説明

トランス−1,2−ジクロロエチレンを主成分とする組成物

本発明はトランス−1,2−ジクロロエチレンを含有する組成物、より詳細にはトランス−1,2−ジクロロエチレンとペンタフルオロプロパンを含有する不燃性(無引火点)組成物とその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランス−1,2−ジクロロエチレンを主成分とする組成物に関する。本発明のより詳細な主題はトランス−1,2−ジクロロエチレンとペンタフルオロプロパンを含有する不燃性(無引火点)組成物とその使用である。
【背景技術】
【0002】
トランス−1,2−ジクロロエチレンはトリクロロエタン、トリクロロエチレン及びペルクロロエチレンと同様に特に脂肪性物質(潤滑油、油脂類)に対して良好な溶解力をもつ沸点48℃の塩素化溶剤である。しかし、この溶剤には引火点が存在するため、その使用は現在まで比較的限られている。トランス−1,2−ジクロロエチレンは実際に標準測定条件(ASTM規格D3828:密閉カップ,Setaflash)下で−11℃〜−4℃の引火点をもつ。
【0003】
米国特許第3,349,039号はトランス−1,2−ジクロロエチレンと1,1,2−トリフルオロ−1,2,2−トリクロロエタン又は塩化メチレンを主成分とする組成物を開示しており、後者2成分はトランス−1,2−ジクロロエチレンの引火点をなくすことができる。しかし、1,1,2−トリフルオロ−1,2,2−トリクロロエタンはモントリオール議定書以来禁止されており、塩化メチレンは厳しく規制されている(発癌性、突然変異性及び繁殖毒性有害物質)ため、これらの混合物は現在では殆ど価値がない。
【0004】
米国特許第6,100,229号はトランス−1,2−ジクロロエチレンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの共沸混合物を主成分とするが、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン含有率を高くした組成物を開示している。従って、トランス−1,2−ジクロロエチレン含有率を20%未満まで下げているので、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの非極性により溶解力も相応に低下する。更に、このような混合物は沸点が比較的低いという欠点もあり、トランス−1,2−ジクロロエチレンを20%しか含有しない組成物では20℃付近である。
【0005】
特許出願WO03/078539は1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(245fa)とトランス−1,2−ジクロロエチレンを含有しており、沸点がトランス−1,2−ジクロロエチレン含有率と共にさほど変化しない組成物に関する。この文献はトランス−1,2−ジクロロエチレンの含有率を最大約60重量%とした二成分組成物(245faとトランス−1,2−ジクロロエチレン)に関する。
【0006】
具体的には、文献WO03/078539は観察される沸点変動がトランス−1,2−ジクロロエチレン10重量%当たり約1℃であり、好ましくはこの変動がトランス−1,2−ジクロロエチレン10重量%当たり約0.75℃であり、より好ましくは約0.6℃であると明記している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願出願人は良好な溶解力をもつと共に標準測定条件(ASTM規格D3828)下で引火点を示さないという利点をもつトランス−1,2−ジクロロエチレンを主成分とする組成物を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明の主題はトランス−1,2−ジクロロエチレンx重量%(80<x<99)と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンy重量%(1<y<20)を含有しており、標準測定条件(ASTM規格D3828)下で引火点を示さない組成物である。
【0009】
本発明の組成物は使用温度範囲内で引火点をもたないことが好ましい。
【0010】
本発明の組成物はトランス−1,2−ジクロロエチレン90〜98重量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン2〜10重量%を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の組成物はトランス−1,2−ジクロロエチレン95〜98重量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン2〜5重量%を含有すると有利である。
【0012】
本発明の組成物は溶剤として使用することができる。
【0013】
本発明の別の主題はトランス−1,2−ジクロロエチレンx重量%(80<x<99)と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンy重量%(1<y<20)を含有しており、標準測定条件(ASTM規格D3828)下で引火点を示さない溶剤に関する。
【0014】
前記溶剤はトランス−1,2−ジクロロエチレン90〜98重量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン2〜10重量%を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の溶剤はトランス−1,2−ジクロロエチレン95〜98重量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン2〜5重量%を含有すると有利である。
