説明

デカンカルボン酸の製造法

本発明の対象は、異性体のデカンカルボン酸の混合物を製造する方法であり、その際に、次の工程:a)ロジウム含有触媒系を使用して線状C4オレフィンを含有する炭化水素混合物をヒドロホルミル化し;b)工程a)から得られた脂肪族C5アルデヒドの混合物をアルドール縮合し;c)工程b)からの不飽和C10アルデヒドの混合物を脂肪族C10アルデヒドに選択的水素化し;d)工程c)からの脂肪族C10アルデヒドの混合物を非接触的酸化することを実施して、異性体のデカンカルボン酸の全含量に対して2−プロピルヘプタン酸少なくとも70質量%の含量を有する混合物を得る、異性体のデカンカルボン酸の混合物を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デカンカルボン酸、殊に2−プロピルヘプタン酸の高い含量を有するデカンカルボン酸混合物の製造に関する。
【0002】
デカンカルボン酸は、例えばペルオキシエステル、洗剤および滑剤を製造するための前駆物質として使用されてよい。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許第10108474号明細書、ドイツ連邦共和国特許第10108475号明細書、ドイツ連邦共和国特許第10108476号明細書およびドイツ連邦共和国特許第10225282号明細書中には、線状ブテンの混合物のヒドロホルミル化によってペンタナール混合物を製造することが記載されている。これら全てのドイツ連邦共和国特許明細書は、少なくとも1つのヒドロホルミル化工程において、キサンテン骨格を有する、ジホスフィン配位子を有するロジウム触媒が使用されている点で共通している。前記触媒を用いて、2−ブテンは、異性体条件下でヒドロホルミル化されることができる。
【0004】
n−ペンタナールと2−メチルブタナールとの比は、85:15である。ドイツ連邦共和国特許第10108474号明細書およびドイツ連邦共和国特許第10108475号明細書には、ヒドロホルミル化が二工程で行なわれるような方法が開示されている。第1のヒドロホルミル化工程において、ロジウムおよび配位子としてのモノホスフィンからなる触媒を使用して1−ブテンは、95%の選択率で反応され、n−ペンタナールに変わる。
【0005】
未反応のブテン、主に2−ブテンは、第2のヒドロホルミル化工程において上記のロジウム/ビスホスフィンを使用して反応される。ドイツ連邦共和国特許第10108476号明細書およびドイツ連邦共和国特許第10225282号明細書では、一工程のヒドロホルミル化方法の特許保護が請求されている。全部で4つのドイツ連邦共和国特許明細書においては、n−ペンタナール/2−メチルブタナール混合物を使用してなかんずく異性体のデカンカルボン酸の混合物を製造することの特許保護が請求されている。次の工程を含む合成経路が記載されている:デカナール混合物へのペンタナール混合物のアルドール縮合、デカナール混合物へのデセナール混合物の選択的水素化および異性体のデカンカルボン酸の混合物へのデカナール混合物の酸化。
【0006】
前記合成の実施可能性が証明されているわけでもなく、実施形式が証明されているわけでもない。単に、ブチルアルデヒドからの2−エチルヘキサン酸の製造と同様に実施しうることが指摘されており、この場合には、殊に次の2つの刊行物が挙げられる。第1の引用個所は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,第A1卷,第330頁である。この中には、如何にして2−エチルヘキセナールが2−エチルヘキサナールに水素化しうるかが述べられている。反応条件は、全く挙げられていない。
【0007】
刊行物の引き合いについても何もない。第2の引用個所は、Ullmanns Encyclopaedie der Technischen Chemie,第4版 1975,第9卷,第144頁である。ここでは、詳細な記載なしに、2−エチルヘキサン酸が2−エチルヘキサナールの酸化によって製造されることができ、その際に2−エチルヘキサン酸のアルカリ金属塩の添加により、収率が増大することが記載されている。
【0008】
文献の指摘は、同様に欠けている。ドイツ連邦共和国特許第10108476号明細書には、縮合混合物(デセナール)が反応条件の選択に応じてパラジウム含有触媒の存在で部分的にデカナールに水素化されうるかまたは完全にデカノールに水素化されうることが記載されている。触媒の記載ならびに反応条件および反応の実施についての記載は、欠けている。
