説明

トナー用結着樹脂の製造方法およびトナー用結着樹脂並びに静電荷像現像用トナーの製造方法および静電荷像現像用トナー

【課題】 非オフセット性に優れたトナーを製造できるトナー用結着樹脂の製造方法およびトナー用結着樹脂並びに非オフセット性に優れた静電荷像現像用トナーの製造方法および静電荷像現像用トナーを提供する。
【解決手段】 下記の工程を有することを特徴とするトナー用結着樹脂の製造方法。工程(I):低分子量成分(A)を調製する工程、工程(II):高分子量ビニル系共重合体(b1)を構成する単量体を、ワックス(b2)存在下で重合し、高分子量成分(B)を調製する工程、工程(III):低分子量成分(A)と高分子量成分(B)を含む混合液を調製する工程、工程(IV):前記混合液から溶媒を除去する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用結着樹脂の製造方法およびトナー用結着樹脂並びに静電荷像現像用トナーの製造方法および静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法において静電荷像現像用トナーは、一般に着色剤、結着樹脂、荷電制御剤などを主成分とする粒子状のものであって、プリンタ、ファクシミリ、複写機などに使用されている。
また、トナーを紙などのシート上に定着させる方法としては定着ロールを使用した定着ロール法が広く普及している。
このようなトナーには、まず、確実にシート上に定着すること(定着性)が求められる。
また、定着ロールの温度によっては、定着ロールの表面にトナーが付着し残留してしまうというオフセットが生じることがあるが、このような現象ができるだけ広い温度範囲で発生しないこと(非オフセット性)が求められる。
そこで、定着性、非オフセット性に優れたトナーを製造できる技術が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
しかしながら、この特許文献に開示された技術でも、十分な非オフセット性は達成できていない。
【0003】
【特許文献1】特開2007−047636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とする処は、非オフセット性に優れたトナーを製造できるトナー用結着樹脂の製造方法およびトナー用結着樹脂並びに非オフセット性に優れた静電荷像現像用トナーの製造方法および静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の技術的構成により、上記課題を解決できたものである。
【0006】
(1)下記の工程を有することを特徴とするトナー用結着樹脂の製造方法。工程(I):低分子量成分(A)を調製する工程、工程(II):高分子量ビニル系共重合体(b1)を構成する単量体を、ワックス(b2)存在下で重合し、高分子量成分(B)を調製する工程、工程(III):低分子量成分(A)と高分子量成分(B)を含む混合液を調製する工程、工程(IV):前記混合液から溶媒を除去する工程
(2)前記工程(I)は、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)存在下で重合する工程であることを特徴とする前記(1)記載のトナー用結着樹脂の製造方法。
(3)前記ワックス(b2)は、DSCによる変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜120℃であり、かつ、高分子量成分(B)中の含有量が2〜10質量%であることを特徴とする前記(1)記載のトナー用結着樹脂の製造方法。
(4)前記(1)ないし(3)のいずれか記載のトナー用結着樹脂の製造方法により製造されたことを特徴とするトナー用結着樹脂。
(5)下記の工程を有することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。工程(I):低分子量成分(A)を調製する工程、工程(II):高分子量ビニル系共重合体(b1)を構成する単量体を、ワックス(b2)存在下で重合し、高分子量成分(B)を調製する工程、工程(III):低分子量成分(A)と高分子量成分(B)を含む混合液を調製する工程、工程(IV):前記混合液から溶媒を除去し、トナー用結着樹脂を得る工程、工程(V):前記トナー用結着樹脂に荷電制御剤、着色剤を加えてトナー化する工程
(6)前記(5)記載の静電荷像現像用トナーの製造方法により製造されたことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非オフセット性に優れたトナーを製造できるトナー用結着樹脂の製造方法およびトナー用結着樹脂並びに非オフセット性に優れた静電荷像現像用トナーの製造方法および静電荷像現像用トナーを提供できる。
また、本発明によれば、光沢に優れたトナーを製造できるトナー用結着樹脂の製造方法およびトナー用結着樹脂並びに光沢に優れた静電荷像現像用トナーの製造方法および静電荷像現像用トナーを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のトナー用結着樹脂は低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とを含む。
【0009】
[低分子量成分(A)]
