説明

デングキメラウイルス

本発明は、点突然変異及び遺伝学的変化を蓄積する傾向が小さいデングキメラウイルスに関する。これらのデングキメラウイルスにおいて、ポリメラーゼをコードするNS5遺伝子が、黄熱ウイルスの対応するNS5配列によって置換されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝的安定性が高いゆえに非弱毒化表現系に復帰しにくいデングキメラウイルスに関する。これらのデングキメラウイルスにおいて、ポリメラーゼをコードしているNS5配列は、黄熱病ウイルスの対応するNS5配列と置き換えられている。
【背景技術】
【0002】
デング熱はマラリアに次ぐ、二番目に重要な熱帯感染症であり、世界人口(20億5千万人)の半分以上の人々が伝染のリスクがある場所に生活している。デング病の推定5000万から1億人のうち、年間50万人がDHF患者として入院し、2万5千人が死亡している。デング病はアジア、太平洋、アフリカ、アメリカ、カリブ海などの風土性がある。
【0003】
デング出血性熱(DHF)は、深刻な内出血によって悪化する血液量減少症及び低血圧症(Dengue shock syndrome, DSS)を引き起こす恒常性の異常と高い血管浸透性とによって特徴付けられる深刻な熱性の疾患である。DHFの致死率は治療を施さないと10%と高いが、処置を行えば1%以下となる(WHO Technical Guide, 1986)。
【0004】
デング熱感染症はフラビウイルス属(Gubler, 1988)のうち、密接に関連しているが、抗原性の異なる4つのウイルス血清型(Gubler, 1988;Kautner ら、1997;Rigau-Perez ら、1998;Vaughn ら、1997)によって引き起こされる。デングウイルス血清型に感染すると非特異的なウイルス性症候群から深刻で致命的な出血性疾患までの範囲に及ぶ臨床疾患を引き起こす。デング熱(DF)の潜伏期間は蚊に刺されてから平均4日(3から14日の範囲)である。DFは二峰性の熱、頭痛、体中の痛み、衰弱、発疹、リンパ節腫そして白血球減少症によって特徴付けられる(Kautnerら、1997; Rigau-Perezら、1998)。ウイルス血症の期間は熱性の疾患と同じである(Vaughnら、1997)。DFは通常7〜10日間で回復するが、遷延性の無力症となるのが一般的である。白血球及び血小板の数がしばしば減少する。
【0005】
ウイルスは、ヒトやヒトを標的として好む、国内で日中に咬刺するネッタイシマカの中に周期的に保有される。ヒトへの感染は、感染したネッタイシマカが血液摂食している間、ウイルスが注入されることによって引き起こされる。ネッタイシマカの唾液ウイルスは主に血管外組織に蓄積される。接種後に感染した原発細胞の小集合は樹状細胞であり、その後、流出するリンパ節に向かって遊走する(Wuら、2000)。皮膚での最初の複製とリンパ節からの流出の後、高熱期の間、一般的に3〜5日間のうちにウイルスが血管内に出現する。
【0006】
単球及びマクロファージは樹状細胞とともにデングウイルスの主な標的である。ホモタイプの再感染に対する防御は完全であり恐らく生涯維持されると思われるが、デング型どうしの交差防御は12週間以下である(Sabin, 1952)。したがって、対象患者は異なる血清型に再び感染する可能性がある。二回目のデング感染は深刻なデング熱感染症に発展するという理論的に危険な因子である。しかしながら、DHFは多因性である:患者の年齢、免疫状態、患者の遺伝的体質のみならずウイルス株も含まれる。二つの因子がDHFの発症に大きな役割を担っている:高ウイルス血症(ウイルス血症のレベルに係わる疾患の重症度)に伴うウイルスの急速な複製(Vaughnら、2000)及び炎症メディエーターの高レベル放出に伴う重要な炎症反応(Rothman及びEnnis, 1999)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
デング熱感染症に対する特別な治療はない。DFの管理は、ベッド療養、解熱剤と鎮痛剤による熱と苦痛の制御、そして適切な水分摂取によって支持される。DHFの治療は、体液喪失の調整、凝固因子の交替、そしてヘパリンの注入が必要である。
【0008】
現在の予防対策は媒介生物の駆除と個人的な保護措置に依存しており、これは強要することは難しく、高価である。現在デングに対するワクチンの登録はない。デングの4つの血清型が世界中に広がり、それらはDHFの場合に含まれることが報告されているため、4つすべてのデングウイルス血清型に対してワクチン接種により予防することが理想的である。
