データセンタネットワーク設計方法及びプログラム
【課題】AHPを用いてNWトポロジとDC配置の両方を同時に評価することで、DC−NWを設計することを目的とする。
【解決手段】コンピュータによってネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法は、ノード情報取得手段が、各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得するステップと、候補生成手段が、前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成するステップと、評価手段が、複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価するステップと、を有する。
【解決手段】コンピュータによってネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法は、ノード情報取得手段が、各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得するステップと、候補生成手段が、前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成するステップと、評価手段が、複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価するステップと、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データセンタネットワーク設計方法及びプログラムに関する。より具体的には、本発明は、各ノードの位置及び収容ユーザ数が与えられたときに、ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザのネットワーク(NW)を介しての動画像視聴に対するニーズは高く、YouTube等の様々なユーザが生成した動画コンテンツを視聴できるサービスの利用者が急増している。またアクセス回線の大容量化に伴い、高速な伝送帯域を必要とする動画コンテンツのNWを介しての視聴が容易となり、映画やTVドラマ等の品質が高く大容量のリッチコンテンツの配信サービスが多くのISPによって提供され、普及しつつある。また近年、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどをユーザ自身が保有・管理する代わりに、ISPがこれら資源を保有・管理してユーザに対して様々な情報処理サービスを提供し、ユーザはその利用料金をISPに対して支払うクラウドコンピューティングの利用が拡大している。
【0003】
これらコンテンツ配信サービスやクラウドコンピューティングサービスを実現するインフラは、大容量のストレージと演算システムから構成されるデータセンタ(DC)と、地理的に分散配置された複数のDCとユーザとを接続するNWから構成されるが、本発明ではこれらDCとNWをあわせてデータセンタネットワーク(DC−NW)と呼ぶ。ISPは、高品質・高信頼なサービスを低コストで提供できるよう、DC−NWを適切に設計することが重要であるが、DC−NWのトポロジやDC配置は、品質、信頼性、コスト等に多大な影響を与える。例えば品質の観点からは経路の平均距離が短いことが望ましく、信頼性の観点からはDC数や経路の冗長性が高いことが望ましいが、設備コストや管理・保守コストが増大する。このようにDC−NWを設計する際には、これら単位が異なり相反する様々な評価尺度を同時に考慮する必要がある。
【0004】
従来、トポロジ設計問題を整数計画問題とみなして解くアプローチが数多く検討されている。例えば各ノード間の遅延時間を規定上限値以下に抑えることを制約条件に、総リンクコストを最小化する離散最適化問題をBranch and Bound法によりヒューリスティックに解く方法がある。また同様の問題を、多数のリンクが設置された状態からスタートし、1本ずつリンクを除去する作業を解の改善が大きな順に解の改善が見られなくなるまで繰り返す貪欲算法により解く方法がある。また障害を考慮した設計法として、各ノード間にdisjointな経路が規定数以上存在することを制約条件に、総リンクコストを最小化する離散最適化問題をローカルサーチによりヒューリスティックに解く方法がある。また、任意の単一ノード障害においても全ノード間の接続性が維持されることを制約条件に、やはりリンクコストの総和が最小化するようタブサーチや遺伝アルゴリズムといったヒューリスティックな解法で解く方法がある。
【0005】
ところで、複数の評価尺度を同時に考慮した合理的な意思決定を行う方法として、AHP(Analytic Hierarchy Process)が知られている。AHPでは、関連する要素を階層構造によって把握し、評価尺度の重要度といった定性的な尺度を一対比較により定量化し、合理的な意思決定を可能とする。そこで発明者は以前、AHPをNWトポロジ評価へ適用した(特許文献1参照)。AHPを用いることで、設計者の主観的な評価尺度に対する重要度に応じた適切なNWトポロジ設計が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−165468(上山憲昭、「AHPを用いた網トポロジ設計方法および設計システム」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トポロジ設計問題を整数計画問題とみなして解くアプローチは、最適化を図る評価尺度として総コストのみに着目しており、複数の評価尺度を同時に考慮した最適設計を行うことはできない。またNWトポロジの設計のみを対象としており、DC配置を同時に設計することができない。
【0008】
また発明者が以前提案したAHPを用いたNWトポロジ設計法では、DC配置まで含めた設計は行っていない。AHPは汎用性の高い評価手法であり、評価対象となる候補集合さえ生成できれば複数の評価尺度を考慮した評価が可能となる。そこで本発明では、AHPを用いてNWトポロジとDC配置の両方を同時に評価することで、DC−NWを設計することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のデータセンタネットワーク設計方法は、
コンピュータによってネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法であって、
ノード情報取得手段が、各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得するステップと、
候補生成手段が、前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成するステップと、
評価手段が、複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価するステップと、
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のプログラムは、
コンピュータにネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得させるノード情報取得手段、
前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成させる候補生成手段、及び
複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価させる評価手段、
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施例によれば、AHPを用いてNWトポロジとDC配置の両方を同時に評価することで、DC−NWを設計することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係るデータセンタネットワーク設計装置の構成図
【図2】DC−NW候補集合生成装置で実行される処理のフローチャート
【図3】DC−NWの例を示す図
【図4】AHP評価実施装置で実行される処理のフローチャート
【図5】評価結果出力装置で実行される処理のフローチャート
【図6】AHPの階層構造を示す図
【図7】ノードの収容人口とリンク設置可能位置の距離の分布を示す図
【図8】三つの地域のノード配置を示す図
【図9】V1とV2の相対値の累積分布
【図10】候補DC−NWのV1とV2の相対値の散布図
【図11】CM1のS=1における上位3つのDC−NW
【図12】CM1のS=2における上位3つのDC−NW
【図13】CM2のS=1における最適DC−NW
【図14】CM2のS=2における最適DC−NW
【図15】CM3のS=1における上位3つのDC−NW
【図16】CM3のS=2における上位3つのDC−NW
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0014】
本発明の実施例では、各ノードの位置と収容ユーザ数とが与えられ、任意のノード間にリンクを設置することが可能であり、任意のノードにデータセンタ(DC)を設置することが可能であるものとする。また、データセンタネットワーク(DC−NW)に設置されるデータセンタの個数も任意に与えられるものとする。このような前提で、AHPを用いて、予め考慮した制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を同時に設計する。
【0015】
<データセンタネットワーク設計装置及び設計方法の概要>
図1は、本発明の実施例に係るデータセンタネットワーク設計装置10の構成図である。データセンタネットワーク設計装置10は、AHPを用いて、ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計する。データセンタネットワーク設計装置10は、プログラムされたコンピュータでもよい。
【0016】
データセンタネットワーク設計装置10は、入力装置101と、DC−NW候補集合生成装置102と、AHP評価実施装置103と、評価結果出力装置104とを有する。
【0017】
入力装置101により、各ノードの位置及び収容ユーザ数、設置DC数S、リンクコストモデルが入力される。このような情報は、コンピュータのキーボード入力により取得されてもよく、情報が記録された記録媒体を介した入力により取得されてもよい。取得された情報は、データセンタネットワーク設計装置10内の記憶装置に格納されてもよい。
【0018】
DC−NW候補集合生成装置102により、制約条件を満たすDC−NWの候補集合が生成され、各候補DC−NWの総リンクコストや平均経路長といった評価値が算出される。DC−NW候補集合生成装置102で実行される処理は、以下に詳細に説明する。
【0019】
AHP評価実施装置103により、AHPを用いて候補DC−NWが評価される。AHP評価実施装置103で実行される処理は、以下に詳細に説明する。
【0020】
評価結果出力装置104により、評価結果が出力される。評価結果は、画面上に出力されてもよく、印刷出力されてもよい。
【0021】
図2に、DC−NW候補集合生成装置102で実行される処理のフローチャートを示す。入力装置101によって入力された各ノードnの位置(xn,yn)、各ノードの収容ユーザ数rn、設置DC数S、リンクコストモデルに対して、初期設定プロセス(S101)は、ノードiとjの間の各リンク設置可能位置eの距離deを、de={(xi−xj)(yi−yj)}1/2より算出する。また各ノードと各リンク設置可能位置に対して任意のID番号を付与する。更に、各リンク設置可能位置eのリンク設置有無を表わす状態変数zeを全てゼロに初期化し(初期設定では、リンク設置がないものとする)、各ノードnのサーバ設置有無を表わす状態変数snを、IDの小さい方から選択されたS個のみを1にし、他を0とすることで初期化する。