低分子量成分(A)は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有する低分子量ビニル系共重合体(a1)を主成分として含有する。
【0010】
アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどが挙げられるが、これらのうちではアクリル酸−2−エチルヘキシルとアクリル酸ブチルとメタクリル酸ラウリルが好ましい。
【0011】
低分子量ビニル系共重合体(a1)は、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有するものであればよいが、このような構成単位とともに、スチレン系単量体からなる構成単位を有するものが好ましい。
【0012】
また、その際、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体との比率は、スチレン系単量体が85〜98質量%で、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が15〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0013】
また、低分子量ビニル系共重合体(a1)としては、GPC(ゲルパーミエションクロマトグラフィ)により測定される質量平均分子量の極大値が15000以下にあるものを使用する。
【0014】
低分子量成分(A)には、必要に応じて、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)が含まれてもよい。
【0015】
水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)を使用することにより低分子量成分(A)と後述の高分子量ビニル系共重合体(b1)との相溶性が高まり、その結果、トナー用結着樹脂の混練時にワックス(b2)が均一に分散され、トナーの帯電性、流動性が良好となる。
【0016】
また、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)は水素添加処理されたものである。
したがって、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)存在下で単量体を重合して低分子量成分(A)を製造した場合でも、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)は他の成分と反応せず、相溶化剤として安定に作用する。
【0017】
ただし、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)の添加が過剰になると、トナーの定着率、非オフセット性などに悪影響を及ぼす可能性があるため、その添加量は低分子量成分(A)の5質量%未満が好ましい。
【0018】
水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)としては、構成単位としてスチレンを有し、スチレン含有量が20〜40質量%で、質量平均分子量が3×10〜10×10のものが好適である。
【0019】
このようなものを選択することにより、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)の添加効果がより高まる。
【0020】
このような市販品としては、スチレンの他に、エチレンおよびブチレンからなる構成単位を含有するクレイトンポリマージャパン社製 クレイトンG1726(水素添加率100%)が例示できる。
【0021】
ここで水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)として、質量平均分子量が10×10を超えるものを使用すると、特に、トナー用結着樹脂の混練時においてワックス(b2)が分離しやすくなったり、得られるトナーの定着性や非オフセット性が低下したりする傾向がある。
【0022】
また、スチレン含有量が20質量%未満のものでは、低分子量ビニル系共重合体(a1)との相溶性が低下する傾向があり、40質量%を超えるものでは、トナー用結着樹脂の混練時においてワックス(b2)が分離しやすくなったり、得られるトナーの定着性や非オフセット性が低下したりする傾向がある。
【0023】
低分子量成分(A)の製造方法としては、上述の低分子量ビニル系共重合体(a1)と、必要に応じて使用される水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)とをそれぞれ製造して、これらを混合する方法でもよいが、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)の存在下で重合し、低分子量成分(A)を含む液を調製する方法が好ましい。
【0024】
重合は、各種重合法で行えるが、特に、水相での懸濁重合法により行うことが好ましい。
【0025】
例えば、イオン交換水にノニオン系分散剤を加えた後、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体に、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーベンゾエートなどの重合開始剤を溶解させたものを加えて40℃で10分間撹拌混合し、分散液を調製する。
