説明

デファレンシャル装置

【課題】プレートの剛性を保持しつつ、軽量化及び低コスト化することができるデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】デフケース3と、ピニオン5,7と、一対のサイドギヤ9,11とからなる差動機構13を備え、ピニオン5,7は、互いに噛み合うと共に一対のサイドギヤ9,11とそれぞれ噛み合うピニオン組15からなり、このピニオン組15は、デフケース3の外部と連通されたピニオン孔17,19に収容され、ピニオン孔17,19を閉塞すると共にピニオン組15の噛み合い反力を受ける環状のプレート21が設けられたデファレンシャル装置1において、プレート21に、ピニオン組15の噛み合い反力を受ける受部23と、この受部23を補強する補強部25を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用されるデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デファレンシャル装置としては、駆動力が入力され回転可能なデフケースと、このデフケースに支承されて自転可能であると共にデフケースの回転によって公転するピニオンと、このピニオンと噛み合って相対回転可能な一対のサイドギヤとからなる差動機構を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このデファレンシャル装置では、ピニオンが、互いに噛み合うと共に一対のサイドギヤとそれぞれ噛み合うピニオン組からなり、このピニオン組は、デフケースの外部と連通されたピニオン孔に収容されている。このようなデフケースのピニオン孔には、ピニオン孔を閉塞すると共にピニオン組の噛み合い反力を受けるプレートが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−28653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなデファレンシャル装置では、プレートがピニオン組の噛み合い反力を受けるので、プレートの剛性を保持する必要がある。このため、プレートは、板厚が非常に厚く、重量化やコスト高となっていた。
【0006】
そこで、この発明は、プレートの剛性を保持しつつ、軽量化及び低コスト化することができるデファレンシャル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動力が入力され回転可能なデフケースと、このデフケースに支承されて自転可能であると共に前記デフケースの回転によって公転するピニオンと、このピニオンと噛み合って相対回転可能な一対のサイドギヤとからなる差動機構を備え、前記ピニオンは、互いに噛み合うと共に前記一対のサイドギヤとそれぞれ噛み合うピニオン組からなり、このピニオン組は、前記デフケースの外部と連通されたピニオン孔に収容され、前記ピニオン孔を閉塞すると共に前記ピニオン組の噛み合い反力を受ける環状のプレートが設けられたデファレンシャル装置であって、前記プレートには、前記ピニオン組の噛み合い反力を受ける受部と、この受部を補強する補強部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
このデファレンシャル装置では、プレートにピニオン組の噛み合い反力を受ける受部と、この受部を補強する補強部が設けられているので、プレートの受部を薄肉としてもプレート自体の剛性を保持することができ、ピニオン組の噛み合い反力をプレートの受部で受けることができる。
【0009】
従って、このようなデファレンシャル装置では、補強部によって受部を薄肉とすることができるので、プレートの剛性を保持しつつ、軽量化及び低コスト化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレートの剛性を保持しつつ、軽量化及び低コスト化することができるデファレンシャル装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置のプレートをデフケースに組付けたときの側面図である。
【図3】(a)は本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置のプレートの正面図である。(b)は図3(a)のX−X断面図である。
【図4】本発明の実施の形態の変形例に係るデファレンシャル装置のベアリングを治具によって取り外すときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜図4を用いて本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置について説明する。
