説明

ディップコーティング装置

【課題】揮発性成分を含む塗布液をタンク1に充填し、塗布対象物2を塗布液に浸漬し、その液面から引き上げ、対象物2の表面に塗布膜を形成するディップコーティング装置において、液切り時間が大幅に短縮されるようにする。
【解決手段】対象物2が完全に引き上げられるとき、気流発生手段6,9によって気流が生じ、対象物2から液切りされる塗布液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディップコーティング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板の製造工程において、ディップコーティング装置が一般に使用されている。たとえば、特開平10−256703号公報(特許文献1)に記載されているものがそれである。同公報の装置では、感光性レジスト液がタンクに充填され、回路基板がレジスト液に浸漬され、その液面から引き上げられ、基板の表面に塗布膜が形成される。普通、レジスト液は揮発性溶剤成分を含む。さらに、同公報の装置では、昇降部材がタンクの上方に配置され、吊り下げ手段が昇降部材に設けられ、複数の基板が間隔を置いて配置され、吊り下げ手段に各基板が吊り下げられる。吊り下げ手段はチャックからなり、各基板をチャッキングし、吊り下げることができる。そして、アクチュエータによって昇降部材が下降および上昇し、各基板がレジスト液に浸漬され、その液面から引き上げられる。
【0003】
ところで、この場合、各基板が完全に引き上げられると、基板の下縁付近において、レジスト液が各基板から液切りされるが、それが的確に液切りされるようにすることが重要である。これを達成するには、レジスト液が各基板から液切りされるとき、各基板を相当低速度で引き上げる必要があった。その理由はレジスト液の表面張力である。各基板が液面から引き上げられるとき、レジスト液に表面張力が作用し、その後、その状態でレジスト液が液切りされる。このため、レジスト液が各基板から液切りされにくい。さらに、複数の基板が間隔を置いて配置されることは前述したとおりであるが、装置をコンパクト化する関係上、基板の間隔をできるだけ小さくすることが要求される。このため、溶剤成分の揮発後、揮発した成分が各基板間にこもり、排出されにくく、各基板間では、溶剤成分がレジスト液から揮発されにくい。これもレジスト液が液切りされにくい要因である。したがって、レジスト液が各基板から液切りされるとき、的確に液切りされるようにするには、各基板を相当低速度で引き上げる必要があったものである。この結果、液切り時間がきわめて長く、効率がいちじるしく悪化していた。実際のところ、各基板がおよそ0.2mm/secの速度で引き上げられ、液切り時間は60〜80secの時間に及ぶ。ここで、液切り時間とは液切り開始から液切り終了までの所要時間のことである。
【0004】
この他、各基板が液面から引き上げられるとき、基板上のレジスト液に重力が作用し、レジスト液が各基板に沿って垂れ、下降する傾向がある。このため、塗布膜を的確に形成することができず、その厚さを均一に保つことができないという問題もある。
【0005】
なお、ディップコーティング装置の場合、回路基板およびレジスト液に限らず、それ以外の塗布対象物および塗布液についても、対象物を塗布液に浸漬し、その液面から引き上げ、対象物の表面に塗布膜を形成することができるが、液切り時間および塗布膜の厚さの均一化の問題があることは同様である。
【0006】
したがって、この発明の目的は、揮発性成分を含む塗布液をタンクに充填し、塗布対象物を塗布液に浸漬し、その液面から引き上げ、対象物の表面に塗布膜を形成するディップコーティング装置において、液切り時間が大幅に短縮されるようにすることにある。
【0007】
他の目的は、塗布膜が的確に形成され、その厚さが均一に保たれるようにすることにある。
【特許文献1】特開平10−256703号公報
【発明の開示】
【0008】
この発明によれば、塗布対象物が完全に引き上げられるとき、気流発生手段によって気流が生じ、対象物から液切りされる塗布液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。
【0009】
好ましい実施例では、対象物が液面から引き上げられるとき、発生手段によって気流が生じ、対象物上の塗布液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。その後、少なくとも対象物が完全に引き上げられるまで、引き続き気流が生じ、液切りされる塗布液に気流が作用する。
【0010】
さらに、発生手段はエア吸入口を有する。そして、エアが液面に沿って流れ、吸入口に吸入され、エアによって気流が生じる。
【0011】
タンクの両側または周囲において、吸入口が液面に対応する高さ位置またはそれよりも下方に配置されることが好ましい。
【0012】
さらに、発生手段はエア吐出口を有する。吐出口は下向きのもので、タンクの上方に配置される。したがって、エアが吐出口から吐出され、対象物に沿って下降し、エアによって気流が生じる。
【0013】
さらに、昇降部材がタンクの上方に配置され、吊り下げ手段が昇降部材に設けられ、吊り下げ手段に対象物が吊り下げられ、アクチュエータによって昇降部材が下降および上昇し、対象物が塗布液に浸漬され、その液面から引き上げられる。さらに、吐出口が昇降部材に形成され、対象物が液面から引き上げられるとき、対象物の上端付近において、エアが吐出口から吐出される。
【0014】
発生手段として不活性ガスを噴出する手段を使用し、不活性ガスによって気流が生じるようにすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施例を説明する。
【0016】
