説明

トラクタのフロントPTO動力取出装置

【課題】本発明の課題は、フロントPTO軸の前方への過大の突出を防止し、作業機とのマッチングを有利にすることを目的とする。
【解決手段】機体前部のボンネット内にエンジンを搭載して設け、該エンジンの出力軸から回転動力を取り出してフロントPTO軸にベルト伝動するカウンタプーリを設け、該カウンタプーリをエンジンルーム内に架設するトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。また、カウンタプーリは、エンジン出力軸と同一軸芯線上における動力取出し軸に架設し、フロントPTO軸は、フロントアクスルセンタ軸と同一軸芯に構成し、カウンタプーリとPTO軸プーリとの間に掛け渡した伝動ベルトにテンションクラッチ用プーリを設けたトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタのフロントPTO動力取出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタのフロントPTO軸を回転駆動する手段として特許文献1に開示されたものが知られている。これは、機体の前部側に搭載されたエンジンより前方に取り出した出力軸からベルト伝動機構を介してフロントPTO軸を駆動する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−148973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来例では、フロントPTO軸がボンネットの前面より前方に大きく突出しているので、作業機とのマッチングで不利な面がある。
本発明の課題は、フロントPTO軸の前方への過大の突出を防止し、作業機とのマッチングを有利にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、機体前部のボンネット(2)内にエンジン(E)を搭載して設け、該エンジン(E)の出力軸(11)から回転動力を取り出してフロントPTO軸(15)にベルト伝動するカウンタプーリ(13)を設け、該カウンタプーリ(13)をエンジンルーム(2R)内に架設してあることを特徴とするトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。
【0006】
エンジンの出力軸(11)より取り出したフロントPTO軸(15)への動力伝達用カウンタプ−リ(13)は、エンジン(E)と同じルーム(2R)内に設けることで、フロントPTO軸(15)の前方への突出が抑制される。
【0007】
請求項2記載の本発明は、前記カウンタプーリ(13)は、エンジン出力軸(11)と同一軸芯線上における動力取出し軸(12)に架設し、フロントPTO軸(15)は、フロントアクスルセンタ軸(18)と同一軸芯に構成し、前記カウンタプーリ(13)とPTO軸プーリ(16)との間に掛け渡した伝動ベルト(14)にテンションクラッチ用プーリ(17)を設けてあることを特徴とする請求項1記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。
【0008】
エンジン出力軸(11)からフロントPTO軸(15)への一連の伝動構成が簡潔でコンパクトな設計が可能となる。
請求項3記載の本発明は、前記カウンタプーリ(13)は、アクスルブラケットと一体の支持プレート(20)にベアリングメタル(21)を介して軸受保持し締付ボルト(22)にて締付固定してあることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。
【0009】
カウンタプーリ軸の軸受固定手段として、ベアリングメタル(21)を締付ボルト(22)により固定することで、エンジン出力軸(11)から取り出した取出し軸(12)の芯ずれを防止することができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、前記フロントPTO軸(15)の軸芯とフロントピボットメタル(23)の軸芯を同一軸芯線上に一致させると共に、前記フロントピボットメタル(23)によってフロントPTO軸(15)を軸受保持する構成としてあることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。
【0011】
フロントピボットメタル(23)をフロントPTO軸(15)の軸受として利用することができ、構成が簡単で、コンパクトに構成することができる。
請求項5記載の本発明は、フロントPTO軸(15)とPTO軸プーリ(16)を結ぶ固定ボルト(25)は、所定以上の過負荷に起因して切断可能な安全ピンとしてあることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置とする。
【0012】
