説明

デッキプレートと閉断面リブとの接合部の補修方法

【課題】 デッキプレートと、これを補剛する閉断面リブ(Uリブ)とからなる鋼床版において、デッキプレートと閉断面リブとの接合部を、溶接によって補修する方法を提供する。
【解決手段】 補修予定部Rと、補修予定部Rに隣接しているUリブの側壁3sとを除去することによって、補修予定部Rに隣接している部分のデッキプレート2と、補修予定部Rに隣接している部分の側壁3sとの間に、開先部Eを形成してから、溶接用の裏当て材7を、開先部Eに側壁3sの内側(図中左側)から固定した後、開先部Eを、側壁3sの外側(図中右側)から溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキプレートと、これを補剛する閉断面リブとからなる鋼床版において、デッキプレートと閉断面リブとの接合部を、溶接によって補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁の床版構造の一つとして、デッキプレートと、これを補剛する閉断面リブとからなる鋼床版が使用されている。図12は、このような鋼床版1の基本的な構造を示したものであって、本図において、2はデッキプレート、3は閉断面リブをなすUリブ、4はデッキプレート2とUリブ3との溶接による接合部を示している。また、図13は、図12の接合部4付近の拡大図であって、本図において、Jは溶接部を示している。
【0003】
ところで、図13に示したように、このような鋼床版1は、施工から相当の年数が経過すると、溶接部Jにおいて、亀裂Cが、Uリブ3の長手方向(図13の紙面を垂直に貫通する方向)に沿って発生する場合があることが明らかになってきている。
【0004】
このような亀裂Cを放置しておくと、溶接部Jが分断されて、Uリブ3がデッキプレート2から脱離し、鋼床版1全体の強度が低下してしまうという問題がある。また、最悪の場合、亀裂Cがデッキプレート2にまで達し、鋼床版1の崩壊(脆性破壊)を招いてしまうおそれもある。そのため、このような鋼床版1においては、亀裂Cの拡大を防止し、鋼床版1の強度を確保するための措置を採ることが必要とされている。
【0005】
このような措置として、出願人においては、まず、Uリブ3の一部に作業孔(図示せず)をあけて、デッキプレート2とUリブ3との間に、Uリブ3の内側(図13においてUリブ3の左側)から溶接用の開先を形成し、その後、この開先を新たに溶接する方法を検討した。図14は、このような溶接を施した接合部4について示したものである。尚、本図において、J’は、新たに形成された溶接部を示している。
【0006】
このような溶接を施すと、接合部4において、それまで溶接部Jだけに加わっていた力が、溶接部J’にも加わるようになるため、溶接部Jに加わっていた力が軽減され、亀裂Cの拡大防止を図ることができる。そのため、以上のような措置は、亀裂Cの拡大を防止し、鋼床版1の強度を確保するための措置として、有効なものであると考えられた。
【特許文献1】特開2001−40782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、出願人においてさらなる検討を重ねた結果、以上の措置は、溶接作業を、Uリブ3の内側という閉断面リブ内の狭い空間の中で行う必要があり、溶接作業の効率が非常に悪いため、溶接の質の低下を招きやすく、鋼床版1の強度を確保するための措置としては問題があることが分かった。
【0008】
また、以上の措置は、溶接の質の低下によって、デッキプレート2とUリブ3との間に完全溶け込み溶接が行えず、未溶着部が残ってしまう場合もあるため、鋼床版1の強度を確保する上で問題があることも分かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような問題を回避しながら、デッキプレートと閉断面リブとの接合部を補修するためになされたものであって、補修しようとする接合部と、当該接合部に隣接している部分の閉断面リブの一部と、を除去することによって、前記接合部に隣接している部分のデッキプレートと、前記接合部に隣接している部分の前記閉断面リブとの間に、開先部を形成してから、溶接用の裏当て材を、前記開先部に閉断面リブの内側から固定した後、前記開先部を、前記閉断面リブの外側から溶接することを主たる特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る補修方法は、デッキプレートと閉断面リブとの溶接を、閉断面リブの外側から行うので、閉断面リブの内側から溶接する場合と比べて、作業効率が非常によい。