説明

トウモロコシ多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するプライマーセット及びその使用

【課題】トウモロコシの雌穂上位葉数増加に関与する遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するプライマーセット、多葉性関連遺伝子座の有無の識別方法及びトウモロコシ多葉性系統の作出方法を提供する。
【解決手段】多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ第3染色体上に座乗する多葉性関連遺伝子座(lfy1)に連鎖するDNAマーカーを検出できるプライマーセット、上記プライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座の有無を識別する方法、及び上記方法により、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出する方法。
【効果】本発明を用いることで、幼苗段階での多葉化系統の選抜が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウモロコシ多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するプライマーセット、トウモロコシ多葉性自殖系統の育成過程における多葉性個体の幼苗の選抜方法及びトウモロコシ多葉性系統の作出方法に関するものであり、更に詳しくは、多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出できるプライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより遺伝子型を判別することにより、幼苗段階での雌穂上位葉数の向上した個体の選抜を可能とする新しい多葉性個体の幼苗選抜方法及びトウモロコシ多葉性系統の作出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
子実のみならず茎葉部も利用する飼料用トウモロコシにおいては、葉数の増加は、収量増加につながる重要な形質と考えられている。一般に、トウモロコシの最上位の雌穂より上部にある葉の枚数(雌穂上位葉数)は、自殖系統で5〜7枚である。しかしながら、雌穂上位葉数が増加した変異体が見出され、その形質を導入することにより、10枚前後の雌穂上位葉数をもつ多葉性自殖系統が作出されている。
【0003】
幾つかの報告から、この形質は、多葉性関連遺伝子座(lfy1)と呼ばれる遺伝子座により支配される優性の形質であることが知られていたが、その遺伝子座が、染色体上のどこに座乗するかは明らかにされていない(非特許文献1)。
【0004】
多葉性の特性は、雄穂出現後で無ければ判別できないが、多葉性関連遺伝子に連鎖するDNAマーカーを活用することが可能となれば、同形質に関し、多葉性個体の幼苗段階での選抜が可能になると考えられ、また、多葉性関連遺伝子のホモ化にも有効と考えられる。
【0005】
【非特許文献1】Shaver,DL.,38th Annual Corn and Sorghum Research Conference:161−180(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、トウモロコシ多葉性系統957Lと非多葉性系統Na12を両親とする雑種第2世代(F)を解析集団とし、各種DNAマーカーを用いた連鎖地図の作成及びQTL解析を行った結果、多葉性関連遺伝子座(lfy1)が第3染色体上に座乗することを特定することに成功し、同遺伝子座近傍の増幅断片長多型(AFLP)マーカーをSTS化し、A4M48を見出した。更に、多葉性関連遺伝子座(lfy1)周辺に対して、単純反復配列(SSR)マーカーを追加し、高密度の連鎖地図を作成することにより、多葉性関連遺伝子座(lfy1)に緊密に連鎖するSSRマーカーを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、トウモロコシの雌穂上位葉数に関連する遺伝子座の解明及び同遺伝子座に連鎖するDNAマーカーの検出を可能にするプライマーセットを提供することを目的とするものである。また、本発明は、該プライマーセットを利用して多葉性個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出する方法及び該方法により作出されたトウモロコシ多葉性系統を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ第3染色体上に座乗する多葉性関連遺伝子座(lfy1)に連鎖するDNAマーカーを検出できることを特徴とするプライマーセット。
