デスレセプター5(DR5)に特異的に結合する抗体及びこれを含む癌の予防又は治療用の組成物
【課題】デスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体及びこれを含む癌の予防又は治療用の組成物を提供する。
【解決手段】相補性決定領域に配列番号1〜3のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号4〜6のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体、並びに相補性決定領域に配列番号7〜9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10〜12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体からなる群から選択され、DR5に特異的に結合する本発明の抗体は、TRAIL-敏感性癌細胞だけではなく、さらにTRAIL-抵抗性癌細胞においてもDR5を用いた自食作用による細胞死(autophagic cell death)を誘導するので、様々な癌の予防又は治療に用いることができる。
【解決手段】相補性決定領域に配列番号1〜3のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号4〜6のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体、並びに相補性決定領域に配列番号7〜9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10〜12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体からなる群から選択され、DR5に特異的に結合する本発明の抗体は、TRAIL-敏感性癌細胞だけではなく、さらにTRAIL-抵抗性癌細胞においてもDR5を用いた自食作用による細胞死(autophagic cell death)を誘導するので、様々な癌の予防又は治療に用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体及びこれを含む癌の予防又は治療用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質p53-非依存的(p53-independent)腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor, TNFR)を介したアポトーシス(apoptosis)経路の中で、TNF-関連アポトーシス誘導リガンド(TNF-related apoptosis inducing ligand, TRAIL)によって活性化されるデスレセプターDR5又はDR4の経路を介した細胞死の機作は、正常細胞には副作用が少なくて癌細胞には特異的に細胞死を誘導するので、非常に重要な癌治療剤の開発のターゲットとされてきた(非特許文献1を参照)。
【0003】
現在、DR4又はDR5をターゲットに、癌細胞の特異的な治療剤を開発するための工夫としては、前記のデスレセプターのリガンドである組換えTRAIL(例えば、TRAILの114〜281番アミノ酸残基)を用いる方法と、デスレセプターに特異的なマウス又はヒト由来の全抗体(例えば、mAb又はIgG)の中で、アゴニスト(agonist)抗体を開発する方法とがある(非特許文献2を参照)。しかし、前記の組換えTRAILは、かなり不安定なので可溶性オリゴマーを形成するため、アポトーシス活性が20〜100倍程度減少され、さらに正常細胞である星状細胞、肝細胞、角質細胞等にも細胞毒性(cytotoxicity)と免疫作用を起こしてしまい副作用が大きい(非特許文献3を参照)。また、TRAILは、50%以上の悪性腫瘍細胞においては細胞死を誘導することができない(非特許文献4を参照)。そこで、一般的にTRAILによって死滅する癌細胞をTRAIL-敏感性(TRAIL-sensitive)癌細胞、死滅しない癌細胞をTRAIL-抵抗性(TRAIL-resistant)癌細胞と称している。
【0004】
これまでDR5と関連した細胞死を誘導するために開発された、DR5に特異的な親和度を有する抗体としては、マウス由来のモノクローナル抗体から開発されたヒト化抗体であるTRA-8(マウス由来IgG)(非特許文献5を参照)及びAD5-10(マウスIgG)(非特許文献6を参照)と、ヒト由来モノクローナル抗体であるHGS-ETR2(ヒトIgG1)(非特許文献7を参照)及びKMTR2(ヒトIgG4)(非特許文献 8を参照)等がある。
【0005】
前記抗体は、何れもTRAIL-敏感性癌細胞だけにおいて細胞死を誘導して、TRAIL-抵抗性癌細胞においては細胞死を誘導することはできなかった。また、単一抗原結合部位(monovalent)を有するFab型又はscFv型では、癌細胞において細胞死を誘導することができず(例、KMTR2)、二重抗原結合部位を(divalent)有するIgG型でのみ細胞毒性を見せるか(例、HGS-ETR2及びAD510)、IgGを架橋剤として用いることにのみ細胞死を誘導した(非特許文献9を参照)。これまでに、抗-DR5単鎖可変領域(scFv)及びFab型の抗体が癌細胞の細胞死を誘導すると報告されたことはない。
【0006】
現在、自食作用(autophagy)が癌細胞の細胞死を誘導する機作か否かは、大いに論争の余地があって(非特許文献10を参照)、ただ一部の化合物だけが自食作用による細胞死によって癌細胞を死滅させうるということが報告されている(非特許文献11を参照)。
【非特許文献1】Ashkenazi等, J. Clin. Invest., 104:155-162, 1999, 及びAshkenaze, Nat. Rev. Cancer, 2:420-430, 2002
【非特許文献2】Pollack等, Clin. Cancer Res., 7:1362-1369, 2001, Jo等、Nat Med., 6:564-567, 2000, Ichikawa等、Nat. Med., 7:954-960, 2001,及び Walczak等、Nat. Med., 5:157-161, 1999
【非特許文献3】Jo等, Nat. Med., 6:564-567, 2000
【非特許文献4】Zhang等, Cancer Gene Ther., 12:228-237, 2005
【非特許文献5】Walczak等, Nat. Med., 5:157-161
【非特許文献6】Guo等, J. Biol. Chem., 280:41940-41952, 2005
【非特許文献7】Georgakis等, Br. J. Haematol., 130:501-510, 2005
【非特許文献8】Motoki等, Clin. Cancer Res., 11:3126-3135, 2005)
【非特許文献9】Chuntharapi等, J. Immunol., 166:4891-4898, 2001, Motoki等、Clin. Cancer Res., 11:3126-3135, 2005, 及びWajant等, Oncogene, 20:4101-4106, 2001
【非特許文献10】Kondo等, Nat. Rev. Cancer, 5:726-734, 2005
【非特許文献11】Yu等, Science, 304:1500-1502, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明の目的はDR5に特異的に結合してTRAIL-敏感性及びTRAIL-抵抗性癌細胞の何れに対して自食作用による細胞死を誘導する抗体を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、前記抗体をコードするDNAを提供することである。
【0009】
本発明のまた別の目的は、前記抗体DNA又はこれを含んでいる発現ベクターで形質転換された細胞を提供することである。
【0010】
本発明のまた別の目的は、前記抗体を含んでいる癌の予防又は治療用の組成物を提供することである。
【0011】
本発明のまた別の目的は、前記抗体を用いて癌を予防又は治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は相補性決定領域(complementarity determining region, CDR)に配列番号1〜3のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号4〜6のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体、並びに相補性決定領域に配列番号7〜9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10〜12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体からなる群より選択され、ヒトデスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体を提供する。
【0013】
前記の別の目的を達成するために、本発明は、前記抗体をコードするDNAを提供する。
【0014】
前記のまた別の目的を達成するために、本発明は、前記DNA又はこれを含んでいる発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0015】
前記のまた別の目的を達成するために、本発明は、前記抗体を有効成分として含んでいる癌治療又は予防用組成物を提供する。
【0016】
前記また別の目的を達成するために、本発明は、前記抗体を対象体(subject)に投与する段階を含む、癌を予防又は治療する方法を提供する。
【0017】
本発明において、“デスレセプター5(DR5)タンパク質”とは、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーの一員であり、TRAILに結合して、C-末端に細胞内デスドメイン(death domain)を有する受容体を意味する(Pan等、Science, 277:815-818, 1997)。DR5は、TRAILに結合する場合、TRAIL-敏感性癌細胞においてアポトーシスを誘導してDR5が過発現される場合はアポトーシスが増加するが、正常細胞においては、アポトーシスを誘導しないと知られている。
【0018】
本発明において、“DR5”とは、上記の特性を有するタンパク質であれば、何れも含まれて、例えば、米国特許第6,872,568号に記載されたアミノ酸の配列を有するものであってもよいが、これに限られるものではない。
【0019】
本発明の“抗体”は、全抗体又はその機能的断片であるとよい。前記の全抗体はIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEから構成された群より選択された単体又は2つ以上の全抗体が結合された多量体であるとよい。また、“抗体の機能的断片”とは、全抗体の重鎖及び軽鎖可変領域を有する抗体として、実質的に全抗体が認識することと同一の抗原エピトープを認識することを意味する。前記抗体の機能的断片には、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2及びscFv-Fc等が含まれるが、これに限られるものではなく、scFvが好ましい。
【0020】
また、本発明において、“単鎖可変領域(scFv)”とは、重鎖可変領域と軽鎖可変領域がリンカーペプチドを介してつながれ、単鎖ポリペプチド型を取る抗体の断片を示す。
【0021】
前記抗体は、公知の方法、例えば、ファージディスプレイ法又は酵母細胞表面発現システムを用いて生成することができる。
【0022】
scFvを調剤する方法としては、例えば、米国特許第4,946,778号及び米国特許第5,258,498号に記載された方法を用いることができて、Fab、Fab’及びF(ab’)2断片を組換えて生成するための方法としては、WO 92/22324等に記載された方法を用いてもよい。
【0023】
本発明の抗体は、ヒトを除いた哺乳動物、鳥類等を含む任意の動物から由来したものでもよい。好ましくは、前記抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ又はニワトリ由来の抗体であればよい。ここで、“ヒト由来抗体”とは、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体であって、ヒト免疫グロブリンライブラリーから分離された抗体又は一つ以上のヒト免疫グロブリンに対して、形質移植され、内在的免疫グロブリンは発現しない動物から分離された抗体が含まれる(米国特許第5,939,598号を参照)。
【0024】
本発明の抗体は酵素、蛍光物質、放射線物質及びタンパク質等と結合されたものであればよいが、これらの例に限られるものではなく、抗体に前記の物質を結合する方法は公知のことである。
【0025】
本発明の抗体は、DR5タンパク質に特異的に結合する。本発明において、“特異的に結合する”とは、本発明の抗体がDR5と類似したTNFRファミリーの受容体であるDcR1(death decoy receptor1)、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95には実質的に結合しないということを示す。
【0026】
本発明の抗体において、配列番号1〜3又は7〜9のアミノ酸の配列は、各々DR5に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3に該当する配列で、配列番号4〜6又は10〜12のアミノ酸の配列は、各々DR5に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3に該当する配列である。
【0027】
本発明の抗体の好ましい例としては、各々配列番号13及び14のアミノ酸の配列を有するscFv抗体であるHW1及びHW6であり、これらは各々重鎖可変領域のCDR1〜CDR3、リンカーオリゴペプチド及び軽鎖可変領域のCDR1〜CDR3を順番に含んでいる(図1A及び図1B参照)。
【0028】
HW1及びHW6はDR5に特異的に結合して、結合解離定数(KD)は、各々約2.02×10-7M及び5.45×10-8Mである。また、前記の抗体は単分子であるscFv型で多重結合体の架橋剤なしでもTRAIL-敏感性癌細胞だけではなく、TRAIL-抵抗性癌細胞に対しても自食作用による細胞死を誘導する特性を持っているが、正常細胞に対しては細胞死を誘導しない。
【0029】
従って、本発明による抗体は、TRAILの結合部位とは異なるDR5の部位に特異的に結合して、TRAIL-抵抗性癌細胞を含んでいる様々な癌細胞の自食作用による細胞死を誘導するものと考えられるが、本発明は、特定の機作に限られるものではない。
【0030】
本発明はまた、上記の本発明による抗体をコードするDNAを提供する。
【0031】
前記DNAは、好ましくは、配列番号13又は14のアミノ酸の配列を有するscFvをコードするDNAで、より好ましくは、配列番号15又は16のヌクレオチド配列を有するDNAであるとよい。
【0032】
本発明の抗体をコードするDNA配列は、公知の方法によって得ることができる。例えば、前記抗体の重鎖及び軽鎖の一部又は全部をコードするDNA配列又は該当アミノ酸の配列に基づいて、公知のオリゴヌクレオチド合成技法、例えば、部位特異的変異の導入法(site-directed mutagenesis)及び重合酵素連鎖反応(PCR)法等を用いて所望のDNA配列の合成ができる。
【0033】
本発明はまた、前記DNA又はこれを含んでいる発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0034】
前記DNA又はこれを含んでいる発現ベクターは、公知の方法、例えばウイルス性形質感染又は非-ウイルス法等を用いて、適切な宿主細胞に導入することができる。この時、DNA又は発現ベクターの導入は、アデノウイルス性形質転換、遺伝子銃、リポソームによる形質転換及びレトロウイルス又はレンチウイルスによる形質転換、プラスミド、アデノ随伴ウイルスを含んでいるが、これに限らない公知の任意の技法により行われる。また、前記細胞は、遺伝子を長時間に亘って細胞に放出又は伝達できる適宜の担体物と共に移植されてもよい。
【0035】
