説明

トラック用墜落防止装置およびこれを備えたトラック

【課題】 作業場所の高さに応じて異なる高さ位置に複数本の親綱を張設することができ、安全性が高く、折り畳んだ状態でも少なくとも一本の親綱を張設させて作業効率を向上することができるトラック用墜落防止装置およびこれを備えたトラックを提供する。
【解決手段】 トラック10の荷台で作業を行う作業員の墜落を防止するための親綱2を張設する親綱張設支柱3を有するトラック用墜落防止装置1であって、親綱張設支柱3は、荷台の一側面側における前後位置にそれぞれ固定される一対の下方支柱31と、この下方支柱31の上部に折り畳み自在に連結される前後一対の上方支柱32とを有し、各上方支柱32は、上方親綱22を吊設する上方吊設部材42を備えており、各下方支柱31は、下方親綱21を吊設する下方吊設部材41を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックの荷台で作業を行う作業員の墜落を防止するためのトラック用墜落防止装置およびこれを備えたトラックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、労働安全衛生法では、作業場所の高さが2メートル以上の場合において、墜落により作業員に危険を及ぼすおそれのあるときは、墜落による作業員の危険を防止するための措置(作業床や安全帯等)を講じなければならないとされている。
【0003】
上記措置に関する技術として、例えば、実用新案登録第3102725号公報には、伸展、収縮及び折りたたみ可能な支柱がトラック荷台床面を占拠したり、車外に突出しないように構成し、トラック上における高所作業員の安全帯のための親綱を、トラック荷台の側面「あおり」の前後両端方向に沿って張り渡せる事を特徴とするトラック高所作業用安全帯取付支柱が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3102725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、親綱を有効に機能させるには、作業場所の高さに応じて適切な高さに親綱を張設することが必要であるところ、特許文献1では親綱を一本しか張設できない構成となっている。このため、荷物の積み降ろし作業によって作業場所の高さが連続的に変化すると、墜落を充分に防止できないという欠点がある。また、作業場所の高さが変化するたびに支柱を伸縮させ、親綱の高さを調節することも想定されるが、そのような調整作業は荷物の積み降ろし作業中には非常に面倒な作業であり作業効率が著しく悪く、実用的な対策ではない。
【0006】
また、親綱が適切な高さに張設されていない場合、墜落防止効果が低減するのみならず、安全帯のロープ部分等がだぶついてつまずき易くなる。このため、荷台面や荷物の上に乗って作業を行う玉掛け作業や荷縛り作業の際には、親綱や安全帯が作業の支障となり、却って危険が増すおそれもある。
【0007】
また、トラックに限らず、各種の自動車を道路で走行させる際には、車体に相当する部分が道路交通法で定められた高さの範囲内に収まっていなければならない。このため、特許文献1に記載された発明においては、トラックの走行を開始するたびに、支柱と共に親綱を収納する作業を強いられるばかりではなく、荷台上で作業を開始するたびに、支柱を立ち上げて親綱を張設しなければならず、作業効率が著しく悪いという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献1では、荷台の一方の側面に支柱を溶接して固定するため、他方の側面側に移動して使うことはできず、作業環境に応じて作業を行う荷台上の位置を選択できないという問題もある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、作業場所の高さに応じて異なる高さ位置に複数本の親綱を張設することができ、安全性が高く、折り畳んだ状態でも少なくとも一本の親綱を張設させて作業効率を向上することができるトラック用墜落防止装置およびこれを備えたトラックを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るトラック用墜落防止装置は、トラックの荷台で作業を行う作業員の墜落を防止するための親綱を張設する親綱張設支柱を有するトラック用墜落防止装置であって、前記親綱張設支柱は、前記荷台の一側面側における前後位置にそれぞれ固定される一対の下方支柱と、この下方支柱の上部に折り畳み自在に連結される前後一対の上方支柱とを有し、前記各上方支柱は、上方親綱を吊設する上方吊設部材を備えており、前記各下方支柱は、下方親綱を吊設する下方吊設部材を備えている。
