説明

トナー用架橋ポリエステル

【課題】低温定着性、オイルレス定着での耐オフセット性及び保存性に優れたトナー用架橋ポリエステル及び該ポリエステルを含有したトナーを提供すること。
【解決手段】Sn−C結合を有していない錫(II)化合物の存在下、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるトナー用架橋ポリエステルであって、前記アルコール成分が、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール及びグリセリンを含有してなり、1,2-プロパンジオール(1,2-PD)と1,3-プロパンジオール(1,3-PD)のモル比(1,2-PD/1,3-PD)が70/30〜99/1である、トナー用架橋ポリエステル、並びに該トナー用架橋ポリエステルを含有してなるトナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用架橋ポリエステル及び該ポリエステルを含有したトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術の発展に伴い、定着性や保存性(耐ブロッキング性)に優れたトナーが要求されており、アルコール成分として1,3-プロパンジオールを必須成分としたポリエステル樹脂を含有したトナー(特許文献1参照)が報告されている。特許文献1では、構成成分として、1,3-プロパンジオールを含む脂肪族のアルコール、テレフタル酸、トリメリット酸等のカルボン酸が組み合わされている。
【0003】
しかしながら、近年のマシンの更なる高速化・省エネ化により、従来のトナー用結着樹脂では市場の要求に対して不十分であることが判明した。即ち、定着工程での定着時間の短縮化及び定着機から供給される加熱温度の低温化により、十分な定着強度を維持することが非常に困難になっている。
【0004】
一方、低温定着性を高めるために樹脂の軟化点を下げるなどすると、オフセットが発生するだけでなく、ガラス転移点の低下を必然的に伴うため、トナーが凝集してしまうなどの保存性に劣る結果となる。
【0005】
さらに、特許文献1における耐オフセット性の評価方法からも明らかなように、定着ローラーにオイルを塗布することにより、低軟化点のポリエステルであっても耐オフセット性を確保することができるが(特許文献1の[0040]参照)、装置の小型化を望む傾向がある近年の市場では、オイル塗布装置を設けるとその分装置も大きくなるため、オイル塗布による耐オフセット性の確保は、現代の動向にそぐわないものとなっている。
【特許文献1】特開2002−169331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、低温定着性、オイルレス定着での耐オフセット性及び保存性に優れたトナー用架橋ポリエステル及び該ポリエステルを含有したトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物の存在下、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるトナー用架橋ポリエステルであって、前記アルコール成分が、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール及びグリセリンを含有してなり、1,2-プロパンジオール(1,2-PD)と1,3-プロパンジオール(1,3-PD)のモル比(1,2-PD/1,3-PD)が70/30〜99/1である、トナー用架橋ポリエステル、並びに該トナー用架橋ポリエステルを含有してなるトナーに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトナーは、低温定着性及び保存性のいずれにも優れ、オイルレス定着においても良好な耐オフセット性を発揮することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のトナー用架橋ポリエステルは、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物の存在下、2価のアルコールである1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールと、3価の多価アルコールであるグリセリンとを含有したアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合させて得られるものである。なお、本発明において架橋ポリエステルとは、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、3価以上の多価アルコール及び/又は3価以上のカルボン酸化合物の含有量が、1〜40モル%、好ましくは5〜30モル%であるポリエステルをいう。
【0010】
本発明においてアルコール成分に用いられる炭素数3の1,2-プロパンジオールは、炭素数2以下のアルコールと対比して低温定着性の向上に有効であり、炭素数4以上のアルコールと対比してガラス転移点の低下に伴う保存性の低下防止に有効である。さらに、本発明においては、直鎖型の1,3-プロパンジオールに、1,2-プロパンジオールが併用されているため、ポリエステルのガラス転移点を高く保つことができる。また、直鎖型の1,3-プロパンジオールにより、分子鎖に柔軟性が付与されるため、オイルレス定着での耐オフセット性を維持したまま低温定着性を確保することができる。
【0011】
1,2-プロパンジオール(1,2-PD)と1,3-プロパンジオール(1,3-PD)のモル比(1,2-PD/1,3-PD)は、低温定着性と保存性を両立させる観点から、70/30〜99/1であり、好ましくは75/25〜95/5、より好ましくは77/23〜85/15である。
【0012】
アルコール成分には、本発明の効果が損なわれない範囲で、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール及びグリセリン以外のアルコールが含有されていてもよいが、1,2-プロパンジオールと1,3-プロパンジオールの総含有量は、2価のアルコール成分中、60〜100モル%が好ましく、70〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%がさらに好ましく、90〜100モルがさらに好ましい。1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオール以外の2価のアルコール成分としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、エチレングリコール、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2〜4)オキサイド(平均付加モル数1〜16)付加物等が挙げられる。2価のアルコール成分の含有量は、アルコール成分中、60〜95モル%が好ましく、65〜90モル%がより好ましい。