【0009】
弱毒生ワクチン、これは自然免疫を再生させるものであるが、多くの疾患に対するワクチンの開発に使用されている。弱毒生ウイルスワクチンの優位性は複製能力と体液性かつ細胞性の両者の免疫応答の誘導にある。さらに、ウイルス(構造及び非構造タンパク質)の異なる組成に対して全体のビリオンワクチンによって誘導された免疫応答は自然感染によって誘導された応答を再度生じた。
【0010】
デングワクチンのプロジェクトがタイのマヒドール大学化学技術研究所、ワクチン開発センターで立ち上げられた。デング血清型1から4に対する弱毒生ワクチンの候補の実験規模での開発に成功した。これらのワクチンはタイのボランティアによって、一価(一つの血清型)、二価(二つの血清型)、三価(三つの血清型)、四価(四つすべての血清型)として試験されている。これらのワクチンは大人及び小児に対して安全で、かつ免疫応答し得るように構築された(Gubler, 1997)。しかしながら、これらのLAV株は異種性の集団に対応し、組成物に存在する株の一つのインビトロまたはインビボの選択の可能性によるリスクを示す。実際に、デングウイルスは複製過程において、一般的突然変異や遺伝的変化を起こしやすい。
【0011】
Pugachevら(2004)は、黄熱ウイルスのNS5によってコードされたポリメラーゼは他のフラビウイルスと比較して、忠実度が高いという特徴を有することを最近公表した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、黄熱ポリメラーゼのユニークな特徴を活かしてデングウイルスのキメラ組み換え体を構築することを提案する。該組み換え体において、デングウイルスの元のポリメラーゼをコードする配列が黄熱株の対応する配列で置換されており、かくして有用なワクチン候補となるであろう高い遺伝的安定性を有する弱毒生デングウイルスが得られる。
【0013】
定義
「黄熱株」と表現することによって、多様な黄熱株を意味している。一例として、YFD17株が使用され得る。この株はSmithburnら(1956)及びFreestone (1995)が開示している。YF17Dは遺伝子レベルで研究され(Rice ら、1985)、そのゲノム配列は配列番号7に示される(Genbank accession number NC 002031)。確かに本発明に関する記載の文脈上、デングウイルスに挿入されるNS5配列はいずれの黄熱株にも由来し得る。本発明における一つの実施態様において、デングウイルスのNS5をコードしている配列はYFD17株のNS5をコードしている配列に対応するため置換される。好都合なことに、同じデングウイルスの3’NCR配列もまた同じ黄熱株の3’NCR配列に対応するため置換される。
【0014】
本明細書に記載のとおり、デング(DEN)ウイルスは血清型1、2、3、4の野生型デングウイルス、または血清型1、2、3、4の弱毒生デングウイルス株を示す。デングウイルスは下記の遺伝子構成を示すRNAウイルスである:5’−非コード領域(NCR)、構造タンパク質(カプシド(C)、前膜/膜(prM/M)、外被(E))及び非構造タンパク質(NS1−NS2A−NS2B−NS3−NS4A−NS4B−NS5)及び3’NCR。RNAゲノムはヌクレオチド(正二十面体の対称性)を形成するCタンパク質に関連する。他のフラビウイルスのように、DENウイルス性ゲノムは、中断されていない翻訳領域(ORF)をコードしており、この翻訳領域は一つのポリタンパク質に翻訳される。
【0015】
特に、デング血清型1(DEN−1)ウイルスは野生型株の16007であろう。デング血清型2(DEN−2)ウイルスは野生型株の16681であろう。デング血清型3(DEN−3)ウイルスは野生型株の16562またはマルティニクで新たに再導入されたデングウイルス型3(Peyrefitte ら、2003、配列番号8)であろう。デング血清型4(DEN−4)は野生型株の1036であろう。
【0016】
「弱毒生」ウイルスまたは株と記載することによって、本明細書では、試験されたヒトの大半において軽症(例えば、明確な利益/リスクの比率が現れるほどに調節された目的から受け入れられる程度)または副次的作用(例えば、全身性の発症かつ/または生物学的異常かつ/または局所反応)がないが、しかし感染して免疫応答を引き起こす株またはウイルスを意味する。これらの弱毒生株は初めはデング野生型株に由来してもよい。
