説明

ディーゼルを植物油と共処理して低曇り点ハイブリッドディーゼルバイオ燃料を生み出すこと

植物油及び石油ディーゼルを共処理してハイブリッドバイオディーゼル組成物を得るための方法及びシステムである。幾つかの実施形態において、本発明は、植物油と石油ディーゼルの混合物を以下の二段階で共処理する方法/システムに指向し、その二段階とは、混合物を最初に水素化処理して硫黄減少ハイブリッド中間体を得て、その後にハイブリッド中間体を異性化ユニットで処理して部分的にバイオマス由来である低曇り点ハイブリッドディーゼル生成物を得る、というものである。少なくともそのような方法/システムの注目に値する利益は、水素化処理と異性化との段階間でH2S及びNH3の中間段階除去を必要としないことであり、そのような利益は硫黄及び窒素耐性異性化触媒により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大抵は、ディーゼル燃料に、特に石油ディーゼルと植物又は穀物油とのブレンド物を共処理することによる低硫黄ハイブリッドディーゼルバイオ燃料を効率的に作製する方法及びシステムに、関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ燃料は、(1)それらは再生可能な資源であること、(2)それらの製造は地理的事情に依存することが少ないこと、(3)それらは既存輸送手段における石油系燃料の直接代替の可能性を提供すること、及び(4)バイオ燃料前駆体−特にセルロース系原料によるCO取り込みのために正味の温室効果ガス放出を実質的に減少させ得ること、を含む多くの理由のために、関心が増大している。「燃料という黄金(Fuels Gold)」New Scientist、23 September、pp.36−41、2006を参照されたい。
【0003】
容易に得られるバイオ燃料は、主としてトリグリセリド及び幾分かの遊離脂肪酸を含む植物油である。しかしながら、植物油の性質は、植物油の粘度が一般的に高すぎるので汚染物質を出さないほど十分には燃焼せず、それにより有害な炭素堆積物をエンジンに残すので、それを輸送手段のエンジンにおける石油ディーゼルに対する直接代替物としての使用には一般に不適当にする。それに加えて、植物油は、低温側でゲル化する傾向があり、そのため、寒い気候におけるそれらの使用が妨げられる。これらの問題は、植物油が石油燃料とブレンドされると緩和されるが、それでもなおディーゼルエンジンにおける長期使用に対する障害として残る。Pearce、2006;Huberら、「(バイオマスからの輸送燃料の合成:化学、触媒、及び工学)Synthesis of Transportation Fuels from Biomass:Chemistry、Catalysts、and Engineering」Chem.Rev.、vol.106、pp.4044−4098、2006を参照されたい。
【0004】
エステル交換は、植物油を汎用ディーゼルエンジンにおいて燃焼され得るディーゼル適合性燃料(即ち、汎用バイオディーゼル)に変換するために目下使用される方法である。しかしながら、汎用バイオディーゼル燃料と同様な低温流動問題が依然として残る。この問題は、汎用バイオディーゼルは、より低温で、例えば凝固温度(約0℃)付近で粘性になって容易に流動しないことが多いという事実に少なくとも部分的に起因する。それ故、この方法で生成されるバイオディーゼルの限界は、一般に、それがより高い曇り点(及び流動点)を有することであり、それにより、幾つかの、特定の寒い気候で、使用不可能となる。
【0005】
上記のエステル交換の代案が、本明細書に記すように、植物油(例えばキャノーラ油)を汎用ディーゼルと混合して混合物を形成し、その後に、混合物を水素化処理してハイブリッドディーゼルバイオ燃料を得ることである。一般に、植物油は汎用ディーゼルよりも少ない量で混合物中に存在する。実施形態に依存し、植物油は典型的には混合物の約10重量パーセントを構成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素処理器に向かうディーゼルに植物油が加えられる時、曇り点は典型的には増加し、ディーゼルを「規格外」に追いやる。これがディーゼルのカットポイントを再調整を要し
、それにより、収量が減少する。先行技術は曇り点を下げる異性化脱蝋触媒を教示し、その触媒は、脱蝋反応器より前に水素化処理器流出物からHS及びNHを除去することを要し、さもなくば脱蝋触媒の寿命が短くなる高温で操作しなければならない。従って、比較的低曇り点を維持しながらも、水素化処理済みディーゼル燃料の生成でバイオマスを経済的に利用出来る方法が、まだかなりとても必要とされており、非常に有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態において、本発明は、植物油及び石油ディーゼルを共処理してバイオマス由来成分を含有するハイブリッドディーゼル生成物を得る方法(すなわちプロセス)及びシステムに指向する。典型的には、そのような方法及びシステムは、汎用のエステル系バイオディーゼルの貧弱な低温特性なしで、(部分的)バイオマス由来成分から恩恵を受けるハイブリッドディーゼル生成物を提供するために作動する。
