説明

トランス‐またはシス−ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)の調製方法および医薬活性物質の製造でのその使用

本発明はトランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)およびその誘導体の調製方法に関する。トランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロ白金(II)を過酸化物>30%含有溶液と30℃未満の温度で反応させ、このようにして得られた生成物を鉱酸に溶解し、続いてアルカリ溶液で沈殿させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(diammoniumdichlorodihydroxoplatinum)(IV)、前記化合物に由来する塩および誘導体の調製方法に関し、本発明はまた細胞増殖、細胞分化および/または細胞分裂に関連する疾患、特に腫瘍の予防、治療、追跡およびアフタケアにおけるこれらの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン、バナジウム、ならびに金、白金などの金属がリウマチ、癌、自己免疫疾患などの急性、慢性疾患の治療に使用できることはよく知られている。その使用される金属は治療しようとする生物体と錯体化合物という形で、多くの場合に経口摂取によって接触することが多い。
【0003】
これらの金属を含む錯体化合物は要求される医薬純度で製造することが困難である。記載されている多数の製造法では十分な医薬純度の化合物が得られないか、または生物体に望ましくない副作用を生じさせる多数の副生成物を生ずる。特に医薬上興味深いシス-およびトランス‐オキソ白金化合物を必要な純度で、または副生成物がなく調製することは既知の方法では不可能である(SU1137698A1、SU1021116A1(特許文献1、2))。SU1137698A1(特許文献1)は、シス-ジアミノジクロロジヒドロオキソ白金(IV)の調製方法を開示している。その中で開示されている調製方法は、純度99〜99.6%の最終生成物を達成している。
【0004】
さらに、従来技術(Kelland et al., Cancer Research, 1992(非特許文献1))には、シス白金化合物の様々なアシル誘導体が開示されている。Kellandらの教示によれば、卵巣癌細胞系にこれらの化合物が作用する際に不可欠なものは、アシル残基ではなく窒素残基上の置換基である。彼らの意見では、窒素残基上の置換基とこの化合物の細胞障害活性には密接な関係がある。シス白金化合物の細胞毒性の活性は窒素残基上の置換基の炭素原子の量の増大と共に増大する。すなわち、Kellandらによる説明に従えば、当業者達はアシル残基を他の部分によって、例えばアルキル残基によって置換する動機を持たなかった。というのは、当業者の関心は、Kellandらにより窒素残基上の置換基に引き寄せられたからである。Kellandらに従うと、当業者がそれぞれのシス白金化合物中に、窒素残基上の置換基としてなるべく多数の炭素原子を有する置換基を導入するということは理に適っている。Kellandらによれば、環化合物が特に有利であり、従って当業者は他の特に非常に大きな環化合物をシス白金化合物中にアミンリガンド置換によって導入する気にさせられただろう。
【特許文献1】SU1137698A1
【特許文献2】SU1021116A1
【非特許文献1】Kellandet al., Cancer Research, 1992
【特許文献3】EP0682528
【特許文献4】DE19851282
【発明の開示】
【0005】
従って本発明の目的は、シス-またはトランス‐オキソ白金化合物の容易で確実、かつ効率的な供給を可能にする方法を提供することである。
【0006】
本発明は、シス-もしくはトランス‐ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)またはジアンモニウムジクロロ‐トランス‐ジヒドロオキソ白金(IV)、ならびにその誘導体の調製方法によって上記の目的を実現し、そこでは、シス-またはトランス‐ジアンモニウムジクロロ白金(II)を過酸化物>30%含有溶液と30℃未満の温度で反応させ、こうして得られた生成物を鉱酸に溶解し、続いてアルカリ溶液で沈殿させる。
【0007】
驚くべきことに、過酸化物>30%含有溶液の特徴と比較的低温、すなわち30℃未満の温度との組合せによって、望ましくない副生成物を少量しか得られないような方式で、オキソ‐シス白金化合物およびオキソ‐トランス‐白金化合物を容易で確実に生成できるようになる。本発明による方法は、出発化合物としてシスまたはトランス‐ジアンモニウムジクロロ白金(II)化合物を使用し、この化合物が対応するジアンモニウムジクロロ‐トランス‐ジヒドロオキソ白金(IV)のシス形またはトランス形に転換される。有利には、過酸化物含有溶液を長時間かけて、好ましくは連続方式で出発化合物に加える。過酸化物含有溶液は反応中に過酸化物を遊離する溶液、またはその特異的構造のために、例えば過酸化水素溶液や過塩素酢酸溶液の場合のように、機能的に類似した方式で挙動する溶液であり得る。
【0008】
本発明による方法では、高収率、高純度の反応生成物が、非常に安全に進行する反応と組み合わせられている。公知の方法とは対照的に、例えば、白金の損失をまねく反応混合物の起泡および飛散を防止する。得られる生成物が高純度なので、塩や誘導体などの医薬活性物質に更なる好ましい加工することができる。もちろん、本発明による方法はまた、技術的または工業的規模で所望の化合物を製造するのに適している。
【0009】
本発明による方法では、出発物質に特に高濃度の過酸化水素溶液を低温で、場合によっては冷却しながら、繰り返して加え、長時間例えば数日間反応させる。上記の反応ステップによって固体生成物、例えば、初期沈殿物を得ることができ、鉱酸を加えることによってこの生成物を溶解させる。これに続き、好ましくは濃アルカリ溶液を使用して沈殿させる。
【0010】
その後に、こうして得られた生成物を洗浄し、真空乾燥することができる。
【0011】
すなわち、シスまたはトランス‐ジアンモニウムジクロロ白金(II)を反応させることによって得られた生成物は溶液または固体であり、得られた生成物は初期の沈殿物であることが好ましい。得られた生成物を鉱酸、例えば、リン酸や硫酸と反応させる。本発明により得られた生成物が沈殿物である場合には、前記の沈殿物は前記の鉱酸によってほとんど溶解する。このように鉱酸で溶解した沈殿物を、続いてアルカリ溶液で、例えば、濃水酸化ナトリウム溶液で処理し、第2の沈殿物を形成する。シス-またはトランス‐ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)沈殿物のその後の加工は、得られた反応生成物の希望する使用によって変り、当業者には周知である。
【0012】
本発明の好ましい実施態様では、過酸化物含有溶液は高濃度過酸化水素溶液である。前記の過酸化水素溶液は>30%の過酸化水素溶液であることが好ましく、35%過酸化水素溶液がより好ましい。当業者には周知なように、過酸化水素溶液はその酸化作用を増大させる他の成分を含んでよい。例えば、30%過酸化水素と70%過塩素酢酸の溶液の使用が有利であることがある。過塩素酢酸を含むが、過酸化水素溶液を含まない溶液を使用することもできるのは明らかである。過酸化水素および過塩素酢酸に加えて、過酸化物を発生させ、または提供する機能的に類似した様々な化合物や溶液、例えば、過酸化ナトリウムや過酸化カリウムが当業者には公知である。
【0013】
本発明の別の好ましい実施態様では、シス形またはトランス形いずれかのジアンモニウムジクロロ白金(II)と過酸化物含有溶液、好ましくは過酸化水素溶液との反応は室温で行われる。本発明で意味する室温とは20℃〜29℃であり、23℃〜27℃が好ましく、24℃〜25℃の範囲がより好ましい。しかし、本明細書から理解できるように、室温は固定した温度範囲ではなく、他の工程パラメータに応じて、本発明の意味する室温はさらに低くても高くてもよい。
【0014】