図1はこの発明にかかるディップコーティング装置を示す。この装置では、塗布液がタンク1に充填され、塗布対象物2が塗布液に浸漬され、その液面から引き上げられ、対象物2の表面に塗布膜が形成される。対象物2は回路基板からなる。塗布液は感光性レジスト液であり、揮発性溶剤成分を含む。さらに、この装置では、昇降部材3がタンク1の上方に配置されている。昇降部材3はアームからなり、ポスト4に取り付けられ、ポスト4に沿って昇降可能である。さらに、吊り下げ手段5がアーム3に設けられており、図2に示すように、複数の基板2が間隔を置いて配置され、吊り下げ手段5に各基板2が吊り下げられる。吊り下げ手段5はチャックからなり、各基板2をチャッキングし、吊り下げることができる。さらに、アクチュエータとしてボールねじおよび駆動モータが使用され、ボールねじがポスト4に内蔵され、アーム3にねじ合わされ、駆動モータがボールねじに連結されている。したがって、駆動モータによってボールねじを回転させ、アーム3を下降および上昇させることができ、各基板2をレジスト液に浸漬し、その液面から引き上げることができる。
【0017】
さらに、各基板2が完全に引き上げられると、基板2の下縁付近において、レジスト液が各基板2から液切りされるが、この装置では、各基板2が完全に引き上げられるとき、タンク1の液面付近において、気流発生手段によって気流が生じる。したがって、各基板2から液切りされる塗布液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。
【0018】
さらに、この装置では、各基板2が液面から引き上げられるとき、基板2の表面付近において、発生手段によって気流が生じる。したがって、基板2上のレジスト液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。その後、少なくとも各基板2が完全に引き上げられるまで、引き続き気流が生じ、液切りされるレジスト液に気流が作用する。
【0019】
たとえば、この実施例では、発生手段はエア吸入口6を有する。そして、タンク1の両側において、吸入口6が液面に対応する高さ位置に配置されており、吸入口6は横向きのもので、互いに対向する。その対向方向は基板2の配列方向に直角の方向であり、吸入口6は各基板2間に向かって開口する。さらに、ブロワ7がパイプまたはホース8に接続され、吸入口6に接続されており、エアが液面および各基板2に沿って流れ、吸入口6に吸入され、ブロワ7に送られ、エアによって気流が生じる。
【0020】
さらに、発生手段はエア吐出口9を有する。吐出口9は下向きのもので、アーム3に形成され、タンク1の上方に配置されている。アーム3は中空チャンバ10を有し、吐出口9は中空チャンバ10に連通する。さらに、ブロワ11がフィルタ12に接続され、パイプまたはチューブ13に接続され、中空チャンバ10に接続されており、ブロワ11によってエアが送られ、これがフィルタ12を通り、中空チャンバ10に供給され、吐出口9から吐出される。さらに、エアが各基板2に沿って下降し、液面に沿って流れ、吸入口6に吸入される。フィルタ12はヘパまたはウルパからなる。パイプまたはチューブ13は上下方向に伸縮可能である。したがって、アーム3が下降および上昇するとき、それによってパイプまたはチューブ13が伸縮し、問題はない。
【0021】
したがって、この装置において、各基板2が液面から引き上げられるとき、レジスト液に表面張力が作用し、その後、その状態でレジスト液が液切りされるが、各基板2が完全に引き上げられるとき、タンク1の液面付近において、吸入口6および吐出口9によって気流が生じる。したがって、液切りされるレジスト液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。さらに、各基板2間に気流が生じ、各基板2間でも、気流によって溶剤成分が揮発する。揮発した溶剤成分については、気流によってそれが排出される。この結果、レジスト液が各基板2から液切りされるとき、迅速に溶剤成分が揮発し、レジスト液は各基板2から液切りされやすい。
【0022】
この装置の場合、レジスト液が各基板2から液切りされやすく、液切りされるとき、各基板2を比較的高速度で引き上げても、レジスト液が的確に液切りされる。したがって、液切り時間が大幅に短縮される。これまで、各基板2がおよそ0.2mm/secの速度で引き上げられ、液切り時間は60〜80secに及んでいたことは前述したとおりである。一方、この装置では、発明者の実験において、各基板2をおよそ2mm/secの速度で引き上げても、レジスト液が的確に液切りされることが確認された。したがって、レジスト液が各基板2から液切りされるとき、各基板2をおよそ2mm/secの速度で引き上げることができる。この場合、液切り時間は4〜10secの時間に短縮される。
【0023】
さらに、この装置では、各基板2が液面から引き上げられるとき、基板2上のレジスト液に重力が作用するが、これと同時に、基板2の表面付近において、吸入口6および吐出口9によって気流が生じる。したがって、基板2上のレジスト液に気流が作用し、気流によって溶剤成分が揮発する。そして、溶剤成分が一旦揮発すると、それによってレジスト液が粘液化され、その後、基板2上のレジスト液に重力が作用しても、レジスト液が各基板2に沿って垂れ、下降することはない。したがって、塗布膜が的確に形成され、その膜厚が均一に保たれる。発明者の実験において、各基板2が液面から引き上げられるとき、基板2上のレジスト液に気流を作用させると、塗布膜が的確に形成され、その厚さが均一に保たれることも確認されている。
【0024】
