説明

トラックボール入力方法及びトラックボール入力装置

【課題】方向入力装置としてトラックボールを利用する際の操作性及び利便性を向上させる。
【解決手段】トラックボール2からの移動情報を処理するために、従来の座標モードと新たな方向モードの2種類のモードを設定し、方向モードではトラックボール2の出力から時系列的に得られる座標情報を用い、一定時間のベクトル列から移動方向のみを求め、4または8方向、移動無し、クリックなどの情報に変換し、また入力を無視する期間を設けることにより、方向キーと同等の操作感を実現することで、方向入力装置としての操作性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に支持されたボールを指で回転させることにより、表示装置の画面上のマウスポインタを移動させたり、画面の一部または全部をスクロールさせたり、アイコンやメニューの動作の確定を指示したりする入力装置として用いられるトラックボール入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックボール入力装置は、少ない設置面積で自由度が高く且つ直感的な操作が可能なため、パーソナルコンピュータや携帯情報端末の座標入力装置として広く使われている。携帯情報端末等では、さらにクリック機能を持たせることにより、決定ボタンと座標入力を1つで行うことができる統一的なユーザーインターフェース要素として利用されている。
【0003】
しかしながら、機器の小型化のためトラックボールの軽量化が進み、さらにクリックによる押し下げに対応するためボールの押さえ圧が軽くなってしまったため、ユーザーの入力時に設定されている回転遊び以上にボールが意図しない回転をすることがあり、結果としてユーザーの入力効率が悪化している。特にマウスポインタを使用せず、旧来の方向キーで操作することを前提としたメニュー等ではユーザーに正確な操作が要求されていた。特に小型の携帯情報端末においては、小型化に伴ってボールの質量は自然と小さくなり、また回転遊びを大きくすればユーザー入力に対する感度が低下するため、操作性を良好に保ちつつトラックボールによる簡潔で直感的なユーザーインターフェースを提供することが難しい。
【0004】
これに関して、(特許文献1)のようなユーザー入力のための別の入力ボタンを設ける解決策も考えられるが、機器の小型化の障壁となる。また、(特許文献2)のように移動方向を水平と垂直の2軸に制限する方法もあるが、意図しない方向への入力自体を選別して低減しているのではないため、直感的でなくユーザーにとって分かりづらく、さらに移動方向が制限されているだけで移動量自体は一定値ではないため、選択しようとしていたメニューを行き過ぎるなどの入力ミスを誘発することも考えられる。また、(特許文献3)のように形状・機構的にトラックボールの回転時の抵抗を制御する方法では、ある程度以上の小型化・軽量化が難しく、コストの増大を招くため必ずしも全ての装置に適用できるものではない。
【特許文献1】特開平9−146699号公報
【特許文献2】特開平6−301479号公報
【特許文献3】特開平8−185259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、移動量を持たない方向キーと同様の操作をする目的でトラックボールを利用する際に、正確な操作を要求され操作性が低下することである。特にクリック機能を有するトラックボールやボールが軽量のトラックボールではユーザー操作に対する応答性と入力の確実性を両立するのが非常に難しくなっている。
【0006】
従って本発明の目的は、トラックボールに対するユーザーの操作性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トラックボールに従来の座標モードと新たな方向モードの2種類のモードを設定し、方向モードではトラックボールの出力から時系列的に得られる座標情報を用い、座標モードとは別途に設定された閾値以上の移動を検出してから初めの一定時間を除き、その後のある一定期間のベクトル列から移動方向を求め、4(または8)方向、移動無し、クリックなどの情報に変換し、また、4(または8)方向またはクリックの検出をした後には入力を無視する期間を設けることにより、方向キーと同等の操作感を実現し、ユーザー選択メニュー等での操作性を向上する。
【0008】