【0009】
即ち、デカンカルボン酸の製造法は、当業者によって費用の掛かる試験の実施なしに発揮しうるようには完全には開示されていない。
【0010】
本発明は、付加的になおイソブテンを含有する線状C4オレフィン含有炭化水素混合物を基礎に僅かな工程でデカナールを準備し、このデカナールを酸素含有ガスで高い収率で相応するデカンカルボン酸に酸化し、その際に触媒を使用することもないし、安定化する添加剤を使用することもない方法を記載するという課題に基づくものである。
【0011】
従って、本発明の対象は、異性体のデカンカルボン酸の混合物を製造する方法であり、その際に、次の工程:
a)ロジウム含有触媒系を使用して線状C4オレフィンを含有する炭化水素混合物をヒドロホルミル化し;
b)工程a)から得られた脂肪族C5アルデヒドの混合物をアルドール縮合し;
c)工程b)からの不飽和C10アルデヒドの混合物を脂肪族C10アルデヒドに選択的水素化し;
d)工程c)からの脂肪族C10アルデヒドの混合物を非接触的酸化することを実施して、異性体のデカンカルボン酸の全含量に対してプロピルヘプタン酸少なくとも70質量%の含量を有する混合物を得る。
【0012】
本発明による方法は、次の利点を有する:酸化は、極めて高い変換率の場合でも極めて選択的であり、したがって僅かな物質損失だけが生じる。また、それに応じて、廃棄しなければならない副生成物の僅かな量だけが生じる。触媒は全く使用されないので、触媒のための費用、使用される触媒の分離または触媒の二次生成物ならびにその廃棄は、生じない。
【0013】
本発明において、三工程の合成で線状ブテンから出発して製造されかつデカナール含量に対して2−プロピルヘプタナール少なくとも80質量%を含有するデカナール混合物は、相応するデカンカルボン酸に酸化される。本発明によれば、酸化は、触媒、通常は遷移金属化合物の添加もなければ、安定剤、例えばカルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の添加もなく行なわれる。
【0014】
酸化剤として、酸素、空気または酸素含有ガス混合物が使用されてよい。好ましくは、本発明による方法において、酸素または酸素10体積%超を有する酸素/窒素混合物が使用される。
【0015】
酸化は、10〜80℃の温度範囲内、殊に20〜50℃の温度範囲内、殊に25〜35℃の温度範囲内で実施される。
【0016】
反応器の頭部での気相中で測定した、絶対反応圧力は、0.1〜1MPa、殊に0.1〜0.5MPaである。
【0017】
酸化は、液体/ガス混合相中で実施される。デカナール混合物および/またはこれから生じたデカンカルボン酸混合物は、連続的液相として存在し、この連続的液相中に酸化性ガスまたはガス混合物は、導入される。このガス混合物の大部分は、分散相として存在する。
【0018】
反応器として、攪拌釜または気泡塔反応器が使用され、これらの底部付近にガス分配装置、例えばフリットまたはノズルを用いてガスが導入される。
【0019】
爆発性の混合物の形成を回避させるために、ガス空間内には、液面の上方で、ガス空間(排ガス)内の酸素含量が6体積%を越えないように大量の窒素が導入される。
【0020】
酸化は、連続的または非連続的に1つ以上の反応器中で実施されてよい。多数の反応器を使用する場合には、これらの反応器は、一列におよび/または互いに平行に結合されていてよい。
【0021】
非連続的な運転形式の場合には、60〜98%、殊に85〜95%のアルデヒドの変換率を達成しようと努力される。
【0022】
連続的な運転形式の場合には、50〜95%、殊に70〜90%のアルデヒドの変換率を達成しようと努力される。
【0023】
酸化後、反応混合物は、少なくとも70質量%の2−プロピルヘプタン酸の含量を有するデカンカルボン酸、未反応のC10アルデヒド、副生成物および場合により既に使用したデカナール中に存在する物質から成る。前記混合物中のデカンカルボン酸の含量は、50〜98質量%の範囲内、殊に80〜93質量%の範囲内にある。
【0024】
この混合物は、特に蒸留により分離される。蒸留による分離は、常圧または減圧で行なうことができる。好ましくは、蒸留による分離は、真空中で実施される。
【0025】
酸化混合物は、特に次の4つの留分に分離される:
a)本質的に酸化の際に生じた分解生成物を含有する低沸点留分、
b)主にデカナールからなるアルデヒド留分、
c)実際にデカンカルボン酸だけを含有する生成物留分、
d)高沸点留分。
