説明

ディッピング成形用組成物及び溶剤ペースト

【課題】 本発明は、特にガスバリア性に優れ、かつ耐油性・柔軟性に優れるディッピング成形用組成物及び溶剤ペーストを提供することにある。
【解決手段】 イソブチレン系ブロック共重合体に、必要に応じて、粘度調整用に水添及び/または部分水添共重合体を、必要に応じて柔軟性付与剤として非芳香族系ゴム用軟化剤を、さらに必要に応じて柔軟性付与剤として石油樹脂を配合したものを、工業用キシロールに、固形分が約20〜55重量%(25℃粘度が500〜3500mPa・s)になるように溶解したものは、手袋をはじめとするディッピング成形が可能で、得られた成形品は、柔軟性、耐油性、ガスバリア性、絶縁特性に優れる熱可塑性樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にガスバリア性に優れ、かつ耐油性・柔軟性に優れるディッピング成形用組成物及び溶剤ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビニル/フタル酸可塑剤系やポリウレタン/有機溶剤系のペーストの熱処理から得られる成形品のひとつに手袋があるが、これらの成形品は、耐油性や耐摩耗性には優れているものの、体積抵抗率が1012〜1013[Ω・cm]であるため、絶縁特性に劣り、200V以下で使用せざるを得ない状況であった。
【0003】
また、天然ゴムラテックスから得られる手袋は絶縁特性には優れるものの、皮膚へのアレルギー問題や、ゴム臭気、ゴワゴワ感があり、細かい作業や長時間の作業には耐えられず、原因となると考えられる天然ゴムに含まれる蛋白質量を減らすために、−OH基を有する微粒子をゴムラテックスに含有させたり(例えば、特許文献1参照。)、プロテアーゼを添加させたり(例えば、特許文献2参照。)しているが、未だ満足な結果が得られず、追加の工程を必要とするという問題を有するという状況にある。
【0004】
水蒸気のガスバリア性は、高湿下での電設作業に要求される。従来は天然ゴムの素材が用いられていた。しかし、水蒸気バリア性が悪く作業時間に応じて耐絶縁性が低下するという問題があった。
溶剤使用時に、蒸気が手袋を通過し、手が被れる問題があったが、この症状を防御もしくは緩和するために溶剤(ベンゼン、シンナー、トルエン、キシロール、MEK、DMFなど)のガスバリア性が必要であった。
このようにガスバリア性と絶縁性、耐油性、耐摩耗性、無臭あるいは低臭、無あるいは低アレルギー性の全てを満足するものはなかった。
【特許文献1】特開2002−348712号公報
【特許文献2】特開2004−107483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特に、ガスバリア性に優れ、かつ耐油性・柔軟性に優れるディッピング成形用組成物、溶剤及び溶剤ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、
(a)イソブチレン系化合物ブロック及び芳香族ビニル系化合物ブロックから構成されるイソブチレン系ブロック共重合体を含有することを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0007】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(a)100重量部に対し、(b)水添及び/または部分水添共重合体1〜80重量部を含むことを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0008】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、(a)100重量部に対し、(c)非芳香族系ゴム用軟化剤1〜100重量部を含むことを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0009】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜第3いずれかの発明において、(a)100重量部に対し、(d)石油樹脂1〜50重量部を含むことを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜第4いずれかの発明におけるディッピング成形用組成物100重量部を溶剤80〜400重量部に溶解して得られるディッピング成形用溶剤ペーストが提供される。
【0011】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜第5いずれかの発明において、JIS K 6258に準拠し、流動パラフィンを使用した50℃×24時間での耐油性(体積変化率)が30%以下であることを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜第6いずれかの発明において、JIS K 7126 A法(差圧法)に準拠し、0.5mm厚ディッピング成形シートを用い、測定前に25℃で約6時間放置後の25℃における酸素に対するガスバリア性が6×10-15mol・m/m2・s・Pa以下であることを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜第7いずれかの発明において、JIS K 7126 