特に好ましい方式では、シス-またはトランス‐ジアンモニウムジクロロ白金(II)の反応または本発明の方法全体を20℃未満で実施し、15℃未満がより好ましく、10℃未満が更に一層好ましく、特に7℃未満で実施する。さらに、約4℃の温度を実現するために、氷水による冷却下で反応を実施するのが特に好ましいであろう。必ずしも4℃でなければならないわけではないが、そのような冷却によって多くの副生成物の形成が有利に抑えられる。
【0015】
本発明の別の好ましい実施態様では、過酸化物含有溶液とシス-またはトランス‐ジアンモニウムジクロロ白金(II)との反応から得られた生成物を溶解できる酸を鉱酸として使用するが、この酸は硫酸であることが好ましい。もちろん、当業者に公知のリン酸、硝酸、炭酸、その他など、他の鉱酸も使用することができる。そのような鉱酸の要求される濃度は当業者が容易に決定することができる。上記の酸の量および濃度は特に得られた生成物が初期の沈殿物であるならば、得られた生成物を溶解できるように特に選択すべきである。有利には、極く少量の鉱酸、例えば、ちょうど十分な量の0.5N硫酸を使用するだけでよいように濃度を選択する。
【0016】
本発明の好ましい実施態様では、水酸化ナトリウム溶液をアルカリ溶液として使用する。前記の水酸化ナトリウム溶液は25%、30%、33%または35%の水酸化ナトリウム溶液が有利である。水酸化ナトリウム溶液以外にも、他のいかなる塩基性化合物も、鉱酸で得られた生成物を沈殿させるために使用できることは当業者には周知である。アルカリ溶液は最終生成物が可能な限り高純度であり、副生成物の形成が可能な限り少ないように選択しなければならない。これは、当業者により定型の試験で決定することができる。
【0017】
本発明の別の実施態様では、トランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロ白金(II)は過酸化物、特に高濃度の過酸化水素を含有する溶液を冷却し、頻回添加しながら、12〜96時間にわたって、好ましくは24〜48時間にわたって反応させることが好ましい。ここでは、冷却は単に、温度が持続的に30℃を超えないことを意味する。しかし、一定の状況下では、この温度を短時間超えることもあり得て、望ましいこともあり得る。好ましい冷却の型は、大規模で効果的に、安全に、安価で実現することができる型、例えば、氷水または氷水/塩の混合物による冷却である。冷却は化学反応が旨く制御可能に進行するように、特に高濃度の過酸化水素溶液を出発物質と反応させることができるように選択するのが好ましい。本発明の意味において制御可能とは、例えば、白金金属の飛散や他の形で反応混合物から散逸するような激しい化学反応がないことを意味する。出発物質の濃度および選択に応じて、冷却温度は10℃未満の温度が好ましく、3℃〜7℃の範囲の温度がより好ましいであろう。最終生成物および存在し得る副生成物の純度を分析することによって、反応全体または反応の単に一部分のステップを前記の温度で実施すべきかどうか、当業者は容易に決定することができる。従って、例えば、3℃〜7℃の範囲の温度では、出発物質と過酸化物、例えば、過酸化水素溶液を含む溶液の反応だけを実施することが有利かもしれないが、前記温度範囲内で本発明の方法全体を実施することも等しく有利かもしれない。
【0018】
有利には、30℃未満の適当な温度と対応する過酸化物含有溶液の濃度を常法に従って見出すことによって、トランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)の理論算出量の60%を超える反応生成物収率、好ましくは65%を超える、特に好ましくは、67%を超える反応生成物収率を本発明の別の好ましい実施態様で実現することができる。
【0019】
本発明は、次の一般式の化合物にも関する。
【化1】

[式中、X,X=カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、アルキル残基および/またはアリール残基である]
【0020】
前記の一般式のそれぞれの化合物は構造が完全に異なっていてもよい。すなわち、XおよびX=カルシウムおよび/またはマグネシウムである場合には、例えば、それぞれの二価のカチオンは酸素分子を介して2個の白金錯体に結合することができ、その結果2個の錯体化合物は会合する形で存在する。しかし、XおよびXがナトリウムまたはリチウムの場合には、例えば、1個の白金錯体のみを有する化合物が存在することもあり得る。好ましい方式では、Xはそれぞれが1個の白金中心原子を含む2個の錯体に結合した二価のカチオン、例えば、カルシウムやマグネシウムであってもよく、Xはナトリウム、カリウム、リチウム、アルキル残基および/またはアリール残基であってもよい。従って、本発明による方法によって得られた塩基から、単一化合物中にそれぞれ、一価、二価もしくは三価のイオンを備えた、または一価と二価のイオンを備えた、あるいは一価および二価のイオンとアルキル残基および/またはアリール残基を備えた、トランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)塩を得ることができる。好ましい塩は、カチオンとして元素周期表の主族I〜Vまたは亜族I〜VIIIの元素を含む塩である。特に好ましい方式では、カリウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、銀、銅、バナジウムまたはカルシウムの塩が使用され、その場合、アニオンは、例えば、塩素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオンまたは炭酸イオンその他であってよい。塩を形成することができる他の元素は当業者には周知であり、例えば、元素周期表の主族I〜Vの元素全ておよび亜族I〜VIIIの元素であり、元素周期表の上記の元素の全てはシス-オキソ白金塩を形成することができる。例えば、好ましいアルキル残基はメチル、エチルまたはプロピル残基であり、好ましいアリール残基はフェニル、ナフチルまたはアントリル残基である。特に、塩および誘導体が本発明による方法によって生成した塩基からもたらされる場合には、これらには、シス-またはトランス‐ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)と比較して幾つかの利点がある。驚くべきことに、その塩基と比較してこの塩は、他の活性物質もしくはビタミンとの結合または他の周知の医薬品、例えば、抗腫瘍剤との結合が有利に可能なように溶解度が高い。驚くべきことに、特に本発明による塩の0.1N HCl中の溶解度は対応する塩基の溶解度の数倍以上も高い。そのような濃度はほぼ胃酸濃度に相当し、すなわち本発明による塩は、特に、医薬品の形で経口摂取によりあるいは他の方法で胃に到達したときに胃で直ちに溶解する。このことは特に、胃腫瘍の処置に有利であり、または本発明の化合物が胃内での吸収により生物体の様々な領域に到達し得ることを確実にし特に有利である。この塩および誘導体は、それらが得られる塩基よりも、生体利用能が高く、低い投薬量で効果が大きいので、副作用が少ない。また、肝臓や腎臓などの重要な代謝器官での塩の滞留時間は元化合物のそれよりも短い。塩、特に、一価および二価のカチオンが一緒になって本発明による化合物を形成するその構造は、例えば腎臓や肝臓で生成する付加体が少なく、従って腎毒性も少なく、肝臓への毒性も低い。さらに、これらは胃腸経路に、より適している。しかし、これらの利点は、一価および二価のカチオンで得られた塩に限らない。より特異的には、本発明による化合物は腫瘍の予防および治療において有利に使用することができる。従って、本発明はまた、医薬において、特に薬物の製造のために本発明の化合物を使用することにも関する。
【0021】
本発明による化合物は治療量で生物体に接触し、この場合に、本発明の化合物は医薬品または薬物として使用され、従って本発明中、これらの用語を同義に使用してもよい。本明細書で使用する表現「治療量」は、疾病症状または応答性病理的生理状態の症状を防止し、もしくは改善する量を示す。本発明の具体的実施態様では、投与量はその増殖中の腫瘍を予防もしくは阻害するのに十分であり、前記の量は本質的にレシピエントにおいて腫瘍、腫瘍血管新生、腫瘍浸潤および/または腫瘍転移の伝播を予防しまたは阻害し、その腫瘍疾患は新生物性腫瘍、炎症性腫瘍および/または膿瘍、浸出、浮腫の群から選択される。上記のように、従って本発明は任意に医薬アジュバントと共に本発明の化合物を含む医薬品または薬物に関する。