また、方向モードのトラックボールにおいて、連続した方向及びクリック入力列を方向キーにおいてと同様にコマンドとして解釈し、ショートカットなどの特別な動作を行うことによりユーザーのメニュー選択動作を省略可能とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトラックボール入力装置によれば、4方向または8方向への移動やクリックの操作入力の応答性及び操作性を向上させることができる。また、ソフトウェアとしても実現可能であり、本発明の導入が容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、トラックボールからの入力を決定する装置であって、前記トラックボールから得られる座標情報に対して、所定の移動量及び移動期間から移動方向を検出する検出手段と、少なくとも4または8方向及び移動の有無の確定した情報を出力する制御手段と、を備える。
【0011】
また、上記発明において、前記制御手段は、前記4または8方向の移動またはクリックの情報を確定した後、入力を無視する所定の期間を設けてもよい。
【0012】
また、上記発明において、前記制御手段は、連続する前記4または8方向の移動またはクリックの確定された情報のパターンをコマンドとして解釈するようにしてもよい。
【0013】
さらに、本発明は、CPUやメモリなどからなるコンピュータ資源において実行可能なプログラムとして提供することも可能であり、このプログラムを実行することでトラックボール入力方法として具現化可能である。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1によるトラックボール入力装置を備える携帯情報端末の外観図である。図1において、携帯情報端末の筐体1には、入力手段としてのトラックボール2やボタン3、表示手段としての画面4を備える。トラックボール2の回転情報やクリック状態をセンサーなどの検出手段により検出し、この情報を処理し、座標や移動方向の情報として画面4に出力する。5は画面4に表示されたメニューの選択状態を示すメニューカーソルである。
【0015】
図2は、本実施の形態によるトラックボール入力装置の構成を示すブロック図である。10はトラックボール2、ボタン3やスイッチ等の入力手段であり、11は入力手段10から得られる信号(トラックボール2の回転情報やクリック状態)を検出する検出手段であり、12は検出手段11からの情報を処理し座標、方向等の情報を取り出し、出力のための情報や制御のための情報を確定し出力する制御手段、13はメニューや画像などを表示する表示手段である。
【0016】
検出手段11は、トラックボール2の回転、トラックボール2のクリック(ボタンAに対応する)、トラックボール2とは別に実装されているボタン3(ボタンBに対応)等の情報を検出することができる。携帯情報端末は、メニュー及び画像を表示する液晶表示装置などの適当な大きさの画面4を有し、メニューカーソル5により表示画像等の選択を行い、例えば、表示画像を選択してクリックをした場合には選択された画像が画面4いっぱいに表示される。表示画面内に入りきらない大きな画像であっても、図3に示すように、トラックボール2を回転させることにより、大きな画像6の一部分を表示するための覗き窓7(表示領域)を任意に移動させ(画面4上ではスクロールとなる)、所望の個所を閲覧することができる。また、トラックボール2の入力処理を、方向を選択するための「方向モード」にした上で、トラックボール2及びボタンA,Bにより、例えば「上、上、下、下、左、右、左、右、ボタンB、ボタンA(ボールクリック)」と連続して入力することで、通常のメニュー操作では選択不可能な隠し処理を実行することができる。
【0017】
図4は制御手段12で実行される定常ループでの処理内容を示すフローチャートである。図5は定常ループとは非同期に動作するメニュー表示状態での処理内容を示すフローチャート、図6は定常ループで呼び出されるトラックボール入力処理におけるフローチャート、図7はトラックボール入力処理から呼び出される入力時間判定処理におけるフローチャート、図8は図5のメニュー表示状態から呼び出される方向判定処理のフローチャート、図9は図5のメニュー表示状態から呼び出されるコマンド判定処理のフローチャートである。以下、図1、2を参照し、図4〜図9の動作フローにしたがって説明する。
【0018】
携帯情報端末は、メニュー状態で起動し、図4に示すフローが実行される。ステップS100でユーザー入力によって待ち状態から動作状態になり次のステップに移行する。ステップS101で動作モード判定を行い、メニュー状態(メニューモード)であると判定された場合、ステップS102に移行し、方向モードでのトラックボール入力処理を行う。
【0019】
ステップS102によるトラックボール入力処理は、図6に示されるS116において操作モード判定を行い、その判定結果に基づき方向モードと座標モードの2種類の処理に分かれる。メニュー表示状態で用いられる方向モードでは、ステップS117の入力時間判定でトラックボール2の入力状態と時間経過によって、入力を無視するか入力を有効なものとするかの判断を行う。有効なものと判断された場合は、ステップS118で入力情報列一時保存処理として一時記憶上の作業配列に入力列の保存を行う。