【0026】
好ましくは、蒸留による分離は、連続的または半連続的に、一列に接続された3個の塔内で実施される。第1の塔内で低沸点物が、第2の塔内でアルデヒドが、および第3の塔内でデカンカルボン酸がそれぞれ塔頂生成物として分離される。第3の塔の塔底生成物として、高沸点物が生じる。
【0027】
分離された低沸点物と高沸点物は、熱的に利用されてよいし、または合成装置のための原料として使用されてよい。高沸点留分が大きな割合のデカンカルボン酸エステルを含有する場合には、この高沸点留分は、場合によりデカンカルボン酸に対して後処理されてよい。
【0028】
分離されたアルデヒド留分は、全部または一部が酸化工程に返送されてよい。
【0029】
取得されたデカンカルボン酸は、例えばペルオキシエステル、乾燥剤、洗剤、可塑剤または滑剤の製造のために使用されてよい。
【0030】
本発明による方法のための原料は、ポリ不飽和化合物およびアセチレン化合物を全く有さずかつオレフィンのシス−2−ブテン、トランス−2−ブテンおよび1−ブテンの少なくとも1つを含有する炭化水素混合物である。更に、原料中には、それぞれC4オレフィンに対してイソブテンが5質量%まで、殊に1質量%まで、特に0.2質量%まで存在していてよい。
【0031】
線状C4オレフィンを含有する工業用混合物は、ラフィネート化による低沸点ベンジン留分、FCクラッカーまたはスチームクラッカーによるC4留分、フィッシャー−トロプシュ合成による混合物、ブタンの脱水素化による混合物、メタテーゼ反応によって生じる混合物、または別の工業用プロセスからの混合物である。
【0032】
例えば、スチームクラッカーのC4留分からの線状ブテンの本発明による方法に適した混合物が取得されてよい。この場合には、第1の工程においてブタジエンが除去される。これは、ブタジエンの抽出または抽出蒸留によっても行なわれないし、ブタジエンの選択的水素化によっても行なわれない。2つの場合には、実際にブタジエン不含のC4カット、ラフィネートI、が得られる。第2の工程において、イソブテンは、例えばメタノールとの反応によるメチル−第三ブチルエーテル(MTBE)の製造またはエタノールとの反応によるエチル−第三ブチルエーテルの製造によってC4流れから除去される。
【0033】
別の方法は、第三ブタノールへのラフィネートIからのイソブテンと水との反応、またはジイソブテンへのイソブテンの酸触媒によるオリゴマー化である。今や、イソブテン不含のC4カット、ラフィネートI、は、所望のように、線状ブテンおよび場合によるブタンを含有する。場合によっては、なお1−ブテンは、蒸留により分離されてよい。ブト−1−エンまたはブト−2−エンを有する2つの留分は、本発明による方法において使用されてよい。
【0034】
更に、適した反応体を製造する方法は、ラフィネートI、ラフィネートIIまたは同様に構成された炭化水素混合物を反応塔内でヒドロ異性体化することにある。この場合には、特に2−ブテン、僅かな割合の1−ブテンおよび場合によりn−ブタンならびにイソブタンおよびイソブテンからなる混合物が取得されてよい。
【0035】
更に、本発明による方法のための使用混合物は、線状オレフィンの混合物(例えば、ラフィネートIIまたはラフィネートIII)のオリゴマー化の際に余って残留する、ブタン、場合によりイソブテン、2−ブテンおよび微少量の1−ブテンからなるC4混合物である。
【0036】
好ましくは、特に線状ブテン少なくとも15質量%を有する炭化水素が使用される。
【0037】
本発明による方法の第1の工程は、ヒドロホルミル化である。最終製品中に80%を上廻る2−プロピルヘプタン酸の含量を得るために、線状ブテンのヒドロホルミル化の際にn−ペンタナールが85%を上廻る選択率で生じることが必要である。1−ブテンだけを反応させなければならない場合には、これは、例えばロジウムとモノホスフィン、例えばトリフェニルホスフィンとからなる触媒系を用いて行なうことができる。
【0038】
また、2−ブテンを反応させなければならない場合には、ヒドロホルミル化は、異性体化条件下で実施されなければならない。即ち、反応条件下で、二重結合が全ての線状ブテン中に移動し、即ち異性体化し、ならびに末位でヒドロホルミル化する状態にある触媒が使用される。線状ブテンを、85%を、上廻るn−選択率を有する異性体の任意の割合(全てのC5アルデヒドの総和に対するn−ペンタナールの割合)でペンタナールに変換する触媒が使用される。このための触媒として、例えばドイツ連邦共和国特許第10108474号明細書、ドイツ連邦共和国特許第10108476号明細書、ドイツ連邦共和国特許第10108476号明細書およびドイツ連邦共和国特許第10225282号明細書中に記載されたビスホスフィンを使用することができる。そのために、同様に、例えば欧州特許第0213639号明細書の記載と同様に、配位子としての嵩高な芳香族ビスホスファイトを有するロジウム触媒が使用されてよい。