(2)多葉性関連遺伝子座(lfy1)から10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーを検出できる、前記(1)に記載のプライマーセット。
(3)上記DNAマーカーが、AFLPマーカーのA4M48である、前記(2)に記載のプライマーセット。
(4)配列表の配列番号1〜6の順方向プライマー及び7〜12の逆方向プライマーの中から選択される一対の塩基配列から構成される、前記(1)から(3)のいずれかに記載のプライマーセット。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載のプライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座の有無を識別する方法。
(6)前記(5)に記載の方法により、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出することを特徴とするトウモロコシ多葉性系統の作出方法。
(7)前記(6)に記載の方法により作出された飼料用トウモロコシであって、雌穂上位葉数を多くしたことで特徴付けられるトウモロコシ多葉性系統。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ第3染色体上に座乗する多葉性関連遺伝子座(lfy1)に連鎖するDNAマーカーを検出できることを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、多葉性関連遺伝子座(lfy1)から10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーを検出できること、上記プライマーセットが、配列表の配列番号1〜6の順方向プライマー及び7〜12の逆方向プライマーの中から選択される一対の塩基配列から構成されること、を好ましい実施の態様としている。
【0011】
また、本発明は、上記プライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座の有無を識別する方法の点、及び、上記方法により、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出する方法の点、更に、上記方法により作出されたトウモロコシ多葉性系統の点、に特徴を有するものである。
【0012】
本発明は、トウモロコシの雌穂上位葉数に関与する遺伝子座(lfy1)に連鎖し、遺伝子型の判定に利用可能なDNAマーカーを検出できるプライマーセットを提供するものである。以下、本発明のプライマーセット及びその新しい利用手法について説明する。
【0013】
本発明では、多葉性関連遺伝子座に対し、緊密に連鎖するDNAマーカーを複数個見出しているが、本発明が対象とするDNAマーカーは、これらに限定されるものではなく、多葉性関連遺伝子座(lfy1)に緊密に連鎖するものであれば同様に使用することができる。
【0014】
本発明では、これらのDNAマーカーを検出できるプライマーペアの構築に成功した。そして、該プライマーペアを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行ったところ、多葉性系統と非多葉性系統では、塩基数の異なったDNA断片が増幅されることが判明した。このため、増幅断片長を調査することで、同マーカーの座乗する領域が多葉性系統と非多葉性系統のどちらに由来するかが判定され、結果として、調査個体の多葉性関連遺伝子座(lfy1)の有無が識別可能となることが分かった。
【0015】
上記のDNAマーカーの遺伝子型の判定に用いるゲノムDNAの抽出法には、特別な制約は無く、植物の葉片からのDNA抽出で一般的に用いられるCTAB法などを必要に応じて改変し、実施すればよい。また、市販のDNA抽出キットを用いることも適宜可能である。また、DNAマーカーのDNA断片増幅のためのPCRの条件は、例えば、後記する実施例に例示されているが、これらに制限されるものではなく、プライマーペアや使用機器に合わせて任意に変更することができる。同様に、電気泳動条件も変更可能であり、また、増幅断片長の差が十分にあれば、アガロースゲルを用いることもできる。
【0016】
本発明では、ゲノムDNAの抽出手法、DNA断片増幅のためのPCR条件、電気泳動条件等は、任意に設定することができる。本発明によれば、上述のように、本発明の特定のプライマーペアを用いて上記DNAマーカーを検出し、該DNAマーカーを指標として多葉性関連遺伝子座(lfy1)の有無を識別し、個体の幼苗を選抜することで、その後代において雌穂上位葉数の多い多葉性系統を作出することが可能となる。
【0017】
本発明の方法でPCRに供するトウモロコシ系統としては、多葉性関連遺伝子座(lfy1)を有する多葉性系統を片親として用いた系統であればいずれの系統でも使用することができる。DNAマーカーに関しては、好適には、例えば、育種素材として用いる多葉性系統と非多葉性系統間で増幅断片長に明確な差があるものを用いる必要がある。
