説明

トマトを含有する加熱加工食品

【課題】加熱処理をしてもトマト本来のフレッシュな風味が発現された加工食品の提供。
【解決手段】生鮮トマト、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ及びトマトジュースから選択される1種又は2種以上のトマト原料と、柑橘類を主原料とする発酵酒とを含有する容器入り加熱加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマトを含有する容器入り加熱加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトはそのまま生食される他、ケチャップ、ソース、飲料等に加工され、幅広く利用されている。しかしながら、トマトは加熱によりフレッシュな香気が損なわれ、生のトマトと全く異なった風味になってしまう。
そこで、トマトなどの野菜や果物のフレッシュ感、新鮮さを保持するために種々の技術が提案されている。例えば、スクラロースを添加してフルーツ感やフレッシュ感を向上させた果汁若しくは果肉含有食品(特許文献1);トマト果実を洗浄、粉砕、予備加熱、搾汁して得られるトマト搾汁液の製造方法であって、昇温速度30〜50℃/分で60〜70℃まで予備加熱するトマト搾汁液の製造方法(特許文献2);安定剤と、果実・野菜などの原料とを加熱することなく混合し、容器、包材などに充填、密封し、高くとも75℃の温度で加熱するジャム、フィリング、ソースなどの製造方法(特許文献3);トマトを開放系において加熱処理した後、ソース原料として使用するソース類の製造方法(特許文献4)などがある。
【特許文献1】特開2000−135062号公報
【特許文献2】特開2003−179号公報
【特許文献3】特開平11−243877号公報
【特許文献4】特開2004−166589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記の従来技術において、単に甘味料を添加した場合は却ってトマト感を損ねてしまう傾向がある。また、特別な加熱条件を設定する必要があるものは製造工程が煩雑になり、製造上の種々の制約をうけるという問題がある。
【0004】
従って、本発明の目的は、加熱処理をしてもトマト本来のフレッシュな風味が発現された加工食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、トマト原料に柑橘類を主原料とする発酵酒を配合すれば、トマトのフレッシュ感が引き立ち、加熱後も生のトマトが有するフレッシュなトマト風味を発現させることができることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、生鮮トマト、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ及びトマトジュースから選択される1種又は2種以上のトマト原料と、柑橘類を主原料とする発酵酒とを含有する容器入り加熱加工食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トマト本来のフレッシュな風味と、さわやかな酸味を有する加熱加工食品を得ることができる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられるトマト原料としては、生鮮トマト以外に加熱工程を経たもので、搾汁、煮詰め、加熱殺菌などの処理が施されたものを用いることができる。具体的には、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ、トマトジュースが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。トマト原料として加熱殺菌処理されたものを用いる場合、加熱条件は特に限定されないが、加熱の程度は100℃以下で120分以下が好ましく、更に40〜90分程度が好ましい。
加工食品中、トマト原料の含有量は特に限定されないが、トマト感を付与する点から10〜70質量%(以下、単に「%」で表す)が好ましい。具体的には、加工食品中のトマト原料の含有量が上記範囲となるように、加工食品の製造工程のいずれかでトマト原料を配合する。生鮮トマト、ホールトマト、ダイストマト、トマトジュースは、さらに15〜65%が好ましく、特に20〜60%が好ましい。トマトピューレは、さらに10〜50%が好ましく、特に12〜30%が好ましい。
【0009】
本発明で用いられる柑橘類を主原料とする発酵酒とは、柑橘類の果汁を発酵させて得られる発酵酒である。柑橘類としては、例えばグレープフルーツ、レモン、はっさく、柚子、ミカン、オレンジなどが挙げられ、特にグレープフルーツ、レモン、はっさくが好ましい。当該発酵酒のアルコール濃度は3〜20%、さらに5〜18%、特に7〜16%が好ましい。
加工食品中、柑橘類を主原料とする発酵酒の含有量は、トマトのフレッシュ感を発現させる点から、1〜8%が好ましく、さらに1〜7%が好ましく、特に1〜6%が好ましい。具体的には、加工食品中の発酵酒の含有量が上記範囲となるように、加工食品の製造工程のいずれかで発酵酒を配合する。また、発酵酒は、柑橘類を主原料とするものを用いるが、原料中の柑橘類は50%以上であることが、トマトのフレッシュ感を発現させる点から好ましく、更に70%以上、特に90〜100%であることが好ましい。更に、加工食品中には柑橘類を主原料とする発酵酒以外の発酵酒を添加しても良いが、柑橘類を主原料とする発酵酒を50%以上、更に70%以上、特に90〜100%とすることが好ましい。
【0010】