A法(差圧法)に準拠し、0.5mm厚ディッピング成形シートを用い、測定前に25℃で約6時間放置後の25℃における二酸化炭素に対するガスバリア性が6×10-15mol・m/m2・s・Pa以下であることを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜第8いずれかの発明において、JIS K 7129 A法(感湿センサー法)に準拠し、0.5mm厚ディッピング成形シートを用い、測定前に40℃×90%RHで約170時間放置後の40℃×90%RHの条件における水蒸気に対するガスバリア性が2g/m2・24時間以下であることを特徴とするディッピング成形用組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜第9いずれかの発明において、ガスバリア用ディッピング成形用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のディッピング成形用熱可塑性エラストマー組成物及び溶剤ペーストは、ディッピング成形用として最適であり、特にガスバリア性に優れ、かつ耐油性・柔軟性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の樹脂組成物の各成分について説明する。
ガスバリア性・耐油性・柔軟性に優れるディッピング成形用熱可塑性エラストマー組成物及び溶剤ペーストの構成成分
(a)イソブチレン系化合物ブロック及び芳香族ビニル系化合物ブロックから構成されるイソブチレン系ブロック共重合体
【0018】
本発明で使用されるイソブチレン系ブロック共重合体は、イソブチレンを主体とするユニットと芳香族ビニル化合物を主体とするユニットを有しているものであれば、いずれの構造を有するものも使用可能であるが、物性のバランスと合成の簡便さから、(芳香族ビニル化合物を主体とするユニットとイソブチレンを主体とするユニットと芳香族ビニル化合物を主体とするユニット)の構造を有するトリブロック体、(イソブチレンを主体とするユニット−芳香族ビニル化合物を主体とするユニット)の構造を有するジブロック体、またはこれらの混合物を用いることができる。ブロック共重合体のイソブチレンを主体とするユニットと芳香族ビニル化合物を主体とするユニットの割合に特に制限はないが、物性のバランスから、イソブチレンを主体とする単量体95〜20重量%と芳香族ビニル化合物を主体とする単量体5〜80重量%が好ましく、さらにイソブチレンを主体とする単量体90〜60重量%と芳香族ビニル化合物を主体とする単量体10〜40重量%が好ましい。
【0019】
イソブチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量は、特に制限はないが、40,000〜500,000が好ましく、60,000〜400,000が特に好ましい。重量平均分子量が40,000未満の場合、機械特性が低下、また、500,000を超える場合、成形性が悪化する。
【0020】
上記芳香族ビニル系重合体ブロックで用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン等が挙げられる。上記化合物の中でもコストと物性及び生産性のバランスからスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンが好ましく、その中から2種以上選んでもよい。
【0021】
イソブチレン系ブロック共重合体の具体例としては、鐘淵化学(株)製の103T(数平均分子量=92,000、重量平均分子量=100,000)又は073T(数平均分子量=60,000、重量平均分子量=65,000)等を挙げることができる。
【0022】
必要に応じて添加する成分(b)水添及び/または部分水添共重合体は、増粘剤(粘度調整剤)として機能する。
成分(b)としては、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物及び/または部分水添物、共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物及び/または部分水添物、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ランダム共重合体の水添物及び/または部分水添物等を挙げることができる。これらの中では、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物及び/または部分水添物、共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物及び/または部分水添物が好ましい。
【0023】
上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物及び/または部分水添物としては、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の水素添加物及び/又は部分水素添加物を挙げることができる。
芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の水素添加物及び/又は部分水素添加物成分は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも1個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる重合体である。例えば、A−B、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体を水素添加して得られるものである。