【0018】
本発明において、多葉性関連遺伝子座の推定のために用いる解析集団としては、例えば、多葉性系統957Lと非多葉性系統Na12の雑種第2世代(F)の集団個体が例示されるが、これらに制限されるものではなく、適宜の多葉性系統と非多葉性系統の雑種第2世代の集団個体が用いられる。各個体の雌穂上位葉数の観測とDNA抽出を行い、後の解析に用いる。雌穂上位葉数は、最上位の雌穂よりも上位の葉数を計測する。
【0019】
次に、連鎖地図の作成には、好適には、例えば、制限酵素断片長多型(RFLP)マーカー、増幅断片長多型(AFLP)マーカー及び単純反復配列(SSR)マーカーが用いられる。RFLP解析は、例えば、トウモロコシのゲノム由来及びcDNA由来のプローブを用い、例えば、GEヘルスケアバイオサイエンス社製のECLサザンハイブリシステムにより多型分析を行うことで実施することができる。
【0020】
AFLP解析は、Vosらの方法及びMyburgらの方法に従って実施することができる。ゲノムDNAの制限酵素消化は、好適には、例えば、EcoRI及びMseI、もしくはPstI及びMseIの組合せで行い、EcoRIプライマー及びPstIプライマーは、蛍光色素で標識して使用される。
【0021】
多型の検出は、例えば、DNAアナリシスシステム LIC−4200L−2(アロカ社製)で行うことができる。SSR多型解析では、Maize Genetics and Genomics Database(MaizeGDB,http://www.maizegdb.org/)に登録、公開されたSSRマーカーを用いることができる。各SSRマーカーのプライマーペアのうち、フォワードプライマーは、例えば、IRD800蛍光色素で標識することができる。しかし、これらに制限されるものではなく、AFLPやSSRでの多型検出には、任意の機器及び蛍光色素を用いることができる。
【0022】
SSR増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、例えば、MaizeGDBに記載の通りの条件で実施する。PCRの条件としては、例えば、1)94℃ 5分、2)94℃ 1分間、65℃ 1分間、72℃ 1.5分間 2サイクル、3)94℃ 1分間、65℃(1サイクル毎に1℃下げる)1分間、72℃ 1.5分間 10サイクル、4)94℃ 1分間、55℃ 1分間、72℃ 1.5分間 30サイクル、5)72℃ 7分間、の条件が例示されるが、これに制限されるものではなく、好適な条件を任意に設定することができる。多型の検出は、例えば、DNAアナリシスシステム LIC−4200L−2で実施する。
【0023】
上記RFLP、AFLP及びSSRの多型解析の結果をもとに、QTL解析ソフトウェアMapmanagerQTXを用いて、連鎖解析及び多葉性に関するQTL解析を行う。本発明では、第3染色体上に多葉性関連遺伝子座(lfy1)が存在し、更に、AFLPマーカーの1つA4M48がlfy1に連鎖することが見出された。そこで、A4M48マーカーの増幅断片の塩基配列を決定し、同マーカーの多型解析を効率的に行うためのプライマーセットを新たに設計した(STS化)。
【0024】
このプライマーセットを用いてPCRを行うと、例えば、非多葉性系統Na12のゲノムDNAを鋳型とした時、282塩基対の断片を増幅するが、多葉性系統957LのゲノムDNAを鋳型とすると、280塩基対の断片を増幅し、増幅断片長の違いから、同マーカーの遺伝子型が判定可能となる。他の非多葉性系統及び多葉性系統の場合についても、増幅断片長の違いから同様に同マーカーの遺伝子型を判定することが可能である。
【0025】
また、多葉性関連遺伝子座(lfy1)に、より緊密に連鎖するマーカーを見出すために、例えば、MaizeGDBで公開されたSSRマーカーのうち、Bin番号3.08〜3.09に座乗し、本解析集団の親系統であるNa12と957L間で多型に違いが見られるものを選抜する。上述の解析集団に対し、これらのマーカーの多型解析を行い、高密度の連鎖地図を作成する。この連鎖地図を、QTL解析ソフトMapQTLで再びQTL解析を行う。
【0026】
本発明では、5つのSSRマーカー(umc1578、umc1361、bnlg1496、mmc0001、umc1641)が、A4M48マーカーと同程度或いはより緊密にlfy1に連鎖していることが見出された。本発明では、これらのDNAマーカーを検出可能にするためのプライマーペアを構築した。これらのDNAマーカーは、すべて、MaizeGDBにおいて公開されているSSRマーカーであり、同ウェブサイトでこれらのマーカーに関するより詳細な情報や、他のマーカーの情報を得ることができる。
【0027】