【0008】
少なくとも上記限界の幾つかに、及び/又はバイオ燃料の認識済み必要性に、及び/又はその処理に、言及するために、幾つかの実施形態において、本発明は、以下の方法−植物油と石油ディーゼルの混合物を最初に水素化処理して硫黄減少ハイブリッド中間体を得て、その後にハイブリッド中間体を異性化ユニットで処理して部分的にバイオマス由来である低曇り点ハイブリッド(バイオ)ディーゼル生成物を得るための方法−に指向する。理想的には、低曇り点ハイブリッドディーゼル生成物は標準的なディーゼルの範囲内(又は少なくともそれに近い)曇り点を有する。典型的には、そのような実施形態は、大抵は異性化前にハイブリッド中間体流からHS及びNHを除去しないような、硫黄及び/又は窒素耐性異性化触媒を利用する。その、中間段階でのHS及びNHの除去により、そのような硫黄及び/又は窒素耐性異性化触媒は、そのような方法/システムの好ましい経済性を可能にする。そのような異性化触媒はMillerの米国特許出願番号第12/181652号に記載されており、本明細書で参照により援用される。
【0009】
幾つかの実施形態において、本発明は、ハイブリッドディーゼル(バイオ)燃料生成物を生成するための1種又は複数の方法に指向し、そのような方法は、a)植物油をディーゼル燃料と組み合わせて第一混合物を形成するステップであって、植物油が第一混合物の10重量パーセント以下を構成する、ステップ、b)第一混合物を水素化処理して第二混合物を得るステップであって、第一混合物のトリグリセリド成分が脱酸素化され、かつ、第一混合物に存在する硫黄の少なくとも95原子パーセントが第二混合物のHSに変換される、ステップ、c)異性化触媒の存在下で第二混合物を異性化して第三混合物を得るステップであって、第三混合物が第二混合物より低い曇り点を有するハイブリッドディーゼル燃料を含有し、第二混合物のHSが異性化の前に除去されていない、ステップ、並びに、d)第三混合物のハイブリッドディーゼル燃料を単離してハイブリッドディーゼル燃料生成物を得る、ステップ、を備える。
【0010】
そのような上記のハイブリッドディーゼル燃料の生成を容易にするために及び/又は上記の方法のいずれか又は全てを実行するために、幾つかの又は他の実施形態において、本発明はハイブリッドディーゼル燃料生成物を生み出すための1種又は複数のシステムに指向し、大抵はそのようなシステムは、a)植物油をディーゼル燃料と組み合わせて第一混合物を形成するための混合ユニットであって、植物油が第一混合物の10重量パーセント以下を構成する、ユニット、b)第一混合物を水素化処理して第二混合物を得るための水素化処理ユニットであって、第一混合物のトリグリセリド成分が脱酸素化されるように操作可能なユニットであり、かつ、第一混合物に存在する硫黄の少なくとも95原子パーセントが第二混合物のHSに変換される、ユニット、並びに、c)異性化触媒の存在下で第二混合物を異性化して第三混合物を得るための異性化ユニットであって、第三混合物が第二混合物より低い曇り点を有するハイブリッドディーゼル燃料を含有し、第二混合物のHSが異性化の前に除去されていない、ユニット、を備える。
【0011】
上で述べたことは、以下の本発明の詳細な説明がよりよく理解されるための、本発明の特徴のやや広い概説である。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する、本発明のさらなる特徴及び利点を、以下で説明することにする。
【0012】
本発明及びその利点のより完全な理解のために、ここで添付図面と合わせて以下の説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の幾つかの実施形態に従って、フローダイアグラム形式で、ハイブリッドディーゼルバイオ燃料組成物を生成するための方法を例示する図である。
【0014】
【図2】本発明の幾つかの実施形態に従って、図1に例示されたような方法を実行するためのシステムを、概略的に、叙述する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.序
本発明の実施形態は、植物油及び石油ディーゼルを共処理してハイブリッドディーゼル(バイオ)燃料組成物を得るための方法(プロセス)及びシステムに指向する。幾つかのそのような実施形態において、本発明は植物油及び石油ディーゼルの混合物を以下の二段階で共処理する方法(及びそのような方法を実行するためのシステム)に指向し、その二段階とは、混合物を最初に水素化処理して硫黄減少ハイブリッド中間体を得て、その後にハイブリッド中間体を異性化ユニットで処理して部分的にバイオマス由来である低曇り点ハイブリッドディーゼル生成物を得る、というものである。低曇り点ハイブリッドディーゼル生成物は大抵は標準的なディーゼルの範囲内(又は少なくともそれに近い)曇り点を有する。