【0013】
さらに、本発明のポリエステルのアルコール成分には、架橋剤として作用する3価のアルコールであるグリセリンが含有されている。従来、3価以上の単量体として好適に用いられている無水トリメリット酸による架橋では、定着性、耐オフセット性が十分でなかったが、グリセリンは、架橋剤として作用するだけでなく低温定着性の向上にも有効である。かかる観点から、グリセリンの含有量は、アルコール成分中、1〜40モル%が好ましく、5〜35モル%がより好ましい。
【0014】
グリセリン以外の3価以上のアルコールとしては、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0015】
一方、カルボン酸成分には、炭素数2〜4の脂肪族ジカルボン酸化合物が含有されていることが好ましい。炭素数2〜4の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、及びこれらの酸の無水物等が挙げられるが、これらの中でも、コハク酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸及びこれらの酸の無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸化合物が含有されていることがより好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸化合物は、分子鎖に柔軟性を付与するため、低温定着性の向上に有効であり、本発明においては、前記脂肪族ジカルボン酸化合物のなかでも、イタコン酸が好ましい。
【0016】
前記脂肪族ジカルボン酸の含有量は、低温定着性の向上及びガラス転移点の低下抑制の観点から、カルボン酸成分中、0.5〜20モル%が好ましく、1〜15モル%がより好ましい。
【0017】
また、カルボン酸成分には、低温定着性及び帯電環境安定性の観点から、ロジンが含有されていることが好ましい。多環芳香環を有するロジンにより、従来の脂肪族系アルコール系ポリエステルが有していた吸水性が低下し、帯電の環境安定性が向上し、低温定着性をより一層向上させることができる。
【0018】
本発明において、ロジンとは、松類から得られる天然樹脂であり、その主成分は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸等の樹脂酸及びこれらの混合物である。
【0019】
ロジンは、パルプを製造する工程で副産物として得られるトール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等に大別されるが、本発明におけるロジンは、低温定着性の観点から、トールロジンが好ましい。
【0020】
また、不均化ロジンや水素化ロジンなどの変性ロジンであってもよいが、本発明においては、低温定着性及び保存性の観点から、変性をしていない、いわゆる生ロジンを使用することが好ましい。
【0021】
ロジンは、保存性の向上及び臭気の観点から、精製ロジンであることが好ましい。
【0022】
本発明における精製ロジンは、精製工程により不純物が低減されたロジンである。主な不純物としては、2-メチルプロパン、アセトアルデヒド、3-メチル-2-ブタノン、2-メチルプロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、n-ヘキサナール、オクタン、ヘキサン酸、ベンズアルデヒド、2-ペンチルフラン、2,6-ジメチルシクロヘキサノン、1-メチル-2-(1-メチルエチル)ベンゼン、3,5-ジメチル2-シクロヘキセン、4-(1-メチルエチル)ベンズアルデヒド等が挙げられる。本発明においては、これらのうち、2-メチルプロパン、ペンタン酸及びベンズアルデヒドの3種類の不純物の、ヘッドスペースGC-MS法により揮発成分として検出されるピーク強度を精製ロジンの指標として用いることができる。なお、不純物の絶対量ではなく揮発成分を指標とするのは、本発明における精製ロジンの使用が、ロジンを使用した従来のポリエステルに対して、臭気を改良の課題の1つとしていることによる。
【0023】
即ち、本発明における精製ロジンとは、後述のヘッドスペースGC−MS法の測定条件において、ヘキサン酸のピーク強度が0.8×107以下であり、ペンタン酸のピーク強度が0.4×107以下であり、ベンズアルデヒドのピーク強度が0.4×107以下であるロジンをいう。さらに、保存性及び臭気の観点から、ヘキサン酸のピーク強度は、0.6×107以下が好ましく、0.5×107以下がより好ましい。ペンタン酸のピーク強度は、0.3×107以下が好ましく、0.2×107以下がより好ましい。ベンズアルデヒドのピーク強度は、0.3×107以下が好ましく、0.2×107以下がより好ましい。
【0024】
さらに、保存性及び臭気の観点から、上記3種の物質に加え、n-ヘキサナルと2-ペンチルフランが低減されていることが好ましい。n-ヘキサナルのピーク強度は、1.7×107以下が好ましく、1.6×107以下がより好ましく、1.5×107以下がさらに好ましい。また、2-ペンチルフランのピーク強度は1.0×107以下が好ましく、0.9×107以下がより好ましく、0.8×107以下がさらに好ましい。
【0025】
ロジンの精製方法としては、公知の方法が利用可能であり、蒸留、再結晶、抽出等による方法が挙げられ、蒸留によって、精製するのが好ましい。蒸留の方法としては、例えば特開平7−286139号公報に記載されている方法が利用でき、減圧蒸留、分子蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられるが、減圧蒸留によって精製するのが好ましい。例えば、蒸留は通常6.67kPa以下の圧力で200〜300℃のスチル温度で実施され、通常の単蒸留をはじめ、薄膜蒸留、精留等の方法が適用され、通常の蒸留条件下では仕込みロジンに対し2〜10重量%の高分子量物がピッチ分として除去すると同時に2〜10重量%の初留分を同時に除去する。
【0026】
精製ロジンの軟化点は、50〜100℃が好ましく、60〜90℃が好ましく、65〜85℃がさらに好ましい。また、精製することにより、ロジンに含まれる不純物が除去される。本発明における精製ロジンの軟化点とは、後述記載の方法により、ロジンを一度溶融させ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させた際に測定される軟化点を意味する。
【0027】
さらに、精製ロジンの酸価は、100〜200mgKOH/gが好ましく、130〜180mgKOH/gがより好ましく、150〜170mgKOH/gがさらに好ましい。
【0028】
精製ロジンの含有量は、カルボン酸成分中、2〜50モル%が好ましく、5〜40モル%がより好ましく、10〜30モル%がさらに好ましい。
