数の増感基)を必要とする。発光は金属のf−f遷移から生じるので、発光色は金属の選択によって決定される。この鋭い発光は通常狭く、ディスプレイ用途に有用な純色の発光をもたらす。
【0064】
dブロック金属は、ポルフィリンまたは以下の式(VI)の二座配位子のような炭素供与体または窒素供与体をもつ、有機金属錯体を形成する。
【化3】

ただし、Ar4とAr5とは、同一でも異なってもよく、随意に置換されたアリールまたはヘテロアリールから独立して選択され、X1とY1とは、同一でも異なってもよく、炭素または窒素から独立して選択され、Ar4とAr5とは、縮合していてよい。X1が炭素でY1が窒素である配位子が特に好ましい。
【0065】
二座配位子の例を以下に示す。
【化4】

【0066】
Ar4およびAr5のそれぞれは、1つ以上の置換基を有してよい。特に好ましい置換基としては、国際公開第02/45466号、国際公開第02/44189号、米国特許出願公開第2002/117662号明細書、および米国特許出願公開第2002/182441号明細書に開示されたような、錯体の発光を青色シフトさせるのに用いられ得るフルオリンまたはトリフルオロメチル、特開2002−324679号公報に開示されたようなアルキル基またはアルコキシ基、国際公開第02/81448号に開示されたような、発光材料として用いられた時に錯体への正孔輸送を助けるのに用いられ得るカルバゾール、国際公開第02/68435号および欧州特許第1245659号明細書に開示されたような、さらなる基の付着のために配位子を官能化する働きをすることのできる臭素、塩素、またはヨウ素、国際公開第02/66552号に開示されたような、金属錯体の溶液処理性を獲得または増大するのに用いられ得るデンドロンなどがある。
【0067】
dブロック元素と共に用いられるのに好適な他の配位子としては、ジケトネート、特にアセチルアセトネート(acac)や、それぞれが置換され得るトリアリールホスフィンおよびピリジンなどがある。
【0068】
主族金属錯体は、配位子に基づいた発光、または電荷移動発光を示す。これらの錯体では、発光色は、金属だけでなく配位子の選択によっても決定される。
【0069】
ホスト材料と金属錯体とは、物理的混合の形で混合されてよい。あるいは、金属錯体がホスト材料に化学的に結合されてもよい。ポリマーホストの場合、例えば欧州特許第1245659号明細書、国際公開第02/31896号、国際公開第03/18653号、および国際公開第03/22908号に開示されたように、金属錯体は、ポリマー骨格に付着した置換基として化学的に結合されてもよいし、繰り返し単位としてポリマー骨格に組み込まれてもよいし、ポリマーの末端基として設けられてもよい。
【0070】
広範な蛍光性低分子量金属錯体が、知られており、また有機発光デバイスで実証されてきた(例えば、Macromol. Sym. 125 (1997) 1-48、米国特許第5,150,006(A)号明細書、米国特許第6,083,634(A)号明細書、および米国特許第5,432,014(A)号明細書を参照せよ)。二価または三価の金属に好適な配位子としては、例えば酸素−窒素供与性原子または酸素−酸素供与性原子、通常は置換酸素原子をもつ環窒素原子、または置換酸素原子をもつ置換窒素原子もしくは置換酸素原子、をもつオキシノイドで、例えば8−ヒドロキシキノレートおよびヒドロキシキノキサリノール−10−ヒドロキシベンゾ(h)キノリナト(II)のようなものや、ベンザゾール(III)、シッフ塩基、アゾインドール、クロモン誘導体、3−ヒドロキシフラボン、ならびに、例えばサリチラトアミノカルボキシレートおよびエステルカルボキシレートのようなカルボン酸などがある。随意の置換基としては、発光色を変え得る(ヘテロ)芳香環上の、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、シアノ、アミノ、アミド、スルホニル、カルボニル、アリール、またはヘテロアリールなどがある。
【0071】
[組成物形成手順]
本発明による例示的な組成物は、市販のバイトロンP VP AI4083(Baytron P VP AI4083)に27.3kDaの分子量を有する追加PSSを加えたものと、エチレングリコールと、アルコール・エーテル添加剤とを含む。
【0072】
[デバイス製造手順]
手順は、以下に概説されたステップに従う。
1)本発明によるPEDT/PSS組成物を、ガラス基板(米国コロラド州のアプライドフィルムズ社(Applied Films)から入手可能)に支持されたインジウムスズ酸化物上にスピンコーティングによって堆積させる。
2)正孔輸送ポリマーの層を、2重量/体積%の濃度を有するキシレン溶液からスピンコーティングによって堆積させる。
3)正孔輸送材料の層を不活性(窒素)環境で加熱する。
4)随意に、基板をキシレン中でスピン洗浄して、残留している可溶性の正孔輸送材料を除去する。
5)ホスト材料と有機燐光材料とを含む有機発光材料を、キシレン溶液からスピンコーティングによって堆積させる。
6)金属化合物/導電材料の二重層カソードを有機発光材料上に堆積させ、サエス・ゲッターズ社(SAES Getters S. p. A.)から入手可能な気密金属容器を用いてデバイスを封止する。
【0073】
[フルカラーディスプレイ製造手順]
フルカラーディスプレイは、欧州特許第0880303号明細書に記載された工程に従い、標準的なリソグラフィー技術を用いて赤色、緑色、および青色のサブ画素のためのウェルを形成し、PEDT/PSSを各サブ画素ウェルにインクジェット印刷し、正孔輸送材料をインクジェット印刷し、赤色、緑色、および青色のエレクトロルミネッセンス材料をそれぞれ赤色、緑色、および青色のサブ画素のためのウェルにインクジェット印刷することによって形成できる。ウェルへの印刷の代替手法として、例えばCarter et al, Proceedings of SPIE Vol. 4800, p.34に開示されたように、チャネルに印刷することによってディスプレイが形成されてもよい。
【実施例】
【0074】
[1.調合およびインク粘度]
以下に提示された調合物は、すべてH.C.スタルク社からバイトロンP AI4083(Baytron P AI4083)として市販されている1:6のPEDOT:PSS調合物を用いて作成された。
【0075】
バイトロンAI4083に70kDaの分子量を有する追加PSSを加えて作成された1:10のPEDOT:PSS調合物により、インク粘度は10mPa・sより大きくなる。これは噴射時の問題につながる。下の表1は、さまざまなインク調合物の粘度を示す。
【0076】
【表1】