【0016】
少なくとも幾つかの本発明のそのような上記の実施形態の独特の一面は、水素化処理と異性化とのステップ間/段階間で、HS及びNHの中間段階除去がないことである。幾つかのそのような実施形態において、この、HS/NHの中間段階除去の撤廃が可能となったのは窒素耐性/抵抗触媒によるものであり、その触媒は、Millerの米国特許出願第12/181652号に記載されているようなものであり、本明細書で参照により援用される。そのようなHS/NH中間段階除去の撤廃により、そのような大スケールの共処理の効率性はきわめて増加し、それにより全体生成コストを減少させる。
【0017】
2.定義
ある用語及び語句は、この記載を通してそれらが最初に使用されたように定義されるが、一方この記載中で使用されるある他の用語は下で定義される。
【0018】
本明細書において使用される接頭辞「バイオ」は、生物学的起源の再生可能な資源との結びつきを指し、そのような資源は化石燃料を一般に除外する。
【0019】
本明細書において定義される「生物由来の油」は、穀物、植物、微小藻類(microalgae)などの、但し限定されない生物学的供給源から少なくとも部分的には得られる任意のトリグリセリドを含有する油を指す。そのような油は遊離脂肪酸をさらに含んでもよい。生物学的供給源は、これ以後「バイオマス」と称する。トリグリセリドの供給源として微小藻類を使用することの利点に関するさらに多くのことについては、R.Baum、「微小藻類はバイオディーゼル燃料の可能性ある供給源である(Microalgae are Possible Source of Biodiesel Fuel)」Chem.& Eng.News、vol.72(14)、pp.28−29、199
4を参照されたい。本明細書で、用語「植物油」、「穀物油」及び「生物由来の油」は、一般に互換可能に使用されるであろう。
【0020】
本明細書において定義される「トリグリセリド」は、下記分子構造を有する分子のクラスを指す:
【化1】


(式中、x、y、及びzは、同一であっても異なっていてもよく、x、y、及びzにより定義される1つ又は複数の分岐は不飽和領域を有することができる)。
【0021】
本明細書において定義される「カルボン酸」又は「脂肪酸」は、一般式:
【化2】


(式中、「R」は、大抵は、飽和(アルキル)炭化水素鎖又はモノ若しくはポリ不飽和(アルケニル)炭化水素鎖である。)
を有するクラスの有機酸である。
【0022】
本明細書において定義される「脂質」(“lipids”)は、脂肪酸、及びトリ、ジ、及びモノグリセリドを含むクラスの分子を広く指す。
【0023】
トリグリセリドの「加水分解」は、遊離脂肪酸とグリセリンとを生じ、そのような脂肪酸種も共通してカルボン酸と称される(上記を参照されたい)。
【0024】
「エステル交換」又は単に「エステル化」は、エステル種を生じる、脂肪酸とアルコールとの間の反応を指す。
【0025】
「水素化処理」(“hydroprocessing” or “hydrotreating”)は、炭化水素系材料と水素とを、典型的には圧力下で、触媒を用いて反応させるプロセス又は処理を指す(水素化処理は非触媒的であり得る)。そのような工程は、水素化脱酸素(酸素化された種の)、水素処理、水素化分解、水素化異性化、及び水素化
脱蝋を含むが、これらに限定されない。そのような工程の例については、Cashらの米国特許第6,630,066号;及びElomariの米国特許第6,841,063号を参照されたい。本発明の実施形態は、そのような水素化処理を利用してトリグリセリドをパラフィンに変換する。用語「水素化処理」(“hydroprocessing” and “hydrotreating”)は、本明細書において互換的に使用される。
【0026】
本明細書において定義される「異性化すること」は、典型的にはn−アルカンを分岐した異性体に変換する触媒的工程を指す。ISODEWAXING(CHEVRON U.S.A.INC.の商標)触媒は、そのような工程において使用される代表的触媒である。例えば、Zonesらの米国特許第5,300,210号;Millerの米国特許第5,158,665号;及びMillerの米国特許第4,859,312号を参照されたい。
【0027】
本明細書において定義される「輸送燃料」は、輸送手段による消費に適した炭化水素系燃料を指す。そのような燃料は、ディーゼル、ガソリン、ジェット燃料等を含むが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書において定義される「ディーゼル燃料」は、ディーゼルエンジンにおける使用に適し、以下の規格の少なくとも1つの最新版に適合する材料である:ASTM D975−「ディーゼル燃料油の標準規格」;ヨーロッパ規格CEN90;日本燃料標準JIS