作業機からの想定以上の過負荷に起因して、固定ボルト(25)が切断されるので、作業機の不慮の破損を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上要するに、請求項1の本発明によれば、エンジンの出力軸より取り出したフロントPTO軸への動力伝達用カウンタプ−リをエンジンルーム内に設けることで、フロントPTO軸の前方への突出が抑制され、作業機とのマッチングを有利にすることができる。
【0014】
請求項2の本発明によれば、請求項1の発明効果を奏するものでありながら、エンジン出力軸からフロントPTO軸への一連の伝動構成が簡潔であり、コンパクトにまとめることができ、安価に実施することができる。
【0015】
請求項3の本発明によれば、請求項1又は請求項2の発明効果を奏するものでありながら、カウンタプーリは、ベアリングメタルを介して軸受保持し締付ボルトにて支持プレートに固定することで、エンジン出力軸から取り出した取出し軸の芯ずれを防止することができる。
【0016】
請求項4の本発明によれば、請求項1又は請求項2又は請求項3の発明効果を奏するものでありながら、フロントピボットメタルをフロントPTO軸の軸受として利用することができ、構成が簡単で、コンパクトに構成することができる。
【0017】
請求項5の本発明によれば、請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4の発明効果を奏するものでありながら、作業機に想定以上の過負荷がかかると、固定ボルトが切断されるので、作業機の不慮の破損を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】トラクタの側面図
【図2】トラクタのフロント部の側面図
【図3】フロントPTO動力取出し装置の側面図
【図4】ミッション部要部の側断面図
【図5】PTOチェンジレバー操作機構を示す側面図
【図6】PTO伝動装置を示す要部の側断面図
【図7】ミッション部の要部の側断面図
【図8】ミッション部の要部の側断面図
【図9】ミッション部の要部の側断面図
【図10】ミッション部の要部の側断面図
【図11】ハンドル操作部の要部の側面図
【図12】同上要部の背面図
【図13】オートクルーズレバー操作部の側面図
【図14】同上要部の背面図
【図15】ブレーキランプスイッチ部の側面図
【図16】HSTペダル操作部の要部の側面図
【図17】同上要部の背面図
【図18】エンジンガバナへのコントロールアームの構成例を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1は、トラクタの側面図を示すものであり、この走行車体1前部のボンネット2内部にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケース3内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を後輪5に伝えると共に、前輪伝動軸6、フロントアクスルハウジング7のセンタピボットメタル部8から内部のフロントデフへ連動して前輪4を駆動する構成としている。機体後部に設置された運転席9の前方には、前輪4,4を操舵するステアリングハンドル10が装備されている。
【0020】
エンジンEの出力軸11から回転動力を取り出してフロントPTO軸15へベルト14伝動するカウンタプーリ13がボンネット2内部のエンジンルーム2R内に架設されている。
【0021】
前記カウンタプーリ13は、エンジン出力軸11と同一軸芯線上における動力取出し軸12に架設され、エンジンEの前側に設置したラジエータ30とその前側に搭載したバッテリ31との間に配置された構成になっている。また、カウンタプーリ13は、アクスルブラケットと一体の支持プレート20にベアリングメタル21を介して軸受保持し締付ボルト22にて締付固定するようになっている。
【0022】
フロントPTO軸15は、フロントアクスルセンタ軸18と同一軸芯線上に構成して設けられ、そして、前記カウンタプーリ13とPTO軸プーリ16との間に掛け渡した伝動ベルト14には、フロントPTO軸15への回転動力を入り切りするテンションクラッチ用プーリ17が設けられている。
【0023】
また、前記フロントPTO軸15の軸芯とフロントピボットメタル23の軸芯とは、同一軸芯線上に一致させてあり、そして、そのフロントPTO軸15は、前記フロントピボットメタル23によって軸受保持するようになっている。
【0024】
フロントPTO軸15にフランジ24を溶接して一体化し、フランジ24とPTO軸プーリ16を固定ボルト25によって固定している。この固定ボルト25は、作業機にかかる想定以上の過負荷に起因して切断されるように安全ピンの役目を果たしている。
【0025】
なお、エンジン出力軸11に固着した出力プーリ11Pは、冷却ファン32をファンベルト33によって回転駆動するよう連動構成している。
