説明

デポジット洗浄方法

【課題】硫化鉄、硫酸亜鉛及び硫化銅などの水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法であり、取扱性に優れ、作業安全性がよく、短時間で充分な洗浄効果を発揮することができる水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法を提供することを解決すべき課題としている。
【解決手段】水難溶性金属硫化物を含むデポジットに過酸化水素と酸を共に接触させて、当該デポジットを除去することを特徴とする水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学業、紙パルプ製造業では、硫化鉄、硫化銅などの水難溶性金属硫化物を含むデポジットが生じ、その洗浄除去が行われている。通常、水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去は、酸を用いた洗浄が行われている。
【0003】
例えば、石油化学工業においても原油の高温処理により石油精製装置内に硫化鉄系スケールが付着し、熱交換器の効率低下等の操業上、大きな問題となり、高圧ジェット洗浄法で硫化鉄系スケールの除去を行っていた。しかし、このような物理洗浄では限界があり、塩酸、スルファミン酸、クエン酸等の有機酸での化学洗浄が行われているが、塩酸のような強酸では硫化水素が発生し作業環境上好ましくない。また、スルファミン酸、クエン酸等の有機酸では、洗浄効果が不十分で満足できるものではない。そこで、硫化鉄系スケールを硝酸で処理する、あるいは硫化鉄系スケールをアルカリ洗浄液と接触した後に硝酸で処理する方法(例えば特許文献1参照)が提案されている。しかし、この方法では硝酸由来の二酸化窒素が発生するため作業環境としては、好ましくない。
【0004】
また、紙パルプ製造業では、亜硫酸パルプ製造時の蒸解薬品で使用する亜硫酸塩と木材や用水に由来する鉄、亜鉛や銅等に由来する硫化鉄、硫化亜鉛や硫化銅のスケールが蒸解釜、エバポレータやウォッシャー、スクリーン等に付着して流量の低下や伝熱効率の低下等が生じ操業上、支障を来す。また、硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合液による蒸解液を用いたクラフトパルプの製造においては、クラフトパルプ蒸解工程−薬品回収工程中の緑液沈降(処理)−苛性化・石灰泥分離−白液調製の一連の操作の中で、木材や用水に由来する鉄、亜鉛や銅等に由来して生じる硫化鉄、硫化亜鉛や硫化銅のスケールがウォッシャー、スクリーン、フィルター(及び濾布)等に付着して流量の低下や伝熱効率の低下等が生じ操業上、支障を来す。これらの硫化物の除去には、硫酸、塩酸等の無機鉱酸を使って洗浄、除去していたが、洗浄効率が低く、満足のできるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−212172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、硫化鉄、硫酸亜鉛及び硫化銅などの水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法であり、取扱性に優れ、作業安全性がよく、短時間で充分な洗浄効果を発揮することができる水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは水難溶性金属硫化物の洗浄について詳細に検討した結果、過酸化水素と特定の弱酸を組み合わせて使用することにより、優れた水難溶性金属硫化物洗浄効果が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、請求項1に係る発明は、水難溶性金属硫化物を含むデポジットに過酸化水素と酸を共に接触させて除去することを特徴とする水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法であり、過酸化水素と酸を重量比で0.5:100〜20:100で用いることを特徴としている。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法であり、水難溶性金属硫化物が硫化鉄、硫化銅、硫化亜鉛の少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法であり、酸がスルファミン酸、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸及びリンゴ酸の少なくとも1種を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法により、硫化水素や二酸化窒素等の有害ガスの発生を伴うことなく、しかも取扱上の危険性が比較的少ない弱酸を用いた安全な作業環境下で、短時間でしかも充分な洗浄効果を発揮する水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法は、水難溶性金属硫化物を含むデポジットに過酸化水素と酸を共に接触させて、当該デポジットを溶解あるいは分解除去する方法である。
【0014】