【0022】
次に、サーバ及びリンクの設置状態の更新ステップ(S102)は、ID番号の小さい順にsn及びzeを0又は1に更新することで、S個のノードにサーバを配置し、各リンク設置可能位置eにリンクを設置する場合としない場合の各組合せを生成する。
【0023】
次に、制約条件の判定ステップ(S103)は、各リンクeの設計容量beを、
【0024】
【数1】
より算出する。ただしEはリンクの集合、veは正常時に各リンクeを流れるトラヒック量の相対値、v'e,kは任意のリンクkの単独リンク障害(SLF:single link failure)時に、OPSF(Open Shortest Path First)等による経路の再設定の結果、各リンクeを流れるトラヒック量の相対値である。与えられたDC配置とNWトポロジ、そして各ノードのユーザ数比率rnが与えられると、リンク重みをリンク距離としたときのOSPFによる最小コスト経路設定の結果、正常時に各リンクeを流れるトラヒック量の相対値veが一意に決まる。例えば図3に示す3ノードからなるNWにおいて、ノードCにサーバが設置されている場合、ノードAに対してはリンク(C,A)が、ノードBに対してはリンク(C,B)が配信に用いられる結果、vC,A=ra,vC,B=rb,vB,A=0となる。また任意のリンクkのSLF時に、OPSFによる経路の再設定の結果、各リンクeを流れるトラヒック量の相対値v'e,kがやはり一意に決まる。例えば図3において、リンク(C,A)のSLF時、ノードAに対する配信経路がC→B→Aに迂回される結果、v'(C,B),(C,A)=ra+rb,v'(B,A),(C,A)=raとなる。
【0025】
また制約条件の判定ステップ(S103)は、任意のリンクのSLF時における全ノード間の接続性が満たされるか否か、正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクを含まないかどうかの二つの制約条件を判定する。任意のリンクのSLF時における全ノード間の接続性が満たされるか否かは、各リンクを除去したNWトポロジに対して各ノード間の最小コスト経路をDijkstra法で算出し、全ノード間の経路のコストが有限の値になるかどうかで判定される。また正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクを含まないかどうかは、正常時のNWトポロジと各リンクを除去したNWトポロジに対して、全てのノード間の経路をDijkstra法で算出し、各リンクを流れるトラヒック量を、各リンクを経路が経由する着ノードのrnを足し合わせることで算出し、その値がゼロとなるリンクが存在するか否かで判定される。その結果、これら二つの制約条件を、現在のDC−NW状態に対して判定し、制約条件を満たさない場合にはサーバとリンクの設置状態の更新ステップに戻り、満たす場合には評価値の算出ステップに進む。
【0026】
評価値の算出ステップ(S104)は、制約条件を満たす現在のDC−NW状態の総リンクコストや平均経路長といった評価値を算出する。単位長あたりのリンクコストとして、定数を用いる場合(すなわちリンクeのコストが距離deに依存する)、設計リンク容量を用いる場合(すなわちリンクeのコストが距離deと設計容量beとの積に依存する)と、(iii)定数と設計リンク容量との線形和を用いる場合(すなわちリンクeのコストが距離deに比例する成分と、距離deと設計容量beとの両方に比例する成分との和に依存する)のいずれかで、総リンクコストが算出される。また正常時の平均経路長は各リンクeの距離deから算出される。
【0027】
候補出力ステップ(S105)は、現在のDC−NW状態を候補として出力する。ただし出力される情報は、sn、ze、総リンクコストや平均経路長といった評価値である。
【0028】
次に終了判定ステップ(S106)は、全てのサーバ設置とリンク設置の組合せに対して制約条件の判定ステップを行ったか否かを判定し、終了していない場合にはサーバとリンクの設置状態の更新ステップに戻り、終了した場合には終了する。
【0029】
図4に、AHP評価実施装置103で実行される処理のフローチャートを示す。総リンクコストや平均経路長といった複数の評価尺度Viを同時に考慮したDC−NW評価を行うためには、設計者の各評価尺度Viの相対的な重要度を定量化する必要がある。AHPでは全ての評価尺度のペアを一対比較することにより、Viの相対的な重要度を定量化する。
【0030】
評価尺度の一対比較ステップ(S201)は、設計者が入力した各評価尺度ペアに対する比較値を用いて、各評価尺度の重みを算出する。すなわち以下の表1に示す値を評価尺度ViのVjに対する相対的な重要度aijに設定する。
【0031】
【表1】
aijを要素にもつ一対比較行列を行列Aとし、各要素の重みwiを要素にもつベクトルwを行列Aの右側から乗じると、
【0032】
【数2】
が成立する。ただしnは要素の数である。よって重みベクトルwは行列Aの固有ベクトルであり、nは固有値(最大固有値)となる。
【0033】
次に各候補の各評価尺度に対するスコア算出ステップ(S202)は、DC−NW候補集合生成装置102が生成した各候補DCネットワークiの、各評価尺度Vjの評価値Xijを用いて、Vjに対するスコアsijを、
【0034】
【数3】
より算出する。ただしBは総候補数である。例えばB=2で2個の評価尺度を考慮する場合で、X11=1,X21=2,X12=4,X22=1の場合、s11=0,s21=1,s12=1,s22=0となる。
【0035】
次に各候補のスコア算出ステップ(S203)は、各候補の各評価尺度に対するスコアを各評価尺度の重みで重みづけた和を算出することで、各候補のスコアを算出する。すなわち各候補iのスコアSiを、
【0036】
【数4】
より算出する。ただしVは評価尺度の数である。例えば上の例で、w1=0.6,w2=0.4の場合、S1=0.4,S2=0.6となり、候補2が候補1よりも優れていると評価される。
【0037】
図5に、評価結果出力装置104で実行される処理のフローチャートを示す。
【0038】
各候補のスコアを降順にソートステップ(S301)では、各候補のスコアを降順にソートする。
【0039】
次に各候補をスコアの降順に出力ステップ(S302)では、各DC−NW候補をスコアの降順に出力する。出力される情報は、各候補の状態sn、ze及びスコアである。
【0040】
次に、本発明の実施例に係るAHPを用いたデータセンタネットワーク設計法について、詳細を説明する。
【0041】
<AHPの概要>
通常、意思決定においては、「問題P」、「評価尺度V」、「代替案A」の三種類の要素が存在する。AHPでは、これら要素を図6に示すような階層構造で把握する。ただし図6では便宜上、互いに関連のある一部の要素間のみを直線で結んでいる。評価尺度Vは複数の階層構造V1,V2,・・・(図6では2階層)をとることも可能である。そして各要素間の関連性の強さ(重み)を算出し、最終的に、各代替案AiのスコアSiを導出する。
【0042】
評価尺度Vの問題Pに対する重みを計算する場合、定量的な評価値がもともと存在しないため、何らかの方法で定量化する必要がある。AHPでは、同一の階層に属する要素集合に対して、全ての要素間の重要度を一対比較することにより定量化を図る。まず、階層cに属する要素XiとXjに対して、表1に示す値をXiのXjに対する相対的な重要度aijに設定する。要素Xiの本来の重みをwiとすると、理想的にはaij=wi/wjという関係を満たす。aijを要素にもつ一対比較行列を行列Aとし、各要素の重みwiを要素にもつベクトルwを行列Aの右側から乗じると、
【0043】
【数5】
が成立する。ただしnは要素の数である。よって重みベクトルwは行列Aの固有ベクトルであり、nは固有値(最大固有値)となる。
【0044】
実際には、一対比較を完全な整合性を持って行うことは困難なため、行列Aの整合性を判断する必要がある。行列Aの最大固有値をλmaxとすると、λmax≧nとなる。そこで、
【0045】
【数6】
で定義される整合度C.I.を用いて整合性を判断する。整合性が増すほどλmaxは減少し、完全に整合性がとれているときにはλmax=nとなるので、C.I.は小さなほど整合性が高く、一般的にはC.I.が0.1以下であれば合格とする。
【0046】
階層cにおける要素iの、階層c−1の要素jに対する重みをwijcとする。階層c−1の要素のうち、階層cの要素Vicが関係する要素の集合をΦicとすると、Vicの問題Pに対するスコアSicは、
【0047】
【数7】
より算出できる。階層1においては、Pに対する各要素の重みがそのままスコアSi1となる。以下、c=2,3,・・・の順にスコアSicを算出することができ、最終的に各代替案AiのスコアSiを得る。なお、式(3)はc=2の場合に相当する。そしてスコアが大きな代替案が良好な選択肢となる。設計者はスコアが最大の代替案だけでなく、スコアが大きな数個の代替案を比較検討することで、最終的に採用すべき代替案を選択することができる。このようにAHPを用いることで、評価者は膨大な数の代替案の中から比較評価可能な程度の数に候補を絞りこむことができる。
【0048】
<DC−NW設計における想定条件>
AHPを用いたDC−NW設計法について述べる前に、まずDC−NW設計時の想定条件について述べる。ここでは、NWの一般化した構成要素としてノード及びリンクを考える。N個のノードの位置が与えられ、全ノード間にリンクの設置を可能とする(途中に山脈が存在するなどリンク設置が困難な箇所が存在する場合にも、設置可能であるとする)。リンクの設置可能な箇所数LはL=N(N−1)/2となる。ただし設置リンクは双方向であるとし、両端のノード間の両方向にトラヒックが流れることを想定する。Nの任意のノードにDCを設置可能とし、任意に与えた個数S個のDCを配置する。Nの各ノードの位置に加え、収容ユーザ数が与えられ、各ノードnの需要量比率は収容ユーザ数を全ユーザ数で除したユーザ数比率rnに比例するとする。またパケットの転送経路として、リンク距離を各リンクのコストとするOSPFによる最小コスト経路を想定する。
【0049】
<候補DC−NWの生成>
AHPを用いてDC−NWを評価するためには、まず評価対象となる候補集合を生成する必要がある。L本のリンク設置可能位置に対して、リンクを設置する箇所を選択することで候補トポロジが生成されるため、構成可能な候補トポロジの全数は2Lとなる。またDC設置の可能な組合せ数はNCS=N(N−1)・・・(N−S+1)/S(S−1)・・・1となり、各DC配置パタンに対して2Lのトポロジを構成可能であるため、N個のノードとS個のDCを用いて構成可能なDC−NWの総数はNCS2N(N−1)/2となる。
【0050】