【0039】
本発明による方法の第2の反応工程は、デセナールへのC5アルデヒドのアルドール縮合である。第1の工程の反応生成物は、未反応の炭化水素の分離後にn−ペンタナール(バレルアルデヒド)、2−メチルブタナール、および微少量のn−ペンタナールおよび2−メチルブタノールからなる。使用炭化水素混合物がイソブテンを含有する場合には、第1の工程の反応混合物中には、3−メチルブタナールが含有されている。アルデヒド留分は、n−ペンタナール少なくとも85質量%、2−メチルブタナール15質量%未満および3−メチルブタナール5質量%未満、殊に3−メチルブタナール1質量%未満、殊に0.2質量%未満を含有する。線状C4オレフィンに富んだ混合物からのn−ペンタナール富有C5アルデヒド混合物の製造方法は、ドイツ連邦共和国特許出願第102008002187.3号中に記載されている。アルドール化生成物中の一定の異性体組成物が望ましい場合には、この異性体組成物は、例えばアルドール化の前方に位置している蒸留工程により得ることができる。蒸留において、n−バレルアルデヒドおよび2−メチルブタナールは、望ましい組成に相応して分離される。場合によっては、より明確に蒸留されてもよく、組成は、成分の1つの引続く再混入によって調節されてもよい。
【0040】
触媒として、水酸化物、炭酸水素化物、炭酸塩、カルボキシレートまたはこれらのアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の形の混合物、または第三アミンは、それぞれ水溶液として使用されてよい。特に、触媒水溶液として、アルカリ金属アルカリ液、例えば苛性ソーダ液が使用される。
【0041】
触媒水溶液中の塩基性触媒の濃度は、一般的に0.1〜10質量%、殊に0.1〜3質量%である。反応の際に水が生じるので、反応器流入管中での触媒溶液の濃度は、反応器流出管中での触媒溶液の濃度よりも高い。副反応として進行するカニッツァーロ反応のために、反応体から、および微少量で生成物からアルコールおよびカルボン酸が生じ、これらアルコールおよびカルボン酸は、触媒相中でこれらの塩の形で蓄積される。触媒溶液の一部分の排出によって、および等量の新鮮なアルカリ液の添加によって、触媒水溶液中でのカルボン酸塩の濃度は、5〜40質量%に維持されることができる。
【0042】
有機反応体相に対する触媒水溶液の含量は、幅広い範囲内で変動してよい。本発明による方法において、管状反応器を使用する場合には、少なくとも1:2、有利に1:10を上廻る質量比が考えられうる。同様のことは、攪拌釜の使用にも言えることである。
【0043】
本発明の特殊な実施態様において、触媒溶液の濃度は、排出手段または返送手段によって制御される。
【0044】
反応器出口での反応混合物の温度は、有利に80℃〜180℃、殊に120〜150℃の触媒水溶液の沸点を上廻る。攪拌釜を使用した場合には、これは、反応混合物の温度に相当する。流動管中または管状反応器中で、断熱反応を実施した場合には、この温度には、反応器の端部で初めて到達する。
【0045】
反応装置中での圧力は、相応する温度で反応混合物中の成分に蒸気圧によって制限されている。本発明によるアルドール縮合は、有利に0.1〜2.0MPa、特に有利に0.2〜0.5MPaで実行される。
【0046】
アルドール縮合の反応装置は、少なくとも攪拌釜またはカスケード型攪拌釜、または少なくとも1つの管状反応器または流動管であってよい。全ての反応器型において、攪拌装置または静的混合装置を用いて2つの相の強力な混合を用意することができる。
【0047】
本発明による方法において、C5アルデヒドのアルドール縮合は、有利に例えばドイツ連邦共和国特許出願第102009001594.9号の記載と同様に、静的混合装置で満たされた管状反応器中で実施される。
【0048】
反応器を離れる反応混合物は、触媒相と有機生成物相とに分離される。
【0049】
特に、反応の実施および後処理は、ドイツ連邦共和国特許第19956410号明細書中の記載と同様に行なわれる。
【0050】