【0022】
予防の場合の健常人、または治療の場合の患者に使用すべき本発明の化合物の量が処方され、その用量は、治療しようとする疾病、個々の患者ごとの状態、投与部位、投与手順および主治医によく知られている他の要因を考慮して、従来の医療行為に従って確立される。同様に、投与した本発明の化合物の用量は腫瘍の特徴、血漿中の本発明の化合物の生体内半減期および処方中の本発明の化合物の濃度さらに投与経路、部位および投薬頻度、各個体(ヒトおよび動物)の臨床耐性、患者の病理学的傷害などにより変り、内科医または他の当業者によく知られている通りである。一般に、個体当たり約0.1〜1000mgの投薬量が好ましく、特に好ましくは10〜500mgの投薬量であり、200〜400mgがさらに一層好ましく、特に300mgが好ましい。一連の連続的な投与中に種々の投薬量を使用することも可能である。
【0023】
本発明の化合物、例えば、カプセル化するまたは担体に結合させた本発明の化合物の治療投与経路としては、例えば(筋肉内、皮下、血管への)注射が想定されるが、カテーテルまたは外科チューブによるエアロゾルの形での供給も適用可能である。他の好ましい経路には経口投与用の懸濁液、錠剤、カプセルなど、液体製剤用の市販の噴霧器、凍結乾燥もしくはエアロゾル化した化合物の吸入および直腸もしくは膣投与用の座薬が含まれる。液体製剤は溶液、シロップ、混合液剤、懸濁液、乳濁液、滅菌薬物形(滅菌アンプル、セプタムバイアル、注入液、凍結乾燥物)および/またはローションであってよい。選択したパラメータの適合性、例えば、投薬量、治療計画、アジュバントの選択などは患者すなわち、ヒトまたは動物から血清量を採取し、投与経過中に試験することによって決定することができる。患者の免疫体質の全般的な概要を得るために、二者択一にまたは同時進行で、T細胞または免疫系の他の細胞の量を従来の方式で求めることができる。さらに、所望の効果を求めて患者の臨床状態を観察することもできる。特に、腫瘍の増殖および転移を求めることができる。腫瘍は、他の疾患、例えば感染に伴うこともあるので、感染の追加同時モニタリングも可能である。
【0024】
一般に、本発明の水性製剤と乾燥化合物は処置前に、例えば溶媒で安定化作用を付与するために賦形剤と混合することができる。本発明による化合物の水溶液は懸濁液または溶液中の本発明の化合物であることもできる。調製、提供および投与の他の形態は当業者には周知であり、例えば、ゲル、粉薬撒布(poudrage)、粉剤、錠剤、持続放出錠、プレミックス、乳濁液、煎じ(brew-up)製剤、滴剤、濃縮物、顆粒剤、シロップ、ペレット、丸薬、カプセル、エアロゾル、スプレーおよび/または吸入薬として周知である。固形腫瘍または白血病の処置には転移、浸潤および/または血管形成の予防、阻止、診断、減弱、治療、追跡および/またはアフタケアが含まれ、前記追跡とは抗腫瘍処置の有効性のモニタリングである。
【0025】
本発明の化合物は保存料と共に溶液内に組込むことができる。懸濁液または溶液の適当な保存料の例にはフェノール、ベンジルアルコール、m−クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンズアルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが含まれる。一般に、本発明による化合物製剤は安定な形態の製造に悪影響を及ぼさない量で、かつ効果的で、安全な医薬投与に適した量の成分を含んでもよい。例えば、当業者には周知の他の医薬上で受容可能な賦形剤は本発明による化合物または製剤の一部を形成してもよい。例えば、これらには塩、種々の充填剤、追加の緩衝剤、キレート剤、抗酸化剤、共溶媒などが含まれる。
【0026】
本発明の好ましい実施態様では、本発明の化合物は、リポソーム、シオソーム(siosome)、および/またはニオソーム(niosomes)と会合する。
【0027】
例えば、このことは本発明による化合物をリポソームにカプセル化するまたはリポソーム表面上に固着するような方式で実現することができる。リポソームの人工膜または天然膜は免疫刺激作用を有する可能性があり、特に、成分がリポソーム表面に結合するまたはリポソーム内にカプセル化される、あるいは単純にリポソームと一緒に混合される場合には、そのことが当業者には周知である。そのようなリポソーム製剤は非経口経路で適用することができる。公知の方法、例えばスプレーを使用して、そのような製剤を鼻腔粘膜上に経鼻適用することができる。好ましい方式では、スプレーを使用する治療は肺癌または耳鼻咽喉領域内の腫瘍の処置に適している。特に経鼻投与では本発明の化合物を粘膜浸透または吸収可能にする状態で粘膜に適用しなければならない。このような理由で、小胞は粘液と生体適合し、かつある程度の親水性がなければならない。例えば、そのような構造はEP0682528から当業者に知られており、この教示は本明細書の発明の開示に組み込まれている。リポソーム組成物は以下の表面活性物質および吸収促進剤などから選択した一種以上の追加の医薬用担体を含んでよい:ポリオキシエチレンアルコールエーテル、その胆汁酸塩および誘導体、フシジン酸(fusidinic acid)およびその誘導体、オレイン酸、レシチン、リゾレシチン、Tween(登録商標)21〜85など;グリコフロール、ポリエチレングリコール200〜7500、ポリビニルピロリドン、プロピレングリコールまたはポリアクリル酸、ゼラチン、セルロースおよび誘導体などの水分吸収性ポリマー;アプロチニンなどの酵素分解阻害物質;アルコール、例えば、エタノール、グリセリン、ベンジルアルコールなどの有機溶媒;または酢酸エチルなど;植物油、大豆油、ピーナッツ油、ココナッツ油、コーン油、オリーブ油、ヒマワリ油、「マイグリオール(miglyol)」またはそれらの混合物などの疎水性剤;硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸塩などのpH調節剤;保存剤およびグリセリン、塩化ナトリウム、メチルパラオキシベンゾエート、安息香酸などの浸透圧調節剤;リポソームおよび/またはレシチンなどの乳化剤;マイクロカプセル化剤;ブタンなどの噴霧剤。
【0028】
本発明の別の実施態様では、本発明による化合物は任意に互いに会合し、あるいは担体に結合し、リポソーム中に封入されることが好ましく、リポソーム中のそのような封入物は-本発明の意味では-本発明の化合物がリポソーム内に存在するということを必ずしも意味するわけではない。本発明の意味における封入物は本発明の化合物がリポソーム膜に会合し、例えば化合物が外膜上に固着されるように会合することを意味してもよい。リポソーム中またはリポソーム上での本発明の化合物のそのような存在はリポソームが免疫刺激作用を有するようリポソームを当業者が選択する場合に有利である。当業者には、リポソームの免疫刺激作用を改変する種々の方式がDE19851282から公知である。脂質はエステルやアミドまたは複合脂質、例えば、セレブロシドやガングリオシドなどの糖脂質、スフィンゴ脂質、リン脂質などのように通常の脂質であってもよい。
【0029】
本発明の意味では本発明の化合物を含む薬物の成分となり得る担体はその免疫原性挙動の結果として抗体応答を刺激する蛋白質であってもよいが、QS‐21、GPI‐0100、他のサポニンなど、当業者には周知の医薬アジュバント、モンタニド(Montanides)、ポリリジン、ポリアルギニン化合物などの水油乳濁液、他にも例えばリン酸緩衝食塩水、水、種々の種類の洗剤、滅菌溶液などでもよい。
【0030】
本発明の意味における医薬品は医薬の分野におけるあらゆる薬剤であり、生物体のその全体的状態または特定の領域の状態の病原性の改変が少なくとも一時的に確立できるような方式で、この薬剤は腫瘍患者の予防、診断、治療、追跡またはアフタケアに使用することができる。従って、例えば、本発明の意味における医薬品は、ワクチンまたは治療剤であることもできる。本発明の化合物に加えて、本発明の意味における医薬品は例えば、受容可能な塩やその成分を含んでもよい。例えば、これらはリン酸などの無機酸塩または有機酸塩であってよい。