K2204;The United States National Conference on Weights and Measures(NCWM) 1997の高品質ディーゼル燃料に関するガイドライン;及びThe United States
Engine Manufacturers Associationの高品質ディーゼル燃料に関して推奨するガイドライン(FQP−1A)。
【0029】
本明細書において使用される用語「バイオディーゼル」は、少なくとも有意に生物原料由来であり、及びASTM国際標準試験方法D−6751に大抵は適合する、ディーゼル燃料を指す。しばしば、バイオディーゼルは汎用石油ディーゼルとブレンドされる。B20は20パーセントのバイオディーゼルと80パーセントの汎用ディーゼルとのブレンド物である。B100は純粋なバイオディーゼルを意味する。
【0030】
本明細書において定義される「汎用バイオディーゼル」は、トリグリセリド含有植物油のエステル交換を経て生成される、エステル系バイオディーゼルを指す。
【0031】
本明細書において使用される用語「ハイブリッドディーゼルバイオ燃料」は、本発明の方法及びシステムに従って、植物油及び汎用(石油)ディーゼルを共処理すること(水素化処理すること+異性化すること)を経て生成されるディーゼルを、具体的に指す。
【0032】
本明細書において定義される「流動点」は、流体が流動する又は流れる最低温度を表す。例えば、ASTM国際標準試験方法D5950−96、D6892−03、及びD97を参照されたい。
【0033】
本明細書において定義される「曇り点」(“cloud point”)は、流体が結晶形成により相分離し始める温度を表す。例えば、ASTM標準試験方法D5773−95、D2500、D5551、及びD5771を参照されたい。
【0034】
本明細書において定義される、「n」が整数である「C」は、炭化水素又は炭化水素含有分子若しくは断片(例えば、アルキル又はアルケニル基)を記載し、「n」は、線状か分岐かに関わらず、断片又は分子中の炭素原子数を意味する。
【0035】
3.方法
前に図1を参照して言及したように、幾つかの実施形態において本発明は、植物油を汎用ディーゼルと共処理してハイブリッド(バイオ)ディーゼル燃料生成物を得るための1種又は複数の方法に指向し、そのような方法は、大抵は、(ステップ101)植物油をディーゼル燃料と組み合わせて第一混合物を形成するステップであって、植物油が第一混合物の10重量パーセント以下を構成する、ステップ、(ステップ102)第一混合物を水素化処理して第二混合物を得るステップであって、第一混合物のトリグリセリド成分が脱酸素化され、かつ、第一混合物に存在する硫黄の少なくとも95原子パーセントが第二混合物のHSに変換される、ステップ、(ステップ103)異性化触媒の存在下で第二混合物を異性化して第三混合物を得るステップであって、第三混合物が第二混合物より低い曇り点を有するハイブリッドディーゼル燃料を含有し、第二混合物のHSが異性化の前に除去されていない、ステップ、並びに、(ステップ104)第三混合物のハイブリッドディーゼル燃料を単離してハイブリッドディーゼル燃料生成物を得る、ステップ、を備える。
【0036】
そのような上記の方法の幾つかの実施形態において、異性化触媒は硫黄に十分に耐性があり、異性化前にHSを(第二混合物から)除去することが不要となる。幾つかのそのような実施形態において、第一混合物は50ppm超の窒素成分を含有する。幾つかの又は他のそのような実施形態において、第一混合物は50ppm超の窒素成分を含有する。
【0037】
そのような上記の幾つかの実施形態において、異性化のステップは、非異性化パラフィン(すなわち、n−パラフィン又はn−アルカン)生成物の燃料特性と比べ有利な燃料特性を生じる、n−パラフィン生成物自身は燃料又は他の商品としての用途を獲得し得たにもかかわらず。異性化により改善され得るそのような燃料特性の一つは曇り点であり、すなわち、異性化は混合物の曇り点を下げ得る。
【0038】
典型的には、異性化は異性化触媒を使用して実施される。そのような異性化触媒は、SAPO−11、SM−3、SSZ−32、ZSM−23、ZSM−22などの支持体及び同様なそのような支持体上の、及び/又は、ベータ又はゼオライトYモレキュラーシーブ、SiO、Al、SiO−Al、及びそれらの組合せ上の、Pt又はPdを、伝統的に含んでいる。伝統的には、異性化は、約500°F〜約750°Fの温度で実施される。操業圧力は、典型的には200〜2000ポンド力毎平方インチゲージ(psig)、より典型的には200psig〜1000psigである。水素の流速は、典型的には50〜5000標準立方フィート/バレル(SCF/バレル)である。他の適当な異性化触媒については、例えば、Zonesらの米国特許第5,300,210号;Millerの米国特許第5,158,665号;及びMillerの米国特許第4,859,312号を参照されたい。