そのため、溶接の質を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る補修方法は、閉断面リブの外側において開先部を形成し、そこを溶接するようにしているので、デッキプレートと閉断面リブとの間に、未溶着部のない溶接(完全溶け込み溶接)を行うことができる。そのため、鋼床版において充分な強度を確保して、接合部を補修することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る補修方法は、開先部を形成する際に、デッキプレートと閉断面リブとの間の接合部を除去するので、当該補修方法の実施時において、デッキプレートの裏面を観察することができる。そのため、デッキプレートにまで亀裂が達している場合に、当該亀裂の発見及び状況の確認を行うことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る補修方法を実施しようとする鋼床版1の一部を示したものである。尚、本図において、2はデッキプレート、3は閉断面リブをなすUリブ、3sはUリブ3の側壁、4はデッキプレート2とUリブ3との溶接による接合部、また、Rは補修予定部(接合部4のうち、亀裂等のある補修しようとする部分)を示している。
【0014】
本補修方法では、まず、図2に示したように、補修予定部Rの近くに位置しているUリブ3の一部を切除して、作業口5をUリブ3の下側に形成する。併せて、補修予定部Rの近くに位置しているUリブ3の側壁3sに、複数の貫通孔6をあける。
【0015】
次に、補修予定部Rと、この補修予定部Rに隣接している側壁3sとを切削加工によって除去し、補修予定部Rに隣接していたデッキプレート2と側壁3sとの間に、溶接用の開先部を形成する。図3は、補修予定部R付近の拡大断面図であって、以上のようにして形成した溶接用の開先部Eを示している。
【0016】
尚、このような開先部Eは、後で行う溶接加工が好適になされるようにするため、その開口幅Wは、デッキプレート2の厚さの1/3〜1/2となるように形成することが好ましく、また、その開口角度θは、40°〜50°の範囲となるように形成することが好ましい。
【0017】
開先部Eを形成したら、次は、図4に示したように、開先部EをUリブ3の内側から塞ぐようにして、溶接用の裏当て材7を固定する。尚、ここで使用される裏当て材7は、作業口5からUリブ3の内側へと入れられる。また、このような裏当て材7は、溶接後のビード形状を良くするため、開口幅Wの約2倍の直径を有するセラミック製のものを使用することが好ましい。
【0018】
裏当て材7を固定したら、Uリブ3の外側から開先部Eを溶接する。図5は、この溶接後における開先部Eを示したものである。本図において、J’は、再溶接によって形成された溶接部を表している。尚、裏当て材7は、開先部Eの溶接後に取り除く。
【0019】
次に、図6に示したような補強部材10を用意し、これを、図7に示したように、Uリブ3内へ入れてから、補強部材10を、切除しなかったUリブ3へと連結材8によって固定する。ここで、これら連結材8及び補強部材10の固定は、ボルト9によって行い、このボルト9は、Uリブ3にあけられたボルト孔6(図2及び図6参照)に挿通する。
【0020】
尚、補強部材10は、図6に示されているように、一対のプレート材10aと、プレート材10aの片面に取り付けられた板片10bと、その板片10bを両側から挟むようにしてプレート材10a同士を接続するための一対の接続部材10cとから構成されている。また、補強部材10がUリブ3内の側壁3sと好適に固定されるように、プレート材10aは、所定の傾きを有するように構成されている。
【0021】
次に、本発明に係る補修方法の第二の実施形態について説明する。図8は、本実施形態に係る方法によって補修しようとする鋼床版1の一部を示したものである。尚、本図において、11は鋼床版1の横リブを、また、11aは縦横リブ接合部(縦リブをなすUリブ3と横リブ11との接合部)を示している。本実施形態では、この横リブ11が、補修予定部Rと交差するように存在している場合の補修方法について説明する。
【0022】
まず、図9に示したように、横リブ11から縦横リブ接合部11aを切除し、その後、第1の実施形態と同様に、補修予定部Rの近くに位置しているUリブ3の一部を切除して、作業口5をUリブ3の下側に形成する。併せて、補修予定部Rの近くに位置しているUリブ3の側壁3sに、複数の貫通孔6をあける。