本発明はまた、本発明のDNA配列又はこれを含んでいる発現ベクターを含んでいる宿主細胞を適宜の条件下で培養し、本発明の抗体を発現させる段階及び前記抗体を分離する段階を含んでいる抗体分子の生産方法を提供する。
【0036】
前記抗体分子は細胞の細胞質内に蓄積されるか、細胞から分泌されるか、適宜の信号配列によってペリプラズム又は細胞外培地(supernatant)でターゲット化できて、ペリプラズム又は細胞外培地でターゲット化されることが好ましい。また、生産された抗体分子を、当分野の公知の方法を用いてリフォールディングさせ、コンフォメーションを有するようにすることが好ましい。
【0037】
前記抗体分子の重鎖又は軽鎖ポリペプチドのみを生産する必要がある場合には、重鎖又は軽鎖ポリペプチドをコードする配列を含んでいる単一ベクターを宿主細胞に形質導入させて、重鎖及び軽鎖の何れも含んでいる抗体の生産のためには、軽鎖ポリペプチドをコードする第1ベクター及び重鎖ポリペプチドをコードする第2ベクターの2つのベクターを宿主細胞に導入するか、軽鎖及び重鎖ポリペプチドをコードする配列を全て含んでいる単一ベクターを前記の宿主細胞に導入させることもできる。
【0038】
上述したように、本発明による抗体は、DR5タンパク質に特異的に結合して、DR5を発現するTRAIL-敏感性癌細胞及びTRAIL-抵抗性癌細胞には、自食作用による細胞死を誘導して、正常細胞に対しては細胞死を誘導しないので、様々な癌の予防又は治療に用いることができる。前記の癌はTRAIL-敏感性及びTRAIL-抵抗性癌を含むDR5を発現する癌であれば何れも含まれて、例えば、乳癌、結腸癌、脳腫瘍、神経膠腫、卵巣癌、子宮内膜癌、骨肉腫、子宮頸癌、前立腺癌、肺癌、滑液癌、膵臓癌及び肉腫癌等が含まれるが、これらの例に限られるものではない。
【0039】
よって、本発明は、前記抗体を有効成分として含む癌の予防又は治療用の組成物をも提供する。
【0040】
本発明の癌の予防又は治療用の組成物は、薬理学的に許容される添加物、担体、希釈剤等をさらに含むことができる。
【0041】
本発明で使用可能な担体として、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリメリックアミノ酸、アミノ酸コポリマー及び不活性ウイルス粒子と共にゆっくり代謝される巨大分子が挙げられる。例えば、塩酸塩、塩酸ブロマイド、リン酸塩及び硫酸のような無機酸の塩や、アセテート、プロピオン塩酸、マロン酸塩、及び安息香酸塩のような有機酸の塩等の薬剤学的に許容可能な塩、水、塩水、グリセロール及びエタノールのような液体、及び浸潤剤、乳化剤又はpH緩衝物質のような補助物質を用いることができる。
【0042】
薬剤学的に許容可能な担体に関しては、文献[Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, 1991]に記載されている。
【0043】
また、前記組成物は、薬理学的分野で通常の方法によって患者の体内投与に適した単位投与型の調剤、好ましくはタンパク質医薬品の投与に有効な剤形にして、当業界で通常使用している投与方法を用いて経口、又は静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、くも膜下腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内、又は直腸経路を含む非経口投与経路によって投与できるが、これらに限られるものではない。
【0044】
このような目的に好適な剤形としては、錠剤、丸剤、糖衣剤(dragee)、散剤、カプセル剤、シロップ剤、溶液剤、ゲル剤、懸濁剤、エマルジョン、マイクロエマルジョン等の様々な経口投与用調剤、及び注射用アンプルのような注射剤、注入剤、及びハイポスプレー(hypospray)のような噴霧剤等、非経口投与用の調剤が好ましい。注射又は注入用調剤の場合には、懸濁液、溶液又はエマルジョン等の形を取ることができて、懸濁化剤、保存剤、安定化剤及び/又は分散剤のような調剤化剤を含むことができる。また、前記抗体分子は、使用前に適切な無菌液体に再調整して使用できる乾燥された形で調剤化してもよい。
【0045】
本発明の組成物は、有効成分として、胃腸管内で分解されやすい抗体分子を含んでいるので、前記組成物が胃腸管の経路によって投与されなければならない場合には、分解から抗体を保護し、抗体を放出した後には、胃腸管に吸収される薬剤を含んでいることが好ましい。
【0046】
本発明ではさらに、本発明の抗体を上述のような様々な方法で動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは、ヒトに投与する段階を含む癌の予防又は治療する方法を提供する。
【0047】
本発明による癌の予防又は治療する方法において、前記組成物又は医薬的調剤は単独又は他の抗癌治療剤、例えば、TRAIL又はその他、当分野で通常用いられる化学的抗癌治療剤等と共に併用処理することができる。
【0048】
また、本発明の抗体は、遺伝子治療法によって投与することもできる。そのためには、本発明の抗体分子がこれの重鎖及び軽鎖をコードするDNA配列から発現されて、その場所で(in situ)組合されるように当分野の通常の遺伝子治療法によって患者に導入されるべきである。
【0049】
本発明は、組成物又は薬理学的調剤の有効成分として、前記抗体は、ヒトを含む哺乳動物に対して、一日に0.01〜50mg/kg(体重)、好ましくは0.1〜20mg/kg(体重)を1回又は数回に分けて投与するとよい。しかし、有効成分の実際の投与量は、予防又は治療しようとする疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の体重、年齢及び性別、薬剤配合、反応敏感性及び治療に対する耐性/反応等の様々な関連因子に照らし合わせて決定されるべきこととして理解することである。従って、前記投与量は、何れの面からにしても本発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、下記の実施例によって本発明の範囲が制限されることではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:DR5に対する抗体力価が高い血清の選別
デスレセプターDR5及びDcR1(death decoy receptor 1)に対する抗体力価の高い血清でヒト抗体ライブラリーを構築するために、健常者60余名の血液の血清のDR5及びDcR1の各々に対する抗体力価をELISAを用いて測定した。この際、対照群抗原として、ウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。
【0052】
具体的には、96-ウェルELISA(ヌンク(Nunc)社、米国)の各ウェルを、TBS(50mM Tris-HCl, pH7.5, 50mM NaCl)に溶解した、前記各抗原(10μg/ml)100μlを用いて25℃で1時間コーティングした後、各ウェルを、TBSに0.05%のツイン20が加えられたTBSTで3回洗浄した後、3% のBSAを含むTBSを用いてブロッキングした。1:100で希釈した各血しょうサンプルを100μlずつ各ウェルに添加して、25℃で約1時間の間反応させた後、TBSTで洗浄した。各ウェルに、アルカリホスファターゼが接合された抗-ヒトIgG/IgM(2.5μg/ml,ピアス(Pierce)社)を100μl加えて25℃で1時間の間反応させた。前記プレートをTBSTで洗浄した後、p-NPP(p-nitrophenyl phosphate, 1mg/ml)を100μl添加して4時間の間反応させた後、405nmでの吸光度を測定して、各抗原に対する抗体力価を定量して、DR5及びDcR1抗原に対して高い抗体力価を示した8つの血清に対する結果を図2に示した。
【0053】
図2に示すように、選別された8つの血清は、DR5についてDcR1及び対照群であるBSAに対するものより2倍以上の高い抗体力価を示した。
【0054】
実施例2:scFv抗体ライブラリーの構築
<2-1>抗体の重鎖軽鎖の増幅
TRIzol試薬(インビトロジェン (Invitrogen)社、米国)を用いて前記実施例1で選別された8つの血液の抹消血液リンパ球から全てのRNAを抽出した後、オリゴテックスmRNAキット(キアゲン(Giagen)社、米国)を用いてmRNAを分離した。続いて、ランダムヘキサマープライマー(アマシャムファルマシアバイオサイエンス(Amersham pharmacia Bioscience)社、米国)とアキューパワーRTプリミックスキット(バイオニア(Bioneer)社、韓国)とを用いた逆転写でヒトscFv抗体の一本鎖cDNAライブラリーを増幅した。
【0055】
ヒト抗体IgG(ζ) 及びIgM(μ)の重鎖可変領域(VH)と、ヒト抗体の軽鎖可変領域(Vκ及びVλ)とを増幅するために、プライマーの組合せを用いて、95℃で2分、55℃で1分、72℃で1分の反応を30回繰り返した重合酵素連鎖反応(PCR)を1セットにし、このPCRを計71セット(VH, Vκ及びVλ遺伝子に対してそれぞれ28、16及び27セット)行った。
【0056】
前記プライマーは、文献(Little等、J. immunol. Methods, 231:3-9, 1999)において用いられたプライマーを下記のように変更して使用した。
【0057】
具体的には、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間にリンカーを挿入するために、重鎖可変領域の逆方向プライマーの5’末端に5’-CGA GCC CCC GCC ACC CGA ACC GCC CCC ACC TCT-3’(配列番号17)を追加しており、Vκ及びVλの正方向のプライマーの5’末端に5’-GGT TCG GGT GGC GGG GGC TCG GGC GGG GGT GGC TCA GAT CT-3’(配列番号18)を追加した。
【0058】
また、scFv抗体のライブラリーが酵母表面の発現ベクターとの相同組換え(homologous recombination)機作によって酵母が形質転換するべく、重鎖可変領域の正方向プライマーの5’末端に5’-AGT GGT GGT GGT GGT TCT GGT GGT GGT GGT TCT GGT GGT GGT GGT TCT GCT AGC-3’(配列番号19)を追加しており、Vκ及びVλの逆方向のプライマーの5’末端に5’-TCA GAT CTC GAG CTA TTA CAA GTC CTC TTC AGA AAT AAG CTT TTG TTC GGA TCC-3’(配列番号20)を追加した。
【0059】
<2-2>scFv抗体遺伝子の増幅
前記<2-1>のように増幅された重鎖及び軽鎖可変領域の各PCR産物を、1%のアガロースゲルにて電気泳動法により精製した。前記精製された重鎖及び軽鎖可変領域のPCR産物を同量混合した後、オーバーラップエクステンションPCR(overlap extension PCR)を行いscFv遺伝子産物を調製して、前記と同様の方法で精製した。なお、前記PCRは95℃で2分、55℃で1分、72℃で1分の反応を30回繰り返した。
【0060】
<2-3>scFv抗体遺伝子ライブラリーの構築
scFv抗体の遺伝子ライブラリー(10μg/μl)と、scFv酵母の表面発現ベクター(pCTCON, Colby等、Methods Enzymol., 388:348-358, 2004)(1μg/μl)とを混合した後、電気穿孔を用いて酵母EBY100菌株(インビトロジェン社)に形質転換させた後、選択的なSD-CAA培地(-ura, -trp, 20g/lのグルコース、アミノ酸が添加されていないYNB(yeast nitrogen base, デイフコ(Difco)社))、5.4g/lのNa2HPO4, 8.6g/lのNa2HPO4・H2O及び5g/lのカサミノ酸にて接種し増殖させた後、SD-CAA培地にてグルコースをガラクトースに置換したSG-CAA培地においてscFvの細胞表面発現を誘導するライブラリーを選別した。前記ライブラリーを含んでいる細胞をSD-CAA培地で段階的に10倍ずつ希釈してアガプレートにプレーティングしてライブラリーの大きさを決めた。
【0061】
その結果、約2×106のscFv抗体のライブラリーが構築されたことが確認された(いわゆる、類似免疫ライブラリー(pseudo-immune library))。
【0062】
実施例3:抗-DR5 scFv抗体ライブラリーの選別
前記実施例2で選別された、酵母表面に構築されているscFv抗体ライブラリーにおいてDR5に特異的に高い親和度を示すscFv抗体を選別するために、前記ライブラリー、1:100に希釈された抗-c-myc 9E10 mAb(Igセラピ(Ig Therapy)社、韓国)及びビオチン標識キット(EZ-LINKTM Sulfo-NHS-LC-Biotinylation kit, ピアス社、米国)を用いてビオチンが標識されたDR5 1μMを、1mg/mlのBSA 0.2mlが添加されたPBS(PBSB, pH7.4)に加えた後、25℃で30分間培養した。前記細胞を氷冷PBSBで洗浄した後、2次抗体としてFITC-標識された抗-マウスIgG(1:25希釈)及びフィコエリトリン(PE)が結合されたストレプトアビジン((SA-PE),モレキュラープローブ(Molecular Probes)社、米国, 1:100希釈)で標識した。標識された細胞は洗浄し、さらにPBSBに再懸濁した後、MACS(magnetic activated cell sorting)を用いて、DR5に親和度のあるscFvライブラリーを1次に浮遊させた後、FACS(fluorescence activated cell sorting)を順次行い、酵母細胞の表面に構築された抗-DR5 scFv抗体ライブラリーで抗原に結合する抗体であるHW1及びHW6を選別して、その結果を図3に示した。
【0063】
選別されたHW1及びHW6のヌクレオチド配列を正方向のプライマー5’-GTT CCA GAC TAC GCT CTG CAG G-3’(配列番号21)及び逆方向のプライマー5’-GAT TTT GTT ACA TCT ACA CTG TTG-3’(配列番号22)を用いて分析した後、アミノ酸配列を決定した。
【0064】
実施例4:抗-DR5 scFv抗体の発現及び精製
前記実施例3で選別された抗体HW1及びHW6を制限酵素NheI/BamHIを用いて、各々バクテリア発現ベクターにインフレームでクローニングした。この際、バクテリア発現ベクターは、T7プロモーター-PelBペリプラズムのターゲット配列-ヒトscFv-Flag tag-6X His tagを有するようにデザインしたpKJ1発現ベクターを使用しており(図4を参照)、前記ベクターは、pET21bベクター(ノバジェン(Novagen)社)に基づいて、PelB塩基配列及び制限酵素サイトNheI/BamHIを挿入して、C-末端にFlag tag及び6x His tagが融合されるように調剤されたものである。
【0065】
前記発現ベクターを大腸菌(E. coli BL21 (DE3), ノバジェン社)に形質転換させた後、大腸菌を37℃でOD600=0.6〜0.8程度で培養して、タンパク質発現のため、IPTG(0.5mM)を添加して、25℃で20時間の間追加培養した。前記のように培養されたバクテリアのペリプラズム分画又は上澄液からTalon樹脂(クロンテック(Clontech)社)を用いて発現された抗体を精製した後、精製された抗体の大きさ及び純度を各々SDS-PAGE及びウエスタンブロット(抗-His tag利用)を用いて分析した。その結果、約29 kDaの分子量(図5Aを参照)を有する抗体が98%以上の純度(図5Bを参照)で精製された。
【0066】
試験例1:抗-DR5 scFv抗体の型確認
前記実施例4で精製されたHW1及びHW6が溶液状態において単分子の形で存在するのか、或いは多重分子の形で存在するのかを究明するべく、サイズ排除HPLC(SEC)、還元性SDS-PAGE及び非還元性SDS-PAGEを行った。
【0067】
SECの場合、溶出緩衝液はPBS(50 mMリン酸塩、pH7.4, 150mM NaCl)で、0.7ml/分の流速、セファデックス25のサイズ排除カラム(ファルマシア(Pharmacia)社)及びAgilent 1100 HPLCシステムを用いて、280nmで吸光度を測定した。その結果を図6に示した。
【0068】
なお、還元性SDS-PAGEは、サンプル緩衝液に1mMのDTTが添加された10%のゲルを用いて、非還元性SDS-PAGEは、サンプル緩衝液に1mMのDTTが添加されていない10%のゲルを用いて行われており(Laemmli UK, Nature, 227:680-685, 1970)、その結果を図7A及び図7Bに示した。