ただしDC−NWには全てのノードからDCへの接続性が求められる。IPバックボーンにおいて日常的に様々なリンクで障害が発生しており、メインテナンスに起因するものを除いた意図しない障害の約70%は単独リンク障害(SLF:single link failure)である。そのため正常時に加えて、任意のリンクのSLF時にも接続性が維持されることが求められる。特にS個の全DCが異なるコンテンツを保有する場合や、異なるクラウドサービスを提供するような場合、各ノードから全てのDCへの接続性が求められる。一方、全てのDCが同一のコンテンツを保有し、もしくは同一のクラウドサービスを提供しているような場合には、各ノードからは最低限度、任意の一つのDCへの接続性が維持されていればよい。しかしその場合、DC間でコンテンツやデータを交換する必要があり、全てのDC間に対して接続性が求められる。このことは結局、全てのノード間の接続性を満たすことと等価となる。
【0051】
また正常時とSLFの全パタンにおいて、全くトラヒックが流れないリンクが存在するDC−NW候補は、そのようなリンクが冗長であり、それらリンクを除いたDC−NW候補が明らかに優れていることから、このような候補は評価対象から除いて考える。以上、まとめると、任意のリンクのSLF時における全ノード間の接続性と、正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクを含まないことを制約条件とし、構成可能なNCS2N(N−1)/2のDC−NWのうち、本制約条件を満たすもののみを候補DC−NWとして生成し、AHPを用いて評価する。
【0052】
<候補DC−NWの評価>
AHPをDC−NW設計に適用すると、トップの階層(階層0:図6における階層0)には解くべき問題P(この場合、"最適なDC−NWの選択")が、中央の階層(階層1:図6における階層1)には評価尺度Viが、そしてボトム(階層2:図6における階層3)には候補DC−NWが並ぶ。
【0053】
階層1(評価尺度)の問題Pに対するスコア(重み)は、AHPの一対比較により求めることができる。階層2(候補トポロジ)の階層1の各要素(評価尺度)に対するスコア(重み)は、評価尺度が定量的な評価値をもつ場合、一対比較による評価を行う必要はない。AHPはスコアが高い要素を高く評価する。そのため各評価尺度が小さな値をとるほど良好である場合には、候補トポロジiの評価尺度jの値Vijの逆数をXijとし(Xij=1/Vij)、Xijに基づいて重みを算出する。階層2の要素の重みwij2は、正規化条件
【0054】
【数8】
を満たす必要があるが、通常、AHPではXijを単に全候補中で正規化した値を重みと見なすため、
【0055】
【数9】
となる。しかし、NWトポロジ候補数は非常に多数となるため分母が大きくなり、候補間のXijの値の差異が、評価尺度間のスコア差と比べて遥かに小さな値となる。その結果、単に重要視した評価尺度が良好な候補を選択する傾向が強くなり、他の評価尺度の値がほとんど考慮されなくなる。
【0056】
この問題を解決するために、評価尺度の値Xijそのものを用いるのではなく、Xijを線形変換した値Yijを正規化したものを重みとする。すなわちaとbを任意の実数とし、Yij=a(Xij+b)とする。このとき重みwij2は、
【0057】
【数10】
となる。正規化するためwij2はaとは無関係となる。また、ここでは全ての重みが0以上の値をとるよう、Xijの全候補中の最小値を−1倍した値をbに設定する(b=−mini{Xij})。
【0058】
<候補DC−NWの評価尺度>
各DC−NW候補を評価する評価尺度として、総リンクコスト(V1)と平均経路長(V2)の二つを考える。すなわち図6におけるV11を総リンクコストとし、V21を平均経路長とする。両評価尺度とも値が小さいほど優れている。
【0059】
コストに関連した評価尺度V1
V1をNW全体の総相対リンクコストとする。すなわちリンクeの相対コストをCe、Eを設置リンクの集合とするとき、
【0060】
【数11】
とする。前述のように、各候補の各評価尺度は全候補の総和で除した相対値で評価されるため、V1の絶対値は重要ではなく、各候補を比較したときの相対値が意味をもつ。そこでCeをコストの絶対値ではなく相対値で考える。
【0061】
Ceをどのように定めるかが問題であるが、Ceを構成するコストとしては、土木インフラコスト、光ファイバコスト、光伝送装置コスト等が考えられる。主に、リンクeの距離deと、リンクeの設計容量beがこれらコストを決める要因となる。なお、リンクeの距離deは、上記の通り、de={(xi−xj)(yi−yj)}1/2より算出され、設計容量beは、上記の通り、式(1)より算出される。まず一番目のコストモデル(CM1:cost model 1)として、Ce=deに設定することを考える。これは土木インフラコストがCeの支配要因となる場合に相当する。
【0062】
次に二番目のコストモデル(CM2)として、Ceをdeとbeの積、すなわちCe=debeに設定することを考える。これは光ファイバや光伝送装置など、deとbeの両方に依存するものがCeの支配要因となり、かつこれらのコストがdeとbeの各々に比例する場合に相当する。
【0063】
そして三番目のコストモデル(CM3)として、Ceが距離deに比例する成分と、deと設計容量beの両方に比例する成分との和で構成される場合、すなわち任意の定数αに対してCe=αde+debe=de(α+be)に設定することを考える。これはインフラコスト等のdeのみにほぼ比例する要素と、光ファイバや光伝送装置等のdeとbeの両方に比例する要素との双方がCeの決定要因となる場合や、光ファイバや光伝送装置のコストが距離に比例する成分と距離と容量の両方に比例する成分の和で構成される場合に相当する。
【0064】
次に各リンクeの設計容量beの設定法について述べる。与えられたDC配置とNWトポロジ、そして各ノードのユーザ数比率rnが与えられると、リンク重みをリンク距離としたときのOSPFによる最小コスト経路設定の結果、正常時に各リンクeを流れるトラヒック量の相対値veが一意に決まる。また任意のリンクkのSLF時に、OPSFによる経路の再設定の結果、各リンクeを流れるトラヒック量の相対値v'e,kがやはり一意に決まる。任意のSLFに対しても、発生トラヒックを十分に運べる容量を各リンクに設計する必要があることから、これら相対トラヒック量の最大値で各リンクの容量を設計する。beは次式で得られる。
【0065】
【数12】
品質に関連した評価尺度V2
V2としてDCサービスの通信フローの平均経路長を考える。各DCのノードiから、DCが設置されていないノードjに至る最小経路長をdi,jとする。SのDCの中でdi,jが最小となるDCをsjとするとき、ノードjの収容ユーザに対しては正常時sjが用いられる。V2を
【0066】
【数13】
で設定する。ただしVはノード集合であり、DCが設置されているノードnに対しては
【0067】
【数14】
とする。
【0068】
<候補DC−NWの評価結果>
次に、日米欧の三つの地域を対象に、前述の方法でDC−NWを設計した数値結果について述べる。
【0069】
ノード配置とユーザ数分布
各ノードnの収容ユーザ数比率rnをノードnの割当て人口比率に設定する。日本(JPN)、米国(USA)、欧州(EUR)の三つの地域において、ノード数Nを7とし、ノード配置を人口の大きな上位7つの場所に設定する。表2に、各地域においてノードを配置した地名と割当て人口Pnを示す。
【0070】
【表2】
日本に対しては、高等裁判所が設置されている都市にノードを配置し、各高等裁判所の管轄地域の2005年における人口をPnに設定した。ただし最も管轄人口の小さい高松高等裁判所が管轄する四国4県の人口を広島に集約し、高松にはノードを配置しない。米国に対しては、郊外都市を含む2005年の都市圏人口の大きな上位7つの都市にノードを配置した。そして2005年の都市圏人口をPnに設定した。欧州に対しては、欧州連合に加盟する国の中で2008年の人口が大きな上位7つの国を選択し、各国の首都にノードを配置した。そして各国の2008年の人口をPnに設定した。
【0071】
図7(a)に、三つの各地域に対して各ノードの人口比rnを降順にプロットする。日本はrn最大ノード(東京)のrnが突出して大きく、他の地域と比較してrnの偏りが大きい。米国は上位2都市(New YorkとLos Angeles)のrnが他の都市と比較して大きく、日本についでrnの偏りが大きい。欧州は最もrnの偏りが小さい。図8に三つの各地域のノード配置を示す。ただしrnに比例した直径の円で各ノードを表している。日本はrnの突出して大きいノード(東京)と2位のノード(大阪)が地理的中心に近い場所に存在するのに対して、米国はrnの突出して大きい2都市(New YorkとLos Angeles)が東西の両側に位置しており、地理的中心からは互いに離れた場所に存在する。欧州はrnの大きなノードが広く分散している。また図7(b)に三つの各地域に対して、L=21の各リンク設置可能場所のリンク距離を、各地域の最大値で除した正規化値を降順にプロットする。三つの地域でノード間距離の分布には差異が見られない。
【0072】
候補DC−NW集合の特性
表3にDC数Sを1もしくは2に設定したときの、前述の二つの制約条件、すなわち(i)SLF時の全ノード間の接続性と、(ii)正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクが存在しない、という条件を満たす候補DC−NW数を示す。DCの設置パタン数はS=1のとき7でS=2のとき21となり、S=2の方が構成可能なDC−NW数は7倍となる。しかし設置DCの増加に伴い通信フローの経由リンク数が減少するため制約条件(ii)を満たすトポロジのパタン数が大幅に減少する結果、候補数はS=2の方が少ない。
【0073】
【表3】
図9(a)(b)(c)にDC数Sを1に設定したときの、制約条件を満たす全候補DC−NWを対象に、三つの各地域に対して各候補の総リンクコストV1の全候補中の相対値の累積分布を示す。ただし制約条件を満たす全候補中のViの最大値と最小値を各々MaxVi,MinViとすると、各候補jの評価尺度Viの値Vijに対する相対値を(Vij−MinVi)(MaxVi−MinVi)で定義する。距離のみをリンクコストに反映するCM1を用いた場合、候補集合のV1の多様性が最大となる。設置リンク数が少なく総リンク長の短いNWトポロジにおいては、SLF時の迂回経路のホップ長が大きくなる結果、各リンクの設計容量が大きくなる傾向がある。そのため距離と設計容量の両方をリンクコストに反映するCM2やCM3を用いた場合、候補集合中のV1の多様性がCM1と比較して小さくなる。全候補のV1の分布は、三つの地域においてほぼ同等となる。
【0074】
図9(d)に、制約条件を満たす全候補DC−NWを対象に、三つの各地域に対して各候補の平均経路長V2の相対値の累積分布を同様に示す。CMとは無関係に制約条件を満たす候補集合は同一となるため、候補集合のV2はCMとは無関係となる。図8で見たように、日本はrnの大きなノードが地理的中心に近い場所に存在するため、米国や欧州と比較してV2の小さいDC−NWの比率が高くなる。S=2に設定した場合についても、V1とV2の相対値の累積分布に関して同様の考察が得られた。
【0075】
次に図10に日本のノード配置に対してS=1としたときの、制約条件を満たす候補DC−NWのV1とV2の相対値の散布図を、三つの各CMに対して示す。ただし全候補中で評価尺度値が最小となり相対値がゼロとなる候補に対しては、V1に関しては10−4、V2に関しては10−9を便宜上、設定した。
【0076】