【0023】
その後は、第一の実施形態と同様、図3〜図5に示したように、補修予定部Rにおける開先部Eの形成・溶接を行ってから、補強部材10をUリブ3内へ入れ、補強部材10を、図10に示したように、切除しなかったUリブ3へと、連結材8及びボルト9によって一時的に固定する。その後、図11に示したように、補強部材10を、ブラケット12を介して、ナット13によって、切除しなかったUリブ3及び横リブ11に固定する。
【0024】
以上に説明したように、本発明に係る補修方法は、デッキプレート2とUリブ3との溶接を、Uリブ3の外側から行うので、Uリブ3の内側から溶接する場合と比べて、作業効率が非常によい。そのため、溶接の質を向上させることができ、デッキプレート2とUリブ3とを充分な強度をもって、接合させることができる。
【0025】
また、本発明に係る補修方法は、Uリブ3の外側において開先部Eを形成し、そこを溶接するようにしているので、デッキプレート2とUリブ3との間に、未溶着部のない溶接(完全溶け込み溶接)を容易に行うことができる。そのため、鋼床版1において充分な強度を確保して、接合部4を補修することができる。
【0026】
さらに、本発明に係る補修方法は、開先部Eを形成する際に、補修予定部Rを除去するので、補修方法の実施時において、デッキプレート2の裏面を見ることができる。そのため、デッキプレート2に亀裂が発生している場合に、当該亀裂の発見及び状況の確認を行うことができる。
【0027】
尚、以上の各実施形態においては、鋼床版1の閉断面リブが、Uリブ3となっているが、当然ながら、本発明に係る補修方法は、Uリブから構成される鋼床版だけでなく、Yリブなど、その他の閉断面リブから構成される鋼床版にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態に係る補修方法を実施しようとする鋼床版1の斜視図。
【図2】第1の実施形態に係る補修方法の説明図1。
【図3】補修予定部R付近の拡大断面図。
【図4】補修予定部R付近の拡大断面図。
【図5】補修予定部R付近の拡大断面図。
【図6】補強部材10の斜視図。
【図7】第1の実施形態に係る補修方法を実施した後の鋼床版1の斜視図。
【図8】第2の実施形態に係る補修方法を実施しようとする鋼床版1の斜視図。
【図9】第2の実施形態に係る補修方法の説明図1。
【図10】第2の実施形態に係る補修方法の説明図2。
【図11】第2の実施形態に係る補修方法を実施した後の鋼床版1の斜視図。
【図12】従来の鋼床版1の基本的な構造を示した図。
【図13】図12の接合部4付近の拡大図1。
【図14】図12の接合部4付近の拡大図2。
【符号の説明】
【0029】
1:鋼床版、
2:デッキプレート、
3:Uリブ、
3s:Uリブの側壁、
4:接合部、
5:作業口、
6:ボルト孔、
7:裏当て材
8:連結材、
9:ボルト、
10:補強部材、
10a:プレート材、
10b:板片、
10c:接続部材、
11:横リブ、
11a:縦横リブ接合部、
12:ブラケット、
13:ナット、
C:亀裂、
E:開先部、
J,J’:溶接部、
P:舗装、
R:補修予定部、
w:開口幅、
θ:開口角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレートと閉断面リブとの接合部の補修方法であって、
補修しようとする接合部と、当該接合部に隣接している部分の閉断面リブの一部と、を除去することによって、前記接合部に隣接している部分のデッキプレートと、前記接合部に隣接している部分の前記閉断面リブとの間に、開先部を形成してから、
溶接用の裏当て材を、前記開先部に閉断面リブの内側から固定した後、
前記開先部を、前記閉断面リブの外側から溶接することを特徴とする、デッキプレートと閉断面リブとの接合部の補修方法。
【請求項2】
前記溶接用の裏当て材を、前記閉断面リブの内側へと入れるための作業口が、前記閉断面リブの一部に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のデッキプレートと閉断面リブとの接合部の補修方法。
【請求項3】
前記作業口が、前記開先部を形成する前において、前記閉断面リブの一部に設けられていることを特徴とする、請求項2に記載のデッキプレートと閉断面リブとの接合部の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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