【0069】
図6に示すように、抗体を10 mg/mlの濃度で注入した時、単分子の形で溶出することが確認できて、また、還元性SDS-PAGE(図7Aを参照)及び非還元性SDS-PAGE(図7Bを参照)においても非天然ジスルフィド結合のある多重分子の形はなかった。
【0070】
従って、本発明の抗体は、かなり高い濃度においても単分子の形で存在することが分かる。
【0071】
試験例2:抗-DR5 scFv抗体の親和度及び交差反応性測定
DR5抗原に対するHW1及びHW6の結合親和度と他の抗原DcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95とHW1及びHW6との交差反応性とをBiacore 2000 SPRバイオセンサー(ファルマシア社)を用いて測定した。
【0072】
具体的には、約0.5〜1.0mg/mlの各抗原(DR5、DcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95(R&D Systems社))を製造社の説明書に従って、CM5チップ(ファルマシア社)に約2000〜4000の反応単位で固定化した後、PBSを用いて様々な濃度で希釈した抗体HW1(200〜3200nM)及びHW6(25〜1000nM)を30μlずつ25℃で30μl/minの速度でチップに注入し、抗原との相互作用を定量した。チップの表面は25mMのNaCl/50mMのNaOHで再生して、BIA evaluation ver. 3.2ソフトウエアを用いて、運動速度定数(Kon及びKoff)と平衡解離定数(KD)を持って親和度を得て、その結果を下記の[表1]に示した。また、交差反応性を図8A〜図8Dに示した。
【0073】
【表1】
【0074】
図8A〜図8Dに示すように、HW1及びHW6はDR5に高い親和力で特異的に結合する一方(図8A及び図8Cを参照)、他の類似抗原、つまりDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95においては、かなり高い濃度(最大10μM)でも親和性はなかった(図8B及び図8Dを参照)。
【0075】
よって、本発明のHW1及びHW6は、DR5だけに特異的に結合する抗体であることが分かる。
【0076】
試験例3:抗-DR5 scFv抗体と細胞で発現されたDR5の結合確認
実際、細胞表面において発現されたDR5にHW1抗体が特異的に結合するかを調査するために、DR5の細胞外のドメイン及びYFP(yellow fluorescent protein)が結合されたタンパク質(DR5ΔCDYFP)を発現するベクターT010と、DcR2の細胞外ドメイン及びYFPが結合されたタンパク質(DcR2ΔCDYFP)を発現するベクターT30とを、Chan教授(米国マサチューセッツ大学)から得た後(Clancy等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102:18099-18104, 2005)、大腸癌の細胞であるHCT116 (ATCC (American Type culture collection))に電気穿孔を用いて形質転換させて、それぞれタンパク質が過発現されるようにした。
【0077】
前記形質転換された細胞を24-ウェルプレートの各ウェルに5×104 の細胞濃度で加えた後、30時間5%のCO2培養器で培養した。HW1とTRAIL(コマバイオテック(KOMA Biotech)社、韓国)とをAlexa633ラベリングキット(モレキュラープローブ社、米国)を用いて、各々赤色蛍光で標識した後、前記で培養された形質転換細胞に加えて、4℃で30分間反応させた。各ウェルをPBS(2%のFCS及び2%のパラホルムアルデヒドを含む)で3回洗浄した後、蛍光顕微鏡(LMS510,カールツァイス(Carl Zeiss)社)で観察し、その結果を図9A及び図9Bに示した。
【0078】
図9A及び図9Bに示すように、HW1(赤色)は、DR5ΔCDYFP(緑色)に特異的に結合して、お互い結合された色(オレンジ色) を示しているのに対し、DcR2ΔCDYFPには結合しなかった(図9Aを参照)。一方、TRAILはDR5及びDcR2に何れもよく結合するタンパク質であるので、DR5ΔCDYFP及びDcR2ΔCDYFPの何れにもよく結合する様子が確認できた(図9Bを参照)。
【0079】
従って、HW1抗体は、溶液状態のDR5だけではなく、細胞膜に発現されたDR5にも交差反応性なく、特異的に結合することが分かる。
【0080】
試験例4:抗-DR5 scFv抗体のDR5エピトープ証明
HW1及びHW6が、抗原であるDR5に結合する部位(epitope)を明らかにするため、TRAILとの競合的ELISAを行った。
【0081】
具体的には、ELISA用96-ウェルプレートの各ウェルに5〜20μg/mlのDR5を50μlコーティングした後、37℃で1時間培養した。各ウェルをPBSで3回洗浄した後、1%のBSAが含有されたPBSを加えて、37℃で1時間培養した。その後、1×10-4μg/ml〜1×103の濃度で、HW1、HW1+TRAIL、HW6及びHW6+TRAILを各ウェルに添加して37℃で1時間培養してからプレートを洗浄した後、一次抗体(抗-M2 mAb シグマ(Sigma)社)及び抗E-tag抗体(アマシャム(Amersham)社)を添加して、37℃で1時間反応させた。反応終了後、各ウェルを3回洗浄して、二次抗体(アルカリホスファターゼが接合された抗-マウスIgG Fc特異的抗体、シグマ社)を添加した後、37℃で1時間反応させた。最後に、各ウェルを3回洗浄した後、基質としてp-NPPを50μl加えて100分間反応させた後、405nmで吸光度を測定した。
【0082】
その結果、図10Aで示したように、HW1及びHW6は、何れもTRAILの存在可否に関係なく抗体濃度が増加するにつれ、DR5との結合が増加することを確認した。
【0083】
また、DR5が固定化されたプレートにHW1(5μg/ml)及びHW6(16μg/ml)を、各々予め培養して結合させた後、TRAILを0.01μg/ml〜1000μg/mlの濃度で加え、結合可否の変化を調べ、その結果を図10Bに示した。図10Bに示すように、TRAILをかなり高い高濃度(500μg/ml)まで処理した時でもHW1及びHW6が抗原に結合する度合に変化がなかった。
【0084】
従って、HW1及びHW6は、DR5に結合する時、TRAILとは全く異なる部位に結合することが分かる。
【0085】
試験例5:抗-DR5 scFv抗体の様々な癌細胞においての細胞死の誘導確認
抗-DR5ヒトscFv抗体HW1及びHW6の細胞死の誘導可能性を様々な癌細胞、つまりTRAIL-敏感性細胞株(TRAIL-sensitive cell lines)としては、ヒト急性骨髄性白血病の癌細胞であるHL60、ヒト大腸癌細胞であるHCT116及びヒト前立腺癌細胞であるDu145を、TRAIL-抵抗性細胞株(TRAIL-resistant cell lines)としては、ヒト肝臓癌細胞であるHepG2及びHuh7、ヒト脳星状癌細胞であるU87MG、及びヒトT細胞白血病癌細胞であるMolt-4(ATCC)をモデルとして用いて評価した。この際、接着性細胞であるHCT116、Du145、HepG2、Huh7及びU87MG細胞の培養用培地としては10%のFCS、100ユニット/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンが含有されたDMEM培地(ギブコインビトロジェン(Gibco Invitrogen)社)を、非接着性細胞であるHL60及びMolt-4細胞の培養用の培地としては、10%のFCS、100ユニット/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンが含有されたRPMI 1640培地を用いて、全ての培養は37℃、5%のCO2培養器で行った。
【0086】
<5-1>細胞の準備
液体窒素タンクに保管されている細胞株を取り出して37℃で素早く溶解した後、遠心分離して冷凍保管培地を除去した。遠心分離して得た細胞ペレットを培養培地でよく混ぜた後、培養フラスコに入れて培養した。2〜3日後、細胞が安定的に培養されたら、HCT116、HepG2、Du145及びU87MG細胞の場合には、TE緩衝液(トリプシン-EDTA) 1mlを処理して10% のFBSが含有されたDMEM培地5mlでTE緩衝液の反応を中止させて、1000rpmで5分間遠心分離して細胞を回収した。また、HL60及びMolt-4細胞の場合には、培養容器から直ちに細胞を回収した後、1000rpmで5分間遠心分離して細胞を回収した。
【0087】
その後、回収した細胞は、前記と同様の培養培地でそれぞれ再懸濁した後、96-ウェルプレートにウェル当りの細胞を1×104(100μl)ずつ分株して24時間培養した後、MTT分析に用いた。
【0088】
<5-2>TRAIL-敏感性癌細胞株に対する細胞死誘導分析
各ウェルに精製されたTRAIL(0.001〜1.0μg/ml)、及びHW1及びHW6抗体(0.05〜50μg/ml)をそれぞれ添加した後、TRAIL-敏感性HL60, HCT116及びDu145細胞に対する定量的な細胞死誘導効果をMTT実験(Muhlenbeck等、J Biol Chem., 275:32208-32213, 2000)を用いて確認した(図11A及び図11Bを参照)。
【0089】
具体的には、前記プレートの各ウェルにPBS 100mlで溶解したMTT(シグマ社)溶液(5mg/ml)を入れて、4〜5時間培養した後、細胞培養液とMTT溶液を除去して200mlのDMSOを添加して、MTT-ホルマザン結晶を溶解させた後、570nmでの吸光度を測定した。この時、HL-60のような非吸着性細胞株の場合、細胞培養液とMTT溶液を除去する前に、プレートを遠心分離して細胞を沈殿させた後、上澄液を除去した後で定量した。
【0090】
図11A及び図11Bで示すように、癌細胞だけ培養した対照群に比べて、TRAIL-敏感性癌細胞株であるHCT116、HL60及びDU145細胞においてTRAILを処理すると、TRAILの濃度が増加するにつれて、効率的に細胞死が起こることを確認した(図11Aを参照)。また、前記癌細胞においてHW1及びHW6を処理するとTRAILと同様に抗体の濃度が増加するにつれて、細胞死が起こることを確認した(図11Bを参照)。
【0091】
特に、前記試験例1の結果と共に本発明の抗体は、多重結合体架橋剤なしでも単分子の形で癌細胞の細胞死効果を示すことが分かる。
【0092】
<5-3>TRAIL-抵抗性癌細胞株に対する細胞死の誘導分析
TRAIL-抵抗性癌細胞株であるHepG2、U87MG、Molt-4及びHuh7細胞を用いたことを除いては、前記<5-2>と同様の方法でMTT分析及び細胞観察を行い、その結果を図12A〜図12D及び図13A及び図13Bに示した。
【0093】
図12A〜図12Dで示すように、TRAIL-抵抗性癌細胞株であるHepG2、U87MG及びMolt-4細胞においてTRAILを処理すると細胞死が全く起こらない反面(図12A及び図12Cを参照)、HW1及びHW6を処理すると、濃度に比例して効率的に細胞死を誘導することを確認した(図12B及び図12Dを参照)。
【0094】
最近、TRAIL-敏感性である癌細胞に細胞毒性を示している抗-DR5 IgG 型のmAb抗体が報告されたことはあるが、TRAIL-抵抗性癌細胞に細胞毒性を示した抗体はこれまで報告された例がない。
【0095】
また、図13A及び図13Bに示すように、TRAIL-抵抗性HepG2細胞(図13Aを参照)及びHuh7細胞(図13Bを参照)にHW1(25μg/ml)及びHW6(25μg/ml)を処理すると、20時間後には細胞死が誘導され、細胞が付着されずに死滅して培地に浮上していることが確認できるが、TRAIL(500ng/ml)を処理すると、細胞が全く死滅しないことを確認した。
【0096】
よって、本発明の抗体は多重結合体がなくても、単分子の形で癌細胞の細胞死を誘導して、特にTRAIL-抵抗性細胞株においても細胞死を誘導することが分かる。
【0097】
<5-4>正常細胞に対する細胞死誘導の分析
正常細胞に対するHW1及びHW6の細胞毒性を評価するため、正常のヒト肝細胞及び乳腺細胞(Cambrex BioScience社)及び脳星状細胞(Kim等、Oncogene, 24:838-849, 2005)を用いて、前記<5-1>及び<5-2>と同様の方法で細胞培養、MTT分析及び細胞観察を行い、その結果を図14A及び図14B、及び図15に示した。
【0098】
図14A及び図14Bに示したように、ヒト肝細胞(図14A)と乳腺細胞(図14B)においてHW1とTRAILを濃度別に処理して30時間が経過した後はTRAILと同様にHW1が最も高い濃度で処理した時にだけ約30%程度の細胞死を誘導し、それ以下の濃度では細胞死をほとんど誘導しておらず、これは癌細胞に対するものより著しく低い細胞毒性を見せている結果である。
【0099】
また、図15に示すように、正常細胞である脳星状細胞にHW1(40μg/ml)及びHW6(40μg/ml)を高濃度で処理して48時間まで観察した後でも細胞が全く死滅しないことを確認した。
【0100】
よって、本発明の抗体は癌細胞だけに細胞死を誘導して、正常細胞には細胞毒性がないことが分かる。
【0101】
試験例6:抗-DR5 scFv 抗体のDR5を介した癌細胞の細胞死誘導確認
<6-1>DR5を発現するHCT116細胞においての細胞死誘導確認
HW1が細胞表面に発現されたDR5から、細胞死を誘導するか否かを確認するために、TRAIL(100μg/ml)とHW1(5μg/ml)とによるHCT116癌細胞の細胞死の誘導過程で細胞表面に発現されたDR5と競合できる、溶液状態のDR5-Fc(DR5に抗体不変領域Fcが結合されたタンパク質)を濃度別に加えた後、30時間培養しながら細胞死の抑制程度を評価し、その結果を図16に示した。
【0102】
図16に示すように、DR5-Fcの濃度が増加するほどTRAIL及びHW1による細胞死が減少して、10μg/mlのDR5-Fcでは細胞死が完全に抑制されるという結果を得た。
【0103】
従って、HW1がTRAILと同様に細胞表面に発現されたDR5に特異的に結合して細胞死を誘導することが分かる。
【0104】
<6-2>DR5を過発現するHCT116細胞での細胞死の誘導確認
HW1がDR5が過発現された癌細胞において細胞死を誘導するか否かを確認するため、HCT116癌細胞を培養した後、スルフォラファン(10μM)を9時間処理して、DR5を過発現させた後 (Kim等、Cancer Res., 66:1740-1750, 2006)、TRAIL及びHW1を濃度別(0.01〜10μg/ml)に処理して30時間反応させた後、癌細胞の細胞死の度合をMTT方法を介して定量し、その結果を図17に示した。
【0105】
図17に示すように、スルフォラファンを処理していない対照群に比べ、スルフォラファンを処理した実験群から、TRAIL及びHW1共に同じ濃度で細胞をよりうまく死滅させることを観察した。
【0106】
よって、HW1がDR5に特異的に結合して、細胞死の信号伝達機作により癌細胞に対して細胞死を誘導することが分かる。
【0107】
試験例7:架橋剤が抗-DR5 scFv抗体の癌細胞の細胞死誘導に与える影響の評価
既存の抗-DR5抗体が二重抗原結合部位を有するIgG型では細胞死を誘導したが、単分子の形であるFab型では細胞死を誘導できなかった(Motoki等、Clin. Cancer Res., 11:3126-3135, 2005, Wajant等、Oncogene, 20:4101-4106, 2001)。これにより、本発明の抗体が単分子の形だけではなく、多重分子の形でも癌細胞に細胞死を誘導するかを確認するため、6X Hisが結合されているHW1にマウス由来の抗-His6 IgGを架橋剤として用いて、モル濃度1:1で4℃で1時間培養して多重分子を形成した。これをTRAIL-敏感性癌細胞であるHCT116とTRAIL-抵抗性癌細胞であるHepG2細胞において処理して30時間培養した後、前記試験例5の<5-2>と同様の方法でMTT分析を行って、その結果を図18に示した。
【0108】
図18に示したように、2つの細胞の何れにおいて、架橋剤の処理有無に関係なく細胞死が誘導された。
【0109】
よって、HW1が単分子の形で癌細胞に細胞死を誘導することが分かった。