上述のA4M48マーカー及び5つのSSRマーカーによる選抜効果を検証するために、例えば、3つの集団が用いられる。この場合、例えば、多葉性系統914Lと3系統の異なる非多葉性自殖系統(例えば、TD16、KK8、KK11)とのFを更に各々の非多葉性系統と交配した戻し交配第1世代(BC世代)を用いて、各集団90個体を養成し、雌穂上位葉数の計測とlfy1近傍マーカーによる遺伝子型調査を行う手法が例示される。
【0028】
上記手法では、各集団で調査するlfy1近傍マーカーは、914Lとそれぞれの非多葉性系統間で増幅断片長に違いがあり、遺伝子型の判定が可能であることを事前に確認したものが用いられる。非多葉性系統を反復親とする戻し交配の場合、遺伝子型としては、多葉性型と非多葉性型のへテロ及び非多葉性型のホモが出現し得る。
【0029】
A4M48マーカーの遺伝子型がヘテロを示したグループと非多葉性のホモを示したグループ間で平均雌穂上位葉数を比較すると、3集団とも、多葉性型と非多葉性型のヘテロの方が、非多葉性型ホモよりも雌穂上位葉数が有意に多いことが示され、A4M48マーカーによる選抜効果が見出された。
【0030】
同様の結果は、調査した4つのSSRマーカーでも見られ、DNAマーカーによる多葉性個体の選抜が有効であることが分かった。また、調査したマーカーを連鎖解析すると、umc1578、bnlg1496、mmc0001はlfy1から1cM以内に座乗し、A4M48は、7cM、umc1361は、7〜8cMの位置に座乗していることが見出された。
【0031】
本発明は、多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出することにより、調査個体の多葉性関連遺伝子座の有無を識別し、それにより、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出する手法を確立したことに最大の特徴を有するものである。本発明において、幼苗の選抜、後代の作出に関する方法及び手段については、常法に従って適宜選択、利用することができる。
【0032】
本発明では、上記DNAマーカーを検出できる特定のプライマーセットが提供されるが、多葉性関連遺伝子座(lfy1)から10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーを検出できるものであれば同様に使用することができる。本発明では、DNAマーカーとしては公知のDNAマーカーでも利用可能であるが、トウモロコシ第3染色体上に座乗する多葉性関連遺伝子座(lfy1)に緊密に連鎖するDNAマーカーを検出できるプライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座の有無を識別し、それにより、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出する方法は、従来技術からは予期し得ない新規手法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、トウモロコシ第3染色体上に座乗する多葉性関連遺伝子座(lfy1)に連鎖するDNAマーカーを検出可能とするプライマーセットを提供することができる。
(2)本発明により提供されるプライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座(lfy1)の有無を識別することができる。
(3)それにより、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代においてトウモロコシ多葉性系統を効率的かつ確実に作出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
1)解析集団
多葉性関連遺伝子座の推定のため、多葉性系統957Lと非多葉性系統Na12の雑種第2世代(F)集団80個体を養成し、各個体の雌穂上位葉数の観測とDNA抽出を行い、後の解析に用いた。雌穂上位葉数は、最上位の雌穂よりも上位の葉数を計測した。
【0036】
2)連鎖地図作成
連鎖地図の作成には、制限酵素断片長多型(RFLP)マーカー、増幅断片長多型(AFLP)マーカー及び単純反復配列(SSR)マーカーを用いた。RFLP解析は、米国ミズーリ大学より分譲されたトウモロコシのゲノム由来及びcDNA由来のプローブを用い、ECLサザンハイブリシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)により多型分析を行った。
【0037】
AFLP解析には、Vosらの方法(Nucleic Acids Res.23:4407−4414(1995))及びMyburgらの方法(BioTechniques 30:348−357(2001))に則り行った。ゲノムDNAの制限酵素消化は、EcoRI及びMseI、もしくはPstI及びMseIの組合せで行い、EcoRIプライマー及びPstIプライマーは、IRD700或いはIRD800蛍光色素(アロカ社製)で標識されたものを用いた。