【0039】
本発明の重要な利点は、水素化処理と異性化の間でのHS/NHの中間段階除去を撤廃できることであり、そのことは、異性化触媒が硫黄及び窒素に耐性があることにより提供される。従って、そのような上記の幾つかの実施形態において、異性化触媒は支持体上の活性金属触媒(例えばPt)を含有し、その支持体は、2008年7月29日出願したMillerの米国特許出願第12/181652号に記載されている触媒のいずれかのようなものであり、本明細書で参照により援用される。大抵は、Millerで記載されているシリコアルミノフォスフェート支持体はSM−7として示されており、この支持体は汎用のSAPO−11と同類構造である。従って、そのような上記の幾つかの又は他の実施形態において、異性化触媒はSAPO−11支持体上のPt(及び/又はPdのような、他の活性金属)を含有する。そのような異性化のための反応条件は、典型的には、伝統的な異性化法のパラメータ内である(上記を参照されたい)。
【0040】
触媒的に推進される上記の異性化ステップに関して、幾つかの実施形態において、本明細書に記載された方法は、n−パラフィン系生成物を触媒の固定静止床、固定流動床、又は移動床と接触させることにより実行することができる。現在考慮している一実施形態においては、細流床操業(trickle−bed operation)が使用され、その場合、上記の原料供給は、通常は水素の存在下に、静止固定床を通してしたたらせる。そのような触媒の作用の例については、Millerらの米国特許第6,204,426号及び第6,723,889号を参照されたい。
【0041】
そのような上記の方法の幾つかの実施形態において、植物油は、穀物、植物、微小藻類、及びそれらの組合せ、からなる群から選択されるバイオマス供給源から生じる。従って、用語「植物油」は、実際にとても広く、一般に生物由来の油を包含するように拡張され得る(上記定義を参照されたい)。当業者は、脂質の任意の生物学的供給源が、トリグリセリドを含有する生物由来の油(例えば植物油)を得ることができるバイオマスとして一般的に役立ち得ることを認識するであろう。幾つかのそのような供給源は地域の栽培にとってより経済的で且つより受け入れられやすいことが、及び、食物が得られない供給源が(食物と競合すると見られず)一層魅力的であり得ることも、さらに認識されるであろう。例示的な植物油/油原料は、キャノーラ、ダイズ、ナタネ、ヤシ、ピーナツ、ジャトロファ、黄色油脂、藻類、などを含むがこれらに限定されない。
【0042】
そのような上記の方法の幾つかの実施形態において、水素化処理のステップは水素化処理(hydroprocessing/hydrotreating)触媒及び水素含有環境を包含する。水素化処理(hydroprocessing/hydrotreating)の一般的総説については、例えば、Ranaらの「重油及び残油のアップグレードのための工程技術に関する最近の進歩の総説(A Review of Recent
Advances on Process Technologies for Upgrading of Heavy Oils and Residua)」、Fuel、vol.86、pp.1216−1231、2007を参照されたい。トリグリセリドが如何にして水素化処理されてパラフィン系生成物を生じ得るかの例については、Craigらの米国特許第4,992,605号を参照されたい。
【0043】
そのような上記の方法の幾つかの実施形態において、水素化処理のステップは 耐火性支持材料と運用上統合されている活性金属又は金属合金水素化処理触媒を含有する水素化処理触媒を包含する、さもなくば利用する。幾つかのそのような実施形態において、活性金属触媒成分はコバルト−モリブデン(Co−Mo)触媒、ニッケル−モリブデン(Ni−Mo)触媒、貴金属触媒、及びこれらの組合せ、からなる群から選択される。これらの又は他の実施形態において、耐火性支持材料は、典型的には耐火性酸化物支持体−それはAl、SiO−Al、これらの組合せ等であるがこれらに限定されない−を含む。幾つかの特定の実施形態において、水素化処理ステップは、アルミナ支持されたニッケル−モリブデン触媒の使用を構成する。
【0044】
そのような上記の方法の幾つかの実施形態において、水素化処理は550°F〜800°Fの温度で実施される。幾つかのそのような実施形態において、水素化処理は400psig〜2000psigのH分圧下で実施される。幾つかの又は他のそのような実施形態において、水素化処理は500psig〜1500psigのH分圧下で実施される。
【0045】
(HSの形態の)硫黄を効率的に除去する水素化処理として、幾つかの実施形態において、第二混合物が、HS以外で、減少した硫黄成分を典型的には20ppm以下、好ましくは10ppm以下、有する。水素化処理が(HOの形態の)酸素の除去も容認す