【0024】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体か、芳香族ビニル化合物と50重量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のみからなる重合体か、共役ジエン化合物と50重量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0025】
芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、なかでもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、なかでもブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。
【0026】
芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の水素添加物及び/又は部分水素添加物成分は、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおいて、その水素添加率は任意であるが、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。また、そのミクロ構造は、任意であり、例えば、ブロックBがブタジエン単独で構成される場合、ポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは25〜45重量%である。また、1,2−ミクロ構造を選択的に水素添加した物であっても良い。ブロックBがイソプレンとブタジエンの混合物から構成される場合、1,2−ミクロ構造が好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、より更に好ましくは15%未満である。
【0027】
ブロックBがイソプレン単独で構成される場合、ポリイソプレンブロックにおいてはイソプレンの好ましくは70〜100重量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の好ましくは少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0028】
また、重合体ブロックAは、成分全体の5〜70重量%の割合で存在するのが好ましい。さらに、成分全体の重量平均分子量は、350,000以下であり、好ましくは30,000〜250,000である。重量平均分子量が350,000を超えると、成形性が悪化する。
【0029】
芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物及び/または部分水添物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブテン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の部分水添物、SBBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体の部分水添物、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体の部分水添物等を挙げることができる。本発明においては、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物及び/又は部分水素添加物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
これらの芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加して得られるブロック共重合体の製造方法としては、数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒又はチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合させて得ることができる。このようなブロック共重合体の水素添加処理は、公知の方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に行うことができる。
【0031】
また、上記共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物としては、例えば、ブタジエンのブロック共重合体を水素添加して得られる結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン−ブテンブロックを有するブロック共重合体(CEBC)、ブタジエンのブロック共重合体を水素添加して得られる結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン−ブテンブロックと芳香族ビニル化合物から成るブロックを有するブロック共重合体(SEBC)等が挙げられる。本発明においては、水添共役ジエン化合物ブロック共重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この共役ジエン化合物系ブロック共重合体の水添物の重量平均分子量は、好ましくは350,000以下であり、より好ましくは30,000〜250,000である。重量平均分子量が350,000を超えると、成形性が悪化する。
【0032】