【0031】
さらに、その塩はカルボキシル基を含まず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄などの無機塩基から誘導してもよく、またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2‐エチルアミノエタノール、ヒスチジンなどの有機塩基から誘導してもよい。液体担体の例にはそれ以外の物質または活性成分を含まない滅菌水溶液、例えば、水あるいは生理的pHを有するリン酸ナトリウムなどの緩衝液または生理食塩溶液を含む滅菌水溶液またはその両方を含むリン酸緩衝化塩化ナトリウム溶液などの滅菌水溶液がある。他の液体担体は一種のみの緩衝塩より多数、例えば、塩化ナトリウムおよび塩化カリウム、デキストロース、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを含んでもよい。しかし医薬品の液体組成物はさらに、水を除外した液相を含んでよい。そのような追加の液相の例はグリセリン、植物油、有機エステルまたは水油乳濁液である。典型的には、医薬組成物または医薬品は全医薬組成物に対して本発明による化合物を少なくとも0.1重量%の含有量で含む。本発明による医薬品を投与するためのそれぞれの用量または投薬量の範囲は、中和抗体形成の所望の予防または治療効果を実現するために、十分に高くまたは広い。この意味において、望ましくない副作用が優位になるようには選択すべきではない。一般には、用量は患者の年齢、体質、性別によって異なり、もちろん疾患の重症度に応じても異なる。個々の用量は主要疾患について、かつ追加の合併症の出現についても調節することができる。周知の手段および方法を使用し、正確な用量を、例えば、投薬量の関数として、または投与計画もしくは医薬担体などの関数として、腫瘍増殖を求めることによって、当業者は決定することができる。患者に応じて用量を別個に選択することができる。例えば、患者が正しく忍容する医薬品の用量は、血漿中または局所、特に器官中の用量範囲が、0.1〜10,000μMのようなものであってもよく、1〜100μMが好ましい。あるいは、用量は患者の体重に関連して計算することができる。この場合、医薬品の典型的な用量は例えば、体重1kgにつき0.1μg〜100μgの範囲で調整しなくてはならず、1〜50μg/kgが好ましい。しかし、さらに、その患者全体ではなく特定の器官を基準として用量を求めることも可能である。例えば、このことは、それぞれの患者内の、手術によって特定の器官の近傍に組み込まれた生体高分子中などに本発明による医薬品を置く場合であろう。望ましい方式でペプチドまたは組換え蛋白質を放出することができるいくつかの生体高分子は当業者には公知である。例えば、そのようなゲルは本発明のアミノ酸配列、例えば、ペプチドまたは組換え蛋白質を、例えばゲル組成物1ml当たり医薬品を1〜1000μg含んでよく、5〜500μg/mlが好ましく、10〜100mg/mlがより好ましい。この場合、治療剤は固体組成物、ゲル様組成物または液体組成物として投与される。
【0032】
本発明の別の好ましい実施態様では、担体を充填剤、希釈液、結合剤、湿度付与剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸着剤および/または滑沢剤の群から選択する。
【0033】
充填剤および希釈液は好ましくは澱粉、ラクトース、蔗糖、グルコース、マンニトールおよびシリカであり、結合剤は好ましくはカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドンであり、湿度付与剤は好ましくはグリセリンであり、崩壊剤は好ましくは寒天、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムであり、溶解遅延剤は好ましくはパラフィンであり、吸収促進剤は好ましくは第四級アンモニウム化合物であり、湿潤剤は好ましくはセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセリンであり、吸着剤は好ましくはカオリンおよびベントナイトであり、滑沢剤は好ましくはタルク、ステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコールまたは上記物質の関連混合物である。
【0034】
本発明の別の好ましい実施態様では、本発明の化合物をゲル、粉薬撒布、粉剤、錠剤、持続放出錠、プレミックス、乳濁液、煎じ製剤、滴剤、濃縮物、顆粒剤、シロップ、ペレット、丸薬、カプセル、エアロゾル、スプレーおよび/または吸入薬および/または吸入薬として調製しおよび/またはこの形態で適用する。錠剤、コート錠、カプセル、丸剤および顆粒剤には不透明化剤を任意に含む従来のコーティングおよび外被を施すことができ、かつ末端ポリマー物質およびワックスを包埋物質として使用できる腸管の唯一または好ましくは特定の部分で任意に遅延方式で活性物質の放出が起こるように構成することもできる。
【0035】
例えば、本発明の薬物はカプセル、錠剤、水性懸濁液および溶液を含むが、それだけには限定されず、あらゆる経口的に許容される剤形で経口投与で使用することができる。経口適用の錠剤の場合に多用される担体はラクトースおよびコーンスターチを含む。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤が典型的に添加される。カプセル形の経口投与について、有用な希釈液はラクトースおよび乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁液の経口投与では、活性物質を乳化剤および懸濁剤と組み合わせる。また、特定の甘味料および/または香味料および/または着色料を、希望するならば、加えることもできる。
【0036】
活性物質すなわち、本発明の化合物は一種以上の上記の担体物質と共に任意でマイクロカプセル化形状で存在してもよい。
【0037】
活性物質に加えて、座薬は従来の水溶性または非水溶性担体物質、例えば、ポリエチレングリコール、脂肪、例えば、カカオ脂肪や高級エステル(例えばC14アルコールと共にC16脂肪酸)またはそのような物質の混合物を含めてもよい。
【0038】
活性物質に加えて、軟膏、ペースト、クリームおよびゲルは従来の担体物質、例えば、動物性脂肪および植物性脂肪、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、シリカ、タルクおよび酸化亜鉛あるいはこれらの物質の混合物を含めてもよい。
【0039】
活性物質に加えて、粉剤およびスプレーはラクトース、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ポリアミド粉末などの従来の担体またはこれらの物質の混合物を含めてもよい。さらに、スプレーはクロロフルオロ炭化水素などの従来の噴霧剤を含めてもよい。
【0040】
活性物質に加えて、溶液および乳濁液は溶媒、溶解剤および乳化剤などの従来の担体、例えば、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3‐ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、特に綿実油、ピーナッツ油、コーン油、オリーブ油、ひまし油およびゴマ油、グリセリン、グリセロールホルマール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタン脂肪族エステルあるいはこれらの物質の混合物を含めてもよい。非経口適用には、溶液および乳濁液もまた滅菌し、かつ血液等張形態で存在してもよい。
【0041】
活性物質に加えて、懸濁液は液体希釈剤、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール;懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、トラガカントなどの従来の担体あるいはこれらの物質の混合物を含めてもよい。