【0026】
必要に応じて水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)を使用する場合には、イオン交換水にノニオン系分散剤を加えた水相に、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体と、前記重合開始剤と、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)とを混合溶解させたものを加えて40℃で10分間撹拌混合し、分散液を調製する。
【0027】
また、その後、必要に応じて、アルカリ水溶液を添加するなどして、pHを調整してもよい。
【0028】
懸濁重合に使用されるノニオン系分散剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、エチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド(PEO)などが挙げられ、これらのなかでも、特にケン化度が80〜90%、重合度が1500〜3000のPVAや、質量平均分子量が10万〜100万のPEOの使用が好ましい。
【0029】
なお、このようなノニオン系分散剤を使用すると、アニオン系またはカチオン系分散剤を使用した場合に比べて、高い分散性を安定に付与することができる。
【0030】
また、ここで使用するノニオン系分散剤の量は、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体100質量部に対して、0.05〜1質量部程度である。
【0031】
[高分子量成分(B)]
高分子量成分(B)は、ビニル系単量体から構成され、質量平均分子量の極大値が3×10〜5×10の範囲にある高分子量ビニル系共重合体(b1)およびワックス(b2)を含有する。
【0032】
(高分子量ビニル系共重合体(b1))
高分子量ビニル系共重合体(b1)を構成するビニル単量体としては特に制限はなく、例えば、スチレン(St)、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどのスチレン系単量体、ビニルナフタレン類、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのエチレン系不飽和モノオレフィン類、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル(BA)、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル(2EHA)、アクリル酸クロルエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリルなどのエチレン性モノカルボン酸およびそのエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタアクリロアミドなどのエチレン性モノカルボン酸誘導体、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのエチレン性ジカルボン酸およびその誘導体、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトンなどのビニルケトン類、ビニリデンクロリド、ビニリデンクロルフルオリドなどのビニリデンハロゲン化物、n−ビニルピロール、n−ビニルカルバゾール、n−ビニルインドール、n−ビニルピロリドンなどのn−ビニル化合物類などが挙げられ、これらビニル系単量体の2種以上を使用できる。
【0033】
これらのなかでは、スチレンとアクリル酸−n−ブチルとを併用することが好ましい。
また、この際のスチレンとアクリル酸−n−ブチルの好ましい比率は、スチレンとアクリル酸−n−ブチルとの合計中、スチレンが50〜80質量%の範囲である。
【0034】
(ワックス(b2))
高分子量成分(B)に含まれるワックス(b2)としては、天然ガスを原料としてフィッシャートロプシュ法により製造された天然ガス系フィッシャートロプシュワックスや、石炭を原料としてフィッシャートロプシュ法により製造された石炭系フィッシャートロプシュワックス、オレフィンワックスなどのうち、示差走査熱量分析計(DSC)による変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜120℃のものが好ましい。
【0035】
このようなものとしては、例えば、日本精蝋社製 HNP−51などが挙げられる。
また、変曲開始温度とピーク温度とが上記範囲内となるように、再結晶化処理などの前処理が施されたフィッシャートロプシュワックスを使用することもできる。
【0036】
例えば、変曲開始温度が45℃、ピーク温度が78℃であるサゾール公社製のC−77をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒に投入し、溶解させた後に析出させる方法で再結晶化すると、変曲開始温度が上昇して52℃となる。
本発明においては、このようなものもワックス(b2)として好適に使用することができる。
【0037】