さらに、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物系ランダム共重合体の水添物としては、例えば、芳香族ビニル化合物(スチレン)と共役ジエン化合物(ブタジエン)を主体とするランダム共重合体の水素添加物(H−SBR)が挙げられ、具体的な市販品としては、例えば、JSR(株)製のダイナロン1320P(商品名)が挙げられる。
【0033】
成分(b)の配合量は、添加する場合は成分(a)100重量部に対して1〜80重量部、好ましくは3〜50重量部である。前記上限値を超えると耐油性、ガスバリア性が悪化する同時に、粘度が高くなりすぎ、成形加工性が悪化する。 前記下限値未満ではキシロール、MEK、DMFなどの溶剤でペーストにした時に、添加効果(増粘効果、気泡生成抑制効果、均一膜厚形成効果)が充分でない。
【0034】
必要に応じて添加する成分(c)非芳香族系ゴム用軟化剤は、軟化剤として機能し、より柔軟性が必要なA硬度60以下、好ましくは50以下の用途に用いられる場合に添加される。
成分(c)としては、非芳香族系の鉱物油又は液状、若しくは、低分子量の合成軟化剤が挙げられる。一般にゴム用鉱物油軟化剤は、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖を組み合わせた混合物であって、飽和炭化水素鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものをパラフィン系、ナフテン環炭素数が30〜40%を占めるものをナフテン系、芳香族炭素数が30%以上を占めるものを芳香族系と呼び区別されている。本発明で用いられるゴム用鉱物油軟化剤は、上記のパラフィン系及びナフテン系が好ましい。芳香族系の軟化剤は、分散性が悪く好ましくない。
非芳香族炭化水素系ゴム用軟化剤として、パラフィン系の鉱物油軟化剤が特に好ましく、パラフィン系のなかでも芳香族環成分の少ないものが特に適している。
【0035】
パラフィン系軟化剤を構成している化合物としては、例えば、炭素数4〜155のパラフィン系化合物、好ましくは炭素数4〜50のパラフィン系化合物が挙げられ、具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンエイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサコンタン、ヘプタコンタン等のn−パラフィン(直鎖状飽和炭化水素)、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン、イソペンタン、ネオヘキサン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、3−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、イソノナン、2−メチルノナン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソオクタデカン、イソナノデカン、イソエイコサン、4−エチル−5−メチルオクタン等のイソパラフィン(分岐状飽和炭化水素)及び、これらの飽和炭化水素の誘導体等を挙げることができる。これらのパラフィンは、混合物で用いられ、室温で液状であるものが好ましい。
【0036】
室温で液状であるパラフィン系軟化剤の市販品としては、日本油脂株式会社製のNAソルベント(イソパラフィン系炭化水素油)、出光興産株式会社製のPW−90(n−パラフィン系プロセスオイル)、出光石油化学株式会社製のIP−ソルベント2835(合成イソパラフィン系炭化水素、99.8重量%以上のイソパラフィン)、三光化学工業株式会社製のネオチオゾール(n−パラフィン系プロセスオイル)等が挙げられる。
【0037】
また、非芳香族系炭化水素軟化剤には、少量の不飽和炭化水素及びこれらの誘導体が共存していても良い。不飽和炭化水素としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、2−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、1−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のエチレン系炭化水素、アセチレン、メチルアセチレン、1−ブチン、2−ブチン、1−ペンチン、1−ヘキシン、1−オクチン、1−ノニン、1−デシン等のアセチレン系炭化水素を挙げることができる。
【0038】
成分(c)の配合量は、添加する場合は成分(a)100重量部に対して1〜100重量部、好ましくは3〜60重量部である。前記上限値を超えると軟化剤のブリードアウトを生じやすく最終製品に粘着性を与え、成形体の機械的性質も低下せしめる。また前記下限値未満では添加効果(柔軟性付与効果)が充分でない。
【0039】
更に必要に応じて成分(d)として石油樹脂を添加することができる。
成分(d)は、得られる組成物のさらなる柔軟性をもたせること、また機械特性を向上させ、さらにバランスのよい柔軟性と風合いを付与する機能を果たす成分である。 成分(d)としては、石油精製工業、石油化学工業の各種工程、特にナフサの分解工程で得られる不飽和炭化水素を原料として共重合して得られる樹脂であって、C5留分を原料とした脂肪族系石油樹脂、C9留分を原料とした芳香族系石油樹脂、ジシクロペンタジエンを原料とした脂環族系石油樹脂、並びにテルペン系樹脂およびこれら2種以上が共重合した共重合系石油樹脂、さらにこれらを水素化した水素化石油樹脂などが例示できる。上記した樹脂の水素添石油樹脂は、上記の樹脂を当業者に公知の方法により水素添加して得られる。具体的には、出光石油化学(株)製のアイマーブ(水素化石油樹脂)、荒川化学工業(株)製のアルコン(水素化石油樹脂)、ヤスハラケミカル(株)製のクリアロン(水素化テルペン樹脂)、トーネックス(株)製のエスコレッツ(脂肪族系炭化水素樹脂)、などの市販品を用いることができる。