反応器を離れる反応混合物は、短路蒸留装置中で、特に常圧に放圧される。高沸点反応体の場合には、弱い真空(0.01〜0.1MPa)に放圧されてよい。
【0051】
短路蒸留は、フラッシュ蒸留、落下型薄膜蒸発器中での蒸留、薄膜蒸発器中での蒸留または組み合わされた落下型薄膜/薄膜蒸発器中での蒸留として実施されてよい。次に記載されるフラッシュ蒸留は、技術的に最も簡単な変法であるので、好ましい変法である。短路蒸留は、反応生成物を触媒によるできるだけ少ない熱的負荷および化学的負荷に晒され、したがって最大1分間の滞留時間で実施される。比較可能な蒸留は、5分間を上廻る滞留時間を有する。短路蒸留、殊にフラッシュ蒸留は、有利に断熱的に行なわれ、それによって塔底生成物の温度は、流入管の温度より低い。
【0052】
反応生成物は、短路蒸留によって十分に、水およびC5アルデヒドを含む塔頂生成物と、アルドール縮合生成物、主にデセナールおよび水性触媒相を含む塔底生成物とに分離される。
【0053】
塔頂生成物は、水と反応体との既に記載された混合物と共に、場合によりその他の低沸点物(例えば、ペンタノール)および微少量のα,β−不飽和アルデヒド(デセナール)を維持する。塔底生成物は、デセナールと触媒相との混合物と共に場合により高級縮合生成物、反応体のカニッツァーロ反応からの生成物および微少量の反応体を含有する。
【0054】
短路蒸留からの有利に冷却されていない塔底生成物は、沈降タンク中で有機相(生成物相)と水相、即ち水性触媒相とに分離されることができる。
【0055】
有機生成物相は、水での微少量の触媒の洗浄除去後に、特に短路蒸留の塔頂生成物の水相を用いて当該処理から除去される。この粗製生成物は、直接にさらに第3の反応工程に、即ち選択的水素化に使用されることができる。場合によっては、付加的に高沸点物(高級アルドール付加生成物およびアルドール縮合生成物)は、分離されてよく、少なくとも部分的に縮合反応器中に返送されてよい。
【0056】
水性触媒相は、場合により生じる洗浄水と共にアルドール縮合反応に返送される。触媒相から副生成物のレベルを一定に維持するために僅かな一部分が排出されてよく、当量の新しい触媒によって代替されてよい。
【0057】
短路蒸留の塔頂生成物は、水の沸点下ならびに最少の共沸混合物の沸点下にある温度で縮合される。この塔頂生成物は、液体混合物を生じ、この液体混合物は、有機相と水相とに分離されることができる。
【0058】
縮合生成物の有機相は、場合によりアルドール縮合反応器中にポンプで返送され、場合によっては一部分が排出される。
【0059】
水性の下相の一部分は、例えば既述したような生成物相の洗浄のために使用されてよい。
【0060】
塔頂生成物の水相の別の部分または全部の水相は、反応水の排出のために使用される。水相中には、なお有機物質、特に反応体が溶解されている。排水は、直接に、または予め清浄化した後に排水処理プラントに供給されてよい。予めの清浄化は、蒸気ストリッピングによって、または有機物質の共沸留去によって行なうことができる。
【0061】
n−ペンタナールの縮合の場合、一次アルドール縮合生成物として2−プロピルヘプテナールが生じる。C5アルデヒド中に2−メチルブタナールが存在する場合には、交差アルドール縮合によって2−プロピル−4−メチルヘキセ−2−エナールが生じる。更に、3−メチルブタナールもC5アルデヒド混合物中に存在する場合には、他の一次アルドール縮合生成物として次の不飽和アルデヒドが生成されてよい。2−イソプロピル−5−メチルヘキセ−2−エナール、イソプロピル−4−メチルヘキセ−2−エナール、2−プロピル−5−メチルヘキセ−2−エナールおよび2−イソプロピル−ヘプテ−2−エナール。本発明によれば、2−プロピルヘプテ−2−エナールは、全部のデセナールの総和に対して90質量%を上廻る。
【0062】
デセナールと共に主に高級アルドール縮合物を含有する粗製アルドール縮合生成物は、直ぐ次の工程の前に、例えば蒸留によって生成されてよい。特に、粗製デセナール混合物は、第3の工程、選択的水素化、において使用される。
【0063】
オレフィン系二重結合だけがデセナール中で水素化される選択的水素化のために、水素化活性成分としてパラジウム、白金、ロジウムおよび/またはニッケルを含有することができる触媒が使用される。金属は、純粋な形で、酸素を有する化合物として、または合金として使用されてよい。好ましい触媒は、水素化活性金属が担体上に施された触媒である。適した担持材料は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素、二酸化チタンおよびこれらの混合酸化物ならびに活性炭である。これらの触媒の中から、特に好ましい触媒は、活性炭上のパラジウムおよび酸化アルミニウム上のパラジウムである。