図4に示すように、従来の構成では、主変速部及副変速部を経て取り出される動力取出伝動軸36からギヤ37a,37bを経てリヤPTO軸38を駆動し、ギヤ39a,39b,39cを経てミッドPTO軸40を駆動する構成としている。
【0026】
そして、ミッドPTO軸のON.OFFにPTOクラッチ41を使用しているため、ミッドPTO軸を作動させたままで、リヤPTO軸38のチェンジレバー42を操作すると、ギヤ37bがスライドしてギヤ37aに噛み合うことによってリヤPTO軸が駆動し、過度の回転負荷によりギヤを破損させる問題があった。
【0027】
本例では、PTOチェンジレバー42の動きを検知してPTOクラッチ41を切りにする検知スイッチ(安全スイッチ)43を設け、誤ってチェンジレバーの操作でリヤOTO軸を駆動しようとすれば、検知スイッチがチェンジレバーの動きを検知することで、PTOクラッチをOFFにし、ギヤの破損を未然に防止することができる。なお、PTOチェンジレバー42の動き検知手段として、該レバーのグリップ部42g内に圧力センサを設け、オペレータがレバーを操作しようとしてレバーを握ったら圧力センサが作動し、PTOクラッチをOFFにする構成としてもよい。
【0028】
図6に示す実施例では、リヤミッションケース後部のPTOチェンジ部の下面よりミッドPTO軸を取り出す構成のものにおいて、動力取出伝動軸36からギヤG1,G2又はG3,G4を経てリヤPTO軸38を駆動し、また、動力取出伝動軸36からギヤG5,G6,G7を経てミッドPTO軸40を駆動する構成とし、そして、ギヤG1とギヤG3との間には、リヤ駆動(ギヤG1駆動)状態、中立N状態、ミッド駆動(ギヤG5駆動)状態、ミッド+リヤ駆動(ギヤG5+ギヤG3駆動)状態とに切替可能なチェンジフォーク機構44を設けた構成としている。要するに、リヤPTOとミッドPTOを同じチェンジフォークでチェンジすることが可能であり、チェンジ機構が一つになり、ミッドPTOケース内にチェンジ機構が不要となる。
【0029】
また、PTOチェンジレバーによるチェンジの順番を、リヤPTO→中立→ミッドPTO→リヤ+ミッドPTOの順にチェンジすることができるので、オペレータの操作性が向上する。しかも、リヤPTOギヤG2,G4を2組構成することで、上記チェンジの順番構成を容易にすることができる。
【0030】
国内用、輸出用トラクタにおいて、インプットギヤの変更により軸回転を変更できるようにしたもので、図7に示す国内用では、クラッチ軸47のインプットギヤ48aからインプットギヤ48b、インプットギヤ48cを経てPTO動力取出伝動軸36及び前輪伝動軸6を駆動するように連動構成している。
【0031】
一方、輸出用では、図8に示すように、インプットギヤ48aからインプットギヤ48b、該ギヤ48bと同軸のインプットギヤ48d、インプットギヤ48cを経てPTO動力取出伝動軸36及びインプットギヤ48eから前輪伝動軸ギヤ50を経て前輪伝動軸6を駆動するようになっている。要するに、インプットギヤ48c,48dの2点のギヤ変更のみで、輸出、国内の軸回転数の変更が容易にでき、また、インプットギヤの変更により車速も変更できるので、主、副変速部の部品が共用できる。
【0032】
また、図9に示す実施例は、ミッションケースの途中部にスペーサを追加できるように構成したもので、ベース機を大幅に変更することなく簡単にホイールベースを延長することができる。つまり、図例に示すように、ミッションケース3は、前部ケース3aと中部ケース3bと後部ケース3cからなるが、その途中部、例えば、前部ケース3aと中部ケース3bとの間S内にミッションスペーサ51を介装連結するように構成することで、PTO動力取出軸36や前輪伝動軸6の長さを延長するだけで可能となり、スペーサに軸受保持等の加工を要せず、安価なスペーサ構成を得ることができる。
【0033】
図10に示す実施例は、フロント・ミッド用PTO軸53(53a,53b)をミッションケース3の前部ケース3a側の下部でPTOケース56に軸架させて設け、前輪伝動軸6上には、シフト可能なPTO入切ギヤ55に噛合するPTOカウンタギヤ54を設けている。PTO軸53は、前後両端をスプライン加工し、どちら側でも動力取出しができるようにフロント用53aとミッド用53bとに使い分け可能な構成としている。
【0034】
上記構成によると、PTO軸を前部ケースの下部に設けることにより、フロント、ミッド両方に使用可能となり、フロント側への動力取出しが容易でカウンタギヤ用のシャフトも不要となる。また、単一のシャフトで前後同時に動力取出しが可能となる。
【0035】