【0017】
「免疫反応」と記載することによって、本明細書では霊長類において、特にヒトにおいて、中和抗体を含む特異な体液性免疫応答を含む応答を意味する。特異な体液性免疫応答の導入はELISAアッセイによって容易に確定され得る。ワクチンの血清中における中和抗体の存在はHuang ら (2000)が開示したような血小板の減少によって評価される。確定された中和抗体の滴定量が少なくとも1:10と同じかそれ以上であるとき、血清は中和抗体の存在に関して陽性であると考えられる。
【0018】
本発明のキメラデングウイルスの構築のために最初の産生物として用いられ得るデング株は、例えば、:
「LAV1」株、これはプライマリードッグの腎臓(PDK)におけるデング血清型1(DEN−1)株16007の13継代の後確立された弱毒化株である。LAV1配列は配列番号9に示される。DEN−1 16007と比較して、LAV1は14個のヌクレオチド置換を有する:1323 T>C、1541 G>A、1543 A>G、1545 G>A、1567 A>G、1608 C>T、2363 A>G、2695 T>C、2782 C>T、5063 G>A、6048 A>T、6806 A>G、7330 A>G、そして、9445 C>Tである。上記LAV1株は、マヒドール大学の名前でEP1159968に記載されており、2000年5月25日以前に、the Collection Nationale de Culture de Microorganismes (CNCM)に、番号1−2480として、寄託されている。
「LAV2」株、これは弱毒化株であるが、PDK細胞におけるデング血清型2(DEN−2)株16681の53継代の後に構築された。LAV2ヌクレオチド配列は配列番号10に示される。株16681のゲノム配列と比較して、LAV2は9つのヌクレオチド置換を有する:57 C>T、524 A>T、2055 C>T、2579 G>A、4018 C>T、5270 A>(A/T)、5547 T>C、6599 G>C、そして8571 C>Tである。上記LAV2株はマヒドール大学の名前でEP1159968に記載されており、2000年5月25日以前に、CNCMに、番号1−2481として寄託されている。
「LAV3」株、これは一次ミドリザル腎臓(Primary Green Monkey Kidney、PGMK)細胞におけるデング血清型3(DEN−3)株16562の30継代後及び胎仔アカゲザル肺(Fetal Rhesus Lung、FRhL)細胞における3継代後に構築された株に対応するものである。LAV3ヌクレオチド配列は配列番号11に示されている。上記LAV3株はマヒドール大学の名前でEP1159968に記載されており、2000年5月25日以前にCNCMに、番号1−2482として寄託されている。
「LAV4」株、これは一次犬腎臓(Primary Dog Kdney、PDK)細胞におけるデング血清型4(DEN−4)株1036の18継代後に構築された株に対応する。LAV4ヌクレオチド配列は配列番号12に示されている。上記LAV4株はマヒドール大学の名前でEP1159968に記載されており、2000年5月25日以前にCNCMに、番号1−2483として寄託されている。
【0019】
弱毒生ベロ由来血清型1及び2ウイルス(VDV1及びVDV2)は本発明のキメラデングウイルスを構築する上で出発デング株として使用するには好都合である。VDV1及びVDV2は、出願人による、複合体の単離及びLAV1及びLAV2及びプラーク精製物のそれぞれの精製ゲノムRNAとともにベロ細胞の特異的な形質移入を含む多様なステップからなる形質移入の過程を通して開発された。LAV1株のゲノム配列と比較して、VDV1(配列番号13)は3つのヌクレオチド置換を有する:5962 C>A、及び7947 A>G、及び任意に2719 G>Aであってもよい。LAV2株のゲノム配列と比較してVDV2(配列番号14)は下記のヌクレオチド置換を有する:736 G>C、1619 G>A、4723 T>A、5062 G>C、9191 G>A、10063 T>A、及び10507 A>G、及び任意に1638 A>G、2520 G>A、及び9222 A>Gであってもよい。
【0020】
デングウイルスゲノミック配列またはポリタンパク質と同一視される置換はDunnen及びAntonarakis(2000)の命名法に準じて命名された。核酸レベルでDunnen及びAntonarakisによって定義されたように、置換は「>」を用いて表される、例えば、「31A>G」は該当配列のヌクレオチド31においてAがGに変えられることを示している。