総リンク長が長いDC−NWは平均経路長が短い傾向があるため、CM1の場合、V1とV2の両方が小さいDC−NWにおいて、V1とV2には負の相関性が見られる。一方、平均経路長の短いDC−NWはSLF時の迂回パスも短くなる傾向があるため、設計容量を強くリンクコストに反映させるCM2の場合、候補DC−NWのV1とV2には正の相関性が見られ、V1とV2の両方が全候補中で最小となり相対値がゼロとなるDC−NW候補が存在する。そのためCM2を用いた場合、最適なDC−NWが一つ存在する。CM3の場合、リンクコストへの反映度がCM2よりは小さくなるため、CM1とCM2の中間的な傾向が見られる。米国と欧州のノード配置に対しても候補集合のV1とV2の関連性を分析したところ、同様の傾向が得られた。またS=2とした場合についても同様に評価したところ、やはり同様の傾向が得られた。
【0077】
AHPによる候補DC−NWの評価結果
次に、生成された制約条件を満たす全候補DC−NWを対象にAHPを適用し、候補DC−NWを評価した結果を示す。AHPの適用に際しては各評価尺度を重視する度合(評価シナリオ)を設定する必要があるが、本稿では、(1)コストを重視する場合(シナリオ1)と、(2)品質を重視する場合(シナリオ2)の二つの評価シナリオを想定する。シナリオ1においては、表1に示した一対比較値をa12=3,a21=1/3に設定した。各評価尺度の重みはw1=0.75,w2=0.25となり、評価尺度数が2個であるため整合度C.I.は必ず0になる。一方シナリオ2においては、一対比較値をa12=1/3,a21=3に設定し、各評価尺度の重みをw1=0.25,w2=0.75に設定した。
【0078】
図11にDC数をS=1としCM1を用いた場合の、各評価シナリオ(SC)においてAHPにより上位3位に評価されたDC−NWのNWトポロジとDC配置を、三つの各地域に対して示す。ただし図11ではDC配置ノードを二重丸で示し、1位、2位、3位に評価されたDC−NWを、日本は左から順に、米国と欧州は上、左下、右下の順に示している。
【0079】
各リンクを流れるトラヒック量とは無関係にリンク距離をリンクコストに反映させた場合、コスト低減の観点からは総リンク長を抑えることが重視されるため、SLF時の全ノード間の接続性を維持しつつリンク総距離を低減できるリング型のNWトポロジが高く評価される。そのためコスト重視の場合(SC1)には単一リング型のNWトポロジが高く評価される。またノード数Nが7と少ないため二重リングでも平均経路長が抑えられるため、品質重視の場合(SC2)にもスター型ではなく二重リング型のNWトポロジが高く評価される。また日本はrnの突出して大きな東京が地理的中心に近い場所にあるため、評価シナリオに関係なく東京にDCを配置することが望ましい。一方米国はSC1の場合はやはりrn最大都市であるNew YorkへのDC設置が望ましいが、rnが大きい上位2都市が両辺境に存在するため、SC2の場合はrnでは第三位であるが地理的中心に存在するChicagoにDCを配置することが望ましい。欧州はrnの偏りが小さいため、rnが比較的大きな様々なノードにDCを配置することが望ましい。
【0080】
図12にDC数をS=2としCM1を用いた場合の結果を同様に示す。NWトポロジに関しては、S=1の場合と同様、SC1の場合は単一リング、SC2の場合は二重リングが高く評価される。ただし米国は東西の辺境に二大都市が存在し、これら二大都市にDCを配置することで単一リングでも平均経路長が抑えられるため、単一リングが高く評価される。日本のDC配置については、東京と、東京から離れたノードに配置することが望ましく、欧州については、やはり様々なノードにDCが配置される。
【0081】
図13及び図14にCM2を用い、DC数をS=1とした場合とS=2とした場合の結果を各々同様に示す。図10で見たように、CM2を用いるとV1とV2の両方が優れたDC−NWが存在する傾向があり、S=1の場合は三つの全ての地域において、またS=2の場合は日本と米国において、V1とV2の両方が全候補中で最小となる最適なDC−NWが存在する。図13及び図14では、このような最適DC−NWを各地域に対して一つ示しているが、評価シナリオに関係なく同一のDC−NWが各々最適となる。
【0082】
リンクコストを最大トラヒック量(設計容量)と距離の積とした場合、ホップ長の長いリングが存在するNWトポロジは、SLF時に各リンクを流れるトラヒック量が大きくなり総リンクコストが大きい。よって地理的中心に位置するS個のノードをハブとする複数のスターに、SLF時の接続性維持のために葉ノード間にバイパスリンクを設置したNWトポロジが高く評価される。一方、DCの設置に関してはrnの大きなノードが望ましい。日本においては2大都市が中央に存在するためハブノードへのDC設置が高く評価されるが、一方、米国は2大都市が両辺境に存在し、また欧州はrnの偏りが小さいため、米国と欧州ではハブノード以外にDCを設置したDC−NWが高く評価される。
【0083】
図15及び図16にCM3を用い、DC数をS=1とした場合とS=2とした場合の結果を各々同様に示す。単位長あたりのリンクコストに距離と最大トラヒック量の両方を反映させた場合、どちらか一方を反映させるCM1とCM2の中間的なNWトポロジが高く評価される。すなわちSが1の場合も2の場合も、二つのリングを接続した二重リング型が望ましく、地理的中央に存在するrnの大きなノードを二重リングの接続点とし、DCを設置することが望ましい。ただし米国は二大都市が両辺境にあるため、S=2の場合には単一リング型が高く評価される。CM2の場合と同様、評価シナリオによる評価結果の差異は小さい。
【0084】
評価結果のまとめ
このようにして得られたAHPの適用結果についてまとめる。表4に、各コストモデル(CM)、評価シナリオ(SC)、設置DC数S、地域に対して、望ましいNWトポロジをまとめる。
【0085】
【表4】
距離がリンクコストの支配要因となりコストを重視する場合(CM1−SC1)は、単一リングが望ましい。距離がリンクコストの支配要因で品質を重視する場合(CM1−SC2)や、距離と設計容量の両方がリンクコストに影響する場合(CM3)は、二重リングが望ましい。設計容量がリンクコストの支配要因となる場合(CM2)は、S個のスターにバイパスリンクを設置したトポロジが望ましい。地域による差異は見られないが、米国でS=2の場合、CM1−SC2とCM3の結果が他の地域と異なる。
【0086】
また表5に望ましいDC設置位置について同様にまとめる。ただし表5においてnはノードの意味である。
【0087】
【表5】
評価シナリオによる差異は米国におけるCM1−S1の場合を除き見られなかったが、地域によって人口比の地理的な分布が異なるため、地域による差異が見られる。日本は人口比の大きな都市が地理的中心に存在するため、単にこれらノードにDCを設置することが望ましい。米国は人口比の大きな都市が両辺境に存在するため、CMやSに応じて、DC設置が望ましい場所は人口比の大きなノードと地理的中心に存在するノードの場合がある。欧州は人口比の偏りが小さいため、DC設置の望ましい場所については特定の傾向が見られない。
【0088】
<実施例の効果>
以上説明したように、本発明の実施例によれば、各ノードの位置と収容ユーザ数とが与えられ、任意のノード間にリンクを設置することが可能であり、任意のノードにデータセンタを設置することが可能であるときに、予め考慮した制約条件を満たし、任意に与えた個数のデータセンタを配置したデータセンタネットワークのネットワークトポロジとデータセンタ配置を同時に設計できる。
【0089】
説明の便宜上、本発明の実施例に係るデータセンタネットワーク設計装置は機能的なブロック図を用いて説明しているが、本発明のデータセンタネットワーク設計装置は、ハードウェア、ソフトウェア又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。例えば、図1のデータセンタネットワーク設計装置の各機能部がソフトウェアで実現され、コンピュータ内に実現されてもよい。また、2以上の実施例及び実施例の各構成要素が必要に応じて組み合わせて使用されてもよい。
【0090】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々の変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 データセンタネットワーク設計装置
101 入力装置
102 DC−NW候補集合生成装置
103 AHP評価実施装置
104 評価結果出力装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、データセンタネットワーク設計方法及びプログラムに関する。より具体的には、本発明は、各ノードの位置及び収容ユーザ数が与えられたときに、ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザのネットワーク(NW)を介しての動画像視聴に対するニーズは高く、YouTube等の様々なユーザが生成した動画コンテンツを視聴できるサービスの利用者が急増している。またアクセス回線の大容量化に伴い、高速な伝送帯域を必要とする動画コンテンツのNWを介しての視聴が容易となり、映画やTVドラマ等の品質が高く大容量のリッチコンテンツの配信サービスが多くのISPによって提供され、普及しつつある。また近年、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどをユーザ自身が保有・管理する代わりに、ISPがこれら資源を保有・管理してユーザに対して様々な情報処理サービスを提供し、ユーザはその利用料金をISPに対して支払うクラウドコンピューティングの利用が拡大している。
【0003】
これらコンテンツ配信サービスやクラウドコンピューティングサービスを実現するインフラは、大容量のストレージと演算システムから構成されるデータセンタ(DC)と、地理的に分散配置された複数のDCとユーザとを接続するNWから構成されるが、本発明ではこれらDCとNWをあわせてデータセンタネットワーク(DC−NW)と呼ぶ。ISPは、高品質・高信頼なサービスを低コストで提供できるよう、DC−NWを適切に設計することが重要であるが、DC−NWのトポロジやDC配置は、品質、信頼性、コスト等に多大な影響を与える。例えば品質の観点からは経路の平均距離が短いことが望ましく、信頼性の観点からはDC数や経路の冗長性が高いことが望ましいが、設備コストや管理・保守コストが増大する。このようにDC−NWを設計する際には、これら単位が異なり相反する様々な評価尺度を同時に考慮する必要がある。
【0004】
従来、トポロジ設計問題を整数計画問題とみなして解くアプローチが数多く検討されている。例えば各ノード間の遅延時間を規定上限値以下に抑えることを制約条件に、総リンクコストを最小化する離散最適化問題をBranch and Bound法によりヒューリスティックに解く方法がある。また同様の問題を、多数のリンクが設置された状態からスタートし、1本ずつリンクを除去する作業を解の改善が大きな順に解の改善が見られなくなるまで繰り返す貪欲算法により解く方法がある。また障害を考慮した設計法として、各ノード間にdisjointな経路が規定数以上存在することを制約条件に、総リンクコストを最小化する離散最適化問題をローカルサーチによりヒューリスティックに解く方法がある。また、任意の単一ノード障害においても全ノード間の接続性が維持されることを制約条件に、やはりリンクコストの総和が最小化するようタブサーチや遺伝アルゴリズムといったヒューリスティックな解法で解く方法がある。
【0005】