【0042】
薬物は凍結乾燥した滅菌注入可能製剤の形で、例えば、滅菌注入可能な水性懸濁液または油性懸濁液として存在してもよい。そのような懸濁液は当技術分野で知られている方法によって適当な分散剤または(Tween80などの)湿潤剤および懸濁剤を使用して処方することもできる。滅菌注入可能な製剤はまた無毒で非経口により許容できる希釈剤または溶媒、例えば、1,3‐ブタンジオール溶液内での滅菌注入可能な溶液または懸濁液であってもよい。使用可能な許容できる賦形剤および溶媒はマンニトール、水、リンゲル液および塩化ナトリウムの等張溶液を含む。さらに、滅菌非揮発油が従来の溶媒または懸濁媒体として使用されている。合成モノまたはジグリセリドを含むいかなる穏和な非揮発油もこの目的のために使用することができる。オレイン酸やそのグリセリド誘導体などの脂肪酸、例えば、オリーブ油やひまし油などの医薬上許容される天然油は、特にそのポリオキシエチル化の形で注射剤の製造に使用することができる。そのような油性溶液または油性懸濁液は希釈剤または分散剤として長鎖アルコールや同様のアルコールを含めてもよい。
【0043】
上記の処方は着色料、保存料および芳香味質改善添加物、例えば、ペパーミント油やユーカリ油および甘味料、例えば、サッカリンを含んでもよい。好ましくは、本発明による化合物は上記の医薬製剤中に全混合物の約0.1〜99.5、より好ましくは約0.5〜95重量%の濃度で存在する。
【0044】
本発明の化合物に加えて、上記医薬調製物はさらに医薬活性物質を含んでもよい。上記の医薬調製物の生成は公知の方法により通常の方式で、例えば、活性物質と担体物質を混合することによって進行する。
【0045】
上記調製物はヒトおよび動物に経口、経鼻、経直腸で、領域的に、例えば肝臓、脾臓、腎臓、肺などに、非経口(静脈内、筋肉内、皮下経路)で、嚢内に、経膣、経腹腔で、局所的に(粉剤、軟膏、滴剤)適用することができ、中空領域および体腔中の炎症の治療に使用される。経口治療には適当な調製物として、注射液、溶液および懸濁液、ゲル、煎じ製剤、乳濁液、軟膏または滴剤が可能である。局所治療には、眼用および皮膚用製剤、銀および他の塩、点耳薬、眼軟膏、粉剤または溶液を使用することができる。動物には、適当な製剤中で餌または飲料水を介して摂取を達成することができる。さらに、ヒトおよび動物でゲル、粉薬撒布、粉剤、錠剤、持続放出錠、プレミックス、濃縮物、顆粒剤、ペレット、ボリ(boli)、カプセル、エアロゾル、スプレーおよび吸入薬を使用することもできる。さらに、本発明の化合物はプラスチック(局所治療用プラスチック鎖)、コラーゲン、骨セメントなどの他の担体物質に組み込むこともできる。
【0046】
本発明の別の好ましい実施態様では、本発明による化合物を製剤中に濃度0.1〜99.5で、好ましくは0.5〜95で、より好ましくは20〜80重量%で組み込む。すなわち、本発明の化合物は上記の医薬製剤中に、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤などの中に好ましくは全混合物の0.1〜99.5重量%の濃度で存在する。活性物質の量、すなわち、単一剤形を生成するために担体物質と組み合わせた本発明による化合物の量は治療しようとする主体、治療しようとする腫瘍および特定の投与型に応じて、当業者が変更してもよい。一度、主体または患者の状態が改善したならば、維持用量を得るために調製物中の活性化合物の割合を変更することができる。症状に応じて、投与用量もしくは頻度またはその両者を改善した状態が保持される程度にその後に減少させてもよい。一度、症状が所望の程度に緩和されたならば、処置を中止すべきである。しかし、いかなる疾患症状でも繰り返す場合には、患者は長期ベースで間欠的処置を必要とするかもしれない。従って、その化合物の割合、すなわち医薬調製物全混合物中のその化合物の濃度ならびにそれらの組成または組合せは変更可能であり、当業界の専門家によって変更可能であり、修正することもできる。
【0047】
本発明の化合物は様々な経路で生物体、好ましくはヒトまたは動物に接触させることができることに当業者は気づくであろう。さらに、この医薬品は特に様々な投薬量で適用してよいことも当業者は承知している。適用は可能な限り効果的に腫瘍を撃退し、または予防的投与によってそのような疾患の発症を防ぐように実施すべきである。適用の濃度および型は当業者が定型の試験を使用して、決定することができる。本発明の化合物の好ましい適用は粉剤、錠剤、混合液剤、滴剤、カプセルなどの形の経口適用、座薬、溶液などの形の直腸適用、注射剤、注入液および溶液、蒸気およびエアロゾル吸入、粉剤およびパッドの形の非経口適用、軟膏、パッド、包帯剤、洗浄液などの形の局所適用である。本発明による化合物との接触は予防または治療方式で実施するのが好ましい。予防的投与では、それ以上の腫瘍の増殖が大幅に減少しまたは腫瘍がほぼ完全に除去されるような方法で、特記した腫瘍の進展を少なくとも防止することになる。治療的接触では患者の顕性腫瘍疾患は既に存在し、体内のその既存の腫瘍が破壊されまたはその増殖が阻害される。この目的のために好ましい他の適用形は、例えば、皮下、舌下、静脈内、筋肉内、腹腔内および/または局所適用である。
【0048】
本発明の化合物の使用中での、上に特記した濃度に加えて、好ましい実施態様の化合物は全量が0.05〜500mg/kg体重/24時間、好ましくは5〜100mg/kg体重で使用することができる。有利には、このことは疾病症状または応答性病的生理状態の症状を防止または改善するために使用する治療量である。その投与量は腫瘍増殖を阻害するのに十分である。
【0049】
明らかに、用量はレシピエントの年齢、健康状態および体重、疾患の程度、必要な同時処置の型、処置頻度、所望の効果の型および副作用によって変わる。希望する結果を得るためには、単回用量または複数回用量として一日用量0.05〜500mg/kg体重を適用することができる。一日当たりの投薬量程度は腫瘍疾患の予防と処置の両者で適用可能であり、この疾患には感染、例えば、肝炎など、特にB型肝炎感染など、腫瘍を誘発しまたは共誘発する感染が含まれる。特に、医薬品は典型的には1日あたり約1〜7回投与に使用され、あるいは別法としてまたは追加的に連続注入として使用される。慢性治療または急性治療として、そのような投与を適用してもよい。もちろん、単一剤形を生成するために担体物質と組み合わせた活性物質の量は治療主体および特定の投与型に応じて変えてもよい。好ましい方式では一日用量は2〜5回適用で分配され、活性物質含有量0.05〜500mg/kg体重を含む錠剤1〜2錠が各適用時に投与される。もちろん、活性物質のより高い含有量、例えば、5000mg/kgの濃度までの活性物質を選択することもできる。その錠剤は持続放出錠でもよく、その場合には適用数を1〜3錠/日に減らす。持続放出錠の活性物質含有量は3〜3000mgであってもよい。上記のように、活性物質を注射によって投与する場合には、主体は本発明の化合物に1〜8回/日接触し、または連続注入の使用によって接触することが好ましく、その場合には1〜4000mg/日の量が好ましい。一日当たりの好ましい全量はヒト用および動物用医薬両者で有利であることが判明している。上記の投薬量から外れることも必要になるかもしれず、このことは治療しようとする主体の特質および体重、疾患の型および重症度、薬物の処方および適用の型ならびにその投与が行われる時間または間隔によって変動する。従って、ある場合には上記量未満の量に生物体を接触させることが好ましく、別の場合には上に特記した活性物質の量を超えなければならないかもしれない。当業界の専門家はそれぞれの場合において必要とされる最適投薬量および活性物質の適用型を容易に判定することができる。
【0050】
本発明の別の特に好ましい実施態様では、本発明の化合物は1〜80、特に3〜30mg/kg体重の単回投与で使用される。一日当たりの合計量と同様に、一適用当たりの単回用量の量は当該技術分野の専門家が変更してもよい。同様に、本発明に従って使用する化合物は上記の単回濃度および処方で餌、餌処方または飲料水と共に動物用医薬に使用することができる。単回用量は一回の適用で投与する活性物質量であり、通常1/1、一日用量の1/2、または一日用量の1/3もしくは1/4に相当する活性物質量を含むことが好ましい。従って、単位投薬量は、1、2、3もしくは4以上の単回用量、または0.5、0.3または0.25の単一用量を含むことが好ましいであろう。好ましい方式では、本発明による化合物の一日用量は2〜10回適用、好ましくは2〜7回、より好ましくは3〜5回適用で分配する。もちろん、本発明による薬剤の連続注入も可能である。