本発明の加工食品中には、さらに有機酸を添加することがトマトのフレッシュ感を引き立たせる点から好ましい。有機酸としては、例えばアジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸又はこれらの塩などが挙げられる。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。特に、風味の点から、クエン酸又はその塩が好ましい。
加工食品中、有機酸の含有量は、トマトのフレッシュ感と酸味とのバランスの点から0.01〜3%が好ましく、さらに0.05〜2%が好ましく、特に0.1〜1%が好ましい。
【0011】
本発明の加工食品には、さらに食品の形態に応じて、野菜類、果実類、キノコ類、海藻類、魚介類、肉類、畜肉加工品、乳製品、穀類、卵類、食用油、食酢、酒類、無機塩、糖類、甘味料、調味料、香辛料、乳化剤、保存料、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、着色料、香料、水など食品に使用可能な各種添加物を適宜配合してもよい。
【0012】
本発明における加工食品としては、特に制限されず、ドレッシング、ケチャップ、タレ、つゆ、ソースなどのソース類、カレー、シチュー、スープ、飲料、ゲル状食品などが挙げられる。これらのうち、ドレッシング、ソースなどのソース類が好ましい。ドレッシングは、食用油脂の状態あるいは有無により、分離タイプ、乳化タイプ、ノンオイルタイプに分けられるが、分離タイプ、ノンオイルタイプが好ましい。ドレッシングのpHは4以下であることが好ましく、更にpH3〜4、特に3.4〜3.9であることが風味、保存性の点から好ましい。ソースは、スパゲッティ等のパスタ用ソース、ピザソース、ステーキソースなどとして用いられるが、特にパスタ用ソースが好ましい。パスタ用ソースのpHは、パスタソースの味の種類に応じて適宜調節することができるが、一般的にpHを3〜7程度に調整することが好ましく、更に3.5〜6.5、特に3.7〜6、殊更4〜5.9とすることが、風味、保存性の点から好ましい。pHの調整は、有機酸及び/又はその塩、無機酸及び/又はその塩等のpH調整剤を使用して行うのが好ましい。
【0013】
本発明において、加工食品の製造時の加熱は、特に制限されず、例えば加熱殺菌工程における加熱であってもよい。この際の加熱温度は、ドレッシングなど開放系で加熱する場合は、80℃以上、特に80〜85℃が好ましく、加熱時間は1〜15分間、特に3〜5分間行うのが、風味・殺菌性の点から好ましい。パスタソースなどレトルト加熱を行う場合は、100℃以上、特に110〜135℃が好ましく、加熱時間は5〜60分間、特に10〜40分間行うのが、風味・殺菌性の点から好ましい。
本発明においては、加熱処理は前記のようにトマト原料として施されていても良く、加工食品の製造工程において施されていても良く、また、両方において施されていても良い。通常、加熱工程を経るとトマト特有のフレッシュな風味は失われるが、本発明においては、上記条件の加熱工程を経てもトマト特有のフレッシュな風味、さわやかな酸味を有する加工食品とすることができる。
【0014】
本発明の加工食品は、例えば、前記材料を混合し、例えば、均質化、充填及び、殺菌することにより製造できる。
加熱方法としては、例えば、(1)レトルトパウチや金属缶容器等の加熱殺菌できる容器は、容器詰してからの食品衛生法に定められた殺菌条件で加熱殺菌して製造する方法;(2)PETボトル、紙容器等のレトルト殺菌できない容器は、あらかじめ食品を加熱殺菌、例えばプレート式熱交換器等を用いて高温短時間で殺菌する工程を経て、一定の温度まで冷却して容器に充填する等の方法が挙げられる。本発明においては、生又は加熱調理済の食品をレトルトパウチなどの耐熱容器に充填し、次に耐圧容器に収容し、加圧加熱して行うレトルト処理が好ましい。また、加熱殺菌後の食品をPETボトルに充填することも好ましい。
【0015】
本発明の加工食品に使用される容器は、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(PETボトル)、缶(アルミニウム、スチール)、紙、レトルトパウチ(ポリエチレンパウチ、アルミパウチ)、プラカップ、瓶(ガラス)などの通常形態の容器を使用することができる。
【実施例】
【0016】
実施例1
にんにく36gを90gのオリーブ油で炒めた後、たまねぎ240g、セロリ36g、オレガノ末1.5gを加えてさらに炒め、ダイストマト1800g、砂糖90g、食塩36g、コンソメ45g、グレープフルーツワイン(メルシャン社製)120g、水480gを加え、90℃まで加熱したのち、熱水にて全量を3000gとした。得られたソースを120gずつ耐熱性レトルトパウチに充填・密閉した後、115℃にて30分間加熱し、トマトソースを調製した。
【0017】
比較例1
実施例1で使用したグレープフルーツワインの代わりに、白ワイン(メルシャン社製)120gを用いた以外は、実施例1と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0018】
比較例2
実施例1で使用したグレープフルーツワインの代わりに、赤ワイン(メルシャン社製)120gを用いた以外は、実施例1と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0019】
実施例2
実施例1において、ダイストマトなどとともに、さらにクエン酸9gを加えた以外は、実施例1と同様の操作にてトマトソースを調製した。
【0020】
比較例3
実施例2で使用したグレープフルーツワインの代わりに、白ワイン(メルシャン社製)120gを用いた以外は、実施例2と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0021】