【0020】
ステップS117の入力時間判定では、図7に示す入力時間判定処理が実行される。ステップS120に示す方向判定中かの判定処理で方向モードの内部状態が方向判定状態かどうかを確認し、方向判定状態に無い場合(非判定状態)は、ステップS121の入力開始閾値判定で通常の座標モードよりも大きな閾値を使用して判定を行い、閾値を超えていた場合またはボタンの押下が認められた場合は方向入力の開始として、ステップ122の方向モードの方向判定状態に移行する。次のステップS123で入力開始時刻保存により現在の内部時間を保存し、ステップS124の方向判定タイマ開始にて方向判定タイマを起動する。
【0021】
ステップS120の方向判定中かの判定処理において方向判定状態とされた場合(判定中)は、ステップS125の遊び期間終了判定にて、ステップS123の入力開始時刻保存により保存されている判定開始時刻と比較し、遊び期間内の場合は入力を無視し、遊び期間終了の場合はステップS126の集計期間終了判定に移行する。ステップS126の集計期間終了判定で集計期間内の場合のみ入力を有効とみなし、集計期間内の場合は、図6のステップS118に進む。
【0022】
ステップS124の方向判定タイマ開始処理にて起動された方向判定タイマは、設定された期間の後、図5に示すメニュー処理上のステップ108の方向判定タイマ待ちで捕捉され停止する。待ちから開放されたメニュー処理はステップS109の方向判定処理にて4または8方向、クリックまたは方向入力無しのいずれかを得る。
【0023】
ステップS109の方向判定処理は、図8に示すように、まずステップS127のクリック判定でS118の入力情報列一時保存処理によって記録された入力列の中にトラックボールまたはボタン押下が存在するかを判定し、1つでも存在する場合はS132のクリック出力でクリックを出力する。クリックを含まない場合は、S128の所定の閾値による足切り処理で座標モードで用いられるものと同じか大きく、方向モードでの入力開始判定で用いられるものよりは小さい閾値で入力情報列一時保存処理(S118)によって記録された入力列を選別し、S129の有効値判定で入力列の中に有効なものが一定数(1でも可、ボールの感度により調整する)以上含まれていない場合は方向出力無しとしてS133の非方向判定状態移行処理を行い、方向判定処理を終了する。有効な入力がある場合は、それぞれに対して4または8方向のいずれの方向に近いか(それぞれの方向の単位ベクトルとの内積が最大のもの)をカウントし、S131の方向出力処理で最もカウントの大きい方向を出力する。
【0024】
また、今回用いた方向一致回数を判定基準とする最多検索だけでなく、最大の絶対値を持つベクトルのみに注目する方法や、全ての入力を加算した平均(積分)ベクトルのみの代表ベクトルに対して方向一致を判定する方法も用いることができる。この場合は、ベクトル列を一時保存する領域が削減可能である。
【0025】
方向判定処理の次にステップS110のコマンド検出処理を行う。その後、もしS111の動作モード判定にてメニューモードで無ければ待ち状態に戻り、メニューモードであればS112のクリック判定にて方向判定処理の出力がクリックかどうかを確認し、クリック操作があればステップS114の画像表示モードへ移行処理によりメニューで選択中の画像を表示してからメニューモードを終了し待ち状態にもどる。S113の方向出力判定処理でクリック操作以外の方向出力があったかを確認し、方向入力があればS115のメニューカーソル移動で表示選択をするメニューカーソル5を8方向の入力に合わせて移動する。
【0026】
ステップS110のコマンド検出処理では、図9のS134の方向入力現在時刻保存処理にて保存した時間と同様に前回コマンド検出処理時に方向入力現在時刻保存(S134)にて保存した時間をステップS135の前回入力時刻比較で入力時刻間隔を判定し、その間隔が0.5秒以下であった場合はS141の方向列クリア処理でコマンドバッファをクリアしてコマンド検出無しとする。間隔が0.5秒以上の場合はS136の方向列一時保存で方向検出処理の結果を方向列の末尾に追加する。S138のコマンド列一致検索で追加された方向列がS137のコマンド列に予め記録されているコマンド列のいずれかと完全に一致するか文字列全部一致検索と同様に比較する。この場合、S137からのコマンド列には「上、上、下、下、左、右、左、右、ボタンB、ボタンA(トラックボールクリック)」のみが記録されており、方向列がこれと同様の場合のみS139の一致検査で「有り」となりコマンドに関連付けられた特別な処理をS140のコマンド実行で行う。
【0027】