【0029】
さらに、カルボン酸成分には、本発明の効果が損なわれない範囲で、前記脂肪族カルボン酸化合物及びロジン以外のカルボン酸化合物が含まれていてもよく、保存安定性の確保(即ち、ガラス転移点の確保)の観点から、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が含有されていることが好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量は、カルボン酸成分中、40〜95モル%が好ましく、50〜95モル%がより好ましく、60〜80モル%がさらに好ましい。
【0030】
また、3価以上の多価カルボン酸化合物としては、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステルが挙げられ、これらの中ではトリメリット酸及びその誘導体(無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステル)が好ましい。
【0031】
本発明のポリエステルは、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物の存在下、縮重合させて得られる。本発明のポリエステルは、かかる錫(II)化合物が触媒として使用されているため、ガラス転移点が高く、良好な保存性を有する。これは、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物は、ポリエステルの縮重合反応時に触媒として用いると、分子間との金属配位が生じるため、得られるポリエステルのガラス転移点が上昇するためと推定される。
【0032】
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0033】
Sn−O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、ジ酢酸錫(II)、ジオクタン酸錫(II)、ジラウリル酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)、ジオレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);ジオクチロキシ錫(II)、ジラウロキシ錫(II)、ジステアロキシ錫(II)、ジオレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するジアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(RCOO)Sn(ここでRは炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(RO)Sn(ここでRは炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるジアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(RCOO)Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、ジオクタン酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0034】
錫(II)化合物の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましく、0.1〜0.5重量部がより好ましい。
【0035】
なお、触媒としては、本発明の効果を阻害しない程度のチタン化合物を併用しても良い。併用する場合、チタン化合物の添加量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜0.1重量部が好ましく、0.01〜0.05重量部がより好ましい。
【0036】
ポリエステルの軟化点は、定着性、保存性及び耐久性の観点から、90〜165℃が好ましく、120〜165℃がより好ましく、130〜155℃がさらに好ましく、140〜155℃がさらに好ましい。軟化点は、例えば、重合時間等により容易に調整することができる。
【0037】
また、ポリエステルのガラス転移点は、定着性、保存性及び耐久性の観点から、50〜70℃が好ましく、55〜65℃がより好ましい。酸価は、帯電性と環境安定性の観点から、1〜50mgKOH/gが好ましく、20〜40mgKOH/gがより好ましい。
【0038】
なお、本発明のポリエステルは、変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとは、フェノール、ウレタン等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0039】
本発明のポリエステルをトナー用結着樹脂として用いることにより、低温定着性及び保存性に優れ、オイルレス定着においても良好な耐オフセット性を有するトナーを得ることができる。本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン−アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、本発明のポリエステルの含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい
【0040】
本発明により得られるポリエステルをトナー用結着樹脂として用いることにより、低温定着性及び保存性のいずれにも優れたトナーを得ることができる。
【0041】
本発明のトナーは、離型剤を含有していることが好ましい。離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプッシュ等の合成ワックス、モンタンワックス等の石炭系ワックス、パラフィンワックス等の石油ワックス、アルコール系ワックス等のワックス、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックスなどの天然エステル系ワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜10重量部が好ましく、2〜5重量部がより好ましい。
【0043】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0044】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0045】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することが出来る。トナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0046】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、またはキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0047】
