説明

トランスミッション付きトルクコンバータのクラッチ油圧制御装置

【課題】インチング操作時に、インチングバルブに流入する圧油の流量を調整し、クラッチの油圧を、ヒステリシスが生じないようにインチング制御する。
【解決手段】インチングバルブ10のドレンポート49をレギュレータバルブ9における押圧ピストン19の外側方のシリンダ室20に接続し、インチング操作時にインチングバルブ10のスプール弁39がドレンポート49を開口して、シリンダ室20の圧油を排出することにより、押圧ピストン20を、調圧ピストン20から離れる方向に移動させ、調圧ピストン20を右方に移動させることにより、レギュレータバルブ9のドレンポート30を開口して、インチングバルブ10に供給する圧油の圧力を減圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォークリフト等のトランスミッション付きトルクコンバータの油圧回路中に設けられ、クラッチに供給される油圧をインチング制御して、クラッチをインチング(半クラッチ)状態とするクラッチ油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジンの動力を、トルクコンバータを介してトランスミッションに伝達して走行するフォークリフトにおいては、油圧回路中に、クラッチに供給される圧油の圧力(流量)を制御することにより、クラッチをインチング(半クラッチ)状態とし、フォークリフトによる作業性を向上させたり、発進や停止を円滑にしたりするインチングバルブを設けることがある(例えば特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2004−353839号公報
【特許文献2】特開2005−249129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1及び2に記載されているもののように、クラッチのインチング制御を、インチングバルブのみにより行うものでは、次のような問題が発生することがある。
【0004】
すなわち、通常、インチングバルブは、オイルポンプに接続された主油圧回路の途中に設けられるため、特に、エンジンの回転数が高いときに、インチングバルブに供給される圧油の圧力が高く、かつ流量も多くなる。そのため、クラッチをインチング制御する際において、クラッチに供給されている圧油の圧力が、通常の油圧からインチング油圧となるまで、ヒステリシスが発生し、クラッチがインチング状態となるまでにタイムラグが生じたり、インチングペダルを踏んだときと離したときにも、インチング油圧にヒステリシスが発生するなどし、クラッチの油圧を最適な圧力にインチング制御することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、インチング操作時に、インチングバルブに流入する圧油の圧力(流量)を調整して、クラッチの油圧を、ヒステリシスの生じることのないように最適な圧力にインチング制御しうるようにした、トランスミッション付きトルクコンバータのクラッチ油圧制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)トランスミッション付きトルクコンバータにおけるオイルポンプとクラッチとの間の油圧回路に、前記オイルポンプよりの圧油を調圧して前記トルクコンバータに供給するレギュレータバルブと、同じく前記圧油を調圧して前記クラッチをインチング状態としうるインチングバルブとを設け、これら両バルブにより、クラッチの圧油をインチング制御しうるようにしたクラッチ油圧制御装置であって、前記レギュレータバルブは、オイルポンプと通じる第1ポート、前記インチングバルブを介してクラッチに通じる第2ポート、オリフィスを介して前記トルクコンバータに通じる第3ポート、及びドレンポート、並びに、前記各ポートに連通するシリンダ孔を有するバルブ本体と、前記シリンダ孔に軸線方向に移動可能に収容され、前記ドレンポートを開閉可能な調圧ピストンと、同じく前記シリンダ孔に、前記調圧ピストンと対向するように軸線方向に移動可能に収容された押圧ピストンと、前記調圧ピストンと押圧ピストンとの対向面間に設けられ、前記調圧ピストンを押圧ピストンから離れる方向に常時付勢するとともに、前記押圧ピストンが調圧ピストンと離れる方向に移動したとき付勢