ることに、留意されたい。
【0046】
水素化処理は曇り点にも影響し得て、典型的には、第二混合物の曇り点を第一混合物よりも下げる。幾つかのそのような実施形態において、第二混合物は−6℃以下の曇り点を有し、さらに、幾つかの又は他の実施形態においては、第二混合物は−8℃以下の曇り点を有する。
【0047】
第三混合物からハイブリッドディーゼル(バイオ)燃料の単離は、存在するHSを単に除去することで達成され、この段階でのHS除去は典型的には水素化処理と異性化のステップ間でのその除去よりも容易である。幾つかの実施形態において、ハイブリッドディーゼル燃料の単離は、第三混合物のHSをストリッピングすることで少なくとも部分的に達成される。
【0048】
典型的には、本発明の方法の実施形態は、硫黄成分の少ないハイブリッドディーゼル(バイオ)燃料を生成する。幾つかの実施形態において、ハイブリッドディーゼル燃料はHS以外で硫黄成分を20ppm以下、幾つかのそのような実施形態においては、10ppm以下、有する。
【0049】
第二混合物の異性化は、上記の方法の実施形態で記載したように、その流動点を減少させて第二混合物よりも低い流動点のハイブリッドディーゼルバイオ燃料を得ることが出来る。幾つかのそのような実施形態において、ハイブリッドディーゼル燃料は−10℃以下の曇り点を有する。
【0050】
4.システム
既に前のセクションで及び図2の参照で言及したように、幾つかの実施形態において、本発明は、植物油を石油ディーゼルと共処理して上記ハイブリッドディーゼル燃料生成物を提供するための、及び/又は上記方法のいずれか又は全てを実行するための、1種又は複数のシステム200に指向する。従って、まだ図2を参照して、幾つかの又は他のそのような実施形態において、本発明は大抵はハイブリッドディーゼル生成物を生み出すための1種又は複数のシステムに指向し、そのようなシステムは大抵は、以下のユニット−植物油をディーゼル燃料と組み合わせて第一混合物を形成するための混合ユニット201であって、植物油が第一混合物の10重量パーセント以下を構成する、ユニット、第一混合物を水素化処理して第二混合物を得るための水素化処理ユニット202であって、第一混合物のトリグリセリド成分が脱酸素化されるように操作可能なユニットであり、かつ、第一混合物に存在する硫黄の少なくとも95原子パーセントが第二混合物のHSに変換される、ユニット、並びに、異性化触媒の存在下で第二混合物を異性化して第三混合物を得るための異性化ユニット203であって、第三混合物が第二混合物より低い曇り点を有するハイブリッドディーゼル燃料を含有し、第二混合物のHSが異性化の前に除去されていない、ユニット−を備える。
【0051】
そのような上記のシステムの幾つかの実施形態において、システム200はさらに、第三混合物のハイブリッドディーゼル燃料を単離してハイブリッドディーゼル燃料生成物を得るための単離ユニット204をさらに備える。幾つかの又は他のそのような実施形態において、単離ユニットはHSストリッピングユニットを備える。
【0052】
好ましい異性化ユニットは、ISODEWAXING(商標)触媒を利用するものであり、好ましくはSM−7又はSSZ−32を含有する。幾つかの又は他のそのような実施形態において、異性化触媒はSM−7支持体上のPtを含有する。
【0053】
大抵は、全ての上記のシステムユニットは、第3セクションに記載した方法に従って、
植物油を処理するために構成される。さらに、システム200を含む種々のユニット間に、典型的には隣接した関係があるが、このことは常にその通りである必要はない。そのような関係は、既存の基礎構造及び/又は他の経済的考慮により影響されてもよい。
【0054】
5.変法
幾つかの多様に検討される別の実施形態において、中間の(第二)混合物は、多様な成分への分離前に異性化中間混合物へ触媒的に異性化される。従って、方法/システムのパラメータはディーゼルではないハイブリッド(バイオ)燃料を生成するために設定され得る。そのような変法は、別のステップ及び構成配列を有する追加の方法及び対応するシステムの実施形態を生じるが、さもなくば大抵は上記の実施形態のために記載したとおりである。
【0055】
明言したように及び/又は暗に示したように、植物油と類似の態様で本発明の方法/システムで、少なくとも部分的に、他の植物又は穀物油及び/又は藻由来の油も使用され得ることを、及び、動物性油脂(例えば牛脂)さえも使用され得ることを、当業者は認識するであろう。加えて、出発混合物の組成物の決定には、経済学、再生可能物、及び燃料特性(例えば曇り点)が繊細に相互作用し得て、その結果、最終生成物となる。
【実施例】
【0056】
6.例