【0110】
試験例8:抗-DR5 scFv抗体の細胞死機作研究
HW1がどのような細胞死経路を経て様々な癌細胞に細胞死を誘導するかを次のような方法を用いて行った。
【0111】
<8-1>透過電子顕微鏡の観察
TRAIL-敏感性癌細胞であるHCT116及びDu145、並びにTRAIL-抵抗性癌細胞である HepG2及びU87MGを、TRAIL(0.2μg/ml)及びHW1(25μg/ml)と、それぞれ5時間及び30時間培養した後、カルノフスキー溶液(100mmol/lナトリウムカコジル酸塩バッファーに2%のグルタールアルデヒド及び1%のパラホルムアルデヒドを溶解させる、pH7.4)で25℃で2時間固定化させた。これを2%のグルタールアルデヒド及び1%のパラホルムアルデヒドを含んでいる100mmol/lのナトリウムカコジル酸塩緩衝液(pH 7.4)で洗浄した後、1%の無水オスミウム酸と1.5%のフェロシアン化カリウムで1時間固定化させた。これを連続的な濃度のエタノール(50〜100%)を用いて脱水させて、ポリベット812レジン(ペルコ(Pelco)社、カナダ)の上に固定化させた後、ウルトラミクロトーム(Ultracut E, Reichert-Jung社、ドイツ)を用いて超薄膜にカットした後、透過電子顕微鏡(EM 902A, カールツァイス社、ドイツ)を用いて細胞を観察して、その結果を図19A〜図19Dに示した。
【0112】
図19A〜図19Dに示すように、TRAILによって死滅するTRAIL-敏感性癌細胞においては、核凝縮及び細胞表面に水泡(membrane blebbing)の形成が観察され、典型的なアポトーシス経路によって細胞死が誘導されることを確認した。一方、HW1を処理したTRAIL-敏感性及びTRAIL-抵抗性癌細胞においては、細胞内に多数の自食作用液胞が観察されており、この自食作用液胞内にはミトコンドリアのような細胞内小器官が破壊されていることが観察された(図19Aを参照)。
【0113】
また、さらに大きく拡大した時、多層の膜で囲まれた自食作用液胞(図19Bを参照)、二重膜で囲まれた自食作用液胞(図19Cを参照)及び空液胞と細胞内小器官とを含む液胞が結合され、自食作用液胞が形成される段階(図19Dを参照)が観察された。このような様子は、アポトーシスと明らかに区別される典型的な自食作用による細胞死を意味する(Kondo等、Nat. Rev. Cancer, 5:726-734, 2005, Tsujimoto等、Cell Death Differ., 2:1528-1534, 2005)。
【0114】
よって、本発明の抗体による様々な癌細胞の細胞死は、自食作用によることが分かる。これは、抗-DR5に対する抗体においては初めて報告されることで、DR5受容体がアポトーシスの他にも自食作用による細胞死経路によって、TRAIL-抵抗性癌細胞までも死滅させることを示した結果である。
【0115】
<8-2>ライソトラッカーレッドを用いた自食作用液胞の特異的標識実験
自食作用による細胞死は、細胞内の自食作用によって生成された液胞を特異的に標識するライソトラッカーレッド(DND-99, モレキュラープローブ社)を用いて確認することができる(Kondo等、Nat. Rev. Cancer, 5:726-734, 2005,及びTsujimoto等、Cell Death Differ., 2:1528-1534, 2005)。
【0116】
ここで、TRAIL-敏感性HCT116癌細胞と、TRAIL-抵抗性U87MG癌細胞とをHW1(25μg/ml, 20時間)処理した後、細胞を固定化させた。続いて、ライソトラッカーレッドで染めた後、蛍光顕微鏡で観察し、その結果を図20A及び図20Bに示した。
【0117】
図20A及び図20Bに示すように、HCT116癌細胞(図20Aを参照)及びU87MG癌細胞(図20Bを参照)の何れかにおいて、HW1を処理した細胞だけに特異的に染まった自食作用液胞が観察された。
【0118】
従って、HW1が癌細胞で自食作用による細胞死を誘導することが分かる。
【0119】
本発明は、上記の実施様態の側面において記述されているが、請求範囲で定義された発明の範囲内で様々な修正及び変更が可能であり、これらもまた本願発明の範囲に属するものとして理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1A】DR5に特異的に結合する抗-DR5 scFv 抗体であるHW1のアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列を示したものである(ここで、下線で表示した部分は、順番に各抗体の重鎖可変領域のCDR1〜CDR3、リンカーオリゴペプチド及び軽鎖可変領域のCDR1〜CDR3を示す)。
【図1B】DR5に特異的に結合する抗-DR5 scFv 抗体であるHW6のアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列を示したものである(ここで、下線で表示した部分は、順番に各抗体の重鎖可変領域のCDR1〜CDR3、リンカーオリゴペプチド及び軽鎖可変領域のCDR1〜CDR3を示す)。
【図2】DR5に対し高い抗体力価を示した8名の血しょう内DR5、DcR1及びBSAに対する抗体力価をELISAを用いて定量した結果である。
【図3】ビオチンで標識された(biotin-labeled) DR5を抗原として用い、酵母細胞表面に発現した抗-DR5 scFv 抗体ライブラリーを、FACS(fluorescence activated cell sorting)を用いて分離した結果である。
【図4】HW1及びHW6を各々pKJ1ベクターにクローニングして調製された大腸菌発現ベクターの模式図である。
【図5A】HW1及びHW6を大腸菌において発現させた後、SDS-PAGEで各々分析した結果である。
【図5B】HW1及びHW6を大腸菌において発現させた後、ウエスタンブロットで各々分析した結果である。
【図6】精製されたHW1及びHW6をサイズ排除クロマトグラフィーで分析した結果である。
【図7A】精製されたHW1及びHW6を還元性SDS-PAGEで各々分析した結果である。
【図7B】精製されたHW1及びHW6を非還元性SDS-PAGEで各々分析した結果である。
【図8A】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW1の交差反応性をSPR(surface plasmon resonance)を用いて定量した結果である。
【図8B】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW1の交差反応性をSPRを用いて定量した結果である。
【図8C】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW6の交差反応性をSPRを用いて定量した結果である。
【図8D】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW6の交差反応性をSPRを用いて定量した結果である。
【図9A】YFP(yellow fluorescence protein)で標識されたDR5 (DR5ΔCDYFP)及びDcR2(DcR2ΔCDYFP)は、Alexa633で標識されたHW1の結合をヒト大腸癌細胞であるHCT116細胞で観察した結果である。
【図9B】YFPで標識されたDR5 (DR5ΔCDYFP)及びDcR2(DcR2ΔCDYFP)は、Alexa633で標識されたTRAILの結合をヒト大腸癌細胞であるHCT116細胞で観察した結果である。
【図10A】HW1及びHW6が、抗原であるDR5に結合する部位がTRAILと同じかを確認した競合的ELISAの結果である。
【図10B】HW1及びHW6が、抗原であるDR5に結合する部位がTRAILと同じかを確認した競合的ELISAの結果である。
【図11A】TRAIL-敏感性HCT116、HL60及びDU145細胞において、TRAILの濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図11B】TRAIL-敏感性HCT116、HL60及びDU145細胞において、HW1及びHW6の濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12A】TRAIL-抵抗性HepG2細胞においてTRAILの濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12B】TRAIL-抵抗性HepG2細胞においてHW1及びHW6の濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12C】TRAIL-抵抗性U87MG及びMolt-4細胞においてTRAILの濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12D】TRAIL-抵抗性U87MG及びMolt-4細胞においてHW1及びHW6の濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図13A】TRAIL-抵抗性HepG2細胞において、TRAIL、HW1及びHW6による細胞死を顕微鏡で観察した結果である。
【図13B】TRAIL-抵抗性Huh7細胞において、TRAIL, HW1及びHW6による細胞死を顕微鏡で観察した結果である。
【図14A】ヒト正常細胞である肝細胞において、TRAIL及びHW1の濃度による細胞毒性のないことを示している細胞毒性の実験結果である。
【図14B】ヒト正常細胞である乳腺細胞において、TRAIL及びHW1の濃度による細胞毒性のないことを示している細胞毒性の実験結果である。
【図15】ヒト正常細胞である脳の星状細胞においてHW1及びHW6が細胞毒性を示さないことを顕微鏡で観察した結果である。
【図16】細胞膜で発現されたDR5と競合的溶液状態のDR5-Fcとを濃度別に加えた後、HW1とTRAILのHCT116細胞での細胞毒性をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図17】スルフォラファン(sulforaphane)を処理又は処理しない場合、TRAIL及びHW1によるTRAIL-敏感性HCT116細胞での細胞死をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図18】架橋剤(CL)の存在下又は不在下でTRAIL-敏感性HCT116細胞及びTRAIL-抵抗性HepG2細胞に対するHW1の細胞毒性をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図19A】HW1を処理した多様なTRAIL-敏感性細胞株(HCT116及びDu145)及びTRAIL-抵抗性細胞株(HepG2及びU87MG)の細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果である。
【図19B】HW1処理による細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果であり、多層の膜で囲まれた自食作用液胞の拡大図を示す。
【図19C】HW1処理による細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果であり、二重膜で囲まれた自食作用液胞の拡大図を示す。
【図19D】HW1処理による細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果であり、空液胞と細胞内小器官を含んでいる液胞とが結合され、自食作用液胞が形成される段階の拡大図を示す。
【図20A】HW1による癌細胞の自食作用による細胞死を細胞内自食作用液胞を特異的に標識するライソトラッカーレッド(lysotracker-red DND-99)を用いてTRAIL-敏感性HCT116細胞において観察した蛍光顕微鏡の写真である。
【図20B】HW1による癌細胞の自食作用による細胞死を細胞内自食作用液胞を特異的に標識するライソトラッカーレッド(lysotracker-red DND-99)を用いてTRAIL-抵抗性 U87MG細胞において観察した蛍光顕微鏡の写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、デスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体及びこれを含む癌の予防又は治療用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質p53-非依存的(p53-independent)腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor, TNFR)を介したアポトーシス(apoptosis)経路の中で、TNF-関連アポトーシス誘導リガンド(TNF-related apoptosis inducing ligand, TRAIL)によって活性化されるデスレセプターDR5又はDR4の経路を介した細胞死の機作は、正常細胞には副作用が少なくて癌細胞には特異的に細胞死を誘導するので、非常に重要な癌治療剤の開発のターゲットとされてきた(非特許文献1を参照)。
【0003】
現在、DR4又はDR5をターゲットに、癌細胞の特異的な治療剤を開発するための工夫としては、前記のデスレセプターのリガンドである組換えTRAIL(例えば、TRAILの114〜281番アミノ酸残基)を用いる方法と、デスレセプターに特異的なマウス又はヒト由来の全抗体(例えば、mAb又はIgG)の中で、アゴニスト(agonist)抗体を開発する方法とがある(非特許文献2を参照)。しかし、前記の組換えTRAILは、かなり不安定なので可溶性オリゴマーを形成するため、アポトーシス活性が20〜100倍程度減少され、さらに正常細胞である星状細胞、肝細胞、角質細胞等にも細胞毒性(cytotoxicity)と免疫作用を起こしてしまい副作用が大きい(非特許文献3を参照)。また、TRAILは、50%以上の悪性腫瘍細胞においては細胞死を誘導することができない(非特許文献4を参照)。そこで、一般的にTRAILによって死滅する癌細胞をTRAIL-敏感性(TRAIL-sensitive)癌細胞、死滅しない癌細胞をTRAIL-抵抗性(TRAIL-resistant)癌細胞と称している。
【0004】
これまでDR5と関連した細胞死を誘導するために開発された、DR5に特異的な親和度を有する抗体としては、マウス由来のモノクローナル抗体から開発されたヒト化抗体であるTRA-8(マウス由来IgG)(非特許文献5を参照)及びAD5-10(マウスIgG)(非特許文献6を参照)と、ヒト由来モノクローナル抗体であるHGS-ETR2(ヒトIgG1)(非特許文献7を参照)及びKMTR2(ヒトIgG4)(非特許文献 8を参照)等がある。
【0005】
前記抗体は、何れもTRAIL-敏感性癌細胞だけにおいて細胞死を誘導して、TRAIL-抵抗性癌細胞においては細胞死を誘導することはできなかった。また、単一抗原結合部位(monovalent)を有するFab型又はscFv型では、癌細胞において細胞死を誘導することができず(例、KMTR2)、二重抗原結合部位を(divalent)有するIgG型でのみ細胞毒性を見せるか(例、HGS-ETR2及びAD510)、IgGを架橋剤として用いることにのみ細胞死を誘導した(非特許文献9を参照)。これまでに、抗-DR5単鎖可変領域(scFv)及びFab型の抗体が癌細胞の細胞死を誘導すると報告されたことはない。
【0006】
現在、自食作用(autophagy)が癌細胞の細胞死を誘導する機作か否かは、大いに論争の余地があって(非特許文献10を参照)、ただ一部の化合物だけが自食作用による細胞死によって癌細胞を死滅させうるということが報告されている(非特許文献11を参照)。
【非特許文献1】Ashkenazi等, J. Clin. Invest., 104:155-162, 1999, 及びAshkenaze, Nat. Rev. Cancer, 2:420-430, 2002
【非特許文献2】Pollack等, Clin. Cancer Res., 7:1362-1369, 2001, Jo等、Nat Med., 6:564-567, 2000, Ichikawa等、Nat. Med., 7:954-960, 2001,及び Walczak等、Nat. Med., 5:157-161, 1999
【非特許文献3】Jo等, Nat. Med., 6:564-567, 2000