力が減少して、前記調圧ピストンが押圧ピストン側に移動することにより前記ドレンポートが開口されるようにした付勢手段とを備え、前記インチングバルブは、バルブ本体の内部のシリンダ孔に収容され、外部からのインチング操作と連動して軸線方向に移動するスプール弁と、前記レギュレータバルブの第2ポートに接続され、この第2ポートより吐出される圧油を前記スプール弁を介して前記クラッチに供給する第1供給ポートと、同じく前記第2ポートに接続され、前記スプール弁の非移動時に開口されて、第2ポートよりの圧油を、前記レギュレータバルブのシリンダ孔における押圧ピストンより外側方のシリンダ室に供給する第2供給ポートと、前記スプール弁がインチング操作時に移動したときに開口されるドレンポートとを備え、前記インチングバルブのドレンポートを前記押圧ピストンの外側方のシリンダ室に接続し、インチング操作時に前記スプール弁がドレンポートを開口して、シリンダ室の圧油を排出することにより、押圧ピストンを、前記調圧ピストンから離れる方向に移動させるようにする。
【0007】
(2)上記(1)項において、インチングバルブにおけるガイド孔内に、インチング操作時に軸方向に微動運動して、別に設けたドレンポートを開閉し、第2ポートより流入した圧油を一部排出するインチングピストンを設ける。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、インチング操作時にスプール弁がインチングバルブのドレンポートを開口してレギュレータバルブのシリンダ室の圧油を排出し、押圧ピストンがが調圧ピストンから離れる方向に移動することにより、両ピストン間の間隔が大となり、調圧ピストンを付勢している付勢手段の付勢力が減少すると、調圧ピストンは、オイルポンプよりの圧油の圧力により、ドレンポートを開口する方向に移動させられ、シリンダ孔に流入した圧油の一部を排出するため、インチングバルブを介してクラッチに供給されている圧油の圧力が速やかに減圧される。
【0009】
その結果、通常の油圧からインチング油圧となるまで、ヒステリシスの発生することがなくなり、クラッチ油圧を、最適な圧力にインチング制御することができ、特に、エンジンの回転数が高く、オイルポンプよりの吐出圧が高い時でも、クラッチをインチング状態とするまでのタイムラグがなくなる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、インチングピストンが、クラッチに供給される圧油の圧力(油量)を細かく制御するので、クラッチは確実にインチング状態に保持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用した、例えばフォークリフト等の車両のトランスミッション付きトルクコンバータの油圧回路を示すもので、(1)は、オイルパン(2)の油を吸引して圧送するオイルポンプ、(3)は、トルクコンバータ、(4)は、トルクコンバータ(3)に連結されたトランスミッション、(5)は、ラインフィルタ、(6)は、トランスミッション(4)の前進ギヤ(図示略)への動力の伝達を断続する前進用クラッチ、(7)は、同じく後進ギヤ(図示略)への動力の伝達を断続する後進用クラッチである。
【0012】
各クラッチ(6)(7)は、トルクコンバータ(3)より吐出され、ラインフィルタ(5)を通過した油により潤滑されるようになっている。
【0013】
オイルポンプ(1)に接続された主油圧回路(8)には、レギュレータバルブ(9)とインチングバルブ(10)とを備える本発明のクラッチ油圧制御装置(11)が接続されている。
【0014】
(12)は、レギュレータバルブ(9)と、インチングバルブ(10)との間に設けられたアキュムレータ、(13)は、アキュムレータ(13)への油の流入量を絞り込むオリフィス、(14)は、インチングバルブ(10)の後記する第1吐出ポート(45)に接続された4ポート3位置切換型のソレノイドバルブである。
【0015】
ソレノイドバルブ(14)の2個の吐出ポート(図示略)は、前進用クラッチ(6)と後進用クラッチ(7)とに接続され、車両の変速レバーの操作と連動して、ソレノイドバルブ(14)が電気的に作動することにより、クラッチ油圧制御装置(11)のインチングバルブ(10)より吐出された圧油が、前進用クラッチ(6)と後進用クラッチ(7)とのいずれかに選択的に供給され、両クラッチ(6)(7)が接続されるようになっている