本発明の具体的な実施形態を示すために、以下の実施例を示す。以下の実施例で開示される方法/システムは、例示的な本発明の実施形態を単に提示するだけであることは、当業者により認識されるべきである。しかしながら、記載された特定の実施形態に多くの変化がなされてなお、本発明の本質及び範囲から逸脱することなく類似の又は同様な結果を得ることができることを、当業者は本開示に鑑みて認識すべきである。
【0057】

この例は、本発明の幾つかの実施形態に従って、本発明の方法の実施形態を実行して、ハイブリッドディーゼルバイオ燃料を生成するための、例示的なシステムを例示するのに役立つ。
【0058】
SM−7上のPtの触媒の異性化触媒を使用して、およそ500ppmの硫黄(S)を有する、95/5 ディーゼル/キャノーラ油混合物を、水素化処理ユニットで水素化処理してハイブリッドディーゼル中間体を得た。水素化処理で、キャノーラ油なしで処理されたディーゼルは硫黄成分がかなり減少(6ppm未満)するが、比較的高い曇り点(すなわち、−7℃、以下の表1参照)を有することに、留意されたい。添加されたキャノーラ油との、このハイブリッドディーゼル中間体混合物を、ISODEWAXING(商標)(IDW)触媒(SM−7上のPt)を用いる異性化ユニットで処理して、比較的低い曇り点(−13℃)を有するハイブリッドディーゼル生成物を得た。この、より低い曇り点は、ディーゼルをより寒い気候で使用することを可能にする。第一(水素化処理)段階から第二(異性化)段階へ向かう全流出物で、HS及びNHの中間段階除去は不要であった。
【0059】
下記の表1は、ディーゼル及び本発明の幾つかの実施形態に従って処理されたディーゼル/キャノーラ油供給原料から生じた生成物の収量/特性を比較している。処理条件は以下の通り−0.7LHSVでのHDS、全圧が700psig、H圧が525psig、及びHが1200SCFB−であった。
【表1】

【0060】
異性化触媒が高活性であるために、水素化処理触媒の650°Fよりあまり高くない684°Fで操作出来る。これは、システムの操業寿命を延ばすであろう。そしてまた、(別の反応器が好ましいが)同一の反応器で水素化処理触媒の下流での異性化触媒の使用を
可能とする。
【0061】
7.結論
上で述べたことは、植物油及び石油ディーゼルを共処理してハイブリッドディーゼルバイオ燃料組成物を得る方法及びシステムの説明である。前に述べたように、幾つかの実施形態において、本発明は、植物油と石油ディーゼルの混合物を以下の二段階で共処理する方法/システムに指向し、その二段階とは、混合物を最初に水素化処理して硫黄減少ハイブリッド中間体を得て、その後にハイブリッド中間体を異性化ユニットで処理して部分的にバイオマス由来である低曇り点ハイブリッドディーゼル生成物を得る、というものである。少なくともそのような方法/システムの注目に値する利益は、水素化処理と異性化との段階間でHS及びNHの中間段階除去を必要としないことである。
【0062】
本明細書において引用した全ての特許及び刊行物は、本明細書と矛盾しない限度まで引用により本明細書に組み込む。上記実施形態の構成、機能及び操作のあるものは、本発明を実施するために必要ではなくて、単に例示的な一つ又は複数の実施形態の完全性のための記述に含まれていることは理解されるであろう。それに加えて、上記の引用した特許及び刊行物中で説明された具体的な構成、機能、及び操作は本発明と併せて実施することができるが、それらが本発明の実施に必要不可欠ではないことは理解されるであろう。それ故、本発明は、具体的に記載した以外の別の方法でも、添付した特許請求の範囲により規定した本発明の本質及び範囲から実際に逸脱することなく実施することができることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)植物油をディーゼル燃料と組み合わせて第一混合物を形成するステップであって、植物油が第一混合物の10重量パーセント以下を構成する、ステップ、
b)第一混合物を水素化処理して第二混合物を得るステップであって、第一混合物のトリグリセリド成分が脱酸素化され、かつ、第一混合物に存在する硫黄の少なくとも95原子パーセントが第二混合物のHSに変換される、ステップ、
c)異性化触媒の存在下で第二混合物を異性化して第三混合物を得るステップであって、第三混合物が第二混合物より低い曇り点を有するハイブリッドディーゼル燃料を含有し、第二混合物のHSが異性化の前に除去されていない、ステップ、並びに、
d)第三混合物のハイブリッドディーゼル燃料を単離してハイブリッドディーゼル燃料生成物を得る、ステップ、
を備える方法。
【請求項2】
第一混合物が50ppm超の窒素成分を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一混合物が約500ppmまでの窒素成分を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
異性化触媒がSM−7支持体上のPtを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