【0011】
また、本発明の一態様として、前記各下方支柱には、前記上方吊設部材に吊り下げられている前記上方親綱および前記下方吊設部材に吊り下げられている前記下方親綱を引っ張って所定の張力を付与する張力付与部材が設けられていてもよい。
【0012】
さらに、本発明の一態様として、前記下方吊設部材は、前記各上方支柱の折り畳み軌道を確保するために、前記下方支柱の上端近傍であって、前記トラックの側面に略平行な側面に設けられていてもよい。
【0013】
本発明に係るトラックは、請求項1から請求項3のいずれかに記載のトラック用墜落防止装置を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作業場所の高さに応じて異なる高さ位置に複数本の親綱を張設することができ、安全性が高く、折り畳んだ状態でも少なくとも一本の親綱を張設させて作業効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るトラック用墜落防止装置およびこれを備えたトラックの一実施形態を示す全体図である。
【図2】図1の左側面図である。
【図3】本実施形態のトラック用墜落防止装置を示す一部拡大正面図である。
【図4】図3の右側面図である。
【図5】本実施形態のトラック用墜落防止装置を折り畳んだ状態を示す一部拡大正面図である。
【図6】本実施形態のトラック用墜落防止装置を示す平面図である。
【図7】本実施形態において、折り畳んだ状態のトラック用墜落防止装置を備えたトラックを示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るトラック用墜落防止装置1およびこれを備えたトラック10の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0017】
なお、本発明において、トラック10とは、荷台の側方と後方にあおり板を有する平ボディ車やダンプカー等のように、作業員が荷台または荷物の上で作業を行うことがある全ての車両を含む概念である。
【0018】
本実施形態のトラック用墜落防止装置1は、トラック10の荷台に設けられて作業員の墜落を防止するための装置であって、図1および図2に示すように、作業員に装着された安全帯のフックを引っ掛けるための親綱2と、この親綱2を作業場所の高さに応じて選択しうるように異なる高さ位置に複数本張設する一対の親綱張設支柱3,3とを有している。以下、各構成部について詳細に説明する。
【0019】
親綱2は、作業員に装着された安全帯のフックを引っ掛けるためのものである。本実施形態では、下方側に張設される下方親綱21と、上方側に張設される上方親綱22とを備えているが、この構成に限定されるものではなく、作業場所の高さに応じて異なる高さ位置に三本以上の親綱2を張設してもよい。また、本実施形態では、親綱2として鋼製ワイヤを使用しているが、これに限定されるものではなく、作業員が墜落する際の衝撃荷重に耐えうるロープ状のものであれば適宜選択してよい。
【0020】
親綱張設支柱3は、複数本の親綱2を異なる高さ位置に張設して支え、トラック10の荷台で作業を行う作業員の墜落を防止するものである。本実施形態において、親綱張設支柱3は、図1から図4に示すように、荷台の一側面側における前後位置にそれぞれ固定される一対の下方支柱31,31と、この下方支柱31の上部に折り畳み自在に連結される前後一対の上方支柱32,32とを有している。
【0021】
各下方支柱31は、親綱張設支柱3の基部に相当し、下方親綱21を張設するためのものである。各下方支柱31の上端近傍には、下方親綱21を吊設する下方吊設部材41が設けられている。この下方吊設部材41は、一部が開閉できる金属製のリングで構成されており、当該リングに下方親綱21を通して吊った状態で保持するようになっている。
【0022】
また、各下方支柱31は、図1に示すように、側面あおり板11の前後位置に設けられた一対の差込アダプター12,12に、下端部を差し込んで固定する。本実施形態では、図2に示すように、他方の側面あおり板11の前後位置にも一対の差込アダプター12,12を設けているため、作業環境に応じて親綱張設支柱3の設置位置を選択することが可能である。
【0023】
一方、各上方支柱32は、下方支柱31の上部に折り畳み自在に連結され、上方親綱22を張設するためのものである。各上方支柱32の上端近傍には、上方親綱22を吊設する上方吊設部材42が設けられている。この上方吊設部材42は、下方吊設部材41と同様、一部が開閉できる金属製のリングで構成されており、当該リングに上方親綱22を通して吊った状態で保持するようになっている。