【非特許文献4】Zhang等, Cancer Gene Ther., 12:228-237, 2005
【非特許文献5】Walczak等, Nat. Med., 5:157-161
【非特許文献6】Guo等, J. Biol. Chem., 280:41940-41952, 2005
【非特許文献7】Georgakis等, Br. J. Haematol., 130:501-510, 2005
【非特許文献8】Motoki等, Clin. Cancer Res., 11:3126-3135, 2005)
【非特許文献9】Chuntharapi等, J. Immunol., 166:4891-4898, 2001, Motoki等、Clin. Cancer Res., 11:3126-3135, 2005, 及びWajant等, Oncogene, 20:4101-4106, 2001
【非特許文献10】Kondo等, Nat. Rev. Cancer, 5:726-734, 2005
【非特許文献11】Yu等, Science, 304:1500-1502, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明の目的はDR5に特異的に結合してTRAIL-敏感性及びTRAIL-抵抗性癌細胞の何れに対して自食作用による細胞死を誘導する抗体を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、前記抗体をコードするDNAを提供することである。
【0009】
本発明のまた別の目的は、前記抗体DNA又はこれを含んでいる発現ベクターで形質転換された細胞を提供することである。
【0010】
本発明のまた別の目的は、前記抗体を含んでいる癌の予防又は治療用の組成物を提供することである。
【0011】
本発明のまた別の目的は、前記抗体を用いて癌を予防又は治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は相補性決定領域(complementarity determining region, CDR)に配列番号1〜3のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号4〜6のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体、並びに相補性決定領域に配列番号7〜9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10〜12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体からなる群より選択され、ヒトデスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体を提供する。
【0013】
前記の別の目的を達成するために、本発明は、前記抗体をコードするDNAを提供する。
【0014】
前記のまた別の目的を達成するために、本発明は、前記DNA又はこれを含んでいる発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0015】
前記のまた別の目的を達成するために、本発明は、前記抗体を有効成分として含んでいる癌治療又は予防用組成物を提供する。
【0016】
前記また別の目的を達成するために、本発明は、前記抗体を対象体(subject)に投与する段階を含む、癌を予防又は治療する方法を提供する。
【0017】
本発明において、“デスレセプター5(DR5)タンパク質”とは、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーの一員であり、TRAILに結合して、C-末端に細胞内デスドメイン(death domain)を有する受容体を意味する(Pan等、Science, 277:815-818, 1997)。DR5は、TRAILに結合する場合、TRAIL-敏感性癌細胞においてアポトーシスを誘導してDR5が過発現される場合はアポトーシスが増加するが、正常細胞においては、アポトーシスを誘導しないと知られている。
【0018】
本発明において、“DR5”とは、上記の特性を有するタンパク質であれば、何れも含まれて、例えば、米国特許第6,872,568号に記載されたアミノ酸の配列を有するものであってもよいが、これに限られるものではない。
【0019】
本発明の“抗体”は、全抗体又はその機能的断片であるとよい。前記の全抗体はIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEから構成された群より選択された単体又は2つ以上の全抗体が結合された多量体であるとよい。また、“抗体の機能的断片”とは、全抗体の重鎖及び軽鎖可変領域を有する抗体として、実質的に全抗体が認識することと同一の抗原エピトープを認識することを意味する。前記抗体の機能的断片には、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2及びscFv-Fc等が含まれるが、これに限られるものではなく、scFvが好ましい。
【0020】
また、本発明において、“単鎖可変領域(scFv)”とは、重鎖可変領域と軽鎖可変領域がリンカーペプチドを介してつながれ、単鎖ポリペプチド型を取る抗体の断片を示す。
【0021】
前記抗体は、公知の方法、例えば、ファージディスプレイ法又は酵母細胞表面発現システムを用いて生成することができる。
【0022】
scFvを調剤する方法としては、例えば、米国特許第4,946,778号及び米国特許第5,258,498号に記載された方法を用いることができて、Fab、Fab’及びF(ab’)2断片を組換えて生成するための方法としては、WO 92/22324等に記載された方法を用いてもよい。
【0023】
本発明の抗体は、ヒトを除いた哺乳動物、鳥類等を含む任意の動物から由来したものでもよい。好ましくは、前記抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ又はニワトリ由来の抗体であればよい。ここで、“ヒト由来抗体”とは、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体であって、ヒト免疫グロブリンライブラリーから分離された抗体又は一つ以上のヒト免疫グロブリンに対して、形質移植され、内在的免疫グロブリンは発現しない動物から分離された抗体が含まれる(米国特許第5,939,598号を参照)。
【0024】
本発明の抗体は酵素、蛍光物質、放射線物質及びタンパク質等と結合されたものであればよいが、これらの例に限られるものではなく、抗体に前記の物質を結合する方法は公知のことである。
【0025】
本発明の抗体は、DR5タンパク質に特異的に結合する。本発明において、“特異的に結合する”とは、本発明の抗体がDR5と類似したTNFRファミリーの受容体であるDcR1(death decoy receptor1)、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95には実質的に結合しないということを示す。
【0026】
本発明の抗体において、配列番号1〜3又は7〜9のアミノ酸の配列は、各々DR5に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3に該当する配列で、配列番号4〜6又は10〜12のアミノ酸の配列は、各々DR5に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3に該当する配列である。
【0027】
本発明の抗体の好ましい例としては、各々配列番号13及び14のアミノ酸の配列を有するscFv抗体であるHW1及びHW6であり、これらは各々重鎖可変領域のCDR1〜CDR3、リンカーオリゴペプチド及び軽鎖可変領域のCDR1〜CDR3を順番に含んでいる(図1A及び図1B参照)。
【0028】
HW1及びHW6はDR5に特異的に結合して、結合解離定数(KD)は、各々約2.02×10-7M及び5.45×10-8Mである。また、前記の抗体は単分子であるscFv型で多重結合体の架橋剤なしでもTRAIL-敏感性癌細胞だけではなく、TRAIL-抵抗性癌細胞に対しても自食作用による細胞死を誘導する特性を持っているが、正常細胞に対しては細胞死を誘導しない。
【0029】
従って、本発明による抗体は、TRAILの結合部位とは異なるDR5の部位に特異的に結合して、TRAIL-抵抗性癌細胞を含んでいる様々な癌細胞の自食作用による細胞死を誘導するものと考えられるが、本発明は、特定の機作に限られるものではない。
【0030】
本発明はまた、上記の本発明による抗体をコードするDNAを提供する。
【0031】
前記DNAは、好ましくは、配列番号13又は14のアミノ酸の配列を有するscFvをコードするDNAで、より好ましくは、配列番号15又は16のヌクレオチド配列を有するDNAであるとよい。
【0032】
本発明の抗体をコードするDNA配列は、公知の方法によって得ることができる。例えば、前記抗体の重鎖及び軽鎖の一部又は全部をコードするDNA配列又は該当アミノ酸の配列に基づいて、公知のオリゴヌクレオチド合成技法、例えば、部位特異的変異の導入法(site-directed mutagenesis)及び重合酵素連鎖反応(PCR)法等を用いて所望のDNA配列の合成ができる。
【0033】
本発明はまた、前記DNA又はこれを含んでいる発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0034】
前記DNA又はこれを含んでいる発現ベクターは、公知の方法、例えばウイルス性形質感染又は非-ウイルス法等を用いて、適切な宿主細胞に導入することができる。この時、DNA又は発現ベクターの導入は、アデノウイルス性形質転換、遺伝子銃、リポソームによる形質転換及びレトロウイルス又はレンチウイルスによる形質転換、プラスミド、アデノ随伴ウイルスを含んでいるが、これに限らない公知の任意の技法により行われる。また、前記細胞は、遺伝子を長時間に亘って細胞に放出又は伝達できる適宜の担体物と共に移植されてもよい。
【0035】
本発明はまた、本発明のDNA配列又はこれを含んでいる発現ベクターを含んでいる宿主細胞を適宜の条件下で培養し、本発明の抗体を発現させる段階及び前記抗体を分離する段階を含んでいる抗体分子の生産方法を提供する。
【0036】
前記抗体分子は細胞の細胞質内に蓄積されるか、細胞から分泌されるか、適宜の信号配列によってペリプラズム又は細胞外培地(supernatant)でターゲット化できて、ペリプラズム又は細胞外培地でターゲット化されることが好ましい。また、生産された抗体分子を、当分野の公知の方法を用いてリフォールディングさせ、コンフォメーションを有するようにすることが好ましい。
【0037】
前記抗体分子の重鎖又は軽鎖ポリペプチドのみを生産する必要がある場合には、重鎖又は軽鎖ポリペプチドをコードする配列を含んでいる単一ベクターを宿主細胞に形質導入させて、重鎖及び軽鎖の何れも含んでいる抗体の生産のためには、軽鎖ポリペプチドをコードする第1ベクター及び重鎖ポリペプチドをコードする第2ベクターの2つのベクターを宿主細胞に導入するか、軽鎖及び重鎖ポリペプチドをコードする配列を全て含んでいる単一ベクターを前記の宿主細胞に導入させることもできる。
【0038】
上述したように、本発明による抗体は、DR5タンパク質に特異的に結合して、DR5を発現するTRAIL-敏感性癌細胞及びTRAIL-抵抗性癌細胞には、自食作用による細胞死を誘導して、正常細胞に対しては細胞死を誘導しないので、様々な癌の予防又は治療に用いることができる。前記の癌はTRAIL-敏感性及びTRAIL-抵抗性癌を含むDR5を発現する癌であれば何れも含まれて、例えば、乳癌、結腸癌、脳腫瘍、神経膠腫、卵巣癌、子宮内膜癌、骨肉腫、子宮頸癌、前立腺癌、肺癌、滑液癌、膵臓癌及び肉腫癌等が含まれるが、これらの例に限られるものではない。
【0039】
よって、本発明は、前記抗体を有効成分として含む癌の予防又は治療用の組成物をも提供する。
【0040】
本発明の癌の予防又は治療用の組成物は、薬理学的に許容される添加物、担体、希釈剤等をさらに含むことができる。
【0041】
本発明で使用可能な担体として、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリメリックアミノ酸、アミノ酸コポリマー及び不活性ウイルス粒子と共にゆっくり代謝される巨大分子が挙げられる。例えば、塩酸塩、塩酸ブロマイド、リン酸塩及び硫酸のような無機酸の塩や、アセテート、プロピオン塩酸、マロン酸塩、及び安息香酸塩のような有機酸の塩等の薬剤学的に許容可能な塩、水、塩水、グリセロール及びエタノールのような液体、及び浸潤剤、乳化剤又はpH緩衝物質のような補助物質を用いることができる。
【0042】
薬剤学的に許容可能な担体に関しては、文献[Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, 1991]に記載されている。
【0043】
また、前記組成物は、薬理学的分野で通常の方法によって患者の体内投与に適した単位投与型の調剤、好ましくはタンパク質医薬品の投与に有効な剤形にして、当業界で通常使用している投与方法を用いて経口、又は静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、くも膜下腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内、又は直腸経路を含む非経口投与経路によって投与できるが、これらに限られるものではない。
【0044】
このような目的に好適な剤形としては、錠剤、丸剤、糖衣剤(dragee)、散剤、カプセル剤、シロップ剤、溶液剤、ゲル剤、懸濁剤、エマルジョン、マイクロエマルジョン等の様々な経口投与用調剤、及び注射用アンプルのような注射剤、注入剤、及びハイポスプレー(hypospray)のような噴霧剤等、非経口投与用の調剤が好ましい。注射又は注入用調剤の場合には、懸濁液、溶液又はエマルジョン等の形を取ることができて、懸濁化剤、保存剤、安定化剤及び/又は分散剤のような調剤化剤を含むことができる。また、前記抗体分子は、使用前に適切な無菌液体に再調整して使用できる乾燥された形で調剤化してもよい。
【0045】
本発明の組成物は、有効成分として、胃腸管内で分解されやすい抗体分子を含んでいるので、前記組成物が胃腸管の経路によって投与されなければならない場合には、分解から抗体を保護し、抗体を放出した後には、胃腸管に吸収される薬剤を含んでいることが好ましい。
【0046】
本発明ではさらに、本発明の抗体を上述のような様々な方法で動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは、ヒトに投与する段階を含む癌の予防又は治療する方法を提供する。
【0047】
本発明による癌の予防又は治療する方法において、前記組成物又は医薬的調剤は単独又は他の抗癌治療剤、例えば、TRAIL又はその他、当分野で通常用いられる化学的抗癌治療剤等と共に併用処理することができる。
【0048】
また、本発明の抗体は、遺伝子治療法によって投与することもできる。そのためには、本発明の抗体分子がこれの重鎖及び軽鎖をコードするDNA配列から発現されて、その場所で(in situ)組合されるように当分野の通常の遺伝子治療法によって患者に導入されるべきである。
【0049】
本発明は、組成物又は薬理学的調剤の有効成分として、前記抗体は、ヒトを含む哺乳動物に対して、一日に0.01〜50mg/kg(体重)、好ましくは0.1〜20mg/kg(体重)を1回又は数回に分けて投与するとよい。しかし、有効成分の実際の投与量は、予防又は治療しようとする疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の体重、年齢及び性別、薬剤配合、反応敏感性及び治療に対する耐性/反応等の様々な関連因子に照らし合わせて決定されるべきこととして理解することである。従って、前記投与量は、何れの面からにしても本発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、下記の実施例によって本発明の範囲が制限されることではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:DR5に対する抗体力価が高い血清の選別