【0013】
本実施の形態に係るデファレンシャル装置1は、駆動力が入力され回転可能なデフケース3と、このデフケース3の回転軸線と平行な回転軸線をもち、デフケース3に支承されて自転可能であると共にデフケース3の回転によって公転するヘリカルギヤであるピニオン5,7と、デフケース3の回転軸線上に配置されピニオン5,7と噛み合って相対回転可能な一対のヘリカルギヤであるサイドギヤ9,11とからなる差動機構13を備えている。
【0014】
また、ピニオン5,7は、互いに噛み合うと共に一対のサイドギヤ9,11とそれぞれ噛み合うピニオン組15からなり、このピニオン組15は、デフケース3の外部と連通されたピニオン孔17,19に収容され、デフケース3のピニオン孔17,19には、ピニオン孔17,19を閉塞すると共にピニオン組15の噛み合い反力を受ける環状で薄肉のプレート21が設けられている。
【0015】
そして、プレート21には、後述するボルト87の頭部高さより低く、薄肉の板材からプレス成形されたものであり、ピニオン組15の噛み合い反力を受ける受部23と、この受部23を補強する補強部25が設けられている。
【0016】
また、補強部25は、プレート21の内外径に周方向に連続して設けられた環状凸部27,29である。
【0017】
図1〜図3に示すように、デファレンシャル装置1は、デフケース3と、ピニオン組15と、一対のサイドギヤ9,11と、カップリング31とを備えている。
【0018】
デフケース3は、軸方向両側に形成されたボス部33,35でそれぞれベアリング37,39を介してキャリア(不図示)に回転可能に支持されている。このデフケース3には、動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合うリングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部41が設けられ、このリングギヤを介して駆動力がデフケース3に入力される。このようなデフケース3は、駆動力が入力されて回転駆動され、デフケース3内の軸方向に設けられたピニオン孔17,19に収容されたピニオン5,7に駆動力を伝達している。
【0019】
ピニオン5,7は、円筒状に形成されたヘリカルギヤからなり、長短2つのピニオン5,7でピニオン組15を構成し、複数(ここでは4組)のピニオン組15がデフケース3の複数(ここでは4組)のピニオン孔17,19にそれぞれ収容されている。
【0020】
ピニオン組15のうち短いピニオン5は、第1ギヤ部43と第2ギヤ部45とからなる。第1ギヤ部43は、サイドギヤ11と噛み合う。第2ギヤ部45は、サイドギヤ11のボス部49の外径側に位置され、ピニオン7の第3ギヤ部44と噛み合う。
【0021】
ピニオン組15のうち長いピニオン7は、第3ギヤ部44と軸部と第4ギヤ部46とからなる。第3ギヤ部44は、ピニオン5の第2ギヤ部45と噛み合う。軸部は、第3ギヤ部44と第4ギヤ部46との間に第3ギヤ部44及び第4ギヤ部46よりも小径に形成され、サイドギヤ11との干渉を防止する。第4ギヤ部46は、サイドギヤ9と噛み合う。
【0022】
このようなピニオン組15は、デフケース3のピニオン孔17,19に収容されてデフケース3の回転によって公転する。また、ピニオン組15は、一対のサイドギヤ9,11に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ9,11に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオン孔17,19に自転可能にそれぞれの歯先面をピニオン孔17,19内壁面に摩擦摺動させるように収容されている。
【0023】
すなわち、デフケース3に入力する駆動トルクの大きさによって、ピニオン組15と一対のサイドギヤ9,11との噛み合い反力の大きさが変化し、ピニオン組15の歯先面とデフケース3のピニオン孔17,19の内壁面との間には摩擦力の大きさが変化するトルク感応型の差動制限機能を生じる。
【0024】
一対のサイドギヤ9,11は、ボス部47,49でデフケース3内の支持孔部に相対回転可能に収容支持され、ピニオン5,7と噛み合っている。また、サイドギヤ9とデフケース3との軸方向間、一対のサイドギヤ9,11間及びサイドギヤ11とデフケース3との軸方向間には、ヘリカルギヤからなるサイドギヤ9,11とピニオン組15との噛み合い反力によって発生するサイドギヤ9,11の軸方向への移動を受けるスラストワッシャ51,53,55が配置されている。これらのスラストワッシャ51,53,55は、サイドギヤ9,11に生じるスラスト力(噛み合い反力)によって摩擦力が生じ、トルク感応型の差動制限機能を増大させている。