【0024】
なお、下方吊設部材41および上方吊設部材42は、上記構成に限定されるものではなく、作業員が墜落する際の衝撃荷重に耐え得る強度を有し、親綱2を吊るして保持しうるものであれば、適宜選択してよい。
【0025】
また、本実施形態では、図3から図5に示すように、各下方支柱31と各上方支柱32とを折り畳み自在に連結するための連結部材5が設けられている。この連結部材5は、下方支柱31の上端部に設けられた回転軸51と、上方支柱32の下端部に設けられた軸受部52とからなり、上方支柱32を下方支柱31に対して回動自在に軸支する。また、上方支柱32の下端部には、内方に突出した部分に挿通孔61が形成されている。そして、この挿通孔61に固定ピン62を挿通すると、上方支柱32の回動が阻止され、立ち上げた状態で保持されるようになっている。
【0026】
また、本実施形態において、各下方支柱31には、図3および図4に示すように、他方の親綱張設支柱3に向かい合う面に、上方親綱22および下方親綱21の両端を下方に引っ張って所定の張力を付与する張力付与部材7が設けられている。この張力付与部材7は、上方親綱22および下方親綱21の端部を保持する保持部71と、この保持部71を下方に回動することで引っ張る引張部72と、この引張部72を操作する操作部73とを有しており、各親綱2の張力を調整する作業が一連の動作で行えるようになっている。
【0027】
さらに、本実施形態において、各下方吊設部材41は、図6に示すように、トラック10の側面に略平行な側面において、互いに左右対称位置に設けられている。このため、下方親綱21が一対の下方支柱31および上方支柱32を結ぶ中心線に対して交差するように張設されるため、親綱張設支柱3にかかる荷重がトラック10の外側または荷台側に偏るのを防止し、かつ各上方支柱32の折り畳み軌道を確保するようになっている。
【0028】
また、本実施形態では、図3から図5に示すように、折り畳み状態において、上方支柱32の先端部をロックするロック部材8が、下方支柱31の略中間部に設けられている。このロック部材8は、その下端部が下方に突出する方向へ付勢されており、前記上方支柱32が折り畳まれた際に前記ロック部材8の下端部に前記上方支柱32の先端部に設けられたリングを係止するようになっている。
【0029】
なお、本実施形態では、下方支柱31の側面に、下方支柱31を補強するための補強鋼材9が設けられているが、この構成に限定されるものではなく、下方支柱31が十分な強度を有していれば、補強鋼材9は不要である。
【0030】
つぎに、以上の構成を備えた本実施形態のトラック用墜落防止装置1およびこれを備えたトラック10の作用について説明する。
【0031】
まず、本実施形態のトラック用墜落防止装置1を備えたトラック10の荷台で作業を行う場合、各上方支柱32を立ち上げて固定ピン62で固定した後、張力付与部材7の操作部73を引き下げる。これにより、張力付与部材7が、上方親綱22および下方親綱21を引っ張って所定の張力を付与するため、図1に示すように、各上方吊設部材42および各下方吊設部材41が異なる高さ位置に親綱2を張設する。
【0032】
このため、作業員は、作業場所の高さに応じて、上方親綱22または下方親綱21のいずれかに安全帯のフックを引っ掛けるだけで墜落が防止される。また、荷物の積み降ろし等によって作業場所の高さが変わっても、当該高さに適した親綱2に安全帯のフックを掛け変えるだけで安全が確保され、作業効率が向上する。さらに、常に適切な高さ位置の親綱2に安全帯を接続するため、安全帯のロープ部分等につまずき難くなり、従来よりも格段に安全性が向上する。
【0033】
また、本実施形態では、張力付与部材7が、上方親綱22および下方親綱21の双方を同時に緊張させて必要な張力を付与するため、親綱2の張設作業が迅速化する。さらに、本実施形態では、下方支柱31に対して互いに左右対称位置に設けられた各下方吊設部材41が、親綱張設支柱3にかかる荷重の偏りを防止するとともに、補強鋼材9が下方支柱31を補強するため、親綱張設支柱3の破損が防止される。
【0034】
一方、移動のためにトラック10を走行させる場合、固定ピン62を挿通孔61から抜いた後、図5に示すように、各上方支柱32を下方へ回転させる。これにより、各親綱張設支柱3が簡単に折り畳まれ、道路交通法で定められた高さの範囲内となるため、走行の妨げにならない。また、本実施形態では、図6に示すように、各下方吊設部材41が上方支柱32の折り畳み軌道を確保する位置に設けられているため、下方親綱21を緩やかに張設したまま上方支柱32の折り畳み作業が可能となり、安全性の確保と作業効率が向上する。
【0035】