【0016】
本発明の組成物及び/又は溶剤は1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(365mfc)を含有しないと有利である。
【0017】
不燃性(無引火点)と特に油類、潤滑油及び樹脂類に対する溶解力に加え、本発明の組成物は周囲温度(22℃)よりも高い沸点をもつ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の組成物の各種用途は特に固体表面の処理(例えば固体表面の洗浄、脱脂又は乾燥)、印刷回路のフラックス除去、繊維製品のドライクリーニング又は冷却プラントの洗浄である。
【0019】
本発明の組成物は熱硬化性ポリマー(例えばポリウレタン)から形成されるフォームの発泡剤、液体冷却剤、シリコン膜堆積剤及び/又はエアゾール噴射剤として使用することもできる。
【0020】
更に、本発明の組成物は15℃で沸騰する1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの蒸気を容易にトラップすることが可能な蒸気冷却システム(冷却コイル)を取付けた少なくとも1個の洗浄槽を含む装置で実施される固体表面処理方法で使用することもできる。
【0021】
本発明の組成物は洗浄用途(硬質表面、繊維製品、冷却プラント等)、良好な溶解力が必要な用途に選択すると有利である。
【0022】
(実施例1〜3)
本発明の3種の組成物(実施例1〜3)を製造した後、標準条件(ASTM規格D3828)下で引火点を測定した。
【0023】
実施例C1及びC2は本発明外の組成物に対応する。
【0024】
結果を下表に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例4)
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン19%とトランス−1,2−ジクロロエチレン81%を含有する組成物を周囲温度(22℃)及び大気圧で蒸発させた。その後、ガスクロマトグラフィーを使用して組成を経時的に測定した。13時間後に組成物中の1,1,1,3,3ペンタフルオロプロパン含有率はまだ十分に高く、2%を上回った。従って、この組成物は経時的に不燃性である。
【0027】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン5%とトランス−1,2−ジクロロエチレン95%を含有する組成物で同一試験を繰返した。8時間後に組成物中の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン含有率はまだ十分に高く、2%を上回った。従って、この組成物は経時的に不燃性である(引火点が観察されない)。
【0028】
(実施例5〜7)
各種組成物の溶解力を測定するための試験
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの蒸発を制限するように−7℃まで冷却したフラスコで本発明の数種の組成物(245fa2、5及び10重量%にトランス−1,2−ジクロロエチレンを加えて100重量%とする)を製造した。
【0029】
その後、予め5℃まで冷却しておいたスクリューキャップ付き試験管に予め5℃まで冷却しておいたメスシリンダーを使用して各組成物10mlを注入した。次に、所望油分容量百分率を得るために必要な量の汎用油をプロピペットで試験管に加え、試験管の内容物を30秒間振盪し、周囲温度で放置した。1時間後に油/溶剤分離相の出現の有無を記録した。
【0030】
実施例C3及びC4は本発明外の2種の組成物に対応する。
【0031】
溶解力試験の結果を下表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
油分容量%は油分容量×100/総容量比として定義する。
【0034】
汎用油:Shell,Macron 1665 S 32(多軸スピンドル切削油)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス−1,2−ジクロロエチレンx重量%(80<x<99)と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンy重量%(1<y<20)を含有しており、標準測定条件(ASTM規格D3828)下で引火点を示さない組成物。
【請求項2】
トランス−1,2−ジクロロエチレン90〜98重量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン2〜10重量%を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トランス−1,2−ジクロロエチレン95〜98重量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン2〜5重量%を含有する請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物から構成されることを特徴とする溶剤。
【請求項5】
請求項1から4に記載の組成物から構成されることを特徴とする発泡剤。

【公表番号】特表2007−531812(P2007−531812A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506795(P2007−506795)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000582
【国際公開番号】WO2005/108542
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】