図11及び図12において、ステアリングハンドル7の上下動を少なくするため、パネルダッシュ57のサイドプレート58の下部にフロア27と繋ぐべく後方下方に膨出する脚部58aが設けられている。この脚部58aはフロア27の上面に当てて溶接等によって固定している。従来は、サイドプレートとフロアとの繋ぎが前方向しかなく上下動に弱くなっていた。本例では、脚部を設けることにより、パネルダッシュの強度がアップし、ハンドルの上下動を少なくすることができる。
【0036】
図13及び図14に示す実施例では、オートクルーズ機構を操作する軸芯Q回りに回動可能なオートクルーズレバー59をフェンダ28の下方に設定し、該レバー上部のグリップ59aをフェンダ28に設けたガイド穴28aから上方に突出させた状態で操作できるように構成している。従来のオートクルーズレバーは、シート下のフロア上に設定されていたが、位置が低い為、操作がしづらい面があった。本例では、フェンダ上部へグリップ部を出すことにより、操作が容易にできるようになった。
【0037】
図15に示すように、ブレーキペダル60を踏込み操作すると、スイッチプレート61を介してランプスイッチ62がオン作動して、ブレーキランプが点灯するようになっている。ランプスイッチ62調整用の調整ボルト63は、調整の容易化を図るため、該ボルトの端面にドライバで回せる溝64が設けられている。
【0038】
図16及び図17に示す実施例は、踏込み操作で機体の前進走行及び後進走行を司るHSTペダル65にあって、これに利用されるダンパ66やリターンスプリング67を取付支持するブラケット68と、油圧配管69を取付支持するクランプステー70を一体化して強度アップ及び部品点数の削減化を図るようにしている。
【0039】
エンジンの型式によっては、ガバナへのコントロールアームの作動角が異なるため、ケーブルの引くストロークが異なる。アクセルペダルのストロークを変化させずにコントロールアームのストロークによって確保することが望ましい。従来は、エンジンの型式にもよるが、少なくとも、アーム比の異なる2種類のコントロールアームが必要であった。そこで、本例では、図18に示すように、2種類のアームを1個で行えるように、アクセルペダル71の操作に連動して回動し、エンジンガバナへのケーブル72を引き操作するコントロールアーム73に、アーム比の異なる2個のケーブル取付穴74a,74bを設けることで、異なるエンジンに対応することができる。
【符号の説明】
【0040】
E エンジン
2 ボンネット
11 エンジン出力軸
12 動力取出し軸
13 カウンタプーリ
14 伝動ベルト
15 フロントPTO軸
16 PTO軸プーリ
17 テンションクラッチ用プーリ
18 フロントアクスルセンタ軸
20 支持プレート
21 ベアリングメタル
22 締付ボルト
23 フロントピボットメタル
25 固定ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前部のボンネット(2)内にエンジン(E)を搭載して設け、該エンジン(E)の出力軸(11)から回転動力を取り出してフロントPTO軸(15)にベルト伝動するカウンタプーリ(13)を設け、該カウンタプーリ(13)をエンジンルーム(2R)内に架設してあることを特徴とするトラクタのフロントPTO動力取出装置。
【請求項2】
前記カウンタプーリ(13)は、エンジン出力軸(11)と同一軸芯線上における動力取出し軸(12)に架設し、フロントPTO軸(15)は、フロントアクスルセンタ軸(18)と同一軸芯に構成し、前記カウンタプーリ(13)とPTO軸プーリ(16)との間に掛け渡した伝動ベルト(14)にテンションクラッチ用プーリ(17)を設けてあることを特徴とする請求項1記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置。
【請求項3】
前記カウンタプーリ(13)は、アクスルブラケットと一体の支持プレート(20)にベアリングメタル(21)を介して軸受保持し締付ボルト(22)にて締付固定してあることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置。
【請求項4】
前記フロントPTO軸(15)の軸芯とフロントピボットメタル(23)の軸芯を同一軸芯線上に一致させると共に、前記フロントピボットメタル(23)によってフロントPTO軸(15)を軸受保持する構成としてあることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置。
【請求項5】
フロントPTO軸(15)とPTO軸プーリ(16)を結ぶ固定ボルト(25)は、所定以上の過負荷に起因して切断可能な安全ピンとしてあることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4記載のトラクタのフロントPTO動力取出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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