なお、変曲開始温度およびピーク温度を測定する際には、まず、試料(ワックス(b2))を室温から150℃まで20℃/minで昇温し、150℃で5分間保持し、その後、150℃から0℃まで10℃/minで降温し、0℃で5分間保持するという予備処理を行い、試料に加わっている熱履歴をキャンセルする。
【0038】
そして、このように予備処理された試料を0℃から150℃まで10℃/minで再昇温し、その際の変曲開始温度とピーク温度とを測定する。
なお、変曲開始温度とは吸熱が始まる温度をいう。
【0039】
ここで変曲開始温度が50℃未満である場合や、ピーク温度が65℃未満の場合には、得られるトナーの流動性が低下したり凝集したりして、その保存性が悪くなる。
また、トナー用結着樹脂の混練時においてワックスが分離しやすくなる場合や、得られるトナーの定着性が低下する場合もある。
ピーク温度が120℃を超える場合にも、トナー用結着樹脂の混練時におけるワックスの分離や、得られるトナーの定着性や保存性の低下が認められる傾向にある。
【0040】
また、高分子量成分(B)中のワックス(b2)の量は2〜10質量%であることが好ましい。
ワックス(b2)の量が2質量%未満であると、トナーの定着性が不十分となり、非オフセット性も低下する。
一方10質量%を超えると、トナー用結着樹脂の混練時においてワックス(b2)が分離しやすくなる。
【0041】
高分子量成分(B)の製造方法としては、特に制限はないが、水相での乳化重合法により行う方法が好適である。
例えば、イオン交換水にアニオン系界面活性剤と重合開始剤とビニル系単量体とを加え、さらにワックス(b2)を加えて撹拌しながら60〜90℃で1〜8時間程度保持すればよい。
このような方法で高分子量成分(B)を製造する。
【0042】
乳化重合に使用するアニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられ、高分子量ビニル系共重合体(B)を構成するビニル系単量体100質量部に対して通常1〜10質量部程度使用する。重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などが適量使用できる。
【0043】
[トナー用結着樹脂とその製造方法]
本発明のトナー用結着樹脂は低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とを含有し、低分子量成分(A)は75〜90質量%が好ましく、高分子量成分(B)は25〜10質量%が好ましい。
ここで低分子量成分(A)が75質量%未満の場合や高分子量成分(B)が25質量%を超える場合には、トナーの定着性が低下する。
一方、低分子量成分(A)が90質量%を超える場合や高分子量成分(B)が10質量%未満の場合には、非オフセット性が低下する。
【0044】
本発明のトナー用結着樹脂は次のようにして製造できる。
まず、好ましくは水相での懸濁重合法により、低分子量成分(A)を含む液を調整する(工程(I))。
そして、好ましくは水相での乳化重合法により、高分子量成分(B)を含む液を調製する(工程(II))。
ついで、低分子量成分(A)を含む液と、高分子量成分(B)を含む液とを混合し、室温〜50℃で0.5〜2時間程度撹拌混合し、引き続き、凝固処理、加熱処理を順次行うことにより、低分子量成分(A)と高分子量成分(B)の混合液を得る(工程(III))。
この混合液中では、低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とは均一に混合固着されている。
そして、この混合液から、ろ過、洗浄、脱水、乾燥などの方法により溶媒を除去する工程(工程(IV))を行うことにより、トナー用結着樹脂が得られる。
【0045】
工程(III)での凝固処理は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硝酸カルシウムなど電界質の水溶液からなる塩析剤を使用した通常の方法で行えばよいが、好ましくは、高分子量ビニル系共重合体(b1)のガラス転移温度以下の温度条件下で行う。
このような温度条件下で行うと、高分子量成分(B)からなる細かい均一な粒子が生成し、これが低分子量成分(A)からなる粒子の表面に吸着する。
【0046】
また、加熱処理は、高分子量ビニル系共重合体(b1)のガラス転移温度以上の温度条件下で行うことが好ましい。
このような温度条件下で行うと、低分子量成分(A)と高分子量成分(B)が互いに強固かつ均一に混合固着する。
【0047】
以上説明した製造方法においては、高分子量成分(B)の製造にあたって、ワックス(b2)の存在下でビニル系単量体を重合しているので、分子量が小さく、単に混合するだけでは他の樹脂分とは均一に相溶しにくいワックス(b2)を、高分子量成分(B)中に容易に均一に分散させ、さらに工程(III)では高分子量ビニル系共重合体(b1)がワックス(b2)を介して低分子量成分(A)中に均一に分散し、ワックスの分離を抑制することができる。
【0048】
こうして製造されたトナー用結着樹脂は、荷電制御剤、着色剤、必要に応じて添加される各種添加剤などとともに、ボールミルなどの混合器で充分混合され、熱ロールニーダー、エクストルーダーなどの熱混練機を用いて混練され、冷却固化後、機械的な粉砕、分級によって、トナー化される方法;結着樹脂溶液中に、荷電制御剤、着色剤、必要に応じて添加される各種添加剤などを分散した後、噴霧乾燥することによりトナー化される方法;着色剤とともに粒子とされ、その粒子表面に負荷電制御剤が固着させ、トナー化される方法などでトナーとされる(工程(V))。