【0051】
本発明の特に好ましい実施態様では、本発明の化合物の各経口適用で、1〜10個の錠剤またはカプセル、好ましくは4〜8個のカプセルまたは錠剤、より好ましくは6個のカプセルまたは錠剤を投与する。本発明による錠剤は当業者には周知のコーティングおよび外被を施すことができ、または主体の好ましい特定の領域に活性物質だけを放出するような方式で構成することができる。
【0052】
本発明の別の好ましい実施態様では、本発明による化合物は少なくとも一種の他の周知の医薬品と共に使用することができる。すなわち、本発明の化合物は、周知の薬物と関連して予防的にまたは治療的に組み合せて使用することができる。所望の予防効果または治療効果の実現を目指して、そのような組合せは、例えば一体型医薬製剤の中で一緒に、または、同時にもしくは異なる時間に投与する、例えば錠剤、注射剤もしくは他の薬物を組み合わせる形で、投与することができる。これらの周知の薬剤は、本発明による化合物の作用を促進する薬剤であることもできる。
【0053】
もちろん、局所治療として本発明の化合物、特に医薬品を単独でまたは他の薬剤と共に治療中に、例えば、併用治療中に使用することも可能であり、このことは例えば肝臓腫瘍の場合には好ましいであろう。
【0054】
グルタチオンを酸化する薬剤またはグルタチオンの不活化を増大させる薬剤の濃度を上昇させることが、特に、腫瘍疾患に有利であり得ることを当業者には周知である。例えば、DL‐ブチオニン‐(SR)‐スルホキシミンをグルタチオン欠乏のために使用することができる。
【0055】
典型的には、本発明の化合物には相互に関しておよび/または他の治療剤もしくは作用増強剤(輸送阻害薬、代謝阻害薬、腎臓排泄もしくはグルクロン酸抱合阻害薬など、プロベネシド、アセトアミノフェン、アスピリン、ロラゼパン(lorazepan)、シメチジン、ラニチジン、コリフィブラート、インドメタシン、ケトプロフェン、ナプロキセンなど)に関して最適割合があり、その場合に、活性物質が最適割合で存在する。最適割合は本発明の化合物と他の治療剤とに対する割合として定義され、その場合に、全般的な治療効果は個々の治療剤の効果の合計よりも大きい。一般に、最適割合は薬剤が10:1〜1:10、20:1〜1:20、100:1〜1:100および500:1〜1:500の割合で存在する場合に見出される。ある場合には、非常に少量の治療剤が一種以上の他の薬剤の効果を増大させるのに十分である。さらに、本発明の化合物を組み合わせて使用することは耐性が発生する危険を減少させ、および/または治療効果を増大させるために、特に有益である。もちろん、本発明の化合物を他の周知の抗腫瘍剤と組み合わせて使用することもできる。そのような薬剤は当業者には周知である。従って、本発明の化合物は、特に腫瘍薬物に関連して使用するために入手可能な従来の薬剤全て、特に他の薬物と共に、単一薬物としてまたは薬物を組み合わせて投与することができる。これらは、単独でまたはそれらを組み合わせて投与することができる。
【0056】
好ましい方式では、本発明の化合物を前記の他の周知の医薬品と共に約0.005〜1の割合で投与する。好ましくは本発明の化合物を特に、ウイルス阻害剤と共に前記の既知の薬剤の0.05〜約0.5部、約1部までの割合で投与する。医薬組成物は実質的にそのままであるいは保存剤、緩衝剤物質、溶液のモル浸透圧濃度を調整するための薬剤など、他の物質と共に水溶液として存在してもよい。
【0057】
好ましい方式では、この医薬品を腫瘍形成後のワクチンとして、または予防のワクチン接種として使用する。有利には、ワクチン接種は、適用に続き、腫瘍の伝播または形成に対する保護が生物体内に生じるように実施する。もちろん、腫瘍の徴候の前にまたは直後にまたは複数の適用による治療として、ワクチン接種を実施することも可能である。転移の形成後の実質的にどんな時点でも腫瘍処置は有利であり、その結果、本発明の意味におけるワクチン接種が腫瘍形成の数週間、数ヵ月、数年または数十年後に本発明の医薬品の適用することであってもよいと云う事実に当業者は精通している。
【0058】
本発明はキットおよび医薬におけるその使用にも関する。好ましい方式では、本発明の化合物またはそれを含むキットを併用治療で、特に腫瘍の治療に使用する。特に好ましい方式では、前記の併用治療は化学療法、細胞分裂停止剤による処置および/または放射線療法を含む。本発明の特に好ましい実施態様では、併用治療はアジュバント、生物学的特異的治療形態であり、特に好ましい方式では、前記の治療形態は免疫治療である。さらに、特に好ましい方式では、併用治療は本発明による化合物を使用する遺伝子治療および/または治療を含む。様々な併用治療、特に腫瘍の処置のための併用治療は当業者には周知である。例えば、細胞分裂停止剤による処置または例えば特定の腫瘍領域への照射は併用治療の範囲内で想定することができ、本発明の化合物を抗癌剤として使用して、この処置を遺伝子治療と組み合わせる。従って、細胞分裂停止剤および/または照射に対する腫瘍細胞の感受性を増加するために本発明による化合物を使用することが特に好ましくなることができる。さらに、本発明による化合物の好ましい使用は、細胞の生命力と細胞増殖速度の阻害および/またはアポプトーシス(apoptosis)、細胞周期抑止の阻害にある。
【0059】
好ましい実施態様では、治療または予防対象となる癌疾患または腫瘍は以下の群から選択される:耳鼻咽喉領域の癌または腫瘍疾患、肺、縦隔、消化管、泌尿生殖器系、婦人科系、乳房、内分泌系、皮膚、骨の癌または腫瘍疾患および柔組織肉腫、中皮腫、黒色腫、中枢神経系新生物、乳児期癌または腫瘍疾患、リンパ腫、白血病、腫瘍随伴性症候群、原発不明腫瘍(CUP症候群)に伴う転移、腹膜癌腫症、免疫抑制関連悪性種および/または腫瘍転移。
【0060】
より特異的には、腫瘍は以下の型の癌を含んでよい:乳房腺癌、前立腺癌および大腸腺癌、気管支内で始まる全ての形の肺癌、骨髄癌、黒色腫、肝細胞腫、神経芽細胞腫、乳頭腫、アプドーマ、分離腫、鰓腫、悪性カルチノイド症候群、カルチノイド心疾病、癌(例えば、ウォーカー癌、基底細胞癌、扁平上皮基底癌、ブラウン‐ピアス癌、管癌、エールリッヒ腫瘍、上皮内癌(in situ carcinoma)、癌‐2癌(cancer-2carcinoma)、メルケル細胞癌、粘膜癌、非小細胞気管支癌、燕麦細胞癌、乳頭癌、硬癌、細気管支肺胞癌、気管支癌、扁平上皮細胞癌および移行性細胞癌)、組織球機能疾病、白血病(例えばB細胞白血病、混合細胞白血病、ナルセル白血病,T細胞白血病、慢性T細胞白血病、HTLV‐II関連白血病、急性リンパ球白血病、慢性リンパ球白血病、肥満細胞白血病および骨髄白血病関連)、悪性組織球増殖症、ホジキン疾患、非ホジキンリンパ腫、単生形質細胞腫瘍、細網内皮症、軟骨芽細胞腫、軟骨腫、軟骨肉腫、線維腫、線維肉腫、巨大細胞腫瘍、組織球腫、脂肪腫、脂肪肉腫、白血肉腫、中皮腫、粘液腫、粘液肉腫、骨腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、滑膜腫、線維腺腫、アデノリンパ腫、癌肉腫、脊索腫、頭蓋咽頭腫、未分化胚細胞腫、過誤腫、間葉細胞腫、中腎腫、筋肉腫、エナメル上皮腫、セメント質種、歯牙腫、奇形腫、胸腺腫、絨毛細胞芽腫、腺癌、腺腫、胆管腫、胆脂腫、円柱腫、嚢胞腺癌、嚢胞腺腫、顆粒膜細胞腫瘍、ギナドロブラストーマ、汗腺腫、膵島細胞腫瘍、ライディヒ細胞腫瘍、乳頭腫、セルトリ細胞腫瘍、卵胞膜細胞腫瘍、平滑筋腫、平滑筋肉腫、筋芽細胞腫、筋腫、筋肉腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、上衣細胞腫、神経節神経腫、膠腫、髄芽腫、髄膜腫、神経鞘腫、神経芽細胞腫、神経上皮腫、神経線維腫、神経腫、傍神経節腫、非クロマフィン傍神経節腫、角化血管腫、好酸球増多を伴う血管リンパ過形成、硬化血管腫、血管腫症、グロムス血管腫、血管内皮腫、血管腫、血管外皮細胞腫、血管肉腫、リンパ管腫、リンパ管筋腫、リンパ管肉腫、松果体腫、嚢胞肉腫葉状肉腫、血管肉腫、リンパ管肉腫、粘液肉腫、卵巣癌、肉腫(例えば、ユーイング肉腫、実験的に、カポジ肉腫および肥満細胞肉腫)、新生物(例えば、骨新生物、乳房新生物、消化器系新生物、結腸直腸新生物、肝臓新生物、膵臓新生物、脳下垂体新生物、精巣新生物、眼窩新生物、頭部および頚部新生物、中枢神経系新生物、聴覚器官新生物、骨盤新生物、気道新生物および泌尿生殖器系路新生物)、神経繊維腫症および頚部扁平上皮の細胞異形成。