【0021】
キメラデング/黄熱ウイルス
以上のように本発明は単離された生キメラデングウイルス、つまり有利に単離された弱毒生キメラデングウイルスを提供するもので、弱毒生キメラデングウイルスにおいて、デングウイルスの非構造配列NS5は黄熱ウイルスの対応するNS5配列によって置換される。有利なことに、デングウイルスの3’NCR配列もまた同じ黄熱ウイルスの対応する3’NCR配列により置換される。
【0022】
このキメラデング株は、例えば、実施例に記載されたプロトコルを用いて構築及び単離され得る。
【0023】
これらの生キメラデング株は弱毒デング株または野生型デング株から構築され得る。この後者の場合において、キメラウイルスは、例えば、ベロ細胞のような細胞培養上での連続継代によって弱毒化され得る。
【0024】
したがって、一つの実施態様において、本発明のキメラデングウイルスは弱毒生デング株から構築される。特定の実施態様において、前記一つのデング株はLAV1(配列番号9)、LAV2(配列番号10)、LAV3(配列番号11)、LAV4(配列番号12)、ベロ−由来血清型1(配列番号13)及びベロ−由来血清型2(配列番号14)からなる群から選択される。
【0025】
特定の実施態様において、上に挙げられた弱毒株に含まれるNS5配列及び任意に3’−NCR配列は黄熱ワクチン株YF17D(配列番号7)に由来する。
【0026】
上記に従って産生されたキメラデングウイルスは凍結組成物の形態として備蓄されるか凍結乾燥された生成物として備蓄され得る。この目的のためにキメラデングウイルスは糖アルコール及び安定剤などのような凍結保護組成物を含む水溶性の緩衝溶液のような希釈剤とともに混合される。凍結または凍結乾燥前のpHは有利には6から9の範囲、例えば、室温のpHメーターによって決定されるように7を示す。使用前、凍結乾燥された産生物は、液状の免疫原性組成物またはワクチンを再構成するために、滅菌されたNaCl 4‰溶液のような医薬上許容される希釈剤または賦形剤とともに混合される。
【0027】
ウイルスの弱毒−特異性遺伝子座における配列は、キメラ構成物の高い遺伝的安定性を確認するため形質移入後または細胞培養上での連続継代(例えば、10継代)の後に回復した。
【0028】
核酸
本発明は、上記に示すように、本発明のキメラデングウイルスをコードしている単離された核酸に関する。前記核酸は5’−非コード領域(NCR)、構造配列(カプシド(C)、前膜/膜(prM/M)、そして外皮(E))及びあるデング株の非構造配列NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、及びNS4B、及び黄熱ウイルスの非構造配列NS5及び前記デング株の3’−NCR配列または有利には前記黄熱ウイルスの3’NCR配列のいずれかで構成されている、またはから成っている。
【0029】
「核酸分子」はリボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、またはシチジン)のリン酸エステル重合体の形態またはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、またはデオキシシチジン、「DNA分子」)、またはホスホロチオエート及びチオエステルのようなそれらのリン酸エステル類似体のいずれかで、一本鎖形態または二重らせん構造となっている。
【0030】
したがって、本発明は、本発明のキメラデングウイルスをコードしているcDNA配列並びに等価のRNA配列を提供する。
【0031】
「等価のRNA配列」はデオキシチミジンがウリジンによって置換された前記DNA配列を意味する。
【0032】
本発明はまた、本発明のキメラデングウイルスのプラス鎖RNAを提供する。
【0033】
さらに発明は本発明の核酸によってコードされたポリタンパク質に関する。
【0034】
免疫原性及びワクチンの組成物
本発明はまた、ワクチンとして使用されるのに適した免疫原性組成物に関し、この組成物は医薬上許容される担体中の、本発明の少なくとも一つのキメラデングウイルスを含んでいる。
【0035】
本発明による免疫原性組成物は、中和抗体などの、デングウイルスに対する体液性の免疫応答を誘発する。
【0036】
一つの実施態様によれば、免疫原性組成物はワクチンである。
【0037】