【0049】
荷電制御剤や着色剤としては特に制限はなく、公知のものを適宜使用できる。
また、添加剤としては、ステアリン酸亜鉛などの滑剤、酸化セリウム、炭化ケイ素などの研磨剤、酸化アルミニウムなどの流動性付与剤、ケーキング防止剤、カーボンブラック、酸化スズなどの導電性付与剤などが挙げられる。
さらに、トナーには必要に応じて適宜磁性材料が添加され、磁性トナーとされてもよい。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、原材料の配合量は質量部である。
【0051】
[実施例1]
(1)工程(I):低分子量成分(A)の調製(懸濁重合法)
イオン交換水200部にノニオン系分散剤0.2部を加えたものに対して、スチレン82.3部、メタクリル酸ラウリル6.2部、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製クレイトンG1726(水素添加率100%))1.8部、重合開始剤として過酸化ベンゾイル13部とt−ブチルパーベンゾエート1部を混合溶解した溶液を加えて、130℃、3時間の条件で懸濁重合を行い冷却した。なお、この液を冷却する際に、25%水酸化ナトリウム水溶液を3部加えて液のpHを5.5以上とし、重合開始剤残渣である安息香酸を中和した。
このようにして低分子量成分(A)を含む液(懸濁液)を調製した。
得られた低分子量成分(A)をテトラヒドロフラン溶液とし、その質量平均分子量をGPCにより測定した。質量平均分子量の極大値は4000であった。なお、GPCは、検出器として昭和電工(株)製 Shodex RI−71、カラムとして昭和電工(株)製 Shodex A−806Mを備えたものを使用した。
【0052】
(2)工程(II):高分子量成分(B)の調製(乳化重合法)
イオン交換水150部、アニオン系界面活性剤6部、重合開始剤(過硫酸カリウム)0.02部の存在下で、スチレン70部と、アクリル酸ブチル30部を加えて分散液とし、そこに天然ガス系フィッシャートロプシュワックス(日本精蝋社製 商品名:「HNP−51」 DSCによる変曲開始温度72℃ ピーク温度78℃)4部を加えて80℃、5時間の条件で乳化重合し、高分子量成分(B)を含む液(エマルション)を製造した。
得られたフィッシャートロプシュワックスを含む高分子量成分(B)をテトラヒドロフラン溶液とし、その質量平均分子量をGPCにより測定した。質量平均分子量の極大値は200万であった。
また、示差走査熱量分析計測定によるガラス転移温度は50℃であった。
【0053】
(3)工程(III):混合液の調製
上記工程(I)および工程(II)で製造された低分子量成分(A)を含む懸濁液と高分子量成分(B)を含むエマルションとを、これらの固形分(樹脂分)比が86.9/13.1となるように混合撹拌し、40℃に調整した。ついで、塩析剤として、10%硝酸カルシウム水溶液10部をゆっくりと滴下し、滴下後1時間放置することで凝固処理を行った。その後引き続き、70℃で1時間保持して加熱処理を行い、低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とを均一に混合固着させ、低分子量成分(A)と高分子量成分(B)との混合液を調製した。
【0054】
(4)工程(IV):混合液からの溶媒の除去
上記工程(III)で得られた混合液を30℃以下まで冷却し、遠心脱水機で脱水し、50℃、24時間の条件で乾燥させて、スチレンアクリル酸系共重合体であるトナー用結着樹脂Xを得た。
【0055】
(5)工程(V):トナーの作製方法
まず、下記の原材料をスーパーミキサーで10分間混合した。
・トナー用結着樹脂X 89.0部
・マゼンタ顔料粉末 5.0部
(大日精化工業社製、商品名:「レッド No.8」)
・帯電制御剤 1.0部
(日本カーリット社製、商品名:「LR−147」)
その後、前記原材料混合物を2軸混練機に投入し、熱溶融混練により押出し、厚さ約1.5mmのシート状の混練組成物を得た。得られた混練組成物を粗粉砕した後、ジェットミルで粉砕し、乾式気流分級機で分級し、体積平均粒子径(Dv)が7.0μm、個数平均粒子径(Dn)が5.3μmのトナー粒子を得た。
【0056】
次に、前記トナー粒子100部に対して下記外添剤を加え、デフレクターを有するヘンシェルミキサーで外添混合を行い、実施例1のトナー(非磁性トナー)を得た。
・シリカ 0.2部
(平均一次粒子径17.5μm、比表面積140m/g、処理剤シリコーンオイル)
・酸化チタン 0.5部
(一次粒子径10nm、BET比表面積65±10、処理剤オクチルシラン)
【0057】
[実施例2]
工程(II)で、フィッシャートロプシュワックスに代えてオレフィンワックス(日本精蝋社製 商品名:「HNP−9PD」 DSCによる変曲開始温度71℃ ピーク温度76℃)を添加した。
それ以外は実施例1と同様にして、実施例2のトナーを得た。
【0058】
[実施例3]
工程(II)で添加するフィッシャートロプシュワックスを8部にした。
それ以外は実施例1と同様にして、実施例3のトナーを得た。
【0059】
[実施例4]
工程(I)で添加するメタクリル酸ラウリルをアクリル酸ブチルに代えた。
それ以外は実施例1と同様にして、実施例4のトナーを得た。