本発明のトナーは、定着性に優れるため、オフセットの発生が問題となるヒートロール方式においても好適に使用することができ、カラー用トナーにおいても、オイルレス定着において良好な耐オフセット性を発揮する。オイルレス定着とは、オイル供給装置を備えていないヒートロール定着装置を有する定着器を用いる方法である。オイル供給装置とは、オイルタンクを有し、定量的にオイルをヒートロール表面に塗布する機構を有する装置の他、オイルを予め含浸させたロールをヒートロールに接触させるような機構を有する装置等を含む。
【実施例】
【0048】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0049】
〔ロジンの軟化点〕
(1) 試料の調製
ロジン10gを、170℃で2時間ホットプレートで溶融する。その後、開封状態で温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させ、コーヒーミル(National MK-61M)で10秒間粉砕する。
(2) 測定
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0050】
〔樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0051】
〔樹脂及びロジンの酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比)に変更した。
【0052】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:100μm
測定粒径範囲:2〜60μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0053】
ロジンの精製例
分留管、還流冷却器及び受器を装備した2000ml容の蒸留フラスコに1000gのトールロジンを加え、13.3kPaの減圧下で蒸留を行い、195〜250℃での留出分を主留分として採取して精製ロジンを得て、後述の実施例に用いた。
【0054】
精製ロジン20gをコーヒーミル(National MK-61M)で5秒間粉砕し、目開き1mmの篩いを通したものをヘッドスペース用バイアル(20ml)に0.5g測りとった。ヘッドスペースガスをサンプリングして、精製ロジン中の不純物を、ヘッドスペースGC−MS法により分析した結果を表1に示す。
【0055】
〔ヘッドスペースGC−MS法の測定条件〕
A. ヘッドスペースサンプラー(Agilent社製、HP7694)
サンプル温度: 200℃
ループ温度: 200℃
トランスファーライン温度: 200℃
サンプル加熱平衡時間: 30min
バイヤル加圧ガス: ヘリウム(He)
バイヤル加圧時間: 0.3min
ループ充填時間: 0.03min
ループ平衡時間: 0.3min
注入時間: 1min
【0056】
B. GC(ガスクロマトグラフィー)(Agilent社製、HP6890)
分析カラム: DB-1(60m-320μm-5μm)
キャリアー: ヘリウム(He)
流量条件: 1ml/min
注入口温度: 210℃
カラムヘッド圧: 34.2kPa
注入モード: split
スプリット比: 10:1
オーブン温度条件: 45℃(3min)-10℃/min-280℃(15min)
【0057】
C. MS(質量分析法)(Agilent社製、HP5973)
イオン化法: EI(電子衝撃)法
インターフェイス温度: 280℃
イオン源温度: 230℃
四重極温度: 150℃
検出モード: Scan 29-350m/s
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1
表2に示すアルコール成分、テレフタル酸及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、精留塔、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で10時間縮重合反応させた後、230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。180℃まで冷却した後、イタコン酸を投入し、220℃に昇温しながら、4時間常圧で反応させた後に、精製ロジンを投入し、10時間常圧で反応させた後に、無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧で反応させた後に、220℃、20kPaにて所望の軟化点まで反応を行ってポリエステルを得た。
【0060】
実施例2
表2に示すアルコール成分、テレフタル酸及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、精留塔、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で10時間縮重合反応させた後、230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。後に、イタコン酸を投入し、210℃まで2時間かけて昇温しながら、常圧で反応させた後、無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧で反応させた後に、220℃、20kPaにて所望の軟化点まで反応を行ってポリエステルを得た。
【0061】
実施例3、比較例2及び比較例3
表2に示すアルコール成分、テレフタル酸及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、精留塔、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で10時間縮重合反応させた後、230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。220℃まで冷却させた後に、無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧で反応させた後に、220℃、20kPaにて所望の軟化点まで反応を行ってポリエステルを得た。
【0062】
比較例1
表2に示すアルコール成分、テレフタル酸及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で10時間縮重合反応させた後、230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。180℃まで冷却した後、イタコン酸を投入し、210℃まで5時間かけて昇温を行い、210℃、10kPaにて所望の軟化点まで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0063】