デスレセプターDR5及びDcR1(death decoy receptor 1)に対する抗体力価の高い血清でヒト抗体ライブラリーを構築するために、健常者60余名の血液の血清のDR5及びDcR1の各々に対する抗体力価をELISAを用いて測定した。この際、対照群抗原として、ウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。
【0052】
具体的には、96-ウェルELISA(ヌンク(Nunc)社、米国)の各ウェルを、TBS(50mM Tris-HCl, pH7.5, 50mM NaCl)に溶解した、前記各抗原(10μg/ml)100μlを用いて25℃で1時間コーティングした後、各ウェルを、TBSに0.05%のツイン20が加えられたTBSTで3回洗浄した後、3% のBSAを含むTBSを用いてブロッキングした。1:100で希釈した各血しょうサンプルを100μlずつ各ウェルに添加して、25℃で約1時間の間反応させた後、TBSTで洗浄した。各ウェルに、アルカリホスファターゼが接合された抗-ヒトIgG/IgM(2.5μg/ml,ピアス(Pierce)社)を100μl加えて25℃で1時間の間反応させた。前記プレートをTBSTで洗浄した後、p-NPP(p-nitrophenyl phosphate, 1mg/ml)を100μl添加して4時間の間反応させた後、405nmでの吸光度を測定して、各抗原に対する抗体力価を定量して、DR5及びDcR1抗原に対して高い抗体力価を示した8つの血清に対する結果を図2に示した。
【0053】
図2に示すように、選別された8つの血清は、DR5についてDcR1及び対照群であるBSAに対するものより2倍以上の高い抗体力価を示した。
【0054】
実施例2:scFv抗体ライブラリーの構築
<2-1>抗体の重鎖軽鎖の増幅
TRIzol試薬(インビトロジェン (Invitrogen)社、米国)を用いて前記実施例1で選別された8つの血液の抹消血液リンパ球から全てのRNAを抽出した後、オリゴテックスmRNAキット(キアゲン(Giagen)社、米国)を用いてmRNAを分離した。続いて、ランダムヘキサマープライマー(アマシャムファルマシアバイオサイエンス(Amersham pharmacia Bioscience)社、米国)とアキューパワーRTプリミックスキット(バイオニア(Bioneer)社、韓国)とを用いた逆転写でヒトscFv抗体の一本鎖cDNAライブラリーを増幅した。
【0055】
ヒト抗体IgG(ζ) 及びIgM(μ)の重鎖可変領域(VH)と、ヒト抗体の軽鎖可変領域(Vκ及びVλ)とを増幅するために、プライマーの組合せを用いて、95℃で2分、55℃で1分、72℃で1分の反応を30回繰り返した重合酵素連鎖反応(PCR)を1セットにし、このPCRを計71セット(VH, Vκ及びVλ遺伝子に対してそれぞれ28、16及び27セット)行った。
【0056】
前記プライマーは、文献(Little等、J. immunol. Methods, 231:3-9, 1999)において用いられたプライマーを下記のように変更して使用した。
【0057】
具体的には、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間にリンカーを挿入するために、重鎖可変領域の逆方向プライマーの5’末端に5’-CGA GCC CCC GCC ACC CGA ACC GCC CCC ACC TCT-3’(配列番号17)を追加しており、Vκ及びVλの正方向のプライマーの5’末端に5’-GGT TCG GGT GGC GGG GGC TCG GGC GGG GGT GGC TCA GAT CT-3’(配列番号18)を追加した。
【0058】
また、scFv抗体のライブラリーが酵母表面の発現ベクターとの相同組換え(homologous recombination)機作によって酵母が形質転換するべく、重鎖可変領域の正方向プライマーの5’末端に5’-AGT GGT GGT GGT GGT TCT GGT GGT GGT GGT TCT GGT GGT GGT GGT TCT GCT AGC-3’(配列番号19)を追加しており、Vκ及びVλの逆方向のプライマーの5’末端に5’-TCA GAT CTC GAG CTA TTA CAA GTC CTC TTC AGA AAT AAG CTT TTG TTC GGA TCC-3’(配列番号20)を追加した。
【0059】
<2-2>scFv抗体遺伝子の増幅
前記<2-1>のように増幅された重鎖及び軽鎖可変領域の各PCR産物を、1%のアガロースゲルにて電気泳動法により精製した。前記精製された重鎖及び軽鎖可変領域のPCR産物を同量混合した後、オーバーラップエクステンションPCR(overlap extension PCR)を行いscFv遺伝子産物を調製して、前記と同様の方法で精製した。なお、前記PCRは95℃で2分、55℃で1分、72℃で1分の反応を30回繰り返した。
【0060】
<2-3>scFv抗体遺伝子ライブラリーの構築
scFv抗体の遺伝子ライブラリー(10μg/μl)と、scFv酵母の表面発現ベクター(pCTCON, Colby等、Methods Enzymol., 388:348-358, 2004)(1μg/μl)とを混合した後、電気穿孔を用いて酵母EBY100菌株(インビトロジェン社)に形質転換させた後、選択的なSD-CAA培地(-ura, -trp, 20g/lのグルコース、アミノ酸が添加されていないYNB(yeast nitrogen base, デイフコ(Difco)社))、5.4g/lのNa2HPO4, 8.6g/lのNa2HPO4・H2O及び5g/lのカサミノ酸にて接種し増殖させた後、SD-CAA培地にてグルコースをガラクトースに置換したSG-CAA培地においてscFvの細胞表面発現を誘導するライブラリーを選別した。前記ライブラリーを含んでいる細胞をSD-CAA培地で段階的に10倍ずつ希釈してアガプレートにプレーティングしてライブラリーの大きさを決めた。
【0061】
その結果、約2×106のscFv抗体のライブラリーが構築されたことが確認された(いわゆる、類似免疫ライブラリー(pseudo-immune library))。
【0062】
実施例3:抗-DR5 scFv抗体ライブラリーの選別
前記実施例2で選別された、酵母表面に構築されているscFv抗体ライブラリーにおいてDR5に特異的に高い親和度を示すscFv抗体を選別するために、前記ライブラリー、1:100に希釈された抗-c-myc 9E10 mAb(Igセラピ(Ig Therapy)社、韓国)及びビオチン標識キット(EZ-LINKTM Sulfo-NHS-LC-Biotinylation kit, ピアス社、米国)を用いてビオチンが標識されたDR5 1μMを、1mg/mlのBSA 0.2mlが添加されたPBS(PBSB, pH7.4)に加えた後、25℃で30分間培養した。前記細胞を氷冷PBSBで洗浄した後、2次抗体としてFITC-標識された抗-マウスIgG(1:25希釈)及びフィコエリトリン(PE)が結合されたストレプトアビジン((SA-PE),モレキュラープローブ(Molecular Probes)社、米国, 1:100希釈)で標識した。標識された細胞は洗浄し、さらにPBSBに再懸濁した後、MACS(magnetic activated cell sorting)を用いて、DR5に親和度のあるscFvライブラリーを1次に浮遊させた後、FACS(fluorescence activated cell sorting)を順次行い、酵母細胞の表面に構築された抗-DR5 scFv抗体ライブラリーで抗原に結合する抗体であるHW1及びHW6を選別して、その結果を図3に示した。
【0063】
選別されたHW1及びHW6のヌクレオチド配列を正方向のプライマー5’-GTT CCA GAC TAC GCT CTG CAG G-3’(配列番号21)及び逆方向のプライマー5’-GAT TTT GTT ACA TCT ACA CTG TTG-3’(配列番号22)を用いて分析した後、アミノ酸配列を決定した。
【0064】
実施例4:抗-DR5 scFv抗体の発現及び精製
前記実施例3で選別された抗体HW1及びHW6を制限酵素NheI/BamHIを用いて、各々バクテリア発現ベクターにインフレームでクローニングした。この際、バクテリア発現ベクターは、T7プロモーター-PelBペリプラズムのターゲット配列-ヒトscFv-Flag tag-6X His tagを有するようにデザインしたpKJ1発現ベクターを使用しており(図4を参照)、前記ベクターは、pET21bベクター(ノバジェン(Novagen)社)に基づいて、PelB塩基配列及び制限酵素サイトNheI/BamHIを挿入して、C-末端にFlag tag及び6x His tagが融合されるように調剤されたものである。
【0065】
前記発現ベクターを大腸菌(E. coli BL21 (DE3), ノバジェン社)に形質転換させた後、大腸菌を37℃でOD600=0.6〜0.8程度で培養して、タンパク質発現のため、IPTG(0.5mM)を添加して、25℃で20時間の間追加培養した。前記のように培養されたバクテリアのペリプラズム分画又は上澄液からTalon樹脂(クロンテック(Clontech)社)を用いて発現された抗体を精製した後、精製された抗体の大きさ及び純度を各々SDS-PAGE及びウエスタンブロット(抗-His tag利用)を用いて分析した。その結果、約29 kDaの分子量(図5Aを参照)を有する抗体が98%以上の純度(図5Bを参照)で精製された。
【0066】
試験例1:抗-DR5 scFv抗体の型確認
前記実施例4で精製されたHW1及びHW6が溶液状態において単分子の形で存在するのか、或いは多重分子の形で存在するのかを究明するべく、サイズ排除HPLC(SEC)、還元性SDS-PAGE及び非還元性SDS-PAGEを行った。
【0067】
SECの場合、溶出緩衝液はPBS(50 mMリン酸塩、pH7.4, 150mM NaCl)で、0.7ml/分の流速、セファデックス25のサイズ排除カラム(ファルマシア(Pharmacia)社)及びAgilent 1100 HPLCシステムを用いて、280nmで吸光度を測定した。その結果を図6に示した。
【0068】
なお、還元性SDS-PAGEは、サンプル緩衝液に1mMのDTTが添加された10%のゲルを用いて、非還元性SDS-PAGEは、サンプル緩衝液に1mMのDTTが添加されていない10%のゲルを用いて行われており(Laemmli UK, Nature, 227:680-685, 1970)、その結果を図7A及び図7Bに示した。
【0069】
図6に示すように、抗体を10 mg/mlの濃度で注入した時、単分子の形で溶出することが確認できて、また、還元性SDS-PAGE(図7Aを参照)及び非還元性SDS-PAGE(図7Bを参照)においても非天然ジスルフィド結合のある多重分子の形はなかった。
【0070】
従って、本発明の抗体は、かなり高い濃度においても単分子の形で存在することが分かる。
【0071】
試験例2:抗-DR5 scFv抗体の親和度及び交差反応性測定
DR5抗原に対するHW1及びHW6の結合親和度と他の抗原DcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95とHW1及びHW6との交差反応性とをBiacore 2000 SPRバイオセンサー(ファルマシア社)を用いて測定した。
【0072】
具体的には、約0.5〜1.0mg/mlの各抗原(DR5、DcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95(R&D Systems社))を製造社の説明書に従って、CM5チップ(ファルマシア社)に約2000〜4000の反応単位で固定化した後、PBSを用いて様々な濃度で希釈した抗体HW1(200〜3200nM)及びHW6(25〜1000nM)を30μlずつ25℃で30μl/minの速度でチップに注入し、抗原との相互作用を定量した。チップの表面は25mMのNaCl/50mMのNaOHで再生して、BIA evaluation ver. 3.2ソフトウエアを用いて、運動速度定数(Kon及びKoff)と平衡解離定数(KD)を持って親和度を得て、その結果を下記の[表1]に示した。また、交差反応性を図8A〜図8Dに示した。
【0073】
【表1】
【0074】
図8A〜図8Dに示すように、HW1及びHW6はDR5に高い親和力で特異的に結合する一方(図8A及び図8Cを参照)、他の類似抗原、つまりDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95においては、かなり高い濃度(最大10μM)でも親和性はなかった(図8B及び図8Dを参照)。
【0075】
よって、本発明のHW1及びHW6は、DR5だけに特異的に結合する抗体であることが分かる。
【0076】
試験例3:抗-DR5 scFv抗体と細胞で発現されたDR5の結合確認
実際、細胞表面において発現されたDR5にHW1抗体が特異的に結合するかを調査するために、DR5の細胞外のドメイン及びYFP(yellow fluorescent protein)が結合されたタンパク質(DR5ΔCDYFP)を発現するベクターT010と、DcR2の細胞外ドメイン及びYFPが結合されたタンパク質(DcR2ΔCDYFP)を発現するベクターT30とを、Chan教授(米国マサチューセッツ大学)から得た後(Clancy等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102:18099-18104, 2005)、大腸癌の細胞であるHCT116 (ATCC (American Type culture collection))に電気穿孔を用いて形質転換させて、それぞれタンパク質が過発現されるようにした。
【0077】
前記形質転換された細胞を24-ウェルプレートの各ウェルに5×104 の細胞濃度で加えた後、30時間5%のCO2培養器で培養した。HW1とTRAIL(コマバイオテック(KOMA Biotech)社、韓国)とをAlexa633ラベリングキット(モレキュラープローブ社、米国)を用いて、各々赤色蛍光で標識した後、前記で培養された形質転換細胞に加えて、4℃で30分間反応させた。各ウェルをPBS(2%のFCS及び2%のパラホルムアルデヒドを含む)で3回洗浄した後、蛍光顕微鏡(LMS510,カールツァイス(Carl Zeiss)社)で観察し、その結果を図9A及び図9Bに示した。
【0078】
図9A及び図9Bに示すように、HW1(赤色)は、DR5ΔCDYFP(緑色)に特異的に結合して、お互い結合された色(オレンジ色) を示しているのに対し、DcR2ΔCDYFPには結合しなかった(図9Aを参照)。一方、TRAILはDR5及びDcR2に何れもよく結合するタンパク質であるので、DR5ΔCDYFP及びDcR2ΔCDYFPの何れにもよく結合する様子が確認できた(図9Bを参照)。
【0079】
従って、HW1抗体は、溶液状態のDR5だけではなく、細胞膜に発現されたDR5にも交差反応性なく、特異的に結合することが分かる。
【0080】
試験例4:抗-DR5 scFv抗体のDR5エピトープ証明
HW1及びHW6が、抗原であるDR5に結合する部位(epitope)を明らかにするため、TRAILとの競合的ELISAを行った。
【0081】
具体的には、ELISA用96-ウェルプレートの各ウェルに5〜20μg/mlのDR5を50μlコーティングした後、37℃で1時間培養した。各ウェルをPBSで3回洗浄した後、1%のBSAが含有されたPBSを加えて、37℃で1時間培養した。その後、1×10-4μg/ml〜1×103の濃度で、HW1、HW1+TRAIL、HW6及びHW6+TRAILを各ウェルに添加して37℃で1時間培養してからプレートを洗浄した後、一次抗体(抗-M2 mAb シグマ(Sigma)社)及び抗E-tag抗体(アマシャム(Amersham)社)を添加して、37℃で1時間反応させた。反応終了後、各ウェルを3回洗浄して、二次抗体(アルカリホスファターゼが接合された抗-マウスIgG Fc特異的抗体、シグマ社)を添加した後、37℃で1時間反応させた。最後に、各ウェルを3回洗浄した後、基質としてp-NPPを50μl加えて100分間反応させた後、405nmで吸光度を測定した。
【0082】
その結果、図10Aで示したように、HW1及びHW6は、何れもTRAILの存在可否に関係なく抗体濃度が増加するにつれ、DR5との結合が増加することを確認した。
【0083】
また、DR5が固定化されたプレートにHW1(5μg/ml)及びHW6(16μg/ml)を、各々予め培養して結合させた後、TRAILを0.01μg/ml〜1000μg/mlの濃度で加え、結合可否の変化を調べ、その結果を図10Bに示した。図10Bに示すように、TRAILをかなり高い高濃度(500μg/ml)まで処理した時でもHW1及びHW6が抗原に結合する度合に変化がなかった。
