説明

トラッキング検出装置

【課題】 インバータ回路を有する負荷が接続された電路であっても、確実に負荷電流波形を削除してトラッキング放電のみ検知可能なトラッキング検出回路を提供する。
【解決手段】 負荷電流波形を削除するフィルタ回路を4次のバタワースハイパスフィルタで形成し、そのカットオフ周波数を決定する抵抗NW1〜NW4を4個の抵抗を並列配置した組20で構成し、4個の抵抗の組み合わせを変えることで抵抗値を変えてカットオフ周波数を可変とした。マイコン18でこの抵抗値を制御して、常に負荷電流波形を削除するように動作させ、削除した電流波形からトラッキング検出部でトラッキングを判断させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にコンセントに差し込んだプラグで発生するトラッキング放電を検出するトラッキング検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラッキング放電は、コンセント又はプラグの両刃間に埃が溜まり、この埃が水分を吸収することで両刃間に漏れ電流が発生して埃が熱を帯びて炭化して行き、やがてコンセント或いはプラグの両刃間の塩化ビニルも炭化することで発生する。このコードプラグの接続部に発生するトラッキング放電を検出する方法として、例えば特許文献1に示す方法がある。これは、電路電流の高周波成分に含まれる漏れ電流波形を抽出し、その中からトラッキング放電特有の波形成分を検出してトラッキング発生を判断している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−279205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の技術は、電路電流波形から負荷電流波形を削除するフィルタ回路のカットオフ周波数が一定であるため、トラッキング放電を検出する際、インバータ回路等の高周波を発生する負荷が接続されている場合、インバータ回路で発生する高周波電流成分をトラッキング放電波形と判断して誤検知することがあった。
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、インバータ回路を有する負荷が接続された電路であっても、確実に負荷電流波形を削除してトラッキング放電のみ検知可能なトラッキング検出回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する為に、請求項1に記載の発明は、電路電流波形を検出する電流波形検出手段と、該電流波形検出手段で検出した電流波形から負荷電流波形を削除して高周波電流波形を抽出する高周波抽出手段と、抽出した高周波電流波形の電荷量を演算する電荷量演算手段と、演算した電荷量が予め設定した値以上となる波形の発生頻度を監視する発生頻度演算手段と、抽出した前記高周波電流波形の周波数別レベルの大きさを演算するレベル演算手段と、前記電荷量演算手段、前記発生頻度演算手段、及び前記レベル演算手段の演算結果を基にトラッキング放電を判断するトラッキング判断手段とを有し、前記高周波抽出手段は、負荷電流周波数の変動に応じてカットオフ周波数を変更するカットオフ周波数制御手段を有し、負荷電流波形を常時削除した高周波電流波形を抽出すると共に、前記演算した電荷量、前記発生頻度、前記周波数別レベルの大きさの夫々に閾値が設定され、前記トラッキング判断手段は、前記3つの演算結果のうち少なくとも2つが前記閾値を超えたらトラッキング放電発生と判断することを特徴とする。
この構成により、負荷がインバータ回路等の高周波発生回路を備えて負荷電流に高周波が含まれていても、負荷電流を削除した高周波電流波形を抽出してトラッキングを判断するので、負荷電流の高周波成分をトラッキング放電と判断することが無くなる。そして、抽出した高周波電流成分から、放電の電荷量、放電発生頻度、周波数別レベルを求め、夫々の組み合わせで判断するので、単発放電の他、連続放電や間欠放電も検知でき、放電電流が数十アンペアを超えるトラッキング短絡に至る前にトラッキング放電を検出できる。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、高周波抽出手段は、負荷電流の周波数を検出する負荷周波数検出手段と、カットオフ周波数を変更可能としたバタワースハイパスフィルタとを有し、カットオフ周波数制御手段が、検出した負荷電流周波数に合わせて前記バタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数を制御することを特徴とする。
この構成により、負荷電流周波数の変動に応じてカットオフ周波数を良好に変動させて負荷電流波形を削除することが可能となる。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2記載の発明において、バタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数を決定する抵抗を、並列配置した複数の抵抗で構成し、前記複数の抵抗の組み合わせを変えることで抵抗値を変更し、カットオフ周波数を変更可能としたことを特徴とする。