トナーの製造例
実施例及び比較例のそれぞれにおいて得られたポリエステル100重量部、カーボンブラック「MOGUL L」(キャボット社製)4重量部、負帯電性電荷制御剤「ボントロン S-34」(オリエント化学工業社製)1重量部及びポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製)1重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度を200r/min、ロール内の加熱温度を80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8.0μmの粉体を得た。
【0064】
得られた粉体100重量部に、外添剤として「アエロジル R-972」(日本アエロジル社製)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合して、トナーを得た。
【0065】
試験例1〔低温定着性及び耐オフセット性〕
プリンター「ページプレスト N−4」(カシオ計算機社製、定着:接触定着方式、現像方式:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、トナー付着量を0.6mg/cm2に調整して未定着画像を得た。得られた未定着画像を接触定着方式の複写機「AR-505」(シャープ社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した定着機(定着速度:200mm/s、ニップ幅:4mm、荷重:7kg/370mm、シリコンオイルは未塗布)を用いて、定着ロールの温度を100℃から240℃へと5℃ずつ上昇させながら未定着画像を定着させ、定着試験を行った。
【0066】
各定着温度で得られた画像を、「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社製、幅18mm、JISZ-1522)を貼りつけ、30℃に設定した上記定着機の定着ロールを通過させた後、テープを剥し、テープ剥離前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定した。両者の比率(剥離後/剥離前)が最初に90%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って、低温定着性を評価した。また、ホットオフセット発生温度も同時に確認し、以下の評価基準に従って耐オフセット性を評価した。結果を表2に示す。
【0067】
〔低温定着性の評価基準〕
◎:最低定着温度が150℃未満
○:最低定着温度が150℃以上、170℃未満
△:最低定着温度が170℃以上、180℃未満
×:最低定着温度が180℃以上
【0068】
〔耐オフセット性の評価基準〕
◎:ホットオフセット発生温度が240℃以上
○:ホットオフセット発生温度が230℃以上、240℃未満
△:ホットオフセット発生温度が190℃以上、230℃未満
×:ホットオフセット発生温度が180℃未満
【0069】
試験例2〔保存性〕
トナー4gを温度50℃、相対湿度60%環境下で、72時間放置し、トナー凝集の発生の有無を目視により観察し、以下の評価基準に従って保存性を評価した。結果を表2に示す。
【0070】
〔評価基準〕
◎:トナーの凝集は全く認められない。
○:トナーの凝集の粒が1〜2個観測される。
△:トナーの凝集の粒が3〜5個観測される。
×:トナーの凝集の粒が6個以上観測される。
【0071】
試験例3〔帯電安定性〕
得られたトナー40gを、樹脂コートされたフェライトキャリア960gと混合して、現像剤を調製し、それぞれの現像剤を高温高湿下(温度35℃・相対湿度85%)で1日放置した。放置前後の摩擦帯電量をブローオフ法により測定し、以下の評価基準に従って、帯電安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0072】
〔評価基準〕
放置前後での帯電量変化(放置前後の帯電量差/放置前の帯電量×100)が
◎:10%以内であり、極めて良好である。
○:10%より大きく、20%以内の範囲であり、良好である。
△:20%より大きく、30%以内の範囲であり、実施上使用可能である。
×:30%より大きく、不良である。
【0073】
【表2】

【0074】
以上の結果より、1,2-プロパンジオールと1,3-プロパンジオールを特定の割合で配合し、グリセリンを使用した実施例1〜3の架橋ポリエステルを含有したトナーは、比較例のポリエステルを含有したトナーと対比して、定着性と保存性の両立がより高いレベルで達成されており、保存性に優れていることが分かる。特に、精製ロジンを含有した実施例1では帯電安定性においても極めて優れた結果が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のトナー用架橋ポリエステルは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂等として用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物の存在下、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるトナー用架橋ポリエステルであって、前記アルコール成分が、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール及びグリセリンを含有してなり、1,2-プロパンジオール(1,2-PD)と1,3-プロパンジオール(1,3-PD)のモル比(1,2-PD/1,3-PD)が70/30〜99/1である、トナー用架橋ポリエステル。
【請求項2】
軟化点が120〜165℃である請求項1記載のトナー用架橋ポリエステル。
【請求項3】
カルボン酸成分が、炭素数2〜4の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するものである請求項1又は2記載のトナー用架橋ポリエステル。
【請求項4】
カルボン酸成分が、精製ロジンを含有してなる請求項1〜3いずれか記載のトナー用架橋ポリエステル。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のトナー用架橋ポリエステルを含有してなるトナー。

【公開番号】特開2007−156347(P2007−156347A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355197(P2005−355197)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】