【0016】
アキュムレータ(12)は、各クラッチ(6)(7)の断続をスムーズに行わせるためのものであるが、これとオリフィス(13)は省略することもある。
【0017】
なお、図1の状態では、ソレノイドバルブ(14)は中立位置にあり、その流入ポートを閉じて、両クラッチ(6)(7)に供給された圧油を排出することにより、両クラッチ(6)(7)は切れた状態となっている。
【0018】
図2は、クラッチ油圧制御装置(11)におけるレギュレータバルブ(9)とインチングバルブ(10)の詳細を示すもので、エンジンが起動してオイルポンプ(1)が作動している状態を示している。
【0019】
レギュレータバルブ(9)におけるバルブ本体(15)の内部には、中央部のガイド孔(16)と、その右方の大型のシリンダ孔(17)と、左方の小径のシリンダ孔(18)とが、互いに連通するようにして、左右方向に向かって設けられている。
【0020】
大径のシリンダ孔(17)内には、押圧ピストン(19)が左右方向に移動可能に収容され、その右端面とバルブ本体(15)の側壁(15a)の内面との間のシリンダ室(20)には、側壁(15a)に形成された流出入ポート(21)より、圧油が流出入するようになっている。
【0021】
ガイド孔(16)内には、大小径の異なるスプール軸(22)における中間部のばね受けピストン(23)と、その右方の大径軸(24)とが、ばね受けピストン(23)をガイド孔(16)に摺接させることにより、左右方向に移動可能に収容されている。
【0022】
ガイド孔(16)において、押圧ピストン(19)とばね受けピストン(23)の対向面間には、それらを互いに離れる方向に相対的に付勢する内外二重の圧縮コイルばね(25)(25)が、大径軸(24)に嵌挿されて収容されている。なお、両圧縮コイルばね(25)を合わせたばね定数(ばね力)は、シリンダ室(20)に供給される圧油により押圧ピストン(19)が左方に押圧される力よりも小としてある。
【0023】
(26)は、スプール軸(22)の移動を円滑とするための気抜孔で、ガイド孔(16)と連通している。
【0024】
スプール軸(22)の左方の小径軸(27)の左端には、調圧ピストン(28)が一体的に連設され、この調圧ピストン(28)は、左方の小径のシリンダ孔(18)に左右方向に移動可能に嵌合されている。調圧ピストン(28)の左端面と、バルブ本体(15)の左方の側壁(15b)の内面との間のシリンダ孔(18)内は、調圧油室(29)となっている。
【0025】
バルブ本体(15)における小径のシリンダ孔(18)を囲む周壁には、左方から順に、互いに対向する第1ポート(30)及び第2ポート(31)と、第3ポート(32)と、ドレンポート(33)とが設けられている。
【0026】
第1ポート(30)は、主油圧回路(8)に接続され(図1参照)、オイルポンプ(1)よりの圧油を調圧油室(29)に流入させるものである。
【0027】
第2ポート(31)は、調圧油室(29)に流入した圧油を、回路(34)と、この回路に接続されたアキュムレータ(12)(図2では図示略)を介して、インチングバルブ(10)に供給するものである。
【0028】
第3ポート(32)は、調圧ピストン(28)により調圧した調圧油室(29)内の圧油を、回路(35)とオリフィス(36)を介してトルクコンバータ(3)に供給するものである(図1参照)。
【0029】
ドレンポート(33)は、調圧油室(29)内の油圧が所定圧以上となったとき、及びインチングペダルを操作して、インチングバルブ(10)が作動したときに開かれて、調圧油室(29)の圧油をオイルパン(2)に排出するものである。
【0030】
インチングバルブ(10)のバルブ本体(37)の中心には、左端が閉塞されるとともに、右端が開口されたストレート状のシリンダ孔(38)が形成され、このシリンダ孔(38)には、それと等径をなすスプール弁(39)と、その右端に同軸をなして一体形成された、スプール弁(39)よりも小径のインチングロッド(40)とが、左右方向に移動可能に収容されている。インチングロッド(40)の右端部は、バルブ本体(37)の側壁(37a)の通孔(41)より外側方に突出し、車両のインチングペダルに連係されている。
【0031】