【0040】
成分(d)の配合量は、配合する場合は成分(a)100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは3〜20重量部である。前記上限値を超えるとディッピング成形性が悪化し、ベタツキ性が顕著になる。他方、前記下限値未満では柔軟性付与効果が充分でない。
【0041】
必要に応じて添加される成分(e)テルペン系オイルは製品への柔軟性付与と溶剤ペーストの粘度低減の機能を有する。
テルペン系オイルは、主として北米や中国本土に産するアカマツ、クロマツの立木から採取した生松脂を水蒸気蒸留して得られる精油、また同樹のパルプ生産の副生物のテレピン油、あるいはオレンジの皮から抽出される精油またはこれらの精油から異性化反応等により誘導されたオレンジ油等から得られ、具体的には、炭素数10からなるテルペン系炭化水素、テルペンエーテルが挙げられる。
【0042】
炭素数10からなるテルペン系炭化水素としては、ミルセン(沸点167℃)、カレン(沸点167℃)、オシメン、ピネン(沸点155℃)、リモネン(沸点176℃)、カンフェン(沸点160℃)、テルピノレン(沸点187℃)、トリシクレン(沸点153℃)、テルピネン(沸点170〜180℃)、フェンチェン(沸点150〜155℃)、フェランドレン(沸点170〜175℃)、シルベストレン(沸点175℃)、サビネン(沸点163℃)、P−メンテン−1(カルボメンテン)(沸点176℃)、P−メンテン−3(沸点168℃)、P−サイメン、P−メンタン(沸点168℃)等が挙げられる。そのなかでも特に、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、P−メンテン−1、P−メンテン−3、P−サイメン、P−メンタンが好ましい。
【0043】
炭素数10からなるテルペンエーテルとしては、1,4−シネオール(沸点173℃)、1,8−シネオール(沸点173℃)、ピノール(沸点180℃)等が挙げられる。その中でも特に、1,4−シネオール、1,8−シネオールから選ばれた少なくとも1種類が好ましい。
【0044】
成分(e)の配合量は、添加する場合は成分(a)100重量部に対して、1〜75重量部、好ましくは5〜50重量部である。前記上限値を超えると成形時の発生ガスと臭気が烈しくなり、製品表面にブリード感が認められるようになる。前記下限値未満では添加効果(製品への柔軟性付与効果、溶剤ペーストの粘度低減効果)が充分でない。
【0045】
成分(f):酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。このうちフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。
【0046】
次に耐油性・ガスバリア性・柔軟性に優れる成形品を製造するためのディッピング成形用熱可塑性エラストマー組成物、溶液及び溶剤ペーストのその他の成分について説明する。
本発明の組成物においては、さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、ステアリン酸、シリコーンオイル等の離型剤、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、顔料、無機充填剤[アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ウォラストナイト(ウァラステナイト)、クレー]、発泡剤(有機系、無機系)、難燃剤(水和金属化合物、赤燐、ポリりん酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン)などを配合することができる。
発泡剤としては、エクスパンセル(エクスパンセル社製)、マツモトマイクロスフィアー(松本油脂製薬社)が好ましい。
【0047】
(a)及び必要に応じて添加される(b)〜(f)を添加した熱可塑性エラストマー100重量部を溶剤(例えばキシロール:ゴードー溶剤製)80〜400重量部に溶解することにより、ディッピング用溶剤ペーストが得られる。好ましくは溶剤100〜300重量部である。前記上限値を超えると粘度が低下し、気泡が発生しやすくなり、膜厚が薄くなる。前記下限値未満では粘度が高くなり、ペースト性が悪化し、ディッピング成形性が悪化する。
【0048】
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物は上記成分(a)及び必要に応じて添加される(b)〜(f)を混練温度180〜200℃で、適当な単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等を用いて溶融混練して得られたペレットもしくはブロックを、工業用キシロールなどの有機溶剤に固形分20〜55重量%で溶解させることで製造することができる。