一つの実施態様によれば、免疫原性組成物は一価の組成物である、すなわち、特異的な免疫応答を誘発し、かつ/または唯一のデング血清型の血清型に対して防御する組成物である。
【0038】
他の実施態様によると、本発明は多価デング免疫原性組成物、すなわち、少なくとも2、例えば3または4種のデング血清型に対して特異的な免疫応答を誘発する組成物に関する。多価の免疫原性組成物またはワクチンはそれぞれの一価のデングワクチンを組み合わせることによって得られるだろう。第2の血清型に対して特異的な免疫応答を誘発する本発明の多価組成物の有効成分は、他の血清型の第二のキメラデングウイルスであるか、または他の血清型の弱毒生デングウイルスである。例えば、本発明の免疫原性またはワクチン多価組成物は、少なくともキメラデングウイルスまたは血清型2、血清型3、及び血清型4から成る群から選択された弱毒生デングウイルスと組み合わされた、本発明のキメラデング血清型1ウイルスを含んでいてもよい。
【0039】
有利には、免疫原性またはワクチン組成物は四価のデングワクチン組成物である。
【0040】
本発明によれば、免疫原性またはワクチンは当該分野の技術者に知られた従来の方法を用いて準備される。慣例的には、本発明による抗原は、水またはリン酸緩衝食塩水、湿潤剤、注入剤、乳化剤、及び安定剤のような医薬上許容される希釈剤または賦形剤とともに混合される。この賦形剤または希釈液は医薬剤形の選択の機能、投与管理の方法及び経路、及び薬務の関数として選択される。医薬上の処方剤形の点から適当な賦形剤または希釈剤及び必要成分はRemingtonの医薬化学に記載されており、これは当該分野の参考文献を代表するものである。
【0041】
有利には、免疫原性の組成物またはワクチンは、pH(pHメーターを用いてRTにおいて決定されるように)を例えば6から9に維持するため水溶性の緩衝液を含む注入可能な組成物に相当する。
【0042】
本発明の組成物はアジュバント、例えば、キメラデングウイルスによって誘発される免疫応答を向上または増強する物質をさらに含む。ヒトのワクチンの分野において慣例的に使用される医薬上許容されるアジュバントまたはアジュバントの混合物をこの目的のために使用してもよい。
【0043】
本発明によれば、免疫原性組成物またはワクチンは、非経口的な(例えば、皮内、皮下、筋肉内)方法のように、ヒトのワクチンの分野でよく使用されている従来の方法に従って投与される。本発明の状況において免疫原性組成物またはワクチンは、三角筋領域の皮下に投与されるような注射可能な組成物であることが好ましい。
【0044】
免疫化のための方法
さらに本発明は、本発明の免疫原性組成物またはワクチンの免疫効果量を用いてホストに投与することを含む、デング感染に対して免疫が必要な宿主の免疫化方法を提供する。
【0045】
「免疫が必要な宿主」とは、デング感染の危機にあるヒトを示す。例えば、個人旅行でデングウイルスが存在する地域を訪れたヒト、その地域の居住者が挙げられる。
【0046】
投与方法はワクチンの分野で使用される従来のいずれの方法でもよい。投与方法の選択は、選択された処方剤形に依る。好ましくは、免疫原性組成物またはワクチンは、皮下経路、有利には三角筋領域に投与する注入可能な組成物に対応する。
【0047】
免疫原性組成物またはワクチンにおける弱毒生キメラデングウイルスの量は、剤形中のウイルスのプラーク形成ユニット(plaque forming unit、PFU)または細胞培養感染量(Cell Culture Infectious Dose 50%、CCID50)で表され、そして従来の医薬技術を用いることによって調製される。例えば、本発明による組成物は、一価の組成物に対して、弱毒生キメラデングウイルスの4±0.5 log10CCID50で、ウイルスの10〜10CCID50または10〜10CCID50を含む剤形で調製される。ウイルス性干渉及び免疫応答(すなわち、組成物中に含まれるすべての血清型に対する免疫応答は)のバランスを達成するために、組成物は多価であり、投与されるワクチンに存在する異なるデング血清型のそれぞれの量は等量でなくてもよい。
【0048】
「免疫有効量」はワクチンの血清において中和抗体を含む特異的な体液性免疫応答を誘発し得る量である。中和抗体の存在の評価方法は当該分野の技術者によく知られている。
【0049】
投与量は投与方法によってさまざまである。皮下注射は0.1mlから10mlの範囲に及び、好ましくは0.5mlである。
【0050】