異性化触媒がSAPO−11支持体上のPtを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
植物油が、キャノーラ、ダイズ、ナタネ、ヤシ、ピーナツ、ジャトロファ、黄色油脂、藻類、及びこれらの組合せ、からなる群から選択される1種又は複数の生物由来の油を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
水素化処理のステップがコバルト−モリブデン(Co−Mo)触媒、ニッケル−モリブデン(Ni−Mo)触媒、貴金属触媒、及びこれらの組合せ、からなる群から選択される金属又は金属合金活性水素化処理触媒成分を含有する水素化処理触媒を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
水素化処理触媒が耐火性酸化物支持体を含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水素化処理触媒がAl及びSiO−Alからなる群から選択される支持体成分を含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
水素化処理がアルミナ支持されたニッケル−モリブデン触媒を利用する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
水素化処理が550°F〜800°Fの温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
水素化処理が400psig〜2000psigのH分圧下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
水素化処理が500psig〜1500psigのH分圧下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第二混合物がHS以外で硫黄成分を20ppm以下有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
第二混合物が8℃以下の曇り点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ハイブリッドディーゼル燃料がHS以外で硫黄成分を10ppm以下有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ハイブリッドディーゼル燃料が10℃以下の曇り点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
第三混合物のHSをストリッピングすることによりハイブリッドディーゼル燃料の単離が少なくとも部分的に達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ハイブリッドディーゼル燃料生成物を生み出すためのシステムであって、
a)植物油をディーゼル燃料と組み合わせて第一混合物を形成するための混合ユニットであって、植物油が第一混合物の10重量パーセント以下を構成する、ユニット、
b)第一混合物を水素化処理して第二混合物を得るための水素化処理ユニットであって、第一混合物のトリグリセリド成分が脱酸素化されるように操作可能なユニットであり、かつ、第一混合物に存在する硫黄の少なくとも95原子パーセントが第二混合物のHSに変換される、ユニット、並びに、
c)異性化触媒の存在下で第二混合物を異性化して第三混合物を得るための異性化ユニットであって、第三混合物が第二混合物より低い曇り点を有するハイブリッドディーゼル燃料を含有し、第二混合物のHSが異性化の前に除去されていない、ユニット、
を備えるシステム。
【請求項20】
d)第三混合物のハイブリッドディーゼル燃料を単離してハイブリッドディーゼル燃料生成物を得るための単離ユニットをさらに備える、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
単離触媒がSM−7支持体上のPtを含有する、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
単離ユニットがHSストリッピングユニットを備える、請求項20に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−504686(P2012−504686A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530137(P2011−530137)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058755
【国際公開番号】WO2010/039693
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】