本発明における洗浄の対象となるデポジットは、水難溶性金属硫化物を含むデポジットである。具体的な水難溶性金属硫化物としては硫化鉄、硫化銅、硫化亜鉛があり、これらの1種以上を含むものである。また、これと共に硫化ナトリウム、硫化カルシウム等の硫化物や他の水難溶性塩である炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の洗浄の対象となるデポジットが生じる箇所としては、石油化学工業の石油精製工程、紙パルプ製造業の亜硫酸パルプ製造時の蒸解工程やクラフトパルプ製造時の苛性化工程が挙げられる。石油化学工業の石油精製工程の場合の水難溶性金属硫化物を含むデポジットは、原料油に由来する金属成分と硫黄分が、原料油(原油)を高温高圧の条件で触媒存在下、水素と接触反応させることにより、石油精製工程内の水素化分解装置、水素化脱硫装置、水素化精製装置及び接触改質装置らに付帯する蒸留塔及び精留塔、これらの蒸留塔(及び精留塔)内のトレイ、輸送配管や熱交換器等の付帯設備に付着しデポジットを形成する。付着するデポジットは、硫化鉄主体のデポジットであり、装置の材質がステンレス系であれば硫化ニッケル、硫化クロム、鉄−クロム酸化物等を含むことがある。
【0016】
紙パルプ製造業での水難溶性金属硫化物を含むデポジットは、亜硫酸パルプ製造時の蒸解工程やクラフトパルプ製造時の苛性化工程で生じる。亜硫酸パルプ製造の場合では、蒸解液として硫化ソーダを使用するために木材、用水由来の鉄、亜鉛、銅と反応して水難溶性の金属硫化物を含むデポジットが生じて蒸解釜、洗浄機やスクリーン等の装置内面に付着したり、装置類の輸送配管、ファンポンプや貯留タンク等の付帯設備に付着する。また、クラフトパルプ製造時の苛性化工程の場合でも蒸解液として硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを用いることにより、黒液の回収、濃縮−黒液燃焼−スメルト溶解−緑液調製−苛性化(水酸化カルシウムによる塩交換反応での水酸化ナトリウム生成)−白液清澄化(残存する炭酸カルシウム、水酸化カルシウムを除外し、蒸解液として使用する硫化ナトリウムと水酸化ナトリウム混合液を調製)までの一連の苛性化工程において、蒸解液の一部として用いる硫化ナトリウムと木材、用水由来の鉄、亜鉛、銅と反応して水難溶性金属硫化物を含むデポジットが蒸解釜、黒液エバポレータ、一連の苛性化工程内の洗浄機、スクリーン等の装置やその輸送配管、ファンポンプや貯留タンク等の付帯設備に付着する。特に苛性化から白液清澄化段階での設備、例えばクラリファイヤー、ライムマッドフィルター、プレコートフィルター、ポリディスクフィルター、ベルトフィルター等の装置類及び輸送配管、ファンポンプや貯留タンク等の付帯設備には、炭酸カルシウムや硫酸カルシウム主体のスケール性デポジットに硫化鉄、硫化亜鉛、硫化銅等の水難溶性金属硫化物を含むデポジットが付着する。付着するデポジットには、これらのもの以外に炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウムなどが含まれてもよい。
【0017】
本発明で用いる過酸化水素は、特に限定されるものではなく、一般的に使用されるレベルの過酸化水素である。具体的には、約35重量%濃度〜約60重量%濃度の過酸化水素あるいはその水希釈液として約5重量%濃度〜約20重量%濃度の過酸化水素水を用いることができる。また、過酸化水素の安定化剤としてアミノカルボン酸型キレート剤(例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(EDTA・Na塩))、ホスホン酸型キレート剤(例えばホスホノブタントリカルボン酸ナトリウム)、珪酸ナトリウム等を配合した過酸化水素を用いてもよい。
【0018】
本発明で用いる酸は、硫化水素酸以外の無機酸、有機酸である。具体的に無機酸としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸があり、有機酸としてはギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸及びリンゴ酸などが挙げられ、中でも作業性、取扱性を考慮するとスルファミン酸、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸及びリンゴ酸が好ましい。これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
酸はそのままで用いてもよいが、水で希釈して用いてもよい。希釈して用いる場合の酸の濃度は、対象とする水難溶性の金属硫化物を含むデポジットの内容、用いる酸の種類及び要求される除去のレベルに応じて適宜決定されるものであるが、通常、酸の濃度は単独あるいは複数の酸の混合物のいずれであっても0.5重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜15重量%である。
【0020】
本発明の水難溶性の金属硫化物を含むデポジットの洗浄方法(以下「デポジットの洗浄方法」とする)は、水難溶性の金属硫化物を含むデポジットに過酸化水素と酸を共に接触させて、当該デポジットを溶解あるいは分解除去する方法であり、過酸化水素と酸を別々に添加して当該デポジットに接触させる方法、過酸化水素と酸を混合して一液として添加して当該デポジットに接触させる方法があり、いずれを用いてもよい。過酸化水素は、デポジット中の硫化物を酸化させて亜硫酸塩、チオ硫酸塩、硫酸塩、金属酸化物等とすることにより水溶解性を高めるとともに、酸による分解で生じる有害ガスの硫化水素の発生を防止する。金属硫化物を含むデポジットの洗浄に塩酸等の無機酸を用いると有害ガスの硫化水素が発生するために多くの場合で酸の使用は行われていない。有害ガスの硫化水素の発生を防止するために硝酸を用いる方法があるが、この場合には有害ガスの二酸化窒素が発生する危険性がある。そのため、金属硫化物を含むデポジットの洗浄には、従来からほとんど場合で高圧ジェット水洗が行われ、補助的に弱酸を用いているにすぎない。