【0038】
多型の検出は、DNAアナリシスシステム LIC−4200L−2(アロカ社製)で行った。SSR多型解析は、Maize Genetics and Genomics Database(MaizeGDB,http://www.maizegdb.org/)に登録、公開されたSSRマーカーを用いた。各SSRマーカーのプライマーペアのうち、フォワードプライマーは、IRD800蛍光色素で標識した。
【0039】
SSR増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、MaizeGDBに記載の通り、以下の条件で行った。1)94℃ 5分、2)94℃ 1分間、65℃ 1分間、72℃ 1.5分間 2サイクル、3)94℃ 1分間、65℃(1サイクル毎に1℃下げる)1分間、72℃ 1.5分間 10サイクル、4)94℃ 1分間、55℃ 1分間、72℃ 1.5分間 30サイクル、5)72℃ 7分間。多型の検出は、DNAアナリシスシステム LIC−4200L−2で行った。
【0040】
上記RFLP、AFLP及びSSRの計247マーカーの多型解析の結果をもとに、QTL解析ソフトウェアMapmanagerQTX(Manly,KF,Cudmore,Jr,RH,Meer,JM(2001)Mammalian Genome 12: 930−932)を用いて、連鎖解析及び多葉性に関するQTL解析を行った。
【0041】
その結果、第3染色体上に多葉性関連遺伝子座(lfy1)が存在し、更に、AFLPマーカーの1つA4M48がlfy1に連鎖することが示された。そこで、A4M48マーカーの増幅断片の塩基配列を決定し、同マーカーの多型解析を効率的に行うためのプライマーセットを新たに設計した(STS化)。このプライマーセットは、順方向プライマーLEF:5’−GGATGAGAACTATAGACA−3’(配列番号1)、及び逆方向プライマーLER:5’−TATGCCATGCCCTTTTT−3’(配列番号7)からなる。
【0042】
このプライマーセットを用いてPCRを行うと、非多葉性系統Na12のゲノムDNAを鋳型とした時、282塩基対の断片を増幅するが、多葉性系統957LのゲノムDNAを鋳型とすると、280塩基対の断片を増幅し、増幅断片長の違いから、同マーカーの遺伝子型が判定可能となる(図1)。
【0043】
また、lfy1に、より緊密に連鎖するマーカーを見出すため、MaizeGDBで公開されたSSRマーカーのうち、Bin番号3.08〜3.09に座乗し、本解析集団の親系統であるNa12と957L間で多型に違いが見られるものを選抜した。上述の解析集団に対し、これらのマーカーの多型解析を行い、高密度の連鎖地図を作成した。
【0044】
この連鎖地図を、QTL解析ソフトMapQTL(Van Ooijen,J.W.,M.P. Boer,R.C. Jansen,C.Maliepaard,2002.MapQTL4.0,Software for the calculation of QTL positions on genetic maps.Plant Research International,Wageningen,the Netherlands)で再びQTL解析を行った。
【0045】
その結果、5つのSSRマーカー(umc1578、umc1361、bnlg1496、mmc0001、umc1641)が、A4M48マーカーと同程度或いはより緊密にlfy1に連鎖していることが示された(図2)。そこで、本発明では、これらのDNAマーカーを検出可能にするためのプライマーペアを構築した(表1)。これらのDNAマーカーは、すべて、MaizeGDBにおいて公開されているSSRマーカーであり、同ウェブサイトでこれらのマーカーに関するより詳細な情報や、他のマーカーの情報を得ることができる。
【0046】
【表1】

【0047】
上述のA4M48マーカー及び5つのSSRマーカーによる選抜効果を検証するため、3つの集団を用いた。これらは、多葉性系統914Lと3系統の異なる非多葉性自殖系統(TD16、KK8、KK11)とのFを更に各々の非多葉性系統と交配した戻し交配第1世代(BC世代)であり、各集団90個体を養成し、雌穂上位葉数の計測とlfy1近傍マーカーによる遺伝子型調査を行った。
【0048】
各集団で調査するlfy1近傍マーカーは、914Lとそれぞれの非多葉性系統間で増幅断片長に違いがあり、遺伝子型の判定が可能であることを事前に確認した、A4M48、umc1578、umc1361、bnlg1496及びmmc0001の5つのマーカーを用いた。非多葉性系統を反復親とする戻し交配の場合、遺伝子型としては、多葉性型と非多葉性型のへテロ及び非多葉性型のホモが出現し得る。
【0049】