ところで、複数の評価尺度を同時に考慮した合理的な意思決定を行う方法として、AHP(Analytic Hierarchy Process)が知られている。AHPでは、関連する要素を階層構造によって把握し、評価尺度の重要度といった定性的な尺度を一対比較により定量化し、合理的な意思決定を可能とする。そこで発明者は以前、AHPをNWトポロジ評価へ適用した(特許文献1参照)。AHPを用いることで、設計者の主観的な評価尺度に対する重要度に応じた適切なNWトポロジ設計が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−165468(上山憲昭、「AHPを用いた網トポロジ設計方法および設計システム」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トポロジ設計問題を整数計画問題とみなして解くアプローチは、最適化を図る評価尺度として総コストのみに着目しており、複数の評価尺度を同時に考慮した最適設計を行うことはできない。またNWトポロジの設計のみを対象としており、DC配置を同時に設計することができない。
【0008】
また発明者が以前提案したAHPを用いたNWトポロジ設計法では、DC配置まで含めた設計は行っていない。AHPは汎用性の高い評価手法であり、評価対象となる候補集合さえ生成できれば複数の評価尺度を考慮した評価が可能となる。そこで本発明では、AHPを用いてNWトポロジとDC配置の両方を同時に評価することで、DC−NWを設計することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のデータセンタネットワーク設計方法は、
コンピュータによってネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法であって、
ノード情報取得手段が、各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得するステップと、
候補生成手段が、前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成するステップと、
評価手段が、複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価するステップと、
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のプログラムは、
コンピュータにネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得させるノード情報取得手段、
前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成させる候補生成手段、及び
複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価させる評価手段、
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施例によれば、AHPを用いてNWトポロジとDC配置の両方を同時に評価することで、DC−NWを設計することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係るデータセンタネットワーク設計装置の構成図
【図2】DC−NW候補集合生成装置で実行される処理のフローチャート
【図3】DC−NWの例を示す図
【図4】AHP評価実施装置で実行される処理のフローチャート
【図5】評価結果出力装置で実行される処理のフローチャート
【図6】AHPの階層構造を示す図
【図7】ノードの収容人口とリンク設置可能位置の距離の分布を示す図
【図8】三つの地域のノード配置を示す図
【図9】V1とV2の相対値の累積分布
【図10】候補DC−NWのV1とV2の相対値の散布図
【図11】CM1のS=1における上位3つのDC−NW
【図12】CM1のS=2における上位3つのDC−NW
【図13】CM2のS=1における最適DC−NW
【図14】CM2のS=2における最適DC−NW
【図15】CM3のS=1における上位3つのDC−NW
【図16】CM3のS=2における上位3つのDC−NW
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0014】
本発明の実施例では、各ノードの位置と収容ユーザ数とが与えられ、任意のノード間にリンクを設置することが可能であり、任意のノードにデータセンタ(DC)を設置することが可能であるものとする。また、データセンタネットワーク(DC−NW)に設置されるデータセンタの個数も任意に与えられるものとする。このような前提で、AHPを用いて、予め考慮した制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を同時に設計する。
【0015】
<データセンタネットワーク設計装置及び設計方法の概要>
図1は、本発明の実施例に係るデータセンタネットワーク設計装置10の構成図である。データセンタネットワーク設計装置10は、AHPを用いて、ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計する。データセンタネットワーク設計装置10は、プログラムされたコンピュータでもよい。
【0016】
データセンタネットワーク設計装置10は、入力装置101と、DC−NW候補集合生成装置102と、AHP評価実施装置103と、評価結果出力装置104とを有する。
【0017】
入力装置101により、各ノードの位置及び収容ユーザ数、設置DC数S、リンクコストモデルが入力される。このような情報は、コンピュータのキーボード入力により取得されてもよく、情報が記録された記録媒体を介した入力により取得されてもよい。取得された情報は、データセンタネットワーク設計装置10内の記憶装置に格納されてもよい。
【0018】
DC−NW候補集合生成装置102により、制約条件を満たすDC−NWの候補集合が生成され、各候補DC−NWの総リンクコストや平均経路長といった評価値が算出される。DC−NW候補集合生成装置102で実行される処理は、以下に詳細に説明する。
【0019】
AHP評価実施装置103により、AHPを用いて候補DC−NWが評価される。AHP評価実施装置103で実行される処理は、以下に詳細に説明する。
【0020】
評価結果出力装置104により、評価結果が出力される。評価結果は、画面上に出力されてもよく、印刷出力されてもよい。
【0021】
図2に、DC−NW候補集合生成装置102で実行される処理のフローチャートを示す。入力装置101によって入力された各ノードnの位置(xn,yn)、各ノードの収容ユーザ数rn、設置DC数S、リンクコストモデルに対して、初期設定プロセス(S101)は、ノードiとjの間の各リンク設置可能位置eの距離deを、de={(xi−xj)(yi−yj)}1/2より算出する。また各ノードと各リンク設置可能位置に対して任意のID番号を付与する。更に、各リンク設置可能位置eのリンク設置有無を表わす状態変数zeを全てゼロに初期化し(初期設定では、リンク設置がないものとする)、各ノードnのサーバ設置有無を表わす状態変数snを、IDの小さい方から選択されたS個のみを1にし、他を0とすることで初期化する。
【0022】
次に、サーバ及びリンクの設置状態の更新ステップ(S102)は、ID番号の小さい順にsn及びzeを0又は1に更新することで、S個のノードにサーバを配置し、各リンク設置可能位置eにリンクを設置する場合としない場合の各組合せを生成する。
【0023】
次に、制約条件の判定ステップ(S103)は、各リンクeの設計容量beを、
【0024】
【数1】
より算出する。ただしEはリンクの集合、veは正常時に各リンクeを流れるトラヒック量の相対値、v'e,kは任意のリンクkの単独リンク障害(SLF:single link failure)時に、OPSF(Open Shortest Path First)等による経路の再設定の結果、各リンクeを流れるトラヒック量の相対値である。与えられたDC配置とNWトポロジ、そして各ノードのユーザ数比率rnが与えられると、リンク重みをリンク距離としたときのOSPFによる最小コスト経路設定の結果、正常時に各リンクeを流れるトラヒック量の相対値veが一意に決まる。例えば図3に示す3ノードからなるNWにおいて、ノードCにサーバが設置されている場合、ノードAに対してはリンク(C,A)が、ノードBに対してはリンク(C,B)が配信に用いられる結果、vC,A=ra,vC,B=rb,vB,A=0となる。また任意のリンクkのSLF時に、OPSFによる経路の再設定の結果、各リンクeを流れるトラヒック量の相対値v'e,kがやはり一意に決まる。例えば図3において、リンク(C,A)のSLF時、ノードAに対する配信経路がC→B→Aに迂回される結果、v'(C,B),(C,A)=ra+rb,v'(B,A),(C,A)=raとなる。
【0025】
また制約条件の判定ステップ(S103)は、任意のリンクのSLF時における全ノード間の接続性が満たされるか否か、正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクを含まないかどうかの二つの制約条件を判定する。任意のリンクのSLF時における全ノード間の接続性が満たされるか否かは、各リンクを除去したNWトポロジに対して各ノード間の最小コスト経路をDijkstra法で算出し、全ノード間の経路のコストが有限の値になるかどうかで判定される。また正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクを含まないかどうかは、正常時のNWトポロジと各リンクを除去したNWトポロジに対して、全てのノード間の経路をDijkstra法で算出し、各リンクを流れるトラヒック量を、各リンクを経路が経由する着ノードのrnを足し合わせることで算出し、その値がゼロとなるリンクが存在するか否かで判定される。その結果、これら二つの制約条件を、現在のDC−NW状態に対して判定し、制約条件を満たさない場合にはサーバとリンクの設置状態の更新ステップに戻り、満たす場合には評価値の算出ステップに進む。
【0026】
評価値の算出ステップ(S104)は、制約条件を満たす現在のDC−NW状態の総リンクコストや平均経路長といった評価値を算出する。単位長あたりのリンクコストとして、定数を用いる場合(すなわちリンクeのコストが距離deに依存する)、設計リンク容量を用いる場合(すなわちリンクeのコストが距離deと設計容量beとの積に依存する)と、(iii)定数と設計リンク容量との線形和を用いる場合(すなわちリンクeのコストが距離deに比例する成分と、距離deと設計容量beとの両方に比例する成分との和に依存する)のいずれかで、総リンクコストが算出される。また正常時の平均経路長は各リンクeの距離deから算出される。
【0027】
候補出力ステップ(S105)は、現在のDC−NW状態を候補として出力する。ただし出力される情報は、sn、ze、総リンクコストや平均経路長といった評価値である。
【0028】
次に終了判定ステップ(S106)は、全てのサーバ設置とリンク設置の組合せに対して制約条件の判定ステップを行ったか否かを判定し、終了していない場合にはサーバとリンクの設置状態の更新ステップに戻り、終了した場合には終了する。
【0029】
図4に、AHP評価実施装置103で実行される処理のフローチャートを示す。総リンクコストや平均経路長といった複数の評価尺度Viを同時に考慮したDC−NW評価を行うためには、設計者の各評価尺度Viの相対的な重要度を定量化する必要がある。AHPでは全ての評価尺度のペアを一対比較することにより、Viの相対的な重要度を定量化する。