【0021】
過酸化水素により酸化された酸化物は酸により分解、溶解され、水難溶性金属硫化物を含むデポジットの洗浄が行われる。また、酸の共存により過酸化水素の分解は抑制され、安定化される効果があり、作業上、好都合である。
【0022】
デポジットが工程内の装置あるいは配管内に付着しているものであれば、過酸化水素と酸を共に循環使用することでデポジットの除去効率は大きく向上する。
【0023】
過酸化水素の添加量は、対象とする水難溶性金属硫化物を含むデポジットの内容、用いる酸の種類及び要求される除去のレベルに応じて適宜決定されるが、通常、用いる酸を対して0.5重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%である。過酸化水素が0.5重量%未満では本発明の効果を得ることができず、過酸化水素が20重量%を超えると、用いる過酸化水素量に対して洗浄効果の増加が小さく、好ましくない。
【0024】
デポジットの洗浄方法での水温は、通常、20℃〜85℃、好ましくは35℃〜70℃である。デポジットの洗浄方法での所要時間は、対象とする水難溶性の金属硫化物を含むデポジットの内容及び要求される除去のレベルに応じて適宜決定されるものであり、通常、1時間〜6時間である。
【0025】
本発明の作用効果を妨げない範囲で、界面活性剤等の湿潤浸透剤、消泡剤、キレート剤、腐食防止剤などを併用してもよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(デポジット洗浄試験)
クラフトパルプ製造工場の緑液清澄化の後の苛性化工程では、ポリディスクフィルタを用いて白液清澄化を行っていた。しかし、当該ポリディスクフィルタの濾布が炭酸カルシウムを主成分とし硫化鉄、硫化亜鉛、硫化銅などの硫化物が含まれる黒色化した付着物で目詰まりし、白液清澄化に支障を来していた。そこで、定期的に廃硫酸を用いて40℃で3〜5時間の酸洗を行っていたが、炭酸カルシウムは除去できるものの硫化鉄、硫化亜鉛、硫化銅などの水難溶性金属硫化物を主体とするデポジットは濾布から除去することができず、濾布の目詰まりを完全に解消することができず、操業上の大きな問題点となっていた。ポリディスクフィルタの濾布交換時、酸洗後の汚れた濾布を入手し、これを約5cm平方の小片に切り取り、110℃で6時間乾燥した後、精秤し試験片とした。この濾布に付着しているデポジットの組成は、IR分析及び定性試験から硫化鉄、硫化亜鉛、硫化銅、炭酸カルシウムを含み、以下のような組成のデポジットであった。
〈デポジット分析結果〉
・灼熱減量(800℃):46.6重量%、灰分:53.4重量%
・灰分中の主要組成(デポジット全体に対しての割合):Cu(CuO)12.2重量%、Zn(ZnO)11.8重量%、Fe(Fe)9.5重量%、S(SO)6.7重量%、Ca(CaO)5.0重量%。
【0027】
このデポジットが付着した試験片による洗浄試験を次のように行った。500mLビーカーに水(25℃)200mLを入れ、次いで30重量%濃度の過酸化水素0.33mLとスルファミン酸2gを入れ、マグネティックスターラーで均一に撹拌し洗浄液(25℃)を調製した。試験片を80メッシュのステンレス網で作ったかごに試験片を入れて洗浄液に試験片を浸漬させ、撹拌下、1時間洗浄を行った。洗浄後、少量の水で試験片を洗い、110℃で6時間乾燥させ、精秤し、次式にてデポジット洗浄率(%)を算出した。
デポジット洗浄率(%)=(b/a)×100
a:洗浄前の試験片重量(g)
b:洗浄後の試験片重量(g)
洗浄液中の過酸化水素濃度、スルファミン酸濃度を種々変更し、更にスルファミン酸に代えてリンゴ酸、グルコン酸を用いても同様に洗浄試験を行った。その結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
本発明のデポジットの洗浄方法では、硫化水素などの有害ガスの発生が無く、しかも高い洗浄率を得られないことが分かる。これに対して、従来の酸によるデポジットの洗浄方法では有害ガスの硫化水素が発生し、しかも十分な洗浄効果を得られないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水難溶性金属硫化物を含むデポジットに過酸化水素と酸を共に接触させて除去することを特徴とする水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法。
【請求項2】
過酸化水素と酸を重量比で0.5:100〜20:100で用いる請求項1記載の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法。
【請求項3】
金属硫化物が硫化鉄、硫化銅、硫化亜鉛の少なくとも1種を含む請求項1又は請求項2記載の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法。
【請求項4】
酸がスルファミン酸、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸及びリンゴ酸の少なくとも1種を含む請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の水難溶性金属硫化物を含むデポジットの除去方法。




【公開番号】特開2007−307478(P2007−307478A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138924(P2006−138924)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】