A4M48マーカーの遺伝子型がヘテロを示したグループと非多葉性のホモを示したグループ間で平均雌穂上位葉数を比較した。その結果、3集団とも、多葉性型と非多葉性型のヘテロの方が、非多葉性型ホモよりも雌穂上位葉数が有意に多いことが示され、A4M48マーカーによる選抜効果が示された(表2)。
【0050】
【表2】

【0051】
同様の結果は、供試した4つのSSRマーカーでも見られ、DNAマーカーによる多葉性個体の選抜が有効であることが示された。また、調査したマーカーを連鎖解析した結果、umc1578、bnlg1496、mmc0001は、lfy1から1cM以内に座乗し、A4M48は、7cM、umc1361は、7〜8cMの位置に座乗していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳述したように、本発明は、トウモロコシ多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するプライマーセット及びその使用に係るものであり、本発明により、トウモロコシ第3染色体上の多葉性関連遺伝子座(lfy1)に連鎖するDNAマーカーを検出可能とするプライマーセットを提供することができる。本発明により提供されるプライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座(lfy1)の有無を識別すること、それにより、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代においてトウモロコシ多葉性系統を効率的かつ確実に作出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、戻し交配第1世代(BC)でのA4M48マーカーによる遺伝子型調査の一例を示すものである。配列番号1及び2をプライマーとするPCRによって増幅された断片の電気泳動図である。図中右、“←多葉性”は多葉性親系統に由来する増幅断片を示し、“←非多葉性”は非多葉性親系統に由来する増幅断片を示す。図上部、“M”はサイズマーカーを示し、図中左にサイズマーカーの塩基数を示す。両端レーンのサイズマーカー間で、24個体の遺伝子型調査を行っている。
【図2】図2は、多葉性に関するQTL解析の結果を示すものである。図中、各マーカーのLODスコアを“▲”で示しており、本発明で多葉性の選抜に利用可能であることを確認したマーカーを△で示し、図下部にマーカー名を記した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多葉性関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ第3染色体上に座乗する多葉性関連遺伝子座(lfy1)に連鎖するDNAマーカーを検出できることを特徴とするプライマーセット。
【請求項2】
多葉性関連遺伝子座(lfy1)から10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーを検出できる、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
上記DNAマーカーが、AFLPマーカーのA4M48である、請求項2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
配列表の配列番号1〜6の順方向プライマー及び7〜12の逆方向プライマーの中から選択される一対の塩基配列から構成される、請求項1から3のいずれかに記載のプライマーセット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のプライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅断片長を調べることにより調査個体の多葉性関連遺伝子座の有無を識別する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法により、多葉性関連遺伝子座を有する個体の幼苗を選抜し、その後代において雌穂上位葉数の多い系統を作出することを特徴とするトウモロコシ多葉性系統の作出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により作出された飼料用トウモロコシであって、雌穂上位葉数を多くしたことで特徴付けられるトウモロコシ多葉性系統。


【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−212005(P2008−212005A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50677(P2007−50677)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(501025388)社団法人日本草地畜産種子協会 (11)
【Fターム(参考)】