この構成により、個々の抵抗のオン/オフ制御のみで抵抗値を変更でき、カットオフ周波数の変更を簡易な回路で実施できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷がインバータ回路等の高周波発生回路を備えて負荷電流に高周波が含まれていても、負荷電流と漏れ電流を判別することが可能となり、負荷電流をトラッキング放電と判断することが無くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係るトラッキング検出装置の一例を示し、トラッキング放電を検出したら電路を遮断する遮断装置のブロック図を示している。図1において、1は電路、2は電路1の電流波形を検出する電流波形検出手段としての変流器、3は高周波成分を抽出して増幅する高周波抽出手段としてのフィルタ回路、4はトラッキング放電を検出するトラッキング検出部、5は電路1を遮断する遮断手段である。
【0010】
トラッキング検出部4は、フィルタ回路3により負荷電流が削除された高周波電流波形が入力され、その電流波形を周波数分解する高速フーリエ変換回路(以下、FFTとする。)7、抽出した高周波電流波形から予め設定された立ち上がり時間、放電持続時間、大きさの全てを満たす波形を抽出して放電電流波形として出力する波形抽出回路8、FFT7及び波形抽出回路8の出力を夫々A/D変換する第1のA/D変換回路9及び第2のA/D変換回路10、周波数分解した結果及び抽出した波形からトラッキング放電を判断するCPUからなる演算処理回路11、遮断手段5の動作信号となる演算結果を出力する判定出力回路12、判断要素や演算値を格納するレジスタ回路13を有している。
尚、波形抽出回路8の判断基準となる立ち上がり時間の設定値は0.75〜4.22μs、放電持続時間の設定値は3.0〜47μs、大きさの設定値は±150mV〜±5Vの間で夫々設定すると良い。
【0011】
一方、フィルタ回路3は、図2の回路図に示すように構成されている。図2において、16は変流器で検出した電流から負荷電流波形を削除するハイパスフィルタであり4次のバタワースハイパスフィルタで構成されている。また、16aは負荷電流波形を削除した電流波形をトラッキング放電検出部へ出力する出力部、17はハイパスフィルタ16の出力を増幅する増幅回路、そして18はマイクロコンピュータ(以下、単にマイコンとする。)であり、このマイコン18は負荷電流周波数を検出する負荷周波数検出手段、及び読み取った負荷周波数を基にハイパスフィルタのカットオフ周波数を変更するカットオフ周波数制御手段として作用している。尚、19は変流器2で検出した電流から負荷電流周波数を検出するためにマイコン18へ入力する負荷電流周波数入力回路である。
【0012】
ハイパスフィルタ16では、4次のバタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数を決定する4箇所の帰還回路の抵抗NW1〜NW4が、並列配置された4個の抵抗R,R/2,R/4,R/8の組20で構成され、個々の抵抗にはスイッチ回路20aが設けられてマイコン18によりオン/オフ制御が可能となっている。こうして、4本の抵抗の組み合わせを変えることで抵抗値を変えてカットオフ周波数を変更できるよう構成されている。この場合、抵抗値は、例えばR=8kΩ、R/2=4kΩ、R/4=2kΩ、R/8=1kΩ或いはその近似値で設定すると良く、この組み合わせでカットオフ周波数を略100〜1600Hzの間で変更できる。
また、増幅回路17の増幅率を決定する抵抗NW5も、並列配置された4個の抵抗の組21及びスイッチ回路21aを設けて形成され、合わせてマイコン18により連動して変更制御されるよう構成されている。但し、この場合R=80kΩ、R/2=40kΩ、R/4=20kΩ、R/8=10kΩとなっている。
【0013】
具体的には、負荷電流周波数入力回路19から入力された周波数情報を基に、マイコン18が負荷電流の周波数を検出する。そして、マイコン18は検出した負荷電流を削除するようにスイッチ回路20aを操作してハイパスフィルタ16のカットオフ周波数を制御する。このとき、マイコン18によるスイッチ回路20aの制御はBCD信号で行われ、0000〜1111の16通りで行われる。例えば、BCD信号が1001の場合、スイッチ回路20aのオン動作により8kΩと1kΩの抵抗が接続状態となり、1kHzのカットオフ周波数を設定できる。また、BCD信号が1111の場合全ての抵抗が接続状態となり、1.6kHzのカットオフ周波数を設定できる。こうして、負荷電流波形を削除した電流波形が出力部16aから出力される。
【0014】
この出力部16aから出力される電流波形信号を受けて、トラッキング検出部4は次のようにトラッキング検出動作をする。フィルタ回路3により負荷電流波形が削除された電流波形がFFT7、及び波形抽出回路8に入力され、FFT7にて周波数分解され、波形抽出回路8にて所定条件を満たす放電電流波形が抽出される。そして、共に第1のA/D変換回路9、第2のA/D変換回路10でデジタルデータに変換された後に演算処理回路11に入力される。
演算処理回路11では、各波形の放電電荷量の演算、放電発生頻度の監視、周波数別レベルの演算が実施され、次に示すような予め設定された設定値に対する判断が成され、トラッキング放電を判断する判断要素が演算される。
(a)放電電荷量の演算:1.2nC(ナノクーロン)以上の放電電荷を有する放電(波形)が観測されたか。
(b)放電発生頻度の監視:一定時間(Δt(例えば、100ms))の間に、1.2nC以上の放電電荷を有する放電がn回以上(例えば、4回以上)観測されたか。
(c)周波数成分解析:周波数別レベルに80dB以上を示す信号が観測されたか。
このように、演算処理回路11は、高周波波形の電荷量を演算する電荷量演算手段、高周波波形の発生頻度を監視する発生頻度演算手段、周波数別レベルを演算するレベル演算手段を兼ねている。
【0015】