【0061】
別の好ましい実施態様では、治療または予防対象となる癌疾患または腫瘍は以下の群から選択される:鼻内、副鼻腔、上咽頭、唇、口腔、中咽頭、喉頭、下咽頭、耳、唾液腺の腫瘍および傍神経節腫を含む耳鼻咽喉領域の腫瘍;非小細胞気管支癌、小細胞気管支癌、縦隔腫瘍を含む肺腫瘍;食道腫瘍、胃腫瘍、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、胆のう腫瘍および胆管腫瘍、小腸癌、大腸癌、直腸癌および肛門癌を含む消化管腫瘍;腎臓腫瘍、輸尿管腫瘍、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、尿道腫瘍、陰茎腫瘍および精巣腫瘍を含む泌尿生殖器系腫瘍;頸部腫瘍、膣腫瘍、産卵口腫瘍、子宮癌、悪性栄養膜疾患、卵巣癌、卵管腫瘍(Tuba Faloppii)、腹腔腫瘍、乳房癌を含む婦人科腫瘍;甲状腺腫瘍、副甲状腺腫瘍、副腎皮質腫瘍、内分泌膵臓腫瘍、カルチノイド腫瘍およびカルチノイド症候群、多発性内分泌異常増殖、骨肉腫および柔組織肉腫を含む内分泌器官腫瘍、中皮腫、皮膚腫瘍、皮膚黒色腫および眼内黒色腫を含む黒色腫;中枢神経腫瘍;網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、神経繊維腫症、神経芽細胞腫、ユーイング肉腫腫瘍科、横紋筋肉腫を含む乳児期腫瘍;非ホジキンリンパ腫、皮膚性T細胞リンパ腫、中枢神経系原リンパ腫、疾患ホジキンを含むリンパ腫;急性白血病、慢性骨髄性およびリンパ白血病を含む白血病;形質細胞新生物、骨髄異形成症候群、腫瘍随伴性症候群、原発不明腫瘍(CUP症候群)を伴う転移、腹膜癌腫症;カポジ肉腫、AIDS関連リンパ腫、中枢神経系AIDS関連リンパ腫、AIDS関連疾患ホジキン、AIDS関連肛門生殖器腫瘍などのAIDS関連悪性疾患、移植関連悪性種を含む免疫抑制関連悪性種;脳転移、肺転移、肝臓転移、骨転移、胸水転移および心臓周囲転移および悪性腹水を含む転移腫瘍。
【0062】
別の好ましい実施態様では、治療または予防対象となる癌疾患または腫瘍は以下を含む群から選択される:乳癌;大腸癌、胃癌、膵臓癌、大腸癌、小腸癌を含む胃腸腫瘍;卵巣癌、子宮頚癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌および/または肝臓転移。
【0063】
限定する意図はないが、以下の実施例を引用して本発明をさらに詳細に説明する。
【0064】
1.シス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)の合成
150gのシス-プラチンを2リットルの(精密ガラススターラーを備えた)3つ口フラスコ中の約300mlの水に懸濁させ、350mlのH(35%)を少しずつ攪拌しながら2日間にわたって加える。さらに4日間約20℃で攪拌を継続する。その後、粗製品を吸引濾過し、少量の氷水で洗浄し、正確に十分な量の0.5N硫酸に溶解し、続いて35%NaOH(pH約7〜8)で沈殿させる。終夜、冷却装置中で保存後に黄色結晶質塊を吸引濾過し、少量の冷水、エタノール、最終的にエーテルで洗浄し、真空乾燥する。
収量(3バッチ):336.7g(理論値の67.2%)
【0065】
2.シス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)2ナトリウム塩の合成
20g(0.06mol)のシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)を約450mlの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH4.8g(0.12mol)含有)に加熱しながら溶解し、室温に冷却後、終夜冷却装置中で貯蔵する。沈殿した反応生成物を吸引濾過し、少量の冷水、エタノール、最終的にエーテルで洗浄し、真空乾燥する。
収量:13.6g(理論値の59.9%)
【0066】
3.シス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)カルシウム塩の合成
オキソプラチン(Oxoplatin)(9.3g)を80mlの水に懸濁し、等モル量(2.1g)の水酸化カルシウムを加えた後、24時間室温で攪拌する。その後、反応生成物を吸引濾過し、水、エタノールおよびエーテルで洗浄し、真空乾燥する。
収量:7.7g
【0067】
4.アルキル残基またはアリール残基を含む白金(IV)化合物の合成
本発明による方法を使用して生成したトランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)化合物(白金(IV)ヒドロオキソ化合物)はほとんど不活性であり、弱い求電子性試薬との良好な反応をするような求核性を有する。白金(IV)ヒドロオキソ化合物を不活性溶媒(エーテル)中に入れ、連続攪拌によって混合する。特に、その攪拌は電気スターラーを使用して典型的な研究室用攪拌装置で行うことができる。攪拌溶液に過剰なアルキルまたはアリール無水物、例えば、フェニル無水物(安息香酸無水物)を加える。これらの無水物に加えて、対応するイソシアネートおよびピロカーボネートを使用することもできる。混合物を約12〜48時間攪拌する。選択した白金(IV)ヒドロオキソ化合物が難溶解性化合物である場合には、その混合物を加熱し、例えば、攪拌中に攪拌装置のホットステージのスイッチを入れることによって加熱する。また、反応は高い極性反応媒体の使用によっても改善できる。反応生成物は冷却後に沈殿し、濾過することができる。それ以上の標準的精製ステップも所望の純度の程度に応じて実施する。
【0068】
その後、得られた白金(IV)ヒドロオキソ化合物のアルキルまたはアリール誘導体を実験動物でその腫瘍阻害作用について試験することができる。アスコルビン酸塩(ascorbate)の存在下で数日間にわたって、白金(IV)化合物を白金(II)化合物に転換することができる。従って、本発明の化合物は白金(II)化合物のプロドラッグとみなすこともできる。
【0069】
5.シス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)およびその塩の使用
種々のヒト細胞系での増殖阻害試験はシスプラチン、シス-オキソプラチンおよびオキサリプラチンの異なる活性を示す。以下に示した結果により、シス-オキソプラチンはオキサリプラチンの活性に類似する活性を有するが、カルボプラチンより高い活性を示すことが分かる。下表はシスプラチン、オキソプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンで得られた結果を示す(特記した値はμg/mlのIC50値、すなわち50%の細胞が生存する濃度、nd=定量せず、res=耐性あり=非感受性または40μg/mlまでの濃度ではIC50値が定量できない、IC=阻害濃度)。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
活性は細胞系によって異なる。Na塩はHT29とSW480で明瞭に効果が高く(約70%)、SK‐OV4、PC3およびSIMで効果が高く(約30%)、CaCo‐2、DU145およびCRO2B細胞で効果が低い。従って、これらの細胞のIC50値はオキソプラチンで10.5±6.4μg/mlであり、対するナトリウム塩では9.5±8μg/mlである。
【0073】
以下の比較はPC3細胞でのシス-オキソプラチン対シス-オキソプラチンNaの用量応答依存を示す。
【表3】

【0074】