【0060】
[比較例1]
工程(I)で、イオン交換水200部にノニオン系分散剤0.2部を加えたものに対して、スチレン82.3部、メタクリル酸ラウリル6.2部、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製クレイトンG1726(水素添加率100%))1.8部、重合開始剤として過酸化ベンゾイル13部とt−ブチルパーベンゾエート1部を混合溶解した分散液に、フィッシャートロプシュワックス(日本精蝋社製 商品名:「HNP−51」)4部を加えて、130℃、3時間の条件で懸濁重合を行った。
そして、工程(II)ではワックスを添加せず、乳化重合を行った。
それ以外は実施例1と同様にして、比較例1のトナーを得た。
【0061】
[比較例2]
工程(I)で添加するフィッシャートロプシュワックスを8部にした。
それ以外は比較例1と同様にして、比較例2のトナーを得た。
【0062】
実施例および比較例の主な条件を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例および比較例のトナーについて、以下の評価をした。
【0065】
<非オフセット温度領域>
トナー8重量部と、ノンコートフェライトキャリア(PH−6、パウダーテック(株)製)92重量部とを混合して、二成分系現像剤を作製した。
次に、この現像剤を使用して市販の複写機により、A4(タテ目)の転写紙(日本製紙社製PPC用紙64g/m)に縦3cm、横6cmの帯状の未定着画像を作製した。
転写紙上のトナー付着量は、トナー濃度、感光体の表面電位、現像電位、露光量、転写条件等により、およそ2.0mg/cm(トナー3色、トナー厚さ約20μmに相当)に調整した。
ついで、表層がポリ4フッ化エチレンで形成された熱定着ローラと、表層がシリコーンゴムで形成された圧力定着ローラとが、対になって回転するオイルレス方式定着機を、ローラ圧力が1Kgf/cm、ローラスピードが125mm/secになるように調節した。
そして、熱定着ローラの表面温度を120〜210℃の間で5℃の間隔で段階的に上昇させて、各表面温度において上記未定着画像を有した転写紙のトナー像の定着をおこなった。
定着後、余白部分にトナー汚れが生じるか否かの観察を行い、汚れが生じない温度領域を非オフセット温度領域とした。
非オフセット温度領域が140〜190℃より広ければ非オフセット性は実用上問題なく、135〜190℃より広ければ実用上優れている。
【0066】
<画像光沢度>
上記未定着画像を、上記熱定着ローラの表面温度180℃で定着させ、日本電色工業社製GLOSS METER(VGS−SENSER)で60°鏡面光沢度を3回測定し、平均値を求めた。
画像光沢度は9以上であれば実用上優れている。
【0067】
結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
<評価結果>
表2から明らかなように、実施例1〜4は、非オフセット温度領域、画像光沢度ともに実用上優れている。
特に、実施例3および実施例4は非オフセット温度領域が顕著に優れている。
これに対し、比較例1および2は、非オフセット温度領域、画像光沢度ともに実用上問題がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を有することを特徴とするトナー用結着樹脂の製造方法。
工程(I):低分子量成分(A)を調製する工程
工程(II):高分子量ビニル系共重合体(b1)を構成する単量体を、ワックス(b2)存在下で重合し、高分子量成分(B)を調製する工程
工程(III):低分子量成分(A)と高分子量成分(B)を含む混合液を調製する工程
工程(IV):前記混合液から溶媒を除去する工程
【請求項2】
前記工程(I)は、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a2)存在下で重合する工程であることを特徴とする請求項1記載のトナー用結着樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ワックス(b2)は、DSCによる変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜120℃であり、かつ、高分子量成分(B)中の含有量が2〜10質量%であることを特徴とする請求項1記載のトナー用結着樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか記載のトナー用結着樹脂の製造方法により製造されたことを特徴とするトナー用結着樹脂。
【請求項5】
下記の工程を有することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
工程(I):低分子量成分(A)を調製する工程
工程(II):高分子量ビニル系共重合体(b1)を構成する単量体を、ワックス(b2)存在下で重合し、高分子量成分(B)を調製する工程
工程(III):低分子量成分(A)と高分子量成分(B)を含む混合液を調製する工程
工程(IV):前記混合液から溶媒を除去し、トナー用結着樹脂を得る工程
工程(V):前記トナー用結着樹脂に荷電制御剤、着色剤を加えてトナー化する工程
【請求項6】
請求項5記載の静電荷像現像用トナーの製造方法により製造されたことを特徴とする静電荷像現像用トナー。