【0077】
10mPa・sより低い粘度を実現するためには、低い分子量のPSSまたはより少ない量のグリセロールのいずれかが使用されてよい、ということが分かるであろう。グリセロールの量を減らすと、帯状になったり高いドーム状の膜になったりという問題の生じる場合がある。これらの問題は、より低い分子量のPSSでは起こらない。
【0078】
[2.噴射性能]
噴射性能は、ライトレックス80L型(Litrex 80L)プリンタにディマティックスSX3型(Dimatix SX3)ヘッド(128ノズル)を付けたものを用いて測定された。インクは、真空下で、インクをプリンタに入れる前に超音波処理を30分間用いて脱気された。ヘッドは、少なくとも10mlのインクを流されてから、試験前に1時間、平衡化のために放置された。液滴速度は、300マイクロメートルより短いリガメント長さ(ligament length)が得られるように調整され、この液滴速度にて、液滴方向性が周波数および時間の関数として測定された。
【0079】
2kHzにおける液滴方向性は、0分の時点および30分の連続噴射後に測定された。液滴方向性は、全ヘッドにわたって(128ノズルすべてについて)測定される。液滴方向性は、液滴位置を2時点で評価することにより測定され、その際、液滴画像は、ストロボとカメラのセットを用いて取得される。各測定値は、液滴10個の方向性の平均である。
【0080】
図4aは、0分および30分の両方における例1の組成物の噴射方向性を示す。方向性が優秀であり、事実上すべてのノズルが時間=0分および30分後の両方において±10ミリラジアンの非常に狭い窓の中に印刷していることが分かる。
【0081】
図4bは、比較例1の組成物の噴射方向性を示す。方向性が弱く、窓に入らないデータ点がt=0分および30分の両方において生じていることが分かる。
【0082】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光ディスプレイを製造する方法であって、
第1の電極層と複数のウェルを画定するバンク構造とを備える基板を設け、
前記第1の電極上に導電性有機層を堆積させ、
前記導電性有機層上に有機発光層を堆積させ、
前記有機発光層上に第2の電極を堆積させる
ことを含む方法において、
ポリアニオンをドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む組成物をインクジェット印刷することによって前記導電性有機層が堆積させられ、
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いてポリスチレン分子量標準に対して相対的に測定された70kDaより小さな分子量を前記ポリアニオンが有する方法。
【請求項2】
前記ポリアニオンの分子量が30kDa以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物の粘度が10mPa・s以下である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物の固形分が、前記組成物の量を基にして5重量%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記組成物の固形分が、前記組成物の量を基にして0.1重量%ないし3重量%の範囲にある請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸(PSS)である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
PEDOT:PSSの重量比が1:2.5ないし1:40の範囲にある請求項6に記載の方法。
【請求項8】
PEDOT:PSSの重量比が1:6ないし1:18の範囲にある請求項7に記載の方法。
【請求項9】
光電気デバイスをインクジェット印刷するのに用いられる組成物であって、ポリアニオンをドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む電荷輸送有機材料を含む組成物において、
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いてポリスチレン分子量標準に対して相対的に測定された70kDaより小さな分子量を前記ポリアニオンが有する組成物。
【請求項10】
前記ポリアニオンの分子量が30kDa以下である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
10mPa・s以下の粘度を有する請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の固形分が、前記組成物の量を基にして最大5重量%までである請求項9ないし11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
固形分が、前記組成物の量を基にして0.1重量%ないし3重量%の範囲にある請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸(PSS)である請求項9ないし13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
PEDOT:PSSの重量比が1:6ないし1:18の範囲にある請求項14に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2012−501044(P2012−501044A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523449(P2011−523449)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002037
【国際公開番号】WO2010/020784
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】