画像表示状態へはメニューモードにおいてメニューカーソル5で画像を選択してクリック動作をすることにより移行し、表示画面4全体に選択された画像を表示する。画像表示状態の場合は、座標モードでS103のトラックボール入力処理を行う(図4)。その結果を得てS104のクリック判定でボールまたはボタンクリックを検出した場合は画像表示状態を終了し、S107のメニューモードへ移行処理でメニューを表示してからメニュー表示状態に遷移し、クリックが入力されていない場合はS105の移動判定処理でX/Yの移動量が閾値を超えているかを判定し、超えている場合はS106の画像表示位置修正処理でトラックボールのX/Yの移動量を画像表示位置の変位として再描画を行う。トラックボール入力処理はS116の操作モード判定処理にて方向モードと座標モードの2種類の処理に分かれ、画像表示モードで用いられる座標モードでは、S119の位置/ベクトル出力処理でトラックボールの入力をそのままX/Yの移動量やクリックボタンの押下状態として扱う。
【0028】
以上により、メニュー状態においてはトラックボール2を使い移動可能なメニューカーソル5により表示画像等の選択を行い、表示画像を選択してクリックをした場合には選択された画像が画面4いっぱいに表示され、画像表示状態ではトラックボール2を使い画像の表示位置を移動することができ、表示画面内に入りきらない大きな画像であってもボール2を回転させることにより任意に画面4をスクロールさせることができる。また、方向モードの入力処理が有効であれば、トラックボール2及びボタン3により、例えば「上、上、下、下、左、右、左、右、ボタンB、ボタンA(ボールクリック)」と連続して入力することでコマンド処理を実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかるトラックボール入力装置は、4または8方向への移動やクリックの操作入力の応答性及び操作性を向上させることができ、十字カーソルキー等に代えて、携帯電子機器、リモートコントロール機器等の操作手段を有する各種機器に適用可能なポインティングデバイス、入力装置や操作回路等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1によるトラックボール入力装置の外観図
【図2】同トラックボール入力装置の構成を示すブロック図
【図3】同トラックボール入力装置の表示動作を示す概念図
【図4】同トラックボール入力装置の定常ループで行う処理内容を示すフローチャート
【図5】同トラックボール入力装置のメニュー表示状態での処理内容を示すフローチャート
【図6】同トラックボール入力装置のトラックボール入力処理におけるフローチャート
【図7】同トラックボール入力装置の入力時間判定処理におけるフローチャート
【図8】同トラックボール入力装置の方向判定処理のフローチャート
【図9】同トラックボール入力装置のコマンド判定処理のフローチャート
【符号の説明】
【0031】
1 筐体
2 トラックボール
3 ボタン
4 画面
5 メニューカーソル
10 入力手段
11 検出手段
12 制御手段
13 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラックボールからの入力を決定する方法であって、
前記トラックボールから得られる座標情報に対して、所定の移動量及び移動期間から移動方向を検出し、少なくとも4または8方向及び移動の有無の確定した情報を出力するトラックボール入力方法。
【請求項2】
前記4または8方向の移動またはクリックの情報を確定した後、入力を無視する所定の期間を設けた請求項1記載のトラックボール入力方法。
【請求項3】
連続する前記4または8方向の移動またはクリックの確定された情報のパターンをコマンドとして解釈する請求項1記載のトラックボール入力方法。
【請求項4】
トラックボールからの入力を決定する装置であって、
前記トラックボールから得られる座標情報に対して、所定の移動量及び移動期間から移動方向を検出する検出手段と、
少なくとも4または8方向及び移動の有無の確定した情報を出力する制御手段と、を備えるトラックボール入力装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記4または8方向の移動またはクリックの情報を確定した後、入力を無視する所定の期間を設けた請求項4記載のトラックボール入力装置。
【請求項6】
前記制御手段は、連続する前記4または8方向の移動またはクリックの確定された情報のパターンをコマンドとして解釈する請求項4記載のトラックボール入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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