【0064】
パラジウムと担体とからなる触媒の場合、パラジウム含量は、0.1〜5質量%、有利に0.2〜1質量%である。
【0065】
特に好ましくは、酸化アルミニウム、有利に0.3〜0.7質量%のPd含量を有するγ−酸化アルミニウムが使用される。触媒は、場合により減速物質、例えばアルカリ金属成分、例えばナトリウム化合物を3質量%までの濃度で含有することができる。
【0066】
水素化は、連続的または非連続的に気相中ならびに液相中で実施されてよい。液相中での水素化は、好ましい。それというのも、気相方法は、大きな体積のガスを循環させることが必要であるために、よりいっそうエネルギー費用が必要であるからである。連続的な液相水素化のために、種々の処理変法を選択することができる。これらの処理変法は、断熱式に、または実質的に等温で、すなわち10℃未満の温度上昇で、一工程または多工程で実施されてよい。多工程で実施する場合、複数の反応器は、断熱式で、または実質的に等温式で運転することもできるし、1つの反応器を断熱式に運転し、別の反応器を実質的に等温式で運転することもできる。更に、選択的水素化を真っ直ぐな通路内で実施することもできるし、生成物の返送を伴って実施することもできる。水素化は、気−液混合相中、または液相中で三相反応器内で直流で実施され、この場合水素は、自体公知の方法で水素化すべき液体中に分配される。均一な液体分配、改善された反応熱導出および高い選択率での高い空時収率のために、反応器は、特に、空の反応器の断面積1m2当たり毎時15〜300m3、殊に25〜150m3の高い液体負荷で運転される。デカナールを製造するための水素化法は、例えば米国特許第5831135号明細書中の記載と同様に、全ての反応器が生成物の返送を伴って運転される2つ以上の反応器中での液相水素化である。
【0067】
パラジウム触媒を酸化アルミニウムに対して、例えば0.5質量%使用する場合、2−プロピルヘプテナールから2−プロピルヘプタナールへの選択的水素は、特に120〜180℃、殊に140〜160℃の温度および1.5〜5MPa、殊に2〜3MPaの圧力で実施される。
【0068】
水素化生成物は、デセナールと共に、過剰の水素化によって生じた、微少量のデカノール、微少量のC5アルデヒドおよびC5アルコールおよび高沸点物、主に高級アルドール縮合生成物およびこれらの水素化生成物を含有する。前記水素化生成物中の2−プロピルヘプタナールの含量は、デカナール留分に対して85質量%を上廻る。
【0069】
粗製水素化排出物から、直ぐ次の反応工程、酸化、の前に高沸点物および/または低沸点物は、分離されることができる。好ましくは、蒸留による後処理は、省略される。
【0070】
異性体のカルボン酸の相応する混合物へのデカナール混合物の酸化は、原理的に自体公知の方法により行なうことができる。酸化剤として、酸素、空気または別の酸素含有ガス混合物が使用されてよい。酸化は、非接触的または接触的に実施されてよい。接触的に実施する場合には、遷移金属化合物、殊にコバルト化合物およびマンガン化合物が触媒として使用される。この場合、酸化は、常圧下または高められた圧力下で実施されてよい。本発明による方法により、酸化は、触媒なしに、および他の安定化添加剤なしに実施される。以下の例は、本発明を詳説するものである。
【実施例】
【0071】

2−プロピルヘプタナールの製造(アルデヒド酸化のための反応体)
線状C4オレフィンの混合物から出発して、最初に高い含量のn−ペンタナールを有する混合物を製造した。次に、n−ペンタナール(n−バレロアルデヒド)および一緒に生成された、他の脂肪族C5アルデヒドを、アルドール縮合によってアルドール縮合生成物の全体量に対して少なくとも80質量%の2−プロピルヘプテナールの含量を有するα,β−不飽和C10アルデヒドに変換した。引続き、2−プロピルヘプテナールを選択的水素化によって望ましい生成物2−プロピルヘプタナールに変換した。
【0072】
ヒドロホルミル化:
線状C4オレフィンを含有する混合物からのn−ペンタナール富有C5アルデヒド混合物の製造方法は、ドイツ連邦共和国特許出願第102008002187.3号中に記載されており、この刊行物は、根拠として使用される。
【0073】
アルドール化:
Sulzer社の静的混合要素で充填された反応器(直径20mm、長さ4000mm)からなる連続的試験装置中で、n−バレロアルデヒドを8 l/hの通過量で触媒としての2%の水性苛性ソーダ液の存在下(80 l/hの通過量)に130℃および0.3MPaで2−プロピルヘプテナールに変換した。水性触媒相を反応器からの流出後に5 lの分離容器中で80℃でアルデヒド相と分離し、循環ポンプを用いて反応器中に返送した。分離した有機相を特殊鋼からなる100 lの容器中に捕集した。
【0074】
n−バレロアルデヒドのアルドール化の粗製生成物排出物は、GC分析によれば以下の組成を質量%で有する:n−バレロアルデヒド4.93%、2−メチルブタノール0.47%、ペンタノール0.30%、2−プロピル−4−メチル−ヘキセナール0.51%、2−プロピルヘプテナール81%および残留物1.98%。
【0075】
選択的水素化:
粗製2−プロピルヘプテナールを用いてのアルドール化の排出物を、循環路装置中で選択的に、Degussa社から購入したパラジウム触媒H 14535(酸化アルミニウム上のPd0.5%)の液相中で160℃および2.5MPaで水素化し、2−プロピルヘプタナールに変える。このために、連続的に反応体200ml/hを、0.5h-1の触媒負荷に相応して触媒400ml上に導いた。
【0076】
水素化生成物の質量%での次の典型的な組成をGCにより算出した:n−バレロアルデヒド2.80%、2−メチルブタノール0.15%、n−ペンタノール2.14%、ノナン1.09%、ノナノン0.12%、2−プロピルヘプタナール86.65%、2−プロピルヘプテナール0.68%、2−プロピルヘプタノール4.27%および高沸点物2.1%。
【0077】
例1
2−プロピルヘプタン酸の製造/比較例
2−プロピルヘプタナールの液相酸化による2−プロピルヘプタン酸の製造を、加熱可能な6 lの二重ジャケット型攪拌容器中で行なった。反応体として、2−プロピルヘプタナール約86.7質量%を有する、前記の選択的水素化からの水素化生成物を使用した。
【0078】
反応バッチ量のために、反応器中で液状反応体5050gを予め装入した。反応ガスとして窒素酸素混合物を使用し、この窒素酸素混合物を下方の反応器部分中で均一にフリットを介して液体中に分配した。反応器中で30Nl/hの一定の窒素流および反応による使用後にそれぞれ排ガス中の酸素含量のオンライン測定により制御された酸素流を計量供給した。上方の反応器部分中での反応器のガス空間内に330Nl/hの一定の窒素流を計量供給した。6体積%の排気ガス中での最大酸素含量を許容した。C10アルデヒド混合物の酸化を50℃および70℃の反応温度および0.3MPaの反応圧力で実施した。酸化の進行過程を規則的な試料採取および引続くGC分析によって算出した。
【0079】
選択された反応条件下で4.5時間の試験時間後に粗製生成物が得られ、この粗製生成物の組成は、第1表、第2欄および第3欄中に記載されている。
【0080】
【表1】

【0081】
第1表から確認することができるように、2−プロピルヘプタナールを70℃の反応温度で実際に完全に反応させた。望ましい価値のある生成物2−プロピルヘプタン酸と共に、この温度で一連の副生成物、例えばC9パラフィン ノナン、C9ケトン ノナノンおよびC9アルコールを得た。副生成物の形成は、選択率の著しい減少を生じた。反応温度が50℃に低下することによって、2−プロピルヘプタン酸の形成の選択率は、改善させることができたが、しかし、変換率は、明らかに減少した。
【0082】
例2
2−プロピルヘプタン酸の製造/本発明による
例1に記載された試験方法により、2−プロピルヘプタナール約86.6質量%を有する反応体5100gが、25℃および35℃の本発明による反応温度、0.3MPaの反応圧力および排ガス中の酸素含量6体積%で液相中で酸化し、2−プロピルヘプタン酸に変えた。選択された反応条件下で6時間の試験時間後に粗製生成物を得られ、この粗製生成物の組成は、第2表、第2欄および第3欄中に記載されている。
【0083】
【表2】

【0084】
第2表から確認することができるように、2−プロピルヘプタナール酸化の選択率は、35℃への反応温度の低下によって相応して改善することができた。25℃の反応温度の場合(第2表、第2欄)、実際にC9パラフィン、C5酸およびC9ケトンは、全く形成されない。酸形成の選択率は、この温度で単にC9アルコールの形成によって減少される。同様の挙動は、35℃での酸化試験にも言えることである。この場合も選択率は、主にC9アルコールの望ましくない形成によって減少された。
【0085】
例3
Mn/Cu触媒の存在下での2−プロピルヘプタン酸の製造/比較例
本発明による方法により相応するC10カルボン酸へのC10アルデヒド混合物の酸化を触媒なしに実施する。次の例において、触媒としてのCu塩およびMn塩の存在下での2−プロピルヘプタナールの比較酸化の結果を示す。
【0086】
このために、2−プロピルヘプタナール約86.6質量%を有する反応体5040g中に酸化前に銅およびマンガン250ppmずつを酢酸塩の形で溶解した。その後に、反応混合物を例1に示した方法により35℃、反応圧力0.3MPaおよび酸素6体積%で排ガス中で酸化した。比較の目的のために、酸化を触媒なしに同じ条件下で実施した。4時間の試験時間後、生成物混合物の組成をGC分析で測定した。触媒を用いて、および触媒なしに得られた粗製生成物の組成は、第3表、第2欄および第3欄中に記載されている。
【0087】
【表3】

【0088】
第3表中に示したように、非接触的変換と比較して均質な銅マンガン触媒の存在下での2−プロピルヘプタナール酸化の変換率は、明らかに改善された。触媒存在下での4時間後の約10.42質量%の2−プロピルヘプタナールの算出された残留物含量は、非接触的酸化の際の2−プロピルヘプタナール24.71質量%の相応する残留物含量よりも少ない。しかし、接触的酸化の選択率は、触媒なしの酸化と比較して明らかに劣悪であった。第3表、第3欄から確認することができるように、副生成物、例えばノナンおよびノナノンの形成による均質な接触的酸化の際の選択率は、減少された。これは、異性体のデカンカルボン酸の収率が高い変換率にも拘わらず非接触的酸化の収率の2−プロピルヘプタン酸約55質量%と比較可能であるという結果を生じる。
【0089】
従って、この試験は、2−プロピルヘプタナールからの高い収率での2−プロピルヘプタン酸の製造のために低い温度での酸素を用いての非接触的酸化が好ましいことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異性体のデカンカルボン酸の混合物を製造する方法であって、その際に、次の工程:
a)ロジウム含有触媒系を使用して線状C4オレフィンを含有する炭化水素混合物をヒドロホルミル化し;
b)工程a)から得られた脂肪族C5アルデヒドの混合物をアルドール縮合し;
c)工程b)からの不飽和C10アルデヒドの混合物を脂肪族C10アルデヒドに選択的水素化し;
d)工程c)からの脂肪族C10アルデヒドの混合物を非接触的酸化することを実施して、異性体のデカンカルボン酸の全含量に対して2−プロピルヘプタン酸少なくとも70質量%の含量を有する混合物を得る、異性体のデカンカルボン酸の混合物を製造する方法。
【請求項2】
線状C4オレフィンを含有する、工程a)での炭化水素混合物は、線状C4オレフィンの留分に対してイソブテン5質量%までを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脂肪族C10アルデヒドの混合物を25〜35℃の温度範囲内で酸化する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
脂肪族C10アルデヒドの混合物を0.1〜1MPaの圧力で酸化する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
脂肪族C10アルデヒドの混合物を0.1〜0.5MPaの圧力で酸化する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−533589(P2012−533589A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520973(P2012−520973)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057157
【国際公開番号】WO2011/009657
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(398054432)エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (63)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oxeno GmbH
【住所又は居所原語表記】Paul−Baumann−Strasse 1, D−45764 Marl, Germany
【Fターム(参考)】