スプール弁(39)の右端面と側壁(37a)の内面との間には、リターンばね(圧縮コイルばね)(42)が縮設され、スプール弁(39)とインチングロッド(40)は、常時左方に付勢されている。(43)は、スプール弁(39)の右方への移動を円滑とする気抜孔である。
【0032】
バルブ本体(37)の周壁には、第1入口ポート(44)と第1吐出ポート(45)及び第2入口ポート(46)と第2吐出ポート(47)が、それぞれ設けられている。第1及び第2入口ポート(44)(46)は、回路(34)を介して、レギュレータバルブ(9)の第2ポート(31)に接続されている。
第1吐出ポート(45)は、上記ソレノイドバルブ(14)に接続されている。
第2吐出ポート(47)は、回路(48)を介して、レギュレータバルブ(9)の流出入ポート(21)に接続されている。
【0033】
上記第1入口ポート(44)と第1吐出ポート(45)とにより、クラッチ(6)(7)に圧油を供給する第1供給ポートを、また第2入口ポート(46)と第2吐出ポート(47)とにより、押圧ピストン(19)の側方のシリンダ室(20)に圧油を供給する第2供給ポートを、それぞれ形成している。
【0034】
第2入口ポート(46)及び第2吐出ポート(47)よりも右方のバルブ本体(37)には、スプール弁(39)を介して回路(48)に接続されたドレンポート(49)(49)が、対向状に設けられ、レギュレータバルブ(9)におけるシリンダ室(20)内の圧油を排出しうるようになっている。
【0035】
また、第1吐出ポート(45)よりも左方のバルブ本体(37)には、インチング用のドレンポート(50)が設けられている。
【0036】
第1入口ポート(44)と第1吐出ポート(45)、及び第2入口ポート(46)と第2吐出ポート(47)は、インチングロッド(40)を作動させない車両の通常走行時、すなわち図2の状態においては、スプール弁(39)の外周面とシリンダ孔(38)の内周面との間に形成された環状流路(51)(52)を介して、それぞれ連通するとともに、各ドレンポート(49)(50)は閉じられている。
【0037】
また、インチングロッド(40)及びスプール弁(39)が右方に移動すると、第2入口ポート(46)及び第2吐出ポート(47)は、スプール弁(39)の外周面により閉じられ、かつ右方のドレンポート(49)は開口されるようになっている。
【0038】
スプール弁(39)の左端部には、左端が開口する小径のシリンダ孔(53)が設けられ、このシリンダ孔(53)には、インチングピストン(54)が、その左端面と左方の側壁(37b)の内面との間に縮設された圧縮コイルばね(55)により、常時右方に付勢された状態で、左右方向に移動可能に収容されている。
【0039】
インチングピストン(54)の右端面とシリンダ孔(53)の奥端面との間には、油室(56)が形成され、この油室(56)は、その右方のスプール弁(39)の中心に形成された左右方向を向く油路(57)と、軸線と直交する方向を向く油路(58)とを介して、左方の環状流路(53)と連通し、レギュレータバルブ(9)の調圧油室(29)から圧油が流入するようになっている。
【0040】
スプール弁(39)におけるドレンポート(50)よりも左方の外周面と、シリンダ孔(38)の内周面との間には、環状油室(59)が形成され、この環状油室(59)は、軸線と直交する方向を向く複数の排油孔(60)を介して、インチングピストン(54)の右方の油室(56)と連通しうるようになっている。
【0041】
すなわち、インチングピストン(54)が圧縮コイルばね(55)に抗して左方に移動させられたとき、排油孔(60)がインチングピストン(54)により開口され、油室(56)内の圧油が環状油室(59)に流入するようになる。また、この際に、インチングロッド(40)及びスプール弁(39)が右方に移動すると、ドレンポート(50)が開口されて、環状油室(59)に流入した圧油が排出されるようになる。
【0042】
次に、上記実施形態の作用について説明する。
車両の通常走行時には、図2に示すように、主油圧回路(8)の圧油が、レギュレータバルブ(9)の調圧油室(29)内に流入するとともに、回路(34)を介して、インチングバルブ(10)の第1及び第2入口ポート(44)(46)より環状流路(51)(52)内にも、ほぼ等圧で流入する。
【0043】