さらに、レジスト液が各基板2に沿って垂れ、下降したとき、最も影響を受けるのは基板2の上端付近の塗布膜であり、その厚さが大幅に減少する可能性があるが、この装置の場合、吐出口9がアーム3に形成されている。したがって、最初、駆動モータおよびボールねじによってアーム3および吐出口9が下降し、各基板2が塗布液に浸漬される。その後、駆動モータおよびボールねじによってアーム3および吐出口9が上昇し、各基板2が液面から引き上げられる。したがって、基板2の上端付近において、エアが吐出口9から吐出され、塗布液に吹き付けられる。この関係上、特に、基板2の上端付近では、溶剤成分が効果的に揮発される。したがって、塗布膜が的確に形成され、その厚さが大幅に減少することはない。
【0025】
図3は他の実施例を示す。この実施例では、タンク1の両側において、エア吸入口6が液面よりも下方に配置されている。さらに、吸入口6は上向きに開口する。他の構成は図1の実施例と同様である。したがって、エアが液面に沿って流れ、吸入口6に吸入され、ブロワに送られ、エアによって気流が生じる。さらに、気流によって溶剤成分が揮発し、揮発した成分が送られるが、その比重はエアよりも大きい。したがって、図3の装置の場合、タンク1の両側において、比重によって揮発した成分が下降し、それが効果的に吸入され、好ましい。
【0026】
図4に示すように、ファン14およびフィルタ15をケース16に収容し、エア吐出口17をケース16に形成し、これをアーム15の上方に配置する。そして、ファン14によってエアを送り、これをフィルタ15に通し、吐出口17から吐出させることも考えられる。
【0027】
さらに、各実施例では、タンク1の両側において、吸入口6を液面に対応する高さ位置またはそれよりも下方に配置したものを説明したが、タンク1の周囲において、吸入口を液面に対応する高さ位置またはそれよりも下方に配置してもよい。
【0028】
発生手段として不活性ガスを噴出する手段を使用し、不活性ガスによって気流が生じるようにすることもできる。
【0029】
この装置において、回路基板2およびレジスト液に限らず、それ以外の塗布対象物および塗布液についても、対象物を塗布液に浸漬し、その液面から引き上げ、対象物の表面に塗布膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施例を示す側面図である。
【図2】図1の基板とファンの関係を示す正面図である。
【図3】他の実施例を示す側面図である。
【図4】他の実施例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 タンク
2 回路基板
3 昇降部材
5 吊り下げ手段
6 エア吸入口
9 エア吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性溶剤成分を含む塗布液をタンクに充填し、塗布対象物を前記塗布液に浸漬し、その液面から引き上げ、前記対象物の表面に塗布膜を形成するディップコーティング装置であって、
前記対象物が完全に引き上げられるとき、気流を生じさせる気流発生手段を備え、前記対象物から液切りされる塗布液に気流が作用し、前記気流によって前記溶剤成分が揮発するようにしたことを特徴とするディップコーティング装置。
【請求項2】
前記対象物が前記液面から引き上げられるとき、前記発生手段によって気流が生じ、前記対象物上の塗布液に気流が作用し、前記気流によって前記溶剤成分が揮発し、その後、少なくとも前記対象物が完全に引き上げられるまで、引き続き気流が生じ、液切りされる塗布液に気流が作用するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記発生手段はエア吸入口を有し、エアが前記液面に沿って流れ、前記吸入口に吸入され、前記エアによって前記気流が生じるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記タンクの両側または周囲において、前記吸入口が前記液面に対応する高さ位置またはそれよりも下方に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記発生手段はエア吐出口を有し、前記吐出口は下向きのもので、前記タンクの上方に配置され、エアが前記吐出口から吐出され、前記対象物に沿って下降し、前記エアによって前記気流が生じるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項6】
さらに、前記タンクの上方に配置された昇降部材と、
前記昇降部材に設けられ、前記対象物を吊り下げる吊り下げ手段と、
前記昇降部材を下降および上昇させ、前記対象物を前記塗布液に浸漬し、その液面から引き上げるアクチュエータとを備え、
前記吐出口が前記昇降部材に形成されており、前記対象物が前記液面から引き上げられるとき、前記対象物の上端付近において、エアが前記吐出口から吐出されるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記発生手段は不活性ガスを噴出する手段からなり、不活性ガスによって前記気流が生じるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項8】
揮発性溶剤成分を含む塗布液をタンクに充填し、塗布対象物を前記塗布液に浸漬し、その液面から引き上げ、前記対象物の表面に塗布膜を形成するディップコーティング装置であって、
下向きのエア吐出口が前記タンクの上方に配置され、前記対象物が前記液面から引き上げられるとき、エアが前記吐出口から吐出され、前記対象物に沿って下降し、前記エアによって気流が生じ、前記対象物上の塗布液に前記気流が作用し、前記気流によって前記溶剤成分が揮発するようにしたことを特徴とするディップコーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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