【0030】
評価尺度の一対比較ステップ(S201)は、設計者が入力した各評価尺度ペアに対する比較値を用いて、各評価尺度の重みを算出する。すなわち以下の表1に示す値を評価尺度ViのVjに対する相対的な重要度aijに設定する。
【0031】
【表1】
aijを要素にもつ一対比較行列を行列Aとし、各要素の重みwiを要素にもつベクトルwを行列Aの右側から乗じると、
【0032】
【数2】
が成立する。ただしnは要素の数である。よって重みベクトルwは行列Aの固有ベクトルであり、nは固有値(最大固有値)となる。
【0033】
次に各候補の各評価尺度に対するスコア算出ステップ(S202)は、DC−NW候補集合生成装置102が生成した各候補DCネットワークiの、各評価尺度Vjの評価値Xijを用いて、Vjに対するスコアsijを、
【0034】
【数3】
より算出する。ただしBは総候補数である。例えばB=2で2個の評価尺度を考慮する場合で、X11=1,X21=2,X12=4,X22=1の場合、s11=0,s21=1,s12=1,s22=0となる。
【0035】
次に各候補のスコア算出ステップ(S203)は、各候補の各評価尺度に対するスコアを各評価尺度の重みで重みづけた和を算出することで、各候補のスコアを算出する。すなわち各候補iのスコアSiを、
【0036】
【数4】
より算出する。ただしVは評価尺度の数である。例えば上の例で、w1=0.6,w2=0.4の場合、S1=0.4,S2=0.6となり、候補2が候補1よりも優れていると評価される。
【0037】
図5に、評価結果出力装置104で実行される処理のフローチャートを示す。
【0038】
各候補のスコアを降順にソートステップ(S301)では、各候補のスコアを降順にソートする。
【0039】
次に各候補をスコアの降順に出力ステップ(S302)では、各DC−NW候補をスコアの降順に出力する。出力される情報は、各候補の状態sn、ze及びスコアである。
【0040】
次に、本発明の実施例に係るAHPを用いたデータセンタネットワーク設計法について、詳細を説明する。
【0041】
<AHPの概要>
通常、意思決定においては、「問題P」、「評価尺度V」、「代替案A」の三種類の要素が存在する。AHPでは、これら要素を図6に示すような階層構造で把握する。ただし図6では便宜上、互いに関連のある一部の要素間のみを直線で結んでいる。評価尺度Vは複数の階層構造V1,V2,・・・(図6では2階層)をとることも可能である。そして各要素間の関連性の強さ(重み)を算出し、最終的に、各代替案AiのスコアSiを導出する。
【0042】
評価尺度Vの問題Pに対する重みを計算する場合、定量的な評価値がもともと存在しないため、何らかの方法で定量化する必要がある。AHPでは、同一の階層に属する要素集合に対して、全ての要素間の重要度を一対比較することにより定量化を図る。まず、階層cに属する要素XiとXjに対して、表1に示す値をXiのXjに対する相対的な重要度aijに設定する。要素Xiの本来の重みをwiとすると、理想的にはaij=wi/wjという関係を満たす。aijを要素にもつ一対比較行列を行列Aとし、各要素の重みwiを要素にもつベクトルwを行列Aの右側から乗じると、
【0043】
【数5】
が成立する。ただしnは要素の数である。よって重みベクトルwは行列Aの固有ベクトルであり、nは固有値(最大固有値)となる。
【0044】
実際には、一対比較を完全な整合性を持って行うことは困難なため、行列Aの整合性を判断する必要がある。行列Aの最大固有値をλmaxとすると、λmax≧nとなる。そこで、
【0045】
【数6】
で定義される整合度C.I.を用いて整合性を判断する。整合性が増すほどλmaxは減少し、完全に整合性がとれているときにはλmax=nとなるので、C.I.は小さなほど整合性が高く、一般的にはC.I.が0.1以下であれば合格とする。
【0046】
階層cにおける要素iの、階層c−1の要素jに対する重みをwijcとする。階層c−1の要素のうち、階層cの要素Vicが関係する要素の集合をΦicとすると、Vicの問題Pに対するスコアSicは、
【0047】
【数7】
より算出できる。階層1においては、Pに対する各要素の重みがそのままスコアSi1となる。以下、c=2,3,・・・の順にスコアSicを算出することができ、最終的に各代替案AiのスコアSiを得る。なお、式(3)はc=2の場合に相当する。そしてスコアが大きな代替案が良好な選択肢となる。設計者はスコアが最大の代替案だけでなく、スコアが大きな数個の代替案を比較検討することで、最終的に採用すべき代替案を選択することができる。このようにAHPを用いることで、評価者は膨大な数の代替案の中から比較評価可能な程度の数に候補を絞りこむことができる。
【0048】
<DC−NW設計における想定条件>
AHPを用いたDC−NW設計法について述べる前に、まずDC−NW設計時の想定条件について述べる。ここでは、NWの一般化した構成要素としてノード及びリンクを考える。N個のノードの位置が与えられ、全ノード間にリンクの設置を可能とする(途中に山脈が存在するなどリンク設置が困難な箇所が存在する場合にも、設置可能であるとする)。リンクの設置可能な箇所数LはL=N(N−1)/2となる。ただし設置リンクは双方向であるとし、両端のノード間の両方向にトラヒックが流れることを想定する。Nの任意のノードにDCを設置可能とし、任意に与えた個数S個のDCを配置する。Nの各ノードの位置に加え、収容ユーザ数が与えられ、各ノードnの需要量比率は収容ユーザ数を全ユーザ数で除したユーザ数比率rnに比例するとする。またパケットの転送経路として、リンク距離を各リンクのコストとするOSPFによる最小コスト経路を想定する。
【0049】
<候補DC−NWの生成>
AHPを用いてDC−NWを評価するためには、まず評価対象となる候補集合を生成する必要がある。L本のリンク設置可能位置に対して、リンクを設置する箇所を選択することで候補トポロジが生成されるため、構成可能な候補トポロジの全数は2Lとなる。またDC設置の可能な組合せ数はNCS=N(N−1)・・・(N−S+1)/S(S−1)・・・1となり、各DC配置パタンに対して2Lのトポロジを構成可能であるため、N個のノードとS個のDCを用いて構成可能なDC−NWの総数はNCS2N(N−1)/2となる。
【0050】
ただしDC−NWには全てのノードからDCへの接続性が求められる。IPバックボーンにおいて日常的に様々なリンクで障害が発生しており、メインテナンスに起因するものを除いた意図しない障害の約70%は単独リンク障害(SLF:single link failure)である。そのため正常時に加えて、任意のリンクのSLF時にも接続性が維持されることが求められる。特にS個の全DCが異なるコンテンツを保有する場合や、異なるクラウドサービスを提供するような場合、各ノードから全てのDCへの接続性が求められる。一方、全てのDCが同一のコンテンツを保有し、もしくは同一のクラウドサービスを提供しているような場合には、各ノードからは最低限度、任意の一つのDCへの接続性が維持されていればよい。しかしその場合、DC間でコンテンツやデータを交換する必要があり、全てのDC間に対して接続性が求められる。このことは結局、全てのノード間の接続性を満たすことと等価となる。
【0051】
また正常時とSLFの全パタンにおいて、全くトラヒックが流れないリンクが存在するDC−NW候補は、そのようなリンクが冗長であり、それらリンクを除いたDC−NW候補が明らかに優れていることから、このような候補は評価対象から除いて考える。以上、まとめると、任意のリンクのSLF時における全ノード間の接続性と、正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクを含まないことを制約条件とし、構成可能なNCS2N(N−1)/2のDC−NWのうち、本制約条件を満たすもののみを候補DC−NWとして生成し、AHPを用いて評価する。
【0052】
<候補DC−NWの評価>
AHPをDC−NW設計に適用すると、トップの階層(階層0:図6における階層0)には解くべき問題P(この場合、"最適なDC−NWの選択")が、中央の階層(階層1:図6における階層1)には評価尺度Viが、そしてボトム(階層2:図6における階層3)には候補DC−NWが並ぶ。
【0053】
階層1(評価尺度)の問題Pに対するスコア(重み)は、AHPの一対比較により求めることができる。階層2(候補トポロジ)の階層1の各要素(評価尺度)に対するスコア(重み)は、評価尺度が定量的な評価値をもつ場合、一対比較による評価を行う必要はない。AHPはスコアが高い要素を高く評価する。そのため各評価尺度が小さな値をとるほど良好である場合には、候補トポロジiの評価尺度jの値Vijの逆数をXijとし(Xij=1/Vij)、Xijに基づいて重みを算出する。階層2の要素の重みwij2は、正規化条件
【0054】
【数8】
を満たす必要があるが、通常、AHPではXijを単に全候補中で正規化した値を重みと見なすため、
【0055】
【数9】
となる。しかし、NWトポロジ候補数は非常に多数となるため分母が大きくなり、候補間のXijの値の差異が、評価尺度間のスコア差と比べて遥かに小さな値となる。その結果、単に重要視した評価尺度が良好な候補を選択する傾向が強くなり、他の評価尺度の値がほとんど考慮されなくなる。
【0056】
この問題を解決するために、評価尺度の値Xijそのものを用いるのではなく、Xijを線形変換した値Yijを正規化したものを重みとする。すなわちaとbを任意の実数とし、Yij=a(Xij+b)とする。このとき重みwij2は、
【0057】
【数10】
となる。正規化するためwij2はaとは無関係となる。また、ここでは全ての重みが0以上の値をとるよう、Xijの全候補中の最小値を−1倍した値をbに設定する(b=−mini{Xij})。
【0058】
<候補DC−NWの評価尺度>
各DC−NW候補を評価する評価尺度として、総リンクコスト(V1)と平均経路長(V2)の二つを考える。すなわち図6におけるV11を総リンクコストとし、V21を平均経路長とする。両評価尺度とも値が小さいほど優れている。
【0059】
コストに関連した評価尺度V1
V1をNW全体の総相対リンクコストとする。すなわちリンクeの相対コストをCe、Eを設置リンクの集合とするとき、
【0060】
【数11】
とする。前述のように、各候補の各評価尺度は全候補の総和で除した相対値で評価されるため、V1の絶対値は重要ではなく、各候補を比較したときの相対値が意味をもつ。そこでCeをコストの絶対値ではなく相対値で考える。
【0061】
Ceをどのように定めるかが問題であるが、Ceを構成するコストとしては、土木インフラコスト、光ファイバコスト、光伝送装置コスト等が考えられる。主に、リンクeの距離deと、リンクeの設計容量beがこれらコストを決める要因となる。なお、リンクeの距離deは、上記の通り、de={(xi−xj)(yi−yj)}1/2より算出され、設計容量beは、上記の通り、式(1)より算出される。まず一番目のコストモデル(CM1:cost model 1)として、Ce=deに設定することを考える。これは土木インフラコストがCeの支配要因となる場合に相当する。
【0062】
次に二番目のコストモデル(CM2)として、Ceをdeとbeの積、すなわちCe=debeに設定することを考える。これは光ファイバや光伝送装置など、deとbeの両方に依存するものがCeの支配要因となり、かつこれらのコストがdeとbeの各々に比例する場合に相当する。