【0084】
従って、HW1及びHW6は、DR5に結合する時、TRAILとは全く異なる部位に結合することが分かる。
【0085】
試験例5:抗-DR5 scFv抗体の様々な癌細胞においての細胞死の誘導確認
抗-DR5ヒトscFv抗体HW1及びHW6の細胞死の誘導可能性を様々な癌細胞、つまりTRAIL-敏感性細胞株(TRAIL-sensitive cell lines)としては、ヒト急性骨髄性白血病の癌細胞であるHL60、ヒト大腸癌細胞であるHCT116及びヒト前立腺癌細胞であるDu145を、TRAIL-抵抗性細胞株(TRAIL-resistant cell lines)としては、ヒト肝臓癌細胞であるHepG2及びHuh7、ヒト脳星状癌細胞であるU87MG、及びヒトT細胞白血病癌細胞であるMolt-4(ATCC)をモデルとして用いて評価した。この際、接着性細胞であるHCT116、Du145、HepG2、Huh7及びU87MG細胞の培養用培地としては10%のFCS、100ユニット/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンが含有されたDMEM培地(ギブコインビトロジェン(Gibco Invitrogen)社)を、非接着性細胞であるHL60及びMolt-4細胞の培養用の培地としては、10%のFCS、100ユニット/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンが含有されたRPMI 1640培地を用いて、全ての培養は37℃、5%のCO2培養器で行った。
【0086】
<5-1>細胞の準備
液体窒素タンクに保管されている細胞株を取り出して37℃で素早く溶解した後、遠心分離して冷凍保管培地を除去した。遠心分離して得た細胞ペレットを培養培地でよく混ぜた後、培養フラスコに入れて培養した。2〜3日後、細胞が安定的に培養されたら、HCT116、HepG2、Du145及びU87MG細胞の場合には、TE緩衝液(トリプシン-EDTA) 1mlを処理して10% のFBSが含有されたDMEM培地5mlでTE緩衝液の反応を中止させて、1000rpmで5分間遠心分離して細胞を回収した。また、HL60及びMolt-4細胞の場合には、培養容器から直ちに細胞を回収した後、1000rpmで5分間遠心分離して細胞を回収した。
【0087】
その後、回収した細胞は、前記と同様の培養培地でそれぞれ再懸濁した後、96-ウェルプレートにウェル当りの細胞を1×104(100μl)ずつ分株して24時間培養した後、MTT分析に用いた。
【0088】
<5-2>TRAIL-敏感性癌細胞株に対する細胞死誘導分析
各ウェルに精製されたTRAIL(0.001〜1.0μg/ml)、及びHW1及びHW6抗体(0.05〜50μg/ml)をそれぞれ添加した後、TRAIL-敏感性HL60, HCT116及びDu145細胞に対する定量的な細胞死誘導効果をMTT実験(Muhlenbeck等、J Biol Chem., 275:32208-32213, 2000)を用いて確認した(図11A及び図11Bを参照)。
【0089】
具体的には、前記プレートの各ウェルにPBS 100mlで溶解したMTT(シグマ社)溶液(5mg/ml)を入れて、4〜5時間培養した後、細胞培養液とMTT溶液を除去して200mlのDMSOを添加して、MTT-ホルマザン結晶を溶解させた後、570nmでの吸光度を測定した。この時、HL-60のような非吸着性細胞株の場合、細胞培養液とMTT溶液を除去する前に、プレートを遠心分離して細胞を沈殿させた後、上澄液を除去した後で定量した。
【0090】
図11A及び図11Bで示すように、癌細胞だけ培養した対照群に比べて、TRAIL-敏感性癌細胞株であるHCT116、HL60及びDU145細胞においてTRAILを処理すると、TRAILの濃度が増加するにつれて、効率的に細胞死が起こることを確認した(図11Aを参照)。また、前記癌細胞においてHW1及びHW6を処理するとTRAILと同様に抗体の濃度が増加するにつれて、細胞死が起こることを確認した(図11Bを参照)。
【0091】
特に、前記試験例1の結果と共に本発明の抗体は、多重結合体架橋剤なしでも単分子の形で癌細胞の細胞死効果を示すことが分かる。
【0092】
<5-3>TRAIL-抵抗性癌細胞株に対する細胞死の誘導分析
TRAIL-抵抗性癌細胞株であるHepG2、U87MG、Molt-4及びHuh7細胞を用いたことを除いては、前記<5-2>と同様の方法でMTT分析及び細胞観察を行い、その結果を図12A〜図12D及び図13A及び図13Bに示した。
【0093】
図12A〜図12Dで示すように、TRAIL-抵抗性癌細胞株であるHepG2、U87MG及びMolt-4細胞においてTRAILを処理すると細胞死が全く起こらない反面(図12A及び図12Cを参照)、HW1及びHW6を処理すると、濃度に比例して効率的に細胞死を誘導することを確認した(図12B及び図12Dを参照)。
【0094】
最近、TRAIL-敏感性である癌細胞に細胞毒性を示している抗-DR5 IgG 型のmAb抗体が報告されたことはあるが、TRAIL-抵抗性癌細胞に細胞毒性を示した抗体はこれまで報告された例がない。
【0095】
また、図13A及び図13Bに示すように、TRAIL-抵抗性HepG2細胞(図13Aを参照)及びHuh7細胞(図13Bを参照)にHW1(25μg/ml)及びHW6(25μg/ml)を処理すると、20時間後には細胞死が誘導され、細胞が付着されずに死滅して培地に浮上していることが確認できるが、TRAIL(500ng/ml)を処理すると、細胞が全く死滅しないことを確認した。
【0096】
よって、本発明の抗体は多重結合体がなくても、単分子の形で癌細胞の細胞死を誘導して、特にTRAIL-抵抗性細胞株においても細胞死を誘導することが分かる。
【0097】
<5-4>正常細胞に対する細胞死誘導の分析
正常細胞に対するHW1及びHW6の細胞毒性を評価するため、正常のヒト肝細胞及び乳腺細胞(Cambrex BioScience社)及び脳星状細胞(Kim等、Oncogene, 24:838-849, 2005)を用いて、前記<5-1>及び<5-2>と同様の方法で細胞培養、MTT分析及び細胞観察を行い、その結果を図14A及び図14B、及び図15に示した。
【0098】
図14A及び図14Bに示したように、ヒト肝細胞(図14A)と乳腺細胞(図14B)においてHW1とTRAILを濃度別に処理して30時間が経過した後はTRAILと同様にHW1が最も高い濃度で処理した時にだけ約30%程度の細胞死を誘導し、それ以下の濃度では細胞死をほとんど誘導しておらず、これは癌細胞に対するものより著しく低い細胞毒性を見せている結果である。
【0099】
また、図15に示すように、正常細胞である脳星状細胞にHW1(40μg/ml)及びHW6(40μg/ml)を高濃度で処理して48時間まで観察した後でも細胞が全く死滅しないことを確認した。
【0100】
よって、本発明の抗体は癌細胞だけに細胞死を誘導して、正常細胞には細胞毒性がないことが分かる。
【0101】
試験例6:抗-DR5 scFv 抗体のDR5を介した癌細胞の細胞死誘導確認
<6-1>DR5を発現するHCT116細胞においての細胞死誘導確認
HW1が細胞表面に発現されたDR5から、細胞死を誘導するか否かを確認するために、TRAIL(100μg/ml)とHW1(5μg/ml)とによるHCT116癌細胞の細胞死の誘導過程で細胞表面に発現されたDR5と競合できる、溶液状態のDR5-Fc(DR5に抗体不変領域Fcが結合されたタンパク質)を濃度別に加えた後、30時間培養しながら細胞死の抑制程度を評価し、その結果を図16に示した。
【0102】
図16に示すように、DR5-Fcの濃度が増加するほどTRAIL及びHW1による細胞死が減少して、10μg/mlのDR5-Fcでは細胞死が完全に抑制されるという結果を得た。
【0103】
従って、HW1がTRAILと同様に細胞表面に発現されたDR5に特異的に結合して細胞死を誘導することが分かる。
【0104】
<6-2>DR5を過発現するHCT116細胞での細胞死の誘導確認
HW1がDR5が過発現された癌細胞において細胞死を誘導するか否かを確認するため、HCT116癌細胞を培養した後、スルフォラファン(10μM)を9時間処理して、DR5を過発現させた後 (Kim等、Cancer Res., 66:1740-1750, 2006)、TRAIL及びHW1を濃度別(0.01〜10μg/ml)に処理して30時間反応させた後、癌細胞の細胞死の度合をMTT方法を介して定量し、その結果を図17に示した。
【0105】
図17に示すように、スルフォラファンを処理していない対照群に比べ、スルフォラファンを処理した実験群から、TRAIL及びHW1共に同じ濃度で細胞をよりうまく死滅させることを観察した。
【0106】
よって、HW1がDR5に特異的に結合して、細胞死の信号伝達機作により癌細胞に対して細胞死を誘導することが分かる。
【0107】
試験例7:架橋剤が抗-DR5 scFv抗体の癌細胞の細胞死誘導に与える影響の評価
既存の抗-DR5抗体が二重抗原結合部位を有するIgG型では細胞死を誘導したが、単分子の形であるFab型では細胞死を誘導できなかった(Motoki等、Clin. Cancer Res., 11:3126-3135, 2005, Wajant等、Oncogene, 20:4101-4106, 2001)。これにより、本発明の抗体が単分子の形だけではなく、多重分子の形でも癌細胞に細胞死を誘導するかを確認するため、6X Hisが結合されているHW1にマウス由来の抗-His6 IgGを架橋剤として用いて、モル濃度1:1で4℃で1時間培養して多重分子を形成した。これをTRAIL-敏感性癌細胞であるHCT116とTRAIL-抵抗性癌細胞であるHepG2細胞において処理して30時間培養した後、前記試験例5の<5-2>と同様の方法でMTT分析を行って、その結果を図18に示した。
【0108】
図18に示したように、2つの細胞の何れにおいて、架橋剤の処理有無に関係なく細胞死が誘導された。
【0109】
よって、HW1が単分子の形で癌細胞に細胞死を誘導することが分かった。
【0110】
試験例8:抗-DR5 scFv抗体の細胞死機作研究
HW1がどのような細胞死経路を経て様々な癌細胞に細胞死を誘導するかを次のような方法を用いて行った。
【0111】
<8-1>透過電子顕微鏡の観察
TRAIL-敏感性癌細胞であるHCT116及びDu145、並びにTRAIL-抵抗性癌細胞である HepG2及びU87MGを、TRAIL(0.2μg/ml)及びHW1(25μg/ml)と、それぞれ5時間及び30時間培養した後、カルノフスキー溶液(100mmol/lナトリウムカコジル酸塩バッファーに2%のグルタールアルデヒド及び1%のパラホルムアルデヒドを溶解させる、pH7.4)で25℃で2時間固定化させた。これを2%のグルタールアルデヒド及び1%のパラホルムアルデヒドを含んでいる100mmol/lのナトリウムカコジル酸塩緩衝液(pH 7.4)で洗浄した後、1%の無水オスミウム酸と1.5%のフェロシアン化カリウムで1時間固定化させた。これを連続的な濃度のエタノール(50〜100%)を用いて脱水させて、ポリベット812レジン(ペルコ(Pelco)社、カナダ)の上に固定化させた後、ウルトラミクロトーム(Ultracut E, Reichert-Jung社、ドイツ)を用いて超薄膜にカットした後、透過電子顕微鏡(EM 902A, カールツァイス社、ドイツ)を用いて細胞を観察して、その結果を図19A〜図19Dに示した。
【0112】
図19A〜図19Dに示すように、TRAILによって死滅するTRAIL-敏感性癌細胞においては、核凝縮及び細胞表面に水泡(membrane blebbing)の形成が観察され、典型的なアポトーシス経路によって細胞死が誘導されることを確認した。一方、HW1を処理したTRAIL-敏感性及びTRAIL-抵抗性癌細胞においては、細胞内に多数の自食作用液胞が観察されており、この自食作用液胞内にはミトコンドリアのような細胞内小器官が破壊されていることが観察された(図19Aを参照)。
【0113】
また、さらに大きく拡大した時、多層の膜で囲まれた自食作用液胞(図19Bを参照)、二重膜で囲まれた自食作用液胞(図19Cを参照)及び空液胞と細胞内小器官とを含む液胞が結合され、自食作用液胞が形成される段階(図19Dを参照)が観察された。このような様子は、アポトーシスと明らかに区別される典型的な自食作用による細胞死を意味する(Kondo等、Nat. Rev. Cancer, 5:726-734, 2005, Tsujimoto等、Cell Death Differ., 2:1528-1534, 2005)。
【0114】
よって、本発明の抗体による様々な癌細胞の細胞死は、自食作用によることが分かる。これは、抗-DR5に対する抗体においては初めて報告されることで、DR5受容体がアポトーシスの他にも自食作用による細胞死経路によって、TRAIL-抵抗性癌細胞までも死滅させることを示した結果である。
【0115】
<8-2>ライソトラッカーレッドを用いた自食作用液胞の特異的標識実験
自食作用による細胞死は、細胞内の自食作用によって生成された液胞を特異的に標識するライソトラッカーレッド(DND-99, モレキュラープローブ社)を用いて確認することができる(Kondo等、Nat. Rev. Cancer, 5:726-734, 2005,及びTsujimoto等、Cell Death Differ., 2:1528-1534, 2005)。
【0116】
ここで、TRAIL-敏感性HCT116癌細胞と、TRAIL-抵抗性U87MG癌細胞とをHW1(25μg/ml, 20時間)処理した後、細胞を固定化させた。続いて、ライソトラッカーレッドで染めた後、蛍光顕微鏡で観察し、その結果を図20A及び図20Bに示した。
【0117】
図20A及び図20Bに示すように、HCT116癌細胞(図20Aを参照)及びU87MG癌細胞(図20Bを参照)の何れかにおいて、HW1を処理した細胞だけに特異的に染まった自食作用液胞が観察された。
【0118】
従って、HW1が癌細胞で自食作用による細胞死を誘導することが分かる。
【0119】
本発明は、上記の実施様態の側面において記述されているが、請求範囲で定義された発明の範囲内で様々な修正及び変更が可能であり、これらもまた本願発明の範囲に属するものとして理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1A】DR5に特異的に結合する抗-DR5 scFv 抗体であるHW1のアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列を示したものである(ここで、下線で表示した部分は、順番に各抗体の重鎖可変領域のCDR1〜CDR3、リンカーオリゴペプチド及び軽鎖可変領域のCDR1〜CDR3を示す)。
【図1B】DR5に特異的に結合する抗-DR5 scFv 抗体であるHW6のアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列を示したものである(ここで、下線で表示した部分は、順番に各抗体の重鎖可変領域のCDR1〜CDR3、リンカーオリゴペプチド及び軽鎖可変領域のCDR1〜CDR3を示す)。
【図2】DR5に対し高い抗体力価を示した8名の血しょう内DR5、DcR1及びBSAに対する抗体力価をELISAを用いて定量した結果である。
【図3】ビオチンで標識された(biotin-labeled) DR5を抗原として用い、酵母細胞表面に発現した抗-DR5 scFv 抗体ライブラリーを、FACS(fluorescence activated cell sorting)を用いて分離した結果である。
【図4】HW1及びHW6を各々pKJ1ベクターにクローニングして調製された大腸菌発現ベクターの模式図である。
【図5A】HW1及びHW6を大腸菌において発現させた後、SDS-PAGEで各々分析した結果である。
【図5B】HW1及びHW6を大腸菌において発現させた後、ウエスタンブロットで各々分析した結果である。
【図6】精製されたHW1及びHW6をサイズ排除クロマトグラフィーで分析した結果である。
【図7A】精製されたHW1及びHW6を還元性SDS-PAGEで各々分析した結果である。
【図7B】精製されたHW1及びHW6を非還元性SDS-PAGEで各々分析した結果である。