環状流路(51)側に流入した圧油は、第1吐出ポート(45)よりソレノイドバルブ(14)に供給される。従って、ソレノイドバルブ(14)を作動させることにより、前進用クラッチ(6)又は後進用クラッチ(7)が接続され、車両を前進又は後進させることができる。
【0044】
また、環状流路(51)に流入した圧油は、油路(58)と油路(57)を介して、インチングピストン(54)の右方の油室(56)にも流入し、インチングピストン(54)を左方に押圧しようとする。しかし、インチングピストン(54)は圧縮コイルばね(55)による比較的大きなばね力により右方に付勢されているので、排油孔(60)を開口する位置まで左方に移動することはなく、しかも、ドレンポート(50)はスプール弁(39)により閉じられているため、油室(56)内に流入した圧油が、環状油室(59)を介して、ドレンポート(50)より排出されることはない。
【0045】
一方、右方の環状流路(52)に流入した圧油は、第2吐出ポート(47)及び回路(48)を介して、レギュレータバルブ(9)のシリンダ室(20)に供給され、押圧ピストン(19)は左限、すなわちガイド孔(16)とシリンダ孔(17)との拡径段部(61)と当接する位置まで押動させられる。
【0046】
これにより、内外二重の圧縮コイルばね(25)の右端の支持位置は、最左限となり、スプール軸(22)には比較的大きな付勢力が作用する。
【0047】
調圧油室(29)に流入した圧油により、スプール軸(22)全体は、両圧縮コイルばね(25)を圧縮させながら右方に移動し、油圧とばね力とがバランスしたところで停止し、調圧ピストン(28)により第3ポート(32)が開口される。この際、押圧ピストン(19)は、両圧縮コイルばね(25)(25)のばね力よりも大きい油圧で左限に押圧されているので、右方に移動することはない。
【0048】
第3ポート(32)が開口されると、所定の圧力に調圧された圧油が、回路(35)を介してトルクコンバータ(3)に供給され、これを潤滑する。
【0049】
エンジンの回転数が高まるなどして、オイルポンプ(1)の吐出圧が大となると、図3に示すように、調圧油室(29)内の油圧も大となることにより、調圧ピストン(28)及びスプール軸(22)全体は、圧縮コイルばね(25)を圧縮させながら右方に移動し、それまで閉じていたドレンポート(33)を開口する。これにより、調圧油室(29)の油圧が減圧され、それにより調圧された圧油が、第3ポート(32)よりトルクコンバータ(3)に供給される。
【0050】
クラッチ(6)(7)をインチング(半クラッチ)状態とするべく、車両のインチングペダルを少し踏み込むと、図4に示すように、それに連係されたインチングバルブ(10)のインチングロッド(40)、及びそれと一体をなすスプール弁(39)が若干右方に移動する。すると、それまで開かれていた第2入口ポート(46)と第2吐出ポート(47)が、スプール弁(39)の外周面により閉じられるとともに、それまで閉じられていた右方のドレンポート(49)(49)が、環状流路(52)と連通して開かれる。
【0051】
これにより、レギュレータバルブ(9)のシリンダ室(20)への圧油の供給が停止されると同時に、押圧ピストン(19)が圧縮コイルばね(25)の付勢力により右限まで移動させられることにより、シリンダ室(20)内の圧油が、回路(48)を逆流して、ドレンポート(49)より排出される。
【0052】
押圧ピストン(19)が右限まで移動することにより、圧縮コイルばね(25)が伸長し、スプール軸(22)を左方に付勢するばね力が弱まる。
その結果、スプール軸(22)と一体をなす調圧ピストン(28)は、調圧油室(29)内の油圧により右方に移動させられ、圧縮コイルばね(25)のばね力とバランスしたところで停止する。 この際の調圧ピストン(28)の移動量を、ドレンポート(33)を若干開口する位置までに設定することにより、調圧油室(29)内の圧油がドレンポート(33)より排出され、調圧油室(29)内の油圧及びインチングバルブ(10)に供給される油圧の圧力が減圧される。
【0053】
一方、インチングバルブ(10)側においては、スプール弁(39)が右方に移動したことにより、インチングピストン(54)を付勢している圧縮コイルばね(55)が伸長し、インチングピストン(54)を右方に押圧するばね力が弱くなる。このため、油路(58)(57)を介して油室(56)に流入している圧油により、インチングピストン(54)は、左方に移動させられ、排油孔(60)を開口することにより、油室(56)内の圧油がドレンポート(50)より排出される。