【0063】
そして三番目のコストモデル(CM3)として、Ceが距離deに比例する成分と、deと設計容量beの両方に比例する成分との和で構成される場合、すなわち任意の定数αに対してCe=αde+debe=de(α+be)に設定することを考える。これはインフラコスト等のdeのみにほぼ比例する要素と、光ファイバや光伝送装置等のdeとbeの両方に比例する要素との双方がCeの決定要因となる場合や、光ファイバや光伝送装置のコストが距離に比例する成分と距離と容量の両方に比例する成分の和で構成される場合に相当する。
【0064】
次に各リンクeの設計容量beの設定法について述べる。与えられたDC配置とNWトポロジ、そして各ノードのユーザ数比率rnが与えられると、リンク重みをリンク距離としたときのOSPFによる最小コスト経路設定の結果、正常時に各リンクeを流れるトラヒック量の相対値veが一意に決まる。また任意のリンクkのSLF時に、OPSFによる経路の再設定の結果、各リンクeを流れるトラヒック量の相対値v'e,kがやはり一意に決まる。任意のSLFに対しても、発生トラヒックを十分に運べる容量を各リンクに設計する必要があることから、これら相対トラヒック量の最大値で各リンクの容量を設計する。beは次式で得られる。
【0065】
【数12】
品質に関連した評価尺度V2
V2としてDCサービスの通信フローの平均経路長を考える。各DCのノードiから、DCが設置されていないノードjに至る最小経路長をdi,jとする。SのDCの中でdi,jが最小となるDCをsjとするとき、ノードjの収容ユーザに対しては正常時sjが用いられる。V2を
【0066】
【数13】
で設定する。ただしVはノード集合であり、DCが設置されているノードnに対しては
【0067】
【数14】
とする。
【0068】
<候補DC−NWの評価結果>
次に、日米欧の三つの地域を対象に、前述の方法でDC−NWを設計した数値結果について述べる。
【0069】
ノード配置とユーザ数分布
各ノードnの収容ユーザ数比率rnをノードnの割当て人口比率に設定する。日本(JPN)、米国(USA)、欧州(EUR)の三つの地域において、ノード数Nを7とし、ノード配置を人口の大きな上位7つの場所に設定する。表2に、各地域においてノードを配置した地名と割当て人口Pnを示す。
【0070】
【表2】
日本に対しては、高等裁判所が設置されている都市にノードを配置し、各高等裁判所の管轄地域の2005年における人口をPnに設定した。ただし最も管轄人口の小さい高松高等裁判所が管轄する四国4県の人口を広島に集約し、高松にはノードを配置しない。米国に対しては、郊外都市を含む2005年の都市圏人口の大きな上位7つの都市にノードを配置した。そして2005年の都市圏人口をPnに設定した。欧州に対しては、欧州連合に加盟する国の中で2008年の人口が大きな上位7つの国を選択し、各国の首都にノードを配置した。そして各国の2008年の人口をPnに設定した。
【0071】
図7(a)に、三つの各地域に対して各ノードの人口比rnを降順にプロットする。日本はrn最大ノード(東京)のrnが突出して大きく、他の地域と比較してrnの偏りが大きい。米国は上位2都市(New YorkとLos Angeles)のrnが他の都市と比較して大きく、日本についでrnの偏りが大きい。欧州は最もrnの偏りが小さい。図8に三つの各地域のノード配置を示す。ただしrnに比例した直径の円で各ノードを表している。日本はrnの突出して大きいノード(東京)と2位のノード(大阪)が地理的中心に近い場所に存在するのに対して、米国はrnの突出して大きい2都市(New YorkとLos Angeles)が東西の両側に位置しており、地理的中心からは互いに離れた場所に存在する。欧州はrnの大きなノードが広く分散している。また図7(b)に三つの各地域に対して、L=21の各リンク設置可能場所のリンク距離を、各地域の最大値で除した正規化値を降順にプロットする。三つの地域でノード間距離の分布には差異が見られない。
【0072】
候補DC−NW集合の特性
表3にDC数Sを1もしくは2に設定したときの、前述の二つの制約条件、すなわち(i)SLF時の全ノード間の接続性と、(ii)正常時と全SLFパタンにおいて全くトラヒックが流れないリンクが存在しない、という条件を満たす候補DC−NW数を示す。DCの設置パタン数はS=1のとき7でS=2のとき21となり、S=2の方が構成可能なDC−NW数は7倍となる。しかし設置DCの増加に伴い通信フローの経由リンク数が減少するため制約条件(ii)を満たすトポロジのパタン数が大幅に減少する結果、候補数はS=2の方が少ない。
【0073】
【表3】
図9(a)(b)(c)にDC数Sを1に設定したときの、制約条件を満たす全候補DC−NWを対象に、三つの各地域に対して各候補の総リンクコストV1の全候補中の相対値の累積分布を示す。ただし制約条件を満たす全候補中のViの最大値と最小値を各々MaxVi,MinViとすると、各候補jの評価尺度Viの値Vijに対する相対値を(Vij−MinVi)(MaxVi−MinVi)で定義する。距離のみをリンクコストに反映するCM1を用いた場合、候補集合のV1の多様性が最大となる。設置リンク数が少なく総リンク長の短いNWトポロジにおいては、SLF時の迂回経路のホップ長が大きくなる結果、各リンクの設計容量が大きくなる傾向がある。そのため距離と設計容量の両方をリンクコストに反映するCM2やCM3を用いた場合、候補集合中のV1の多様性がCM1と比較して小さくなる。全候補のV1の分布は、三つの地域においてほぼ同等となる。
【0074】
図9(d)に、制約条件を満たす全候補DC−NWを対象に、三つの各地域に対して各候補の平均経路長V2の相対値の累積分布を同様に示す。CMとは無関係に制約条件を満たす候補集合は同一となるため、候補集合のV2はCMとは無関係となる。図8で見たように、日本はrnの大きなノードが地理的中心に近い場所に存在するため、米国や欧州と比較してV2の小さいDC−NWの比率が高くなる。S=2に設定した場合についても、V1とV2の相対値の累積分布に関して同様の考察が得られた。
【0075】
次に図10に日本のノード配置に対してS=1としたときの、制約条件を満たす候補DC−NWのV1とV2の相対値の散布図を、三つの各CMに対して示す。ただし全候補中で評価尺度値が最小となり相対値がゼロとなる候補に対しては、V1に関しては10−4、V2に関しては10−9を便宜上、設定した。
【0076】
総リンク長が長いDC−NWは平均経路長が短い傾向があるため、CM1の場合、V1とV2の両方が小さいDC−NWにおいて、V1とV2には負の相関性が見られる。一方、平均経路長の短いDC−NWはSLF時の迂回パスも短くなる傾向があるため、設計容量を強くリンクコストに反映させるCM2の場合、候補DC−NWのV1とV2には正の相関性が見られ、V1とV2の両方が全候補中で最小となり相対値がゼロとなるDC−NW候補が存在する。そのためCM2を用いた場合、最適なDC−NWが一つ存在する。CM3の場合、リンクコストへの反映度がCM2よりは小さくなるため、CM1とCM2の中間的な傾向が見られる。米国と欧州のノード配置に対しても候補集合のV1とV2の関連性を分析したところ、同様の傾向が得られた。またS=2とした場合についても同様に評価したところ、やはり同様の傾向が得られた。
【0077】
AHPによる候補DC−NWの評価結果
次に、生成された制約条件を満たす全候補DC−NWを対象にAHPを適用し、候補DC−NWを評価した結果を示す。AHPの適用に際しては各評価尺度を重視する度合(評価シナリオ)を設定する必要があるが、本稿では、(1)コストを重視する場合(シナリオ1)と、(2)品質を重視する場合(シナリオ2)の二つの評価シナリオを想定する。シナリオ1においては、表1に示した一対比較値をa12=3,a21=1/3に設定した。各評価尺度の重みはw1=0.75,w2=0.25となり、評価尺度数が2個であるため整合度C.I.は必ず0になる。一方シナリオ2においては、一対比較値をa12=1/3,a21=3に設定し、各評価尺度の重みをw1=0.25,w2=0.75に設定した。
【0078】
図11にDC数をS=1としCM1を用いた場合の、各評価シナリオ(SC)においてAHPにより上位3位に評価されたDC−NWのNWトポロジとDC配置を、三つの各地域に対して示す。ただし図11ではDC配置ノードを二重丸で示し、1位、2位、3位に評価されたDC−NWを、日本は左から順に、米国と欧州は上、左下、右下の順に示している。
【0079】
各リンクを流れるトラヒック量とは無関係にリンク距離をリンクコストに反映させた場合、コスト低減の観点からは総リンク長を抑えることが重視されるため、SLF時の全ノード間の接続性を維持しつつリンク総距離を低減できるリング型のNWトポロジが高く評価される。そのためコスト重視の場合(SC1)には単一リング型のNWトポロジが高く評価される。またノード数Nが7と少ないため二重リングでも平均経路長が抑えられるため、品質重視の場合(SC2)にもスター型ではなく二重リング型のNWトポロジが高く評価される。また日本はrnの突出して大きな東京が地理的中心に近い場所にあるため、評価シナリオに関係なく東京にDCを配置することが望ましい。一方米国はSC1の場合はやはりrn最大都市であるNew YorkへのDC設置が望ましいが、rnが大きい上位2都市が両辺境に存在するため、SC2の場合はrnでは第三位であるが地理的中心に存在するChicagoにDCを配置することが望ましい。欧州はrnの偏りが小さいため、rnが比較的大きな様々なノードにDCを配置することが望ましい。
【0080】
図12にDC数をS=2としCM1を用いた場合の結果を同様に示す。NWトポロジに関しては、S=1の場合と同様、SC1の場合は単一リング、SC2の場合は二重リングが高く評価される。ただし米国は東西の辺境に二大都市が存在し、これら二大都市にDCを配置することで単一リングでも平均経路長が抑えられるため、単一リングが高く評価される。日本のDC配置については、東京と、東京から離れたノードに配置することが望ましく、欧州については、やはり様々なノードにDCが配置される。
【0081】
図13及び図14にCM2を用い、DC数をS=1とした場合とS=2とした場合の結果を各々同様に示す。図10で見たように、CM2を用いるとV1とV2の両方が優れたDC−NWが存在する傾向があり、S=1の場合は三つの全ての地域において、またS=2の場合は日本と米国において、V1とV2の両方が全候補中で最小となる最適なDC−NWが存在する。図13及び図14では、このような最適DC−NWを各地域に対して一つ示しているが、評価シナリオに関係なく同一のDC−NWが各々最適となる。
【0082】
リンクコストを最大トラヒック量(設計容量)と距離の積とした場合、ホップ長の長いリングが存在するNWトポロジは、SLF時に各リンクを流れるトラヒック量が大きくなり総リンクコストが大きい。よって地理的中心に位置するS個のノードをハブとする複数のスターに、SLF時の接続性維持のために葉ノード間にバイパスリンクを設置したNWトポロジが高く評価される。一方、DCの設置に関してはrnの大きなノードが望ましい。日本においては2大都市が中央に存在するためハブノードへのDC設置が高く評価されるが、一方、米国は2大都市が両辺境に存在し、また欧州はrnの偏りが小さいため、米国と欧州ではハブノード以外にDCを設置したDC−NWが高く評価される。
【0083】