【0025】
このような一対のサイドギヤ9,11には、内周側に形成されたスプライン形状の連結部57,59に、駆動軸(不図示)が一体回転可能に連結され、デフケース3に入力された駆動力を駆動軸に出力する。
【0026】
このような一対のサイドギヤ9,11のうちサイドギヤ9は、ギヤ部が設けられたギヤ部材61と、このギヤ部材61に連結される一側壁63と、この一側壁63に連結される連結壁65と、この連結壁65に連結されボス部47及び連結部57が連続する一部材で設けられた他側壁67とからなる。これらのギヤ部材61と一側壁63と連結壁65と他側壁67とで形成された空間部には、差動機構13の差動を制限するカップリング31が設けられている。このカップリング31は、サイドギヤ9と、内側回転部材69と、複数の抵抗板(不図示)と、粘性流体とから構成されている。
【0027】
サイドギヤ9は、ギヤ部材61と一側壁63と連結壁65と他側壁67とが溶接などの固定手段によって一体回転可能に固定されている。また、一側壁63と他側壁67との軸方向間には、複数の抵抗板が配置されている。また、他側壁67には、密封空間79にシリコンオイルなどの粘性流体を流入させる注入孔71が形成され、この注入孔71は粘性流体を密封空間79に流入させた後、閉塞部材73によって閉塞される。このサイドギヤ9の連結壁65と径方向に複数の抵抗板を挟んで対向する位置やギヤ部材61の内径側などには、サイドギヤ9と相対回転可能に内側回転部材69が配置されている。
【0028】
内側回転部材69は、一端側がサイドギヤ11の連結部59にサイドギヤ11と一体回転可能に連結されている。この内側回転部材69の他端側とサイドギヤ9の連結壁65との径方向間には、複数の抵抗板が配置されている。
【0029】
複数の抵抗板のうちサイドギヤ9に連結される外側抵抗板は、サイドギヤ9の連結壁65の内径に形成されたスプライン形状の連結部75に軸方向移動可能でサイドギヤ9と一体回転可能に連結されている。
【0030】
複数の抵抗板のうち内側回転部材69、すなわちサイドギヤ11に連結される内側抵抗板は、複数の外側抵抗板に対して軸方向に交互に配置され、内側回転部材69の外径に形成されたスプライン形状の連結部77に軸方向移動可能でサイドギヤ9と一体回転可能に連結されている。この複数の抵抗板は、粘性流体が封入される密封空間79に配置されている。
【0031】
密封空間79は、サイドギヤ9のギヤ部材61と一側壁63と連結壁65と他側壁67と内側回転部材69とで形成された空間をシール手段及び摺動部材としてのXリング81,83で区画することによって形成されている。この密封空間79には、シリコンオイルなどの粘性流体が密封されている。
【0032】
このようなカップリング31は、複数の抵抗板が粘性流体をせん断するせん断抵抗を生じて、この抵抗によって一対のサイドギヤ9,11の差動回転が制限され、差動機構13における差動を制限する、いわゆる回転差感応型の差動制限機能を生じる。
【0033】
このようなデファレンシャル装置1のデフケース3には、ピニオン孔17,19を閉塞すると共にピニオン組15の噛み合い反力を受けるプレート21が設けられている。
【0034】
プレート21は、薄板状で環状に形成され、受部23と、補強部25とを備えている。受部23は、周方向等間隔に複数(ここでは4つ)の固定孔85が設けられ、この固定孔85にボルト87を挿通することによってプレート21がデフケース3に固定される。この受部23は、デフケース3の軸方向端面と当接してピニオン孔17,19の開口を閉塞すると共に、ピニオン組15の軸方向端面と当接して一対のサイドギヤ9,11との噛み合い反力によるピニオン組15の軸方向移動を受ける。この受部23の内外径には、プレート21の表面からピニオン5,7と逆側に向けて突出して補強部25が設けられている。
【0035】
補強部25は、プレス成型によって、受部23の内外径に周方向に連続して設けられた環状凸部27,29となっている。この環状凸部27,29は、受部23の周方向全域を補強するので、受部23を周方向全域で均一に薄肉とすることができる。このように受部23を薄肉とすることにより、プレート21の軽量化や低コスト化をすることができる。
【0036】
ここで、従来のプレートでは、厚肉であるので、円錐形状の複数の固定孔を設け、この固定孔に対して皿ねじを挿通してプレートをデフケース3に固定していた。しかしながら、このような皿ねじを用いた固定構造では、1つの固定孔に皿ねじを固定すると、他の固定孔が位置ずれを起こしやすく、組付作業性が低下してしまう。これに対して、プレート21では、薄肉であるので、固定孔85を円錐形状とする必要がなく、ボルト87もプレート21の表面に面接触する部材を適用することができる。このため、組付時の固定孔85の位置ずれを防止でき、組付作業性を向上することができる。