【0054】
このように、インチングペダルの操作時において、主油圧回路(8)よりレギュレータバルブ(9)に流入した圧油の圧力(流量)を減少させて、インチングバルブ(10)に供給することにより、クラッチ(6)(7)に供給されている圧油の圧力も速やかに減圧され、通常の油圧からインチング油圧となるまで、ヒステリシスが発生することがなくなる。その結果、特に、エンジン回転数が高く、主油圧回路(8)の油圧が高いときなどに、クラッチ(6)(7)をインチング(半クラッチ)状態とするまでのタイムラグがなくなるので、インチングペダルを踏んでからインチング状態となるまでのタイミングにずれが生じることがなくなる。
【0055】
また、この際、インチングバルブ(10)側においては、インチングピストン(54)が油室(56)の油圧と圧縮コイルばね(55)のばね力とバランスするように、左右方向に往復移動し、ドレンポート(50)より排出する圧油の油量を細かく制御するので、クラッチ(6)(7)は確実にインチング状態に保持される。
【0056】
図5は、インチングペダルをいっぱいまで踏み込み、インチングロッド(40)及びスプール弁(39)を最大ストローク右方に移動したときの状態を示すもので、この状態では、ドレンポート(49)は引き続き開口され、かつ第2入口ポート(46)と第2吐出ポート(47)もスプール弁(39)により閉じられているため、図4と同様、レギュレータバルブ(9)のシリンダ室(20)に圧油が供給されることはない。
【0057】
また、第1入口ポート(44)は、スプール弁(39)により閉じられ、クラッチ(6)(7)への圧油の供給を停止するとともに、第1吐出ポート(45)は引き続き開かれ、かつ、スプール弁(39)が右方に大きく移動した分だけ、圧縮コイルばね(55)がさらに伸長し、インチングピストン(54)に加わる付勢力が弱まることにより、クラッチ(6)(7)に供給されていた圧油が、油室(56)に逆流し、インチングピストン(54)は、左方に大きく移動させられる。これにより、排油孔(60)が大きく開口され、クラッチ(6)(7)に供給されていた圧油がドレンポート(50)より排出されるため、クラッチ(6)(7)は完全に切れ、車両は停止する。
【0058】
なお、上記インチング状態とした際には、トルクコンバータ(3)に供給される圧油の圧力も減圧されることとなるが、クラッチの摩耗を防止するため、通常、インチング状態とするのは、数秒の短時間であり、かつオリフィス(36)を有しているので、トルクコンバータ(3)に供給される圧油の圧力変動は小さく、何ら問題となることはない。
【0059】
図5の状態において、インチングペダルからゆっくり足を離すと、インチングロッド(40)及びスプール弁(39)が左方に移動するため、上記と逆の作用により、クラッチ(6)(7)に供給される圧油の圧力(流量)が徐々に増大し、再度インチング状態を経て、クラッチは接続される。
【0060】
なお、上記実施形態においては、レギュレータバルブ(9)におけるスプール軸(22)を左方に付勢する圧縮コイルばね(25)を、2個使用しているが、ばね定数を大とした1個の圧縮コイルばねを用いてもよい。
【0061】
また、インチングロッド(40)を、インチングペダルもしくは、それに連係されたエアシリンダ等の駆動手段に追従して、直接作動させるようにすれば、リターンばね(42)は省略することができる。
【0062】
インチングピストン(54)は、スプール弁(39)の側方のシリンダ孔(38)に移動可能に設け、バルブ本体(37)に設けたドレンポートを直接開閉しうるようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明を適用したトランスミッション付きトルクコンバータの油圧回路である。
【図2】本発明のクラッチ油圧制御装置におけるレギュレータバルブとインチングバルブとの中央縦断正面図である。
【図3】同じく、トルクコンバータへの圧油調圧時のレギュレータバルブの中央縦断正面図である。
【図4】同じく、インチング中のレギュレータバルブとインチングバルブとの中央縦断正面図である。
【図5】同じく、インチング終了時のレギュレータバルブとインチングバルブとの中央縦断正面図である。