さらに、本実施形態のトラック用墜落防止装置1は、図7に示すように、各親綱張設支柱3を折り畳んだ状態でも下方親綱21が緩やかに張設された状態を維持する。このため、作業場所の高さが低い場合には、トラック10を停止させた後、上方支柱32を立ち上げる必要がなく、下方親綱21のみを使用して直ちに荷台での作業が開始される。
【0036】
なお、本実施形態では、ロック部材8が上方支柱32をロックするため、トラック10の走行中に上方支柱32が揺動するのを防止する。このため、上方支柱32が荷物に衝突し破損させてしまうことがない。また、親綱張設支柱3は、差込アダプター12への抜き差しによって容易に設置位置を変えられるため、作業環境に応じた作業が可能となる。さらに、既存のトラック10に差込アダプター12を設け、少数セットの親綱張設支柱3を用意するだけで、複数台のトラック10に共用でき、ローコストでの導入が可能となる。
【0037】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.作業場所の高さに応じて異なる高さ位置に複数本の親綱2を張設することができる。
2.常に適切な高さの親綱2に安全帯のフックを接続でき、作業員の安全を確保することができる。
3.親綱張設支柱3を折り畳んだ状態でも少なくとも一本の親綱2を張設させておくことができるため作業の安全性の確保と作業効率を向上することができる。
4.複数本の親綱2に対し、同時に所定の張力を付与することができ、設置作業を容易にすることができる。
5.親綱張設支柱3にかかる荷重の偏りを防止し、安全性を向上することができる。
6.下方親綱21を張設したまま上方支柱32を簡単に折り畳むことができる。
7.作業環境に応じて、親綱張設支柱3を設置する位置を簡単に変更することができる。
8.親綱張設支柱3を複数台のトラック10で共用でき、導入コストを低減することができる。
【0038】
なお、本発明に係るトラック用墜落防止装置1およびこれを備えたトラック10は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0039】
例えば、上述した本実施形態では、折り畳んだ状態において、下方親綱21のみが張設されるが、この構成に限定されるものではない。例えば、下方支柱31および上方支柱32の異なる高さ位置に下方吊設部材41および上方吊設部材42を複数個配置し、複数本の下方親綱21および上方親綱22を張設してもよい。また、本実施形態では、親綱張設支柱3を折り畳み自在に構成しているが、この構成に限定されるものではなく、伸縮自在に構成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 トラック用墜落防止装置
2 親綱
3 親綱張設支柱
5 連結部材
7 張力付与部材
8 ロック部材
9 補強鋼材
10 トラック
11 側面あおり板
12 差込アダプター
21 下方親綱
22 上方親綱
31 下方支柱
32 上方支柱
41 下方吊設部材
42 上方吊設部材
51 回転軸
52 軸受部
61 挿通孔
62 固定ピン
71 保持部
72 引張部
73 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラックの荷台で作業を行う作業員の墜落を防止するための親綱を張設する親綱張設支柱を有するトラック用墜落防止装置であって、
前記親綱張設支柱は、前記荷台の一側面側における前後位置にそれぞれ固定される一対の下方支柱と、この下方支柱の上部に折り畳み自在に連結される前後一対の上方支柱とを有し、
前記各上方支柱は、上方親綱を吊設する上方吊設部材を備えており、前記各下方支柱は、下方親綱を吊設する下方吊設部材を備えている、トラック用墜落防止装置。
【請求項2】
前記各下方支柱には、前記上方吊設部材に吊り下げられている前記上方親綱および前記下方吊設部材に吊り下げられている前記下方親綱を引っ張って所定の張力を付与する張力付与部材が設けられている、請求項1に記載のトラック用墜落防止装置。
【請求項3】
前記下方吊設部材は、前記各上方支柱の折り畳み軌道を確保するために、前記下方支柱の上端近傍であって、前記トラックの側面に略平行な側面に設けられている、請求項1または請求項2に記載のトラック用墜落防止装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のトラック用墜落防止装置を備えたトラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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