図15及び図16にCM3を用い、DC数をS=1とした場合とS=2とした場合の結果を各々同様に示す。単位長あたりのリンクコストに距離と最大トラヒック量の両方を反映させた場合、どちらか一方を反映させるCM1とCM2の中間的なNWトポロジが高く評価される。すなわちSが1の場合も2の場合も、二つのリングを接続した二重リング型が望ましく、地理的中央に存在するrnの大きなノードを二重リングの接続点とし、DCを設置することが望ましい。ただし米国は二大都市が両辺境にあるため、S=2の場合には単一リング型が高く評価される。CM2の場合と同様、評価シナリオによる評価結果の差異は小さい。
【0084】
評価結果のまとめ
このようにして得られたAHPの適用結果についてまとめる。表4に、各コストモデル(CM)、評価シナリオ(SC)、設置DC数S、地域に対して、望ましいNWトポロジをまとめる。
【0085】
【表4】
距離がリンクコストの支配要因となりコストを重視する場合(CM1−SC1)は、単一リングが望ましい。距離がリンクコストの支配要因で品質を重視する場合(CM1−SC2)や、距離と設計容量の両方がリンクコストに影響する場合(CM3)は、二重リングが望ましい。設計容量がリンクコストの支配要因となる場合(CM2)は、S個のスターにバイパスリンクを設置したトポロジが望ましい。地域による差異は見られないが、米国でS=2の場合、CM1−SC2とCM3の結果が他の地域と異なる。
【0086】
また表5に望ましいDC設置位置について同様にまとめる。ただし表5においてnはノードの意味である。
【0087】
【表5】
評価シナリオによる差異は米国におけるCM1−S1の場合を除き見られなかったが、地域によって人口比の地理的な分布が異なるため、地域による差異が見られる。日本は人口比の大きな都市が地理的中心に存在するため、単にこれらノードにDCを設置することが望ましい。米国は人口比の大きな都市が両辺境に存在するため、CMやSに応じて、DC設置が望ましい場所は人口比の大きなノードと地理的中心に存在するノードの場合がある。欧州は人口比の偏りが小さいため、DC設置の望ましい場所については特定の傾向が見られない。
【0088】
<実施例の効果>
以上説明したように、本発明の実施例によれば、各ノードの位置と収容ユーザ数とが与えられ、任意のノード間にリンクを設置することが可能であり、任意のノードにデータセンタを設置することが可能であるときに、予め考慮した制約条件を満たし、任意に与えた個数のデータセンタを配置したデータセンタネットワークのネットワークトポロジとデータセンタ配置を同時に設計できる。
【0089】
説明の便宜上、本発明の実施例に係るデータセンタネットワーク設計装置は機能的なブロック図を用いて説明しているが、本発明のデータセンタネットワーク設計装置は、ハードウェア、ソフトウェア又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。例えば、図1のデータセンタネットワーク設計装置の各機能部がソフトウェアで実現され、コンピュータ内に実現されてもよい。また、2以上の実施例及び実施例の各構成要素が必要に応じて組み合わせて使用されてもよい。
【0090】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々の変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 データセンタネットワーク設計装置
101 入力装置
102 DC−NW候補集合生成装置
103 AHP評価実施装置
104 評価結果出力装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによってネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法であって、
ノード情報取得手段が、各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得するステップと、
候補生成手段が、前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成するステップと、
評価手段が、複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価するステップと、
を有するデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項2】
前記評価手段は、総リンクコストと正常時の平均経路長とを前記複数の評価尺度として用い、総リンクコストの逆数と正常時の平均経路長の逆数とに基づいて前記複数の評価尺度の重みを算出することで、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価する請求項1に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項3】
前記総リンクコストは、定数、設計リンク容量又は定数と設計リンク容量との線形和に基づいて算出された単位長あたりのリンクコストから算出される、請求項2に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項4】
前記設計リンク容量は、正常時におけるリンクの収容ユーザ数と、単独リンク障害時におけるリンクの収容ユーザ数とのうち大きい方から算出される、請求項3に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項5】
前記候補生成手段は、単独リンク障害時におけるノード間の接続性を維持すること、且つ、正常時及び単独リンク障害時でトラヒックが流れないリンクが存在しないことを、前記所定の制約条件として候補を生成する、請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項6】
前記候補生成手段は、各ノードの位置からノード間の距離を算出し、単独リンク障害時において全てのノード間の最短経路が算出可能な候補、且つ、正常時及び単独リンク障害時において全てのノード間の最短経路で収容ユーザ数がゼロとなるリンクが存在しない候補を生成する、請求項5に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項7】
前記評価手段が、AHP(Analytic Hiearchy Process)を用いて、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を評価する、請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項8】
コンピュータにネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得させるノード情報取得手段、
前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成させる候補生成手段、及び
複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価させる評価手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項1】
コンピュータによってネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計するデータセンタネットワーク設計方法であって、
ノード情報取得手段が、各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得するステップと、
候補生成手段が、前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成するステップと、
評価手段が、複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価するステップと、
を有するデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項2】
前記評価手段は、総リンクコストと正常時の平均経路長とを前記複数の評価尺度として用い、総リンクコストの逆数と正常時の平均経路長の逆数とに基づいて前記複数の評価尺度の重みを算出することで、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価する請求項1に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項3】
前記総リンクコストは、定数、設計リンク容量又は定数と設計リンク容量との線形和に基づいて算出された単位長あたりのリンクコストから算出される、請求項2に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項4】
前記設計リンク容量は、正常時におけるリンクの収容ユーザ数と、単独リンク障害時におけるリンクの収容ユーザ数とのうち大きい方から算出される、請求項3に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項5】
前記候補生成手段は、単独リンク障害時におけるノード間の接続性を維持すること、且つ、正常時及び単独リンク障害時でトラヒックが流れないリンクが存在しないことを、前記所定の制約条件として候補を生成する、請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項6】
前記候補生成手段は、各ノードの位置からノード間の距離を算出し、単独リンク障害時において全てのノード間の最短経路が算出可能な候補、且つ、正常時及び単独リンク障害時において全てのノード間の最短経路で収容ユーザ数がゼロとなるリンクが存在しない候補を生成する、請求項5に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項7】
前記評価手段が、AHP(Analytic Hiearchy Process)を用いて、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を評価する、請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のデータセンタネットワーク設計方法。
【請求項8】
コンピュータにネットワークトポロジ及びデータセンタ配置を設計させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
各ノードの位置及び収容ユーザ数を取得させるノード情報取得手段、
前記取得された各ノードの位置及び収容ユーザ数に基づいて、所定の制約条件を満たすネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を生成させる候補生成手段、及び
複数の評価尺度の関係を定量化して、前記ネットワークトポロジ及びデータセンタ配置の候補を評価させる評価手段、
として機能させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−209900(P2011−209900A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75730(P2010−75730)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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