【符号の説明】
【0064】
(1)オイルポンプ
(2)オイルパン
(3)トルクコンバータ
(4)トランスミッション
(5)ラインフィルタ
(6)前進用クラッチ
(7)後進用クラッチ
(8)主油圧回路
(9)レギュレータバルブ
(10)インチングバルブ
(11)クラッチ油圧制御装置
(12)アキュムレータ
(13)オリフィス
(14)ソレノイドバルブ
(15)バルブ本体
(15a)(15b)側壁
(16)ガイド孔
(17)(18)シリンダ孔
(19)押圧ピン
(20)シリンダ室
(21)流出入ポート
(22)スプール軸
(23)ばね受けピストン
(24)大径軸
(25)圧縮コイルばね
(26)気抜孔
(27)小径軸
(28)調圧ピストン
(29)調圧油室
(30)第1ポート
(31)第2ポート
(32)第3ポート
(33)ドレンポート
(34)(35)回路
(36)オリフィス
(37)バルブ本体
(37a)(37b)側壁
(38)シリンダ孔
(39)スプール弁
(40)インチングロッド
(41)通孔
(42)リターンばね
(43)気抜孔
(44)第1入口ポート(第1供給ポート)
(45)第1吐出ポート(第1供給ポート)
(46)第2入口ポート(第2供給ポート)
(47)第2吐出ポート(第2供給ポート)
(48)回路
(49)(50)ドレンポート
(51)(52)環状流路
(53)シリンダ孔
(54)インチングピストン
(55)圧縮コイルばね
(56)油室
(57)(58)油路
(59)環状油室
(60)排油孔
(61)拡径段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッション付きトルクコンバータにおけるオイルポンプとクラッチとの間の油圧回路に、前記オイルポンプよりの圧油を調圧して前記トルクコンバータに供給するレギュレータバルブと、同じく前記圧油を調圧して前記クラッチをインチング状態としうるインチングバルブとを設け、これら両バルブにより、クラッチの圧油をインチング制御しうるようにしたクラッチ油圧制御装置であって、
前記レギュレータバルブは、オイルポンプと通じる第1ポート、前記インチングバルブを介してクラッチに通じる第2ポート、オリフィスを介して前記トルクコンバータに通じる第3ポート、及びドレンポート、並びに、前記各ポートに連通するシリンダ孔を有するバルブ本体と、前記シリンダ孔に軸線方向に移動可能に収容され、前記ドレンポートを開閉可能な調圧ピストンと、同じく前記シリンダ孔に、前記調圧ピストンと対向するように軸線方向に移動可能に収容された押圧ピストンと、前記調圧ピストンと押圧ピストンとの対向面間に設けられ、前記調圧ピストンを押圧ピストンから離れる方向に常時付勢するとともに、前記押圧ピストンが調圧ピストンと離れる方向に移動したとき付勢力が減少して、前記調圧ピストンが押圧ピストン側に移動することにより前記ドレンポートが開口されるようにした付勢手段とを備え、
前記インチングバルブは、バルブ本体の内部のシリンダ孔に収容され、外部からのインチング操作と連動して軸線方向に移動するスプール弁と、前記レギュレータバルブの第2ポートに接続され、この第2ポートより吐出される圧油を前記スプール弁を介して前記クラッチに供給する第1供給ポートと、同じく前記第2ポートに接続され、前記スプール弁の非移動時に開口されて、第2ポートよりの圧油を、前記レギュレータバルブのシリンダ孔における押圧ピストンより外側方のシリンダ室に供給する第2供給ポートと、前記スプール弁がインチング操作時に移動したときに開口されるドレンポートとを備え、
前記インチングバルブのドレンポートを前記押圧ピストンの外側方のシリンダ室に接続し、インチング操作時に前記スプール弁がドレンポートを開口して、シリンダ室の圧油を排出することにより、押圧ピストンを、前記調圧ピストンから離れる方向に移動させるようにしたことを特徴とするトランスミッション付きトルクコンバータのクラッチ油圧制御装置。
【請求項2】
インチングバルブにおけるガイド孔内に、インチング操作時に軸方向に微動運動して、別に設けたドレンポートを開閉し、第2ポートより流入した圧油を一部排出するインチングピストンを設けてなる請求項1記載のトランスミッション付きトルクコンバータのクラッチ油圧制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate