説明

デジタルホログラフィ装置

【課題】被検物の形状を一括で測定して物体光の複素振幅を正確に演算する。
【解決手段】光源11で発生したレーザ光は、エクスパンダ12を通して第1ビームスプリッタ13で参照光と物体光とに分離される。物体光は、視野絞り17を通った後に測定ステージ18にセットした被検物21を透過して第1ミラー15で第2ビームスプリッタ14に向けて反射される。一方、参照光は、第2ミラー16により第2ビームスプリッタ14に向けて反射する。CCD19は、物体光と参照光との干渉により発生する干渉縞を撮像する。演算手段24は、干渉縞データに基づいて物体光の複素振幅を求める。視野絞り17を物体光が通る光路内のうちの被検面21aに設けたので、被検物21の形状を、回折の影響を減らして精度良く像を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルホログラフィ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルホログラフィ装置は、被検物を透過又は反射する物体光と所定の参照光とを互いに干渉させ、その干渉縞をCCD(Charge Coupled Device)カメラ等の撮像手段で撮像し、撮像手段から得られる干渉縞データをパーソナルコンピュータに転送して、パーソナルコンピュータが干渉縞データに基づいて物体光の複素振幅(位相情報及び振幅情報)を求める(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−17541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、干渉縞データを取得する際に、撮像面に入射するビーム径の大きさや被検物の大きさにより、物体光の像が測定領域外にはみ出て、被検物の形状を一括で測定できない場合がある。この場合、光束の領域境界で干渉縞データが途切れることにより、測定領域境界からの回折光が広がりすぎてしまい、撮像手段で拾いきれなくなってしまう。このようになると、物体光の複素振幅を正確に演算することができないおそれがある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、被検物の形状を一括で測定して物体光の複素振幅を正確に演算することができるデジタルホログラフィ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明を例示するデジタルホログラフィ装置の一態様は、光源から出射される光を分離した、被検面を透過又は反射する物体光と所定の参照光とを干渉させる干渉光学系と;物体光と参照光との干渉により発生する干渉縞を撮像する撮像手段と;撮像手段から得られる干渉縞データに基づいて物体光の複素振幅を求める演算手段と;物体光が通る光路内のうちの被検面から被写界深度内の位置、あるいは前記位置に対して共役な位置に設けられた視野絞りと;を備えたものである。視野絞りは、物体光の光束のうちの測定領域以外を遮蔽する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のデジタルホログラフィ装置によれば、物体光の光路内で、かつ被検面から被写界深度内の位置、あるいは前記位置と共役な位置に視野絞りを設けたので、測定領域境界からの回折光をほとんど拾うことができ、よって、数値計算の誤差が低減するため、物体光の複素振幅を正確に演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のデジタルホログラフィ装置の概略の構成を示す説明図である。
【図2】視野絞りをセットしていない場合に演算して求めた位相分布を示す説明図である。
【図3】視野絞りをセットした場合に演算して求めた位相分布を示す説明図である。
【図4】被検物を反射した物体光を用いて測定するデジタルホログラフィ装置の別の実施形態の概略構成を示す説明図である。
【図5】視野絞りを被検面と共役な位置に設けたデジタルホログラフィ装置の他の実施形態の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のデジタルホログラフィ装置10は、図1に示すように、光源11、エクスパンダ12、第1及び第2ビームスプリッタ13,14、第1及び第2ミラー15,16、視野絞り17、測定ステージ18、CCD(撮像手段)19、フレームグラバ27,及びパーソナルコンピュータ(PC)20等で構成されている。なお、第1及び第2ビームスプリッタ13,14、第1及び第2ミラー15,16が干渉光学系を構成する。
【0010】
光源11は、例えば半導体レーザになっている。エクスパンダ12は、レーザービームを平行光束として拡大する光拡大レンズである。第1ビームスプリッタ13は、レーザ光を参照光と物体光とに分ける。第1ミラー15は物体光を、第2ミラー16は参照光をそれぞれ全反射する。第2ビームスプリッタ14は、第1及び第2ミラー15,16で反射した光を再び合成させる。第1ビームスプリッタ13と第1ミラー15との間の光路上には、被検物21をセットする測定ステージ18が設けられている。視野絞り17は、被検物21の測定面(被検面)21aに接する位置に配置されており、測定範囲の物体光を通過させる開口17aを持ち、測定範囲外の物体光を遮断する。
【0011】
CCD19は、物体光と参照光とが合成した光が入射する撮像面19aを有し、合成した結果生じる干渉縞を撮像する。フレームグラバ27は、リアルタイムで動画の単一フレームを一時バッファにキャプチャーし、PC20用のファイルフォーマットに変換を行う。PC20は、フレームグラバ27を介してCCD19に接続されており、CCD19で取得した干渉縞データを記憶する記録部23、及び干渉縞データに基づいて物体光の複素振幅を計算する演算部24をそれぞれ備えている。
【0012】
光源11で発生したレーザ光は、エクスパンダ12を通して第1ビームスプリッタ13で参照光と物体光とに分離される。このとき、物体光は、視野絞り17を通った後に測定ステージ18にセットした被検物21を透過して第1ミラー15で第2ビームスプリッタ14に向けて反射される。
【0013】
一方、第2ミラー16は、第1ビームスプリッタ13で分離された参照光を第2ビームスプリッタ14に向けて反射する。CCD19で撮像した干渉縞データは、記録部23に記憶される。
【0014】
第1ビームスプリッタ13で分岐された後の参照光の光路と物体光の光路の長さは、光源11から出力されるレーザ光のコヒーレンス長より小さい程度で長さが等しければよい。
【0015】
このデジタルホログラフィ装置10では、干渉縞データをホログラムとして扱い、CCD19にて撮像したホログラム干渉縞に仮想的に参照光を照射して、その回折光波により被検物21の物体光(被検物の像)の複素振幅を再生する。
【0016】
単一の干渉縞データをCCD19にて撮像し、被検物21の物体光を再生する場合、ホログラムを透過する0次回折光、実像、虚像の3つが再生されるため、これらの3つが分離して再生できるように、被検物21の物体光の光軸と参照光の光軸との間に適当な傾きを与えて、干渉縞にキャリヤ成分(周波数)がのるように構成する。前記両光軸に傾きを与えるためには、例えば、第2ミラー16の角度を調整する。この調整は、アクチュエータ25を駆動することによって行われる。
【0017】
演算部24は、干渉縞データを記録部23から読み出して、例えばフーリエ変換法を用いて被検物21の位相情報及び振幅情報を演算する。ここで、振幅と位相とを併せたものを複素振幅として説明する。
【0018】
被検物21の複素振幅の計算としては、第2ミラー16の角度を変えて干渉縞データにキャリヤ成分をのせ、キャリヤ成分をのせた干渉縞データを演算部24でフーリエ変換し、得られる0次、±1次回折光のうち+1次回折光だけを取り出し、逆フーリエ変換してこれらを干渉させて被検物21の位相情報及び振幅情報を得る。
【0019】
次に、被検物の物体光(被検物の像)の複素振幅を再生計算する方法について説明する。被検物21の物体光と参照光との干渉により発生する干渉縞の撮像面19a上での強度は、[数1]に記載の式で与えられる。ここで、参照光の複素振幅は「R」、物体光の複素振幅は「O」、「*」は複素共役、「x,y」は撮像面19aの座標での位置をそれぞれ表す。
【0020】
【数1】

乾板を用いたホログラフィでは、干渉縞を記録した乾板(ホログラム)に改めて参照光を照射すると、参照光がホログラムに記録された干渉縞にて回折し、それが記録時の物体光として振舞うので、物体光(物体像)が再生されることになる。ここでは実際に参照光を照射せずに、仮想的に参照光がホログラムに照射されたものとして、CCD19にて取得したホログラム画像からフレネル近似のもとに物体光(物体像)を再生する。ホログラムに参照光として平行光が照射されたとすると、ホログラムによる回折光、すなわち物体光の復元波面Ψは、[数2]に記載の式で表される。
【0021】
【数2】

ここで、「λ」は光源波長、「d」は復元距離(再生距離)、「x‘,y’」は像面位置での座標、「C」は複素定数を表す。したがって、復元距離dを入力し、記録した干渉縞データを用いて[数2]に記載の式を計算することにより、復元距離dにおける物体光の複素振幅が再生されることになる。なお、復元距離dは、光軸方向における撮像面19aから物体光の像再生位置(像面位置)、すなわち被検面21aまでの距離である。
【0022】
再生像には、ホログラムを透過する光(0次回折光)による像、実像、虚像の3つの像が含まれていて、被検物の形状を求めるためには、そのうちの実像あるいは虚像に注目する。ホログラム画像の記録時において、物体光と参照光との光軸が平行に近いと、それらの3つの像が重なって再生されるため、前述したように、物体光と参照光の光軸に相対的な傾きを与えて、干渉縞にキャリヤ成分をのせた状態でホログラム(干渉縞画像)を作成する。これにより、像面位置でこれらの3つの像を離れた位置に再生することができる。
【0023】
[数2]に記載の式で表される複素振幅の実部をRe(Real)[Ψ(X’,Y’)]とし、虚部をIm(Imaginary)[Ψ(X’,Y’)]とすると、被検物の物体光の振幅A、位相φは、それぞれ次の[数3]、[数4]に記載の式にて与えられる。すなわち、[数3]に記載の式にて演算されるA、及び[数4]に記載の式にて演算されるφが、それぞれ振幅データと位相データに相当する。
【0024】
【数3】

【0025】
【数4】

本実施形態では、干渉光学系のうちの物体光が通る光路内で、かつ被検面21aに接する位置に視野絞り17を設けているため、測定領域境界からの回折光のデータを大部分取り込み、計算精度を向上させることができる。すなわち、回折の影響が減少するため、被検物21の形状を高精度な像で得ることができる。また、被検面21aの周辺部においてフレネル回折による波面の乱れが観察される干渉縞に重畳してしまい、高精度に面形状測定を行うことができないことを極力防止することができる。
【0026】
図2、及び図3は、視野絞り17をセットしてない場合とセットした場合とで得た干渉縞データに基づいて位相φをそれぞれ計算し、両者の位相分布を表した画像である。視野絞り17をセットしてない時の図2の画像では、大きな横縞(高輝度水平ライン)が多数表れているのに対し、視野絞り17をセットした時の図3の画像では、綺麗に除去されていることが分かる。
【0027】
視野絞り17の位置としては、物体光のみが通過する光路で、かつ被検面21aに接する位置としているが、本発明ではこれに限らず、被検面21aから被写界深度26内であれば、何れの位置にセットしても同様な効果が得られる。被写界深度Δzは、[数5]に記載の式にて求めることができる。ここで、λは光源波長、NAは物体側の開口数をそれぞれ表す。nは被検物21の周辺の屈折率なので「1」として良い。
【0028】
[数5]
|Δz|<n・λ/(2NA
なお、絞り位置調整手段を設けて視野絞り17の位置を光軸方向に移動させるように構成してもよい。
【0029】
また、視野絞り17の開口17aの形状としては、円形、多角形等の周知の形状のものを用いることができる。特に、同じ面積の視野を取る場合、円形より四角形の方が絞りエッジ(絞り像の大きさ)とCCDエッジ(撮像範囲)との幅が大きく取れるので、望ましい。視野絞り17の大きさとしては、視野絞り17による像領域を撮像面19aが覆うことができる大きさにすればよい。
【0030】
さらに、絞り調節機構を設けて視野絞り17の開口17aの大きさを可変するように構成にしてもよい。例えば開口17aを円形又は5角形以上の多角形にする場合には、光軸中心に開口径を可変することができる多数の絞り羽根を組み合わせて駆動リングの回転により開口径を可変する絞り可変機構を、また、開口17aを矩形にする場合には、L字状をした一対のマスク部材を組み合わせて矩形開口を構成し、マスク部材を光軸中心に対角方向にずらすことで矩形開口の大きさを変えるスライド式可変機構をそれぞれ用いればよい。
【0031】
上記実施形態では、被検物21を透過する物体光を用いて測定を行うホログラフィ装置10として説明しているが、本発明では、被検物を反射する物体光を用いて測定を行うホログラフィ装置を用いてもよい。このホログラフィ装置30は、図4に示すように、光源11である半導体レーザと、エクスパンダ12、ビームスプリッタ31、全反射ミラー32、測定ステージ33、視野絞り34、CCD19、及びPC20を備えている。なお、図1で説明したと同じ部材には同符号を付与してここでの詳しい説明は省略する。
【0032】
エクスパンダ12で拡大され、ビームスプリッタ31で反射した光は、測定ステージ33にセットした被検面35aに照射される。被検面35aで反射した光は、ビームスプリッタ31を透過してCCD19の撮像面19aに入射する。
【0033】
一方、エクスパンダ12にて拡大され、ビームスプリッタ31を透過した光は、全反射ミラー32で反射される。そして、ビームスプリッタ31にて反射されて、CCD19の撮像面19aに入射する。この例では、ビームスプリッタ31、全反射ミラー32等が干渉光学系を構成している。そして、ビームスプリッタ31と測定ステージ33との間には、視野絞り34がセットされている。この視野絞り34は、被検面35aに接する位置に設けられている。なお、その位置から被写界深度36内のうちのいずれかの位置に設けてもよい。勿論、物体光のみが通過する光路で、かつ前記いずれかの位置に対して共役な位置に設けてもよいのは言うまでもない。
【0034】
被検物35で反射した光は物体光となり、全反射ミラー32で反射した光は参照光となって、両者は干渉し、CCD19によってその干渉縞の画像が撮像され、干渉縞データとしてPC20に転送されて、記録部23に記録される。
【0035】
なお、ビームスプリッタ31で分岐された後の参照光の光路と物体光の光路の長さは、光源11から出力されるレーザ光のコヒーレンス長より小さい程度で長さが等しければよい。
【0036】
図5に示すホログラフィ装置40は、物体光の通路で、かつ視野絞り41を被検面21aと共役な位置に設けている。エクスパンダ12にて拡大された光源11の光は、ビームスプリッタ42に入射する。ビームスプリッタ42で反射した光は、ミラー43で折り返され、ハーフミラー44を通過してCCD19に到達する。この光は、被検物21の物体光と干渉するための参照光となる。
【0037】
一方、ビームスプリッタ42を透過した光は、ミラー45にて折り返され、レンズ群46を通りハーフミラー44を透過して被検面21aに光を照射する。被検面21aで反射した光は、ハーフミラー44で反射して物体光としてCCD19に到達し、参照光との間に干渉をおこして干渉縞を発生する。レンズ群46は、被検物21に略平行光を照射するとともに、視野絞り41の像を被検面21aと同じ位置(被写界深度内)にする作用をなす。ビームスプリッタ42、ミラー43,45、ハーフミラー44等が干渉光学系を構成している。レンズ群46としては、所定の間隔離して設けた2つのレンズからなるものであってもよい。なお、各実施形態と同じ部材のものには同符号を付与してここでの詳しい説明を省略する。
【0038】
視野絞り41は、物体光のみが通る光路上で、かつ被検面21aに接する位置と共役な位置に設けられている。干渉縞の画像は、CCD19にて撮像され、図示していなが、前述したと同じにフレームグラバを介してPCに転送され、PCの記録部に記録される。ビームスプリッタ42で分岐した後の参照光の光路と物体光との光路長は、光源のコヒーレンス長以下で、同じ長さになるように設定されている。
【0039】
参照光と物体光との両光軸に傾きを与えるために、ミラー43を可動させているが、他の例として例えば被検物21又はハーフミラー44の傾きを調整してもよい。CCD19にて撮像した干渉縞データを用いて[数2]に記載の式で計算すれば任意の再生距離における物体光の複素振幅が得られる。そして、その複素振幅を用いて、[数3]及び[数4]に記載の式により反射光の振幅データと位相データとが得られる。この場合の復元距離dとしては、撮像面19aと被検面21aとの距離を入力すればよい。
【符号の説明】
【0040】
10,30,40 デジタルホログラフィ装置
12 エクスパンダ
13,14,31,42 ビームスプリッタ
15,16,32,43,45 全反射ミラー
17,34,41 視野絞り
18,33 測定ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射される光を分離した、所定の参照光と被検面を透過又は反射する物体光とを干渉させる干渉光学系と、
前記物体光と前記参照光との干渉により発生する干渉縞を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段から得られる干渉縞データに基づいて前記物体光の複素振幅を求める演算手段と、
前記物体光が通る光路内のうちの前記被検面から被写界深度内の位置、あるいは前記位置に対して共役な位置に設けられた視野絞りと、
を備えたことを特徴とするデジタルホログラフィ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のデジタルホログラフィ装置において、
前記視野絞りの開口の大きさを可変する可変機構を備えていることを特徴とするデジタルホログラフィ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のデジタルホログラフィ装置において、
前記視野絞りは、開口の形状が四角形になっていることを特徴とするデジタルホログラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−145361(P2012−145361A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1977(P2011−1977)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】