そして、演算処理回路11は更にトラッキング判断手段として作用し、これらの判断要素を組み合わせてトラッキング放電有無の判定をする。具体的には、次のような組み合わせにより放電特性に応じた判定を実施できる。
(A)放電電荷量と周波数成分が条件を満たした場合、放電発生(単発の放電発生)と判断する。
(B)放電発生頻度と周波数成分が条件を満たした場合、放電発生(連続放電発生)と判断する。
(C)放電電荷量、放電発生頻度、周波数成分の3つが条件を満たした場合、放電発生(間欠的放電発生)と判断する。
これらの演算は、レジスタ回路13に随時演算データを取り込んで実施され、判定信号が判定出力回路12へ送られる。そして、判定出力回路12はその信号に応じて遮断手段5の作動信号を出力する。
【0016】
このように、放電電流波形から、放電の電荷量、放電発生頻度、周波数別レベルを求め、夫々の組み合わせで判断するので、単発放電の他、連続放電や間欠放電も検知でき、放電電流が数十アンペアを超えるトラッキング短絡に至る前にトラッキング放電を検出できる。例えば、シンチレーションに起因する放電が発生しても、放電電荷量と周波数特性を演算して双方が所定の閾値を超えた時点でトラッキング発生と判断させることで、トラッキング短絡を未然に検出して発火等を確実に防ぐことができる。
そして、負荷がインバータ回路等の高周波発生回路を備えて負荷電流に高周波が含まれていても、負荷電流を削除した高周波電流波形を抽出してトラッキングを判断するので、負荷電流の高周波成分をトラッキング放電と判断することが無くなる。また、バタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数を負荷電流周波数の変動に応じて良好に変動させて負荷電流波形を削除することが可能となる。
更に、個々の抵抗のオン/オフ制御のみで抵抗値を変更でき、バタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数の変更を簡易な回路で実施できる。
【0017】
図3はフィルタ回路3の他の例を示している。上記図2の構成とはハイパスフィルタ16の帰還回路の抵抗NW11〜NW14の構成が異なり、4個の抵抗の組20が2組づつ並列配置されて構成されている。尚、図2と同一の構成要素には、同一の符号を付与してある。
このように構成することで、マイコン18からのBCD信号を、2回路分にして00000000〜11111001まで制御させて、100Hz〜16.0kHzの範囲で可変できるようになり、フィルタ回路3のカットオフ周波数の可変幅を広げることができる。
【0018】
尚、ハイパスフィルタ16のカットオフ周波数を変更する抵抗の組20は、上述する抵抗値の組み合わせに限定するものではなく、例えば16kΩ、8kΩ、4kΩ、2kΩの組み合わせとしても良い。また、並列配置して組み合わせる抵抗の数も4個に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るトラッキング検出装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
【図2】図1のフィルタ回路の回路図である。
【図3】図1のフィルタ回路の他の回路図である。
【符号の説明】
【0020】
1・・電路、2・・変流器(電流波形検出手段)、3・・フィルタ回路(高周波抽出手段)、4・・トラッキング検出部、11・・演算処理回路(電荷量演算手段、発生頻度演算手段、レベル演算手段)、16・・ハイパスフィルタ、18・・マイコン(負荷周波数検出手段、カットオフ周波数制御手段)、20a・・スイッチ回路、NW1〜NW4,NW11〜NW14・・抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電路電流波形を検出する電流波形検出手段と、
該電流波形検出手段で検出した電流波形から負荷電流波形を削除して高周波電流波形を抽出する高周波抽出手段と、
抽出した高周波電流波形の電荷量を演算する電荷量演算手段と、
演算した電荷量が予め設定した値以上となる波形の発生頻度を監視する発生頻度演算手段と、
抽出した前記高周波電流波形の周波数別レベルの大きさを演算するレベル演算手段と、
前記電荷量演算手段、前記発生頻度演算手段、及び前記レベル演算手段の演算結果を基にトラッキング放電を判断するトラッキング判断手段とを有し、
前記高周波抽出手段は、負荷電流周波数の変動に応じてカットオフ周波数を変更するカットオフ周波数制御手段を備えて、負荷電流波形を常時削除した高周波電流波形を抽出すると共に、前記トラッキング判断手段は、前記演算した電荷量、前記発生頻度、前記周波数別レベルの大きさの演算結果のうち少なくとも2つが予め設定した閾値を超えたらトラッキング放電発生と判断することを特徴とするトラッキング検出装置。
【請求項2】
高周波抽出手段は、負荷電流の周波数を検出する負荷周波数検出手段と、カットオフ周波数を変更可能としたバタワースハイパスフィルタとを有し、
カットオフ周波数制御手段が、検出した負荷電流周波数に合わせて前記バタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数を制御する請求項1記載のトラッキング検出装置。
【請求項3】
バタワースハイパスフィルタのカットオフ周波数を決定する抵抗を、並列配置した複数の抵抗で構成し、前記複数の抵抗の組み合わせを変えることで抵抗値を変更し、カットオフ周波数を変更可能とした請求項2記載のトラッキング検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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