【図8A】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW1の交差反応性をSPR(surface plasmon resonance)を用いて定量した結果である。
【図8B】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW1の交差反応性をSPRを用いて定量した結果である。
【図8C】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW6の交差反応性をSPRを用いて定量した結果である。
【図8D】抗原であるDR5、並びにDcR1、DcR2、DR4、TNFR1、TNFR2及びCD95に対するHW6の交差反応性をSPRを用いて定量した結果である。
【図9A】YFP(yellow fluorescence protein)で標識されたDR5 (DR5ΔCDYFP)及びDcR2(DcR2ΔCDYFP)は、Alexa633で標識されたHW1の結合をヒト大腸癌細胞であるHCT116細胞で観察した結果である。
【図9B】YFPで標識されたDR5 (DR5ΔCDYFP)及びDcR2(DcR2ΔCDYFP)は、Alexa633で標識されたTRAILの結合をヒト大腸癌細胞であるHCT116細胞で観察した結果である。
【図10A】HW1及びHW6が、抗原であるDR5に結合する部位がTRAILと同じかを確認した競合的ELISAの結果である。
【図10B】HW1及びHW6が、抗原であるDR5に結合する部位がTRAILと同じかを確認した競合的ELISAの結果である。
【図11A】TRAIL-敏感性HCT116、HL60及びDU145細胞において、TRAILの濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図11B】TRAIL-敏感性HCT116、HL60及びDU145細胞において、HW1及びHW6の濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12A】TRAIL-抵抗性HepG2細胞においてTRAILの濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12B】TRAIL-抵抗性HepG2細胞においてHW1及びHW6の濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12C】TRAIL-抵抗性U87MG及びMolt-4細胞においてTRAILの濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図12D】TRAIL-抵抗性U87MG及びMolt-4細胞においてHW1及びHW6の濃度による細胞死誘導の程度をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図13A】TRAIL-抵抗性HepG2細胞において、TRAIL、HW1及びHW6による細胞死を顕微鏡で観察した結果である。
【図13B】TRAIL-抵抗性Huh7細胞において、TRAIL, HW1及びHW6による細胞死を顕微鏡で観察した結果である。
【図14A】ヒト正常細胞である肝細胞において、TRAIL及びHW1の濃度による細胞毒性のないことを示している細胞毒性の実験結果である。
【図14B】ヒト正常細胞である乳腺細胞において、TRAIL及びHW1の濃度による細胞毒性のないことを示している細胞毒性の実験結果である。
【図15】ヒト正常細胞である脳の星状細胞においてHW1及びHW6が細胞毒性を示さないことを顕微鏡で観察した結果である。
【図16】細胞膜で発現されたDR5と競合的溶液状態のDR5-Fcとを濃度別に加えた後、HW1とTRAILのHCT116細胞での細胞毒性をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図17】スルフォラファン(sulforaphane)を処理又は処理しない場合、TRAIL及びHW1によるTRAIL-敏感性HCT116細胞での細胞死をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図18】架橋剤(CL)の存在下又は不在下でTRAIL-敏感性HCT116細胞及びTRAIL-抵抗性HepG2細胞に対するHW1の細胞毒性をMTT分析を用いて定量した結果である。
【図19A】HW1を処理した多様なTRAIL-敏感性細胞株(HCT116及びDu145)及びTRAIL-抵抗性細胞株(HepG2及びU87MG)の細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果である。
【図19B】HW1処理による細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果であり、多層の膜で囲まれた自食作用液胞の拡大図を示す。
【図19C】HW1処理による細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果であり、二重膜で囲まれた自食作用液胞の拡大図を示す。
【図19D】HW1処理による細胞死が、自食作用による細胞死であることを透過電子顕微鏡で確認した結果であり、空液胞と細胞内小器官を含んでいる液胞とが結合され、自食作用液胞が形成される段階の拡大図を示す。
【図20A】HW1による癌細胞の自食作用による細胞死を細胞内自食作用液胞を特異的に標識するライソトラッカーレッド(lysotracker-red DND-99)を用いてTRAIL-敏感性HCT116細胞において観察した蛍光顕微鏡の写真である。
【図20B】HW1による癌細胞の自食作用による細胞死を細胞内自食作用液胞を特異的に標識するライソトラッカーレッド(lysotracker-red DND-99)を用いてTRAIL-抵抗性 U87MG細胞において観察した蛍光顕微鏡の写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相補性決定領域(CDR)に配列番号1〜3のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号4〜6のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体、
並びに相補性決定領域に配列番号7〜9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10〜12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体からなる群より選択され、デスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体。
【請求項2】
請求項1において、
前記抗体が、DR5を発現するTRAIL-敏感性癌細胞及びTRAIL-抵抗性癌細胞の何れに対して細胞死を誘導する抗体。
【請求項3】
請求項1において、
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEからなる群より選択された全抗体である抗体。
【請求項4】
請求項1において、
前記抗体が、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2 及びscFv-Fcとからなる群より選択された抗体の断片である抗体。
【請求項5】
請求項1において、
前記抗体が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する抗体。
【請求項6】
請求項1において、
前記抗体が、酵素、蛍光物質及び放射性物質からなる群より選択された標識物質と結合されている抗体。
【請求項7】
請求項1における抗体をコードするDNA。
【請求項8】
請求項7において、
前記DNAが、配列番号13又は14のアミノ酸配列をコードするDNAであるDNA。
【請求項9】
請求項7において、
前記DNAが、配列番号15又は16のヌクレオチド配列を有するDNAであるDNA。
【請求項10】
請求項7におけるDNA又はこれを含む発現ベクターで形質転換されている細胞。
【請求項11】
請求項10において、
前記細胞が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する抗体を発現する細胞。
【請求項12】
請求項1における抗体を有効成分として含んでいる、癌の予防又は治療用の組成物。
【請求項13】
請求項12において、
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEにより構成された群から選択された全抗体である組成物。
【請求項14】
請求項12において、
前記抗体が、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2及びscFv-Fcとからなる群より選択された抗体の断片である組成物。
【請求項15】
請求項12において、
前記抗体が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する組成物。
【請求項16】
請求項12において、
前記癌が、DR5を発現する癌である組成物。
【請求項17】
請求項16において、
前記DR5を発現する癌が、乳癌、結腸癌、脳腫瘍、神経膠腫、卵巣癌、子宮内膜癌、骨肉腫、子宮頸癌、前立腺癌、肺癌、滑液癌、膵臓癌及び肉腫癌からなる群より選択される組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の抗体を対象体に投与する段階を含む、癌を予防又は治療する方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEにより構成された群から選択された全抗体である方法。
【請求項20】
請求項18において、
前記抗体が、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2及びscFv-Fcとからなる群より選択された抗体の断片である方法。
【請求項21】
請求項18において、
前記抗体が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する方法。
【請求項1】
相補性決定領域(CDR)に配列番号1〜3のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号4〜6のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体、
並びに相補性決定領域に配列番号7〜9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10〜12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含んでいる抗体からなる群より選択され、デスレセプター5(death receptor 5, DR5)に特異的に結合する抗体。
【請求項2】
請求項1において、
前記抗体が、DR5を発現するTRAIL-敏感性癌細胞及びTRAIL-抵抗性癌細胞の何れに対して細胞死を誘導する抗体。
【請求項3】
請求項1において、
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEからなる群より選択された全抗体である抗体。
【請求項4】
請求項1において、
前記抗体が、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2 及びscFv-Fcとからなる群より選択された抗体の断片である抗体。
【請求項5】
請求項1において、
前記抗体が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する抗体。
【請求項6】
請求項1において、
前記抗体が、酵素、蛍光物質及び放射性物質からなる群より選択された標識物質と結合されている抗体。
【請求項7】
請求項1における抗体をコードするDNA。
【請求項8】
請求項7において、
前記DNAが、配列番号13又は14のアミノ酸配列をコードするDNAであるDNA。
【請求項9】
請求項7において、
前記DNAが、配列番号15又は16のヌクレオチド配列を有するDNAであるDNA。
【請求項10】
請求項7におけるDNA又はこれを含む発現ベクターで形質転換されている細胞。
【請求項11】
請求項10において、
前記細胞が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する抗体を発現する細胞。
【請求項12】
請求項1における抗体を有効成分として含んでいる、癌の予防又は治療用の組成物。
【請求項13】
請求項12において、
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEにより構成された群から選択された全抗体である組成物。
【請求項14】
請求項12において、
前記抗体が、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2及びscFv-Fcとからなる群より選択された抗体の断片である組成物。
【請求項15】
請求項12において、
前記抗体が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する組成物。
【請求項16】
請求項12において、
前記癌が、DR5を発現する癌である組成物。
【請求項17】
請求項16において、
前記DR5を発現する癌が、乳癌、結腸癌、脳腫瘍、神経膠腫、卵巣癌、子宮内膜癌、骨肉腫、子宮頸癌、前立腺癌、肺癌、滑液癌、膵臓癌及び肉腫癌からなる群より選択される組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の抗体を対象体に投与する段階を含む、癌を予防又は治療する方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記抗体が、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEにより構成された群から選択された全抗体である方法。
【請求項20】
請求項18において、
前記抗体が、単鎖可変領域の断片である(scFv)と(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2及びscFv-Fcとからなる群より選択された抗体の断片である方法。
【請求項21】
請求項18において、
前記抗体が、配列番号13又は14のアミノ酸配列を有する方法。
【図6】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図7A】
【図7B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図20A】
【図20B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図7A】
【図7B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図20A】
【図20B】
【公表番号】特表2009−542202(P2009−542202A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517957(P2009−517957)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/KR2007/002644
【国際公開番号】WO2008/004760
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509005937)アジュ ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コーポレーション ファウンデーション (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/KR2007/002644
【国際公開番号】WO2008/004760
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509005937)アジュ ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コーポレーション ファウンデーション (6)
【Fターム(参考)】
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