組成物の投与に係る最適時期は、デングウイルスに最初に曝される前1〜3ヶ月である。本発明のワクチンは予防剤としてデング感染のリスクにある大人または子どもに投与される。よって、標的にされる集団は、デングウイルスに対して治療経験者、未感染者、並びにすでに感染している者を包含する。本発明のワクチンは一回量で投与されるか、または所望により投与は初回量を用いた後、当業者が適宜決定して、例えば2〜6ヶ月後に追加量を用いることができる。
【0051】
本発明はさらに下記の図及び実施例として記載される。下記の記載を明らかにする目的でLAV3からの本発明のキメラデングウイルスの構築を詳述する。
【0052】

図1は、黄熱NS5配列を含むキメラデング3ウイルスを構築するために使用され得る3工程のPCRストラテジーの図表である。
図2は、デングウイルス及び黄熱ウイルスの、並びにキメラデング3/黄熱ウイルスのゲノム構成の図表である。
図3は、デング−3ゲノム及び単位複製配列PCR1上のScal制限酵素部位の位置を示す。
図4は、デング−3ゲノム及び単位複製配列PCR2上のNotl及びSpel制限酵素部位の位置を示す。
図5は、単位複製配列PCR1及びPCR2の間の重複を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
実施例
実施例1:黄熱NS5配列を含むキメラデング3ウイルスの構築
【0054】
本発明のキメラデング3ウイルスを構築するために、完全なデング3ゲノムcDNA(配列番号11)を、T7RNAポリメラーゼプロモーターを含むベクターpVAX(インビトロゲン)内にクローン化し、Notl制限酵素部位がウイルス性配列の3’末端に隣接しているように設計することができる。
【0055】
デング3のNS4bと黄熱のNS5とを連結するために、重複伸長の技術に基づいて下記のストラテジーを使用することができる。この技術は、連結部位で新たな制限酵素部位をつくる必要性を回避して2つのゲノム配列を完全に連結する能力があるため有利に選択される。
【0056】
図1及び下記に示されるように連続PCRステップを用いて、デング−黄熱キメラ構築物を得ることができる。
【0057】
最初のPCRステップにおいて、2つの部分的重複DNAセグメントは下記のように産生される:すなわち、図3に示す方法に従って、PCRセグメントを産生する。

【0058】
プライマー1はデング3のNS4中に位置し(配列番号9のデング3配列のヌクレオチド7146〜7175)、ユニークなScal制限酵素部位(下線部)を含んでいる。プライマー2はデング3のNS4b(太字)と黄熱のNS5配列とに重複している。
【0059】
プログラム:

【0060】
デングNS4b配列のおよそ430ヌクレオチドを含む0.45Kbフラグメントと黄熱NS5配列の5’末端に対応する小さな伸長物とが得られる(PCR1、配列番号3)。
【0061】
図4に示されるストラテジーに従って、PCR2フラグメントを得る。

【0062】
プライマー3はデング3のNS4bと黄熱のNS5(太字)とに重複しており、プライマー2の逆相補鎖である。プライマー4は黄熱の3’UTR中に位置しており、制限酵素部位Not l及びSpe l(下線部)を含んでいる。
【0063】
プログラム:

【0064】
デングNS4b配列の5’末端の15ヌクレオチド及び黄熱NS5をコードしている相補配列及び黄熱ゲノムの非コード化された3’領域を含む3.2Kbフラグメントが得られる(PCR2、配列番号6)。
【0065】
第2のPCRステップ(PCR3、図5)において、PCR1及びPCR2の両者の部分的重複フラグメントの化学量論的混合物を10回のPCRサイクルに供される。
【0066】
PCR 3
Product of PCR 1 0.5μl
Product of PCR 2 0.5μl
10× Buffer 5μl
dNTP 1.25 mM 8μl
Nuclease-free water 36μl
Final volume 50μl
+ Platinum Hi Fi Taq polymerase 1μl
【0067】
プログラム:

【0068】
Scal及びNot/Speのそれぞれの制限酵素部位を含むプライマー1及び4の存在下で、第3のPCRステップ(PCR4)は第2反応で得られた産物を用いて実行される。その目的のために、プライマー1及びプライマー4(125ng/μl)のそれぞれ1μlがPCR3の反応性生物に加えられ、PCR反応は追加的に25サイクル続けられる。
【0069】