【0037】
また、デフケース3を回転可能に支持するベアリング39を調整する際には、図4に示すように、内周側の補強部25の一部を強度が許すように切り欠いて切欠部91を設けることで、プーラーなどの治具89を用いてベアリング39をデフケース3のボス部35から取り外すことがある。従来のような厚肉のプレートでは、プレートとベアリング39のインナレースとの間に治具89を挿入させるスペースを確保することができず、治具89によってベアリング39を取り外すことが困難であった。そこで、プレート21に、内径側の環状凸部27に治具89を挿入させるための切欠部91を周方向の2箇所に設けてもよい。この切欠部91により、容易に治具89をプレート21とベアリング39のインナレースとの間に挿入することができ、ベアリング39の調整を容易に行うことができる。
【0038】
このようなデファレンシャル装置1では、プレート21にピニオン組15の噛み合い反力を受ける受部23を補強する補強部25が設けられているので、プレート21の受部23を薄肉としてもプレート21自体の剛性を保持することができ、ピニオン組15の噛み合い反力をプレート21の受部23で受けることができる。
【0039】
従って、このようなデファレンシャル装置1では、補強部25によって受部23を薄肉とすることができるので、プレート21の剛性を保持しつつ、軽量化及び低コスト化することができる。
【0040】
また、補強部25は、プレート21の内外径に周方向に連続して設けられた環状凸部27,29であるので、プレート21の周方向全域で受部23を補強することができ、受部23を周方向全域で均一に薄肉とすることができる。
【0041】
さらに、本発明に係る実施形態によれば、薄肉のプレートであるので、回転バランスに偏りが少なく、デファレンシャル装置に不要な振動が生じるのを抑制することができる。また、薄肉のプレートでありながら、補強部によりプレートの表面積を増大させることができ、ピニオンの端面の摩擦摺動によって生じる熱を良好に放熱させることができ、ピニオン端面の焼き付きを防止することができる。
【0042】
加えて、プレートに耐力を有しながら微少変形を許容する肉厚を設定すれば、ピニオンの微少な軸線倒れをも考慮し、ピニオン端面とプレート表面との摺動接触を安定させて偏摩耗を防止することもできる。
【0043】
なお、本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置では、補強部がプレートの内外径に周方向に連続して設けられた環状凸部となっているが、これに限らず、例えば、内外径の一方に周方向に形成する、或いは受部の周方向に複数設けられた放射状の凸部や、受部の表面に複数設けられた突部など、受部を補強するものであれば、補強部の形態はどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…デファレンシャル装置
3…デフケース
5,7…ピニオン
9,11…一対のサイドギヤ
13…差動機構
15…ピニオン組
17,19…ピニオン孔
21…プレート
23…受部
25…補強部
27,29…リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が入力され回転可能なデフケースと、このデフケースに支承されて自転可能であると共に前記デフケースの回転によって公転するピニオンと、このピニオンと噛み合って相対回転可能な一対のサイドギヤとからなる差動機構を備え、前記ピニオンは、互いに噛み合うと共に前記一対のサイドギヤとそれぞれ噛み合うピニオン組からなり、このピニオン組は、前記デフケースの外部と連通されたピニオン孔に収容され、前記ピニオン孔を閉塞すると共に前記ピニオン組の噛み合い反力を受ける環状のプレートが設けられたデファレンシャル装置であって、
前記プレートには、前記ピニオン組の噛み合い反力を受ける受部と、この受部を補強する補強部が設けられていることを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項2】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記補強部は、前記プレートに周方向に連続して設けられた環状凸部であることを特徴とするデファレンシャル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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