実施例3
実施例1で使用したダイストマトの代わりに、トマトピューレ600gを用い、加える水の量を1650gとした以外は、実施例1と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0022】
比較例4
実施例3で使用したグレープフルーツワインの代わりに、白ワイン120gを用いた以外は、実施例3と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0023】
実施例4
実施例1で使用したダイストマトの代わりに、トマトジュース1800gを用いた以外は、実施例1と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0024】
比較例5
実施例4で使用したグレープフルーツワインの代わりに、白ワイン120gを用いた以外は、実施例4と同様の操作によりトマトソースを調製した。
【0025】
〔パスタの調製〕
ママースパゲティ1.6mm(日清フーズ(株))を7分間茹で、茹でたてのパスタを調製した。同時に、各実施例又は比較例で得られたトマトソースを、レトルトパックのまま沸騰したお湯の中で5分間温めた後開封し、前記茹でたてのパスタにかけて和えた。
【0026】
〔トマトソースの官能評価〕
前記パスタの調製にて得られたパスタについて、トマトソースとパスタを和えてから3分後に、トマトのフレッシュ感、酸味についての評価を行った。評価は5段階評価とし、10人のパネルにより行い、平均を求めた。各評価は次に示す基準に従って行った。
結果を表1、表2に示す。なお、本発明でいう「フレッシュ感」とは、「生のトマトに感じる新鮮な風味」をいう。
【0027】
〔トマトのフレッシュ感〕
5:フレッシュである
4:ややフレッシュである
3:どちらともいえない
2:あまりフレッシュではない
1:フレッシュではない
【0028】
〔酸味〕
5:強い
4:やや強い
3:ちょうど良い
2:やや弱い
1:弱い
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1と比較例1、2の比較から、白ワインや赤ワインを用いた場合に比べて、グレープフルーツワインを用いることで、トマトのフレッシュ感がアップすることが確認された。また、実施例2から、クエン酸を配合することで、さらにフレッシュ感はアップすることが確認された。
実施例2と比較例3の比較から、グレープフルーツワインを用いずに、クエン酸を加えた場合は、クエン酸を加えない場合よりはわずかにフレッシュ感は向上するもののその効果は弱く、一方で酸味が強くなる傾向があることが確認された。
実施例3と比較例4の比較から、ダイストマトの代わりにトマトピューレを用いた場合でもグレープフルーツワインを用いることで、トマトのフレッシュ感がアップすることが確認された。同様に、実施例4と比較例5の比較から、ダイストマトの代わりにトマトジュース用いた場合でもグレープフルーツワインを用いることで、トマトのフレッシュ感がアップすることが確認された。
【0031】
実施例5
表2に示す水相原料を配合し、80℃に達したのち4分間加熱殺菌した後に冷却し、冷却後に油相(サラダ油)を加え、分離状ドレッシングを調製した。
【0032】
比較例6
実施例5で使用したグレープフルーツワインの代わりに、白ワイン20gを用いた以外は、実施例5と同様の操作により分離状ドレッシングを調製した。
【0033】
〔ドレッシングの官能評価〕
レタス20gに、実施例または比較例で得られたドレッシング8gをかけ、パスタと同様に、トマトのフレッシュ感、酸味についての評価を行った。なお、各評価は前記「トマトソースの評価基準」と同じ基準にて行った。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
ドレッシングの場合でも、グレープフルーツワインを用いることで、過剰な酸味を伴わずに、トマトのフレッシュ感がアップすることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮トマト、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ及びトマトジュースから選択される1種又は2種以上のトマト原料と、柑橘類を主原料とする発酵酒とを含有する容器入り加熱加工食品。
【請求項2】
前記加熱の条件が、80℃以上である請求項1記載の容器入り加熱加工食品。
【請求項3】
前記トマト原料を10〜70質量%、前記発酵酒を1〜8質量%含有する請求項1又は2記載の容器入り加熱加工食品。
【請求項4】
前記柑橘類がグレープフルーツである請求項1〜3のいずれか1項記載の容器入り加熱加工食品。
【請求項5】
さらに有機酸を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の容器入り加熱加工食品。
【請求項6】
前記加工食品が、レトルト処理されたレトルトソースである請求項1〜5のいずれか1項記載の容器入り加熱加工食品。
【請求項7】
前記レトルトソースがパスタ用ソースである請求項6記載の容器入り加熱加工食品。
【請求項8】
前記加工食品がpH4以下のドレッシングである請求項1〜5のいずれか1項記載の容器入り加熱加工食品。

【公開番号】特開2009−189266(P2009−189266A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31640(P2008−31640)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】