これらはPC3、SK‐OV4およびSIMの典型的な結果である。Na塩はより高い濃度範囲では活性が高く、低い濃度では差は小さい。おそらくシス-オキソプラチンNaはオキソプラチンに比べてわずかに異なる構造または異なる作用機序を有し、その結果特定の細胞系ではこれはシス-オキソプラチンよりも30〜70%活性は高くまたは40〜50%活性は低い。シス-オキソプラチンNaの優れた活性は(5μg/mlを超える)より高い濃度範囲で存在すると思われる。
【0075】
子供の典型的な腫瘍細胞系に対するシス-オキソプラチンの効果
主として子供に見られるものは、白血病、神経芽細胞腫およびユーイング肉腫/末梢神経外胚葉性腫瘍(腫瘍ユーイング科群=EFT)である。調査した腫瘍細胞系は3種のEFT(EW‐7、SIMおよびKAL)および2種の神経芽細胞腫細胞系(NB:LAN1およびLAN5、ロサンゼルス神経芽細胞腫=LAN)を含む(第3表を参照)。
【0076】
【表4】

【0077】
シス-オキソプラチンとシス-オキソプラチンCaの効果の比較
【0078】
シス-オキソプラチンCaとシス-オキソプラチンの効果を10種の細胞系で比較した(第4表)。
【0079】
(IC50値はμg/mlで記載する。試験はホルマザン試験として実施した。)
【0080】
【表5】

【0081】
全細胞系のシス-オキソプラチンのIC50(±SEM)平均値は12.3±3.2であり、対するシス-オキソプラチンCaのIC50値(±SEM)は9.1±2.8である。
【0082】
求めた結果はシスプラチンやシス-オキソプラチンなどの化学的に高度に類似する白金化合物は種々のヒト癌細胞に異なる効果を有し、白金化合物塩は腫瘍に対してその塩が得られた塩基化合物の挙動とは異なる挙動を示すことを示している。一般に、更に具体的な試験から離れて、シス-オキソプラチン塩の、特にシス-オキソプラチンナトリウム塩のDNA結合能力は、シス-オキソプラチンと比較したとき予想外であることが明らかである。例えば、このことは、一方ではその塩基を用いて、他方ではその塩を用いて形成したDNA付加体の異なる構造に原因があるかもしれない。さらに、対応する塩基と比較して、シス-オキソプラチン塩は異なる過程の生体内変換を受けると考えることができる。これらの予想外の変化は腫瘍治療の中で塩基および塩を使用する場合には非常に重要である。例えば、塩基および塩のそのような異なる挙動のさらに重要な課題は:組織中および特定の器官中での吸収、拡散および分布である。シス-オキソプラチンナトリウム塩の細胞内取込みおよび毒性は対応する塩基のそれらとは異なり、シス-オキソプラチン塩の吸収、溶解ならびに薬理遺伝学はその塩基のそれらとは比較できない。シス-オキソプラチン塩のDNAとの相互作用の型、効率および有効性ならびに治療作用強度はシス-オキソプラチンのそれらとは異なる。とりわけ、このことは、二価のカチオン塩の一例としてのシス-オキソプラチンカルシウム塩の化学構造で実証することができる。
【化2】

【0083】
この構造から分かるように、カルシウム塩などの塩は、対応する塩基の構造とは完全に異なる構造を有する。立体化学的特性のそのような変動は、細胞、特に癌細胞におけるDNAとの相互作用に関して異なる挙動を生ずる。塩の異なった構造の結果として、低用量で十分な治療効果を実現することができる。さらに、生体内変換によって、体内で白金(IV)錯体が白金(II)錯体に変換する結果になり、白金(IV)錯体と白金(II)錯体は異なる腫瘍に対して異なる作用を有する(第1表を参照)。
【0084】
6.トランス‐オキソプラチンの細胞障害活性(TRAXO)
トランス‐オキソプラチンを二段階工程および初期濃度40μg/mlを使用して、細胞系パネルで試験した。IC50値にはほとんどの場合で到達してないので、最高濃度の細胞生存が示されている。
【0085】
【表6】

【0086】
19種の細胞系での試験に示されるように、TRAXOは1種の大腸癌細胞系(SW620)、2種の骨肉腫細胞系(G‐292、HOS)、1種の腎臓癌細胞系(ACHN)、1種の白血病細胞系(HL60)および1種の胚性肺線維芽細胞系(WI‐38)に対して顕著な活性を有する。T‐47DやBxPC3などのシス-オキソプラチンに感受性のある細胞系はTRAXOに対しては非感受性である。トランス‐オキソプラチン塩の化合物は特定のヒト癌細胞、細胞系および腫瘍に対して異なる治療作用強度と異なる効果を有しているだろう。
【0087】
7.アルキル誘導体の抗腫瘍有効性
白金(IV)ヒドロオキソ化合物のエチル、プロピル、フェニルおよびナフチル誘導体を腫瘍ラットで試験し、その試験では上記の試験誘導体を一方では注入によって標的生物体に導入し、他方では餌混合物の形で経口投与で導入した。驚くべきことに、経口投与は特に有効であった。というのは、得られた誘導体の分子量が小さく、本質的には中性であり、その動態学に関して不活性であり、酸に安定であり、ある程度親油性を有するからである。試験した成分はラットモデルでは例外的な細胞毒性と良好な経口抗腫瘍活性を示している。腫瘍有効性は腫瘍重量をグラムで定量することによって確立した。未処置腫瘍ラットでは、腫瘍の重量は平均37gであった。注入剤(用量:5mg/kg体重)を投与した場合には腫瘍平均重量31gを算出した。経口投与では平均腫瘍重量24gを測定した。驚くべきことに、腫瘍ラット(ウォーカー癌)はアルキルまたはアリール誘導体を経口投与することによって、特に、効果的に治療できることを、この試験が示した。腫瘍抑制試験中に測定した個々のアリールおよびアルキル誘導体間の変動のために、有意な変化をまだ報告することはできない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロ白金(II)を過酸化物>30%含有溶液と30℃未満の温度で反応させ、このようにして得られた生成物を鉱酸に溶解し、続いてアルカリ溶液で沈殿させることを特徴とする、トランス‐またはシス-ジアンモニウムジクロロジヒドロオキソ白金(IV)またはその誘導体の調製方法。
【請求項2】
下記の一般式の化合物。
【化1】

[式中、X,X=カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アルキル残基および/またはアリール残基]
【請求項3】
細胞増殖、細胞分化および/または細胞分裂に関連する疾患の予防、治療、追跡およびアフタケアにおける請求項2に記載の化合物の使用。
【請求項4】
前記疾患が腫瘍であることを特徴とする、前記請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記化合物が経口、経膣、経直腸、経鼻、経皮、経静脈、経筋肉、経腹腔で領域的および/または局所的に使用されることを特徴とする、前記請求項に記載の使用。
【請求項6】
請求項2に記載の化合物を、医薬上許容される担体、アジュバントおよび/または賦形剤と任意に一緒に含む医薬品。
【請求項7】
前記担体が充填剤、希釈液、結合剤、湿度付与剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸着剤および/または滑沢剤を含む群から選択されることを特徴とする、前記請求項に記載の医薬品。
【請求項8】
前記担体がリポソーム、シオソーム(siosome)および/またはニオソーム(niosome)であることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の医薬品。
【請求項9】
請求項2に記載の化合物を、キット内容物を組み合わせる情報と任意に一緒に含むキット。
【請求項10】
腫瘍疾患の予防または治療における前記請求項に記載のキットの使用。

【公表番号】特表2007−513066(P2007−513066A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534580(P2006−534580)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/DE2004/002296
【国際公開番号】WO2005/040045
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506126255)
【Fターム(参考)】