その結果得られるDNAの長フラグメントをアガロースゲル上で精製し、次にScal及びNotlまたはSpel制限酵素エンドヌクレアーゼを用いて消化し、全デング3配列を含むオリジナルベクターに連結する。
【0070】
実施例2:キメラデングウイルスの回収
キメラデングウイルスを回収するために、下記のストラテジーを用いることができる。
Escherichia coli XL1−Blue細胞ですべての組み換え体プラスミドを増幅することができる。次いで、プラスミド500ngをNotl制限酵素エンドヌクレアーゼによって線状化する。T7RNAポリメラーゼを用いてインビトロ転写の後、ウイルス性のRNAが得られ、mGpppAキャップ類似体を用いてキャップされる。さらに、その後エレクトロポレーションにより、3×10個〜4×10個のLLC−MK細胞またはBHK−21細胞中にトランスフェクションする。形質移入された細胞を10%FBSを含むDMEMが入った75cmフラスコに移す。そして、得られたキメラウイルスを増幅させ、細胞から単離する。
【0071】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】黄熱NS5配列を含むキメラデング3ウイルスを構築するために使用され得る3工程のPCRストラテジーの図表である。
【図2】デングウイルス及び黄熱ウイルスの、並びにキメラデング3/黄熱ウイルスのゲノム構成の図表である。
【図3】デング−3ゲノム及び単位複製配列PCR1上のScal制限酵素部位の位置を示す。
【図4】デング−3ゲノム及び単位複製配列PCR2上のNotl及びSpel制限酵素部位の位置を示す。
【図5】単位複製配列PCR1及びPCR2の間の重複を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デング非構造NS5配列が黄熱ウイルスの非構造NS5配列に置換されている、単離されたキメラデングウイルス。
【請求項2】
デングウイルスの3’NCR配列が同じ黄熱ウイルスの3’NCR配列に置換されている、特徴とする請求項1に記載の単離されたキメラデングウイルス。
【請求項3】
デングウイルスがデング血清型1、デング血清型2、デング血清型3、及びデング血清型4からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の単離されたキメラデングウイルス。
【請求項4】
デングウイルスが弱毒生デングウイルスである、請求項1から3のいずれかに記載の単離されたキメラデングウイルス。
【請求項5】
デング株がLAV1(配列番号9)、LAV2(配列番号10)、ベロ−由来血清型1(配列番号13)、及びベロ−由来血清型2(配列番号14)からなる群から選択される、請求項1から4のいずれかに記載の単離されたキメラデングウイルス。
【請求項6】
黄熱ウイルスがワクチン株YF17(配列番号7)である請求項1から5に記載の単離されたキメラデングウイルス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のキメラデングウイルスをコードしている、単離された核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸によってコードされたタンパク質。
【請求項9】
医薬上許容される担体において、請求項1から6のいずれかに記載のキメラデングウイルスを含む、免疫原性組成物。
【請求項10】
一価の組成物である、請求項8に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
多価組成物である、請求項8または9に記載の免疫原性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−523019(P2009−523019A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549879(P2008−549879)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050290
【国際公開番号】WO2007/093472
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(592055820)サノフィ・パスツール (20)
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
【Fターム(参考)】