あるいは、上記成分(a)及び必要に応じて添加される(b)〜(f)を、直接工業用キシロールなどの有機溶剤に固形分20〜55重量%で溶解させることで製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下実施例、比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた評価方法及び原料は以下の通りである。
【0050】
評価方法
(1)比重:JIS K 7112に準拠し、試験片は約0.5mm厚ディッピング成形シートを用いて測定を行なった。ディッピング成形シートは、還流冷却器を取り付けた1000cc丸底フラスコに60mm×φ8mmのマグネットスターラーと得られた手袋用組成物のペレット200gと工業用キシロール300gを投入し、約95℃に保持されたスターラー付き高温槽で1時間攪拌を行なった。そのまま室温になるまで12時間以上放置した後、10分攪拌を行い、フェロタイプ板(130mm×130mm×1mm)を用いて1回ディッピングを行った。フェロタイプ板を室温で30分放置した後、オーブン中で120℃×30分熱処理を行って得たものである。
(2)硬度:JIS K 7215に準拠し、ディッピング成形シートを重ねて4.0mm厚にして、デュロメータ硬さ・タイプAにて測定した。
(3)引張強さ、100%伸び応力、伸び:JIS K 6301に準拠し、試験片は0.5mm厚ディッピング成形シートを、3号ダンベル型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(4)オイルブリード、タック性:ディッピング成形で得られた約65mm×80mm×0.5mm厚のシートをクラフト紙に挟んで、直径70mm円盤状の500gの重りをのせ、室温(23℃)で168時間放置後のクラフト紙の状態を目視で観察し、次の基準で評価した。
○:クラフト紙が容易にシートから剥がれオイルブリードの痕跡が認められない。
△:クラフト紙が僅かにシートに密着しかすかにオイルブリードの痕跡が認められる。
×:クラフト紙がシートに密着しオイルブリードの痕跡が認められる。
【0051】
(5)ディッピイング性:還流冷却器を取り付けた1000cc丸底フラスコに60mm×φ8mmのマグネットスターラーと本発明組成物である熱可塑性エラストマーのペレット200gと工業用キシロール300gを投入し、約95℃に保持されたスターラー付き高温槽で1時間攪拌を行なった。そのまま室温になるまで12時間以上放置した後、10分攪拌を行い、フェロタイプ板(130mm×130mm×1mm)を用いて1回ディッピングを行った。フェロタイプ板を室温で30分放置した後、オーブン中で120℃×30分熱処理を行い、その製膜状態を目視で観察し次の基準で評価した。
◎:ピンホール状の未溶融物もなく、膜厚も均一。
○:ピンホール状の未溶融物はないが、膜厚は不均一。
△:ピンホール状の未溶融物あり。
×:製膜不可能。
(6)耐油性(体積変化率):JIS K 6258に準拠し、試験片は約0.5mm厚ディッピング成形シートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。流動パラフィン(ネオチオゾール:三光化学工業株式会社、沸点:225〜247℃、比重:0.761)を使用し、50℃×24時間の体積変化を測定した。
(7)ガスバリア性:JIS K 7126 A法(差圧法)に準じて、約0.5mm厚ディッピング成形シートを用いて25℃で測定を行なった。測定前に25℃で約6時間放置後、酸素、二酸化炭素に対するガスバリア性を測定した。
[溶剤(ベンゼン、シンナー、トルエン、キシロール、MEK、DMFなど)のガスバリア性判断のために、酸素、二酸化炭素で擬似的に試験を行った。]
(8)水蒸気バリア性:JIS K 7129 A法(感湿センサー法)に準じて、約0.5mm厚ディッピング成形シートを用いて40℃×90%RHの条件で測定を行なった。測定前に40℃×90%RHで約170時間放置後、水蒸気に対するガスバリア性を測定した。
【0052】
使用原料
成分(a):リビングカチオン重合によって得られるスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体[SIBS:SIBSTAR 073T(鐘淵化学工業株式会社製)]、スチレン含有量:30重量%、数平均分子量:60,000、重量平均分子量:65,000、分子量分布:1.08、硬さ:57A、不飽和結合:0%。
成分(b−1):水添共重合体成分、セプトン2104(SEPS)(商標;クラレ株式会社製)、スチレン含有量65重量%、数平均分子量70,000、重量平均分子量91,000、分子量分布1.30、水素添加率90%以上。
成分(b−2):水添共重合体成分、クレイトンE−1818E(SEBS)(商標;クレイトンポリマージャパン株式会社製)、スチレン含有量30重量%、数平均分子量160,000、重量平均分子量200,000、分子量分布1.25、水素添加率90%以上。
成分(b−3):水添共重合体成分、セプトン4077(商標;クラレ株式会社製)、スチレン含有量30重量%、数平均分子量260,000、重量平均分子量320,000、分子量分布1.23、水素添加率90%以上。
成分(b−4):水添共重合体成分、ダイナロンDR6201B(CEBC)(商標;JSR株式会社製)、スチレン含有量0重量%、数平均分子量180,000、重量平均分子量230,000、分子量分布1.27、水素添加率90%以上。
【0053】
成分(c):非芳香族系ゴム軟化剤 NAソルベント NAS−5H (日本油脂(株)製)比重:0.823、種類:イソパラフィン系炭化水素油、粘度(40℃):11.0cSt、引火点:146℃。
成分(d):石油樹脂、アイマーブP−140(商標;出光石油化学社製)、軟化点:140℃、平均分子量:910、密度:1.03g/cm
成分(e):テルペン系オイル、ウッディリバー#10(ヤスハラケミカル(株)製)比重:0.80、粘度(25):1.14cP、沸点:167〜170℃、引火点:41.5℃。
成分(f):添加剤、酸化防止剤HP2215(チバスペシャリティケミカルズ社製)、構成成分:15%ラクトン系と85%ヒンダードフェノール系/フォスファイト系の複合酸化防止剤である。
【0054】
実施例、比較例
還流冷却器を取り付けた1000cc丸底フラスコに60mm×φ8mmのマグネットスターラーと本発明組成物である熱可塑性エラストマーのペレット200gと工業用キシロール300gを投入し、約95℃に保持されたスターラー付き高温槽で1時間攪拌を行なった。そのまま室温になるまで12時間以上放置した後、10分攪拌を行い、フェロタイプ板(130mm×130mm×1mm)を用いて1回ディッピングを行った。フェロタイプ板を室温で30分放置した後、オーブン中で120℃×30分熱処理を行って試験用シートを得た。
【0055】
【表1】

【表2】

【0056】
表1の実施例1〜6より明らかなように、本発明の熱可塑性エラストマー組成物はいずれも酸素及び二酸化炭素に対するガスバリア性が6×10-15mol・m・m2・s・Pa以下、水蒸気に対するガスバリア性が2g/m2・24時間以下であり、良好な特性を有していた。また実施例1〜6の熱可塑性エラストマー組成物における体積抵抗率は2×1015(Ω・cm)〜5×1015(Ω・cm)の範囲であり、いずれも高い絶縁抵抗を有した。
実施例2〜6では、成分(b)を添加することによりディッピング成形性がさらに向上した。
実施例6では、任意成分である成分(c)を使用し、硬度50A以下の柔軟な組成物を得ることができる。その際、成分(d)を用いることにより製品への柔軟性付与とポリウレタンへの粘着性の性質がさらに付与され、成分(e)を用いることによりペースト調整、ディッピング成形時の熱による組成物劣化を低減する性質がさらに付与された。
また表2に示す比較例1〜4は、(a)成分を配合しなかったものである。表2より成分(a)を含まない場合、耐油性・ガスバリア性が発現しないことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イソブチレン系化合物ブロック及び芳香族ビニル系化合物ブロックから構成されるイソブチレン系ブロック共重合体を含有することを特徴とするディッピング成形用組成物。
【請求項2】
前記(a)100重量部に対し、(b)水添及び/または部分水添共重合体1〜80重量部を含むことを特徴とする請求項1に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項3】
前記(a)100重量部に対し、(c)非芳香族系ゴム用軟化剤1〜100重量部を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項4】
前記(a)100重量部に対し、(d)石油樹脂1〜50重量部を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の組成物100重量部を溶剤80〜400重量部に溶解して得られるディッピング成形用溶剤ペースト。
【請求項6】
JIS K 6258に準拠し、流動パラフィンを使用した50℃×24時間での耐油性(体積変化率)が30%以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項7】
JIS K 7126 A法(差圧法)に準拠し、0.5mm厚ディッピング成形シートを用い、測定前に25℃で約6時間放置後の25℃における酸素に対するガスバリア性が6×10-15mol・m/m2・s・Pa以下であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項8】
JIS K 7126 A法(差圧法)に準拠し、0.5mm厚ディッピング成形シートを用い、測定前に25℃で約6時間放置後の25℃における二酸化炭素に対するガスバリア性が6×10-15mol・m/m2・s・Pa以下であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項9】
JIS K 7129 A法(感湿センサー法)に準拠し、0.5mm厚ディッピング成形シートを用い、測定前に40℃×90%RHで約170時間放置後の40℃×90%RHの条件における水蒸気に対するガスバリア性が2g/m2・24時間以下であることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項に記載のディッピング成形用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項に記載のガスバリア用ディッピング成形用組成物。

【公開番号】特開2006−28384(P2006−28384A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211155(P2004−211155)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【出願人】(594173382)三恵工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】